説明

溶接機におけるスライダーおよび溶接機

【課題】溶接機におけるスライダーの従来の問題点を解決したもので、使用により生じるガタを抑えることができる溶接機におけるスライダーおよび溶接機を得る。
【解決手段】溶接機におけるスライダーであって、ガイドブロック24の側面に開放部を有するガイド溝を設け、該ガイド溝にガイドロッド26を挿通すると共に、スライドフレーム21の外側面から内面に貫通させ、ガイドロッドの側面に接当する押しボルト30を設け、ガイドロッドにガタが生じた場合は、押しボルトをねじ込んでガイドロッドをガイド面に押し当ててガタを抑えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トーチを搭載した溶接機におけるスライダーおよび溶接機に関するものであり、特に、スライダーに生じるガタを抑えて溶接トーチの位置出しを安定させることができるスライダーの構造およびこの構造のスライダーを備えた溶接機に係わる。
【背景技術】
【0002】
船舶やその他構造物の建造において、高速で移動し、高い溶接能率が得られる溶接機が使用されている。この溶接機は図9に示すように、自動走行する溶接機本体1(以下単に本体とする)上に、本体1の幅方向にスライドする平面スライダー2を備えており、溶接トーチ4は平面スライダー2に上下方向に回動可能に取り付けられたトーチホルダー3に保持される構成になっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
なお、5は溶接トーチ4に連結されているトーチケーブルであり、6は本体1を被溶接部材に倣わせるための倣いローラである。
また、平面スライダーの上面に上下方向にスライドする垂直スライダーを設け、この垂直スライダーにトーチホルダーを取り付けて溶接トーチを保持する構成のものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
このような構成であるから、平面スライダー2(垂直スライダーを含め)およびトーチホルダー3の角度を調整して、溶接トーチ4を最適な姿勢状態に保持させ、連続して隅肉溶接が行われる。
以下、この構成におけるスライダーの構造を説明する。図10はスライダーの正断面図であり、図11は図10のD−D線に沿った平断面図である。なお、平面スライダー2と垂直スライダーは構造的に同一であるので、平面スライダー2を例にして説明する。
【0005】
うつ伏せられた箱型容器状のスライドフレーム11には、中央部にスライドロッド12が回転自在に装着されている。該スライドロッド12の表面にはねじが形成されており、スライドフレーム11から突出した端部には回転用の摘み13がピン着固定されている。
また、スライドロッド12は、本体1上に固定されたガイドブロック14に保持されたナット15と螺合している。
【0006】
前記スライドロッド12の両側には、2本のガイドロッド16が配置され、スライドフレーム11に止めボルト17により固定されている。また、該ガイドロッド16は、ガイドブロック14に保持されたブッシュ18に挿通されている。
なお、該ブッシュ18と前記したナット15は同一のガイドブロック14に合わせて保持されて、本体1に固定されている。
【0007】
したがって、摘み13を廻して、スライドロッド12を回転させると、スライドロッド12は、ガイドブロック14に保持されたナット15と螺合しているので、ガイドブロック14に対し、左右に移動することになる。そして、スライドロッド12はスライドフレーム11に装着されているので、スライドロッド12の移動はスライドフレーム11を本体1上で左右にスライドさせることになる。
【0008】
このとき、スライドフレーム11はガイドロッド16によって、ガイドブロック14に保持されたブッシュ18にガイドされ、本体1上をスライドされる。そして、スライドロッド12およびガイドロッド16の取り付け部は嵌め合い精度で仕上げられているので、製作当初は精度がよく、スムーズなスライドが得られる。
【0009】
しかし、スライドフレーム11には溶接トーチ4がせり出して保持されているため、溶接時や移動時に溶接トーチ4や該溶接トーチ4に連結されているトーチケーブル5などの荷重が片持ち荷重としてかかり、この荷重の影響でスライドフレーム11の各部にモーメントがかかることになる。したがって、長期間使用していると、スライドロッド12およびガイドロッド16の取り付け部にガタが発生する。
【0010】
このガタがだんだん大きくなってくると、スライドロッド12およびガイドロッド16とスライドフレーム11との間でこぜりが生じ、スライドフレーム11のスムーズな動きが阻害されることになる。
さらに、このこぜりがある段階まで大きくなると、スライドフレーム11とスライドロッド12、ガイドロッド16との間に隙間が生じ、スライドロッド12およびガイドロッド16の挿通状態がガタガタになってしまい、スライドフレーム11の移動がガタ付いた状態になって、溶接トーチ4の正確な位置出しに支障をきたす事態となってしまう。
【0011】
【特許文献1】特開2001−212670号公報(第2頁、図2)
