説明

溶接用電源装置

【課題】設置状態に対応して発揮可能な性能を容易に把握することができる溶接用電源装置を提供すること。
【解決手段】コンタクトチップTHaを溶接対象Mに接触させ、パワーケーブル14a,14bを含み整流回路24の出力電力を伝達する経路における合計抵抗値と合計インダクタンス値を算出する。記憶装置33に格納したテーブルから抵抗値とインダクタンス値と性能指数を読み出し、算出した合計抵抗値と合計インダクタンス値に対応する性能指数を算出し、その算出した性能指数を表示装置28に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接用電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接用電源装置は、例えば特許文献1にて示されるように、商用電源からの交流入力電力を整流した直流電力をインバータ回路にて高周波交流電力に変換し、溶接トランスにて電圧調整された高周波交流電力を整流回路と直流リアクトルとでアーク溶接に適した直流出力電力に変換する。電源装置にて生成された出力電力はトーチにて支持される電極に供給され、これにより電極先端と溶接対象との間にアークが生じて、溶接対象の溶接が行われる。
【0003】
また、このような溶接用電源装置は、出力電流及び出力電圧の検出を行っており、制御装置は、その時々で検出された出力電流及び出力電圧をインバータ回路のPWM制御にフィードバックし、その時々の出力電力を適正値とする制御を実施することで、溶接性能の向上が図られている。例えば、消耗電極式アーク溶接においては、電極と被溶接物との間で短絡が頻繁に発生する。制御装置は、この短絡が発生したときの出力電流を制御することによってスパッタを低減し、アークの安定性を向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−103868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、消耗電極式アーク溶接において低スパッタ溶接は通常の直流溶接よりも溶接機外部の環境の影響を受けやすく、治具の構成、パワーケーブルの長さ、巻き方によって低スパッタ性能が著しく低下することがある。したがって、理想的な溶接環境で溶接を行うことが好ましい。また、溶接環境は、顧客の使用状況や溶接対象に応じて異なり、指標がないため顧客の溶接環境によってどのぐらい溶接性能が低下するかを知ることが困難であり、溶接の品質管理が困難であった。
【0006】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、設置状態に対応して発揮可能な性能を容易に把握することができる溶接用電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、直流電力を高周波交流電力に変換するインバータ回路と、変換した交流電力の電圧調整を行う溶接トランスと、該溶接トランスの二次側交流電力から電極と溶接対象との間に溶接のためのアークを生じさせる出力電力を生成する直流変換手段と、検出手段にて検出した出力電流又は出力電圧に基づいて前記インバータ回路を制御する制御手段とを備えた溶接用電源装置であって、前記電極を短絡状態として行われ、前記出力電流を所定電流値とした時の前記出力電圧の電圧値に基づいて前記出力電力を伝達する経路の合計抵抗値を算出する抵抗値算出手段と、前記電極を短絡状態として行われ、前記出力電流を所定電流値とした時からの電流減衰量に基づいて前記出力電力を伝達する経路の合計インダクタンス値を算出するインダクタンス値算出手段と、前記合計抵抗値及び前記合計インダクタンス値に基づいて前記経路に応じて溶接時に発生するスパッタの発生量に対応する性能情報を生成し、前記性能情報を表示手段に表示させる情報生成手段と、を備えた。
【0008】
この発明では、設置した状態において、インバータ回路の出力電力を伝達する経路における合計抵抗値及び合計インダクタンス値が算出される。そして、合計抵抗値と合計インダクタンス値に基づいて、出力電力を伝達する経路に応じて溶接時に発生するスパッタの発生量に対応する性能情報が生成され、表示される。これにより、設置状態に対応して溶接時に発揮される性能を容易に把握することが可能となる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の溶接用電源装置において、抵抗値とインダクタンス値とに関連付けて性能情報が格納されたテーブルを記憶する記憶手段を備え、前記情報生成手段は、前記テーブルから読み出した抵抗値とインダクタンス値と性能情報と、前記合計抵抗値及び前記合計インダクタンス値に基づいて前記経路に対する性能情報を算出する。
