説明

溶接構造、及び溶接方法

【課題】溶接強度および溶接品質の向上を図ることができる溶接構造、及び溶接方法を提供する。
【解決手段】ギヤ接合部11を有するリングギヤ10と、ギヤ接合部11と接合するケース接合部31を有するデフケース30とを備え、ギヤ接合部11とケース接合部31とを圧入で嵌合させる圧入部20と共に、ギヤ接合部11のギヤ側溶接面12と、ケース接合部31のケース側溶接面32との間で溶接される第1,第2溶接部51,52により、リングギヤ10とデフケース30とが接合する溶接構造において、溶接部50が、ギヤ接合部11とケース接合部31との配列方向と直交する第2方向AXに対し、圧入部20を挟んだ両側に少なくとも設けられていること、溶接前の状態では、所定距離xの隙間25がギヤ側溶接面12とケース側溶接面32との間に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、機能部品とケースとを接合する溶接構造、及び溶接方法に関するものであり、例えば、機能部品及びケースとして、自動車の差動装置(デファレンシャルギヤ)におけるリングギヤとデフケース等に代表される複数の部材を溶接で接合した溶接構造、及び溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の部材を溶接で接合した溶接構造の一例として、特許文献1に開示された溶接接合部、及び溶接接合方法に、リングギヤとデフケースとの溶接構造が記載されている。図15は、特許文献1に開示されたデファレンシャルギヤを示す説明図である。図16は、図15中、C部の断面を示す拡大図である。
【0003】
リングギヤ703とデフケース701とは、図15及び図16に示すように、リングギヤ703のギヤ小径部715をデフケース701のケース小径部707に嵌め合わせ、ギヤ小径部715及びデフケース大径部709において、溝725を挟み、径内側の側面719と側面717とを、径外側の突起727と突起729とを、それぞれ互いに突き合わせて組み付けられている。組み付け後、突き合わせ部705にレーザ溶接を行い、リングギヤ703とデフケース701とが接合されている。
特許文献1は、溶接時に、リングギヤ703のギヤ小径部715の側面719を、デフケース701のデフケース大径部709の側面717に向けて押圧しても、この押圧力の抗力が突起727及び突起729に作用することにより、デフケース大径部709側に傾くリングギヤ703の変形を抑えることができるとされている。
【0004】
また、特許文献1のようなリングギヤとデフケースとの溶接構造の他の実施例として、従来の実施例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造を、図17に示す。
従来の実施例では、図17に示すように、リングギヤ810のギヤ側フランジ部815の内周面812aと、デフケース830のケース側フランジ部831の当接面821とが、圧入代をもって嵌合している。
【0005】
リングギヤ810とデフケース830との間には、リングギヤ810の軸心CL方向中央に位置する圧入部820と、この圧入部820の両側に、空洞部をそれぞれ介して、第1溶接部851、第2溶接部852とが設けられている。デフケース830をリングギヤ810の内周面812aに挿入し、リングギヤ810とデフケース830とが圧入部820で位置決めされた状態で、リングギヤ810のギヤ側フランジ部815とデフケース830のケース側フランジ部831とが、第1溶接部851、第2溶接部852によって接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−207850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、リングギヤとデフケースとの従来の溶接構造では、以下の問題があった。
図18に、従来の実施例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造において、溶接時に、リングギヤが熱膨張で変形する様子を説明する模式図を示し、図19に、リングギヤが凝固収縮で変形する様子を説明する模式図を示す。
従来の実施例では、圧入部820と同様、溶接前の第1,第2溶接部851,852において、内周面812aと当接面821との間に隙間がない。そのため、第1溶接部851等が、図18及び図19に示すように、溶接直後にQ方向に熱膨張し、その後の冷却でP方向に凝固収縮することにより、主にリングギヤ810が、圧入部820を支点に熱変形する。この変形により、図18及び図19中、太字矢印で示す向きの応力がリングギヤ810の内周面812aとデフケース830の当接面821との間にかかり、内周面812aと当接面821との間が突っ張った状態となる。その結果、第1,第2溶接部851,852の溶接ビードで残留応力が増加し、繰り返し荷重による疲労強度の低下、割れ等の不具合が第1,第2溶接部851,852に発生する虞がある。
【0008】
また、特許文献1では、溶接時に、フィラーワイヤ704を溶融してリングギヤ703と、デフケース701とを接合するときに、ギヤ小径部715の側面717とケース小径部707の側面719とが隙間なく突き合わさっているため、フィラーワイヤ704が側面717と側面719との間に入り難い。
従来の実施例の場合でも、特許文献1と同様、リングギヤ810とデフケース830との溶接で用いる溶接ワイヤが、リングギヤ810のギヤ側フランジ部815の内周面812aと、デフケース830のケース側フランジ部831の当接面821との間に入り難い。
【0009】
溶接時に、溶接ワイヤが、内周面812aと当接面821との間を、圧入部820に近い奥側まで入らないと、溶融した溶接ワイヤの成分が圧入部820手前まで十分に入り込めないまま、主に第1,第2溶接部851,852の溶接ワイヤの挿入側で、溶融状態のビードが硬化してしまい、第1,第2溶接部851,852の品質低下を招く虞がある。
【0010】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、溶接強度および溶接品質の向上を図ることができる溶接構造、及び溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の問題点を解決するために、本発明の溶接構造、及び溶接方法は、次の構成を有している。
(1)機能部材接合部を有し、所定機能を発揮させる機能部材と、機能部材接合部と接合するケース接合部を有するケースとを備え、機能部材接合部とケース接合部とを圧入で嵌合させる圧入部と共に、機能部材接合部の溶接面である機能部材側溶接面と、ケース接合部の溶接面であるケース側溶接面との間で溶接される溶接部により、機能部材とケースとが接合する溶接構造において、機能部材接合部とケース接合部とが配列された方向を第1方向とし、第1方向と直交する方向を第2方向とすると、溶接部が、第2方向に対し、圧入部を挟んだ両側に少なくとも設けられていること、溶接前の状態では、所定距離で離間する隙間が、機能部材側溶接面とケース側溶接面との間に形成されていることを特徴とする。
(2)(1)に記載する溶接構造において、隙間の所定距離は、0.4mm以上、かつ溶接時に溶接部の溶接ビードを形成するのに用いる溶接ワイヤの太さに相当する大きさ以下であることを特徴とする。
(3)(1)または(2)に記載する溶接構造において、機能部材接合部とケース接合部とが、いずれも第1方向を径方向とする環状に形成され、隙間は、第2方向に沿う軸を中心とする周方向全周にわたって形成されていることを特徴とする。
【0012】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載する溶接構造において、隙間は、機能部材に対し、圧入部でケース接合部と嵌合する機能部材側嵌合面と、機能部材側溶接面との間に段差を設けて形成されていることを特徴とする。
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載する溶接構造において、機能部材接合部とケース接合部とは、圧入部を挟む第2方向両側にそれぞれ隙間を有して接続され、溶接部は、圧入部との間に空洞部を設けた状態で、隙間を溶接することにより形成されていることを特徴とする。
(6)(3)乃至(5)のいずれか1つに記載する溶接構造において、溶接部のうち、第2方向一方側の第1溶接部と、第2方向他方側の第2溶接部とは、径方向に径差を有して形成されていることを特徴とする。
【0013】
(7)(3)乃至(6)のいずれか1つに記載する溶接構造において、溶接部のうち、少なくとも片側の溶接部では、機能部材側溶接面とケース側溶接面とが、第2方向に沿って水平に形成されていることを特徴とする。
(8)(3)乃至(7)のいずれか1つに記載する溶接構造において、溶接部のうち、少なくとも片側の溶接部では、機能部材側溶接面とケース側溶接面とが、第2方向に対し、角度θ(θ<90°)に傾斜して形成されていることを特徴とする。
(9)(3)乃至(8)のいずれか1つに記載する溶接構造において、圧入部は、径方向に径差を有して形成されていることを特徴とする。
(10)(1)乃至(9)のいずれか1つに記載する溶接構造において、機能部材は、リングギヤであり、ケースは、リングギヤと接合させるデフケースであることを特徴とする。
【0014】
(11)機能部材接合部を有し、所定機能を発揮させる機能部材と、機能部材接合部と接合するケース接合部を有するケースとを備え、機能部材接合部とケース接合部とを圧入で嵌合させる圧入部と共に、機能部材接合部の溶接面である機能部材側溶接面と、ケース接合部の溶接面であるケース側溶接面との間で溶接される溶接部により、機能部材とケースとが接合する溶接方法において、機能部材接合部とケース接合部とが配列された方向を第1方向とし、第1方向と直交する方向を第2方向とすると、溶接前の状態では、第2方向に対し、圧入部を挟んだ少なくとも両側に、所定距離で離間する隙間を、機能部材側溶接面とケース側溶接面との間に形成しておき、隙間に溶接を行って溶接部を形成することを特徴とする。
(12)(11)に記載する溶接方法において、隙間の所定距離は、0.4mm以上、かつ溶接時に溶接部の溶接ビードを形成するのに用いる溶接ワイヤの太さに相当する大きさ以下とし、溶接時に、溶接ワイヤを、隙間に挿入し、機能部材側溶接面とケース側溶接面とに倣わせながら、所望範囲の溶接ビードを形成可能な位置まで供給して、溶接を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記構成を有する本発明の本発明の溶接構造、及び溶接方法の作用・効果について説明する。
