説明

溶接継手および溶接材料

【課題】高強度母材を予熱なしで溶接して得られる高強度・高靱性溶接継手の提供。
【解決手段】C:0.03〜0.19%、Si:0.03〜0.90%、Mn:0.30〜1.80%、P≦0.030%、S≦0.010%、Cr:0.05〜1.20%、Mo:0.05〜1.00%、sol.Al:0.01〜0.10%、N≦0.0050%以下を含み、残部がFeと不純物の化学組成を有し、マルテンサイト相の構成比率が面積率で95%以上の組織からなる引張強さ≧950MPaの鋼母材と、C:0.03〜0.08%、Si:0.2〜1.0%、Mn:0.3〜3.0%、Ni:4.0〜7.0%、Cr:11.5〜15.0%を含み、残部がFeと不純物からなり、〔Creq+0.5Nieq>16.5〕、〔Creq+5.7Nieq<58.8〕、〔Creq−0.63Nieq<10.6〕を満たす化学組成を有する溶接金属とからなる、溶接継手。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接継手および溶接材料に関する。詳しくは、引張強さが950MPa以上の高強度鋼母材を予熱なしで、テイグ溶接(以下、「TIG溶接」という。)に比べて高能率なガスシールドアーク溶接を行って得られる、具体的には、ミグ溶接(以下、「MIG」溶接という。)またはプラズマ溶接して得られる、高強度および高靱性を有する溶接継手および、この溶接継手をMIG溶接またはプラズマ溶接して製造するための溶接材料に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度鋼、なかでもマルテンサイト相の構成比率が面積率にて95%以上である組織からなる高強度鋼は、構造物を薄肉化できることから軽量化、組み立て工期の短縮、さらにはそれにともなうCO2発生量の削減にも効果があり、溶接構造物として広く使われている。
【0003】
なお、以下の説明において、「マルテンサイト相の構成比率が面積率にて95%以上である組織」のことを、「マルテンサイト相を主とする組織」ということがある。
【0004】
しかし、マルテンサイト相を主とする組織からなる高強度鋼は、薄肉化の効果が大きい一方で、特に、引張強さが950MPa以上の高強度の厚板および鋼管の場合には、溶接施工に際して次のような特別な配慮が必要となるために経済性の点から不利であり、このことが普及の障壁となっている。
【0005】
すなわち、上記強度レベルの高強度鋼は、溶接割れ感受性が高いため、溶接施工に際しては予熱が必要である。さらに、靱性確保のために、例えば、特許文献1で開示されたTIG溶接のような、能率の低い溶接法の適用が必要となる。
【0006】
このため、特許文献2〜4に、引張強さが950MPa以上の高強度鋼の溶接施工に関する技術が開示されている。
【0007】
特許文献2には、950MPa以上の高強度鋼を対象に、低C−Mn−Ni−Cr−Mo−高O系の溶接金属を用いることによる溶接低温割れの防止技術が開示されている。しかし、特許文献2で開示された技術では、溶接継手の降伏強さの確保が困難であり、さらに、湿潤環境下での溶接施工では必ずしも溶接割れを防止することはできない。
【0008】
特許文献3には、溶接金属に残留オーステナイト相を含有させることにより溶接割れを防止する技術が開示されている。しかし、特許文献3の「本発明例」として示される実施No.1〜14の継手の溶接金属の残留オーステナイト相は高々3.2%と低いものである。このため、特許文献3で開示された技術では、湿潤環境下での溶接施工では必ずしも溶接割れを防止することはできない。
【0009】
特許文献4には、CrおよびNiの含有量の高い溶接材料、具体的には、質量%で、Cr:6.0〜16.0%およびNi:6.0〜16.0%を含む溶接材料を用いて、1180MPa級までの高張力鋼を予熱することなく溶接して、低温割れを防止する技術が開示されている。しかし、特許文献4で開示された技術は、引張強さが950MPa級以上の高強度鋼に適用した場合には強度、特に降伏強さの確保が不十分となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−248175号公報
【特許文献2】特開平10−306348号公報
【特許文献3】特開2002−115032号公報
【特許文献4】特開2001−246495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
鋼母材を溶接すると、溶接材料は母材組成により希釈化され溶接金属が形成される。
【0012】
溶接継手の特性は、上記溶接金属の組織に大きく依存するため、溶接継手の作製においては適正な組織制御が求められる。
【0013】
一般に、組織制御では、オーステナイト相の活用によって溶接低温割れの防止および靱性の向上が達成でき、また、凝固時のフェライト相の活用によって溶接高温割れの防止が達成でき、さらに、マルテンサイト相の活用によって高強度化を達成することができる。しかしながら、これらの特性はトレードオフの関係にあるため、これをクリアする材料設計が必要になる。
【0014】