【0010】
この発明では、テーブルに記憶された抵抗値とインダクタンス値と性能情報に基づいて、算出した合計抵抗値と合計インダクタンス値に対応する性能情報を容易に生成することが可能となる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の溶接用電源装置において、前記情報生成手段は、前記合計抵抗値に対応する第1の性能情報と、前記合計インダクタンス値に対応する第2の性能情報をそれぞれ算出し、前記第1の性能情報と前記第2の性能情報のうち、低い方の性能情報を前記経路に対応する性能情報とする。
【0012】
この発明では、出力電力を伝達する経路に用いるケーブルの構成や、そのケーブルの敷設状態などの設置状態に応じて、最も性能が低い性能情報を把握することが可能となる。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の溶接用電源装置において、前記情報生成手段は、前記経路に対応する性能情報に設定した性能情報に対応する前記合計抵抗値又は前記合計インダクタンス値を前記表示手段に表示させる。
【0013】
この発明では、性能が低い性能情報とその要因を把握することが可能となり、性能改善のための対象を把握することが可能となる。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶接用電源装置において、前記制御手段は、前記検出手段にて検出した出力電流と出力電圧とに基づいて前記電極の先端電圧を算出し、前記先端電圧に基づいて前記インバータ回路を制御する。
【0014】
この発明では、検出した出力電圧及び出力電流から算出した電極の先端電圧に応じてインバータ回路を制御することにより、スパッタの低減と、アークの安定性向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、設置状態に対応して発揮可能な性能を容易に把握することができる溶接用電源装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】溶接用電源装置の概略構成図である。
【図2】抵抗値及びインダクタンス値の算出手法の説明図である。
【図3】テーブルの説明図である。
【図4】抵抗値及びインダクタンス値の算出処理における波形図である。
【図5】溶接システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、消耗電極式のアーク溶接機10は、アーク溶接のための直流出力電力を出力する溶接用電源装置11と、トーチTHに支持されるワイヤ電極12を送給するワイヤ供給装置13を備える。
【0018】
溶接用電源装置11のプラス側出力端子は、パワーケーブル14aを介してワイヤ供給装置13に接続される。溶接用電源装置11のマイナス側出力端子は、パワーケーブル14bを介して溶接対象Mに接続される。
【0019】
ワイヤ供給装置13は、一線式パワーケーブル13aを介してトーチTHに接続される。一線式パワーケーブル13aは、例えば、中心にワイヤ電極12をガイドするためのコイルライナが設けられ、その外周にガスを流すためのホースが設けられている。そして、このホースの外周には、電力を供給するための導電線が被覆され、最外周が絶縁被覆されている。トーチTHは、ワイヤ電極12への給電を行うコンタクトチップTHaを有し、このコンタクトチップTHaは一線式パワーケーブル13aの銅電線と電気的に接続される。これにより、溶接用電源装置11の出力電力は、ワイヤ電極12に供給される。
【0020】
このように、電源装置11にて生成された直流出力電力は、ワイヤ電極12と溶接対象Mに給電され、ワイヤ電極12と溶接対象Mとの間に発生するアークにより、溶接対象Mに対するアーク溶接が行われる。このとき、ワイヤ電極12は溶接時に消耗するため、ワイヤ供給装置13は、溶接による消耗に応じてワイヤ電極12を送給する。
【0021】
溶接用電源装置11は、商用電源から供給される三相の交流入力電力をアーク溶接に適した直流出力電力に変換する。交流入力電力は、ダイオードブリッジ及び平滑コンデンサよりなる整流平滑回路21にて直流電力に変換され、変換された直流電力はIGBT等のスイッチング素子TRを例えば4個用いたブリッジ回路にて構成されるインバータ回路22にて高周波交流電力に変換される。
