溶接用ワイヤの収容装置
【課題】溶接用ワイヤの引き出しをスムーズに行い得る溶接用ワイヤの収容装置を提供する。
【解決手段】収容装置30は、円筒状に形成されて、溶接用ワイヤWをループ状に積層したワイヤ積層体Sを内部に収容したペイル容器32と、ワイヤ積層体Sの上部に載置された押圧板34とを備える。押圧板34は、溶接用ワイヤWを引き出す円形状の引出孔38が形成されると共に、引出孔38の開口縁の全周から下方に突出した突部40を備えている。また、引出孔38の直径およびワイヤ積層体Sの内径mの比は、0.2以上1.0未満の範囲に設定される。
【解決手段】収容装置30は、円筒状に形成されて、溶接用ワイヤWをループ状に積層したワイヤ積層体Sを内部に収容したペイル容器32と、ワイヤ積層体Sの上部に載置された押圧板34とを備える。押圧板34は、溶接用ワイヤWを引き出す円形状の引出孔38が形成されると共に、引出孔38の開口縁の全周から下方に突出した突部40を備えている。また、引出孔38の直径およびワイヤ積層体Sの内径mの比は、0.2以上1.0未満の範囲に設定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ペイル容器内に溶接用ワイヤをループ状に積層したワイヤ積層体を収容すると共に、該ワイヤ積層体上に押圧板が載置された溶接用ワイヤの収容装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ソリッドワイヤやフラックス入りワイヤ等の溶接用ワイヤを収容する容器として、ペイル容器が一般に使用されている。このペイル容器は、上方に開放する有底円筒体であって、内部に溶接用ワイヤがループ状に積層した状態で収容されている。溶接用ワイヤは、ペイル容器から引き出された際に捻れが生じないように、予め一定方向に捻りを加えられた状態で収容されている。そのため、溶接用ワイヤは、ペイル容器内で常に捻りを戻そうとする復元力が働き、この復元力によって、溶接用ワイヤは、ペイル容器の軸方向に跳ね上がろうとする。そこで、この跳ね上がりを防止するため、例えば、特許文献1に示すように、ペイル容器に収容した溶接用ワイヤ上に押圧板を載置し、該押圧板の自重により溶接用ワイヤの跳ね上がりを抑制するようになっている。
【0003】
図11は、特許文献1の押圧板10がペイル容器12にセットされた状態を示す平断面図であって、この押圧板10は、中央部に引出孔14が開設された環状体16の内径部に、内径方向に突出する複数の内向弾性片18が形成されている。また図12の縦断面図に示すように、ペイル容器12の内部には、上下方向に延在する柱状体20が配設され、該柱状体20は、押圧板10の引出孔14に貫通している。前記内向弾性片18の先端部は、前記柱状体20の外側面に当接している。そして、押圧板10の引出孔14を介して溶接用ワイヤWを引き出すと、溶接用ワイヤWが内向弾性片18の先端部を順次押し上げながら柱状体20の外側面に沿って引き出される。すなわち、溶接用ワイヤWが内向弾性片18に接触したときに、内向弾性片18が溶接用ワイヤWに対し下方への抵抗(テンション)を付与して、該ワイヤWの跳ね上がりが抑制されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭60−154350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前述した従来技術に係る構成では、溶接用ワイヤWを引き出す際に、該ワイヤWが複数の内向弾性片18を瞬間的に飛び越えてしまうことがあった。溶接用ワイヤWが内向弾性片18を飛び越えてしまうと、その間、該内向弾性片18からの抵抗が付与されず、溶接用ワイヤWの引き出しが不安定となる。その結果、ペイル容器12内で溶接用ワイヤWにカラミが生ずることがあった。また、溶接用ワイヤWを引き出す際に、該ワイヤWが内向弾性片18に引っ掛かって、溶接用ワイヤWの引き出しが円滑になされなくなる事態が生じることもある。また、溶接用ワイヤWは、収納時や運搬時の振動等によってほつれてしまい、下層ワイヤが上層ワイヤの上側に入り込んでしまうことがある。そして、従来技術では、溶接用ワイヤWが引出孔14へ向けて略水平に引き出された後に該引出孔14から上方へ引き出されるため、下層ワイヤが上層ワイヤの上側に入り込んだ状態で溶接用ワイヤWを引き出すと、カラミが特に誘発され易くなる傾向にある。
【0006】
すなわち、本発明は、従来技術に係る溶接用ワイヤの収容装置に内在する前記問題に鑑み、これらを解決するべく提案されたものであって、溶接用ワイヤのカラミや引っ掛かり等が生ずるのを抑制して、ペイル容器から溶接用ワイヤをスムーズに引き出し得る溶接用ワイヤの収容装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するため、本発明に係る溶接用ワイヤの収容装置は、
溶接用ワイヤをループ状に積層したワイヤ積層体を内部に収容した円筒状のペイル容器と、前記ワイヤ積層体の上部に載置され、該溶接用ワイヤを引き出す円形状の引出孔が形成された押圧板とを備えた溶接用ワイヤの収容装置において、
前記押圧板は、前記引出孔の開口縁の全周から下方に突出した突部を備えていることを要旨とする。
請求項1の発明によれば、引出孔の開口縁の全周から下方に突出する突部を設けたので、溶接用ワイヤをペイル容器から引き出す際に、突部で案内される溶接用ワイヤには下方へのテンションが付与されるので、溶接用ワイヤの跳ね上がりを防止して、該ワイヤにカラミや引っ掛かりが生ずるのを抑制することができる。また、溶接用ワイヤを引き出す際に、該溶接用ワイヤが突部により一旦下方へ押し下げられるので、ワイヤ積層体にほつれが生じた場合であっても、カラミの発生を抑制して、溶接用ワイヤをスムーズに引き出すことが可能となる。
【0008】
請求項2に係る溶接用ワイヤの収容装置では、引出孔の直径および前記ワイヤ積層体の内径の比は、0.167以上1.0未満の範囲に設定されることを要旨とする。