特に、引張強さが950MPa以上の高強度鋼では、どのように組織制御したらよいかが明確になっておらず、新たな成分設計思想、すなわち各元素の定量的な振る舞いの解明に基づいて、トレードオフ関係を解消することが喫緊の課題となっている。
【0015】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、引張強さが950MPa以上の高強度鋼母材を予熱なしで、MIG溶接またはプラズマ溶接して得られる、高強度および高靱性を有する溶接継手の提供を目的とする。さらに、この溶接継手をMIG溶接またはプラズマ溶接して製造するための溶接材料を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記した課題を解決するために、950MPa以上の高張力鋼に用いる溶接部(溶接金属)中のCrおよびNiに着目した。これらの元素は溶接金属のオーステナイト相およびマルテンサイト相の含有量に大きく影響するためである。
【0017】
一方、溶接金属に含まれる元素には、組織制御に対して、CrおよびNiと同様な作用をする元素がある。
【0018】
そこで、下記の(i)式で表されるCr当量(以下、「Creq」と表記する。)および(ii)式で表されるNi当量(以下、「Nieq」と表記する。)で整理して、詳細な調査を行った。
Creq=Cr+1.5Si+Mo・・・(i)、
Nieq=Ni+0.5Mn+0.5Cu+20C+15N・・・(ii)。
【0019】
その結果、下記(a)〜(c)の事項が明らかになった。
【0020】
(a)オーステナイト相の確保には、Creq、Nieqがともに寄与する。特に、Creqの寄与が大きく、十分なオーステナイト相を確保して溶接低温割れを防止するには次の[1]式を満足する必要がある。
Creq+0.5Nieq>16.5・・・[1]。
【0021】
(b)[1]式を満足しても、組織中にオーステナイト相が過剰な場合には強度不足となる。強度はマルテンサイト相の活用によって確保することができ、次の[2]式を満足することによって、強度、特に溶接部の設計応力に影響の大きい降伏強さを確保することができる。
Creq+5.7Nieq<58.8・・・[2]。
【0022】
(c)一方、オーステナイト相の確保では、NieqだけではなくCreqも調整することで、凝固時の組織がフェライト相となり溶接高温割れを防止することが可能となるが、靱性が低下する。このため、次の[3]式を満足する必要がある。
Creq−0.63Nieq<10.6・・・[3]。
【0023】
本発明は、上記の事項を基にして完成されたものであり、その要旨は、下記(1)〜(4)に示す溶接継手および(5)に示す溶接材料にある。
【0024】
(1)質量%で、C:0.03〜0.19%、Si:0.03〜0.90%、Mn:0.30〜1.80%、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Cr:0.05〜1.20%、Mo:0.05〜1.00%、sol.Al:0.01〜0.10%およびN:0.0050%以下を含有し、残部がFeおよび不純物である化学組成を有し、マルテンサイト相の構成比率が面積率にて95%以上である組織からなる、引張強さが950MPa以上の鋼母材と、
質量%で、C:0.03〜0.08%、Si:0.2〜1.0%、Mn:0.3〜3.0%、Ni:4.0〜7.0%およびCr:11.5〜15.0%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、不純物中のP、S、Al、V、Nb、Ti、B、CaおよびNがそれぞれ、P:0.040%以下、S:0.008%以下、Al:0.1%以下、V:0.1%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下、B:0.01%以下、Ca:0.01%以下およびN:0.05%以下で、かつ、下記の[1]〜[3]式を満たす化学組成を有する溶接金属とからなる、
ことを特徴とする溶接継手。
Creq+0.5Nieq>16.5・・・[1]
Creq+5.7Nieq<58.8・・・[2]
Creq−0.63Nieq<10.6・・・[3]
ただし、
Creq=Cr+1.5Si+Mo・・・(i)
Nieq=Ni+0.5Mn+0.5Cu+20C+15N・・・(ii)
で、(i)式および(ii)式中の元素記号は、その元素の含有量 (質量%) を表す。
【0025】
(2)鋼母材が、Feの一部に代えて、質量%で、Cu:2.0%以下、Ni:3.0%以下、V:0.1%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下およびB:0.01%以下のうちの1種以上を含む化学組成を有することを特徴とする、上記(1)に記載の溶接継手。
【0026】
(3)鋼母材が、Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.005%以下を含む化学組成を有することを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の溶接継手。
【0027】
(4)溶接金属が、Feの一部に代えて、質量%で、Mo:2.0%以下およびCu:2.0%以下のうちの1種以上を含む化学組成を有することを特徴とする、上記(1)から(3)までのいずれかに記載の溶接継手。
