溶接機の走行装置
【課題】 溶接機ビームに偏芯して吊り下げられた溶接台車を確実且つ安定に支持して正確な溶接を行うことができ、加工工程数及び加工費を低減することができる溶接機の走行装置を提供する。
【解決手段】 水平に設けられた溶接機ビーム2と、溶接機ビーム2に偏芯して走行可能に支持された溶接台車10と、溶接台車10に固定された溶接ノズル15とを有し、溶接機ビーム2はその上面に長さ方向に沿って平行に設けられた各1個の直動ベアリングレール3と直線歯車ラック4とを有し、溶接台車10は溶接機ビーム2上面の直動ベアリングレール3に係合する直動ベアリング13と、直線歯車ラック4の歯型に係合するピニオン32と、直線歯車ラック4に沿った上部平面上を転動する車輪14とを有し、溶接台車10の台車本体12が溶接機ビーム2における直動ベアリングレール3に近接する側面とは反対側の側面に沿って吊り下げ支持されている。
【解決手段】 水平に設けられた溶接機ビーム2と、溶接機ビーム2に偏芯して走行可能に支持された溶接台車10と、溶接台車10に固定された溶接ノズル15とを有し、溶接機ビーム2はその上面に長さ方向に沿って平行に設けられた各1個の直動ベアリングレール3と直線歯車ラック4とを有し、溶接台車10は溶接機ビーム2上面の直動ベアリングレール3に係合する直動ベアリング13と、直線歯車ラック4の歯型に係合するピニオン32と、直線歯車ラック4に沿った上部平面上を転動する車輪14とを有し、溶接台車10の台車本体12が溶接機ビーム2における直動ベアリングレール3に近接する側面とは反対側の側面に沿って吊り下げ支持されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接機ビームに偏芯して支持された溶接台車を確実に保持することができ、しかも加工工程数及び加工コストを削減することができる溶接機の走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接機をビームに沿って走行させて自動溶接を行う自動溶接装置において、ビーム上に2本の走行レールを設置し、溶接機の下面に配置した4個の車輪を前記レール上に載せてモータ等の駆動源によって車輪を駆動し、これによって溶接機をレール上に走行させる方式の自動溶接機が知られている。
【0003】
しかしながら、このような自動溶接機には、僅かなバランスの崩れによって脱線し易いという問題点があった。即ち、例えば直径が4.8mm又は6.4mmのように太い溶接ワイヤを使用した自動溶接中に溶接ワイヤを誤って母材に向かって突き出したような場合に溶接機はその反動で持ち上げられ脱線することがあった。
【0004】
また、レールとレール上に載置された車輪とを組み合わせた従来の溶接機の走行装置では、正確な直線走行性が得られず、細かな蛇行が生じ、これによって溶接の正確性が阻害されるという問題点があった。即ち4個の車輪を全て正確にレールに接地させることは困難であり、常にいずれかの車輪がレールと離れてしまうために、溶接機が揺れ、溶接ノズルの先端が変位して溶接線から外れ、溶接に悪影響がでるか又はレール上に埃がたまり車輪がスリップして速度が変化し、これによって溶接結果に悪影響がでるという問題点があった。
【0005】
更に、車輪はレールとの摩擦により摩耗し、直径が小さくなるために、速度が徐々に遅くなり、定期的に速度補正が必要となって、ある限度で車輪を交換しなければならないという問題点があった。
【0006】
一方、溶接機ビーム上に2本の直動ベアリングレールと1本の歯車ラックを設け、4個の直動ベアリングとピニオンの駆動によりビーム上を走行する溶接機の走行装置が知られている。
【0007】
図8は、このような走行機構を採用した従来の自動溶接機の走行装置を示す説明図、図9は図8のA−A線矢視方向断面図である。
【0008】
図8において、溶接台車100は枠体を組み上げた平板状の台車本体101と、この台車本体101の上部に固定された所定の平面部を有するデッキ本体107とで形成されている。台車本体101は溶接台車100の鉛直部分を形成しており、デッキ本体107は溶接台車100の水平部分を形成している。
【0009】
溶接台車100のデッキ本体107は溶接機ビーム112の上面上に水平移動可能に支持されており、台車本体101は、溶接機ビーム112の一方の側面に沿って吊り下げるように片持ち支持されている。
【0010】
台車本体101の下方にはノズル支持装置103によって複数、例えば3本の溶接ノズル102が取り付けられている。溶接ノズル102はその先端部を溶接母材109の上部に位置するように固定されており、夫々溶接ノズル102に隣接するようにフラックス散布ノズル104が設けられている。また、溶接ノズル102の溶接方向の後方には隣接するように所定の間隔をもってフラックス回収ノズル105が設けられている。
【0011】
台車本体101の上部のデッキ本体107は溶接機ビーム112の上方に位置するように支持されており、デッキ本体107の周囲に手摺108が設けられている。またデッキ本体107には溶接ノズル102に溶接ワイヤを送給するワイヤリール106が溶接ノズル102に対応して同数設けられている。
【0012】
図9において、枠体を平板状に組み上げた台車本体101は断面四角形の溶接機ビーム112に片持ち状態に吊り下げ支持されており、その上部にデッキ本体107が設けられている。台車本体101とデッキ本体107からなる溶接台車100は溶接機ビーム112の一側面に設けられた上下2つの直動ベアリング113と、その間に設けられた1つの直線歯車ラック114とによって水平移動可能に支持されている。台車本体101の下側の直動ベアリング113の直上部にはケーブル処理部122が設けられている。
【0013】
溶接台車100の上部水平部を構成するデッキ本体107には、溶接ノズル102に溶接ワイヤを送給するワイヤリール106が溶接ノズルに対応する数だけ設けられており、デッキ本体107の周囲に手摺108が設けられている。
【0014】
溶接台車100の鉛直部分を形成する台車本体101にはその下方に台車本体101から溶接機ビーム112とは反対側に突出するアングル材115が設けられており、このアングル材115の下端にノズル支持装置103を介して溶接ノズル102が固定されている。
【0015】
アングル材115にはアーム部材116を介してワイヤ送給装置117が設けられており、デッキ本体107上に設けられたワイヤリール106からワイヤ送給装置117を経てワイヤ111が溶接ノズル102に送給される。溶接台車100は溶接機ビーム112の側面に沿って走行し、ワイヤリール107から供給される溶接ワイヤ111を受けた溶接ノズル102によって溶接母材109の溶接線を溶接する。
【0016】
台車本体101にはその移動速度を付与するための減速機付モータ120が付設されている。
【0017】
図10は、図9の溶接機ビームの一部切欠側面図である。図10において、溶接機ビーム112の側面にはその上下に長さ方向に沿って2つの直動ベアリングレール113が平行に配置されており、上部の直動ベアリングレール113の下側にこれと隣接するように平行に直線歯車ラック114が設けられている。溶接機ビーム112の連結部であるB−B面の両側裏面には、夫々作業孔118が設けられている。
【0018】
図11は、図10のB−B線矢視方向断面図である。図10におけるB−B面は溶接機ビームの連結部であり、図11において、溶接機ビーム112の内周面に沿って接合面121が設けられており、この接合面121を介して2本の溶接機ビーム112が例えばボルトナットによって連結される。
【0019】
図12は、図10のC−C線矢視方向断面図である。図12において溶接機ビーム112の側面にはその上下2箇所に直動ベアリングレール113が設けられており、上側の直動ベアリングレール113の下方に隣接するように直線歯車ラック114が設けられている。直動ベアリングレール113及び直線歯車ラック114は溶接機ビーム112の側面の該当する位置に溶接された水平部材の表面を切削加工した加工面に設けられている。従って、溶接機ビーム112の構成部材として薄い鋼板が使用されている。
【0020】
しかしながら、このような従来の溶接機の走行装置は直動ベアリングレールを2本使用するものであるために、製作経費が嵩むという問題点があった。また直動ベアリングレール2本と直線歯車ラック1本の合計3本分のレール部材を形成するための切削加工を溶接機ビームに施す必要があり、製作工程が煩雑になる上、コストがかかり過ぎるという問題点があった。
【0021】
溶接機の走行装置に関する従来技術として、例えば特開平11−47983号公報、特公昭51−20309号公報、特公昭48−34107号公報等が挙げられる。特開平11−47983号公報(特許文献1)には、カバー軌条体7に走行レール7a及びラック7bを取り付け、この走行レール7a、ラック7bに沿って溶接台車6を走行させる狭隘部溶接装置が開示されている(特許文献1、段落0023、0024、図4)。また、特公昭51−20309号公報(特許文献2)には、溶接機台用レール28上に載せられた溶接機4が開示されている(特許文献2、公報明細書第2頁第3欄26乃至29行、図2)。更に、特公昭48−34107号公報(特許文献3)には、ガーダー3にレール7を設置し、このレール7上を載荷走行できるようにした溶接機6が開示されている(特許文献3、公報明細書第2頁左上欄1乃至3行、第2図)。
