説明

溶接火花の養生装置

【課題】本発明は、溶接火花の養生装置に関し、溶接時のノロを確実に受け止めて損傷を防止し、作業現場の状況に合わせて耐火シートを展開させたり、上下移動させたりすることができて持ち運びにも容易な養生装置を提供することが課題である。
【解決手段】火花受け部2が傘状に開閉する養生装置であって、前記火花受け部2は、火花受け部用の支持部3を中心にして棒状のリブ4が放射状に設けられて全体が凹状構造部5となってり、この凹状構造部5に耐火シート6が設けられてなり、前記火花受け部を支持する棒状本体部はその長さが摺接自在な複層構造により伸縮自在であって、前記棒状本体部3の一端部側に吊持用のフック部8が設けられ、前記火花受け部2の傘状展開角度θが角度調節手段により可変にされてなる溶接火花の養生装置1とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、新築の建物や既存の建物における配管等の溶接作業を行う際に、溶接火花の周囲・下方への飛散による、通行人の被害発生や可燃物の火災等を防止するための溶接火花の養生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築土木の工事現場では、溶接作業時の溶接火花が周囲に飛散して通行人などへの災害を防止するために、養生シートが建物周囲に張架されることが多い。また、溶接火花の周囲・下方への飛散を防止するために、耐熱シートを変形S字状縦桟と横桟と枠板部とでなる架台に緊結して、持ち運び可能な溶接火花養生架台が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−33984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の溶接火花養生架台では、火花の飛散に対して捕捉する範囲が、例えば、前方向等の所定方向に限定されていて、四方八方に飛散する溶接火花に対しては不十分である。また、持ち運びには容易であるものの、養生架台を引っ掛けるにはワイヤ等を作業現場で張架させる必要があって、手間がかかる等の課題がある。本発明に係る溶接火花の養生装置は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る溶接火花の養生装置の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、火花受け部が傘状に開閉する養生装置であって、前記火花受け部は、火花受け部用の支持部を中心にして棒状のリブが放射状に設けられて全体が凹状構造部となってり、この凹状構造部に耐火シートが設けられてなり、前記火花受け部を支持する棒状本体部はその長さが摺接自在な複層構造により伸縮自在であって、前記棒状本体部の一端部側に吊持用のフック部が設けられ、前記火花受け部の傘状展開角度θが角度調節手段により可変にされていることである。
【0005】
前記吊持用のフック部は、U字形であり、そのU字部の半径Rを可変できるフレキシブル構造であること、;
前記リブは、伸縮自在な複層構造によりその長さが可変であり、耐火シートは、前記リブに取り外し可能な取着手段で取り付けられていて着脱可能であること、;
前記耐火シートは、少なくとも2枚のガラス繊維織布とこの織布間にしわ状に挟み織布に接着された良熱伝導性の金属フィルムとを包含するものであること、;
また、基台と、この基台に立設されたその長さを可変できる伸縮自在な支持部材と、該支持部材の先端部に設けられ火花受け部の傘状展開角度θに沿った形状にして放射状に棒状体を展開して形成された受け部とで構成されている装置用受け台があること、;
前記火花受け部は、リブが外側で耐火シートが内側にして構成されていること、;
を含むものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の溶接火花の養生装置によれば、火花受け部が傘状に拡開するので、周囲に飛散する溶接火花(ノロとも言う、以下同じ)を確実に捕捉することができる。更に、この火花受け部を閉じて収納するので、持ち運びや保管が容易となる。また、吊持用のフック部で溶接現場の、例えば、配管等に引っ掛けて容易にこの養生装置を使用状態に設定することができる。伸縮自在な棒状本体により、作業場のスペースや建築資材等の状態に合わせて火花受け部を上下に移動させることができる。
前記火花受け部の傘状展開角度θを可変できるので、溶接火花の飛散状況に応じて展開させ、この火花を確実に捕捉できる。
【0007】
前記吊持用のフック部が、フレキシブルな構造なので、引っ掛け対象の配管等の直径に合わせて、係止させることができる。これにより、作業現場で容易に養生装置をセットできるとともに、この養生装置の火花受け部が微風で不用意に振れたりすることもなく、火花の落下等を防いで、安全性が確保される。
前記リブの長さが伸縮自在で、且つ、耐火シートが着脱自在なので、傘状の火花受け部を大きくしたり小さくしたりして取り付けることができ、溶接作業スペースに合わせて傘形状に展開することができて作業能率が良くなる。
【0008】
前記耐火シートは、少なくとも2枚のガラス繊維織布とこの織布間にしわ状に挟み織布に接着された良熱伝導性の金属フィルムとを包含するので、耐火性及び可撓性が良く、ノロによる焼損が少なく恒久的に使用できる。