【0028】
(5)質量%で、Ni:4.0〜8.0%およびCr:13.0〜17.0%を含むことを特徴とする、上記(1)から(4)までのいずれかに記載の溶接継手をMIG溶接またはプラズマ溶接によって製造するために用いる溶接材料。
【0029】
残部としての、「Feおよび不純物」における「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、引張強さが950MPa以上の高強度鋼母材を予熱なしで、MIG溶接またはプラズマ溶接することによって、高強度および高靱性を有する溶接継手を提供することができる。この溶接継手は、本発明に係る溶接材料を用いて、MIG溶接またはプラズマ溶接して製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、以下の説明において、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
【0032】
(A)鋼母材について:
(A−1)化学組成:
C:0.03〜0.19%
Cは、強度向上にもっとも有効であり、かつ安価な元素である。しかし、Cの含有量が0.03%未満では、他の元素による強度保証が必要となり、結果的に経済性が損なわれる。一方、Cを0.16%を超えて含有すると溶接性を阻害しかつ靱性を劣化させることとなる。したがって、Cの含有量は0.03〜0.16%とする。C含有量の望ましい下限は0.05%であり、望ましい上限は0.14%である。
【0033】
Si:0.03〜0.90%
Siは、強度向上に寄与する元素である。しかし、Siの含有量が0.03%未満では効果が少なく、一方、0.60%を超えて含有すると、母材靱性および溶接部靱性を劣化させることになる。したがって、Siの含有量は0.03〜0.60%とする。Si含有量の望ましい下限は0.05%であり、望ましい上限は0.35%である。
【0034】
Mn:0.30〜1.80%
Mnは、強度確保のために必要な元素であり、0.30%以上含有させる必要がある。しかし、Mnを1.80%を超えて含有すると、母材靱性を劣化させる。したがって、Mnの含有量は0.30〜1.80%とする。Mn含有量の望ましい下限は0.60%であり、望ましい上限は1.60%である。Mn含有量のより望ましい下限は0.80%である。
【0035】
P:0.030%以下
Pは、不純物として鋼中に存在し、母材および溶接熱影響部の低温靱性を損なうだけでなく、溶接性をも低下させ、さらに、耐歪み時効特性も低下させてしまう。このため、Pの含有量はできるだけ低くすること好ましいが、過度の低減はコスト上昇を招く。したがって、実害を生じさせない範囲として、Pの含有量を0.030%以下とする。なお、Pの含有量は0.020%以下とすることが一層好ましい。
【0036】
S:0.010%以下
Sは、不純物として鋼中に存在し、母材および溶接熱影響部の低温靱性を損なうだけでなく、溶接性をも低下させる。このため、Sの含有量はできるだけ低くすること好ましいが、過度の低減はコスト上昇を招く。したがって、実害を生じさせない範囲として、Sの含有量を0.010%以下とする。
【0037】
Cr:0.05〜1.20%
Crは、焼入れ性を高める働きを有し、強度および靱性の向上に有効な元素であるため、0.05%以上の量を含有させる必要がある。しかし、Crの含有量が1.20%を超えると靱性を劣化させる。したがって、Crの含有量は0.05〜1.20%とする。Cr含有量の望ましい下限は0.4%であり、望ましい上限は0.8%である。
【0038】
Mo:0.05〜1.00%
Moは、強度の向上に有効であるため、0.05%以上含有させる必要がある。しかし、Moを1.00%を超えて含有すると靱性を損なう。したがって、Moの含有量は0.05〜1.00%とする。Mo含有量の望ましい下限は0.3%であり、望ましい上限は0.6%である。
【0039】
sol.Al:0.01〜0.10%
Alは、脱酸作用を有することに加えて、AlNを形成してNを固定化し、組織の微細化を促進する作用を有する。さらに、鋼中にBが含有されている場合、NがAlNとして固定化されることにより、BNの生成が避けられるので、焼入れ性向上に寄与する有効B(マトリックスに固溶した状態のB)の量も多くなる。上記したAlのN固定効果を得るためには、Alをsol.Alで、0.01%以上の量含有させる必要がある。しかし、Alをsol.Alで0.10%を超える量含有すると、溶接部の特性が劣化するだけでなく、耐歪み時効特性および溶接性が低下する。したがって、Alの含有量をsol.Alで、0.01〜0.10%とした。sol.Al量の望ましい下限は0.02%であり、望ましい上限は0.08%である。なお、「sol.Al」とは、「鋼中で介在物になっていない固溶状態のAl」を指す。
【0040】
N:0.0050%以下
Nは、不純物として鋼中に存在し、0.0050%を超えて含まれる場合には、固溶N量が増大して靱性が劣化する。また、鋼中にBが含有されている場合、N含有量が多いと、有効B量の確保が難しくなるため強度不足が生じ、靱性劣化が増大する。このため、N含有量に上限を設けて0.0050%以下とする。N含有量は、望ましくは0.0040%以下である。