【0022】
【特許文献1】特開平11−47983号公報
【特許文献2】特公昭51−20309号公報
【特許文献3】特公昭48−34107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかしながら、上記特許文献1は、溶接機ビームに片持ち支持されるように偏芯して吊り下げられた溶接台車の走行装置に関するものではなく、特許文献2及び3は夫々レールとその上を走行する車輪とを組み合わせたのものであり、上述したように、直線走行性が得られず、細かな蛇行が生じて正確な溶接ができないという問題点があった。
【0024】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされてものであって、溶接機ビームに対して片持ち状態に偏芯して吊り下げられた溶接台車を確実且つ安定に支持して正確な溶接を行うことができると共に、加工工程数及び加工コストを低減することができる溶接機の走行装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本願発明に係る溶接機の走行装置は、水平に設けられた溶接機ビームと、この溶接機ビームに偏芯して走行可能に支持された溶接台車と、この溶接台車に固定された溶接ノズルと、を有し、前記溶接機ビームはその上面に長さ方向に沿って平行に設けられた各1個の直動ベアリングレールと直線歯車ラックとを有し、前記溶接台車は前記溶接機ビーム上面の直動ベアリングレールに係合する直動ベアリングと、前記直線歯車ラックの歯形に係合するピニオンと、前記直線歯車ラックに沿った上部平面上を転動する車輪とを有し、前記溶接台車の一部が前記溶接機ビームにおける前記直動ベアリングレールに近接する側面とは反対側の側面に沿って吊り下げ支持されていることを特徴とする。
【0026】
本願発明に係る溶接機の走行装置において、前記直線歯車ラックに沿った上部平面上を転動する車輪は、前記溶接機ビームの長さ方向に沿って設けられたフレームの両端に夫々設けられており、前記フレームの中央部が前記溶接台車に1点支持されていることが好ましい。
【0027】
本願発明に係る溶接機の走行装置において、前記溶接機ビームの前記直動ベアリングレールに近接する側面にその長手方向に沿って突出部を設け、前記溶接台車に一端が固定され他端が前記突出部に係合可能である転倒防止ブラケットを設けることが好ましい。
【0028】
本願発明に係る溶接機の走行装置において、前記転倒防止ブラケッットは、前記直動ベアリングの数に対応して設けられていることが好ましい。
【0029】
本願発明に係る溶接機の走行装置において、前記溶接台車に設けられた直動ベアリングが前記溶接機ビームに設けられた直動ベアリングレールの長さ方向に貫通する隙間を有し、この隙間を通して前記直動ベアリングレールの上部を覆う防塵カバーを設けることが好ましい。
【0030】
本願発明に係る溶接機の走行装置において、前記溶接機ビーム上面に設けられた直動ベアリングレールと直線歯車ラックとの間にケーブル処理装置を配置することもできる。
【0031】
本願発明に係る溶接機の走行装置において、前記溶接機ビームは、その上面に、前記直動ベアリングレール及び直線歯車ラックを取り付けるための面加工が施されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0032】
本願発明に係る溶接機の走行装置によれば、溶接機ビームの上面に設けた1個の直動ベアリングと1個の直線歯車ラック・ピニオンとで前記溶接機ビームと溶接台車とを係合させると共に、前記溶接機ビームにおける直動ベアリングレールに近接する側面とは反対側の側面に沿って溶接台車の一部を吊り下げ支持するようにしたので、直動ベアリングレール数を従来技術よりも少なくしても溶接台車を安定に支持することができ、正確な溶接が可能となる。また、直動ベアリング数を少なくしたことにより製作工程数が減少するので、材料コストだけでなく、加工費用を著しく節約することができる。
【0033】
本願の請求項2に係る溶接機の走行装置によれば、直線歯車ラックに沿った上部平面上を転動する車輪を溶接機ビームの長さ方向に沿ったフレームの両端に夫々設け、前記フレームの中間点を溶接台車に1点支持させたので、前記フレームの両端の車輪が共に直線歯車ラックの上部平面から離脱することなく当接して転動するので、正確な直線走行性が得られる。
【0034】
本願の請求項3に係る溶接機の走行装置によれば、前記溶接機ビームの前記直動ベアリングレールに近接する側面にその長手方向に沿って突出部を設け、前記溶接台車に一端が固定され他端が前記突出部に係合可能である転倒防止ブラケットを設けたので、万一ベアリングが破損して溶接台車が傾いた場合であっても溶接台車のバランスを保持し、転倒を防止することができる。
【0035】
本願の請求項4に係る溶接機の走行装置によれば、前記転倒防止ブラケッットを、前記溶接台車の直動ベアリングに対応して設けたので、直動ベアリングレールと直動ベアリングとの係合状態が良好に維持され、溶接台車の転倒をより確実に防止することができる。
【0036】
本願の請求項5に係る溶接機の走行装置によれば、前記溶接台車に設けられた直動ベアリングが前記溶接機ビームに設けられた直動ベアリングレールの長さ方向に貫通する隙間を有し、この隙間を通して前記直動ベアリングレールの上部を覆う防塵カバーを設けたので、直動ベアリングレールとこれに嵌合する直動ベアリングとの噛み合い部分への埃、塵等の進入を防止し、係合状態を良好に維持することができる。
【0037】
本願の請求項6に係る溶接機の走行装置によれば、前記溶接機ビーム上面に設けられた直動ベアリングレールと直線歯車ラックとの間にケーブル処理装置を配置したので、例えば溶接機ビームの側面に設けたケーブル処理装置が不要となる。
【0038】
本願の請求項7に係る溶接機の走行装置によれば、前記溶接機ビームを、その上面に、前記直動ベアリングレール及び直線歯車ラックを取り付けるための面加工が施されたものとしたので、溶接機ビームへの加工部材の溶接が不要となり、製作工程を簡素化することができ、これによって製作コストを低減することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照して説明する。図1及び図2は本発明の実施形態に係る溶接機の走行装置の説明図であって、図1は要部を示す側面図、図2は正面図である。
【0040】
図1において、パネルパスライン1の上方に角パイプ状の溶接機ビーム2が水平に張り渡されている。溶接機ビーム2の上面には直動ベアリングレール3及び直線歯車ラック4が所定の間隔を隔てて各1本づつ設けられている。溶接機ビーム2に支持され、溶接機ビーム2に沿って走行する溶接台車10は、デッキ本体11と台車本体12とで構成されている。
【0041】
デッキ本体11は、溶接機ビーム2の上面に載置され、その裏面であって、溶接機ビーム2の上面と対向する面に、溶接機ビーム2の上面に設けられた直動ベアリングレール3と係合する直動ベアリング13と、直線歯車ラック4の歯車に係合するピニオン31(図2参照)が設けられている。デッキ本体11の上部には後述する溶接ノズル15に溶接ワイヤ16を送給するワイヤリール17及び上方が方形で下方が先細状に形成されたフラックス循環器18が設けられている。フラックス循環器18にはフラックス回収チューブ19を介して後述するフラックス回収ノズルが連結されている。デッキ本体11の周囲には手摺20が設けられており、またオペレータが昇降するための梯子21が手摺20とほぼ同様の高さからパネルパスライン1の近傍に至るまで配設されている。
【0042】
平板状のデッキ本体11の裏面にはデッキ本体11と直交するように、枠体を組み上げた平板状の台車本体12が設けられており、台車本体12は溶接機ビーム2の直動ベアリングレール3に近接する側面とは反対側の側面に沿って吊り下げるように片持ち支持されている。
【0043】
台車本体12の下方には水平部材及び垂直部材を組み合わせたフレーム部材22に固定されたノズル支持装置25を介して溶接ノズル15が固定されている。フレーム部材22にはアーム部材24を介して溶接ノズル15の上部にワイヤ送給装置6が固定されている。溶接ノズル15にはデッキ本体11上のワイヤリール17からワイヤ送給装置6を経て溶接ワイヤ16が供給される。
【0044】
図2において、水平に配置された溶接機ビーム2の上面に直線歯車ラック4が設けられており、この直線歯車ラック4の側面に縦方向の歯形が多数形成されている。溶接機ビーム2の上部には、溶接台車10の構成部材であるデッキ本体11が搭載されており、このデッキ本体11の裏面に直線歯車ラック4の歯形に噛み合う歯形を有するピニオン31が設けられている。
【0045】
ピニオン31の上部には隣接するようにピニオン31を駆動するためのモータ32が設けられており、このモータ32を起動することにより、ピニオン31が垂直の回転軸を中心に回転する。このとき、ピニオン31の歯形は直線歯車ラック4の歯形と噛み合って回転し、これによってデッキ本体11、台車本体12からなる溶接台車10が溶接機ビーム2に沿って水平方向に走行する。