【0022】
インバータ回路22にて生成された高周波交流電力は、溶接トランス23にて所定電圧値に調整された二次側交流電力に変換される。溶接トランス23の二次側交流電力は、ダイオードを用いた整流回路24と直流リアクトル25とで、アーク溶接に適した直流出力電力に変換される。
【0023】
制御装置31は、インバータ回路22のスイッチング素子TRに対しPWM制御を実施し、直流出力電力をその時々で適正値とする制御を行う。このとき、制御装置31は、その時々の出力電流I及び出力電圧Vの検出を行い、検出した出力電流I及び出力電圧Vに基づくPWM制御へのフィードバックを行う。
【0024】
即ち、電源装置11内のマイナス側出力端子の電源線上に電流センサ26が備えられており、制御装置31は、処理部(CPU)32においてその電流センサ26を介して電源装置11の出力電流Iを検出する。また、整流回路24の直後の電源線間に電圧センサ27が備えられており、制御装置31は、処理部32においてその電圧センサ27を介して電源装置11の出力電圧Vを検出する。そして、制御装置31は、処理部32にてその時々に検出した出力電流I及び出力電圧Vに基づいてPWM制御のデューティの算出を行い、インバータ回路22に出力するPWM制御信号を生成する。
【0025】
PWM制御において、制御に用いる出力電圧Vに、ワイヤ電極12の先端電圧Vaを用いることが好ましいが、先端電圧Vaの直接的な検出は困難である。そこで、制御装置31は、電圧センサ27からワイヤ電極12までの間の電圧変化分を記憶装置(図示略)に予め保持しておき、その時々に検出した出力電圧Vにその電圧変化分の補正を行って先端電圧Vaを算出し、その先端電圧Vaを用いてPWM制御を実施する。
【0026】
ところで、電圧センサ27からワイヤ電極12までの間の電圧変化分は、電源装置11内部の電圧変化分(整流回路24から出力端子までの抵抗値R1とインダクタンス値L1による電圧変化分)と、外部の電圧変化分(接続端子からワイヤ電極12先端まで(パワーケーブル14a,14b及び一線式パワーケーブル13a)の抵抗値R2とインダクタンス値L2による電圧変化分)を含む。内部電圧変化分は、使用状態の影響を受けないために予め補正項として先端電圧Vaの算出に組み込むことが可能である。しかし、外部電圧変化分は、パワーケーブル14a,14bのケーブル長や敷設状態(直線敷設や周回敷設、その周回数)等、使用者毎に条件が相違するため、抵抗値R2とインダクタンス値L2の変化の影響を大きく受ける。
【0027】
そのため、使用者がアーク溶接機10を現場に設置し、パワーケーブル14a,14bの敷設も含めて正に使用状態としたところで、内部の抵抗値R1及びインダクタンス値L1と、外部の抵抗値R2及びインダクタンス値L2とを合計した抵抗値R及びインダクタンス値Lが測定される。測定した合計抵抗値R及び合計インダクタンス値Lは、制御装置31内に保持される。
【0028】
また、制御装置31は、短絡が発生したときの出力電流を制御することによってスパッタを低減するように、インバータ回路22を制御する。例えば、制御装置31は、出力電圧Vの変化等により、短絡が発生する期間と、アークが発生する期間を検出し、短絡が発生するとき、出力電流Iの減少を急峻として短絡発生時やアーク発生時の電流値を抑制し、スパッタの発生量の低減を図る。
【0029】
尚、本実施形態の電源装置11には、合計抵抗値R及び合計インダクタンス値Lの測定を行うための処理を実行する測定モードが備えられている。制御装置31は、例えば電源装置11に備えられる操作スイッチ(図示略)の操作に基づいて測定モードに移行する。なお、測定モードへの移行は、トーチTHに備えられるトーチスイッチや、ワイヤ供給装置13に備えられる操作リモコン(共に図示略)を使用し、電源装置11から離れた位置から行うようにしてもよい。
【0030】
測定モードにおいて、トーチTHの先端部に備えられワイヤ電極12への給電を行うコンタクトチップTHaを溶接対象Mに接触させ、抵抗値R及びインダクタンス値Lを測定する。なお、コンタクトチップTHaを溶接対象Mに接触させる際、トーチTHに備えられたチップノズル(図示略)が取り外される。なお、ワイヤ電極12を溶接対象Mに接触させる、トーチTH先端に接触用の特殊治具を取着してこの治具を溶接対象Mに接触させ、抵抗値R及びインダクタンス値Lを測定してもよい。
【0031】
測定モードについて詳述する。