【0041】
本発明の溶接継手を構成する鋼母材の一つは、上述のCからNまでの元素を含み、残部がFeおよび不純物である化学組成を有するものである。
【0042】
本発明の溶接継手を構成する鋼母材の他の一つは、上記残部としての「Feおよび不純物」におけるFeの一部に代えて、Cu、Ni、V、Nb、Ti、BおよびCaから選択される1種以上の元素を含有する化学組成を有するものである。
【0043】
以下、任意元素である上記Cu、Ni、V、Nb、Ti、BおよびCaの作用効果と、含有量の限定理由について説明する。
【0044】
先ず、上記のCuからBまでの元素は、いずれも、強度を向上させる作用を有する。このため、これらの元素を含有させてもよい。
【0045】
以下、CuからBまでの元素について説明する。
【0046】
Cu:2.0%以下
Cuは、強度向上作用を有するので、含有させてもよい。しかしながら、Cuの含有量が多くなって2.0%を超えると、スケール発生により鋼材の表面性状を劣化させ、さらには、靱性の劣化を招く。したがって、含有させる場合のCuの量を、2.0%以下とする。含有させる場合のCuの量は、0.5%以下であることが好ましい。
【0047】
一方、前記したCuの効果を安定して得るためには、Cuの量は0.05%以上であることが望ましく、0.1%以上であれば一層望ましい。
【0048】
Ni:3.0%以下
Niは、強度向上作用を有する。Niには、靱性を高める作用もある。したがって、Niを含有させてもよい。しかし、Niの含有量が3.0%を超えると効果が飽和し、コストの上昇を招くばかりである。したがって、含有させる場合のNiの量を3.0%以下とする。含有させる場合のNiの量は、2.0%以下であることが好ましい。
【0049】
一方、前記したNiの効果を安定して得るためには、Niの量は0.05%以上であることが望ましく、0.3%以上であれば一層望ましい。
【0050】
V:0.1%以下
Vは、強度向上作用を有する。すなわち、Vは、焼戻し時にVCとして析出し、強度を向上させる働きを有する。したがって、Vを含有させてもよい。しかし、0.1%を超える量のVの含有は、強度向上効果が飽和してコストの上昇を招くうえに、靱性の低下を招く。したがって、含有させる場合のVの量を0.1%以下とする。含有させる場合のVの量は、0.08%以下であることが好ましい。
【0051】
一方、前記したVの効果を安定して得るためには、Vの量は0.005%以上であることが望ましく、0.01%以上であれば一層望ましい。
【0052】
Nb:0.1%以下
Nbは、強度向上作用を有する。すなわち、Nbは、焼戻し時に粒内にNb(C、N)として析出し、降伏強さを向上させる働きを有する。さらに、Nbは、スラブ加熱時に結晶粒粗大化を抑制するほか、焼入れ時にも同様の効果を発揮するので、破面単位の微細な鋼材を製造するのに有効である。したがって、Nbを含有させてもよい。しかし、Nbの含有量が多くなって0.1%を超えると、熱影響部靱性の劣化が顕著化する。したがって、含有させる場合のNbの量を0.1%以下とする。含有させる場合のNbの量は、0.03%以下であることが好ましい。
【0053】
一方、前記したNbの効果を安定して得るためには、Nbの量は0.005%以上であることが望ましく、0.01%以上であれば一層望ましい。
【0054】
Ti:0.1%以下
Tiは、強度向上作用を有する。Tiは、脱酸元素として作用するほか、Al、TiおよびMnからなる酸化物相を形成して、組織の微細化にも寄与する。したがって、Tiを含有させてもよい。しかし、Tiの含有量が多くなって0.1%を超えると、形成される酸化物がTi酸化物またはTi−Al酸化物となって分散密度が低下するので、特に、小入熱溶接部熱影響部における組織の微細化効果が失われる。したがって、含有させる場合のTiの量を0.1%以下とする。含有させる場合のTiの量は、0.08%以下であることが好ましい。
【0055】
一方、前記したTiの効果を安定して得るためには、Tiの量は0.005%以上であることが望ましく、0.01%以上であれば一層望ましい。
【0056】
B:0.01%以下
Bは、強度向上作用を有する。すなわち、Bは、オーステナイト粒界に偏析して焼入れ性を著しく向上させることによって、強度を高める作用を有する。したがって、Bを含有させてもよい。しかし、Bの含有量が多くなって0.01%を超えると、靱性が劣化する。したがって、含有させる場合のBの量を0.01%以下とする。含有させる場合のBの量は、0.009%以下であることが好ましい。
【0057】
一方、前記したBの効果を安定して得るためには、Bの量は0.0005%以上であることが望ましく、0.002%以上であれば一層望ましい。
【0058】
なお、Bは比較的容易にNと結合してBNを形成する。そして、BがBNとして存在すれば、前記したBの焼入れ性向上効果が得られない。したがって、Bを含有させる場合には、BがNと結合するのを極力妨げるために、Nを他の元素で固定し、Bが有効Bとして存在できるようにすることが望ましい。
【0059】