【0046】
デッキ本体11上には箱型で底部に向かって縮径する2つの縮径部を有するフラックス循環器18が配置されており、このフラックス循環器18とは梯子21を挟んで隣接するように制御盤40が配置されている。梯子21は、デッキ本体11の手摺20と同様の高さからパネルパスライン1の近傍に至る部分に配置されており、この梯子21はオペレータがデッキ本体11に昇降する際に利用される。
【0047】
デッキ本体11にはその裏面に、溶接機ビーム2の側面に沿って吊り下げられるように片持ち支持された台車本体12が固定されている。台車本体12の上端部ほぼ中央部にはピン33を介して台車本体12の幅寸法とほぼ同様の長さのフレーム34が1点支持されており、このフレーム34の両端には1対の車輪14が配置されている。1対の車輪14は溶接機ビーム2の上面に配置された直線歯車ラック4の上部平面上を転動する。フレーム34が台車本体12の上端部の中央に1点支持されていることによって、フレーム34の両端に配置された車輪14は、例えばやじろべえ状態となり、夫々浮き上がることなく、直線歯車ラック4の上部平面に当接して転動する。
【0048】
台車本体12の下部のフレーム材22には、ノズル支持装置25を介して複数の溶接ノズル15が支持、固定されている。各溶接ノズル15には夫々フラックス散布ノズル35が対をなすように並設されており、このフラックス散布ノズル35にはデッキ本体11上に設けられたフラックス循環器18の先細状の底部に連結されたフラックス供給チューブ36を経てフラックスが供給される。
【0049】
溶接ノズル15を支持するノズル支持装置25の溶接方向とは逆の端部にはフラックス回収ノズル37が配置されており、溶接時に使用されずに残った余剰のフラックスがフラックス回収ノズル37及びフラックス回収チューブ19を経て吸引され、デッキ本体11上に設けられたフラックス循環器18に回収される。
【0050】
図3は、図2の要部を示す右側面図である。図3において、溶接機ビーム2の上部に溶接台車10の一部を形成するデッキ本体11が走行可能に搭載されている。溶接機ビーム2の上面の図中右端には直動ベアリングレール3が設けられており、図中左端には直線歯車ラック4が設けられている。
【0051】
デッキ本体11の裏面には溶接機ビーム2の上面の直動ベアリングレール3に係合する直動ベアリング13が設けられている。また、デッキ本体11の裏面には直線歯車ラック4の歯形に噛み合うピニオン31が設けられており、ピニオン31の上部にはこのピニオン31を回転駆動するためのモータ32が設けられている。溶接機ビーム2の上面の直動ベアリングレール3と直線歯車ラック4との間にはケーブル処理部47が設けられており、その内部にケーブルが配線されている。なお、従来技術においては、ケーブル処理部47は溶接機ビーム2の側面側に設けられていた。
【0052】
デッキ本体11の上部は手摺20によって囲まれており、溶接ノズル15に溶接ワイヤ16を送給するワイヤリール17が設けられている。また、デッキ本体11の上部には、箱形で下方に縮径部を有するフラックス循環器18が配置されている。フラックス循環器18の下方にはサポート45を介して照明具44が設けられている。
【0053】
デッキ本体11の裏面には、溶接機ビーム2の側面に沿って下方に垂れ下がるように台車本体12が設けられており、この台車本体12と対向するように、溶接機ビーム2を挟んで転倒防止ブラケット41が設けられている。転倒防止ブラケット41の上方端はデッキ本体11に固定されており、下方端は溶接機ビーム2の側面に、溶接機ビームの長手方向に沿って設けられた突出部43に係合可能である。これによって、転倒防止ブラケット41は溶接機ビーム2に片持ち支持された溶接台車10が図1中右方向に傾いた場合、突出片43に係合してその転倒を防止する。
【0054】
図4は、図2の要部を示す背面図である。図4において、溶接機ビーム2の上面に直動ベアリングレール3が設けられており、この直動ベアリングレール3に係合する前後2つの直動ベアリング13を介してこのレール上に溶接台車10のデッキ本体11が搭載されている。
【0055】
デッキ本体11の底面フレームにはこのデッキ本体11を含む溶接台車10の転倒を防止する転倒防止ブラケット41の一端が固定されており、転倒防止ブラケット41の他方端は溶接機ビーム2の直動ベアリングレール3に近接する側面に設けられ溶接機ビーム2の長さ方向に沿って突出するように固定された突出部43に係合可能に設けられている。転倒防止ブラッケト41は溶接台車10の移動に伴ってその先端部を溶接機ビーム2の突出部43に隣接させながら移動する。転倒防止ブラケット41は直動ベアリング13の数に対応して2個設けられている。
【0056】
デッキ本体11の上部は手摺20によって囲まれており、溶接ノズル15に対応する数のワイヤリール17が設けられている。溶接機ビーム2の上面とデッキ本体11との間の隙間にはケーブル処理装置47が配置されている。
【0057】
次に、図5乃至図7を用いて本実施形態に適用される直動ベアリング及び直線歯車ラックについて説明する。
【0058】
図5は溶接機ビーム2と溶接台車10のデッキ本体11との間に配置される直動ベアリングを示す図である。図5において、角パイプ状の溶接機ビーム2の上面に直接、直動ベアリングレールを設けるための面加工処理が施されている。即ち、角パイプ状の溶接機ビーム2の上面に所定の深さの切削部56が設けられており、この切削部56内に直動ベアリングレール3が溶接又はボルトナットによって固定されている。
【0059】
直動ベアリングレール3はこの直動ベアリングレール3に嵌合するように下向きに開口する直動ベアリング13とベアリング58を介して係合している。直動ベアリング13は平板状のブラケット51に固定されており、このブラケット51は、左右両端に配置されたスペーサ52を介してその上部のかさ上げ台53にボルトによって固定されている。かさ上げ台53はその上部のフランジ54を介して溶接台車10のデッキ本体11に固定されている。
【0060】
ブラケット51とかさ上げ台53との間の隙間は直動ベアリングレール3の長さ方向に沿って直動ベアリング13、ブラケット51、かさ上げ台53等から形成される直動ベアリング組み立て体を貫通するように形成されている。
【0061】
本実施形態においては、この隙間を通り、溶接機ビーム2の上面に設けられた直動ベアリングレール3の上部全周を覆う防塵カバー55を設けている。これによって、直動ベアリングレール3の上部が防塵カバー55で覆われ、直動ベアリングレール3上に埃、塵等が堆積するのが防止される。従って、直動ベアリングレール3とこれに嵌合する直動ベアリング13との間に埃、塵等の噛み込みをなくし、良好な係合状態を維持することができる。防塵カバーは、例えば鋼製ベルトで構成されている。
【0062】
図6は溶接機ビーム2の上面に設けられた直線歯車ラック4及びこの直線歯車ラック4の上部平面上を転動する車輪14を示す拡大図である。図6において、溶接機ビーム2の上面に切削加工によって切削部57が形成されている。切削部57内には直線歯車ラック4が溶接機ビーム2の長さ方向に沿って固定されている。
【0063】
直線歯車ラック4の側面には上述したピニオン31が噛み合う歯形61が形成されている。直線歯車ラック4の上部平面上には車輪14が載置されており、この車輪14は車輪本体62と、この車輪本体62を回転可能に支持する車軸(図示せず)とから主として構成されている。車輪本体62はその両側に配置された車輪固定プレート64によってサポートされており、支持軸63はその両端のエンドプレート66を介してブラケット65に回転可能に取り付けられている。ブラケット65はその上部のフランジ66によって溶接台車10のデッキ本体11の下面に固定されている。
【0064】
図7は、本実施形態における溶接機ビームの拡大断面図である。図7において、角パイプ状の溶接機ビーム2の上面に直接、直動ベアリングレール用の切削部56と、直線歯車ラック用の切削部57が切削加工されている。これによって、レール形成用の板部材を溶接機ビーム2に溶接する必要がなくなり、製作工程を簡略化することができる。本実施形態においては、溶接機ビーム2として直動ベアリングレール用の切削部56と、直線歯車ラック用の切削部57を直接切削加工して形成できる程度の厚さを有する角パイプが使用される。
【0065】
次に、このように構成された本実施形態に係る溶接機の走行装置の動作を説明する。
【0066】
先ず、パネルパスライン1に沿って配置された被溶接材の溶接線上に溶接機ビーム2を移動させる。この溶接機ビーム2の移動は図示省略したビーム移動装置によって行う。
【0067】
溶接機ビーム2を溶接線上に移動した後、溶接線の裏面に裏当材を配置する。裏当材を配置した後、溶接機ビーム2を下降させ、溶接機ビーム2に支持された溶接台車10毎、溶接ノズル15の先端部を被溶接材の溶接線上に配置する。
【0068】