請求項2の発明によれば、引出孔の直径とワイヤ積層体の内径との比を0.167以上1.0未満とすることで、更にスムーズに溶接用ワイヤを引き出すことが可能となる。
【0009】
請求項3に係る溶接用ワイヤの収容装置では、引出孔に貫通した状態で前記ペイル容器に柱状体が立設され、該柱状体の外周面と前記突部の内周面との間に、前記溶接用ワイヤの引き出しを許容する隙間を画成したことを要旨とする。
請求項3の発明によれば、ペイル容器に柱状体を立設したので、溶接用ワイヤを引き出す際に該ワイヤが柱状体に摺動案内されて、該ワイヤを更にスムーズに引き出すことが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る溶接用ワイヤの収容装置によれば、溶接用ワイヤをスムーズに引き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1に係る溶接用ワイヤの収容装置を示す平断面図である。
【図2】実施例1に係る溶接用ワイヤの収容装置を示す縦断面図である。
【図3】実施例1に係る押圧板を下側から見た斜視図である。
【図4】実験例1で用いた押圧板の寸法を示す表である。
【図5】実験例1の結果を示す表である。
【図6】実験例2で用いた押圧板の寸法を示す表である。
【図7】実験例2の結果を示す表である。
【図8】実施例2に係る溶接用ワイヤの収容装置を示す縦断面図である。
【図9】実験例3で用いた押圧板および柱状体の寸法を示す表である。
【図10】実験例3の結果を示す表である。
【図11】従来例に係る溶接用ワイヤの収容装置を示す平断面図である。
【図12】従来例に係る溶接用ワイヤの収容装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明に係る溶接用ワイヤの収容装置につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、実施例1に係る溶接用ワイヤWの収容装置30を示す平断面図、図2は、溶接用ワイヤWの収容装置30の縦断面図である。この収容装置30は、溶接用ワイヤWを収容したペイル容器32と、該溶接用ワイヤW(後述するワイヤ積層体S)上に載置された押圧板34とから基本的に構成されている。前記ペイル容器32は、上方に開放する有底円筒体であって、内部に溶接用ワイヤWを収容するワイヤ収容部36が画成されている。実施例1では、ペイル容器32の内径は、約500mmに設定されている。前記ワイヤ収容部36には、溶接用ワイヤWが捻られながらループ状に積層収容されており、積層された溶接用ワイヤWは、円筒状のワイヤ積層体Sを構成している。実施例1では、溶接用ワイヤWとして、直径1.2mmのソリッドワイヤ(YGW12(JISZ3312))が採用されている。図2に示すように、ワイヤ積層体Sの外径Mは、前記ペイル容器32の内径と等しく、略500mmに設定されており、また、ワイヤ積層体Sの内径mは、約300mmに設定されている。
【0014】
前記押圧板34は、前記ペイル容器32の内径よりも僅かに小さな外径L(例えば、495mm)を有する円盤状部材であって、前記ワイヤ積層体S上において、ペイル容器32の軸心に押圧板34の中心が整列するよう載置されている。この押圧板34は、ワイヤ積層体Sに所要の荷重を付与して、溶接用ワイヤWの跳ね上がりを防止するものである。押圧板34の重量は、溶接用ワイヤWの剛性やペイル容器32の容積等に応じて適宜変更されるが、例えば、800g〜1600gの範囲に設定される。
【0015】
前記押圧板34の中央部には、溶接用ワイヤWを引き出すための円形状の引出孔38が形成されている。また、図3に示すように、前記押圧板34には、前記引出孔38の開口縁部の全周から下方(図3では上方)に突出する円筒状の突部40が形成されている。この突部40は、前記溶接用ワイヤWを引き出す際に、該ワイヤWに当接して下方への抵抗(テンション)を付与するものである。なお、突部40の下端部は弧状に形成されて、溶接用ワイヤWとの接触抵抗を抑えるようになっている。また、実施例1では、突部40の厚み(径方向の寸法)は、約5〜10mmに設定されている。
【0016】
ここで、引出孔38の直径lは、図2に示すように、前記ワイヤ積層体Sの内径mよりも小さく設定され、突部40の外周面とワイヤ積層体Sとの間に、溶接用ワイヤWが引き出されるために必要な隙間Tが画成されている。この隙間Tは、少なくとも溶接用ワイヤWの直径より大きく設定される。具体的には、引出孔38の直径lは、好ましくは、50mm以上、290mm以下になるよう設定され、更に好ましくは、60mm以上、280mm以下になるよう設定される。引出孔38の直径lが50mmより小さくなると、ワイヤ積層体Sからほどけた溶接用ワイヤWと突部40との距離が大きくなり、突部40による案内効果が小さくなってしまう虞がある。また、引出孔38の直径lが290mmより大きくなると、突部40がワイヤ積層体Sに近接して、ほどけた溶接用ワイヤWに対する突部40の接触抵抗が大きくなり過ぎる虞がある。
【0017】
また、引出孔38の直径lとワイヤ積層体Sの内径mとの比l/m(以下、対内径比という)は、好ましくは、0.167以上、1.0未満になるよう設定され、更に好ましくは、0.200以上、0.933以下になるよう設定される。更に、引出孔38の直径lとワイヤ積層体Sの外径Mとの比l/M(以下、対外径比という)は、好ましくは、0.1以上、0.6未満になるよう設定され、更に好ましくは、0.12以上、0.56以下になるよう設定される。前記対内径比が0.167または対外径比が0.1より小さくなると、前述のように、突部40による案内効果が小さくなる虞がある。一方、対内径比が1.0以上または対外径比が0.6以上になると、ほどけた溶接用ワイヤWに対する突部40の接触抵抗が大きくなり過ぎる虞がある。
【0018】
前記突部40における押圧板34の下面からの突出量(以下、単に突出量という)は、好ましくは、5.0mm〜40.0mmの範囲内に設定され、更に好ましくは、15.0mm〜30.0mmの範囲内に設定される。突部40の突出量が5.0より小さくなると、該突部40による溶接用ワイヤWの案内効果が小さくなる虞がある。また、突部40の突出量が40.0mmより大きくなると、該突部40による溶接用ワイヤWへの接触抵抗が大きくなり過ぎる虞がある。
