説明

溶接用ワイヤの装填物

【課題】複数のペール容器に収納された溶接用ワイヤを連続して使用する場合において、溶接用ワイヤが押え板とワイヤ積層体との間から飛び出してもつれることがなく、円滑に取り出して溶接部へ送給することを可能とした溶接用ワイヤの装填物を提供する。
【解決手段】ペールパック1内に溶接用ワイヤがループ状に積層され、このワイヤ積層体9の上端に環状の押え板4が載置され、溶接用ワイヤの使用に当たって溶接用ワイヤ始端部7が押え板の内側から引き出されるものである溶接用ワイヤの装填物において、前記押え板は外周の一部に切り欠き部10を有し、積層された溶接用ワイヤの終端部6はペールパック内壁面に沿って上方に導かれ、押え板における前記切り欠き部を有する個所の下部を介して押え板の内側5から引き出されてペールパック上方の内壁面に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捩り入りのソリッドワイヤやフラックス入りワイヤ等の溶接用ワイヤを、ペールパックにループ状に積載収納した溶接用ワイヤの装填物に関する。
【背景技術】
【0002】
100〜400kgの溶接用ワイヤの収納容器として一般にペールパックが使用される。特に大量に使用される場合には、複数のペールパックを並べて先行するペールパックの溶接用ワイヤ終端部と次に使用されるペールパックの溶接用ワイヤ始端部とをバット溶接により接続して連続使用することを可能としている。
【0003】
前記連続使用の技術として、例えば特公平3−33434号公報(特許文献1)に開示されているものがある。図4はこのような溶接用ワイヤの装填物の一部切り欠いた斜視図である。この図に示すように積層された溶接用ワイヤの終端部6をワイヤ積層体9とペールパック内壁面2に沿って上方へ導き、環状の押え板4の下部を介して押え板の内側5、すなわち押え板の中央部の丸穴から引き出し、先行するペールパック1の溶接用ワイヤ終端部6と次に使用するペールパック1の溶接用ワイヤ始端部7をバット溶接にて接続して連続使用する。そして溶接用ワイヤは、押え板の内側5から押え板内周に沿いながら引き出される。
【0004】
また前記技術は、さらに実公昭64−4764号公報(特許文献2)にあるように、ペールパック内壁面2と押え板4との間からのワイヤ積層体9上部のワイヤ跳ね上がりを防止するために紐部材8を設けた技術と組み合わせて使用されることが多い。この紐部材8はペールパック内壁面2の上部に上端を固定し、押え板4に設けられた孔11を挿通してペールパック内壁面2とワイヤ積層体9外周部との間に垂設する。
【0005】
ところで溶接用ワイヤ終端部6はワイヤ積層体9の外周面かつペールパックの内壁面2に沿って上方へ導いたのちに押え板4の下部を介して押え板の内側5から引き出される。そしてペールパック1の上方でワイヤ終端部6を粘着テープや固定治具などの保持具3によってペールパック内壁面2に止着されている。溶接用ワイヤの分量が減るにつれて図5に示すようにワイヤ積層体9の外周面かつペールパック内壁面2に沿って上方へ導かれていた溶接用ワイヤが弛んでくる。そして隣り合う紐部材8と紐部材との間において、ワイヤ積層体9の上方と押え板4下面との間のワイヤがA部のようにペールパックの内壁面2と押え板4の外側の間から突出する場合がある。
【0006】
突出した溶接用ワイヤA部は、ワイヤの剛性によって図6の溶接用ワイヤ装填物の部分断面図に示すように押え板4を持ち上げて下降を阻害し、押え板4とワイヤ積層体9との間に隙間が生ずるためワイヤ積層体9を押えることができず、溶接用ワイヤが飛び出してもつれて溶接用ワイヤを送給できなくなる場合がある。
【特許文献1】特公平3−33434号公報
【特許文献2】実公昭64−4764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、複数のペールパックに収納された溶接用ワイヤを連続して使用する場合において、溶接用ワイヤが押え板とワイヤ積層体との間から飛び出してもつれることがなく、円滑に取り出して溶接部へ送給することを可能とした溶接用ワイヤの装填物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、ペールパック内に溶接用ワイヤがループ状に積層され、このワイヤ積層体の上端に環状の押え板が載置され、溶接用ワイヤの使用に当たって溶接用ワイヤ始端部が押え板の内側から引き出されるものである溶接用ワイヤの装填物において、前記押え板は外周の一部に切り欠き部を有し、積層された溶接用ワイヤの終端部はペールパック内壁面に沿って上方に導かれ、押え板における前記切り欠き部を有する個所の下部を介して押え板の内側から引き出されてペールパック上方の内壁面に取り付けられていることを特徴とする溶接用ワイヤの装填物にある。