上記のCu、Ni、V、Nb、TiおよびBは、そのうちのいずれか1種のみ、または、2種以上の複合で含有させることができる。これらの元素を複合して含有させる場合の合計量は、5.31%であってもよいが、5.0%以下であることが好ましく、3.0%以下であることが一層好ましい。
【0060】
Ca:0.005%以下
Caは、硫化物系非金属介在物の形態を制御して延性/脆性亀裂進展抵抗を高め、結果的に靱性向上に寄与する。したがって、Caを含有させてもよい。しかし、Caの含有量が多くなって0.005%を超えると、非金属介在物の量が増加し、却って靱性が損なわれるようになる。したがって、含有させる場合のCaの量を0.005%以下とする。含有させる場合のCaの量は、0.003%以下であることが好ましい。
【0061】
一方、前記したCaの効果を安定して得るためには、Caの量は0.001%以上であることが望ましく、0.002%以上であれば一層望ましい。
【0062】
(A−2)組織:
前記(A−1)項で述べた化学組成を有する鋼母材が、950MPa以上の引張強さを具備するためには、該鋼母材の組織は、マルテンサイト相を主とする組織、つまり、マルテンサイト相の構成比率が面積率にて95%以上である組織からなるものでなければならない。
【0063】
上記の「マルテンサイト」は、「ラスマルテンサイト」および「レンズマルテンサイト」のいずれであっても構わない。また、残りの相は特に限定するものではなく、粒界フェライト相、粒状フェライト相、パーライト相など、通常観察される相で構わない。マルテンサイト相の構成比率が100%であっても構わない。
【0064】
なお、(A−1)項で述べた化学組成を有する鋼を通常の方法で溶製、連続鋳造して得たスラブの化学組成に応じて、圧延、熱処理等の製造条件を適宜調整することによって、マルテンサイト相を主とする組織からなり、引張強さが950MPa以上の鋼母材を得ることができる。
【0065】
(B)溶接金属について:
C:0.03〜0.08%
Cは、後述するNと同様にオーステナイト相を安定化するのに有効な元素である。しかし、Cの含有量が0.03%未満ではオーステナイト相の安定化が不十分になり、また、0.08%を超えると溶接低温割れ感受性が増大する。このため、Cの含有量は0.03〜0.08%とする。C含有量の望ましい下限は0.04%であり、望ましい上限は0.07%である。
【0066】
Si:0.2〜1.0%
Siは、溶接時の溶融金属の流動性を確保することによって溶接欠陥を防止するのに有効な元素である。しかし、Siの含有量が0.2%未満では流動性の確保ができず溶接欠陥が発生し、また、1.0%を超えると靱性が低下する。このため、Siの含有量は0.2〜1.0%とする。Si含有量の望ましい下限は0.25%であり、望ましい上限は0.85%である。
【0067】
Mn:0.3〜3.0%
Mnは、溶接時の脱硫および脱酸効果によって熱間加工性を向上させるのに有効な元素である。しかし、Mnの含有量が0.3%未満では、これらの効果が不足し、また、3.0%を超えると靱性が低下する。このため、Mnの含有量は0.3〜3.0%とする。Mn含有量の望ましい下限は0.5%であり、望ましい上限は1.0%である。
【0068】
Ni:4.0〜7.0%
Niは、オーステナイト相形成元素として作用し靱性と溶接低温割れ感受性低減に有効な元素である。しかし、Niの含有量が4.0%未満では、これらの効果が不足し、また、7.0%を超えると強度が不足する。このため、Niの含有量は4.0〜7.0%とする。Ni含有量の望ましい下限は4.5%であり、望ましい上限は6.5%である。
【0069】
Cr:11.5〜15.0%
Crは、凝固時にフェライト相を生成させることによって溶接高温割れを防止するのに有効な元素である。しかし、Crの含有量が11.5%未満では、上記の効果が不足し、また、15.0%を超えると靱性が低下する。このため、Crの含有量は11.5〜15.0%とする。Cr含有量の望ましい下限は13.0%であり、望ましい上限は14.0%である。
【0070】
本発明の溶接継手を構成する溶接金属の一つは、上述のCからNiまでの元素を含み、残部がFeおよび不純物からなり、不純物中のP、S、Al、V、Nb、Ti、B、CaおよびNの含有量をそれぞれ、次に述べる範囲に制限し、かつ、後述する[1]〜[3]式を満たす化学組成を有するものである。
【0071】
なお、溶接金属における不純物には、溶接継手を製造した時の希釈化により鋼母材組成から混入するものも含まれる。
【0072】
P:0.040%以下
Pは、溶接材料中に不純物として存在し、それが溶接金属にも混入する。Pの含有量が0.040%を超えると、溶接高温割れ感受性が大きくなる。したがって、Pの含有量は0.040%以下とする。Pの含有量は0.030%以下とすることが好ましい。
【0073】
S:0.008%以下
Sは、溶接材料中に不純物として存在し、それが溶接金属にも混入する。Sの含有量が0.008%を超えると、溶接材料を製造する際に、熱間加工性が不足し線材への加工が困難となる。よって、溶接継手を製造した時の溶接金属のS含有量も0.008%以下となる。
【0074】
Al:0.1%以下、V:0.1%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下、B:0.01%以下、Ca:0.01%以下およびN:0.05%以下