先ず、制御装置31(処理部32)は、インバータ回路22を動作させて、図2に示すように、出力電流Iを電流値Ipまで増大させる。この電流値Ipは、直流リアクトル25の単体において、所定のインダクタンス値Laとなる電流値である。合計インダクタンスは、パワーケーブル14a,14bの敷設状態等でオフセットするため、そのオフセット分も考慮した電流値に設定される。そして、制御装置31は、所定期間、このような電流値Ipを保持し、その期間における電圧センサ27の出力値Vを平均化した平均電圧値Veを算出する。そして、制御装置31は、合計抵抗値Rを、
R=Ve/Ip ・・・ (a)
により算出する。そして、制御装置31は、算出した合計抵抗値Rをレジスタ等に記憶する。
【0032】
次いで、制御装置31は、インバータ回路22の動作を停止させて、この時の時刻T0から計時を開始する。そして、制御装置31は、刻々と変化する出力電流Iをサンプリングし、時定数に該当する電流減衰量となる電流値ΔIp(=Ip×36.8%)に到達した時刻をT1とし、その時刻T1−T0間の時間(時定数)τを求める。そして、制御装置31は、合計インダクタンス値L(リアクトル25の単体ではインダクタンス値La)を、
L=R・τ1(=Ve・τ/Ip) ・・・ (b)
により算出する。そして、制御装置31は、算出した合計インダクタンス値Lをレジスタ等に記憶する。以上で、測定モードを終了する。
【0033】
制御装置31は、溶接動作時において、記憶した合計抵抗値R及び合計インダクタンス値Lと、検出したその時々の出力電流I及び出力電圧Vに基づいて、先端電圧Vaを、
Va=V−L・dI/dt−R・I ・・・ (d)
により算出する。そして、制御装置31は、算出した先端電圧Vaを用いてPWM制御を実施する。
【0034】
ところで、測定モードの上記の実測定の前には、コンタクトチップTHaと溶接対象Mが十分な短絡状態となっているかの判定(測定前判定)が行われる。具体的には、図4に示すように、出力電流Iを電流値Ip1まで増大させて行う実測定を実施する前に、コンタクトチップTHaに対して所定の検出電圧(例えば15[V]程度)を印加する。尚、上記で用いた出力電圧Vを以降では実出力側と検出側とで分けることとし、実出力側の出力電圧を「Vs」、検出側の出力電圧を「Vm」とする。
【0035】
コンタクトチップTHaの短絡状態が正常である場合、測定前判定時の検出電圧Vs(例えば15[V])に対して、制御装置31の処理部32にて検出される出力電圧Vmは0[V]付近の僅かな電圧値である。従って、検出される出力電圧Vmが短絡異常判定のための閾値より低いため、処理部32は実測定が可能な短絡状態にあると判定する。一方、短絡異常が生じている場合には、検出される出力電圧Vmの電圧値は短絡異常判定のための閾値より高くなる。この場合、処理部32は、次の実測定が好適に行えない短絡異常状態であると判定する。すると、処理部32は、作業者に異常の旨を報知する。
【0036】
異常報知には、例えば、電源装置11に備えられた表示装置28が用いられる。なお、トーチTH、ワイヤ供給装置13等に備えられる表示器、ブザーやリレーの作動音等、音声を出力する装置、等を用いて異常報知を行うようにしてもよい。また、トーチTHの先端部から不活性ガスを放出しながら溶接を行うアーク溶接機10とした場合、ガスの放出音にて先の異常報知を行うこともできる。そして、作業者はその異常報知を受け、コンタクトチップTHaの確実な短絡(例えば溶接対象Mに対するトーチTHの角度調整)を図り、再度測定前判定からの測定を実施する。
【0037】
次いで、実測定の実施最中に、コンタクトチップTHaの短絡状態が異常となることも考えられるため、制御装置31の処理部32は、検出した出力電圧Vmの異常電圧の検出を行っている。短絡異常に起因する異常電圧が生じたことを検出すると、処理部32は上記と同様に作業者に異常の旨を報知する。作業者は同様にその異常報知を受け、コンタクトチップTHaの確実な短絡を図り、再度測定前判定からの測定が実施される。
【0038】
更に、コンタクトチップTHaの短絡異常が生じないで測定が正常に終了しても、取得した合計抵抗値Rと合計インダクタンス値Lとが異常値となり得ることも考えられる。例えば、電源装置11とトーチTHとの間に敷設されるパワーケーブル14a,14bが断面積、ケーブル長等で適合しないものを用いていたり、適合品としても異常な巻回状態となっていたりする場合等では測定値が異常値となり得る。これを踏まえ、本実施形態の制御装置31に備えられる記憶装置33には、本電源装置11に好適なケーブル14a,14bの断面積やケーブル長等と共に、その抵抗値○[Ω]とインダクタンス値△[μH]との適正範囲が関連付けられデータベース(DB)化されて保持されている。