本発明の溶接構造では、
(1)機能部材接合部を有し、所定機能を発揮させる機能部材と、機能部材接合部と接合するケース接合部を有するケースとを備え、機能部材接合部とケース接合部とを圧入で嵌合させる圧入部と共に、機能部材接合部の溶接面である機能部材側溶接面と、ケース接合部の溶接面であるケース側溶接面との間で溶接される溶接部により、機能部材とケースとが接合する溶接構造において、機能部材接合部とケース接合部とが配列された方向を第1方向とし、第1方向と直交する方向を第2方向とすると、溶接部が、第2方向に対し、圧入部を挟んだ両側に少なくとも設けられていること、溶接前の状態では、所定距離で離間する隙間が、機能部材側溶接面とケース側溶接面との間に形成されているので、例えば、機能部材がリングギヤであり、ケースがデフケースである場合等では、溶接部の溶接ビードで残留応力を低減することができ、実動時にリングギヤに荷重が繰り返し作用することによる疲労強度の低下、割れ等の不具合の発生が抑制できるようになる。
【0016】
すなわち、例示したリングギヤとデフケースとを溶接で接合するとき、従来技術と同様、本発明の溶接構造でも、溶接部の溶接ビードが、溶接直後に溶融状態で熱膨張した後、その後の冷却で凝固収縮して、主にリングギヤが熱変形する。このとき、リングギヤの溶接面(機能部材側溶接面)とデフケースの溶接面(ケース側溶接面)との間には隙間が形成されているため、リングギヤがたとえ熱変形しても、熱変形の大きさが隙間より小さければ、隙間がリングギヤの熱変形を吸収することができる。
その一方で、機能部材側溶接面とケース側溶接面との間に隙間が形成されていることで、溶接時に、溶接ビードに対する流動の自由度が大きくなり、溶融状態の溶接ビードがこの隙間を流動して凝固収縮したときに、リングギヤ及びデフケースから溶接ビードに受ける応力が小さく抑えられ、溶接ビードの残留応力を低減することができる。従って、この残留応力に起因して、溶接部で、繰り返し荷重による疲労強度の低下、割れ等の不具合の発生を抑制し、溶接部の溶接強度を向上させることができる。
【0017】
また、上述したリングギヤの熱変形についても、溶接部は、第2方向に対し、圧入部を挟んだ両側に設けられ、圧入部の両側に隙間が形成されている。そのため、第2方向一方側の溶接部を形成するときと、第2方向他方側の溶接部を形成するときでは、熱膨張する向きが互いに反対になると共に、凝固収縮する向きも互いに反対となり、溶接後のリングギヤの熱変形(倒れ)を、圧入部両側の隙間で相殺することができる。よって、圧入部両側の溶接部を形成した後のリングギヤの歪みが、より小さく低減できる。
【0018】
また、機能部材側溶接面とケース側溶接面との間に隙間が形成されているため、溶接時に、溶接ワイヤが、機能部材側溶接面とケース側溶接面との間を、溶接ビードを形成する所望位置まで奥側に容易に挿入できるようになる。これにより、溶融状態の溶接ビードが、所望とする溶接部の範囲に相当する位置まで、より確実に到達して硬化するようになり、溶接部における溶接品質を向上させることができる。
【0019】
従って、本発明の溶接構造によれば、機能部材の機能部材接合部とケースのケース接合部との溶接部に対し、溶接強度および溶接品質の向上を図ることができる、という優れた効果を奏する。
【0020】
(2)隙間の所定距離は、0.4mm以上、かつ溶接時に溶接部の溶接ビードを形成するのに用いる溶接ワイヤの太さに相当する大きさ以下であるので、先に例示したリングギヤとデフケースとを溶接で接合する場合等では、溶接時、第2方向一方側の溶接部を形成するときには、リングギヤは、第1方向に対し、圧入部を中心に第2方向他方側に倒れ、第2方向他方側では、機能部材側溶接面とケース側溶接面との間にある隙間の距離が小さくなる。同様に、第2方向他方側の溶接部を形成するときには、リングギヤは、圧入部を中心に第2方向一方側に倒れ、第2方向一方側では、機能部材側溶接面とケース側溶接面との隙間の距離が小さくなる。
このように、溶接時にリングギヤが倒れることにより、機能部材側溶接面とケース側溶接面との隙間の距離が小さくなったときに、隙間の距離を0.4mm以上とすることで、リングギヤがデフケースに拘束されず、リングギヤとデフケースとが突っ張った状態になることを阻止することができる。
【0021】
その一方、機能部材側溶接面とケース側溶接面との間隔をむやみに大きくすると、溝が機能部材側溶接面またはケース側溶接面に凹設されている場合に、溶接中に、隙間に挿入された溶接ワイヤの先端部が溝に入ってしまうこともあり、溶接ビードを形成する所望範囲の位置まで、溶接ワイヤを適切に挿入できないことが生じ得る。
そのため、隙間の距離が溶接ワイヤの太さに相当する大きさ以下とすることで、上記の溝が存在する場合でも、隙間に挿入された溶接ワイヤの先端部が、溝に入ることなく、機能部材側溶接面とケース側溶接面に倣って、溶接ビードを形成する所望範囲の位置まで供給できるようになる。
よって、溶接ビードを形成する所望位置まで供給された溶接ワイヤにより、リングギヤとデフケースとの間で溶接ビードがより確実に形成され、リングギヤとデフケースとが適切な状態で溶接されて接合できる。
【0022】
(3)機能部材接合部とケース接合部とが、いずれも第1方向を径方向とする環状に形成され、隙間は、第2方向に沿う軸を中心とする周方向全周にわたって形成されているので、環状の機能部材側溶接面と環状のケース側溶接面との間で溶接部を形成するとき、溶接ワイヤが、隙間を、その周方向全周にわたって挿入できるようになる。これにより、機能部材の機能部材接合部とケースのケース接合部とが、溶接部全周にわたり、第2方向に対し、所望とする溶接深さを確保した状態で、高品質に接合することができる。
【0023】
(4)隙間は、機能部材に対し、圧入部でケース接合部と嵌合する機能部材側嵌合面と、機能部材側溶接面との間に段差を設けて形成されているので、先に例示したリングギヤ(機能部材)とデフケース(ケース)とを溶接で接合する場合等では、溶接時に、第2方向両側に溶接部を形成するとき、前述したように、リングギヤが、熱変形により、第1方向に対し、圧入部を中心に左右に倒れる。このとき、圧入部において、リングギヤの機能部材側嵌合面がデフケースのケース接合部の嵌合面に圧入されているため、圧入部が、熱変形するリングギヤの支点となる。そのため、第2方向一方側の溶接部を形成し、第2方向他方側の溶接部を形成しても、リングギヤにおいて、溶接後の熱変形が、支点である圧入部を境に、互いにキャンセルした状態にすることが容易にできるようになる。
【0024】
また、先に例示したリングギヤとデフケースとを接合する場合等では、リングギヤに、例えば、浸炭焼入れ等の熱処理を行った後、リングギヤとデフケースとの接合前に、デフケースのケース接合部と対向するリングギヤの機能部材接合部における端面の浸炭層を、機械加工により除去して、機能部材接合部とケース接合部とを溶接する場合がある。このような場合、機能部材において、機能部材側嵌合面と機能部材側溶接面との間に段差を設けて隙間を形成すれば、機能部材側溶接面及び機能部材側嵌合面を形成するために行う浸炭層の除去と、隙間の形成とが、同じ機械加工の工程で一緒に行えて、製造コストを低減することができる。
【0025】
(5)機能部材接合部とケース接合部とは、圧入部を挟む第2方向両側にそれぞれ隙間を有して接続され、溶接部は、圧入部との間に空洞部を設けた状態で、隙間を溶接することにより形成されているので、溶接後、溶接部の溶接ビードが、温度変化と共に流動し冷めて硬化するまで、空洞部が、溶融状態の溶接ビードの流動を吸収することができ、結果的に、溶接部に残留応力が生じるのを防止することができる。
また、特にレーザ溶接により溶接部を形成する場合、溶接直後では、溶接部の溶接ビード内にガスが含有するため、このガスを、空洞部に放出することができる。これにより、溶接部では、ヒケ、ブローホール、割れ等の溶接欠陥の発生を抑制することができる。
【0026】
(6)溶接部のうち、第2方向一方側の第1溶接部と、第2方向他方側の第2溶接部とは、径方向に径差を有して形成されているので、例えば、仮に第1溶接部と第2溶接部が破断した場合であっても、それぞれ径方向に径差がある機能部材接合部とケース接合部とが、第2方向に引っ掛かって外れないため、ケースから機能部材の抜けが防止できる。
【0027】
(7)溶接部のうち、少なくとも片側の溶接部では、機能部材側溶接面とケース側溶接面とが、第2方向に沿って水平に形成されているので、先に例示したリングギヤとデフケースとを接合する場合等では、リングギヤのギヤ部とその相手方ギヤとの噛合い時に、少なくとも片側の溶接部において、リングギヤの軸が反る方向への曲げ応力を小さく抑制することができる。
【0028】
(8)溶接部のうち、少なくとも片側の溶接部では、機能部材側溶接面とケース側溶接面とが、第2方向に対し、角度θ(θ<90°)に傾斜して形成されているので、先に例示したリングギヤとデフケースとを接合する場合等では、リングギヤのギヤ部とその相手方ギヤとの噛合い時に、少なくとも片側の溶接部において、リングギヤの軸が反る方向への曲げ応力を小さくしつつ、リングギヤがデフケースに対し、第1方向(径方向)の径内側に安定して固定することができる。
【0029】
特に上記角度がθ=45°の場合には、ギヤ部におけるピッチ円径上付近の噛合い位置で、リングギヤと相手方ギヤとの噛合いによる外力が、ギヤ部の軸方向に作用したとき、溶接部には、この外力における軸方向の成分と、径方向径内側の成分とが、同じ大きさになる。そのため、リングギヤが、ケースに対して最も安定した状態で固定され、溶接部に無理な応力もかからない。
【0030】
(9)圧入部は、径方向に径差を有して形成されているので、溶接後、機能部材(例示するリングギヤ)が、熱変形により、第2方向に対し、圧入部を中心に左右に倒れるのを抑制することができる。
【0031】
(10)機能部材は、リングギヤであり、ケースは、リングギヤと接合させるデフケースであるので、リングギヤとデフケースとの溶接部において、溶接強度と溶接品質とが高い差動装置(デファレンシャルギヤ)を提供することができる。
【0032】
また、本発明の溶接方法では、