【0019】
次に、実施例1に係る溶接用ワイヤの収容装置30の作用について説明する。ペイル容器32に収容した溶接用ワイヤWを図示しないワイヤ送給装置等で引き出すと、ワイヤ積層体Sの上部側から溶接用ワイヤWがほどけていく。溶接用ワイヤWがほどけてワイヤ積層体Sが低くなるに伴って押圧板34も下降していき、該押圧板34からワイヤ積層体Sに対し常に下方への荷重が付与される。ワイヤ積層体Sからほどけた溶接用ワイヤWは、図2に示すように、前記突部40の下端部に接触して上方へ湾曲し、引出孔38を介して上方へ引き出される。このとき、溶接用ワイヤWは、ワイヤ積層体Sの内側から突部40に向けて斜め下方に延在して、該突部40により下方へのテンションが付与される。従って、突部40により溶接用ワイヤWの跳ね上がりが好適に抑えられ、ペイル容器32内で溶接用ワイヤWがカラミつくのを防止することができる。しかも、溶接用ワイヤWは、突部40により下方へ一旦押し下げられることで引出孔38に引っ掛かり難くなり、該引出孔38を介してスムーズに引き出される。ここで、溶接用ワイヤWの収納時やペイル容器32の運搬時の振動等により、ワイヤ積層体Sの下層ワイヤがほどけて上層ワイヤの上側に入り込んでしまうことがある。しかるに、実施例1に係る溶接用ワイヤの収容装置30では、溶接用ワイヤWが引き出される際に突部40によって該溶接用ワイヤWが一旦下方へ押し下げられるので、カラミが発生することなく溶接用ワイヤWをスムーズに引き出すことができる。また、実施例1では、押圧板34に突部40を設けた簡単な構成で、溶接用ワイヤWのスムーズな引き出しを実現し得るから、押圧板34の製造コストを抑えることができる。
【0020】
〔実験例1〕
次に、前述した実施例1に係る溶接用ワイヤWの収容装置30について、溶接用ワイヤWを引き出す際の評価試験を行った。実験例1では、図4に示すように、押圧板34の引出孔38の直径lを185mm(対内径比0.617,対外径比0.37)とし、突部40の突出量を5,7,15,25,30,40mmの押圧板34(No.1〜6)を用いて実験を行った。ワイヤ積層体Sの内径mおよび外径Mは、実施例1と同様に、300mmおよび500mmに夫々設定してある。また、比較例として、突部40を有さない押圧板(図示せず)を用いて溶接用ワイヤWの引き出し実験を行った。試験方法および評価基準は、以下の通りである。
(評価試験1)
・試験方法
ワイヤ送給装置により溶接用ワイヤWをコンジットチューブ(図示せず)を介して送り速度40cm/分で引き出し、溶接用ワイヤWの引き出し時における挙動を確認。
・評価基準
「◎」・・・溶接用ワイヤWが一定の速度で引き出され、押圧板34より下方での溶接用ワイヤWの挙動がスムーズに進行し、引っ掛かりやカラミによる押圧板34の浮き上がりがない状態。
「○」・・・溶接用ワイヤWが一定の速度で引き出されるが、押圧板34より下方での溶接用ワイヤWの挙動が「◎」の場合に比べスムーズさに欠ける状態。但し、溶接用ワイヤWの引っ掛かりやカラミは発生せず、押圧板34の浮き上がりはない。
「△」・・・溶接用ワイヤWが一定の速度で引き出されず、「○」の場合に比べスムーズさに欠ける状態。溶接用ワイヤWの引っ掛かりやカラミが低頻度で発生し、押圧板34の浮き上がりも若干発生するが、引き出し不能になることはない。
「×」・・・溶接用ワイヤWの引き出し中、引っ掛かりやカラミが高頻度で発生して、溶接用ワイヤWの引き出しが不能になった状態。
(評価試験2)
・試験方法
溶接用ワイヤWをペイル容器32に収容した状態で振動・衝撃を付与した後、ワイヤ積層体Sの上側40層を80層下側に潜り込ませて、溶接用ワイヤW内でほつれが生じた状態を強制的に再現。そして、ワイヤ送給装置により溶接用ワイヤWをコンジットチューブを介して送り速度40cm/sで引き出し、溶接用ワイヤWの引き出しを3回行った場合でのカラミが発生する回数を確認。
・評価基準
「◎」・・・カラミの発生なし
「○」・・・カラミ1回発生
「△」・・・カラミ2回発生
「×」・・・カラミ3回発生
【0021】
実験例1の結果を図5に示す。この結果から分かるように、何れの突出量においても、評価試験1,2共に良好な結果が得られている。特に、突部40の突出量が15mm以上、30mm以下(No.3〜5)では、評価試験1,2の何れの場合においても、「◎」となっている。一方、比較例については、評価試験1,2の結果が「×」となっている。実験例1の結果より、押圧板34に突部40を設けることで、溶接用ワイヤWの引き出しをスムーズに行い得ることが分かる。従って、突部40の突出量を、好ましくは、5mm〜40mm、更に好ましくは、15mm〜30mmの範囲で設定すれば、溶接用ワイヤWのスムーズな引き出しを実現し得ることが分かる。
【0022】
〔実験例2〕
次に、図6に示す如く、突部40の突出量を15mmに固定し、引出孔38の直径lを50,60,150,280,290に変更した押圧板34(No.7〜11)を用いて、実験例1と同様な評価試験1,2を行った。その結果を図7に示す。なお、ワイヤ積層体Sの内径mおよび外径Mは、実験例1と同じである。また、評価試験1,2の試験方法および判断基準も、実験例1と同じである。
【0023】