この状態で、制御装置40に設けられた自動溶接開始スイッチをONにすると、溶接台車10の台車本体12の下方に固定されたフラックス散布ノズル35に、フラックス循環器18からフラックス供給チューブ36を経て上フラックスが供給され、溶接線の開先上に上フラックスが散布される。また、このときフラックス散布ノズル35に隣接するように設けられた溶接ノズル15にワイヤリール17からワイヤ送給装置6を経て溶接ワイヤ16が送給されると共に、溶接ノズル15が取り付けられた溶接トーチに所定の電圧が供給され、溶接ノズル15を用いた片面サブマージアーク溶接を開始する。なお、余剰のフラックスはフラックス回収ノズル37によって回収される。
【0069】
このとき、溶接台車10のデッキ本体11の裏面に設けられたモータ32が起動し、ピニオン31を回転駆動させる。ピニオン32は直線歯車ラック4の歯形と噛み合って回転するので、この回転に伴ってデッキ本体11、台車本体12からなる溶接台車10が溶接機ビーム2の長さ方向に沿って移動する。
【0070】
このとき溶接機ビーム2の上面に設けられた直動ベアリングレール3にベアリング58を介して係合する直動ベアリング13は、デッキ本体11の移動に伴って直動ベアリングレール3との係合状態を維持したまま摺動する(図5参照)。
【0071】
一方、溶接機ビーム2の上面に設けられた直線歯車ラック4の上部平面上に載置された車輪14は、台車本体12の上部に1点支持されたフレーム34の両端に配置されているので、その両方が直線歯車ラック4の上部平面に当接して転動する(図2、図6参照)。従って溶接台車10は安定して溶接機ビーム2の長さ方向に沿って走行する。このように溶接機ビーム2に沿って安定走行する溶接台車に固定された溶接ノズル15によって被溶接材の溶接線に沿って片面サブマージアーク溶接が施される。
【0072】
本実施形態によれば、溶接機ビーム2の上面に設けた1つの直動ベアリングと1つの直線歯車ラック・ピニオンとで溶接機ビームと溶接台車10とを係合させ、溶接機ビーム2における直動ベアリングレールに近接する側面とは反対側の側面に沿って溶接台車10の鉛直部分を吊り下げ支持するようにしたので、溶接台車10を安定に支持することができ、正確な走行及び溶接が可能となる。溶接台車10は一方に偏芯した構造をしているが、溶接台車10の台車本体12が、溶接機ビーム2の直動ベアリングレール3に近接する側面とは反対側の側面に沿って片持ち支持されるようにしたので、溶接台車10の転倒は、直動ベアリングレール3とこれに係合する直動ベアリング13で規制される。即ち、溶接台車の偏芯による上向きの作用力は直動ベアリングで保持し、下向きの作用力は車輪14で受ける。
【0073】
また、本実施形態によれば、レールの数を少なくしたことにより、製作工程数が減少するので、材料コストだけでなく、加工費を著しく節約することができる。
【0074】
本実施形態によれば、直線歯車ラック4とこれに噛み合うピニオン31とを組み合わせ、ピニオン31を駆動モータ32で回転して溶接台車10を水平移動するようにしたので、スリップが生じることがなく、溶接台車の移動速度、即ち溶接速度を正確に保持することができ、安定した溶接を行うことができる。また、直動ベアリングレールを採用したことにより、溶接台車10の直線走行性を確保することができる。
【0075】
また、本実施形態によれば、直線歯車ラック4に沿った上部平面上を転動する車輪14を溶接機ビーム2の長さ方向に沿ったフレーム34の両端に夫々1個設け、このフレーム34の中央点を溶接台車に1点支持させたので、前記フレーム34の両端の車輪14が共に直線歯車ラックの上部平面に当接して転動するので、正確な走行が可能となる。
【0076】
本実施形態によれば、転倒防止ブラケット41を設けたことにより、もしベアリングが破壊した場合であっても、溶接台車、即ち溶接機の転倒を未然に防止することができる。
【0077】
また、本実施形態によれば、直動ベアリングレール3の全長に渡って防塵カバー55を設けたので、直動ベアリングレールへの埃、塵等の堆積を防止して、ベアリングの寿命を延ばすことができる。
【0078】
本実施形態によれば、溶接機ビーム2の上面に直動ベアリングレール3と直線歯車ラック4以外のレールを配置しないので、これらの間にケーブル処理装置を配置することができ、例えば溶接機ビームの側面に設けていたケーブル処理装置を省略することができる。
【0079】
また、本実施形態によれば、溶接機ビーム2に直接レール用の切削部を穿つ加工を施すことにより、加工部材を溶接するという煩雑な作業が不要となる。従って、製造工程数が減少すると共に製作コストを低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
溶接機ビームに偏芯して吊り下げられた溶接台車を確実に保持することができ、しかも加工工程数及び加工コストを削減することができる本発明の溶接機の走行装置は、溶接ロボットを用いた自動溶接の分野で特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施形態に係る溶接機の走行装置を示す側面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る溶接機の走行装置を示す正面図である。
【図3】図2の要部を示す側面図である。
【図4】図2の要部を示す背面図である。
【図5】図1の直動ベアリング部分を示す拡大図である。
【図6】図1の直線歯車ラック部分を示す拡大図である。
【図7】図1の溶接機ビームを示す断面図である。
【図8】従来技術を示す正面図である。
【図9】図8のA−A線矢視方向断面図である。
【図10】従来技術の溶接機ビームを示す側面図である。
【図11】図10のB−B線断面図である。
【図12】図10のC−C線断面図である。
【符号の説明】
【0082】
1:パネルパスライン
2:溶接機ビーム
3:直動ベアリングレール
4:直線歯車ラック
6:ワイヤ送給装置
10:溶接台車
11:デッキ本体
12:台車本体
13:直動ベアリング
14:車輪
15:溶接ノズル
16:溶接ワイヤ
17:ワイヤリール
18:フラックス循環器
19:フラックス回収チューブ
20:手摺
21:梯子
22:フレーム部材
24:アーム部材
25:ノズル支持装置
27:補助部材
31:ピニオン
32:モータ
33:ピン
34:フレーム
35:フラックス散布ノズル
36:フラックス供給チューブ
37:フラックス回収ノズル
40:制御盤
41:転倒防止ブラッケト
43:突出部
44:照明具
45:サポート
47:ケーブル処理部
51:ブラケット
52:スペーサ
53:かさ上げ台
54:フランジ
55:防塵カバー
56:切削部
57:切削部
58:ベアリング
61:歯形
62:車輪本体
63:支持軸
64:車輪固定プレート
65:ブラケット
66:フランジ
100:溶接台車
101:台車本体
102:溶接ノズル
103:ノズル支持装置
104:フラックス散布ノズル
105:フラックス回収ノズル
106:ワイヤリール
107:デッキ本体
108:手摺
109:溶接母材
110:スタンド材
111:溶接ワイヤ
112:溶接機ビーム
113:直動ベアリングレール
114:直線歯車ラック
115:アングル材
116:アーム部材
117:ワイヤ送給装置
118:作業孔
119:水平部材
120:減速機付モータ
121:接合面
122:ケーブル処理部
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接機ビームに偏芯して支持された溶接台車を確実に保持することができ、しかも加工工程数及び加工コストを削減することができる溶接機の走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接機をビームに沿って走行させて自動溶接を行う自動溶接装置において、ビーム上に2本の走行レールを設置し、溶接機の下面に配置した4個の車輪を前記レール上に載せてモータ等の駆動源によって車輪を駆動し、これによって溶接機をレール上に走行させる方式の自動溶接機が知られている。
【0003】
しかしながら、このような自動溶接機には、僅かなバランスの崩れによって脱線し易いという問題点があった。即ち、例えば直径が4.8mm又は6.4mmのように太い溶接ワイヤを使用した自動溶接中に溶接ワイヤを誤って母材に向かって突き出したような場合に溶接機はその反動で持ち上げられ脱線することがあった。
【0004】
また、レールとレール上に載置された車輪とを組み合わせた従来の溶接機の走行装置では、正確な直線走行性が得られず、細かな蛇行が生じ、これによって溶接の正確性が阻害されるという問題点があった。即ち4個の車輪を全て正確にレールに接地させることは困難であり、常にいずれかの車輪がレールと離れてしまうために、溶接機が揺れ、溶接ノズルの先端が変位して溶接線から外れ、溶接に悪影響がでるか又はレール上に埃がたまり車輪がスリップして速度が変化し、これによって溶接結果に悪影響がでるという問題点があった。
【0005】
更に、車輪はレールとの摩擦により摩耗し、直径が小さくなるために、速度が徐々に遅くなり、定期的に速度補正が必要となって、ある限度で車輪を交換しなければならないという問題点があった。
【0006】
一方、溶接機ビーム上に2本の直動ベアリングレールと1本の歯車ラックを設け、4個の直動ベアリングとピニオンの駆動によりビーム上を走行する溶接機の走行装置が知られている。
