説明

溶接方法および構造物

【課題】応力腐食割れおよび溶接割れの双方の防止を図った溶接方法および構造物を提供する。
【解決手段】一態様に係る溶接方法は,Cr量25質量%以下のNiを主成分とするNi基耐熱超合金からなる第1の溶接材料を用いて,母材を溶接して溶接部を形成する工程と,Cr量30質量%を越えるNiを主成分とするNi基耐熱超合金からなる第2の溶接材料を用いて,前記溶接部上を溶接する工程と,を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば,原子力発電プラントなどで使用される構造物の溶接方法および構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,原子力発電プラントの原子炉構造物の溶接には,耐食性に優れたインコネル600合金が使用されてきた。しかし,近年,耐食性及び信頼性のさらなる向上を目的として,インコネル690合金が使用されつつある。このインコネル690合金の溶加材として,アメリカ機械学会(The American Society of Mechanical Engineers : ASME)に規定されるCase2124-1,UNS N06690が用いられている。
この溶加材の化学成分はインコネル690合金とほぼ同じであるが,溶接割れを防ぐためにP及びCuの含有量に特に制限を加え,また,耐食性の劣化を防ぐためにMo,Nb,Al,Ti及びAl+Ti含有量に制限を加えている。
【0003】
しかしながら,上記インコネル690合金溶加材は完全オーステナイト組織を呈するために,溶接割れ感受性が高いという問題がある。
【0004】
そこで,最近,上記インコネル690合金溶加材をベースとし,添加元素を微調整することで,溶接割れ感受性により優れる溶加材が開発されている。例えば,N添加(0.03〜0.3質量%)により高強度化を計り,さらにW,Vを組み合わせた溶加材が開発されている(特許文献1参照)。また,高Mn化(〜5質量%)により高温割れの主要因となるSを固定し,Ta添加により固液共存温度範囲を狭小化させ,低融点物質生成を助長するS,Pの影響を抑制した溶加材が開発されている(特許文献2参照)。さらに,Mn+Nb含有量およびTi+Al含有量を制限することで,耐再熱割れ性およびワイヤ加工性を向上させた溶加材が開発されている(特許文献3参照)。Nb量を低減し,Ta量を高めることで,耐溶接割れ性を高めた溶加材も開発されている(特許文献4参照)。一方,これらNi基高Cr合金用溶加材の溶接方法について,オーステナイト系ステンレス鋼に対し,これらの溶加材を用いて,多層肉盛溶接を施す際に,一層目の肉盛溶接により形成した溶接金属のNi含有量を51質量%以上にし,溶接割れ防止を図る技術が開発されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−170084号公報
【特許文献2】特開2003−311473号公報
【特許文献3】特願2007−189972号公報
【特許文献4】特願2005−517274号公報
【特許文献5】特願平9−129166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の690系Ni基高Cr合金溶接材料は,耐腐食性が高く,特に,原子力分野において危惧される耐応力腐食割れ性が高い。しかしながら,690系Ni基高Cr合金溶接材料は,溶接割れ感受性が高くなる問題を有する。
上記に鑑み,本発明は応力腐食割れおよび溶接割れの双方の防止を図った溶接方法および構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る溶接方法は,Cr量25質量%以下のNiを主成分とするNi基耐熱超合金からなる第1の溶接材料を用いて,母材を溶接して溶接部を形成する工程と,Cr量30質量%を越えるNiを主成分とするNi基耐熱超合金からなる第2の溶接材料を用いて,前記溶接部上を溶接する工程と,を具備する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば,応力腐食割れおよび溶接割れの双方の防止を図った溶接方法および構造物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施形態に係る溶接方法で溶接された部材の断面の一例を表す断面図である。
【図2】第2実施形態に係る溶接方法で溶接された部材の断面の一例を表す断面図である。
【図3】第3実施形態に係る溶接方法で溶接された部材の断面の一例を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態では,応力腐食割れおよび溶接割れの双方を防止するために,溶接材料における成分制限とプロセスとを組み合わせる。以下,説明する。
【0011】
溶接割れは,合金に割れが生じたときの温度等によって,高温割れ,凝固割れ,液化割れに区分される。
Ni基耐熱合金(690系Ni基高Cr合金等)の高温割れ感受性は,合金中に析出されるγ’相(Ni(Al,Ti)を主成分とする相)の析出促進元素であるAlおよびTiの含有量で表現できる。具体的には,(0.28・CCr+0.043・CCo)が一定であれば,(CAl+0.84・CTi)の増加に従い,割れ感受性が増加する。すなわち,γ’相の析出量が多く,高温強度が高い合金ほど割れやすい。
【0012】
なお,CCr,CCo,CAl,CTi,および後述のCNb,CMo,CSi,C,C,CMnはそれぞれ,Ni基耐熱合金中でのCr,Co,Al,Ti,Nb,Mo,Si,P,S,Mnの質量%を表す。