図7の結果から分かるように、引出孔38の直径lに拘わらず、評価試験1で引き出し不能となる事態(×)に陥ることはなかった。但し、引出孔38の直径lが50mm(No.7)では、評価試験1,2の結果が「△」となっている。従って、引出孔38の直径lを、好ましくは、50mm以上、更に好ましくは、60mm以上に設定すべきであるといえる。また、引出孔38の直径lがワイヤ積層体Sの内径mの値に近接した290mmの場合(No.11)では、評価試験1,2の結果が何れも「○」となっていることから、引出孔38の直径lがワイヤ積層体Sの内径mの値に近くなると、突部40からの溶接用ワイヤWに対する接触抵抗が大きくなり過ぎる虞がある。以上より、引出孔38の直径lを、好ましくは、50mm以上、290mm以下、更に好ましくは、60mm以上、280mm以下の範囲で設定すれば、溶接用ワイヤWのスムーズな引き出しを実現することが分かる。この結果から、対内径比については、好ましくは、0.167以上、0.967以下(1.0未満)、更に好ましくは、0.2以上、0.933以下の範囲で設定すれば、溶接用ワイヤWのスムーズな引き出しを実現し得ることとなる。同様に、対外径比については、好ましくは、0.1以上、0.58以下(0.6未満)の範囲で、更に好ましくは、0.12以上、0.56以下の範囲で設定すればよい。
【実施例2】
【0024】
次に、実施例2に係る溶接用ワイヤの収容装置について説明する。実施例2では、実施例1と相違する箇所についてのみ説明し、実施例1と同一の構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0025】
図8は、実施例2に係る溶接用ワイヤWの収容装置50を示す断面図である。実施例2の収容装置50では、上下方向に延在する筒状の柱状体52が該柱状体52の軸心をペイル容器32の軸心に同心的に配設されている。この柱状体52は、押圧板34の引出孔38の直径lより小さな外径Nに設定されており、柱状体52が該引出孔38に貫通した状態となっている。柱状体52を引出孔38に貫通した状態では、該柱状体52の外周面と突部40の内周面との間に、溶接用ワイヤWの引き出しを許容する隙間Vが画成されるよう構成される。前記柱状体52の外径Nは、剛性の観点から、好ましくは、40mm以上に設定される。また、押圧板34と柱状体52との間に前記隙間Vを確保するため、柱状体52の外径Nは、少なくとも引出孔38の直径lより20mm程度小さくなるよう設定される。
【0026】
実施例2に係る収容装置50に収容された溶接用ワイヤWを引き出すと、該溶接用ワイヤWは、実施例1の場合と同様に、押圧板34の突部40によって下方へのテンションが付与され、溶接用ワイヤWの跳ね上がりが抑制される。また、溶接用ワイヤWが、引出孔38および柱状体52の間の隙間Vを通って引き出されるとき、溶接用ワイヤWが柱状体52の外周面に摺動して、溶接用ワイヤWが柱状体52に案内される。従って、溶接用ワイヤWは、カラミや引っ掛かりが生ずることなく、ペイル容器32からスムーズに引き出される。このように、実施例2に係る溶接用ワイヤWの収容装置50によれば、柱状体52により溶接用ワイヤWを摺動案内するので、該溶接用ワイヤWを更にスムーズに引き出すことが可能となる。
【0027】
〔実験例3〕
次に、前述した実施例2に係る溶接用ワイヤWの収容装置50について、実施例1と同様な評価試験を行った。実験例3では、図9に示すように、引出孔38の直径lを185mm(対内径比0.617,対外径比0.37)、突出量を15mmとした押圧板34を採用し、柱状体52の外径Nを40,60,87,151,165mm(No.12〜16)に変更して実験を行った。ワイヤ積層体Sの内径mおよび外径Mは、実験例1と同様に、300mmおよび500mmに夫々設定してある。また、参考例として、従来技術で説明した引出孔14の直径kが360mmの押圧板10(図11参照)および外径Jが290mmの柱状体20(図12参照)を用いて溶接用ワイヤWの引き出し実験を行った。試験方法および評価基準は、実験例1と同じである。
【0028】
実験例3の結果を図10に示す。図10から明らかなように、柱状体52の外径Nに拘わらず、評価試験1,2は良好な結果(◎または○)が得られている。但し、柱状体52の外径Nが151,165mmの場合(No.15,16)では、評価試験1の結果が「○」であった。従って、柱状体52の外径Nを、好ましくは、40mm以上、165mm以下、更に好ましくは、40mm以上、87mm以下の範囲で設定すれば、溶接用ワイヤWのスムーズな引き出しを実現し得ると判断される。また、柱状体52の外径Nおよび引出孔38の直径lの比N/lでは、好ましくは、0.22以上、0.89以下、更に好ましくは、0.22以上、0.47以下の範囲となるように設定すればよい。なお、参考例については、評価試験1の結果は「△」、評価試験2の結果は「×」となっており、特に、評価試験2の結果が悪かった。実験例3の結果から分かるように、実施例2の溶接用ワイヤWの収容装置50によれば、柱状体52を設けることで、溶接用ワイヤWの円滑な引き出しが実現されている。特に、柱状体52の外径Nを40mm以上、87mm以下になるよう設定することで、溶接用ワイヤWをよりスムーズに引き出すことが可能となる。
【0029】
なお、実施例1,2では、押圧板を円盤状に形成したが、中央部に円形の引出孔を形成した構成であれば、押圧板の外形を矩形等の多角形状に変更してもよい。また、実施例1,2では、溶接用ワイヤとして、直径1.2mmのソリッドワイヤを採用したが、溶接用ワイヤとしては、このソリッドワイヤに限られず、異なるタイプのソリッドワイヤや、フラックス入りワイヤ等のワイヤを例えば直径0.8mm〜直径2.0mmのサイズの範囲内で採用することができる。
【符号の説明】
【0030】
32 ペイル容器,34 押圧板,38 引出孔,40 突部,52 柱状体
W 溶接用ワイヤ,S ワイヤ積層体,l 直径,m 内径,V 隙間
【技術分野】
【0001】
ペイル容器内に溶接用ワイヤをループ状に積層したワイヤ積層体を収容すると共に、該ワイヤ積層体上に押圧板が載置された溶接用ワイヤの収容装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ソリッドワイヤやフラックス入りワイヤ等の溶接用ワイヤを収容する容器として、ペイル容器が一般に使用されている。このペイル容器は、上方に開放する有底円筒体であって、内部に溶接用ワイヤがループ状に積層した状態で収容されている。溶接用ワイヤは、ペイル容器から引き出された際に捻れが生じないように、予め一定方向に捻りを加えられた状態で収容されている。そのため、溶接用ワイヤは、ペイル容器内で常に捻りを戻そうとする復元力が働き、この復元力によって、溶接用ワイヤは、ペイル容器の軸方向に跳ね上がろうとする。そこで、この跳ね上がりを防止するため、例えば、特許文献1に示すように、ペイル容器に収容した溶接用ワイヤ上に押圧板を載置し、該押圧板の自重により溶接用ワイヤの跳ね上がりを抑制するようになっている。
