説明

溶接継手部の低温靭性に優れた鋼板

【課題】 溶接継手部(大入熱溶接時の溶接線近傍、小入熱溶接時の二相域加熱部など)の低温靭性に優れた鋼板を提供する。
【解決手段】 溶接継手部の低温靭性に優れた鋼板は、
C :0.005〜0.10%(質量%の意味。以下同じ)、
Si:0.7%以下(0%を含まない)、
Mn:0.5〜2%、
Al:0.1%以下(0%を含まない)、
Ti:0.005〜0.03%、及び
N :0.001〜0.01%、
を含有し、
ミクロ組織は、フェライトと該フェライト以外の他の組織とから構成されており、
該他の組織中の平均炭素濃度は、鋼板全体における炭素濃度に対して、4倍以下になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶接継手部(大入熱溶接時の溶接線近傍、小入熱溶接時の二相域加熱部など)の低温靭性に優れた鋼板(特に厚板)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、種々の分野で低温靭性に優れた鋼板が求められている。例えば、液体プロパンガス(LPG)や液化アンモニウムを貯蔵する低温用タンクなどでは、ガスの液化のために−60℃程度の低温で使用される為、このような低温でも靭性が良好であることが要求される。特に溶接継手部は溶接熱によるミクロ組織変化によって靭性が劣化しやすいため、溶接継手部の低温靭性に優れた鋼板が強く求められている。
【0003】
例えば、鋼板の化学成分を調整することによって溶接継手部の低温靭性を改善することが行われている(特許文献1など)。すなわち特許文献1では、溶接継手部に島状マルテンサイトが生成すると、この島状マルテンサイトはCが非常に濃縮した硬質相であるために破壊の起点となることに着目し、該島状マルテンサイトを低減する目的で鋼材(母材)のC量を低減することを提案している。しかし、化学成分の調整による低温靭性効果を超えた、さらなる低温靭性の改善が求められる。例えば、溶接時に約1400℃までの高温にまで加熱される領域[大入熱溶接時の熱影響部(以下、HAZと称する場合がある)など]では、結晶粒が粗大化して低温靭性が劣化してしまうため、さらなる低温靭性の改善が求められる。
【0004】
そこで特許文献2では、析出物(TiNなど)を微細分散させることによってHAZでの結晶粒の粗大化を抑制している。しかし、大入熱溶接を行う場合、前記HAZ部よりも高温(1400℃以上)となる領域(例えば、大入熱溶接時の溶接線近傍など)がある。また小入熱溶接を行う場合、大入熱溶接HAZ部よりも低温の熱履歴を受ける領域[例えば、小入熱溶接時の溶接線近傍。この領域では、Ac1点とAc3点の間の二相域に加熱される(以下、二相域加熱部と称する場合がある)]もある。大入熱溶接での溶接線近傍では、TiNなどの析出物が固溶するため、結晶粒粗大化の抑制効果を期待することができない。また二相域加熱部では、フェライトとオーステナイトの平衡状態となり、このフェライトからCがオーステナイト中に移行してオーステナイトにCが濃縮していき、結果的に島状マルテンサイトが生成してしまう(このような現象は、二相域脆化と称される)。微細析出物は、二相域脆化の防止効果も薄い。
【特許文献1】特開昭54−19412号公報
【特許文献2】特開平9−165656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、溶接継手部(大入熱溶接時の溶接線近傍、小入熱溶接時の二相域加熱部など)の低温靭性に優れた鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、脆化の原因となる島状マルテンサイトは、鋼材(母材)のあらゆる部分から均一に生成するのではなく、Cのミクロ偏析部から生成していることに着目し、このミクロ偏析部の組織を積極的に制御すれば島状マルテンサイトの生成をより高度に抑制することができ、溶接継手部の低温靭性をさらに改善できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明に係る溶接継手部の低温靭性に優れた鋼板は、C:0.005〜0.10%(質量%の意味。以下同じ)、Si:0.7%以下(0%を含まない)、Mn:0.5〜2%、Al:0.1%以下(0%を含まない)、Ti:0.005〜0.03%、及びN:0.001〜0.01%、を含有し、
ミクロ組織は、フェライトと該フェライト以外の他の組織とから構成されており、
該他の組織中の平均炭素濃度は、鋼板全体における炭素濃度に対して、4倍以下になっている点に要旨を有するものである。
【0008】