(11)機能部材接合部を有し、所定機能を発揮させる機能部材と、機能部材接合部と接合するケース接合部を有するケースとを備え、機能部材接合部とケース接合部とを圧入で嵌合させる圧入部と共に、機能部材接合部の溶接面である機能部材側溶接面と、ケース接合部の溶接面であるケース側溶接面との間で溶接される溶接部により、機能部材とケースとが接合する溶接方法において、機能部材接合部とケース接合部とが配列された方向を第1方向とし、第1方向と直交する方向を第2方向とすると、溶接前の状態では、第2方向に対し、圧入部を挟んだ少なくとも両側に、所定距離で離間する隙間を、機能部材側溶接面とケース側溶接面との間に形成しておき、隙間に溶接を行って溶接部を形成するので、先に例示したリングギヤ(機能部材)とデフケース(ケース)とを溶接で接合する場合等では、溶接時に、リングギヤが主に熱変形し、溶接部の溶接ビードが、溶接直後に溶融状態で熱膨張した後、その後の冷却で凝固収縮する。このとき、リングギヤの溶接面(機能部材側溶接面)とデフケースの溶接面(ケース側溶接面)との間には隙間が形成されているため、リングギヤがたとえ熱変形しても、熱変形の大きさが隙間より小さければ、隙間がリングギヤの熱変形を吸収することができる。
【0033】
その一方で、機能部材側溶接面とケース側溶接面との間に隙間が形成されていることで、溶接時に、溶接ビードに対する流動の自由度が大きくなり、溶融状態の溶接ビードがこの隙間を流動して凝固収縮したときに、リングギヤ及びデフケースから溶接ビードに受ける応力が小さく抑えられ、溶接ビードの残留応力を低減することができる。従って、この残留応力に起因して、溶接部で、繰り返し荷重による疲労強度の低下、割れ等の不具合の発生を抑制し、溶接部の溶接強度を向上させることができる。
【0034】
また、上述したリングギヤの熱変形についても、溶接部は、第2方向に対し、圧入部を挟んだ両側に設けられ、圧入部の両側に隙間が形成されている。そのため、第2方向一方側の溶接部を形成するときと、第2方向他方側の溶接部を形成するときでは、熱膨張する向きが互いに反対になると共に、凝固収縮する向きも互いに反対となり、溶接後のリングギヤの熱変形(倒れ)を、圧入部両側の隙間で相殺することができる。よって、圧入部両側の溶接部を形成した後のリングギヤの歪みが、より小さく低減できる。
【0035】
また、機能部材側溶接面とケース側溶接面との間に隙間が形成されているため、溶接時に、溶接ワイヤが、機能部材側溶接面とケース側溶接面との間を、溶接ビードを形成する所望位置まで奥側に容易に挿入できるようになる。これにより、溶融状態の溶接ビードが、所望とする溶接部の形成範囲に相当する位置まで、より確実に到達して硬化するようになり、溶接部における溶接品質を向上させることができる。
【0036】
従って、本発明の溶接方法によれば、機能部材の機能部材接合部とケースのケース接合部との溶接部に対し、溶接強度および溶接品質の向上を図ることができる、という優れた効果を奏する。
【0037】
(12)隙間の所定距離は、0.4mm以上、かつ溶接時に溶接部の溶接ビードを形成するのに用いる溶接ワイヤの太さに相当する大きさ以下とし、溶接時に、溶接ワイヤを、隙間に挿入し、機能部材側溶接面とケース側溶接面とに倣わせながら、所望範囲の溶接ビードを形成可能な位置まで供給して、溶接を行うので、先に例示したリングギヤとデフケースとを溶接で接合する場合等では、隙間の距離を0.4mm以上とすることで、リングギヤがデフケースに拘束されず、リングギヤとデフケースとが突っ張った状態になることを阻止することができる。
その一方、隙間の距離を溶接ワイヤの太さに相当する大きさ以下にすることで、溝が機能部材側溶接面またはケース側溶接面に凹設されている場合でも、隙間に挿入された溶接ワイヤの先端部が、溝に入ることなく、機能部材側溶接面とケース側溶接面とに倣い、溶接ビードを形成する所望位置まで供給できるようになる。
よって、溶接ワイヤが、溶接ビードを形成する所望位置まで供給できるようになったことにより、リングギヤとデフケースとの間で溶接ビードがより確実に形成され、リングギヤとデフケースとが、適切な状態で溶接されて接合できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係る溶接構造で構成されたデファレンシャルギヤを示す図であり、リングギヤの軸方向から見た平面図である。
【図2】図1中、A−A矢視断面図である。
【図3】図2中、B部の拡大図であり、実施形態の第1実施例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造についての説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係る溶接方法を説明する図であり、リングギヤとデフケースとの溶接前の状態を示す第1工程図である。
【図5】第1工程図に続き、第1溶接部を形成するときの第2工程図を示す図である。
【図6】第2工程図に続き、第2溶接部を形成するときの第3工程図を示す図である。
【図7】第3工程図に続き、リングギヤとデフケースとが溶接接合された状態を示す第4工程図である。
【図8】本発明の実施形態の第1実施例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造において、溶接時にリングギヤが熱膨張、及び凝固収縮で変形するときの様子を説明する模式図である。
【図9】図3と同様の図であり、第1変形例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造についての説明図である。
【図10】図3と同様の図であり、第2変形例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造についての説明図である。
【図11】図3と同様の図であり、第2実施例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造についての説明図である。
【図12】図3と同様の図であり、第3変形例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造についての説明図である。
【図13】図3と同様の図であり、第4変形例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造についての説明図である。
【図14】図3と同様の図であり、第3実施例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造についての説明図である。
【図15】特許文献1に開示されたデファレンシャルギヤを示す説明図である。
【図16】図15中、C部の断面を示す拡大図である。
【図17】従来の実施例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造を説明する図であり、図3に相当する断面図である。
【図18】従来の実施例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造において、溶接時にリングギヤが熱膨張で変形するときの様子を説明する模式図である。
【図19】従来の実施例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造において、溶接時にリングギヤが凝固収縮で変形するときの様子を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を具体化した形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本実施形態では、本発明の機能部材が、自動車の差動装置(デファレンシャルギヤ)に構成されるリングギヤであり、本発明のケースが、このリングギヤと接合するデフケースである。従って、実施形態では、本発明の溶接構造がリングギヤとデフケースとの溶接構造である場合について、第1実施例乃至第3実施例と、第1変形例乃至第4変形例とを挙げて説明する。
なお、本実施形態では、添付図面に図示したCLは、リングギヤの軸心を示すものであり、AXは、この軸心CLに沿う軸方向(第2方向)を、RDは、軸心CLを通るリングギヤの径方向(第1方向)を、CRは軸心CLを中心とするリングギヤの周方向を、それぞれ示す。
〔第1実施例〕
【0040】
はじめに、本実施形態に係る溶接構造で構成されたデファレンシャルギヤの概要について説明する。
図1は、実施形態に係る溶接構造で構成されたデファレンシャルギヤを示す図であり、リングギヤの軸方向から見た平面図である。図2は、図1中、A−A矢視断面図である。図3は、図2中、B部の拡大図であり、本実施例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造についての説明図である。
【0041】
デファレンシャルギヤ1は、図1及び図2に示すように、ギヤ接合部11(機能部材接合部)を有するリングギヤ10(機能部材)と、ギヤ接合部11と接合するケース接合部31を有するデフケース30(ケース)とを備えている。
リングギヤ10とデフケース30とは、図3に示すように、ギヤ接合部11とケース接合部31とを圧入で嵌合させる圧入部20と共に、ギヤ接合部11の溶接面であるギヤ側嵌合面13と、ケース接合部31の溶接面であるケース側溶接面32との間で溶接された溶接部50(第1溶接部51、第2溶接部52)により、接合されている。本実施例では、溶接部50は、軸方向AXに対し、一方側(図3中、右側)に位置する第1溶接部51と、他方側(図3中、左側)に位置する第2溶接部52との双方である。
【0042】
リングギヤ10は、所定機能を発揮させる部材として、後述するギヤ部10Tで図示しないピニオンギヤと噛合う歯車部材である。
デファレンシャルギヤ1では、リングギヤ10が、その軸心CLと図示しないデファレンシャルシャフトの軸心とを同芯にして、デフケース30に組み込まれており、リングギヤ10とデファレンシャルシャフトとの間で上記ピニオンギヤとが噛合うことにより、リングギヤ10とデファレンシャルシャフトとの間で動力が伝達するようになっている。
【0043】
次に、リングギヤ10について説明する。
リングギヤ10は、素材を切削加工した鋼材や、素材を鍛造加工した鋼材等の金属材料からなり、例えば、浸炭焼入れ等の熱処理がリングギヤ10に施されている。リングギヤ10は、軸心CLを中心とする環状に形成され、図1及び図3に示すように、径方向RDに対し、径内側にギヤ接合部11と、径外側にギヤ部10Tと、ギヤ接合部11とギヤ部10Tとを繋ぐ連結部10Cとを有している。ギヤ部10Tには、前述したように、上記ピニオンギヤと噛合う歯が複数形成されている。
【0044】
リングギヤ10のギヤ接合部11とデフケース30のケース接合部31とが配列された方向を第1方向RD(径方向RD)とし、第1方向RDと直交する方向を第2方向AX(軸方向AX)とすると、ギヤ接合部11は、図3に示すように、軸心CLを中心に、第1方向を径方向RDとする環状に形成されている。ギヤ接合部11は、径方向RD径内側の端面として、軸方向AX中央に位置するギヤ側嵌合面13(機能部材側嵌合面)と、このギヤ側嵌合面13を挟む軸方向AX両側に、ギヤ側第1溶接面12a(機能部材側溶接面)及びギヤ側第2溶接面12b(機能部材側溶接面)とを有している。