【0003】
図11は、特許文献1の押圧板10がペイル容器12にセットされた状態を示す平断面図であって、この押圧板10は、中央部に引出孔14が開設された環状体16の内径部に、内径方向に突出する複数の内向弾性片18が形成されている。また図12の縦断面図に示すように、ペイル容器12の内部には、上下方向に延在する柱状体20が配設され、該柱状体20は、押圧板10の引出孔14に貫通している。前記内向弾性片18の先端部は、前記柱状体20の外側面に当接している。そして、押圧板10の引出孔14を介して溶接用ワイヤWを引き出すと、溶接用ワイヤWが内向弾性片18の先端部を順次押し上げながら柱状体20の外側面に沿って引き出される。すなわち、溶接用ワイヤWが内向弾性片18に接触したときに、内向弾性片18が溶接用ワイヤWに対し下方への抵抗(テンション)を付与して、該ワイヤWの跳ね上がりが抑制されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭60−154350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前述した従来技術に係る構成では、溶接用ワイヤWを引き出す際に、該ワイヤWが複数の内向弾性片18を瞬間的に飛び越えてしまうことがあった。溶接用ワイヤWが内向弾性片18を飛び越えてしまうと、その間、該内向弾性片18からの抵抗が付与されず、溶接用ワイヤWの引き出しが不安定となる。その結果、ペイル容器12内で溶接用ワイヤWにカラミが生ずることがあった。また、溶接用ワイヤWを引き出す際に、該ワイヤWが内向弾性片18に引っ掛かって、溶接用ワイヤWの引き出しが円滑になされなくなる事態が生じることもある。また、溶接用ワイヤWは、収納時や運搬時の振動等によってほつれてしまい、下層ワイヤが上層ワイヤの上側に入り込んでしまうことがある。そして、従来技術では、溶接用ワイヤWが引出孔14へ向けて略水平に引き出された後に該引出孔14から上方へ引き出されるため、下層ワイヤが上層ワイヤの上側に入り込んだ状態で溶接用ワイヤWを引き出すと、カラミが特に誘発され易くなる傾向にある。
【0006】
すなわち、本発明は、従来技術に係る溶接用ワイヤの収容装置に内在する前記問題に鑑み、これらを解決するべく提案されたものであって、溶接用ワイヤのカラミや引っ掛かり等が生ずるのを抑制して、ペイル容器から溶接用ワイヤをスムーズに引き出し得る溶接用ワイヤの収容装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決し、所期の目的を達成するため、本発明に係る溶接用ワイヤの収容装置は、
溶接用ワイヤをループ状に積層したワイヤ積層体を内部に収容した円筒状のペイル容器と、前記ワイヤ積層体の上部に載置され、該溶接用ワイヤを引き出す円形状の引出孔が形成された押圧板とを備えた溶接用ワイヤの収容装置において、
前記押圧板は、前記引出孔の開口縁の全周から下方に突出した突部を備えていることを要旨とする。
請求項1の発明によれば、引出孔の開口縁の全周から下方に突出する突部を設けたので、溶接用ワイヤをペイル容器から引き出す際に、突部で案内される溶接用ワイヤには下方へのテンションが付与されるので、溶接用ワイヤの跳ね上がりを防止して、該ワイヤにカラミや引っ掛かりが生ずるのを抑制することができる。また、溶接用ワイヤを引き出す際に、該溶接用ワイヤが突部により一旦下方へ押し下げられるので、ワイヤ積層体にほつれが生じた場合であっても、カラミの発生を抑制して、溶接用ワイヤをスムーズに引き出すことが可能となる。
【0008】
請求項2に係る溶接用ワイヤの収容装置では、引出孔の直径および前記ワイヤ積層体の内径の比は、0.167以上1.0未満の範囲に設定されることを要旨とする。
請求項2の発明によれば、引出孔の直径とワイヤ積層体の内径との比を0.167以上1.0未満とすることで、更にスムーズに溶接用ワイヤを引き出すことが可能となる。
【0009】
請求項3に係る溶接用ワイヤの収容装置では、引出孔に貫通した状態で前記ペイル容器に柱状体が立設され、該柱状体の外周面と前記突部の内周面との間に、前記溶接用ワイヤの引き出しを許容する隙間を画成したことを要旨とする。
請求項3の発明によれば、ペイル容器に柱状体を立設したので、溶接用ワイヤを引き出す際に該ワイヤが柱状体に摺動案内されて、該ワイヤを更にスムーズに引き出すことが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る溶接用ワイヤの収容装置によれば、溶接用ワイヤをスムーズに引き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1に係る溶接用ワイヤの収容装置を示す平断面図である。
【図2】実施例1に係る溶接用ワイヤの収容装置を示す縦断面図である。
【図3】実施例1に係る押圧板を下側から見た斜視図である。
【図4】実験例1で用いた押圧板の寸法を示す表である。
【図5】実験例1の結果を示す表である。
【図6】実験例2で用いた押圧板の寸法を示す表である。
【図7】実験例2の結果を示す表である。
【図8】実施例2に係る溶接用ワイヤの収容装置を示す縦断面図である。
【図9】実験例3で用いた押圧板および柱状体の寸法を示す表である。
【図10】実験例3の結果を示す表である。
【図11】従来例に係る溶接用ワイヤの収容装置を示す平断面図である。