【0007】
図8は、このような走行機構を採用した従来の自動溶接機の走行装置を示す説明図、図9は図8のA−A線矢視方向断面図である。
【0008】
図8において、溶接台車100は枠体を組み上げた平板状の台車本体101と、この台車本体101の上部に固定された所定の平面部を有するデッキ本体107とで形成されている。台車本体101は溶接台車100の鉛直部分を形成しており、デッキ本体107は溶接台車100の水平部分を形成している。
【0009】
溶接台車100のデッキ本体107は溶接機ビーム112の上面上に水平移動可能に支持されており、台車本体101は、溶接機ビーム112の一方の側面に沿って吊り下げるように片持ち支持されている。
【0010】
台車本体101の下方にはノズル支持装置103によって複数、例えば3本の溶接ノズル102が取り付けられている。溶接ノズル102はその先端部を溶接母材109の上部に位置するように固定されており、夫々溶接ノズル102に隣接するようにフラックス散布ノズル104が設けられている。また、溶接ノズル102の溶接方向の後方には隣接するように所定の間隔をもってフラックス回収ノズル105が設けられている。
【0011】
台車本体101の上部のデッキ本体107は溶接機ビーム112の上方に位置するように支持されており、デッキ本体107の周囲に手摺108が設けられている。またデッキ本体107には溶接ノズル102に溶接ワイヤを送給するワイヤリール106が溶接ノズル102に対応して同数設けられている。
【0012】
図9において、枠体を平板状に組み上げた台車本体101は断面四角形の溶接機ビーム112に片持ち状態に吊り下げ支持されており、その上部にデッキ本体107が設けられている。台車本体101とデッキ本体107からなる溶接台車100は溶接機ビーム112の一側面に設けられた上下2つの直動ベアリング113と、その間に設けられた1つの直線歯車ラック114とによって水平移動可能に支持されている。台車本体101の下側の直動ベアリング113の直上部にはケーブル処理部122が設けられている。
【0013】
溶接台車100の上部水平部を構成するデッキ本体107には、溶接ノズル102に溶接ワイヤを送給するワイヤリール106が溶接ノズルに対応する数だけ設けられており、デッキ本体107の周囲に手摺108が設けられている。
【0014】
溶接台車100の鉛直部分を形成する台車本体101にはその下方に台車本体101から溶接機ビーム112とは反対側に突出するアングル材115が設けられており、このアングル材115の下端にノズル支持装置103を介して溶接ノズル102が固定されている。
【0015】
アングル材115にはアーム部材116を介してワイヤ送給装置117が設けられており、デッキ本体107上に設けられたワイヤリール106からワイヤ送給装置117を経てワイヤ111が溶接ノズル102に送給される。溶接台車100は溶接機ビーム112の側面に沿って走行し、ワイヤリール107から供給される溶接ワイヤ111を受けた溶接ノズル102によって溶接母材109の溶接線を溶接する。
【0016】
台車本体101にはその移動速度を付与するための減速機付モータ120が付設されている。
【0017】
図10は、図9の溶接機ビームの一部切欠側面図である。図10において、溶接機ビーム112の側面にはその上下に長さ方向に沿って2つの直動ベアリングレール113が平行に配置されており、上部の直動ベアリングレール113の下側にこれと隣接するように平行に直線歯車ラック114が設けられている。溶接機ビーム112の連結部であるB−B面の両側裏面には、夫々作業孔118が設けられている。
【0018】
図11は、図10のB−B線矢視方向断面図である。図10におけるB−B面は溶接機ビームの連結部であり、図11において、溶接機ビーム112の内周面に沿って接合面121が設けられており、この接合面121を介して2本の溶接機ビーム112が例えばボルトナットによって連結される。
【0019】
図12は、図10のC−C線矢視方向断面図である。図12において溶接機ビーム112の側面にはその上下2箇所に直動ベアリングレール113が設けられており、上側の直動ベアリングレール113の下方に隣接するように直線歯車ラック114が設けられている。直動ベアリングレール113及び直線歯車ラック114は溶接機ビーム112の側面の該当する位置に溶接された水平部材の表面を切削加工した加工面に設けられている。従って、溶接機ビーム112の構成部材として薄い鋼板が使用されている。
【0020】
しかしながら、このような従来の溶接機の走行装置は直動ベアリングレールを2本使用するものであるために、製作経費が嵩むという問題点があった。また直動ベアリングレール2本と直線歯車ラック1本の合計3本分のレール部材を形成するための切削加工を溶接機ビームに施す必要があり、製作工程が煩雑になる上、コストがかかり過ぎるという問題点があった。
【0021】
溶接機の走行装置に関する従来技術として、例えば特開平11−47983号公報、特公昭51−20309号公報、特公昭48−34107号公報等が挙げられる。特開平11−47983号公報(特許文献1)には、カバー軌条体7に走行レール7a及びラック7bを取り付け、この走行レール7a、ラック7bに沿って溶接台車6を走行させる狭隘部溶接装置が開示されている(特許文献1、段落0023、0024、図4)。また、特公昭51−20309号公報(特許文献2)には、溶接機台用レール28上に載せられた溶接機4が開示されている(特許文献2、公報明細書第2頁第3欄26乃至29行、図2)。更に、特公昭48−34107号公報(特許文献3)には、ガーダー3にレール7を設置し、このレール7上を載荷走行できるようにした溶接機6が開示されている(特許文献3、公報明細書第2頁左上欄1乃至3行、第2図)。
【0022】
【特許文献1】特開平11−47983号公報
【特許文献2】特公昭51−20309号公報
【特許文献3】特公昭48−34107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかしながら、上記特許文献1は、溶接機ビームに片持ち支持されるように偏芯して吊り下げられた溶接台車の走行装置に関するものではなく、特許文献2及び3は夫々レールとその上を走行する車輪とを組み合わせたのものであり、上述したように、直線走行性が得られず、細かな蛇行が生じて正確な溶接ができないという問題点があった。
【0024】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされてものであって、溶接機ビームに対して片持ち状態に偏芯して吊り下げられた溶接台車を確実且つ安定に支持して正確な溶接を行うことができると共に、加工工程数及び加工コストを低減することができる溶接機の走行装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本願発明に係る溶接機の走行装置は、水平に設けられた溶接機ビームと、この溶接機ビームに偏芯して走行可能に支持された溶接台車と、この溶接台車に固定された溶接ノズルと、を有し、前記溶接機ビームはその上面に長さ方向に沿って平行に設けられた各1個の直動ベアリングレールと直線歯車ラックとを有し、前記溶接台車は前記溶接機ビーム上面の直動ベアリングレールに係合する直動ベアリングと、前記直線歯車ラックの歯形に係合するピニオンと、前記直線歯車ラックに沿った上部平面上を転動する車輪とを有し、前記溶接台車の一部が前記溶接機ビームにおける前記直動ベアリングレールに近接する側面とは反対側の側面に沿って吊り下げ支持されていることを特徴とする。
【0026】
本願発明に係る溶接機の走行装置において、前記直線歯車ラックに沿った上部平面上を転動する車輪は、前記溶接機ビームの長さ方向に沿って設けられたフレームの両端に夫々設けられており、前記フレームの中央部が前記溶接台車に1点支持されていることが好ましい。
【0027】
本願発明に係る溶接機の走行装置において、前記溶接機ビームの前記直動ベアリングレールに近接する側面にその長手方向に沿って突出部を設け、前記溶接台車に一端が固定され他端が前記突出部に係合可能である転倒防止ブラケットを設けることが好ましい。
【0028】
本願発明に係る溶接機の走行装置において、前記転倒防止ブラケッットは、前記直動ベアリングの数に対応して設けられていることが好ましい。
【0029】
本願発明に係る溶接機の走行装置において、前記溶接台車に設けられた直動ベアリングが前記溶接機ビームに設けられた直動ベアリングレールの長さ方向に貫通する隙間を有し、この隙間を通して前記直動ベアリングレールの上部を覆う防塵カバーを設けることが好ましい。
【0030】
本願発明に係る溶接機の走行装置において、前記溶接機ビーム上面に設けられた直動ベアリングレールと直線歯車ラックとの間にケーブル処理装置を配置することもできる。
【0031】
本願発明に係る溶接機の走行装置において、前記溶接機ビームは、その上面に、前記直動ベアリングレール及び直線歯車ラックを取り付けるための面加工が施されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0032】
