説明

溶接継手及びその製造方法

【課題】排気2重管とフランジとからなる溶接継手において、内管の端面の溶断を防止できる溶接継手及びその製造方法を提供する。
【解決手段】内管2及び外管3で構成される排気2重管1と板状のフランジ4とからなる溶接継手において、内管2の端面2aを外管3の端面3aよりも管軸1a方向内側に配置して内管2の端部2bと外管3の端部3bを少なくとも1箇所溶接W1し、外管3の端部3bをフランジ4の貫通孔4aに嵌合して貫通孔4aの内面と全周溶接し、全周溶接により形成された溶接ビードW2が内管2の端面2aと離間している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に用いられる排気2重管と板状のフランジからなる溶接継手及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の排気系において、内燃機関の始動時における排気ガスの温度低下を抑え、触媒を早期に活性化させるために、外管と内管からなる排気2重管が採用されている。
【0003】
そして、排気2重管の端部に板状のフランジを溶接固定してなる溶接継手として、例えば、特許文献1及び特許文献2が公知である。特許文献1には、重合した内外管の端部をスポット溶接により溶着し、その外管の端部をフランジの貫通孔に嵌合し、貫通孔内にて外管の端面とフランジとを隅肉溶接等のアーク溶接にて溶着する構成が開示されている。また、外管の肉厚は強度保持部材として機能する寸法、例えば、1.5〜2.5mmに設定され、内管の肉厚は、その熱容量を小さくできるよう外管より薄く、例えば、0.6〜0.8mmに設定されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示される溶接継手においては、外管の熱容量に対し内管の熱容量が小さいため、外管の端面とフランジとを溶接する際に、外管及びフランジの熱容量に合わせて溶接の入熱量を設定すると、熱容量が小さい内管の端面が溶断(溶け落ち)するおそれがある。
【0005】
一方、特許文献2には、外管の端面と内管の端面を管軸方向にずらし、外管の端面をフランジの孔内にて隅肉溶接し、内管の端面を外管に隅肉溶接する構成が開示されているが、板厚が0.6〜0.8mmと薄い内管の端面を隅肉溶接することは容易でなく、端面が溶断するおそれがある。
【0006】
【特許文献1】特開平9−151730
【特許文献2】特開2005−180270
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題に鑑み、排気2重管とフランジとからなる溶接継手において、内管の端面の溶断を防止できる溶接継手及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1の発明によれば、内管及び外管で構成される排気2重管と板状のフランジとからなる溶接継手において、前記内管の端面を前記外管の端面よりも管軸方向内側に配置して前記内管の端部と前記外管の端部を少なくとも1箇所溶接し、前記外管の端部を前記フランジの貫通孔に嵌合して前記貫通孔の内面と全周溶接し、該全周溶接により形成された溶接ビードが内管の端面と離間している。
【0009】
2番目の発明では、1番目の発明において、前記外管が、2つの半体を合わせて形成され、該2つの半体の合わせ部の先端部に切欠部を形成し、前記2つの半体の合わせ部と、前記貫通孔の周縁部とが交わる部位を、前記半体の外面側から溶接し、前記切欠部と前記フランジとを、前記貫通孔の内部で、かつ、貫通孔の内部側から溶接し、前記半体の外面側からの溶接により形成される溶接ビードと、前記切欠部に形成される溶接ビードとを、重なり合わせることを特徴とする。
【0010】
3番目の発明では、1番目の発明において、前記貫通孔が、小径部と、大径部と、該小径部と該大径部を繋ぐ段部からなり、前記外管の端面を前記小径部内に途中配置し、前記段部の最内側に形成された角部に電極を指向させてTIG溶接トーチを回動し、前記段部を溶融して前記外管のみを前記貫通孔内にて全周溶接する。
【0011】
請求項4の発明によれば、内管及び外管で構成される排気2重管と板状のフランジとからなる溶接継手の製造方法であって、前記内管の端部を前記外管の端面よりも管軸方向内側に配置して前記内管の端部と前記外管の端部を少なくとも1箇所溶接する工程と、前記外管の端面を前記フランジの貫通孔に嵌合して前記貫通孔の内面と全周溶接する工程を含み、該全周溶接により形成された溶接ビードが、内管の端面と離間している。
【0012】