【図12】従来例に係る溶接用ワイヤの収容装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明に係る溶接用ワイヤの収容装置につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、実施例1に係る溶接用ワイヤWの収容装置30を示す平断面図、図2は、溶接用ワイヤWの収容装置30の縦断面図である。この収容装置30は、溶接用ワイヤWを収容したペイル容器32と、該溶接用ワイヤW(後述するワイヤ積層体S)上に載置された押圧板34とから基本的に構成されている。前記ペイル容器32は、上方に開放する有底円筒体であって、内部に溶接用ワイヤWを収容するワイヤ収容部36が画成されている。実施例1では、ペイル容器32の内径は、約500mmに設定されている。前記ワイヤ収容部36には、溶接用ワイヤWが捻られながらループ状に積層収容されており、積層された溶接用ワイヤWは、円筒状のワイヤ積層体Sを構成している。実施例1では、溶接用ワイヤWとして、直径1.2mmのソリッドワイヤ(YGW12(JISZ3312))が採用されている。図2に示すように、ワイヤ積層体Sの外径Mは、前記ペイル容器32の内径と等しく、略500mmに設定されており、また、ワイヤ積層体Sの内径mは、約300mmに設定されている。
【0014】
前記押圧板34は、前記ペイル容器32の内径よりも僅かに小さな外径L(例えば、495mm)を有する円盤状部材であって、前記ワイヤ積層体S上において、ペイル容器32の軸心に押圧板34の中心が整列するよう載置されている。この押圧板34は、ワイヤ積層体Sに所要の荷重を付与して、溶接用ワイヤWの跳ね上がりを防止するものである。押圧板34の重量は、溶接用ワイヤWの剛性やペイル容器32の容積等に応じて適宜変更されるが、例えば、800g〜1600gの範囲に設定される。
【0015】
前記押圧板34の中央部には、溶接用ワイヤWを引き出すための円形状の引出孔38が形成されている。また、図3に示すように、前記押圧板34には、前記引出孔38の開口縁部の全周から下方(図3では上方)に突出する円筒状の突部40が形成されている。この突部40は、前記溶接用ワイヤWを引き出す際に、該ワイヤWに当接して下方への抵抗(テンション)を付与するものである。なお、突部40の下端部は弧状に形成されて、溶接用ワイヤWとの接触抵抗を抑えるようになっている。また、実施例1では、突部40の厚み(径方向の寸法)は、約5〜10mmに設定されている。
【0016】
ここで、引出孔38の直径lは、図2に示すように、前記ワイヤ積層体Sの内径mよりも小さく設定され、突部40の外周面とワイヤ積層体Sとの間に、溶接用ワイヤWが引き出されるために必要な隙間Tが画成されている。この隙間Tは、少なくとも溶接用ワイヤWの直径より大きく設定される。具体的には、引出孔38の直径lは、好ましくは、50mm以上、290mm以下になるよう設定され、更に好ましくは、60mm以上、280mm以下になるよう設定される。引出孔38の直径lが50mmより小さくなると、ワイヤ積層体Sからほどけた溶接用ワイヤWと突部40との距離が大きくなり、突部40による案内効果が小さくなってしまう虞がある。また、引出孔38の直径lが290mmより大きくなると、突部40がワイヤ積層体Sに近接して、ほどけた溶接用ワイヤWに対する突部40の接触抵抗が大きくなり過ぎる虞がある。
【0017】
また、引出孔38の直径lとワイヤ積層体Sの内径mとの比l/m(以下、対内径比という)は、好ましくは、0.167以上、1.0未満になるよう設定され、更に好ましくは、0.200以上、0.933以下になるよう設定される。更に、引出孔38の直径lとワイヤ積層体Sの外径Mとの比l/M(以下、対外径比という)は、好ましくは、0.1以上、0.6未満になるよう設定され、更に好ましくは、0.12以上、0.56以下になるよう設定される。前記対内径比が0.167または対外径比が0.1より小さくなると、前述のように、突部40による案内効果が小さくなる虞がある。一方、対内径比が1.0以上または対外径比が0.6以上になると、ほどけた溶接用ワイヤWに対する突部40の接触抵抗が大きくなり過ぎる虞がある。
【0018】
前記突部40における押圧板34の下面からの突出量(以下、単に突出量という)は、好ましくは、5.0mm〜40.0mmの範囲内に設定され、更に好ましくは、15.0mm〜30.0mmの範囲内に設定される。突部40の突出量が5.0より小さくなると、該突部40による溶接用ワイヤWの案内効果が小さくなる虞がある。また、突部40の突出量が40.0mmより大きくなると、該突部40による溶接用ワイヤWへの接触抵抗が大きくなり過ぎる虞がある。
【0019】
次に、実施例1に係る溶接用ワイヤの収容装置30の作用について説明する。ペイル容器32に収容した溶接用ワイヤWを図示しないワイヤ送給装置等で引き出すと、ワイヤ積層体Sの上部側から溶接用ワイヤWがほどけていく。溶接用ワイヤWがほどけてワイヤ積層体Sが低くなるに伴って押圧板34も下降していき、該押圧板34からワイヤ積層体Sに対し常に下方への荷重が付与される。ワイヤ積層体Sからほどけた溶接用ワイヤWは、図2に示すように、前記突部40の下端部に接触して上方へ湾曲し、引出孔38を介して上方へ引き出される。このとき、溶接用ワイヤWは、ワイヤ積層体Sの内側から突部40に向けて斜め下方に延在して、該突部40により下方へのテンションが付与される。従って、突部40により溶接用ワイヤWの跳ね上がりが好適に抑えられ、ペイル容器32内で溶接用ワイヤWがカラミつくのを防止することができる。しかも、溶接用ワイヤWは、突部40により下方へ一旦押し下げられることで引出孔38に引っ掛かり難くなり、該引出孔38を介してスムーズに引き出される。ここで、溶接用ワイヤWの収納時やペイル容器32の運搬時の振動等により、ワイヤ積層体Sの下層ワイヤがほどけて上層ワイヤの上側に入り込んでしまうことがある。しかるに、実施例1に係る溶接用ワイヤの収容装置30では、溶接用ワイヤWが引き出される際に突部40によって該溶接用ワイヤWが一旦下方へ押し下げられるので、カラミが発生することなく溶接用ワイヤWをスムーズに引き出すことができる。また、実施例1では、押圧板34に突部40を設けた簡単な構成で、溶接用ワイヤWのスムーズな引き出しを実現し得るから、押圧板34の製造コストを抑えることができる。
【0020】