本願発明に係る溶接機の走行装置によれば、溶接機ビームの上面に設けた1個の直動ベアリングと1個の直線歯車ラック・ピニオンとで前記溶接機ビームと溶接台車とを係合させると共に、前記溶接機ビームにおける直動ベアリングレールに近接する側面とは反対側の側面に沿って溶接台車の一部を吊り下げ支持するようにしたので、直動ベアリングレール数を従来技術よりも少なくしても溶接台車を安定に支持することができ、正確な溶接が可能となる。また、直動ベアリング数を少なくしたことにより製作工程数が減少するので、材料コストだけでなく、加工費用を著しく節約することができる。
【0033】
本願の請求項2に係る溶接機の走行装置によれば、直線歯車ラックに沿った上部平面上を転動する車輪を溶接機ビームの長さ方向に沿ったフレームの両端に夫々設け、前記フレームの中間点を溶接台車に1点支持させたので、前記フレームの両端の車輪が共に直線歯車ラックの上部平面から離脱することなく当接して転動するので、正確な直線走行性が得られる。
【0034】
本願の請求項3に係る溶接機の走行装置によれば、前記溶接機ビームの前記直動ベアリングレールに近接する側面にその長手方向に沿って突出部を設け、前記溶接台車に一端が固定され他端が前記突出部に係合可能である転倒防止ブラケットを設けたので、万一ベアリングが破損して溶接台車が傾いた場合であっても溶接台車のバランスを保持し、転倒を防止することができる。
【0035】
本願の請求項4に係る溶接機の走行装置によれば、前記転倒防止ブラケッットを、前記溶接台車の直動ベアリングに対応して設けたので、直動ベアリングレールと直動ベアリングとの係合状態が良好に維持され、溶接台車の転倒をより確実に防止することができる。
【0036】
本願の請求項5に係る溶接機の走行装置によれば、前記溶接台車に設けられた直動ベアリングが前記溶接機ビームに設けられた直動ベアリングレールの長さ方向に貫通する隙間を有し、この隙間を通して前記直動ベアリングレールの上部を覆う防塵カバーを設けたので、直動ベアリングレールとこれに嵌合する直動ベアリングとの噛み合い部分への埃、塵等の進入を防止し、係合状態を良好に維持することができる。
【0037】
本願の請求項6に係る溶接機の走行装置によれば、前記溶接機ビーム上面に設けられた直動ベアリングレールと直線歯車ラックとの間にケーブル処理装置を配置したので、例えば溶接機ビームの側面に設けたケーブル処理装置が不要となる。
【0038】
本願の請求項7に係る溶接機の走行装置によれば、前記溶接機ビームを、その上面に、前記直動ベアリングレール及び直線歯車ラックを取り付けるための面加工が施されたものとしたので、溶接機ビームへの加工部材の溶接が不要となり、製作工程を簡素化することができ、これによって製作コストを低減することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照して説明する。図1及び図2は本発明の実施形態に係る溶接機の走行装置の説明図であって、図1は要部を示す側面図、図2は正面図である。
【0040】
図1において、パネルパスライン1の上方に角パイプ状の溶接機ビーム2が水平に張り渡されている。溶接機ビーム2の上面には直動ベアリングレール3及び直線歯車ラック4が所定の間隔を隔てて各1本づつ設けられている。溶接機ビーム2に支持され、溶接機ビーム2に沿って走行する溶接台車10は、デッキ本体11と台車本体12とで構成されている。
【0041】
デッキ本体11は、溶接機ビーム2の上面に載置され、その裏面であって、溶接機ビーム2の上面と対向する面に、溶接機ビーム2の上面に設けられた直動ベアリングレール3と係合する直動ベアリング13と、直線歯車ラック4の歯車に係合するピニオン31(図2参照)が設けられている。デッキ本体11の上部には後述する溶接ノズル15に溶接ワイヤ16を送給するワイヤリール17及び上方が方形で下方が先細状に形成されたフラックス循環器18が設けられている。フラックス循環器18にはフラックス回収チューブ19を介して後述するフラックス回収ノズルが連結されている。デッキ本体11の周囲には手摺20が設けられており、またオペレータが昇降するための梯子21が手摺20とほぼ同様の高さからパネルパスライン1の近傍に至るまで配設されている。
【0042】
平板状のデッキ本体11の裏面にはデッキ本体11と直交するように、枠体を組み上げた平板状の台車本体12が設けられており、台車本体12は溶接機ビーム2の直動ベアリングレール3に近接する側面とは反対側の側面に沿って吊り下げるように片持ち支持されている。
【0043】
台車本体12の下方には水平部材及び垂直部材を組み合わせたフレーム部材22に固定されたノズル支持装置25を介して溶接ノズル15が固定されている。フレーム部材22にはアーム部材24を介して溶接ノズル15の上部にワイヤ送給装置6が固定されている。溶接ノズル15にはデッキ本体11上のワイヤリール17からワイヤ送給装置6を経て溶接ワイヤ16が供給される。
【0044】
図2において、水平に配置された溶接機ビーム2の上面に直線歯車ラック4が設けられており、この直線歯車ラック4の側面に縦方向の歯形が多数形成されている。溶接機ビーム2の上部には、溶接台車10の構成部材であるデッキ本体11が搭載されており、このデッキ本体11の裏面に直線歯車ラック4の歯形に噛み合う歯形を有するピニオン31が設けられている。
【0045】
ピニオン31の上部には隣接するようにピニオン31を駆動するためのモータ32が設けられており、このモータ32を起動することにより、ピニオン31が垂直の回転軸を中心に回転する。このとき、ピニオン31の歯形は直線歯車ラック4の歯形と噛み合って回転し、これによってデッキ本体11、台車本体12からなる溶接台車10が溶接機ビーム2に沿って水平方向に走行する。
【0046】
デッキ本体11上には箱型で底部に向かって縮径する2つの縮径部を有するフラックス循環器18が配置されており、このフラックス循環器18とは梯子21を挟んで隣接するように制御盤40が配置されている。梯子21は、デッキ本体11の手摺20と同様の高さからパネルパスライン1の近傍に至る部分に配置されており、この梯子21はオペレータがデッキ本体11に昇降する際に利用される。
【0047】
デッキ本体11にはその裏面に、溶接機ビーム2の側面に沿って吊り下げられるように片持ち支持された台車本体12が固定されている。台車本体12の上端部ほぼ中央部にはピン33を介して台車本体12の幅寸法とほぼ同様の長さのフレーム34が1点支持されており、このフレーム34の両端には1対の車輪14が配置されている。1対の車輪14は溶接機ビーム2の上面に配置された直線歯車ラック4の上部平面上を転動する。フレーム34が台車本体12の上端部の中央に1点支持されていることによって、フレーム34の両端に配置された車輪14は、例えばやじろべえ状態となり、夫々浮き上がることなく、直線歯車ラック4の上部平面に当接して転動する。
【0048】
台車本体12の下部のフレーム材22には、ノズル支持装置25を介して複数の溶接ノズル15が支持、固定されている。各溶接ノズル15には夫々フラックス散布ノズル35が対をなすように並設されており、このフラックス散布ノズル35にはデッキ本体11上に設けられたフラックス循環器18の先細状の底部に連結されたフラックス供給チューブ36を経てフラックスが供給される。
【0049】
溶接ノズル15を支持するノズル支持装置25の溶接方向とは逆の端部にはフラックス回収ノズル37が配置されており、溶接時に使用されずに残った余剰のフラックスがフラックス回収ノズル37及びフラックス回収チューブ19を経て吸引され、デッキ本体11上に設けられたフラックス循環器18に回収される。
【0050】
図3は、図2の要部を示す右側面図である。図3において、溶接機ビーム2の上部に溶接台車10の一部を形成するデッキ本体11が走行可能に搭載されている。溶接機ビーム2の上面の図中右端には直動ベアリングレール3が設けられており、図中左端には直線歯車ラック4が設けられている。
【0051】
デッキ本体11の裏面には溶接機ビーム2の上面の直動ベアリングレール3に係合する直動ベアリング13が設けられている。また、デッキ本体11の裏面には直線歯車ラック4の歯形に噛み合うピニオン31が設けられており、ピニオン31の上部にはこのピニオン31を回転駆動するためのモータ32が設けられている。溶接機ビーム2の上面の直動ベアリングレール3と直線歯車ラック4との間にはケーブル処理部47が設けられており、その内部にケーブルが配線されている。なお、従来技術においては、ケーブル処理部47は溶接機ビーム2の側面側に設けられていた。
【0052】
デッキ本体11の上部は手摺20によって囲まれており、溶接ノズル15に溶接ワイヤ16を送給するワイヤリール17が設けられている。また、デッキ本体11の上部には、箱形で下方に縮径部を有するフラックス循環器18が配置されている。フラックス循環器18の下方にはサポート45を介して照明具44が設けられている。
【0053】