【0013】
また,凝固割れ感受性PSCは(1)式で,液化割れ感受性PLCは(2)式で表される。
SC=69.12・CTi+27.3・CNb+9.70・CMo
+300・CSi−55.3 ……(1)
LC=48.0・C+1.97・CTi+8.93・CNb
+2.83・CMo+27.2 ……(2)
これゆえに,割れ感受性を抑えるには上記式(1),(2)における成分を抑制することが望ましい。
【0014】
本実施形態では,このような状況を踏まえ,溶接の部位に応じて,組成の異なるNi基耐熱合金を溶加材として用いる。即ち,耐腐食環境下にさらされる部位(最終溶接層)に対し,Cr量を30質量%以上含む690系溶接材料(後述の溶接材料M1)を適用する。また,それ以外の部位(第1溶接層(初層)および中間溶接層)に対しては,Cr量が25質量%以下の溶接性に優れるNi基溶接材料(後述の溶接材料M2)を適用する。この結果,応力腐食割れおよび溶接割れの双方を防止可能となる。特に,単層溶接よりも溶接部の応力が大きくなり易い,多層溶接においても,溶接割れを防止できる。
【0015】
溶接対象の母材がSおよびPを含む場合に,溶接部の初層にMnを多く含み,かつ,PおよびS量を低減した溶接材料を適用できる。母材がSおよびPなどの元素を含むと割れ感受性が高くなる。このような場合に,PおよびS量を低減し,かつSをトラップするMnを多く含む溶接材料を用いることで,溶接割れを防止できる。
【0016】
また,(CAl+CTi)を0.6質量%以下に制限する溶接材料を用いても良い。溶接材料がAlおよびTiを多く含むほど高温強度が高まる一方,割れ感受性が高くなる。このため,溶接材料での(CAl+CTi)を0.6質量%以下に制限することで,溶接割れをより低減できる。
これに加えて,溶接材料中のNb,Mo,Si,Cも抑えても良い。溶接材料の割れ感受性がさらに低減される。
【0017】
以下,実施形態に係るNi基高Cr合金用溶加材を用いた溶接方法についてより具体的に説明する。
【0018】
(第1の実施の形態)
ここでは,母材11,12の対向する端部間を溶接して,母材11,12を接続する場合を考える(突合せ継手溶接)。母材11,12にはそれぞれ,異種材料,例えば,オーステナイト系ステンレス鋼と炭素鋼を用いることができる(異材溶接)。
【0019】
本実施形態では,図1に示すように,溶接部13,最終溶接部14を順に形成する。溶接部13,最終溶接部14それぞれに,以下の溶接材料M1,M2を用いる。
・溶接材料M1: Cr量(CCr)25質量%以下のNi基合金溶加材
・溶接材料M2: Cr量(CCr)30質量%以上を有するNi基合金溶接材料
【0020】
(1)まず,母材11,12の開先を溶接材料M1(溶接割れ性の低いNi基合金溶加材)にて溶接を施し,溶接部13を形成する。溶接部13は,単層溶接,多層溶接の何れで形成されても良い。
【0021】
(2)その後,溶接部13を最終溶接部14で覆い溶接部13を環境から保護する。即ち,溶接材料M2(応力腐食割れ性の低いNi基合金溶加材)にて,溶接部13上に溶接を施し,最終溶接部14を形成する。
【0022】
このように,溶接部13,最終溶接部14それぞれでの溶接に,溶接材料M1,M2を用いる。この結果,溶接部13および最終溶接部14での溶接割れ,および応力腐食割れを防止できる。
【0023】
ここで,溶接部13あるいはその初層(溶接部13が多層溶接の場合)に,溶接材料M2中,溶接材料M3を用いるのがより好ましい。特に,母材11,12の少なくともいずれかが,C>0.003質量%,C>0.002質量%の場合に,溶接割れをより低減できる。
【0024】
・溶接材料M3: CMn>0.5質量%,C<0.010質量%,C<0.0002質量%,(CAl+CTi)<0.6質量%を満たすCr量25質量%以下のNiを主成分とするNi基耐熱超合金溶加材
【0025】
ここで,溶接部13あるいはその初層(溶接部13が多層溶接の場合)に,溶接材料M3中,溶接材料M4を用いるのがさらに好ましい。溶接材料中のNb,Mo,Si,Cを抑えることで,その割れ感受性がさらに低減される。
【0026】
・溶接材料M4: CMn>0.5質量%,C<0.010質量%,C<0.0002質量%,(CAl+CTi)<0.6質量%,CNb>0.1質量%,CMo<0.5質量%,CSi<0.5質量%,およびC<0.04質量%を満たすCr量25質量%以下のNiを主成分とするNi基耐熱超合金溶加材
【0027】
溶接部13,最終溶接部14の溶接に,例えば,TIG溶接を利用できる。TIG溶接は,アーク溶接の一種であり,非溶極式(非消耗電極式)の電極,および不活性ガス(例えば,アルゴン,ヘリウム,アルゴン-ヘリウム混合ガス)が用いられる。不活性ガスを吹き付けて溶接部位を大気から遮断した状態で,アーク放電によって,溶接材料や母材が熔解される。
【0028】
ここで,溶接部13あるいはその初層(溶接部13が多層溶接の場合)への入熱量(溶接線単位長さ当たりの入熱量)を20000J/cm以下とすることが好ましい。溶接部13の初層等への入熱を制限することで,母材11,12中の不純物の溶接部13への溶け出しを制限でき,溶接部13の品質(溶接割れ性等)を保持容易となる。
【0029】
(第2の実施の形態)
本実施形態でも母材11,12の対向する端部間を溶接して,母材11,12を接続する(突合せ継手溶接)。母材11,12にはそれぞれ,異種材料,例えば,オーステナイト系ステンレス鋼と炭素鋼を用いることができる。
【0030】