【0039】
そして、処理部32は、現在用いているケーブル14a,14bの抵抗値及びインダクタンス値の適正範囲から、実際に測定した合計抵抗値Rや合計インダクタンス値Lがその適正範囲内か否かの判定を行う。適正範囲内である場合は、合計抵抗値Rや合計インダクタンス値Lの更新、即ち制御装置31として現在保持している合計抵抗値Rや合計インダクタンス値Lのデータ更新を行い、以降の制御に用いる。一方、測定した合計抵抗値Rや合計インダクタンス値Lが適正範囲外(異常値)であると判定した場合には、制御装置31として現在保持している合計抵抗値Rや合計インダクタンス値Lのデータ更新を行わず、異常報知を実施する。作業者はその異常報知を受け、測定状態の確認、現在用いているパワーケーブル14a,14b自体の確認やその敷設状態の確認等を行うことができる。
【0040】
算出した合計抵抗値Rや合計インダクタンス値Lが適正範囲内である場合、処理部32は、更に、合計抵抗値Rや合計インダクタンス値Lに基づいて、低スパッタ性能発揮指数(以下、単に性能指数という)を作業者に報知する。性能指数は、電源装置11とトーチTHとの間に敷設されるパワーケーブル14a,14bの現状、つまり現在の敷設状態における低スパッタ性能、つまりスパッタの発生量を低減する性能を示す値であり、例えば百分率(パーセント:%)にて示される。パワーケーブル14a,14bの敷設状態が理想的(直線状態)であり、パワーケーブル14a,14bの抵抗値が低い(溶接用電源装置11と溶接場所が近い)場合、最も効率良くスパッタの発生量が低減される。このときの性能指数を「100[%]」とする。スパッタの低減が認められないとき、性能指数を「0[%]」とする。
【0041】
図1に示す記憶装置33には、図3に示すテーブル33aが格納されている。テーブル33aは、抵抗値R、インダクタンス値L、性能指数が関連付けられて記憶されている。例えば、テーブル33aにおいて、抵抗値R「0.55」、インダクタンス値L「5.7」に対して性能指数「100」が関連付けられている。このテーブル33aに格納された各値は、所定太さ(例えば60sqr)で所定長さ(例えば10m)のパワーケーブルを用いて算出した合計抵抗値R及びインダクタンス値Lと、そのときのスパッタの発生量に基づいて設定されている。上記したように、性能指数は、スパッタの発生量に対応する。例えば、性能指数「80[%]」におけるスパッタの発生量は、性能指数が「100[%]」の時のスパッタの発生量の約1.2倍に相当する。同様に、性能指数が「40[%]」におけるスパッタの発生量は約1.6倍に相当し、性能指数が「0[%]」におけるスパッタの発生量は約2倍以上に相当する。なお、性能指数が「0[%]」におけるスパッタの発生量は、スパッタを低減するための制御を行わないときに発生するスパッタの量とほぼ等しい。
【0042】
図1に示す処理部32は、テーブル33aから抵抗値R、インダクタンス値L、性能指数を読み出す。そして、処理部32は、上記のようにして算出した合計抵抗値Rと合計インダクタンス値Lのそれぞれに対して、例えば直線補間により、対応する性能指数を算出する。そして、合計抵抗値Rに対応する性能指数と、合計インダクタンス値Lに対応する性能指数のうち、値が小さい方、つまり性能が低い方の性能指数を表示装置28に表示する。例えば、算出した合計抵抗値Rを「0.64」、合計インダクタンス値Lを「7.0」とする。処理部32は、合計抵抗値R(=「0.64」)に対応する性能指数(=「91.8」)と、合計インダクタンス値L(=「7.0」)に対応する性能指数(=「88.2」)を算出する。そして、処理部32は、値が小さい性能指数「88.2」を表示装置28に表示する。
【0043】
作業者は、表示装置28に表示された性能指数により、現在の敷設状態において発揮される低スパッタ性能を確認することで、この状態の溶接機における溶接品質を概略的に把握する、つまり溶接品質の低下具合を把握することができる。このため、溶接を行う前に、パワーケーブル14a,14bの敷設状態の変更(直線状態となるようにする)や、パワーケーブルを交換、溶接条件の変更、などを行うことにより、溶接品質の不具合を低減することが可能となる。
【0044】