デッキ本体11の裏面には、溶接機ビーム2の側面に沿って下方に垂れ下がるように台車本体12が設けられており、この台車本体12と対向するように、溶接機ビーム2を挟んで転倒防止ブラケット41が設けられている。転倒防止ブラケット41の上方端はデッキ本体11に固定されており、下方端は溶接機ビーム2の側面に、溶接機ビームの長手方向に沿って設けられた突出部43に係合可能である。これによって、転倒防止ブラケット41は溶接機ビーム2に片持ち支持された溶接台車10が図1中右方向に傾いた場合、突出片43に係合してその転倒を防止する。
【0054】
図4は、図2の要部を示す背面図である。図4において、溶接機ビーム2の上面に直動ベアリングレール3が設けられており、この直動ベアリングレール3に係合する前後2つの直動ベアリング13を介してこのレール上に溶接台車10のデッキ本体11が搭載されている。
【0055】
デッキ本体11の底面フレームにはこのデッキ本体11を含む溶接台車10の転倒を防止する転倒防止ブラケット41の一端が固定されており、転倒防止ブラケット41の他方端は溶接機ビーム2の直動ベアリングレール3に近接する側面に設けられ溶接機ビーム2の長さ方向に沿って突出するように固定された突出部43に係合可能に設けられている。転倒防止ブラッケト41は溶接台車10の移動に伴ってその先端部を溶接機ビーム2の突出部43に隣接させながら移動する。転倒防止ブラケット41は直動ベアリング13の数に対応して2個設けられている。
【0056】
デッキ本体11の上部は手摺20によって囲まれており、溶接ノズル15に対応する数のワイヤリール17が設けられている。溶接機ビーム2の上面とデッキ本体11との間の隙間にはケーブル処理装置47が配置されている。
【0057】
次に、図5乃至図7を用いて本実施形態に適用される直動ベアリング及び直線歯車ラックについて説明する。
【0058】
図5は溶接機ビーム2と溶接台車10のデッキ本体11との間に配置される直動ベアリングを示す図である。図5において、角パイプ状の溶接機ビーム2の上面に直接、直動ベアリングレールを設けるための面加工処理が施されている。即ち、角パイプ状の溶接機ビーム2の上面に所定の深さの切削部56が設けられており、この切削部56内に直動ベアリングレール3が溶接又はボルトナットによって固定されている。
【0059】
直動ベアリングレール3はこの直動ベアリングレール3に嵌合するように下向きに開口する直動ベアリング13とベアリング58を介して係合している。直動ベアリング13は平板状のブラケット51に固定されており、このブラケット51は、左右両端に配置されたスペーサ52を介してその上部のかさ上げ台53にボルトによって固定されている。かさ上げ台53はその上部のフランジ54を介して溶接台車10のデッキ本体11に固定されている。
【0060】
ブラケット51とかさ上げ台53との間の隙間は直動ベアリングレール3の長さ方向に沿って直動ベアリング13、ブラケット51、かさ上げ台53等から形成される直動ベアリング組み立て体を貫通するように形成されている。
【0061】
本実施形態においては、この隙間を通り、溶接機ビーム2の上面に設けられた直動ベアリングレール3の上部全周を覆う防塵カバー55を設けている。これによって、直動ベアリングレール3の上部が防塵カバー55で覆われ、直動ベアリングレール3上に埃、塵等が堆積するのが防止される。従って、直動ベアリングレール3とこれに嵌合する直動ベアリング13との間に埃、塵等の噛み込みをなくし、良好な係合状態を維持することができる。防塵カバーは、例えば鋼製ベルトで構成されている。
【0062】
図6は溶接機ビーム2の上面に設けられた直線歯車ラック4及びこの直線歯車ラック4の上部平面上を転動する車輪14を示す拡大図である。図6において、溶接機ビーム2の上面に切削加工によって切削部57が形成されている。切削部57内には直線歯車ラック4が溶接機ビーム2の長さ方向に沿って固定されている。
【0063】
直線歯車ラック4の側面には上述したピニオン31が噛み合う歯形61が形成されている。直線歯車ラック4の上部平面上には車輪14が載置されており、この車輪14は車輪本体62と、この車輪本体62を回転可能に支持する車軸(図示せず)とから主として構成されている。車輪本体62はその両側に配置された車輪固定プレート64によってサポートされており、支持軸63はその両端のエンドプレート66を介してブラケット65に回転可能に取り付けられている。ブラケット65はその上部のフランジ66によって溶接台車10のデッキ本体11の下面に固定されている。
【0064】
図7は、本実施形態における溶接機ビームの拡大断面図である。図7において、角パイプ状の溶接機ビーム2の上面に直接、直動ベアリングレール用の切削部56と、直線歯車ラック用の切削部57が切削加工されている。これによって、レール形成用の板部材を溶接機ビーム2に溶接する必要がなくなり、製作工程を簡略化することができる。本実施形態においては、溶接機ビーム2として直動ベアリングレール用の切削部56と、直線歯車ラック用の切削部57を直接切削加工して形成できる程度の厚さを有する角パイプが使用される。
【0065】
次に、このように構成された本実施形態に係る溶接機の走行装置の動作を説明する。
【0066】
先ず、パネルパスライン1に沿って配置された被溶接材の溶接線上に溶接機ビーム2を移動させる。この溶接機ビーム2の移動は図示省略したビーム移動装置によって行う。
【0067】
溶接機ビーム2を溶接線上に移動した後、溶接線の裏面に裏当材を配置する。裏当材を配置した後、溶接機ビーム2を下降させ、溶接機ビーム2に支持された溶接台車10毎、溶接ノズル15の先端部を被溶接材の溶接線上に配置する。
【0068】
この状態で、制御装置40に設けられた自動溶接開始スイッチをONにすると、溶接台車10の台車本体12の下方に固定されたフラックス散布ノズル35に、フラックス循環器18からフラックス供給チューブ36を経て上フラックスが供給され、溶接線の開先上に上フラックスが散布される。また、このときフラックス散布ノズル35に隣接するように設けられた溶接ノズル15にワイヤリール17からワイヤ送給装置6を経て溶接ワイヤ16が送給されると共に、溶接ノズル15が取り付けられた溶接トーチに所定の電圧が供給され、溶接ノズル15を用いた片面サブマージアーク溶接を開始する。なお、余剰のフラックスはフラックス回収ノズル37によって回収される。
【0069】
このとき、溶接台車10のデッキ本体11の裏面に設けられたモータ32が起動し、ピニオン31を回転駆動させる。ピニオン32は直線歯車ラック4の歯形と噛み合って回転するので、この回転に伴ってデッキ本体11、台車本体12からなる溶接台車10が溶接機ビーム2の長さ方向に沿って移動する。
【0070】
このとき溶接機ビーム2の上面に設けられた直動ベアリングレール3にベアリング58を介して係合する直動ベアリング13は、デッキ本体11の移動に伴って直動ベアリングレール3との係合状態を維持したまま摺動する(図5参照)。
【0071】
一方、溶接機ビーム2の上面に設けられた直線歯車ラック4の上部平面上に載置された車輪14は、台車本体12の上部に1点支持されたフレーム34の両端に配置されているので、その両方が直線歯車ラック4の上部平面に当接して転動する(図2、図6参照)。従って溶接台車10は安定して溶接機ビーム2の長さ方向に沿って走行する。このように溶接機ビーム2に沿って安定走行する溶接台車に固定された溶接ノズル15によって被溶接材の溶接線に沿って片面サブマージアーク溶接が施される。
【0072】
本実施形態によれば、溶接機ビーム2の上面に設けた1つの直動ベアリングと1つの直線歯車ラック・ピニオンとで溶接機ビームと溶接台車10とを係合させ、溶接機ビーム2における直動ベアリングレールに近接する側面とは反対側の側面に沿って溶接台車10の鉛直部分を吊り下げ支持するようにしたので、溶接台車10を安定に支持することができ、正確な走行及び溶接が可能となる。溶接台車10は一方に偏芯した構造をしているが、溶接台車10の台車本体12が、溶接機ビーム2の直動ベアリングレール3に近接する側面とは反対側の側面に沿って片持ち支持されるようにしたので、溶接台車10の転倒は、直動ベアリングレール3とこれに係合する直動ベアリング13で規制される。即ち、溶接台車の偏芯による上向きの作用力は直動ベアリングで保持し、下向きの作用力は車輪14で受ける。
【0073】
また、本実施形態によれば、レールの数を少なくしたことにより、製作工程数が減少するので、材料コストだけでなく、加工費を著しく節約することができる。
【0074】
本実施形態によれば、直線歯車ラック4とこれに噛み合うピニオン31とを組み合わせ、ピニオン31を駆動モータ32で回転して溶接台車10を水平移動するようにしたので、スリップが生じることがなく、溶接台車の移動速度、即ち溶接速度を正確に保持することができ、安定した溶接を行うことができる。また、直動ベアリングレールを採用したことにより、溶接台車10の直線走行性を確保することができる。
【0075】
また、本実施形態によれば、直線歯車ラック4に沿った上部平面上を転動する車輪14を溶接機ビーム2の長さ方向に沿ったフレーム34の両端に夫々1個設け、このフレーム34の中央点を溶接台車に1点支持させたので、前記フレーム34の両端の車輪14が共に直線歯車ラックの上部平面に当接して転動するので、正確な走行が可能となる。
【0076】