本発明の溶接継手を構成する溶接金属は、不純物中のP、S、Al、V、Nb、Ti、B、CaおよびNの含有量がそれぞれ、Al:0.1%以下、V:0.1%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下、B:0.01%以下、Ca:0.01%以下およびN:0.05%以下であれば、溶接継手の性能に問題は生じない。
【0075】
例えば、Nが不純物として混入する場合、Nが溶接金属中に0.05%を超えて含有されると、靱性低下を招く。しかし、0.05%以下の含有量であれば、Nは、オーステナイト相形成元素として、靱性と溶接低温割れ感受性低減に有効に作用するため、溶接継手の性能に問題は生じない。
【0076】
本発明の溶接継手を構成する溶接金属の他の一つは、上記残部としての「Feおよび不純物」におけるFeの一部に代えて、MoおよびCuのうちの1種以上の元素を含有し、かつ、後述する[1]〜[3]式を満たす化学組成を有するものである。
【0077】
以下、任意元素である上記MoおよびCuの作用効果と、含有量の限定理由について説明する。
【0078】
Mo:2.0%以下
Moは、凝固時にフェライト相を生成させて溶接高温割れ防止に有効に作用する。したがって、Moを含有させてもよい。しかし、Moの含有量が2.0%を超えると、溶接継手の靱性が低下する。したがって、含有させる場合のMoの量を2.0%以下とする。含有させる場合のMoの量は、1.5%以下であることが好ましい。
【0079】
一方、前記したMoの効果を安定して得るためには、Moの量は0.05%以上であることが望ましく、0.1%以上であれば一層望ましい。
【0080】
Cu:2.0%以下
Cuは、オーステナイト相形成元素として作用し、靱性の向上と溶接低温割れ感受性の低減に効果を有する。しかし、Cuの含有量が2.0%を超えると熱間加工性が低下する。したがって、含有させる場合のCuの量を2.0%以下とする。含有させる場合のCuの量は、1.5%以下であることが好ましい。
【0081】
一方、前記したCuの効果を安定して得るためには、Cuの量は0.05%以上であることが望ましく、0.1%以上であれば一層望ましい。
【0082】
上記のMoおよびCuは、そのうちのいずれか1種のみ、または、2種の複合で含有させることができる。これらの元素を複合して含有させる場合の合計量は、4.0%であってもよいが、3.0%以下であることが好ましい。
【0083】
溶接割れ、靱性および強度の互いのトレードオフ関係を解消するためには、溶接金属が、上記した元素の含有量範囲だけではなく、下記の[1]〜[3]式を満たす必要がある。
Creq+0.5Nieq>16.5・・・[1]
Creq+5.7Nieq<58.8・・・[2]
Creq−0.63Nieq<10.6・・・[3]
ただし、
Creq=Cr+1.5Si+Mo・・・(i)
Nieq=Ni+0.5Mn+0.5Cu+20C+15N・・・(ii)
で、(i)式および(ii)式中の元素記号は、その元素の含有量 (質量%) を表す。
【0084】
[1]式を満たすことにより、オーステナイト相が確保されて、溶接低温割れを防止できる。
【0085】
しかし、過剰なオーステナイト相は強度低下を招く。そこで、[2]式を満たすことでオーステナイト相の量が抑制され、降伏強さを確保することができる。
【0086】
さらに、[3]式を満たすことで、オーステナイト相を確保しつつ、マトリックスの脆化を抑えることが可能になって、靱性を確保することができる。
【0087】
(C)溶接材料について:
上述の鋼母材と溶接金属とからなる溶接継手を製造するためには、前記(A)項で述べた化学組成を有する鋼母材との相性を考慮して溶接材料を用意する必要がある。
【0088】
すなわち、鋼母材を溶接した場合には、溶接金属の化学組成は鋼母材中の元素による希釈を受けることから、鋼母材の化学組成を考慮して溶接材料の化学組成を決めなければならない。
【0089】
基本的には、上記(B)項で述べた溶接金属の化学組成範囲内にある溶接材料を用いて溶接継手を製造すればよい。しかし、鋼母材と溶接材料の特定元素の含有量の差が大きい場合には、希釈効果によって、溶接金属の化学組成が上述した範囲から外れる可能性が高くなる。
【0090】
本発明の溶接継手における溶接金属と鋼母材の化学組成は、NiとCr以外の元素については、その含有量の範囲が少なくとも一部重複する。これに対して、NiおよびCrについては、溶接金属と鋼母材の含有量の範囲が重複せずその差も大きい。このような場合、溶接時にNiとCr以外の元素については希釈効果を受けることはあまりないが、NiとCrについては大きく希釈の影響を受ける。しかしながら、Ni:4.0〜8.0%およびCr:13.0〜17.0%を含む溶接材料を用いれば、溶接金属におけるNiとCrの含有量を、容易に前記(B)項で述べた範囲に調整することができる。
【0091】
すなわち、本発明の溶接継手を製造するためには、Ni:4.0〜8.0%およびCr:13.0〜17.0%を含む溶接材料を用いればよい。溶接材料は、NiおよびCrの含有量の下限がそれぞれ、4.5%および13.5%であり、また、上限がそれぞれ、7.5%および16.5%であるものを用いることがより一層好ましい。