上記したように、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)コンタクトチップTHaを溶接対象Mに接触させ、パワーケーブル14a,14bを含み整流回路24の出力電力を伝達する経路における合計抵抗値Rと合計インダクタンス値Lを算出する。抵抗値Rとインダクタンス値Lとに関連付けた性能指数をテーブル33aに記憶する。そして、算出した合計抵抗値Rと合計インダクタンス値Lに対応する低スパッタ性能発揮指数を表示装置28に表示するようにした。これにより、この状態の溶接機における溶接品質を概略的に把握する、つまり溶接品質の低下具合を把握することができる。そして、溶接を行う前に、パワーケーブル14a,14bの敷設状態の変更(直線状態となるようにする)や、パワーケーブルを交換、溶接条件の変更、などを行うことにより、溶接品質の不具合を低減することが可能となる。
【0045】
(2)制御装置31は、合計抵抗値Rに対応する性能指数と、合計インダクタンス値に対応する性能指数を算出し、値が小さい方、つまり性能が低い方の性能指数を表示装置28に表示するようにした。例えば、パワーケーブル14a,14bの長さや太さの選択は良いが、パワーケーブル14a,14bの敷設状態が悪い場合などのように、現在の設置状態に応じた性能指数が表示装置28に表示される。これにより、パワーケーブル14a,14bの長さや太さなどの構造に関する状態や、パワーケーブル14a,14bの敷設状態等の要因に応じて最も性能が低い性能指数を把握することができる。
【0046】
(3)電源装置11と電極12との間の主電路上に使用するパワーケーブル14a,14bの使用種類毎の抵抗値、インダクタンス値の適正範囲が記憶装置33内にデータベース化されて保持される。処理部32は、実際に測定した抵抗値Rやインダクタンス値Lがその適正範囲内かの判定(異常値判断)を行う。これにより、測定する抵抗値Rやインダクタンス値Lの測定値が精度良く測定できたものであるかを容易に判断することができる。また、測定値が精度良く測定できたとしても、そもそも使用するパワーケーブル14a,14bの適合性(ケーブル自体、敷設状態等)についても容易に判断することができる。従って、熟練作業者を頼らなくてもこれらの判断が容易となるため、作業効率の向上が見込める。
【0047】
(4)抵抗値Rやインダクタンス値Lの測定値が異常値であると判断されると、異常報知装置が作動され、異常の旨の報知がなされる。これにより、作業者にて測定値異常が容易に認識でき、その後の対応を迅速に行うことができる。
【0048】
(5)抵抗値Rやインダクタンス値Lの測定値が異常値である判断を行った場合に、先端電圧Vaの算出で用いるべく保持する抵抗値Rやインダクタンス値Lの更新が禁止される。これにより、無用なデータ更新を防止できるため、例えば前回に正常なデータが保持され、今回が異常値と判断されても、前回の正常なデータを残すことができる。
【0049】
(6)処理部32は、検出された出力電流と出力電圧に基づいてワイヤ電極12の先端電圧Vaを算出し、その先端電圧Vaに基づいてインバータ回路22をPWM制御する。これにより、スパッタの低減と、アークの安定性向上を図ることができる。そして、好適なアークを発生することができ、溶接性能の向上を図ることができる。
【0050】
尚、本発明の実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、低スパッタ性能発揮指数を溶接用電源装置11の表示装置28に表示した。これを、他の装置に表示するようにしてもよい。例えば、図5に示すように、溶接システムは、溶接用電源装置11と、トーチTHを保持する多関節マニピュレータ41と、マニピュレータ41を制御する制御装置42と、制御装置42に接続されたティーチペンダントTPを備えている。ティーチペンダントTPには、表示部43が設けられている。この表示部43に、低スパッタ性能発揮指数を表示する。制御装置42は、溶接用電源装置11より溶接場所に近い場所に設置されることが多い。このため、ティーチペンダントTPに性能指数を表示することで、作業者がその性能指数を容易に把握することができるようになる。なお、制御装置42に表示部を設け、その表示部に性能指数を表示するようにしてもよい。
【0051】
・上記実施形態では、性能指数を数値で表示するようにした。これを、丸などの図形や色等により表示するようにしてもよい。これにより、性能を容易に把握することが可能となる。
【0052】