【0045】
軸方向AX一方側(図3中、右側)のギヤ側第1溶接面12a、その他方側(図3中、左側)のギヤ側第2溶接面12b、及びギヤ側嵌合面13は、軸方向AXに沿って水平に形成され、ギヤ側第1溶接面12a及びギヤ側第2溶接面12bは、ギヤ側嵌合面13に対し、径方向RDに距離x(0<x)の段差を周方向CR全周に設けている。
【0046】
ギヤ側第1溶接面12a、ギヤ側第2溶接面12b、及びギヤ側嵌合面13は、熱処理後、デフケース30との組付け前の状態にあるリングギヤ10において、これらの面12a,12b,13に対応する位置に、例えば、切削加工、研削加工等の機械加工を施すことにより、熱処理で形成された浸炭層の一部または全部を除去した状態になっている。圧入部20は、ギヤ側嵌合面13と、後述するデフケース30のギヤ接合部11のケース側嵌合面33aとを圧入で嵌合させる部分である。
【0047】
次に、デフケース30について説明する。
デフケース30は、例えば、鋳鉄等の金属材料からなり、リングギヤ10のギヤ接合部11と接合するケース接合部31を有している。ケース接合部31は、リングギヤ10のギヤ接合部11と同様、軸心CLを中心に、第1方向を径方向RDとする環状に形成されている。
【0048】
ケース接合部31は、図3に示すように、径方向RD径外側(図3中、上側)の端面として、軸方向AX中央に位置するケース側嵌合面33と、このケース側嵌合面33を挟む軸方向AX両側に、ケース側第1溶接面32a(ケース側溶接面)及びケース側第2溶接面32b(ケース側溶接面)を有している。ケース側嵌合面33、ケース側第1溶接面32a、及びケース側第2溶接面32bは、段差のない同じ平面状に形成されている。
本実施例では、第1空洞部28a(空洞部28)がケース側第1溶接面32aの一部分に凹設された第1溝27a(溝27)により、第2空洞部28b(空洞部28)が、ケース側第2溶接面32bの一部分に凹設された第2溝27b(溝27)により、それぞれ形成されている。
【0049】
次に、リングギヤ10とデフケース30との溶接構造について説明する。
リングギヤ10とデフケース30との溶接構造では、後述する溶接部50(第1溶接部51、第2溶接部52)が、軸方向AXに対し、ギヤ接合部11とケース接合部31との圧入部20を挟んだ両側に設けられている。溶接部50が形成される溶接前の状態では、所定距離xで離間する隙間25,25が、ギヤ側第1溶接面12aとケース側第1溶接面32aとの間と、ギヤ側第2溶接面12bとケース側第2溶接面32bとの間とに、それぞれ形成されている。
【0050】
リングギヤ10とデフケース30とは、本実施形態では、レーザ溶接により溶接され、溶接時に用いる溶接ワイヤ60(図5及び図6参照)は、例えば、ステンレス材からなり、ワイヤ径ΦD=0.9(mm)等のワイヤ部材である。
リングギヤ10とデフケース30との溶接構造では、上記隙間25,25の所定距離xは、0.4mm以上、かつ溶接時に溶接部50の溶接ビード56を形成するのに用いる溶接ワイヤ60のワイヤ径ΦDに相当する大きさ以下であり、本実施形態では、ワイヤ径ΦD=0.9(mm)の溶接ワイヤ60が挿通可能な0.9(mm)程度となっている。また、隙間25,25は、軸心CLを中心とする周方向CR全周にわたって形成されている。
【0051】
本実施例では、この隙間25,25は、リングギヤ10に対し、圧入部20でケース接合部31と嵌合するギヤ側嵌合面13とケース側第1溶接面32aとの間に、及びギヤ側嵌合面13とケース側第2溶接面32bとの間に、それぞれ段差を設けて形成されている。また、第1溶接部51において溶接前の状態では、ギヤ側第1溶接面12aとケース側第1溶接面32aとが、第2溶接部52において溶接前の状態では、ギヤ側第2溶接面12bとケース側第2溶接面32bとが、それぞれ第2方向AX(軸方向AX)に沿って水平に形成されている。
【0052】
また、ギヤ接合部11とケース接合部31とが、圧入部20を挟む軸方向AX両側にそれぞれ隙間25,25を有して接続され、第1溶接部51,第2溶接部52は、圧入部20との間に空洞部28(第1空洞部28a、第2空洞部28b)を設けた状態で、隙間25,25を溶接することにより形成されている。
【0053】
次に、リングギヤ10とデフケース30との溶接方法について、図4乃至図7を用いて説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る溶接方法を説明する図であり、リングギヤとデフケースとの溶接前の状態を示す第1工程図である。図5は、第1工程図に続き、第1溶接部を形成するときの第2工程図を示す図である。図6は、第2工程図に続き、第2溶接部を形成するときの第3工程図を示す図である。図7は、第3工程図に続き、リングギヤとデフケースとが溶接接合された状態を示す第4工程図である。
【0054】
リングギヤ10とデフケース30のケース接合部31とを軸方向AXに相対移動させ、図4に示すように、ギヤ接合部11のギヤ側嵌合面13がケース接合部31の軸方向AX中央にあるケース側嵌合面33と嵌め合う位置まで、リングギヤ10のギヤ接合部11をデフケース30のケース接合部31に圧入する。これにより、リングギヤ10は、デフケース30と圧入部20で径方向RDに位置決めされた状態で接続され、軸方向AX両側には、所定距離xで離間する隙間25,25が形成される。
【0055】
本発明の実施形態に係る溶接方法では、隙間25,25の距離xは、0.4mm以上、かつ溶接時に溶接部50の溶接ビード56を形成するのに用いる溶接ワイヤ60のワイヤ径ΦD=0.9(mm)に相当する大きさ以下、すなわちワイヤ径ΦD=0.9(mm)の溶接ワイヤ60が挿通可能な0.9(mm)程度とする。
また、溶接前の状態では、軸方向AX(第2方向AX)に対し、圧入部20を挟んだ両側に、所定距離xで離間する隙間25,25を、ギヤ側第1溶接面12aとケース側第1溶接面32aとの間と、ギヤ側第2溶接面12bとケース側第2溶接面32bとの間とに形成しておき、隙間25,25に溶接を行って溶接部50(第1溶接部51,第2溶接部52)を形成する。本実施例では、ギヤ接合部11とケース接合部31との軸方向AX一方側を先に溶接して第1溶接部51を形成した後、その他方側を溶接して第2溶接部52を形成する。
【0056】
具体的には、図5に示すように、溶接ワイヤ60を、軸方向AX一方側の隙間25に挿入し、ギヤ側第1溶接面12aとケース側第1溶接面32aとに倣わせながら、溶接ビード56が所定範囲t(0<t)に形成可能な位置として、先端部が第1空洞部28aにちょうど差し掛かる位置まで溶接ワイヤ60を供給して、レーザ溶接を行う。これにより、溶接ワイヤ60がギヤ側第1溶接面12aとケース側第1溶接面32aとの間で溶融し、凝固した溶接ビード56により、図6に示すように、第1溶接部51が形成される。
【0057】
次いで、図6に示すように、溶接ワイヤ60を、軸方向AX他方側の隙間25に挿入し、ギヤ側第2溶接面12bとケース側第2溶接面32bとに倣わせながら、溶接ビード56が所定範囲tに形成可能な位置として、先端部が第2空洞部28bにちょうど差し掛かる位置まで溶接ワイヤ60を供給して、レーザ溶接を行う。これにより、溶接ワイヤ60がギヤ側第2溶接面12bとケース側第2溶接面32bとの間で溶融し、凝固した溶接ビード56により、図7に示すように、第2溶接部52が形成される。かくして、リングギヤ10のギヤ接合部11とデフケース30のケース接合部31とが、圧入部20で接続されると共に、溶接部50(第1溶接部51,第2溶接部52)で接合して固定される。
【0058】
次に、前述した構成を有する本実施例に係る溶接構造の作用・効果について、図8を用いて説明する。図8は、本発明の実施形態の第1実施例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造において、溶接時にリングギヤが熱膨張、及び凝固収縮で変形するときの様子を説明する模式図である。
【0059】
本実施例に係る溶接構造では、ギヤ接合部11を有し、ギヤ部10Tで図示しないピニオンギヤと噛合って動力を伝達する機能を発揮させるリングギヤ10と、ギヤ接合部11と接合するケース接合部31を有するデフケース30とを備え、ギヤ接合部11とケース接合部31とを圧入で嵌合させる圧入部20と共に、ギヤ接合部11の溶接面であるギヤ側第1溶接面12a,ギヤ側第2溶接面12b(ギヤ側溶接面12)と、ケース接合部31の溶接面であるケース側第1溶接面32a,ケース側第2溶接面32b(ケース側溶接面32)との間で溶接される第1溶接部51,第2溶接部52(溶接部50)により、リングギヤ10とデフケース30とが接合する溶接構造において、ギヤ接合部11とケース接合部31とが配列された方向を第1方向RD(径方向RD)とし、第1方向RDと直交する方向を第2方向AX(軸方向AX)とすると、溶接部50が、軸方向AXに対し、圧入部20を挟んだ両側に少なくとも設けられていること、溶接前の状態では、所定距離xで離間する隙間25,25が、ギヤ側第1溶接面12aとケース側第1溶接面32aとの間、及びギヤ側第2溶接面12bとケース側第2溶接面32bとの間に形成されているので、本実施例のように、機能部材がリングギヤ10であり、ケースがデフケース30である場合では、溶接部50の溶接ビード56で残留応力を低減することができ、実動時にリングギヤ10に荷重が繰り返し作用することによる疲労強度の低下、割れ等の不具合の発生が抑制できるようになる。
【0060】
すなわち、本実施例のように、リングギヤ10とデフケース30とを溶接で接合するとき、従来技術と同様、本発明の溶接構造でも、第1溶接部51(溶接部50)の溶接ビード56が、図8に示すように、溶接直後に溶融状態で第1変形方向Pに熱膨張した後、その後の冷却で第2変形方向Qに凝固収縮する。また、第2溶接部52(溶接部50)の溶接ビード56については、溶接直後に溶融状態で第2変形方向Qに熱膨張した後、その後の冷却で第1変形方向Pに凝固収縮することにより、主にリングギヤ10が熱変形する。
このとき、本実施例に係る溶接構造では、リングギヤ10のギヤ側溶接面12とデフケース30のケース側溶接面32との間には隙間25が形成されているため、リングギヤ10がたとえ熱変形しても、熱変形の大きさy(0≦y)が隙間25の離間距離xより小さければ、隙間25がリングギヤ10の熱変形を吸収することができる。