またここにおいて、ペールパックの内壁面に上端が固定されて前記内壁面とワイヤ積層体外周部との間に垂設された複数の紐部材を有し、押え板の切り欠き部は隣り合う紐部材と紐部材との間に設けられていること、押え板の切り欠き部の半径方向の最大長さは、ワイヤ積層体の巻き幅の1/2以上であることも特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の溶接用ワイヤの装填物によれば、複数のペールパックに収納された溶接用ワイヤを連続して使用する場合において、押え板に切り欠き部を設けて押え板の浮き上がりを防止したので、溶接用ワイヤが押え板とワイヤ積層体との間から飛び出してからみやもつれが発生することなく円滑に取り出して溶接部へ送給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の溶接用ワイヤの装填物を示す一部切り欠いた斜視図である。ペールパック1に捩り入りの溶接用ワイヤがループ状に積層収納されワイヤ積層体9を形成し、外周の一部に切り欠き部10を有する環状の押え板4がワイヤ積層体9上面に載置されて溶接用ワイヤの跳ね上がりを防止している。
【0011】
溶接用ワイヤ終端部6は、ワイヤ積層体9の外周面かつ、ペールパック内壁面2に沿ってペールパック1の底部から上方へ導いたのち、押え板4における切り欠き部10を有する個所の下部を介して押え板の内側5から引き出し、ペールパック1の上方の内壁面2に粘着テープや固定冶具などの保持具3によって止着されている。一方、溶接用ワイヤ始端部7は、溶接用ワイヤの使用に当たって押え板の内側5に沿って引き出されて図示しないワイヤ取り出し装置またはワイヤ案内部材に導入され、ワイヤ送給装置に送られる。
【0012】
また、ペールパック内壁面2と押え板4との間からのワイヤ積層体9上部のワイヤの跳ね上がりを防止するために複数の紐部材8を設けている。これらの紐部材8はペールパック内壁面2の上部に上端を固定し、押え板に設けられた孔11を挿通してペールパック内面壁2とワイヤ積層体9外周部との間に垂設されている。そして押え板の外周に設けられた前記の切り欠き部10は隣り合う紐部材と紐部材との間に位置している。
【0013】
溶接用ワイヤの分量が減るにつれて図1に示すように、ワイヤ積層体9の外周面かつペールパック内壁面2に沿って上方へ導かれていた溶接用ワイヤ終端部6が弛み、ペールパックの内壁面2とワイヤ積層体9との間からワイヤがA部で示したように突出する場合がある。しかし突出するA部の発生位置では押え板4が外周に切り欠き部10を有しているので、図2の本発明の溶接用ワイヤ装填物の部分断面図に示すように、押え板4を持ち上げることがなく溶接用ワイヤの分量が減ると共に押え板4も下降する。したがって、溶接用ワイヤが飛び出してもつれが生じることがない。
【0014】
また、押え板4の切り欠き部10は、ペールパック1の外筒に上端を固定し、外筒内壁2とワイヤ積層体9外周部との間に垂設した複数の紐部材8の間にある。押え板4は紐部材が挿通されているため回転しないので切り欠き部10が移動することがなく、A部が突出しても押え板4の外周部に接触することがない。したがって、押え板4が持ち上がることがないので溶接用ワイヤが飛び出してもつれが生じることがない。
【0015】
押え板4の外周の一部に設ける切り欠き部は、図3(a)、(b)、(c)の押え板の平面図に示すように円状のもの101、三角状のもの102および台形状のもの103など、どのような形状でも同様の効果が得られる。また、図3に示す押え板の切り欠き部の半径方向の最大長さBは、ワイヤ積層体の巻き幅の1/2以上とするのが好ましい。これによりA部が突出しても押え板4を持ち上げることがないので溶接用ワイヤが飛び出してもつれることがない。切り欠き部の最大長さBが積層体巻き幅の1/2未満であると、A部が突出した場合押え板4を持ち上げて溶接用ワイヤが飛び出してもつれることがある。なお、押え板の切り欠き部の半径方向の最大長さBは、押え板の内側5まで到達しない長さとする。また押え板の切り欠き部の円周方向長さは、短いとA部が突出した場合押え板4の外周部に接触して押え板4を持ち上げるので、両側の紐部材を挿通する孔11の近傍に達する切り欠き部10を設けることが好ましい。