5番目の発明では、4番目の発明において、前記外管が、2つの半体を合わせて形成され、該2つの半体の合わせ部の先端部に切欠部を形成し、前記2つの半体の合わせ部と、前記貫通孔の周縁部とが交わる部位を、前記半体の外面側から溶接する工程と、前記切欠部と前記フランジとを、前記貫通孔の内部で、かつ、貫通孔の内部側から溶接する工程を含み、前記半体の外面側からの溶接により形成される溶接ビードと、前記切欠部に形成される溶接ビードとを、重なり合わせる。
【0013】
6番目の発明にでは、4番目の発明において、前記貫通孔が、小径部と、大径部と、該小径部と該大径部を繋ぐ段部からなり、前記外管の端面を前記小径部内に途中配置し、前記段部の最内側に形成された角部に電極を指向させてTIG溶接トーチを回動し、前記段部を溶融して前記外管のみを前記貫通孔内にて全周溶接する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、排気2重管とフランジとからなる溶接継手において、板厚が薄い内管の端面の溶断を確実に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態を、図1乃至図8に基づいて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1乃至図3は本発明の第1の実施形態に係る溶接継手及びその製造方法を示す。図1は溶接継手の断面図であり、図2は排気2重管1の断面図であり、図3は排気2重管1の外管3の端部3bをフランジ4の貫通孔4a内に嵌合し、全周溶接する前の状態を示す断面図である。なお、各図は管軸1aより左半分の断面を示し、右半分は不図示とする。
【0017】
排気2重管1は、図2に示すように、金属製の内管2及び外管3から構成され、内管2に外管3が隙間Gを有して外装されている。外管3の端部3bは縮径されており、内管2の端部2bが端部3b内に嵌合されている。また、内管2の端面2aが、外管3の端面3aよりも管軸1a方向内側(図の下側)、すなわち、外管3にフランジ4が接合される側と反対側に、長さL分、例えば5mm、位置をずらして配置されている。尚、長さLは、後述する溶接ビードW2が内管2の端面2aと離間するよう、溶接ビードW2の形成量に応じて適宜設定される。そして、この状態において端部2bと端部3bが、点溶接(スポット溶接)W1により管の円周上の少なくとも1箇所溶着されている。
【0018】
一方、金属製のフランジ4は、外管3よりも肉厚、例えば10mm程度の板状体であり、その中央部には外管3の端部3bを嵌合する貫通孔4aが穿設されている。また、フランジ4には、不図示の内燃機関の排気ポートや、フランジ付管や、排気ガス浄化装置等の排気系部品に締結するための複数のボルト挿通孔4bが、貫通孔4aの周りに間隔を有して穿設されている。
【0019】
そして、図3に示すように、外管3の端部3bを、フランジ4の貫通孔4aに嵌合してTIG溶接トーチ5の電極5aを端面3aに指向させるとともに管軸1a周りに回動させて貫通孔4aの内面と全周溶接すると、図1に示すように、溶接ビードW2が形成され外管3と貫通孔4aが溶着し、排気2重管1とフランジ4からなる溶接継手が得られる。このとき、前述したように、内管2の端面2aが、外管3の端面3aよりも長さL分、位置をずらして配置されていることにより、溶接ビードW2は、内管2の端面2aと離間している。
【0020】
したがって、内管2の端面2bが溶接されることがなく、板厚が薄い内管の端面の溶断を確実に防止できる。
【実施例2】
【0021】
図4は本発明の第2の実施形態に係る溶接継手及びその製造方法を示す。尚、第1の実施形態と同一態様部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0022】
排気2重管11の外管13は、金属板をプレス成形してなる2つの半体13a,13bを最中状に合わせるとともに、合わせ部13cを全長に亘って溶接して構成されている。また、合わせ部13cの先端部にV字状の切欠部13dが形成されている。尚、切欠部13dは先端に向かって拡開する形状であればよく、例えば、U字状や円弧状に形成してもよい。
【0023】
そして、合わせ部13cと、フランジ4の貫通孔4aの周縁部4cとが交わる部位Pを、溶接トーチ5により半体13a,13bの外面側から点溶接し、溶接ビードW3が形成される。
【0024】
次に、TIG溶接トーチ5の電極5aを外管13の端面13eに指向させるとともに管軸11a周りに回動させ、外管13の端部を貫通孔4a内にて全周溶接すると、溶接ビードW2が形成される。この全周溶接は、切欠部13dの形状に沿って溶接することなく、端面13eの単一平面上において溶接する。尚、溶接ビードW2は、内管2の端面2aと離間している。
【0025】
次に、切欠部13dとフランジ4とを、貫通孔4a内部で、かつ、貫通孔4aの内部側から溶接し、溶接ビードW4が形成される。尚、溶接ビードW4は、内管2の端面2aと離間している