前記鋼板は、さらにZr:0.05%以下(0%を含まない)、Ca:0.005%以下(0%を含まない)、Mg:0.005%以下(0%を含まない)、REM:0.01%以下(0%を含まない)、B:0.005%以下(0%を含まない)、Ni:0.5%以下(0%を含まない)、Cu:0.5%以下(0%を含まない)、Cr:0.5%以下(0%を含まない)、Mo:0.5%以下(0%を含まない)、V:0.1%以下(0%を含まない)、Nb:0.05%以下(0%を含まない)などを含有していてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の鋼板は、所定の化学成分となっているだけでなく、フェライト以外の他の組織中の平均炭素濃度が、鋼板全体における炭素濃度に対して、4倍以下になっているため、溶接継手部の低温靭性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の鋼板は、ミクロ組織が、フェライトと該フェライト以外の他の組織(以下、第二相と称する)とから構成されている。第二相としては、例えば、ベイナイト、パーライト、島状マルテンサイトなどが挙げられる。なお第二相は一つの組織であってもよいが、複数の組織で構成されていてもよい。通常は、パーライトである。
【0011】
そして本発明の鋼板では、前記第二相中の平均炭素濃度(第二相が複数の組織で構成されている場合には、加重平均を意味する)が、鋼板全体(母材)における炭素濃度に対して、極めて低く抑えられている。第二相は、溶接時に実質的に最も島状マルテンサイトを生成させ易いCのミクロ偏析部を含んでおり、この第二相の平均炭素濃度を極めて低く抑えることによって、島状マルテンサイトの生成を極めて高度に抑制することができる。そのため溶接継手部(大入熱溶接時の溶接線近傍、小入熱溶接時の二相域加熱部など)における低温靭性が良好となる。具体的には第二相中の平均炭素濃度は、鋼板全体(母材)における炭素濃度に対して、4倍以下、好ましくは3.5倍以下、さらに好ましくは3.0倍以下、特に2.5倍以下である。なお前記平均炭素濃度の下限は特に制限されないが、通常、0.5倍以上(例えば1.0倍以上、特に1.5倍以上)程度である。
【0012】
第2相の面積率は、例えば、1〜30%程度、好ましくは5〜20%程度、さらに好ましくは7〜15%程度である。
【0013】
なお本発明の鋼板は、C:0.005〜0.10%(質量%の意味。以下同じ)、Si:0.7%以下(0%を含まない)、Mn:0.5〜2%、、P:0.02%以下(0%を含まない)、S:0.01%以下(0%を含まない)、Al:0.1%以下(0%を含まない)、Ti:0.005〜0.03%、及びN:0.001〜0.01%を含有している。
【0014】
各成分の限定理由は、以下の通りである。
【0015】
C:
Cは島状マルテンサイトの生成原因となって溶接継手部の低温靭性を劣化させる。従ってCは、0.10%以下、好ましくは0.09%以下、さらに好ましくは0.08%以下とする。しかしCが少なすぎると、鋼板の強度が低下し過ぎる。従ってCは、0.005%以上、好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.03%以上とする。
【0016】
Si:
Siも過剰になると島状マルテンサイトを増加させて、溶接継手部の低温靱性を劣化させる。従ってSiは、0.7%以下、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下、特に0.24%以下にする。なおSiは溶鋼の脱酸に使用されるため、必ず鋼中に残存する。また鋼板の強度向上にも有効である。Siは、0.01%以上、好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.15%以上であってもよい。
【0017】
Mn:
Mnは焼入性を高め、鋼板の強度を高めるのに有効である。従ってMnは、0.5%以上、好ましくは0.7%以上、さらに好ましくは1.0%以上とする。しかしMnが過剰になると、島状マルテンサイトを増加させて、溶接継手部の低温靱性を劣化させる。従ってMnは、2%以下、好ましくは1.8%以下、さらに好ましくは1.6%以下とする。
【0018】
Al:
Alが過剰になると、母材の靭性が劣化する。従ってAlは、0.1%以下、好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.06%以下とする。一方、Alは脱酸剤として使用されることが多いため、溶鋼の調整過程で必ず混入してくる元素である。またAlは、AlN系析出物を形成するため、大入熱溶接時のHAZ靭性を向上させるのに有効である。AlによるHAZ靭性向上効果を有効に発揮させる場合、Alは、例えば、0.01%以上、好ましくは0.02%以上とすることが推奨される。
【0019】
Ti:
Tiは、TiN系析出物を形成し、大入熱溶接時のHAZ靭性を向上させるのに有効である。従ってTiは、0.005%以上、好ましくは0.007%以上、さらに好ましくは0.010%以上とする。しかしTiが過剰になると母材の靭性が劣化する。従ってTiは、0.03%以下、好ましくは0.025%以下、さらに好ましくは0.020%以下とする。