【実施例】
【0016】
ワイヤ径1.2mmと1.6mmのソリッドワイヤ(JIS Z3312 YGW12)およびフラックス入りワイヤ(JIS Z3313 YFW−C50DR)を、内径500mmと650mmのペールパック内に底部から500mm高さまで積層体の巻き幅を70mmとしてループ状に積層した。この積層体の上端に表1に示す各種押え板を載置して、ペールパック内壁面と積層体外周面との間から突出部を30mm出した状態で押え板の浮き上がりの高さおよびもつれの有無を調べた。紐部材は、各試験例とも4本設け、切り欠き部は紐部材と紐部材との間に設けた。試験方法はペールパックから溶接用ワイヤを7m/分の速度で連続に引き出した。なお、もつれが生じた時点で試験は中止した。その結果も表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
表1中試験No.1〜4が本発明例、試験No.5〜8は比較例である。本発明例である試験No.1〜3は紐部材間の押え板外周部に、半径方向の最大長さが積層体巻き幅の1/2以上の切り欠き部を有するので押え板の浮き上がりが無く、もつれも生じることがなく極めて満足な結果であった。なお試験No.4は、切り欠き部の半径方向の最大長さが積層体巻き幅の1/2未満であるので、押え板が僅かに持ち上がったがワイヤの飛び出しがなくもつれが生じることはなかった。
【0019】
比較例中試験No.5〜7は、押え板に切り欠き部を有しないので、押え板の浮き上がり高さが大きくもつれが発生した。
試験No.8は、切り欠き部の半径方向の最大長さが短いので、押え板の浮き上がり高さが大きくなり溶接用ワイヤの残量が少なくなったところでもつれが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の溶接用ワイヤの装填物を示す一部を切り欠いた斜視図
【図2】本発明の溶接用ワイヤの装填物における押え板の状態を示す部分断面図
【図3】(a)、(b)、(c)はそれぞれ本発明の溶接用ワイヤの装填物に用いる押え板を示す平面図
【図4】従来の溶接用ワイヤの装填物を示す一部を切り欠いた斜視図
【図5】従来の溶接用ワイヤの装填物を示す一部を切り欠いた斜視図
【図6】従来の溶接用ワイヤの装填物における押え板の状態を示す部分断面図
【符号の説明】
【0021】
1 ペールパック
2 ペールパック内壁面
3 溶接用ワイヤ終端部の保持具
4 押え板
5 押え板の内側
6 溶接用ワイヤ終端部
7 溶接用ワイヤ始端部
8 紐部材
9 ワイヤ積層体
10 切り欠き部
11 孔
101 円状の切り欠き部
102 三角状の切り欠き部
103 台形状の切り欠き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペールパック内に溶接用ワイヤがループ状に積層され、このワイヤ積層体の上端に環状の押え板が載置され、溶接用ワイヤの使用に当たって溶接用ワイヤ始端部が押え板の内側から引き出されるものである溶接用ワイヤの装填物において、前記押え板は外周の一部に切り欠き部を有し、積層された溶接用ワイヤの終端部はペールパック内壁面に沿って上方に導かれ、押え板における前記切り欠き部を有する個所の下部を介して押え板の内側から引き出されてペールパック上方の内壁面に取り付けられていることを特徴とする溶接用ワイヤの装填物。
【請求項2】
ペールパックの内壁面に上端が固定されて前記内壁面とワイヤ積層体外周部との間に垂設された複数の紐部材を有し、押え板の切り欠き部は隣り合う紐部材と紐部材との間に設けられていることを特徴とする請求項1記載の溶接用ワイヤの装填物。
【請求項3】
押え板の切り欠き部の半径方向の最大長さは、ワイヤ積層体の巻き幅の1/2以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶接用ワイヤの装填物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−166063(P2009−166063A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5094(P2008−5094)
【出願日】平成20年1月12日(2008.1.12)
【出願人】(302040135)日鐵住金溶接工業株式会社 (172)
【Fターム(参考)】