【0026】
これにより、切欠部に形成される溶接ビードW4が、半体13a,13bの板厚方向(外面方向)へ溶け込むことにより、既に形成された溶接ビードW3を溶融して溶接ビードW3とW4が重なり合い、一体化する。
【0027】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様な効果が得られるとともに、外管が2つの半体を最中状に合わせて形成される場合、半体の合わせ部とフランジとを確実に接合することができ、外管とフランジとの接合部からのガス洩れを防ぐことができる。
【実施例3】
【0028】
図5及び図6は本発明の第3の実施形態に係る溶接継手及びその製造方法を示す。尚、第1の実施形態と同一態様部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0029】
フランジ14の貫通孔は、小径部14aと、大径部14bと、小径部14aと大径部14bを繋ぐ段部14cから構成されている。段部14cの上面は平面状であり、段部14cの最内側に角部14dを有する。
【0030】
そして、小径部14a内に外管3の端面3aを、角部3d対し軸1a方向にX量ずらして途中配置し、図示しない治具により外管3とフランジ14を位置決め固定する。尚、Xの量は、後述する溶接ビードW2の形成量に応じて適宜設定される。
【0031】
次に、TIG溶接トーチ5の電極5aを角部14dに指向させるとともにTIG溶接トーチ5を管軸1a周りに回動し、段部14cをTIGアークにより全周溶融する。そして、図6に示すように、溶融した段部14cは、端面3a及び小径部14aに向かって自重で流下した後、自然冷却にて固化し溶接ビードW2となって端面3aと貫通孔が全周溶着される。尚、角部14dは最小R形状であるのが望ましい。また、溶接ビードW2は、内管2の端面2aと離間している。
【0032】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様な効果が得られるとともに、端面3aから離隔した被溶融部(段部14c)が、溶融して溶着部へ移動するので、段部14cを溶融するだけの入熱量で管とフランジを溶接でき、フランジの熱歪みが抑制されるとともに溶接品質を十分に満足することができる。
【実施例4】
【0033】
図7は本発明の第4の実施形態に係る溶接継手及びその製造方法を示す。尚、第1の実施形態と同一態様部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0034】
排気2重管21は、内管12の端部12bは拡径されており、端部12bが外管23の端部23a内に長さL分、位置をずらして嵌合されている。
【0035】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様な効果が得られる。
【実施例5】
【0036】
図8は本発明の第5の実施形態に係る溶接継手及びその製造方法を示す。尚、第1の実施形態と同一態様部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0037】
フランジ24は、板厚が薄肉、例えば、3mm程度の金属板をプレス加工により折曲して形成されている。
【0038】
本実施形態によれば、第1の実施形態と同様な効果が得られるとともに、第1の実施形態に比べてフランジの熱容量が小さくなり、内燃機関の始動時における排気ガスの温度低下をよりいっそう抑え、触媒を早期に活性化させることができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態を説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更があっても本発明に包含される。排気2重管1の管軸1aに直交する断面形状は、真円、楕円、長円、複数の異なる円弧を繋げた形状や、多角形等、任意である。また、溶接ビードW1を栓溶接(プラグ溶接)で形成しても構わない。また、溶接ビードW2を上記TIG溶接のほか、MIG,レーザ等の任意の溶接手段を用いて形成しても構わない。また、TIG溶接の場合には、溶接ワイヤ(溶加材)を供給しながら溶接しても構わない。また、外管とフランジの貫通孔の周縁部とを、外側からTIG溶接やMIG溶接を追加して結合しても構わない。また、外管と内管との隙間Gに断熱材を充填し、排気ガスの保温性を上げてもよい。また、第2の実施形態において、溶接ビードW2とW4を一筆書き状に連続した溶接ビードで形成しても構わない。また、第2の実施形態は、本出願人が先に特開2007−132193で提案した溶接方法を採用したものであり、特開2007−132193に記載の他の実施形態も本発明に包含される。また、第3の実施形態は、本出願人が先に特願2008−117848で提案した溶接継手の製造方法を採用したものであり、特願2008−117848に記載の他の実施形態も本発明に包含される。また、本発明は、フランジに溶接されるあらゆる排気管2重管の溶接継手に適用することができ、例えば、エキゾーストマニホールドや、触媒コンバータの外筒や、消音器の外筒に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る溶接継手を示す断面図
