説明

溶接方法

【課題】金属層を金属製の対象物に溶接する方法であって、金属製の対象物と金属層との間に耐久性のある結合が得られ、金属製の対象物とは反対側で金属層の表面の変態がほぼ回避できる方法を提供すること。
【解決手段】金属層を金属製の対象物に溶接する方法であって、結合領域への熱導入が金属製の対象物の、金属層とは反対側から少なくとも部分的に対象物を通して金属層に向かって行なわれる方法において、金属製の対象物の金属層を有する側にて、溶接過程をコントロールするためにピロメータを用いて金属層の温度変化を検出すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1の上位概念に記載した、金属層を金属製の対象物に溶接する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも部分的に貴金属を備えた電極、例えば中央電極又はアース電極を有する点火プラグは長らく公知技術として公知である。
【0003】
EP 0 575 163 B1号明細書には、アース及び中央電極を有する点火プラグが記載されている。中央電極は前方端部に溶接された点火尖端を有している。この場合、点火尖端はアース電極との間に火花区間を形成している。外側の境界面を取囲んで電極の前方端部と点火尖端との間にはリング状のレーザー溶接シームが延在している。この場合、点火尖端は有利には貴金属から成り、レーザービーム溶接、アルゴン溶接又は電子ビーム溶接で電極に取り付けられている。
【0004】
さらにDE 101 03 046 A1号明細書によれば、貴金属層を点火プラグの電極と結合する方法であって、結合領域への熱の導入を、電極の、貴金属層とは反対側から少なくとも部分的に電極を通過して貴金属層に向かって行なう方法が公知である。この場合には貴金属層は必ずしも完全にその全厚さ及び/又は全長及び全幅に亘って溶融されない。この方法にて望ましくないことは、電極もしくは貴金属層において製作技術的に生じる公差変動が、レーザーエネルギが調整されることなく作用すると、種々異なる溶接深さをもたらすことである。したがって望まれない形式で溶接エネルギが貴金属層の表面にまで達し、ひいては貴金属層の表面にて、貴金属層と電極の金属製の基材との間に合金が形成される。
【特許文献1】EP 0 575 163 B1号明細書
【特許文献2】DE 101 03 046 A1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は金属層を金属製の対象物に溶接する方法であって、一方では金属製の対象物と金属層との間に耐久性のある結合が得られ、他方では金属製の対象物とは反対側での金属層の表面の変態がほぼ回避できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題は請求項1の特徴を有する方法によって解決された。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法は金属層と金属製の対象物との間の結合領域に導入された熱エネルギを需要に即応して調整することを可能にし、したがって金属層の、金属製の対象物とは反対側の表面に何らかの損傷を与えることなく、金属層と金属製の対象物との間に耐久性のある結合が得られるようになった。
【0008】
調整は溶接過程をコントロールするために金属層の表面温度が検出されるピロメータを用いて行なわれる。この場合、金属製の対象物は主としてピロメータと溶接のために必要なエネルギ源との間にあるので、ピロメータの温度測定がエネルギ源の散乱放射によって妨げられることはほとんどなく、金属層の表面温度によって決定される。さらに結合層の所定の領域におけるエネルギ導入の大きさと継続時間はこの領域にて発生する金属層の表面温度に関連して調整されるので、このような形式では質的に高価値の溶接シームが形成される。
【0009】
金属層と金属製の対象物との溶接はレーザー溶接で行なわれ、金属層が少なくとも部分面にて完全には溶融されないことが有利である。エネルギ源としてレーザーエネルギを使用することは導入された溶接エネルギの特に正確なフォーカスを可能にする。
【0010】
さらに点火プラグの電極に貴金属層を固定する場合の溶接はほぼ電極の周面に沿って行なわれると有利である。
【0011】
本発明の方法の特に有利な実施形態では、エネルギ源にはエネルギ導入の間、金属製の対象物の表面の上での第1の並進運動が与えられ、ピロメータにはほぼ同期的に第2の並進運動が与えられる。この場合、第2の並進運動に対する第1の並進運動は、金属製の対象物が常にエネルギ源とピロメータとの間に位置するような形式で行なわれる。さらに、この場合には熱源の出力がピロメータで検出された金属層の表面温度に関連して制御されると有利である。貴金属の領域に達成可能な溶接深さの誤差は調整に基づき約0.08に減退される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1の(D)には点火プラグの筒状の金属製のケーシング10が概略的に示されている。このケーシング10には少なくとも1つ又は複数のアース電極12が溶接されている。点火プラグのアース電極12と図示されていない中央電極との間には点火火花が発生させられる。中央電極は例えば、銅コアがニッケル合金により取囲まれている2種材料製電極として構成されている。点火プラグのアース電極12と中央電極はいずれも点火火花の形成により高い腐食負荷に晒されるので、有利には少なくとも一方の電極は点火火花の発生領域にて貴金属製のインレイを備えている。この場合、該当する電極は切欠きを有し、該切欠きに適合する貴金属プレートが挿入され、これが電極の材料と溶接されている。