【0061】
その一方で、ギヤ側溶接面12とケース側溶接面32との間に隙間25が形成されていることで、溶接時に、溶接ビード56に対する流動の自由度が大きくなり、溶融状態の溶接ビード56がこの隙間25を流動して凝固収縮したときに、リングギヤ10のギヤ接合部11及びデフケース30のケース接合部31から溶接ビード56に受ける応力が小さく抑えられ、溶接ビード56の残留応力を低減することができる。
従って、この残留応力に起因して、溶接部50で、繰り返し荷重による疲労強度の低下、割れ等の不具合の発生を抑制し、溶接部50の溶接強度を向上させることができる。
【0062】
また、上述したリングギヤ10の熱変形についても、溶接部50は、軸方向AXに対し、圧入部20を挟んだ両側に設けられ、圧入部20の両側に隙間25,25が形成されている。そのため、軸方向AX一方側の第1溶接部51を形成するときと、軸方向AX他方側の第2溶接部52を形成するときでは、前述したように、熱膨張する向きが互いに反対になると共に、凝固収縮する向きも互いに反対となり、溶接後のリングギヤ10の熱変形(倒れ)を、圧入部20両側の隙間で相殺することができる。よって、圧入部20両側の第1溶接部51,第2溶接部52を形成した後のリングギヤ10の歪みが、より小さく低減できる。
【0063】
また、ギヤ側溶接面12とケース側溶接面32との間に隙間25が形成されているため、溶接時に、溶接ワイヤ60が、ギヤ側溶接面12とケース側溶接面32との間を、溶接ビード56を形成する所望位置まで奥側に容易に挿入できるようになる。これにより、溶融状態の溶接ビード56が、所望とする溶接部50の範囲に相当する位置まで、より確実に到達して硬化するようになり、溶接部50における溶接品質を向上させることができる。
【0064】
従って、本実施例の溶接構造によれば、リングギヤ10のギヤ接合部11とデフケース30のケース接合部31との溶接部50に対し、溶接強度および溶接品質の向上を図ることができる、という優れた効果を奏する。
【0065】
また、本実施例に係る溶接構造では、隙間25,25の所定距離xは、0.4mm以上、かつ溶接時に溶接部50の溶接ビード56を形成するのに用いる溶接ワイヤ60の太さ(ワイヤ径ΦD=0.9(mm))に相当する大きさ以下であるので、本実施例のように、リングギヤ10とデフケース30とを溶接で接合する場合等では、溶接時、図8に示すように、軸方向AX一方側(図8中、右側)の第1溶接部51を形成するときには、リングギヤ10は、軸方向AXに対し、圧入部20を中心に軸方向AX他方側に向けた第1変形方向Pに倒れる。これにより、軸方向AX他方側(図8中、左側)では、ギヤ側第2溶接面12b(ギヤ側溶接面12)とケース側第2溶接面32b(ケース側溶接面32)との間にある隙間25の距離xが、溶接前の状態に比べ小さくなる。
【0066】
同様に、軸方向AX他方側の第2溶接部52を形成するときには、リングギヤ10は、圧入部20を中心に軸方向AX一方側に向けた第2変形方向Qに倒れる。これにより、軸方向AX一方側では、ギヤ側第1溶接面12a(ギヤ側溶接面12)とケース側第1溶接面32a(ケース側溶接面32)との間にある隙間25の距離xが、溶接前の状態に比べ小さくなる。
このように、溶接時にリングギヤ10が圧入部20を中心に第1変形方向Pまたは第2変形方向Qに倒れることにより、ギヤ側溶接面12とケース側溶接面32との隙間25の距離xが小さくなったときに、隙間25の距離を0.4mm以上とすることで、リングギヤ10がデフケースのケース接合部31に拘束されず、リングギヤ10とデフケース30とが突っ張った状態になることを阻止することができる。
【0067】
その一方、ギヤ側溶接面12とケース側溶接面32との間隔をむやみに大きくすると、本実施例のように、第1溝27a,第2溝27b(溝27)がケース側第1溶接面32a,ケース側第2溶接面32b(ケース側溶接面32)に凹設されている場合に、溶接中に、隙間25に挿入された溶接ワイヤ60の先端部が溝27に入ってしまうこともある。その結果、溶接ビード56を形成する所望範囲tの位置まで、溶接ワイヤ60を適切に挿入できないことが生じ得る。
【0068】
そのため、隙間25の距離xが溶接ワイヤ60の太さ(ワイヤ径ΦD)に相当する大きさ以下とすることで、溝27が隙間25の中に存在する場合でも、隙間25に挿入された溶接ワイヤ60の先端部が、溝27に入ることなく、ギヤ側溶接面12とケース側溶接面32に倣って、溶接ビード56を形成する所望範囲tの位置まで供給できるようになる。
よって、溶接ビード56を形成する所望位置tまで供給された溶接ワイヤ60により、
リングギヤ10のギヤ接合部11とデフケース30のケース接合部31との間で溶接ビード56がより確実に形成され、リングギヤ10とデフケース30とが適切な状態で溶接されて接合できる。
【0069】
また、本実施例に係る溶接構造では、ギヤ接合部11とケース接合部31とが、いずれも第1方向RDを径方向とする環状に形成され、隙間25は、第2方向AX(軸方向AX)に沿う軸心CLを中心とする周方向CR全周にわたって形成されているので、環状のギヤ側第1溶接面12aと環状のケース側第1溶接面32aとの間で溶接部50を形成するとき、溶接ワイヤ60が、隙間25を、その周方向CR全周にわたって挿入できるようになる。これにより、リングギヤ10のギヤ接合部11とデフケース30のケース接合部31とが、溶接部50全周にわたり、軸方向AXに対し、所望とする溶接深さを確保した状態で、高品質に接合することができる。
【0070】
また、本実施例に係る溶接構造では、隙間25は、リングギヤ10に対し、圧入部20でケース接合部31のケース側嵌合面33と嵌合するギヤ側嵌合面13と、ギヤ側溶接面12との間に段差を設けて形成されているので、本実施例のように、リングギヤ10とデフケース30とを溶接で接合する場合等では、溶接時に、第2方向AX(軸方向AX)両側に溶接部50(第1溶接部51,第2溶接部52)を形成するとき、前述したように、リングギヤ10が、熱変形により、第1方向RD(径方向RD)に対し、圧入部20を中心に、図8に示すように、第1変形方向Pや第2変形方向Qに左右に倒れる。このとき、圧入部20において、リングギヤ10のギヤ側嵌合面13がデフケース30のケース接合部31のケース側嵌合面33に圧入されているため、圧入部20が、熱変形するリングギヤ10の支点となる。そのため、軸方向AX一方側の第1溶接部51を形成し、軸方向AX他方側の第2溶接部52を形成しても、リングギヤ10において、溶接後の熱変形が、支点である圧入部20を境に、互いにキャンセルした状態にすることが容易にできるようになる。
【0071】
また、本実施例のように、リングギヤ10とデフケース30とを溶接で接合する場合等では、リングギヤ10に、例えば、浸炭焼入れ等の熱処理を行った後、リングギヤ10とデフケース30との接合前に、デフケース30のケース接合部31と対向するリングギヤ10のギヤ接合部11における端面の浸炭層を、機械加工により除去して、ギヤ接合部11とケース接合部31とを溶接する場合がある。
このような場合、リングギヤ10において、ギヤ側溶接面12とギヤ側嵌合面13との間に段差を設けて隙間25を形成すれば、ギヤ側溶接面12及びギヤ側嵌合面13を形成するために行う浸炭層の除去と、隙間25の形成とが、同じ機械加工の工程で一緒に行えて、製造コストを低減することができる。
【0072】
また、本実施例に係る溶接構造では、ギヤ接合部11とケース接合部31とは、圧入部20を挟む軸方向AX両側にそれぞれ隙間25,25を有して接続され、第1溶接部51,第2溶接部52(溶接部50)は、圧入部20との間に第1空洞部28a,第2空洞部28b(空洞部28)を設けた状態で、隙間25,25を溶接することにより形成されているので、溶接後、溶接部50の溶接ビード56が、温度変化と共に流動し冷めて硬化するまで、空洞部28が、溶融状態の溶接ビード56の流動を吸収することができ、結果的に、溶接部50に残留応力が生じるのを防止することができる。
また、本実施例のように、特にレーザ溶接により溶接部50を形成する場合、溶接直後では、溶接部50の溶接ビード56内にガスが含有するため、このガスを、空洞部28に放出することができる。これにより、溶接部50では、ヒケ、ブローホール、割れ等の溶接欠陥の発生を抑制することができる。
【0073】
また、本実施例に係る溶接構造では、溶接部50のうち、少なくとも片側の溶接部(本実施形態では、両側の第1溶接部51及び第2溶接部52)では、ギヤ側第1溶接面12aとケース側第1溶接面32aとが、ギヤ側第2溶接面12bとケース側第2溶接面32bとが何れも、軸方向AXに沿って水平に形成されているので、本実施例のように、リングギヤ10とデフケース30とを溶接で接合する場合等では、リングギヤ10のギヤ部10Tとその相手方のピニオンギヤ(図示せず)との噛合い時に、第1溶接部51及び第2溶接部52において、リングギヤ10の軸心CLが反る方向への曲げ応力を小さく抑制することができる。
【0074】
また、本実施例に係る溶接構造では、機能部材は、リングギヤ10であり、ケースは、リングギヤ10と接合させるデフケース30であるので、リングギヤ10とデフケース30との溶接部50において、溶接強度と溶接品質とが高い差動装置(デファレンシャルギヤ)1を提供することができる。
【0075】
また、本実施例に係る溶接方法では、ギヤ接合部11を有し、ギヤ部10Tで図示しないピニオンギヤと噛合って動力を伝達する機能を発揮させるリングギヤ10と、ギヤ接合部11と接合するケース接合部31を有するデフケース30とを備え、ギヤ接合部11とケース接合部31とを圧入で嵌合させる圧入部20と共に、ギヤ接合部11の溶接面であるギヤ側第1溶接面12a,ギヤ側第2溶接面12b(ギヤ側溶接面12)と、ケース接合部31の溶接面であるケース側第1溶接面32a,ケース側第2溶接面32b(ケース側溶接面32)との間で溶接される第1溶接部51,第2溶接部52(溶接部50)により、リングギヤ10とデフケース30とが接合する溶接方法において、ギヤ接合部11とケース接合部31とが配列された方向を第1方向RD(径方向RD)とし、第1方向RDと直交する方向を第2方向AX(軸方向AX)とすると、溶接前の状態では、軸方向AXに対し、圧入部20を挟んだ少なくとも両側に、所定距離xで離間する隙間25,25を、ギヤ側溶接面12とケース側溶接面32との間に形成しておき、隙間25,25に溶接を行って溶接部50を形成するので、本実施例のように、リングギヤ10とデフケース30とを溶接で接合する場合等では、溶接時に、リングギヤ10が主に熱変形し、溶接部50の溶接ビード56が、溶接直後に溶融状態で熱膨張した後、その後の冷却で凝固収縮する。