・上記実施形態に対し、性能指数を表示するとともに、表示する性能指数に対応する合計抵抗値R又は合計インダクタンス値Lを表示するようにしてもよい。これにより、例えば、パワーケーブルの交換や、パワーケーブルの敷設状態の変更、等のように、溶接装置の状態の改善する対象を容易に把握することができる。
【0053】
・上記形態では、直流リアクトル25に、線形特性を有するリアクトルを用いたが、過飽和特性を有するリアクトルを用いてもよい。過飽和リアクトルを用いることで、高電流領域ではインダクタンス値が小さいことから電流平滑のための波形制御への影響が小さく、低電流領域ではインダクタンス値が増大することでアーク切れが防止されると言うように、全電流領域に亘って好適な直流出力電力を生成することが可能となる。
【0054】
・上記実施形態では、測定前や実測定中に電極12の短絡異常の判定を行うようにしたが、これを省略してもよい。
【符号の説明】
【0055】
10 アーク溶接機(溶接機)
11 溶接用電源装置
12 ワイヤ電極
14a,14b パワーケーブル
22 インバータ回路
23 溶接トランス
24 整流回路(直流変換手段)
25 直流リアクトル(直流変換手段)
26 電流センサ(検出手段)
27 電圧センサ(検出手段)
28 表示装置(表示手段)
31 制御装置(制御手段、先端電圧算出手段、抵抗値算出手段、インダクタンス値算出手段、情報生成手段)
33 記憶装置(記憶手段)
33a テーブル
M 溶接対象
TH トーチ
THa コンタクトチップ(電極)
I 出力電流
Ip 電流値
V 出力電圧
Va 先端電圧(先端電圧値)
R 合計抵抗値
L 合計インダクタンス値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を高周波交流電力に変換するインバータ回路と、変換した交流電力の電圧調整を行う溶接トランスと、該溶接トランスの二次側交流電力から電極と溶接対象との間に溶接のためのアークを生じさせる出力電力を生成する直流変換手段と、検出手段にて検出した出力電流又は出力電圧に基づいて前記インバータ回路を制御する制御手段とを備えた溶接用電源装置であって、
前記電極を短絡状態として行われ、前記出力電流を所定電流値とした時の前記出力電圧の電圧値に基づいて前記出力電力を伝達する経路の合計抵抗値を算出する抵抗値算出手段と、
前記電極を短絡状態として行われ、前記出力電流を所定電流値とした時からの電流減衰量に基づいて前記出力電力を伝達する経路の合計インダクタンス値を算出するインダクタンス値算出手段と、
前記合計抵抗値及び前記合計インダクタンス値に基づいて前記経路に応じて溶接時に発生するスパッタの発生量に対応する性能情報を生成し、前記性能情報を表示手段に表示させる情報生成手段と、
を備えたことを特徴とする溶接用電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接用電源装置において、
抵抗値とインダクタンス値とに関連付けて性能情報が格納されたテーブルを記憶する記憶手段を備え、
前記情報生成手段は、前記テーブルから読み出した抵抗値とインダクタンス値と性能情報と、前記合計抵抗値及び前記合計インダクタンス値に基づいて前記経路に対する性能情報を算出する、
ことを特徴とする溶接用電源装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の溶接用電源装置において、
前記情報生成手段は、
前記合計抵抗値に対応する第1の性能情報と、前記合計インダクタンス値に対応する第2の性能情報をそれぞれ算出し、
前記第1の性能情報と前記第2の性能情報のうち、低い方の性能情報を前記経路に対応する性能情報とする、
ことを特徴とする溶接用電源装置。
【請求項4】
請求項3に記載の溶接用電源装置において、
前記情報生成手段は、前記経路に対応する性能情報に設定した性能情報に対応する前記合計抵抗値又は前記合計インダクタンス値を前記表示手段に表示させる、ことを特徴とする溶接用電源装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶接用電源装置において、
前記制御手段は、前記検出手段にて検出した出力電流と出力電圧とに基づいて前記電極の先端電圧を算出し、前記先端電圧に基づいて前記インバータ回路を制御する、ことを特徴とする溶接用電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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