本実施形態によれば、転倒防止ブラケット41を設けたことにより、もしベアリングが破壊した場合であっても、溶接台車、即ち溶接機の転倒を未然に防止することができる。
【0077】
また、本実施形態によれば、直動ベアリングレール3の全長に渡って防塵カバー55を設けたので、直動ベアリングレールへの埃、塵等の堆積を防止して、ベアリングの寿命を延ばすことができる。
【0078】
本実施形態によれば、溶接機ビーム2の上面に直動ベアリングレール3と直線歯車ラック4以外のレールを配置しないので、これらの間にケーブル処理装置を配置することができ、例えば溶接機ビームの側面に設けていたケーブル処理装置を省略することができる。
【0079】
また、本実施形態によれば、溶接機ビーム2に直接レール用の切削部を穿つ加工を施すことにより、加工部材を溶接するという煩雑な作業が不要となる。従って、製造工程数が減少すると共に製作コストを低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
溶接機ビームに偏芯して吊り下げられた溶接台車を確実に保持することができ、しかも加工工程数及び加工コストを削減することができる本発明の溶接機の走行装置は、溶接ロボットを用いた自動溶接の分野で特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施形態に係る溶接機の走行装置を示す側面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る溶接機の走行装置を示す正面図である。
【図3】図2の要部を示す側面図である。
【図4】図2の要部を示す背面図である。
【図5】図1の直動ベアリング部分を示す拡大図である。
【図6】図1の直線歯車ラック部分を示す拡大図である。
【図7】図1の溶接機ビームを示す断面図である。
【図8】従来技術を示す正面図である。
【図9】図8のA−A線矢視方向断面図である。
【図10】従来技術の溶接機ビームを示す側面図である。
【図11】図10のB−B線断面図である。
【図12】図10のC−C線断面図である。
【符号の説明】
【0082】
1:パネルパスライン
2:溶接機ビーム
3:直動ベアリングレール
4:直線歯車ラック
6:ワイヤ送給装置
10:溶接台車
11:デッキ本体
12:台車本体
13:直動ベアリング
14:車輪
15:溶接ノズル
16:溶接ワイヤ
17:ワイヤリール
18:フラックス循環器
19:フラックス回収チューブ
20:手摺
21:梯子
22:フレーム部材
24:アーム部材
25:ノズル支持装置
27:補助部材
31:ピニオン
32:モータ
33:ピン
34:フレーム
35:フラックス散布ノズル
36:フラックス供給チューブ
37:フラックス回収ノズル
40:制御盤
41:転倒防止ブラッケト
43:突出部
44:照明具
45:サポート
47:ケーブル処理部
51:ブラケット
52:スペーサ
53:かさ上げ台
54:フランジ
55:防塵カバー
56:切削部
57:切削部
58:ベアリング
61:歯形
62:車輪本体
63:支持軸
64:車輪固定プレート
65:ブラケット
66:フランジ
100:溶接台車
101:台車本体
102:溶接ノズル
103:ノズル支持装置
104:フラックス散布ノズル
105:フラックス回収ノズル
106:ワイヤリール
107:デッキ本体
108:手摺
109:溶接母材
110:スタンド材
111:溶接ワイヤ
112:溶接機ビーム
113:直動ベアリングレール
114:直線歯車ラック
115:アングル材
116:アーム部材
117:ワイヤ送給装置
118:作業孔
119:水平部材
120:減速機付モータ
121:接合面
122:ケーブル処理部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平に設けられた溶接機ビームと、この溶接機ビームに偏芯して走行可能に支持された溶接台車と、この溶接台車に固定された溶接ノズルと、を有し、前記溶接機ビームはその上面に長さ方向に沿って平行に設けられた各1個の直動ベアリングレールと直線歯車ラックとを有し、前記溶接台車は前記溶接機ビーム上面の直動ベアリングレールに係合する直動ベアリングと、前記直線歯車ラックの歯形に係合するピニオンと、前記直線歯車ラックに沿った上部平面上を転動する車輪とを有し、前記溶接台車の一部が前記溶接機ビームにおける前記直動ベアリングレールに近接する側面とは反対側の側面に沿って吊り下げ支持されていることを特徴とする溶接機の走行装置。
【請求項2】
前記直線歯車ラックに沿った上部平面上を転動する車輪は、前記溶接機ビームの長さ方向に沿って設けられたフレームの両端に夫々設けられており、前記フレームの中央部が前記溶接台車に1点支持されていることを特徴とする請求項1に記載の溶接機の走行装置。
【請求項3】
前記溶接機ビームの前記直動ベアリングレールに近接する側面にその長手方向に沿って突出部を設け、前記溶接台車に一端が固定され他端が前記突出部に係合可能である転倒防止ブラケットを設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接機の走行装置。
【請求項4】
前記転倒防止ブラケッットは、前記直動ベアリングの数に対応して設けられていることを特徴とする請求項3に記載の溶接機の走行装置。
【請求項5】
前記溶接台車に設けられた直動ベアリングが前記溶接機ビームに設けられた直動ベアリングレールの長さ方向に貫通する隙間を有し、この隙間を通して前記直動ベアリングレールの上部を覆う防塵カバーが設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の溶接機の走行装置。
【請求項6】
前記溶接機ビーム上面に設けられた直動ベアリングレールと直線歯車ラックとの間にケーブル処理装置が配置されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の溶接機の走行装置。
【請求項7】
前記溶接機ビームは、その上面に前記直動ベアリングレール及び直線歯車ラックを取り付けるための面加工が施されたものであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の溶接機の走行装置。
【請求項1】
水平に設けられた溶接機ビームと、この溶接機ビームに偏芯して走行可能に支持された溶接台車と、この溶接台車に固定された溶接ノズルと、を有し、前記溶接機ビームはその上面に長さ方向に沿って平行に設けられた各1個の直動ベアリングレールと直線歯車ラックとを有し、前記溶接台車は前記溶接機ビーム上面の直動ベアリングレールに係合する直動ベアリングと、前記直線歯車ラックの歯形に係合するピニオンと、前記直線歯車ラックに沿った上部平面上を転動する車輪とを有し、前記溶接台車の一部が前記溶接機ビームにおける前記直動ベアリングレールに近接する側面とは反対側の側面に沿って吊り下げ支持されていることを特徴とする溶接機の走行装置。
【請求項2】
前記直線歯車ラックに沿った上部平面上を転動する車輪は、前記溶接機ビームの長さ方向に沿って設けられたフレームの両端に夫々設けられており、前記フレームの中央部が前記溶接台車に1点支持されていることを特徴とする請求項1に記載の溶接機の走行装置。
【請求項3】
前記溶接機ビームの前記直動ベアリングレールに近接する側面にその長手方向に沿って突出部を設け、前記溶接台車に一端が固定され他端が前記突出部に係合可能である転倒防止ブラケットを設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接機の走行装置。
【請求項4】
前記転倒防止ブラケッットは、前記直動ベアリングの数に対応して設けられていることを特徴とする請求項3に記載の溶接機の走行装置。
【請求項5】
前記溶接台車に設けられた直動ベアリングが前記溶接機ビームに設けられた直動ベアリングレールの長さ方向に貫通する隙間を有し、この隙間を通して前記直動ベアリングレールの上部を覆う防塵カバーが設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の溶接機の走行装置。
【請求項6】
前記溶接機ビーム上面に設けられた直動ベアリングレールと直線歯車ラックとの間にケーブル処理装置が配置されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の溶接機の走行装置。
【請求項7】
前記溶接機ビームは、その上面に前記直動ベアリングレール及び直線歯車ラックを取り付けるための面加工が施されたものであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の溶接機の走行装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−68761(P2006−68761A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−253377(P2004−253377)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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