【特許文献2】特開平11−267840号公報(第2頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述のごとき問題点を解決したもので、使用により生じるガタを抑えることができる溶接機におけるスライダーおよび該スライダーを備えた溶接機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
スライドフレームに回転自在に装着したスライドロッドを、本体に固定されたガイドブロックに保持されるナットに螺合させた溶接機のスライダーにおいて、ガイドブロックの側面に開放部を有するガイド溝を設け、該ガイド溝にガイドロッドを挿通すると共に、スライドフレームの外側面から内面に貫通させ、ガイドロッドの側面に接当する押しボルトを設け、ガイドロッドにガタが生じた場合は、押しボルトをねじ込んでガイドロッドをガイド面に押し当ててガタを抑えるようにした。
【0014】
また、スライドフレームの中央部にスライドロッドを装着し、スライドロッドの両側にガイドロッドを設け、スライドフレームの両外側面から内面に貫通する押しボルトを設けるようにした。さらに、押しボルトをガイドロッドに押し当て、ガイドロッドをガイド面に押し当てるのに、押し当て効果を高めるようガイドロッドとガイド面を角断面形状としたこと、ガイド溝に、ガイドブロックと同等の開放部を有するブッシュを挿設し、該ブッシュにガイドロッドを挿通するようにしたことも特徴とする。
【0015】
また、溶接機であって、本体にガイドブロックを固定し、該ガイドブロックに保持されるナットに、スライドフレームに回転自在に装着したスライドロッドを螺合させ、ガイドブロックの側面に開放部を有するガイド溝を設け、該ガイド溝にガイドロッドを挿通させると共に、スライドフレームの外側面から内面に貫通させ、ガイドロッドの側面に接当する押しボルトを設けたスライダーを備えるようにした。
【発明の効果】
【0016】
スライドフレームの外側面から内面に貫通させ、ガイドロッドの側面に接当する押さえボルトを設けたので、使用によりガイドロッドにガタが生じた場合は、押さえボルトをねじ込んでガイドロッドをガイド面の一側に押し当てて、常にガタを抑えることができるようになった。
また、ガイドロッドとガイド面を角断面形状とすれば、押さえボルトをガイドロッドに押し当て、ガイドロッドをガイド面に押し当てるのに押し当て効果が高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図示した本発明の最良の形態について説明する。図1は本発明によるスライダーの正面図、図2は図1のA−A線に沿った平断面図、図3は図2のB−B線に沿った正断面図であり、図4はガイドブロックの側面図である。図5はガイドロッドとガイド溝を角断面形状とした例を示す正断面図、図6はガイド溝にブッシュを挿設した例を示す正断面図である。図7は2本のガイドロッドを設け、両側に押しボルトを備えた例の平断面図であり、図8は図7のC−C線に沿った正断面図である。
【0018】
うつ伏せられた箱型容器状のスライドフレーム21には、スライドロッド22が回転可能に装着されている。該スライドロッド22の表面にはねじが形成されており、スライドフレーム21から突出した一端部には摘み23がピン固定されている。
ベースプレートを止めボルトによって本体1に固定されたガイドブロック24にはナット25が保持されており、該ナット25に前記スライドロッド22が螺合している。
【0019】
スライドロッド22の側方に配置されたガイドロッド26が、スライドフレーム21に止めボルト27により固定されている。
また、前記ガイドブロック24には、図4に示すように開放部29を有する円弧状断面のガイド溝28が形成されており、該ガイド溝28に前記ガイドロッド26が摺動自在に通し入れられている。
【0020】
さて、30はスライドフレーム21の外側面から内面に貫通するようにねじ込まれる押しボルトであって、その先端部がガイドロッド26の側面に接当するようになっている。
したがって、この押しボルト30をねじ込み、押しボルト30の先端部でガイドロッド26を押さえ、ガイドロッド26を円弧状のガイド溝28の一側内面に押し当てることができる。
また、この押しボルト30はスライドフレーム21と一体に動くが、ガイドロッド26はガイド溝28の開放部29から覗き出しているので、スライドフレーム21がスライドするときも、押しボルト30によるガイドロッド26の押さえ状態は維持される。
【0021】
次に、図5に示す他の実施の形態について説明する。この例においては、角断面形状のガイドロッド31を使用しており、ガイドブロック24の側面に開口したコの字状角断面形状のガイド溝32を設け、該ガイド溝32にガイドロッド31を摺動自在に通し入れている。そして、前記の例と同様にスライドフレーム21の外側面から内面に貫通するようにねじ込まれる押しボルト30を備えている。
【0022】
したがって、押しボルト30をねじ込むことによって、該押しボルト30の先端部でガイドロッド31を押さえ、ガイドロッド31をガイドブロック24に設けた角断面形状のガイド溝32の一側内面に押し当てることができる。