【0013】
図1の(D)には公知技術による溶接方法が示されている。この場合には溶接過程に際して必要とされるエネルギを発生させるエネルギ源、例えばレーザー14は挿入しようとする貴金属プレート10の表面に向けられており、貴金属プレートの加熱によって貴金属プレートはアース電極12の基材に溶接される。
【0014】
この結果、図1の(C)に概略的に平面図で示されたように貴金属プレートを備えたアース電極12が形成される。この場合には貴金属プレート16の周囲に、主として電極基材と貴金属プレートの材料との混合物から成る溶融ゾーン18が認められる。図1の(A)に断面図で示したように溶融ゾーン18は貴金属プレートの全領域を取囲むことができる。図1の(B)にはこのような完全に溶融結合された貴金属プレート16が示されている。図にはアース電極12と溶融結合領域18とが認められる。この場合の欠点は電極基材と貴金属との混合物が貴金属プレート16の材料に比べて著しく悪い腐食及び侵食耐性を有していることである。それでも材料特性は電極基材の材料特性よりは著しく良好である。
【0015】
図2の(A)から(D)までには図1の(A)から(D)までと比較可能な図が示されている。この場合、同じ符号は同じ構成コンポーネントを示している。図2の(D)から判るように、レーザー14が溶接エネルギ源としてアース電極12の、固定しようとする貴金属プレート16とは反対の側に向けられている。図2の(A)から判るように、これにより溶融ゾーン18は貴金属プレート16の、空気と接触する表面には達しなくなる。したがって貴金属プレート16はアース電極12に溶接はされるが、貴金属プレートで装備されたアース電極12の平面図では溶融ゾーン18を認めることはできなくなる。これは図2の(C)と図2の(B)の左側の図とに示されている。図2の(B)の右側の図にはアース電極12の、貴金属で装備された広幅面とは反対側の裏面とその上に認識できる溶融ゾーン18とが示されている。
【0016】
一方ではアース電極12の上に貴金属プレート16を十分に固定するためには、所定のエネルギ量を溶融ゾーン18に導入し、溶融ゾーン18が挿入された貴金属プレートの一部領域を取囲むようにすることが必要であり、他方では用意されたエネルギ量は貴金属プレート16が完全に溶融されるほど大きくてはならない。
【0017】
溶接過程の調整は例えば図3に示されている。この場合には図2の(A)から(D)までに既に示したようにレーザー14はアース電極12の、挿入しようとする貴金属プレート16とは反対側に向けられている。したがって貴金属プレート16の、アース電極12に向いた側に溶融ゾーン18が形成される。アース電極12の面領域あたり導入されたエネルギ量を調整するためにはアース電極12の、レーザー14とは反対側にピロメータ20が設けられている。このピロメータ20は有利には、溶融ゾーン18の同じ時点に形成された領域に特に近くなる貴金属プレート16の部分領域の表面温度を検出できるように位置決めされることができる。理想的な場合にはピロメータ20とレーザー14はアース電極12のレーザー光線を受ける拡幅面に対し垂直に位置する仮想線を形成し、この仮想線に沿ってレーザー14のレーザー光線はアース電極12の材料内に侵入する。
【0018】
この場合、ピロメータとは貴金属プレートの比較的に高い表面温度を処理プロセスの間十分に正確に検出するのに適した測定装置を意味する。この測定装置は無接触の測定方法、例えば発生した赤外線を検出する方法又は貴金属プレート16の表面との接触を前提条件とする測定方法、例えば電気的な抵抗導体路の抵抗を測定する方法に基づくことができる。
【0019】
調整は有利にはアース電極12に向けられたレーザー14の出力、ひいては単位時間あたり溶融ゾーン18に導入されるエネルギ量が、ピロメータ20で検出された貴金属プレート16の表面温度に関連して調整される形式で行なわれる。この場合にはレーザー14とピロメータ20との並進的な運動が有利であるが、これは必ずしも維持されなければならないものではない。
【0020】
択一的な調整は、レーザー14によるアース電極の表面領域の照射を、貴金属プレート16の、照射された表面領域に向き合った表面領域にて、供託された最低温度に相当する温度が確認される時点まで、実施することである。この時点には、有利にはアース電極12及び/又はレーザー14並びにピロメータ20の並進運動が行なわれる。その際レーザー14とピロメータ20はほぼ同じ方向の並進運動を行なうので、図3に示された測定配置は新しい表面領域にフォーカスする条件下でほぼ維持される。
【0021】