更に、この養生装置に装置用受け台があるので、前記フック部を引っ掛けるのに都合の良い場所を見つけることができないときでも、火花受け部を傘状にして溶接部分の下に当該養生装置を配置させることができる。
【0009】
前記リブが外側で耐火シートが内側にして構成されているので、ノロが耐火シートに直接に付着して飛散が効果的に防止され、外側のリブが保護されることになると共に、この耐火シートに簡易に衝撃を与えることで、容易にノロを纏めて下部に集めることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る溶接火花の養生装置1は、図1に示すように、火花受け部2が傘状に開閉する養生装置であって、前記火花受け部2は、火花受け部用の支持部3を中心にして棒状のリブ4が放射状に設けられて全体が凹状構造部5となってり、この凹状構造部5に耐火シート6が設けられてなる。
【0011】
前記火花受け部2を支持する棒状本体部3は、図2に示すように、金属製であって、その長さが摺接自在な複層構造にする伸長部材3aにより伸縮自在であって、前記伸長部材3aを伸縮させた後は、位置固定用ねじ7で固定するものである。
【0012】
前記棒状本体部3の一端部側に吊持用のフック部8が設けられている。この吊持用のフック部8は、図3に示すように、U字形であり、そのU字部の半径Rを、引っ掛け部の形状に沿って、可変できるフレキシブル構造である。前記フック部8,8aをフレキシブルにするために、その材料を軟質合成樹脂若しくは金属製螺旋巻パイプ等で形成するものである。
【0013】
このほか、半径Rの異なるU字状フック部を予め複数種類用意しておいて、棒状本体部3へ適宜ねじ止めにより取り付けて、自由に交換できるようにしても良い。このようにすれば、溶接火花の養生装置1が、図2に示すように、配管15等の引っ掛け部にフック部8が緩み無く繋着されて、少々の風が吹いても簡単には火花受け部2が揺れないものである。
【0014】
更に、前記フック部8をマグネットベースとして、作業現場における金属製の引っ掛け部材に着磁させてフック部8を固定するようにしても良い。
【0015】
前記火花受け部2は、図4に示すように、その傘状展開角度θが角度調節手段である、スライド筒9とレバー10と位置固定ねじ11とにより可変にされている。この火花受け部2の大きさは、一例として、直径1.2m程度である。
【0016】
また、火花受け部2の骨格を形成するリブ4も、図5に示すように、伸縮自在である。その構成は、リブ4aに対してその内側にリブ4bがスライドし、任意の長さに伸ばした位置で位置固定ねじ12により、固定するものである。このようにして、火花受け部2の傘の大きさを溶接現場に対応させて可変させ、飛散するノロ17を確実に受けるようにして、作業能率を向上させるものである。
【0017】
前記耐火シート6は、図6に示すように、前記リブ4に取り外し可能な取着手段、例えば、番線13等で取り付けられていて着脱可能である。この耐火シート6は、本件出願人の発明に係る特公昭55−16829号に記載の耐火シートであり、少なくとも2枚のガラス繊維織布とこの織布間にしわ状に挟み織布に接着された良熱伝導性の金属フィルム、例えば、銅やアルミニウムのフィルムとを包含するものである。
【0018】
すなわち、前記しわ状に収縮したアルミニウムフィルムと該フィルム面に接するオレフィン系接着材層と該接着材層上のガラス繊維織布の積層物を、約270℃付近の温度に加熱しながら加圧し、積層物を一体化してこの耐火シート6を形成するものである。
【0019】
そして、図7に示すように、円形状の耐火シート6aから、一部6bを切り取って、その切り取り部の端部を互いに繋いで、円錐形の耐火シート6とするものである。これを、火花受け部2における前記凹部状構造部5に載せて貼り付けるものである。
【0020】
また、繰り返しの使用によって火花の着床が蓄積されて、当該シート全体が硬くなった場合には、前記番線13を切ってこの耐火シート6の全体、若しくは一部を火花受け部2から取り外し、新しい耐火シート6の全体若しくは一部と交換するものである。
【0021】
また、この養生装置1には、図1乃至図2に示すようなフック部8を引っ掛ける配管15等の適当な係止部が作業現場に無い場合に備えて、図8に示すように、受け台14が設けられている。
【0022】
この受け台14は、例えば円盤状の基台14aと、この基台14aに立設されその長さを上下に摺動自在にして任意の位置で固定ねじ12で固定して可変できる伸縮自在な支持部材14bと、該支持部材の先端部に設けられ火花受け部2の傘状展開角度θに沿った形状にして放射状に棒状体14cを展開して任意の位置で調節ねじ16で固定するように形成された受け部14dとで構成されている。
【0023】
この受け台14を作業現場において、前記受け部14dに、養生装置1の火花受け部2を載せることで、耐火シート6を傘状に展開して設置することができるものである。
【0024】
なお、上記溶接火花の養生装置1における、支持部3,リブ4,棒状体14cの伸縮構造は、図示した例は一例であって、このほか、出願前公知の伸縮機構、例えば外周部を縮径させて内側部材を締めつける構造やテーパ状の先細の内径により伸長された内側部材の外周部を締め付ける構造等、の他の公知の伸縮手段を採用することができるものである。
【0025】
また、前記リブ4や棒状体14cの角度調節についても、図示した例に限定されることなく、バネなどで締めつける調節ねじ等の公知の方法を採用できるものである。