【0076】
このとき、リングギヤ10のギヤ接合部11のギヤ側溶接面12とデフケース30のケース接合部31のケース側溶接面32との間には隙間25,25が形成されているため、リングギヤ10がたとえ熱変形しても、図8に示すように、熱変形の大きさyが隙間25の大きさxより小さければ、隙間25がリングギヤ10の熱変形を吸収することができる。
その一方で、ギヤ側溶接面12とケース側溶接面32との間に隙間25が形成されていることで、溶接時に、溶接ビード56に対する流動の自由度が大きくなり、溶融状態の溶接ビード56がこの隙間25を流動して凝固収縮したときに、リングギヤ10のギヤ接合部11及びデフケース30のケース接合部31から溶接ビード56に受ける応力が小さく抑えられ、溶接ビード56の残留応力を低減することができる。
従って、この残留応力に起因して、溶接部50で、繰り返し荷重による疲労強度の低下、割れ等の不具合の発生を抑制し、溶接部50の溶接強度を向上させることができる。
【0077】
また、上述したリングギヤ10の熱変形についても、溶接部50は、軸方向AXに対し、圧入部20を挟んだ両側に設けられ、圧入部20の両側に隙間25,25が形成されている。そのため、軸方向AX一方側の第1溶接部51を形成するときと、軸方向AX他方側の第2溶接部52を形成するときでは、参照する図8に示すように、熱膨張する向きが互いに反対になると共に、凝固収縮する向きも互いに反対となり、溶接後のリングギヤ10の熱変形(倒れ)を、圧入部20両側の隙間25,25で相殺することができる。
よって、圧入部20両側の第1溶接部51,第2溶接部52を形成した後のリングギヤ10の歪みが、より小さく低減できる。
【0078】
また、ギヤ側溶接面12とケース側溶接面32との間に隙間25,25が形成されているため、溶接時に、溶接ワイヤ60が、ギヤ側溶接面12とケース側溶接面32との間を、溶接ビード56を形成する所望位置tまで奥側に容易に挿入できるようになる。
これにより、溶融状態の溶接ビード56が、所望とする溶接部50の形成範囲tに相当する位置まで、より確実に到達して硬化するようになり、溶接部50における溶接品質を向上させることができる。
【0079】
従って、本実施例に係る溶接方法によれば、リングギヤ10のギヤ接合部11とデフケース30のケース接合部31との溶接部50に対し、溶接強度および溶接品質の向上を図ることができる、という優れた効果を奏する。
【0080】
また、本実施例に係る溶接方法では、隙間25の所定距離xは、0.4mm以上、かつ溶接時に溶接部50の溶接ビード56を形成するのに用いる溶接ワイヤ60の太さ(本実施形態では、ワイヤ径ΦD=0.9(mm))に相当する大きさ以下とし、溶接時に、溶接ワイヤ60を、隙間25に挿入し、ギヤ側溶接面12とケース側溶接面32とに倣わせながら、所望範囲tの溶接ビード56を形成可能な位置まで供給して、溶接を行うので、本実施例のように、リングギヤ10とデフケース30とを溶接で接合する場合等では、図8に示すように、隙間25の距離xを0.4mm以上とすることで、リングギヤ10のギヤ接合部11がデフケース30のケース接合部31に拘束されず、リングギヤ10とデフケース30とが突っ張った状態になることを阻止することができる。
【0081】
その一方、隙間25の距離xを溶接ワイヤ60のワイヤ径ΦDに相当する大きさ以下にすることで、溝27がケース側溶接面32に凹設されている場合でも、隙間25に挿入された溶接ワイヤ60の先端部が、溝27に入ることなく、ギヤ側溶接面12とケース側溶接面32とに倣い、溶接ビード56を形成する所望位置tまで供給できるようになる。
よって、溶接ワイヤ60が、溶接ビード56を形成する所望位置tまで供給できるようになったことにより、リングギヤ10のギヤ接合部11とデフケース30のケース接合部31との間で溶接ビード56がより確実に形成され、リングギヤ10とデフケース30とが、適切な状態で溶接されて接合できる。
〔第1変形例〕
【0082】
次に、前述した第1実施例の第1変形例に係る溶接構造について、図9を用いて説明する。図9は、図3と同様の図であり、第1変形例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造についての説明図である。
本変形例に係るリングギヤ110のギヤ接合部111とデフケース130のケース接合部131との溶接構造では、軸方向AX一方側(図9中、右側)のギヤ側第1溶接面112a、その他方側(図9中、左側)のギヤ側第2溶接面112b、及びギヤ側嵌合面113は、軸方向AXに沿って水平で、段差のない同じ平面状に形成されている。
また、ケース接合部131では、ケース側嵌合面133を挟む軸方向AX両側に位置するケース側第1溶接面132a、及びケース側第2溶接面132bは、ケース側嵌合面133に対し、段差x(0<x)を設けて形成されている。
【0083】
ギヤ側第1溶接面112aとケース側第1溶接面132aとの間、及びギヤ側第2溶接面112bとケース側第2溶接面132bとの間には、それぞれ隙間125,125が、軸心CLを中心とする周方向CR(図1参照)に形成されている。
リングギヤ110とデフケース130とは、ギヤ接合部111のギヤ側嵌合面113とケース接合部131のケース側嵌合面133との間の圧入部120で圧入されている。また、リングギヤ110とデフケース130とは、ギヤ側第1溶接面112aとケース側第1溶接面132aとの隙間125を溶接した第1溶接部151と、ギヤ側第2溶接面112bとケース側第2溶接面132bとの隙間125を溶接した第2溶接部152とにより接合されて固定されている。
〔第2変形例〕
【0084】
次に、前述した第1実施例の第2変形例に係る溶接構造について、図10を用いて説明する。図10は、図3と同様の図であり、第2変形例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造についての説明図である。
本変形例に係るリングギヤ210のギヤ接合部211とデフケース230のケース接合部231との溶接構造では、第1実施例と同様、ギヤ側第1溶接面212a及びギヤ側第2溶接面212bは、ギヤ側嵌合面213に対し、径方向RDに距離x(0<x)の段差を設け、軸心CLを中心とする周方向CR(図1参照)に形成されている。
【0085】
また、ケース接合部231では、ケース側嵌合面233を挟む軸方向AX両側に位置するケース側第1溶接面232a、及びケース側第2溶接面232bは、ケース側嵌合面233と段差のない同じ平面状に形成されている。また、空洞部228が、ケース側嵌合面233の一部分で複数個所に凹設された溝227によって形成されている。
【0086】
ギヤ側第1溶接面212aとケース側第1溶接面232aとの間、及びギヤ側第2溶接面212bとケース側第2溶接面232bとの間には、隙間225,225がそれぞれ形成されている。
リングギヤ210とデフケース230とは、ギヤ接合部211のギヤ側嵌合面213とケース接合部231のケース側嵌合面233との間の圧入部220で圧入されている。また、リングギヤ210とデフケース230とは、ギヤ側第1溶接面212aとケース側第1溶接面232aとの隙間225を溶接した第1溶接部251と、ギヤ側第2溶接面212bとケース側第2溶接面232bとの隙間225を溶接した第2溶接部252とにより接合されて固定されている。
【0087】
これまで、本発明に係る溶接構造について、実施形態の第1実施例、及びその第1,第2変形例を挙げて説明したが、本発明に係る溶接構造は、これらのほかにも考えられる。
そこで、以下、第2実施例とその変形例である第3,第4変形例、及び第3実施例に係る溶接構造について説明する。第2実施例、第3,第4変形例、及び第3実施例は、第1実施例と同様、何れもリングギヤとデフケースとを溶接で接合する場合である。
〔第2実施例〕
【0088】
はじめに、第2実施例に係る溶接構造について、図11を用いて説明する。図11は、図3と同様の図であり、第2実施例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造についての説明図である。
第2実施例は、リングギヤのギヤ接合部及びデフケースのケース接合部の形状、溶接ビードと隣接する空洞の有無等の点で、前述した第1実施例等と異なるが、それ以外の部分は、第1実施例と同様である。
従って、第2実施例は、第1実施例とは異なる部分を中心に説明し、第1実施例と共通する部分やその他についての説明を簡略または省略する。
【0089】
本実施例に係るリングギヤ310のギヤ接合部311とデフケース330のケース接合部331との溶接構造では、軸方向AX一方側(図11中、右側)のギヤ側第1溶接面312a、その他方側(図11中、左側)のギヤ側第2溶接面312b、及び軸方向AX中央に位置するギヤ側嵌合面313は、軸方向AXに沿って水平に形成されている。ギヤ側第1溶接面312aは、ギヤ側嵌合面313に対し、径方向RD径外側に距離x(0<x)の段差を設け、軸心CLを中心とする周方向CR(図1参照)に形成されている。ギヤ側第2溶接面312bは、ギヤ側第1溶接面312aよりさらに径方向RD径外側の位置に配置されている。
【0090】
一方、ケース接合部331では、ケース側嵌合面333を挟む軸方向AX両側に位置するケース側第1溶接面332a、ケース側第2溶接面332b、及びギヤ側嵌合面313は、軸方向AXに沿って水平に形成されている。ケース側第1溶接面332aは、ギヤ側嵌合面313と段差のない同じ平面状に形成されている。ケース側第2溶接面332bは、ケース側第1溶接面332a及びギヤ側嵌合面313に対し、径方向RD径外側の位置に配置されている。
【0091】
ギヤ側第1溶接面312aとケース側第1溶接面332aとの間、及びギヤ側第2溶接面312bとケース側第2溶接面332bとの間には、所定距離xの隙間325,325がそれぞれ形成されている。ギヤ側第1溶接面312aとケース側第1溶接面332aとの隙間325を溶接した第1溶接部351と、ギヤ側第2溶接面312bとケース側第2溶接面332bとの隙間325を溶接した第2溶接部352とは、径方向RDに径差を有して形成されている。
リングギヤ310とデフケース330とは、ギヤ接合部311のギヤ側嵌合面313とケース接合部331のケース側嵌合面333との間の圧入部320で圧入されていると共に、第1溶接部351と第2溶接部352とにより接合されて固定されている。
【0092】
次に、前述した構成を有する本実施例に係る溶接構造の作用・効果について、説明する。