【0092】
なお、NiとCr以外の元素に関しては、溶接材料が上記(B)項で述べた溶接金属の化学組成条件を満たせば、溶接金属における該元素の含有量を容易に、前記(B)項で述べた範囲に調整することができる。
【0093】
すなわち、上述した量のNiおよびCrに加えて、C:0.03〜0.08%、Si:0.2〜1.0%およびMn:0.3〜3.0%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、不純物中のP、S、Al、V、Nb、Ti、B、CaおよびNがそれぞれ、P:0.040%以下、S:0.008%以下、Al:0.1%以下、V:0.1%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下、B:0.01%以下、Ca:0.01%以下およびN:0.05%以下で、かつ、前述の[1]〜[3]式を満たす化学組成を有する溶接材料を用いれば、溶接金属の化学組成を、容易に前記(B)項で述べた範囲に調整することができる。
【0094】
このように化学組成を調節した溶接材料を用いてMIG溶接またはプラズマ溶接を行えば、予熱なしで溶接割れを防止し、かつ高靱性と950MPa以上の高強度を有する溶接継手を製造することができる。
【0095】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0096】
表1に示す化学組成を有する鋼P0〜P3を真空溶解炉にて溶製してインゴットとした。次いで、各インゴットから、熱間鍛造、熱間圧延、熱処理および機械加工により、厚さ30mm×幅200mm×長さ300mmで、長辺の端部に開先角度30度のX開先を設けた供試鋼板(鋼母材)を作製した。
【0097】
なお、上記の供試鋼板については、別途引張試験によって、引張強さが950MPa以上であることを確認した。さらに、別途実施したミクロ試験によって、該供試鋼板の組織が、マルテンサイト相の構成比率が面積率にて96〜100%のマルテンサイト相を主とする組織であることを確認した。
【0098】
また、表2に示す化学組成を有する鋼WW1〜WW7を真空溶解炉にて溶製してインゴットとした。次いで、各インゴットを1200℃に加熱し、熱間鍛造によって直径50mmの丸棒に仕上げた。室温まで冷却した上記の直径50mmの丸棒を、1250℃に加熱し、熱間圧延によって直径6mmの素線を得た。このようにして得た素線に、1050℃での焼鈍と冷間圧延とを繰り返して、直径1.2mmの溶接材料(溶接ワイヤ)を作製した。
【0099】
次いで、表3に示す鋼母材と溶接材料の組合せによって、溶接継手A0〜A8およびB1〜B4を作製した。
【0100】
具体的には、表3の「鋼母材」欄に記載の鋼母材同士を突き合わせて、入熱量が10〜28kJ/cmの条件にて、MIG溶接を行い、溶接継手を作製した。
【0101】
なお、シールドガスにはAr+50%Heの混合ガス(つまり、ArとHeの体積比が1:1の混合ガス)を用いた。入熱量を調整することで希釈率をコントロールして溶接金属の化学組成を変化させた。
【0102】
このようにして作製した溶接継手の溶接金属から分析試料を採取し化学分析にて、溶接金属の化学組成を調査した。
【0103】
表3に、溶接金属の成分分析結果を示す。
【0104】
【表1】

【0105】
【表2】

【0106】
【表3】

【0107】
さらに、得られた溶接継手の板厚中央部から機械加工により、継手引張試験片、溶接金属引張試験片およびシャルピー衝撃試験片を採取した。
【0108】
継手引張試験片は、溶接線を中心に直交方向に、平行部が、直径6mmかつ長さ30mmになるように採取し、室温で引張試験を行って引張強さを測定した。なお、溶接継手の引張強さは980MPa以上を目標とした。
【0109】
溶接金属引張試験片は、直径6mmかつ長さ30mの平行部がすべて溶接金属となるように、溶接線方向に採取し、室温で引張試験を行って0.2%耐力を測定して降伏強さを求めた。なお、溶接金属の降伏強さは600MPa以上を目標とした。
【0110】
シャルピー衝撃試験片は、溶接金属中央に深さ2mmのVノッチをもつようにして、10mm×10mm×55mmサイズの試験片を採取した。−40℃でのシャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギーを測定して靱性を評価した。なお、−40℃での吸収エネルギーは47J以上を目標とした。
【0111】
表4に、上記の各試験結果をまとめて示す。なお、表4において、「溶接継手の引張強さ」、「溶接金属の降伏強さ」および「靱性」の各欄における「○」は、上記の各特性が目標をクリアしていることを示し、一方、「×」は、上記の各特性が目標に未達であることを示す。
【0112】
溶接継手の引張強さ、溶接金属の降伏強さおよび靱性のすべてが目標をクリアした溶接継手については、以下の試験によって溶接低温割れの評価を行った。
【0113】
すなわち、前記の厚さ30mm×幅200mm×長さ300mmで、長辺の端部に開先角度30度のX開先を設けた供試鋼板を、厚さ80mmの市販のSM400Bの鋼板上に四周を拘束溶接した。その後、予熱を一切行わずに、前記溶接継手の作製と同様の溶接条件で開先内に3パス溶接し、溶接継手を作製した。