〔実験例1〕
次に、前述した実施例1に係る溶接用ワイヤWの収容装置30について、溶接用ワイヤWを引き出す際の評価試験を行った。実験例1では、図4に示すように、押圧板34の引出孔38の直径lを185mm(対内径比0.617,対外径比0.37)とし、突部40の突出量を5,7,15,25,30,40mmの押圧板34(No.1〜6)を用いて実験を行った。ワイヤ積層体Sの内径mおよび外径Mは、実施例1と同様に、300mmおよび500mmに夫々設定してある。また、比較例として、突部40を有さない押圧板(図示せず)を用いて溶接用ワイヤWの引き出し実験を行った。試験方法および評価基準は、以下の通りである。
(評価試験1)
・試験方法
ワイヤ送給装置により溶接用ワイヤWをコンジットチューブ(図示せず)を介して送り速度40cm/分で引き出し、溶接用ワイヤWの引き出し時における挙動を確認。
・評価基準
「◎」・・・溶接用ワイヤWが一定の速度で引き出され、押圧板34より下方での溶接用ワイヤWの挙動がスムーズに進行し、引っ掛かりやカラミによる押圧板34の浮き上がりがない状態。
「○」・・・溶接用ワイヤWが一定の速度で引き出されるが、押圧板34より下方での溶接用ワイヤWの挙動が「◎」の場合に比べスムーズさに欠ける状態。但し、溶接用ワイヤWの引っ掛かりやカラミは発生せず、押圧板34の浮き上がりはない。
「△」・・・溶接用ワイヤWが一定の速度で引き出されず、「○」の場合に比べスムーズさに欠ける状態。溶接用ワイヤWの引っ掛かりやカラミが低頻度で発生し、押圧板34の浮き上がりも若干発生するが、引き出し不能になることはない。
「×」・・・溶接用ワイヤWの引き出し中、引っ掛かりやカラミが高頻度で発生して、溶接用ワイヤWの引き出しが不能になった状態。
(評価試験2)
・試験方法
溶接用ワイヤWをペイル容器32に収容した状態で振動・衝撃を付与した後、ワイヤ積層体Sの上側40層を80層下側に潜り込ませて、溶接用ワイヤW内でほつれが生じた状態を強制的に再現。そして、ワイヤ送給装置により溶接用ワイヤWをコンジットチューブを介して送り速度40cm/sで引き出し、溶接用ワイヤWの引き出しを3回行った場合でのカラミが発生する回数を確認。
・評価基準
「◎」・・・カラミの発生なし
「○」・・・カラミ1回発生
「△」・・・カラミ2回発生
「×」・・・カラミ3回発生
【0021】
実験例1の結果を図5に示す。この結果から分かるように、何れの突出量においても、評価試験1,2共に良好な結果が得られている。特に、突部40の突出量が15mm以上、30mm以下(No.3〜5)では、評価試験1,2の何れの場合においても、「◎」となっている。一方、比較例については、評価試験1,2の結果が「×」となっている。実験例1の結果より、押圧板34に突部40を設けることで、溶接用ワイヤWの引き出しをスムーズに行い得ることが分かる。従って、突部40の突出量を、好ましくは、5mm〜40mm、更に好ましくは、15mm〜30mmの範囲で設定すれば、溶接用ワイヤWのスムーズな引き出しを実現し得ることが分かる。
【0022】
〔実験例2〕
次に、図6に示す如く、突部40の突出量を15mmに固定し、引出孔38の直径lを50,60,150,280,290に変更した押圧板34(No.7〜11)を用いて、実験例1と同様な評価試験1,2を行った。その結果を図7に示す。なお、ワイヤ積層体Sの内径mおよび外径Mは、実験例1と同じである。また、評価試験1,2の試験方法および判断基準も、実験例1と同じである。
【0023】
図7の結果から分かるように、引出孔38の直径lに拘わらず、評価試験1で引き出し不能となる事態(×)に陥ることはなかった。但し、引出孔38の直径lが50mm(No.7)では、評価試験1,2の結果が「△」となっている。従って、引出孔38の直径lを、好ましくは、50mm以上、更に好ましくは、60mm以上に設定すべきであるといえる。また、引出孔38の直径lがワイヤ積層体Sの内径mの値に近接した290mmの場合(No.11)では、評価試験1,2の結果が何れも「○」となっていることから、引出孔38の直径lがワイヤ積層体Sの内径mの値に近くなると、突部40からの溶接用ワイヤWに対する接触抵抗が大きくなり過ぎる虞がある。以上より、引出孔38の直径lを、好ましくは、50mm以上、290mm以下、更に好ましくは、60mm以上、280mm以下の範囲で設定すれば、溶接用ワイヤWのスムーズな引き出しを実現することが分かる。この結果から、対内径比については、好ましくは、0.167以上、0.967以下(1.0未満)、更に好ましくは、0.2以上、0.933以下の範囲で設定すれば、溶接用ワイヤWのスムーズな引き出しを実現し得ることとなる。同様に、対外径比については、好ましくは、0.1以上、0.58以下(0.6未満)の範囲で、更に好ましくは、0.12以上、0.56以下の範囲で設定すればよい。
【実施例2】
【0024】
次に、実施例2に係る溶接用ワイヤの収容装置について説明する。実施例2では、実施例1と相違する箇所についてのみ説明し、実施例1と同一の構成については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0025】
図8は、実施例2に係る溶接用ワイヤWの収容装置50を示す断面図である。実施例2の収容装置50では、上下方向に延在する筒状の柱状体52が該柱状体52の軸心をペイル容器32の軸心に同心的に配設されている。この柱状体52は、押圧板34の引出孔38の直径lより小さな外径Nに設定されており、柱状体52が該引出孔38に貫通した状態となっている。柱状体52を引出孔38に貫通した状態では、該柱状体52の外周面と突部40の内周面との間に、溶接用ワイヤWの引き出しを許容する隙間Vが画成されるよう構成される。前記柱状体52の外径Nは、剛性の観点から、好ましくは、40mm以上に設定される。また、押圧板34と柱状体52との間に前記隙間Vを確保するため、柱状体52の外径Nは、少なくとも引出孔38の直径lより20mm程度小さくなるよう設定される。
【0026】