本実施例に係る溶接構造では、ギヤ接合部311を有し、ギヤ部310Tで図示しないピニオンギヤと噛合って動力を伝達する機能を発揮させるリングギヤ310と、ギヤ接合部311と接合するケース接合部331を有するデフケース330とを備え、ギヤ接合部311とケース接合部331とを圧入で嵌合させる圧入部320と共に、ギヤ接合部311の溶接面であるギヤ側第1溶接面312a,ギヤ側第2溶接面312bと、ケース接合部331の溶接面であるケース側第1溶接面332a,ケース側第2溶接面332bとの間で溶接される第1溶接部351,第2溶接部352により、リングギヤ310とデフケース330とが接合する溶接構造において、ギヤ接合部311とケース接合部331とが配列された方向を第1方向RD(径方向RD)とし、第1方向RDと直交する方向を第2方向AX(軸方向AX)とすると、第1,第2溶接部351,352が、軸方向AXに対し、圧入部320を挟んだ両側に少なくとも設けられていること、溶接前の状態では、所定距離xで離間する隙間325,325が、ギヤ側第1溶接面312aとケース側第1溶接面332aとの間、及びギヤ側第2溶接面312bとケース側第2溶接面332bとの間に形成されているので、前述した第1実施例と同様、リングギヤ310のギヤ接合部311とデフケース330のケース接合部331との第1,第2溶接部351,352に対し、溶接強度および溶接品質の向上を図ることができる、という優れた効果を奏する。
【0093】
また、本実施例に係る溶接構造では、溶接部のうち、軸方向AX一方側の第1溶接部351と、軸方向AX他方側の第2溶接部352とは、径方向RDに径差を有して形成されているので、例えば、仮に第1溶接部351と第2溶接部352が破断した場合であっても、それぞれ径方向RDに径差があるケース接合部331とケース接合部331とが、軸方向AXに引っ掛かって外れないため、デフケース330からリングギヤ10の抜けが防止できる。
【0094】
また、本実施例に係る溶接構造では、溶接部のうち、少なくとも片側の溶接部(本実施例では、両側の第1溶接部351及び第2溶接部352)では、ギヤ側第1溶接面312aとケース側第1溶接面332aとが、ギヤ側第2溶接面312bとケース側第2溶接面332bとが何れも、軸方向AXに沿って水平に形成されているので、リングギヤ310のギヤ部310Tとその相手方のピニオンギヤ(図示せず)との噛合い時に、第1溶接部351及び第2溶接部352において、リングギヤ310の軸心CLが反る方向への曲げ応力を小さく抑制することができる。
〔第3変形例〕
【0095】
次に、前述した第2実施例の変形例として、第3変形例に係る溶接構造について、図13を用いて説明する。図12は、図3と同様の図であり、第3変形例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造についての説明図である。
本変形例に係るリングギヤ410のギヤ接合部411とデフケース430のケース接合部431との溶接構造では、軸方向AX一方側(図12中、右側)のギヤ側第1溶接面412a、その他方側(図12中、左側)のギヤ側第2溶接面412b、及び軸方向AX中央に位置するギヤ側嵌合面413は、軸方向AXに沿って水平に形成されている。ギヤ側第2溶接面412bは、ギヤ側嵌合面413に対し、径方向RD径外側に距離x(0<x)の段差を設け、軸心CLを中心とする周方向CR(図1参照)に形成されている。ギヤ側第1溶接面412aは、ギヤ側嵌合面413より径方向RD径内側の位置に配置され、軸心CLを中心とする周方向CR(図1参照)に形成されている。
【0096】
一方、ケース接合部431では、ケース側嵌合面433を挟む軸方向AX両側に位置するケース側第1溶接面432a、ケース側第2溶接面432b、及びギヤ側嵌合面413は、軸方向AXに沿って水平に形成されている。ケース側第2溶接面432bは、ギヤ側嵌合面413と段差のない同じ平面状に形成されている。ケース側第1溶接面432aは、ケース側第2溶接面432b及びギヤ側嵌合面413に対し、径方向RD径内側の位置に配置されている。
【0097】
ギヤ側第1溶接面412aとケース側第1溶接面432aとの間、及びギヤ側第2溶接面412bとケース側第2溶接面432bとの間には、所定距離xの隙間425,425がそれぞれ形成されている。ギヤ側第1溶接面412aとケース側第1溶接面432aとの隙間425を溶接した第1溶接部451と、ギヤ側第2溶接面412bとケース側第2溶接面432bとの隙間425を溶接した第2溶接部452とは、径方向RDに径差を有して形成されている。
リングギヤ410とデフケース430とは、ギヤ接合部411のギヤ側嵌合面413とケース接合部431のケース側嵌合面433との間の圧入部420で圧入されていると共に、第1溶接部451と第2溶接部452とにより接合されて固定されている。
〔第4変形例〕
【0098】
次に、前述した第2実施例の変形例として、第3変形例とは別の第4変形例に係る溶接構造について、図13を用いて説明する。図13は、図3と同様の図であり、第4変形例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造についての説明図である。
本変形例に係るリングギヤ510のギヤ接合部511とデフケース530のケース接合部531との溶接構造では、軸方向AX一方側(図13中、右側)のギヤ側第1溶接面512a、その他方側(図13中、左側)のギヤ側第2溶接面512b、及びギヤ側嵌合面513は、軸方向AXに沿って水平に形成されている。ギヤ側第1溶接面512aとギヤ側嵌合面513とは、段差のない同じ平面状に形成されている。ギヤ側第1溶接面512aは、ギヤ側嵌合面513に対し、径方向RD径外側に距離x(0<x)の段差を設け、軸心CLを中心とする周方向CR(図1参照)に形成されている。ギヤ側第2溶接面512bは、ギヤ側第1溶接面512a、ギヤ側嵌合面513よりさらに径方向RD径外側の位置に配置されている。
【0099】
一方、ケース接合部531では、ケース側嵌合面533を挟む軸方向AX両側に位置するケース側第1溶接面532a、ケース側第2溶接面532b、及びギヤ側嵌合面513は、軸方向AXに沿って水平に形成されている。ケース側第1溶接面532aは、ギヤ側嵌合面513に対し、段差x(0<x)を設けて形成され、ケース側第2溶接面532bは、ギヤ側嵌合面513に対し、径方向RD径外側の位置に配置されている。ケース側第1溶接面532aとケース側第2溶接面532bとは、軸心CLを中心とする周方向CR(図1参照)に形成されている。
【0100】
ギヤ側第1溶接面512aとケース側第1溶接面532aとの間、及びギヤ側第2溶接面512bとケース側第2溶接面532bとの間には、所定距離xの隙間525,525がそれぞれ形成されている。ギヤ側第1溶接面512aとケース側第1溶接面532aとの隙間525を溶接した第1溶接部551と、ギヤ側第2溶接面512bとケース側第2溶接面532bとの隙間525を溶接した第2溶接部552とは、径方向RDに径差を有して形成されている。
リングギヤ510とデフケース530とは、ギヤ接合部511のギヤ側嵌合面513とケース接合部531のケース側嵌合面533との間の圧入部520で圧入されていると共に、第1溶接部551と第2溶接部552とにより接合されて固定されている。
〔第3実施例〕
【0101】
次に、第3実施例に係る溶接構造について、図14を用いて説明する。図14は、図3と同様の図であり、第3実施例に係るリングギヤとデフケースとの溶接構造についての説明図である。
第3実施例は、第2溶接部の向きや、圧入部を2箇所に設けている等の点で、前述した第1,第2実施例等と異なるが、それ以外の部分は、第1実施例等と同様である。
従って、第3実施例は、第1実施例等とは異なる部分を中心に説明し、第1実施例等と共通する部分やその他についての説明を簡略または省略する。
【0102】
本実施例に係るリングギヤ610のギヤ接合部611とデフケース630のケース接合部631との溶接構造では、軸方向AX一方側(図14中、右側)のギヤ側第1溶接面612aと、軸方向AX中央に位置するギヤ側嵌合面613(ギヤ側第1嵌合面613a,ギヤ側第2嵌合面613b)とは、軸方向AXに沿って水平に形成されている。ギヤ側第1嵌合面613aとギヤ側第2嵌合面613bとは、径方向RDに対し径差を設けて配置されている。ギヤ側第1溶接面612aは、ギヤ側第1嵌合面613aに対し、径方向RD径外側に距離x(0<x)の段差を設け、軸心CLを中心とする周方向CR(図1参照)に形成されている。軸方向AX他方側(図14中、左側)のギヤ側第2溶接面612bは、ギヤ側第2嵌合面613bに接続し、軸方向AXに対し、角度θ(θ<90°)に傾斜した面となっている。
【0103】
一方、ケース接合部631では、軸方向AX一方側のケース側第1溶接面632aと、軸方向AX中央に位置するケース側嵌合面633(ケース側第1嵌合面633a,ケース側第2嵌合面633b)とは、軸方向AXに沿って水平に形成されている。ケース側第1嵌合面633aとケース側第2嵌合面633bとは、径方向RDに対し径差を設けて配置されている。ケース側第1溶接面632aは、ケース側第1嵌合面633aと段差のない同じ平面状に形成されている。軸方向AX他方側のケース側第2溶接面632bは、ケース側第2嵌合面633bに接続し、軸方向AXに対し、角度θ(θ<90°)に傾斜した面となっている。
【0104】
ギヤ側第1溶接面612aとケース側第1溶接面632aとの間、及びギヤ側第2溶接面612bとケース側第2溶接面632bとの間には、所定距離xの隙間625,625がそれぞれ形成されている。
溶接前には、リングギヤ610とデフケース630とは、ギヤ側第1嵌合面613aとケース側第1嵌合面633との間の第1圧入部620a(圧入部620)、及びギヤ側第2嵌合面613bとケース側第2嵌合面633bとの間の第2圧入部620b(圧入部620)で圧入されている。溶接後、ギヤ側第1溶接面612aとケース側第1溶接面632aとの隙間625を溶接した第1溶接部651と、ギヤ側第2溶接面612bとケース側第2溶接面632bとの隙間625を溶接した第2溶接部652とは、径方向RDに径差を有して形成されている。
リングギヤ610とデフケース630とは、ギヤ接合部611とケース接合部331とを圧入で嵌合させた圧入部620で接続すると共に、第1溶接部651と第2溶接部652とにより接合されて固定されている。
【0105】
次に、前述した構成を有する本実施例に係る溶接構造の作用・効果について、説明する。