本実施形態では,図2に示すように,初層溶接部15,溶接部13,最終溶接部14を順に形成する。初層溶接部15,溶接部13,最終溶接部14それぞれに,既述の溶接材料M3,M1,M2を用いる。
【0031】
(1)まず,母材11,12の開先に溶接材料M3にてバタリング溶接を施し,初層溶接部15を形成する。初層溶接部15は,基本的に単層溶接で形成される。
【0032】
(2)初層溶接部15を有する母材11,12の開先を溶接材料M1にて溶接を施し,溶接部13(中間層)を形成する。溶接部13は,単層溶接,多層溶接の何れで形成されても良い。
【0033】
(3)その後,溶接部13を最終溶接部14で覆い溶接部13を環境から保護する。即ち,溶接材料M2にて,溶接部13上に溶接を施し,最終溶接部14を形成する。
【0034】
既述のように,初層溶接部15の形成に溶接材料M3を用いることで,母材11,12の少なくともいずれかが,C>0.003質量%,C>0.002質量%の場合に,溶接割れをより低減できる。また,初層溶接部15の形成に溶接材料M3中,溶接材料M4を用いることで,溶接割れをさらに低減できる。
【0035】
初層溶接部15,溶接部13,最終溶接部14の溶接に,例えば,TIG溶接を利用できる。ここで,初層溶接部15への入熱量を20000J/cm以下とすることが好ましい。初層溶接部15の初層等への入熱を制限することで,母材11,12中の不純物の初層溶接部15への溶け出しを制限でき,初層溶接部15,ひいては溶接部13の品質(溶接割れ性等)を保持容易となる。
【0036】
(第3の実施の形態)
本実施形態では母材21の表面に溶接を施す(肉盛り溶接)。母材21には,例えば,オーステナイト系ステンレス鋼や炭素鋼を用いることができる。
本実施形態では,図3に示すように,初層溶接部22,溶接部23,最終溶接部24を順に形成する。初層溶接部22,溶接部23,最終溶接部24には,第2の実施形態と同様の溶接材料M3,M1,M2を利用できる。
【0037】
第2の実施形態と同様,初層溶接部22の形成に溶接材料M3を用いることで,母材21が,C>0.003質量%,C>0.002質量%の場合に,溶接割れをより低減できる。また,初層溶接部22の形成に溶接材料M3中,溶接材料M4を用いることで,溶接割れをさらに低減できる。
【0038】
第2の実施形態と同様,初層溶接部22,溶接部23,最終溶接部24の溶接に,例えば,TIG溶接を利用できる。ここで,初層溶接部22への入熱量を20000J/cm以下とすることが好ましい。初層溶接部22への入熱を制限することで,母材21中の不純物の初層溶接部22への溶け出しを制限でき,初層溶接部22,ひいては溶接部23の品質(溶接割れ性等)を保持容易となる。
【0039】
(その他の実施形態)
本発明の実施形態は上記の実施形態に限られず拡張,変更可能であり,拡張,変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
11,12 母材
13 溶接部
14 最終溶接部
15 初層溶接部
21 母材
22 初層溶接部
23 溶接部
24 最終溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cr量25質量%以下のNiを主成分とするNi基耐熱超合金からなる第1の溶接材料を用いて,母材を溶接して溶接部を形成する工程と,
Cr量30質量%を越えるNiを主成分とするNi基耐熱超合金からなる第2の溶接材料を用いて,前記溶接部上を溶接する工程と,
を具備することを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
溶接部を形成する工程に先だって,
Cr量25質量%以下のNiを主成分とするNi基耐熱超合金からなる第3の溶接材料を用いて,母材をバタリング溶接する工程,をさらに具備することを特徴とする請求項1記載の溶接方法。
【請求項3】
前記母材が,P>0.003質量%,S>0.002質量%,を含み,
前記第1の溶接材料または第3の溶接材料が,Mn>0.5質量%,P<0.010質量%,S<0.0002質量%,Al+Ti<0.6質量%,Nb<0.1質量%,Mo<0.5質量%,Si<0.5質量%,C<0.04質量%を満たす
ことを特徴とする請求項1または2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記溶接部を形成する工程が,前記溶接部の初層の入熱量を20000J/cm以下の条件にてTIG溶接する工程を含む
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項5】
前記母材が,第1,第2の母材を含み,
前記溶接部を形成する工程が,前記第1,第2の母材を突き合わせ溶接する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記溶接部を形成する工程が,前記母材を肉盛り溶接する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の溶接方法で溶接された構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−187614(P2012−187614A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54525(P2011−54525)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】