実施例2に係る収容装置50に収容された溶接用ワイヤWを引き出すと、該溶接用ワイヤWは、実施例1の場合と同様に、押圧板34の突部40によって下方へのテンションが付与され、溶接用ワイヤWの跳ね上がりが抑制される。また、溶接用ワイヤWが、引出孔38および柱状体52の間の隙間Vを通って引き出されるとき、溶接用ワイヤWが柱状体52の外周面に摺動して、溶接用ワイヤWが柱状体52に案内される。従って、溶接用ワイヤWは、カラミや引っ掛かりが生ずることなく、ペイル容器32からスムーズに引き出される。このように、実施例2に係る溶接用ワイヤWの収容装置50によれば、柱状体52により溶接用ワイヤWを摺動案内するので、該溶接用ワイヤWを更にスムーズに引き出すことが可能となる。
【0027】
〔実験例3〕
次に、前述した実施例2に係る溶接用ワイヤWの収容装置50について、実施例1と同様な評価試験を行った。実験例3では、図9に示すように、引出孔38の直径lを185mm(対内径比0.617,対外径比0.37)、突出量を15mmとした押圧板34を採用し、柱状体52の外径Nを40,60,87,151,165mm(No.12〜16)に変更して実験を行った。ワイヤ積層体Sの内径mおよび外径Mは、実験例1と同様に、300mmおよび500mmに夫々設定してある。また、参考例として、従来技術で説明した引出孔14の直径kが360mmの押圧板10(図11参照)および外径Jが290mmの柱状体20(図12参照)を用いて溶接用ワイヤWの引き出し実験を行った。試験方法および評価基準は、実験例1と同じである。
【0028】
実験例3の結果を図10に示す。図10から明らかなように、柱状体52の外径Nに拘わらず、評価試験1,2は良好な結果(◎または○)が得られている。但し、柱状体52の外径Nが151,165mmの場合(No.15,16)では、評価試験1の結果が「○」であった。従って、柱状体52の外径Nを、好ましくは、40mm以上、165mm以下、更に好ましくは、40mm以上、87mm以下の範囲で設定すれば、溶接用ワイヤWのスムーズな引き出しを実現し得ると判断される。また、柱状体52の外径Nおよび引出孔38の直径lの比N/lでは、好ましくは、0.22以上、0.89以下、更に好ましくは、0.22以上、0.47以下の範囲となるように設定すればよい。なお、参考例については、評価試験1の結果は「△」、評価試験2の結果は「×」となっており、特に、評価試験2の結果が悪かった。実験例3の結果から分かるように、実施例2の溶接用ワイヤWの収容装置50によれば、柱状体52を設けることで、溶接用ワイヤWの円滑な引き出しが実現されている。特に、柱状体52の外径Nを40mm以上、87mm以下になるよう設定することで、溶接用ワイヤWをよりスムーズに引き出すことが可能となる。
【0029】
なお、実施例1,2では、押圧板を円盤状に形成したが、中央部に円形の引出孔を形成した構成であれば、押圧板の外形を矩形等の多角形状に変更してもよい。また、実施例1,2では、溶接用ワイヤとして、直径1.2mmのソリッドワイヤを採用したが、溶接用ワイヤとしては、このソリッドワイヤに限られず、異なるタイプのソリッドワイヤや、フラックス入りワイヤ等のワイヤを例えば直径0.8mm〜直径2.0mmのサイズの範囲内で採用することができる。
【符号の説明】
【0030】
32 ペイル容器,34 押圧板,38 引出孔,40 突部,52 柱状体
W 溶接用ワイヤ,S ワイヤ積層体,l 直径,m 内径,V 隙間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接用ワイヤ(W)をループ状に積層したワイヤ積層体(S)を内部に収容した円筒状のペイル容器(32)と、前記ワイヤ積層体(S)の上部に載置され、該溶接用ワイヤ(W)を引き出す円形状の引出孔(38)が形成された押圧板(34)とを備えた溶接用ワイヤの収容装置において、
前記押圧板(34)は、前記引出孔(38)の開口縁の全周から下方に突出した突部(40)を備えている
ことを特徴とする溶接用ワイヤの収容装置。
【請求項2】
前記引出孔(38)の直径(l)および前記ワイヤ積層体(S)の内径(m)の比は、0.167以上1.0未満の範囲に設定される請求項1記載の溶接用ワイヤの収容装置。
【請求項3】
前記引出孔(38)に貫通した状態で前記ペイル容器(32)に柱状体(52)が立設され、該柱状体(52)の外周面と前記突部(40)の内周面との間に、前記溶接用ワイヤ(W)の引き出しを許容する隙間(V)を画成した請求項1または2記載の溶接用ワイヤの収容装置。
【請求項1】
溶接用ワイヤ(W)をループ状に積層したワイヤ積層体(S)を内部に収容した円筒状のペイル容器(32)と、前記ワイヤ積層体(S)の上部に載置され、該溶接用ワイヤ(W)を引き出す円形状の引出孔(38)が形成された押圧板(34)とを備えた溶接用ワイヤの収容装置において、
前記押圧板(34)は、前記引出孔(38)の開口縁の全周から下方に突出した突部(40)を備えている
ことを特徴とする溶接用ワイヤの収容装置。
【請求項2】
前記引出孔(38)の直径(l)および前記ワイヤ積層体(S)の内径(m)の比は、0.167以上1.0未満の範囲に設定される請求項1記載の溶接用ワイヤの収容装置。
【請求項3】
前記引出孔(38)に貫通した状態で前記ペイル容器(32)に柱状体(52)が立設され、該柱状体(52)の外周面と前記突部(40)の内周面との間に、前記溶接用ワイヤ(W)の引き出しを許容する隙間(V)を画成した請求項1または2記載の溶接用ワイヤの収容装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−223800(P2012−223800A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94518(P2011−94518)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】
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