【0114】
48時間放置した後、各溶接継手の5箇所から横断面試料を採取して鏡面研磨した。次いで、倍率を100倍として光学顕微鏡観察して割れ、すなわち、溶接低温割れの有無を調査した。なお、光学顕微鏡により観察した5個の全ての試料に溶接低温割れのないことを目標とした。
【0115】
表4に、上記の試験結果を併せて示す。なお、表4の「溶接低温割れ」欄における「○」は、光学顕微鏡による観察で5個の全ての試料に溶接低温割れが認められず目標をクリアしたことを示す。一方、「×」は、光学顕微鏡による観察で5個の試料のうち少なくとも1個の試料に溶接低温割れが認められたことを示す。また、「−」は試験していないことを示す。
【0116】
【表4】

【0117】
表4から、本発明で規定する条件を満足している「本発明例」の溶接継手A1〜A8は、予熱なしであるにもかかわらず、強拘束条件の下でも溶接低温割れは認められず、しかも、溶接継手の引張強さ、溶接金属の降伏強さおよび靱性も目標をクリアしており、高強度および高靱性を有することが明らかである。
【0118】
これに対して、本発明で規定する条件から外れた「比較例」の溶接継手B1〜B4については、溶接継手の引張強さ、溶接金属の降伏強さおよび靱性の少なくともいずれかが目標に達していない(溶接継手B1〜B3)か、溶接低温割れが生じた(溶接継手B4)。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明によれば、引張強さが950MPa以上の高強度鋼母材を予熱なしで、MIG溶接またはプラズマ溶接することによって、高強度および高靱性を有する溶接継手を提供することができる。この溶接継手は、本発明に係る溶接材料を用いて、MIG溶接またはプラズマ溶接して製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.03〜0.19%、Si:0.03〜0.90%、Mn:0.30〜1.80%、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Cr:0.05〜1.20%、Mo:0.05〜1.00%、sol.Al:0.01〜0.10%およびN:0.0050%以下を含有し、残部がFeおよび不純物である化学組成を有し、マルテンサイト相の構成比率が面積率にて95%以上である組織からなる、引張強さが950MPa以上の鋼母材と、
質量%で、C:0.03〜0.08%、Si:0.2〜1.0%、Mn:0.3〜3.0%、Ni:4.0〜7.0%およびCr:11.5〜15.0%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、不純物中のP、S、Al、V、Nb、Ti、B、CaおよびNがそれぞれ、P:0.040%以下、S:0.008%以下、Al:0.1%以下、V:0.1%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下、B:0.01%以下、Ca:0.01%以下およびN:0.05%以下で、かつ、下記の[1]〜[3]式を満たす化学組成を有する溶接金属とからなる、
ことを特徴とする溶接継手。
Creq+0.5Nieq>16.5・・・[1]
Creq+5.7Nieq<58.8・・・[2]
Creq−0.63Nieq<10.6・・・[3]
ただし、
Creq=Cr+1.5Si+Mo・・・(i)
Nieq=Ni+0.5Mn+0.5Cu+20C+15N・・・(ii)
で、(i)式および(ii)式中の元素記号は、その元素の含有量 (質量%) を表す。
【請求項2】
鋼母材が、Feの一部に代えて、質量%で、Cu:2.0%以下、Ni:3.0%以下、V:0.1%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下およびB:0.01%以下のうちの1種以上を含む化学組成を有することを特徴とする、請求項1に記載の溶接継手。
【請求項3】
鋼母材が、Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.005%以下を含む化学組成を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の溶接継手。
【請求項4】
溶接金属が、Feの一部に代えて、質量%で、Mo:2.0%以下およびCu:2.0%以下のうちの1種以上を含む化学組成を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれかに記載の溶接継手。
【請求項5】
質量%で、Ni:4.0〜8.0%およびCr:13.0〜17.0%を含むことを特徴とする、請求項1から4までのいずれかに記載の溶接継手をMIG溶接またはプラズマ溶接によって製造するために用いる溶接材料。

【公開番号】特開2013−86134(P2013−86134A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229335(P2011−229335)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】