【図2】本発明の第1の実施形態に係る排気2重管を示す断面図
【図3】図2に示す排気2重管の外管の端部を、フランジの貫通孔に嵌合して貫通孔の内面と全周溶接する前の状態を示す断面図
【図4】本発明の第2の実施形態に係る溶接継手及びその製造を示す断面図
【図5】本発明の第3の実施形態に係る溶接継手の外管の端面を、フランジの貫通孔に嵌合し内部側から全周溶接する前の状態を示す断面図
【図6】本発明の第4の実施形態に係る溶接継手を示す断面図
【図7】本発明の第5の実施形態に係る溶接継手を示す断面図
【符号の説明】
【0041】
1 排気2重管
1a,11a 管軸
2,12 内管
2a,12a 端面
2b,12b 端部
3,13,23 外管
3a,13e,23a 端面
3b,23b 端部
4,14,24 フランジ
4a,(14a) 貫通孔
W1 点溶接
W2,W3,W4 溶接ビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内管及び外管で構成される排気2重管と板状のフランジとからなる溶接継手において、
前記内管の端面を前記外管の端面よりも管軸方向内側に配置して前記内管の端部と前記外管の端部を少なくとも1箇所溶接し、前記外管の端部を前記フランジの貫通孔に嵌合して前記貫通孔の内面と全周溶接し、該全周溶接により形成された溶接ビードが内管の端面と離間していることを特徴とする溶接継手。
【請求項2】
前記外管が、2つの半体を合わせて形成され、該2つの半体の合わせ部の先端部に切欠部を形成し、
前記2つの半体の合わせ部と、前記貫通孔の周縁部とが交わる部位を、前記半体の外面側から溶接し、
前記切欠部と前記フランジとを、前記貫通孔の内部で、かつ、貫通孔の内部側から溶接し、
前記半体の外面側からの溶接により形成される溶接ビードと、前記切欠部に形成される溶接ビードとを、重なり合わせることを特徴とする請求項1に記載の溶接継手。
【請求項3】
前記貫通孔が、小径部と、大径部と、該小径部と該大径部を繋ぐ段部からなり、前記外管の端面を前記小径部内に途中配置し、前記段部の最内側に形成された角部に電極を指向させてTIG溶接トーチを回動し、前記段部を溶融して前記外管のみを前記貫通孔内にて全周溶接することを特徴とする請求項1に記載の溶接継手。
【請求項4】
内管及び外管で構成される排気2重管と板状のフランジとからなる溶接継手の製造方法であって、
前記内管の端部を前記外管の端面よりも管軸方向内側に配置して前記内管の端部と前記外管の端部を少なくとも1箇所溶接する工程と、
前記外管の端面を前記フランジの貫通孔に嵌合して前記貫通孔の内面と全周溶接する工程を含み、
該全周溶接により形成された溶接ビードが、内管の端面と離間していることを特徴とする溶接継手の製造方法。
【請求項5】
前記外管が、2つの半体を合わせて形成され、該2つの半体の合わせ部の先端部に切欠部を形成し、
前記2つの半体の合わせ部と、前記貫通孔の周縁部とが交わる部位を、前記半体の外面側から溶接する工程と、
前記切欠部と前記フランジとを、前記貫通孔の内部で、かつ、貫通孔の内部側から溶接する工程を含み、
前記半体の外面側からの溶接により形成される溶接ビードと、前記切欠部に形成される溶接ビードとを、重なり合わせることを特徴とする請求項4に記載の溶接継手の製造方法。
【請求項6】
前記貫通孔が、小径部と、大径部と、該小径部と該大径部を繋ぐ段部からなり、前記外管の端面を前記小径部内に途中配置し、前記段部の最内側に形成された角部に電極を指向させてTIG溶接トーチを回動し、前記段部を溶融して前記外管のみを前記貫通孔内にて全周溶接することを特徴とする請求項4に記載の溶接継手の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−155275(P2010−155275A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−336257(P2008−336257)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(390010227)株式会社三五 (148)
【Fターム(参考)】