これは貴金属プレートもしくはアース電極12における切欠きの構成に関して製作技術的に発生する誤差変動を、貴金属と電極基材との間の溶接結合の品質の低下をもたらさないように考慮することを可能にする。貴金属プレート16の表面において維持しようとする適当な最低温度を選択することによって、溶融ゾーン18における材料組成に適宜な影響を及ぼすことができる。この場合には極端に異なる熱膨張係数を回避するためは、溶融ゾーン18の材料における貴金属含有量は<30%、特に<5%であることが有利である。さらにピロメータ信号は、例えば検査した貴金属プレート16の表面温度が供託した包絡曲線の外に出現すると、欠陥のある溶接結合の検出に関与させることができる。
【0022】
ピロメータ信号を受取るためには適当な図示されていない評価及び調整ユニットが設けられている。この評価及び調整ユニットによってレーザー14の出力調整及び/又は位置決めが行なわれる。評価及び調整ユニットは測定された表面温度と供託された最低温度との間で目標値・実際値の比較を実施し、結果をベースとして場合によっては位置決め及び調整命令をレーザーを位置決めする装置もしくはレーザーに与える。
【0023】
加工しようとする貴金属プレートは例えば0.8から2.5mmの長さ、特に1.5mmの長さと0.3から約7mmの幅とを有することができる。貴金属プレートは例えばプラチナ、イリジウム、ロジウム、ルテニウム及び/又はパラジウムから単独で又は混合物で又は合金として製作されることができる。
【0024】
本発明の調整は点火プラグのためのアース電極を製造する場合の使用に限定されるものではなく、点火プラグの中央電極に貴金属プレートを装備するためにも使用することもできる。さらに調整は金属製の対象物に金属層を結合する任意の溶接プロセスであって、金属層の溶融が望まれない溶接プロセスに用いることができる。さらに使用はレーザー溶接に限定されるものではなく、抵抗溶接、アルゴン溶接又は電子ビーム溶接にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(A)、(B)、(C)、(D)は公知技術による、貴金属で装備された電極を有する点火プラグのケーシングを概略的に示した図。
【図2】(A)、(B)、(C)、(D)は本発明の方法で製作された、貴金属で装備された電極を有する点火プラグのケーシングを示した図。
【図3】本発明の方法で金属層が装備された金属製の対象物を概略的に示した図。
【符号の説明】
【0026】
10 ケーシング、 12 アース電極、 14 レーザー、 16 貴金属プレート、 18 溶融ゾーン、 20 ピロメータ、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層(16)を金属製の対象物に、特に貴金属層を点火プラグの電極に溶接する方法であって結合領域(18)への熱導入が当該金属製の対象物(12)の、前記金属層(16)とは反対側から少なくとも部分的に該対象物(12)を通して前記金属層(16)に向かって行なわれる方法において、当該金属製の対象物(12)の、前記金属層(16)を有する側にて、溶接過程をコントロールするために前記金属層(16)の温度をピロメータ(20)を用いて検出することを特徴とする、金属層を金属製の対象物に溶接する方法。
【請求項2】
溶接をレーザー溶接で行なう、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記金属層(16)を少なくとも部分面にて完全には溶融しない、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
溶接をほぼ、当該対象物(12)の周面に沿って行なう、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
熱導入の間熱源(14)が、金属製の当該対象物(12)の表面上で第1の並進運動を行ないかつピロメータ(20)がほぼ同期的に第2の並進的な運動を行ない、第1の並進的な運動が第2の並進的な運動に対し、金属製の当該対象物(12)が常に熱源(14)とピロメータ(20)との間に位置する形式で行なわれる、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
熱導入を熱源(14)とピロメータ(20)との間の仮想線に沿って行なう、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
熱源のエネルギ出力を前記金属層の検出された温度に関連して制御する、請求項1形6までいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記第1の並進的な運動をピロメータ(20)で検出された前記金属層(16)の温度に関連して行なう、請求項5記載の方法。
【請求項9】
ピロメータ(20)のフォーカスに位置する金属層(16)の表面部分の温度が供託された最低温度を有していない間は第1の並進的な運動を行なわない、請求項8記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−110631(P2006−110631A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−299178(P2005−299178)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】