本実施例に係る溶接構造では、ギヤ接合部611を有し、ギヤ部610Tで図示しないピニオンギヤと噛合って動力を伝達する機能を発揮させるリングギヤ610と、ギヤ接合部611と接合するケース接合部631を有するデフケース630とを備え、ギヤ接合部611とケース接合部631とを圧入で嵌合させる圧入部620と共に、ギヤ接合部611の溶接面であるギヤ側第1溶接面612a,ギヤ側第2溶接面612bと、ケース接合部631の溶接面であるケース側第1溶接面632a,ケース側第2溶接面632bとの間で溶接される第1溶接部651,第2溶接部652により、リングギヤ610とデフケース630とが接合する溶接構造において、ギヤ接合部611とケース接合部631とが配列された方向を第1方向RD(径方向RD)とし、第1方向RDと直交する方向を第2方向AX(軸方向AX)とすると、第1,第2溶接部651,652が、軸方向AXに対し、圧入部620を挟んだ両側に少なくとも設けられていること、溶接前の状態では、所定距離xで離間する隙間625,625が、ギヤ側第1溶接面612aとケース側第1溶接面632aとの間、及びギヤ側第2溶接面612bとケース側第2溶接面632bとの間に形成されているので、前述した第1,第2実施例と同様、リングギヤ610のギヤ接合部611とデフケース630のケース接合部631との第1,第2溶接部651,652に対し、溶接強度および溶接品質の向上を図ることができる、という優れた効果を奏する。
【0106】
また、本実施例に係る溶接構造では、溶接部のうち、軸方向AX一方側の第1溶接部651と、軸方向AX他方側の第2溶接部652とは、径方向RDに径差を有して形成されているので、例えば、仮に第1溶接部651と第2溶接部652が破断した場合であっても、それぞれ径方向RDに径差があるギヤ接合部611とケース接合部631とが、軸方向AXに引っ掛かって外れないため、デフケース630からリングギヤ610の抜けが防止できる。
【0107】
また、本実施例に係る溶接構造では、溶接部のうち、軸方向AX一方側の第1溶接部651では、ギヤ側第1溶接面612aとケース側第1溶接面632aとが、軸方向AXに沿って水平に形成されているので、リングギヤ610のギヤ部610Tとその相手方ギヤとの噛合い時に、第1溶接部651において、リングギヤ610の軸心CLが反る方向への曲げ応力を小さく抑制することができる。
【0108】
また、本実施例に係る溶接構造では、溶接部のうち、軸方向AX他方側の第2溶接部652では、ギヤ側第2溶接面612bとケース側第2溶接面632bとが、軸方向AXに対し、角度θ(θ<90°)に傾斜して形成されているので、リングギヤ610のギヤ部610Tとその相手方ギヤとの噛合い時に、第2溶接部652において、リングギヤ610の軸心CLが反る方向への曲げ応力を小さくしつつ、リングギヤ610がデフケース630に対し、第1方向RD(径方向RD)の径内側に安定して固定することができる。
【0109】
特に上記角度がθ=45°の場合には、ギヤ部610Tにおけるピッチ円径上付近の噛合い位置で、リングギヤ610と相手方ギヤとの噛合いによる外力が、ギヤ部610Tの軸方向AXに作用したとき、第2溶接部652には、この外力における軸方向AXの成分と、径方向RD径内側の成分とが、同じ大きさになる。そのため、リングギヤ610が、デフケース630に対して最も安定した状態で固定され、第2溶接部652に無理な応力もかからない。
【0110】
また、本実施例に係る溶接構造では、第1圧入部620a、第2圧入部620b(圧入部620)は、径方向RDに径差を有して形成されているので、溶接後、リングギヤ610が、熱変形により、軸方向AXに対し、圧入部620を中心に左右(参照する図8中、矢印P及び矢印Qの向き)に倒れるのを抑制することができる。
【0111】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できる。
例えば、本実施形態の第1実施例では、第1溶接部51と第2溶接部52との溶接順序として、軸方向AX一方側を先に溶接して第1溶接部51を形成した後、その他方側を後に溶接して第2溶接部52を形成した。
しかしながら、圧入部を挟む第2方向両側の溶接部を形成する順序は、本実施形態に限定されるものでなく、例えば、本実施形態の第1溶接部51と第2溶接部52とについて、先に第2溶接部52を形成した後、第1溶接部51を形成する場合のほか、第1溶接部51と第2溶接部52とを同時に形成する場合等、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0112】
10,110,210,310,410,530,630 リングギヤ(機能部材)
11,111,211,311,411,531,631 ギヤ接合部(機能部材接合部)
12 ギヤ側溶接面(機能部材側溶接面)
13 ギヤ側嵌合面(機能部材側嵌合面)
20,120,220,320,420,520,620 圧入部
25,125,225,325,425,525,625 隙間
28 空洞部
30,130,230,330,430,530,630 デフケース(ケース)
31,131,231,331,431,531,631 ケース接合部
32,132,232,332,432,532,632 ケース側溶接面
50 溶接部
51,151,251,351,451,551,651 第1溶接部
52,152,252,352,452,552,652 第2溶接部
56 溶接ビード
60 溶接ワイヤ
RD 第1方向(径方向)
AX 第2方向(軸方向)
CR 周方向
CL 軸心(第2方向に沿う軸)
P 溶接ビードの所望範囲
x (隙間の)所定距離
ΦD ワイヤ径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能部材接合部を有し、所定機能を発揮させる機能部材と、前記機能部材接合部と接合するケース接合部を有するケースとを備え、前記機能部材接合部と前記ケース接合部とを圧入で嵌合させる圧入部と共に、前記機能部材接合部の溶接面である機能部材側溶接面と、前記ケース接合部の溶接面であるケース側溶接面との間で溶接される溶接部により、前記機能部材と前記ケースとが接合する溶接構造において、
前記機能部材接合部と前記ケース接合部とが配列された方向を第1方向とし、前記第1方向と直交する方向を第2方向とすると、
前記溶接部が、前記第2方向に対し、前記圧入部を挟んだ両側に少なくとも設けられていること、
溶接前の状態では、所定距離で離間する隙間が、前記機能部材側溶接面と前記ケース側溶接面との間に形成されていることを特徴とする溶接構造。
【請求項2】
請求項1に記載する溶接構造において、
前記隙間の前記所定距離は、0.4mm以上、かつ溶接時に前記溶接部の溶接ビードを形成するのに用いる溶接ワイヤの太さに相当する大きさ以下であることを特徴とする溶接構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する溶接構造において、
前記機能部材接合部と前記ケース接合部とが、いずれも前記第1方向を径方向とする環状に形成され、
前記隙間は、前記第2方向に沿う軸を中心とする周方向全周にわたって形成されていることを特徴とする溶接構造。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載する溶接構造において、
前記隙間は、前記機能部材に対し、前記圧入部で前記ケース接合部と嵌合する機能部材側嵌合面と、前記機能部材側溶接面との間に段差を設けて形成されていることを特徴とする溶接構造。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載する溶接構造において、
前記機能部材接合部と前記ケース接合部とは、前記圧入部を挟む前記第2方向両側にそれぞれ前記隙間を有して接続され、
前記溶接部は、前記圧入部との間に空洞部を設けた状態で、前記隙間を溶接することにより形成されていることを特徴とする溶接構造。
【請求項6】
請求項3乃至請求項5のいずれか1つに記載する溶接構造において、
前記溶接部のうち、前記第2方向一方側の第1溶接部と、前記第2方向他方側の第2溶接部とは、前記径方向に径差を有して形成されていることを特徴とする溶接構造。
【請求項7】
請求項3乃至請求項6のいずれか1つに記載する溶接構造において、
前記溶接部のうち、少なくとも片側の溶接部では、前記機能部材側溶接面と前記ケース側溶接面とが、前記第2方向に沿って水平に形成されていることを特徴とする溶接構造。
【請求項8】
請求項3乃至請求項7のいずれか1つに記載する溶接構造において、
前記溶接部のうち、少なくとも片側の溶接部では、前記機能部材側溶接面と前記ケース側溶接面とが、前記第2方向に対し、角度θ(θ<90°)に傾斜して形成されていることを特徴とする溶接構造。
【請求項9】
請求項3乃至請求項8のいずれか1つに記載する溶接構造において、
前記圧入部は、前記径方向に径差を有して形成されていることを特徴とする溶接構造。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1つに記載する溶接構造において、
前記機能部材は、リングギヤであり、前記ケースは、前記リングギヤと接合させるデフケースであることを特徴とする溶接構造。
【請求項11】
機能部材接合部を有し、所定機能を発揮させる機能部材と、前記機能部材接合部と接合する前記ケース接合部を有するケースとを備え、前記機能部材接合部と前記ケース接合部とを圧入で嵌合させる圧入部と共に、前記機能部材接合部の溶接面である機能部材側溶接面と、前記ケース接合部の溶接面であるケース側溶接面との間で溶接される溶接部により、前記機能部材と前記ケースとが接合する溶接方法において、
前記機能部材接合部と前記ケース接合部とが配列された方向を第1方向とし、前記第1方向と直交する方向を第2方向とすると、
溶接前の状態では、前記第2方向に対し、前記圧入部を挟んだ少なくとも両側に、所定距離で離間する隙間を、前記機能部材側溶接面と前記ケース側溶接面との間に形成しておき、前記隙間に溶接を行って前記溶接部を形成することを特徴とする溶接方法。
【請求項12】
請求項11に記載する溶接方法において、
前記隙間の前記所定距離は、0.4mm以上、かつ溶接時に前記溶接部の溶接ビードを形成するのに用いる溶接ワイヤの太さに相当する大きさ以下とし、
溶接時に、前記溶接ワイヤを、前記隙間に挿入し、前記機能部材側溶接面と前記ケース側溶接面とに倣わせながら、所望範囲の前記溶接ビードを形成可能な位置まで供給して、溶接を行うことを特徴とする溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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