【0026】
更に、前記火花受け部2は、リブ4が外側で耐火シート6が内側にして構成されているものである。これにより、溶接作業時のノロ17が耐火シート6上に先に着床することになり、金属製のリブ4が保護されて熱損することもない。なお、耐火シート6を外側にする場合もあり、これを排除するものではない。
【0027】
本発明に係る溶接火花の養生装置1を使用すれば、溶接現場において、配管15などに前記養生装置1のフック部8を引っ掛け、火花受け部2を開いて傘状にする。その際に、前記フック部8は、配管15などの直径の大きさに合わせて、巻き付けるようにして引っ掛けられる。
【0028】
また、傘状展開角度θをスライド筒9の上下移動と位置固定用ねじ7で調整する。なお、リブ4の長さは予め伸長させて、作業スペースに合わせておく。また、前記リブ4を最大限に伸長させておいて耐火シート6を貼着し、作業スペースに合わせて、縮めて使用するようにしても良い。
【0029】
このように前記養生装置1のセッテングの準備が整ってから、溶接作業を始める。溶接時の火花が飛散しても、図1に示すように、傘状の火花受け部2によって確実に捕捉される。そして、捕捉された火花のカスは、当該火花受け部2をハンマーなどで軽く叩いて振動させることで、中央部に集まるので、容易に収集して廃棄することができる。このように、新設の建物における溶接火花の落下防止のみに限らず、作業スペースが限られる既設の建物においても、本発明に係る養生装置1を手軽に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る溶接火花の養生装置1の使用状態図である。
【図2】同本発明の溶接火花の養生装置1の上下方向に支持部3が伸縮できる様子を示す説明図である。
【図3】同吊持用のフック部8の可変状態を示す説明図である。
【図4】同養生装置1の角度調節手段(9,10,11)の構造を示す説明図である。
【図5】同養生装置1のリブ4の伸縮機構の一例を示す断面説明図である。
【図6】同凹状構造物5に耐火シート6を貼り付ける様子を示す一部拡大斜視図である。
【図7】円形状の耐火シート6aから耐火シート6を形成する方法を示す説明図である。
【図8】同溶接火花の養生装置1の受け台14の正面図(A)と、平面図(B)とである。
【符号の説明】
【0031】
1 溶接火花の養生装置、
2 火花受け部、
3 棒状本体部、 3a 伸長部材、
4 リブ、
4a,4b リブ、
5 凹状構造部、
6 耐火シート、
6a 円形状の耐火シート、 6b 一部耐火シート、
7 位置固定用ねじ、
8,8a フック部、
9 スライド筒、
10 レバー、
11 位置固定ねじ、
12 位置固定ねじ、
13 番線、
14 受け台、 14a 基台、
14b 支持部材、 14c 棒状材、
14d 受け部、
15 配管、
16 調節ねじ、
17 ノロ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火花受け部が傘状に開閉する養生装置であって、
前記火花受け部は、火花受け部用の支持部を中心にして棒状のリブが放射状に設けられて全体が凹状構造部となってり、この凹状構造部に耐火シートが設けられてなり、
前記火花受け部を支持する棒状本体部はその長さが摺接自在な複層構造により伸縮自在であって、
前記棒状本体部の一端部側に吊持用のフック部が設けられ、
前記火花受け部の傘状展開角度θが角度調節手段により可変にされていること、
を特徴とする溶接火花の養生装置。
【請求項2】
吊持用のフック部は、U字形であり、そのU字部の半径Rを可変できるフレキシブル構造であること、
を特徴とする請求項1に記載の溶接火花の養生装置。
【請求項3】
リブは、伸縮自在な複層構造によりその長さが可変であり、耐火シートは、前記リブに取り外し可能な取着手段で取り付けられていて着脱可能であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の溶接火花の養生装置。
【請求項4】
耐火シートは、少なくとも2枚のガラス繊維織布とこの織布間にしわ状に挟み織布に接着された良熱伝導性の金属フィルムとを包含するものであること、
を特徴とする請求項1乃至3のいづれかに記載の溶接火花の養生装置。
【請求項5】
基台と、この基台に立設されたその長さを可変できる伸縮自在な支持部材と、該支持部材の先端部に設けられ火花受け部の傘状展開角度θに沿った形状にして放射状に棒状体を展開して形成された受け部とで構成されている装置用受け台があること、
を特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の溶接火花の養生装置。
【請求項6】
火花受け部は、リブが外側で耐火シートが内側にして構成されていること、
を特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の溶接火花の養生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−229685(P2008−229685A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74414(P2007−74414)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)