このように、ガイドロッド26、31を押しボルト30のねじ込みにより、ガイドロッド26、30をガイド溝28、32の一側面に押し当てて、ガイドロッド26,31の取り付け部に生じるガタを抑えることができる。
【0023】
もちろん、上記の押し当てはガイドロッド26、30の取り付け部に生じるガタを押さえるための押し付けであるから、丁度ガイドロッド26、30がガイド溝28、32の一側面に接触する程度の押し付けでよく、ガイドロッド26、30のスライドに影響を与えるような強い押し付けにはしない。なお、押しボルト30には回り止めが施されており、ねじ込みが戻らないようにしている。
【0024】
図6に示す例においては、ガイド溝28にブッシュ33を挿設しており、このブッシュ33にガイドロッド26が通し入れられている。このようにブッシュ33を介してガイドロッド26を通し入れる構成とすれば、ガイドロッド26の焼き付きを防止することができる。なお、図示していないが、ブッシュ33には回り止めが施されている。
【0025】
図7、図8に示した例は、スライドフレーム21の中央部に設けたスライドロッド22の両側にガイドロッド26を設け、スライドフレーム21の両側の外側面から貫通するようにねじ込まれる押しボルト30を設け、該押しボルト30の先端部がそれぞれのガイドロッド26の側面に接当するようになっている。このように両側から押しボルト30を押し当てる構成とすると、スライドフレーム21の中央に向けてバランスよく、押し当てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明によるスライダーの正面図。
【図2】図1のA−A線に沿った平断面図。
【図3】図2のB−B線に沿った正断面図。
【図4】ガイドブロックの側面図。
【図5】ガイドロッドとガイド溝を角断面形状とした例を示す正断面図。
【図6】ガイド溝にブッシュを挿設した例を示す正断面図。
【図7】2本のガイドロッドを設けた例を示す平断面図。
【図8】図7のC−C線に沿った正断面図。
【図9】溶接機の全体を示す斜視図。
【図10】従来のスライダーの正断面図。
【図11】図10のD−D線に沿った平面図。
【符号の説明】
【0027】
1 本体 2 スライダー
3 トーチホルダー 4 溶接トーチ
5 トーチケーブル 6 倣いローラ
11 スライドフレーム 12 スライドロッド
13 摘み 14 ガイドブロック
15 ナット 16 ガイドロッド
17 止めボルト 18 ブッシュ
21 スライドフレーム 22 スライドロッド
23 摘み 24 ガイドブロック
25 ナット 26 ガイドロッド
27 止めボルト 28 ガイド溝
29 開放部 30 押しボルト
31 ガイドロッド 32 ガイド溝
33 ブッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドフレームに回転自在に装着したスライドロッドを、溶接機本体に固定されたガイドブロックに保持されるナットに螺合させたスライダーにおいて、ガイドブロックの側面に開放部を有するガイド溝を設け、該ガイド溝にガイドロッドを挿通すると共に、スライドフレームの外側面から内面に貫通させ、ガイドロッドの側面に接当する押しボルトを設け、ガイドロッドにガタが生じた場合は、押しボルトをねじ込んでガイドロッドをガイド面に押し当ててガタを抑えるようにしたことを特徴とする溶接機におけるスライダー。
【請求項2】
スライドフレームの中央部にスライドロッドを装着し、スライドロッドの両側にガイドロッドを設け、スライドフレームの両外側面から内面に貫通し、ガイドロッドの側面に接当する押しボルトを設けたことを特徴とする請求項1記載の溶接機におけるスライダー。
【請求項3】
ガイドロッドとガイド面を角断面形状としたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の溶接機におけるスライダー。
【請求項4】
ガイド溝に、ガイドブロックと同等の開放部を有するブッシュを挿設し、該ブッシュにガイドロッドを挿通するようにしたことを特徴とする請求項1または請求項2または請求項3記載の溶接機におけるスライダー。
【請求項5】
溶接機本体にガイドブロックを固定し、該ガイドブロックに保持されるナットに、スライドフレームに回転自在に装着したスライドロッドを螺合させ、ガイドブロックの側面に開放部を有するガイド溝を設け、該ガイド溝にガイドロッドを挿通させると共に、スライドフレームの外側面から内面に貫通させ、ガイドロッドの側面に接当する押しボルトを設けたスライダーを備えたことを特徴とする溶接機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−83298(P2007−83298A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277970(P2005−277970)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(503218067)住友重機械マリンエンジニアリング株式会社 (55)