【0020】
N:
Nは、TiやAlなどの元素と窒化物を形成して大入熱溶接時のHAZ靭性を向上させるのに有効である。従ってNは、0.001%以上、好ましくは0.002%以上、さらに好ましくは0.003%以上とする。一方、Nが過剰になると、母材の靭性を劣化させる。従ってNは、0.01%以下、好ましくは0.008%以下、さらに好ましくは0.006%以下とする。
【0021】
本発明の鋼板は、必要に応じて前記必須元素以外に追加の他の元素、例えば、析出物形成元素[Zr:0.05%以下(0%を含まない)、Ca:0.005%以下(0%を含まない)、Mg:0.005%以下(0%を含まない)、及びREM:0.01%以下(0%を含まない)など]、靭性向上元素[B:0.005%以下(0%を含まない)、Ni:0.5%以下(0%を含まない)など]、強度向上元素[Cu:0.5%以下(0%を含まない)、Cr:0.5%以下(0%を含まない)、Mo:0.5%以下(0%を含まない)、V:0.1%以下(0%を含まない)、Nb:0.05%以下(0%を含まない)など]などを含有していてもよい。
【0022】
析出物形成元素:Zr、Ca、Mg、REMなど
Zrは、前記Tiと同様に窒化物を形成し、大入熱溶接HAZ靭性を向上させるのに有効である。Zrの添加量の下限は特に限定されないが、前記作用効果を積極的に期待する場合には、例えば、0.0003%以上、好ましくは0.0005%以上、さらに好ましくは0.0010%以上とすることが推奨される。一方、Zrが過剰になると清浄度の低下を招く。従ってZrは、0.05%以下、好ましくは0.005%以下、さらに好ましくは0.003%以下とする。
【0023】
Ca、Mg、及びREM(希土類元素)は、酸化物、硫化物、酸硫化物などを形成してHAZの結晶粒の粗大化を防止するのに有効である。また母材の異方性を軽減するのにも有効である。Ca、Mg、及びREMの添加量の下限は特に限定されないが、前記作用効果を積極的に期待する場合には、Caは0.0005%以上(好ましくは0.0010%以上)、Mgは0.0005%以上(好ましくは0.0010%以上)、REMは0.0005%以上(好ましくは0.0010%以上)とすることが推奨される。一方、これらCa、Mg、及びREMが過剰となると清浄度が低下する。従って、Caは0.005%以下(好ましくは0.003%以下)、Mgは0.005%以下(好ましくは0.003%以下)、REMは0.01%以下(好ましくは0.005%以下、特に0.003%以下)とする。
【0024】
上記析出物形成元素は、単独で添加してもよく、複数組み合わせて添加してもよい。
【0025】
靭性向上元素:B、Niなど
Bは、BNを生成することによってHAZ靭性に有害な固溶Nを固定し、粒界フェライトの生成を抑制する作用を有する。Bの添加量の下限は特に限定されないが、前記作用効果を積極的に期待する場合には、例えば、0.0003%以上、好ましくは0.0005%以上、さらに好ましくは0.0010%以上とすることが推奨される。一方、Bが過剰になると大入熱溶接HAZ靭性が劣化する。従ってBは、0.005%以下、好ましくは0.004%以下、さらに好ましくは0.003%以下とする。
【0026】
Niは靭性を向上させるのに有効である。Niの添加量の下限は特に限定されないが、前記作用効果を積極的に期待する場合には、例えば、0.01%以上、好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.1%以上とすることが推奨される。一方、Niが過剰になるとスケール疵が発生し易くなる。従ってNiは、0.5%以下、好ましくは0.4%以下とする。
【0027】
上記靭性向上元素は、単独で添加してもよく、複数組み合わせて添加してもよい。
【0028】
強度向上元素:Cu、Cr、Mo、V、Nbなど
Cuは、固溶強化及び析出強化による強度上昇に有効な元素である。Cuの添加量の下限は特に限定されないが、前記作用効果を積極的に期待する場合には、例えば、0.01%以上、好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上とする。一方、Cuが過剰になると熱間加工性が劣化し、鋼板表面に割れが入りやすくなる。従ってCuは、0.5%以下、好ましくは0.4%以下、さらに好ましくは0.3%以下とする。
【0029】
CrとMoは、いずれも母材の強度を上昇させる上で有効である。CrとMoの添加量の下限は特に限定されないが、前記作用効果を積極的に期待する場合には、Crは、例えば0.05%以上(好ましくは0.10%以上)、Moは、例えば0.01%以上(好ましくは0.05%以上)とすることが推奨される。一方、CrやMoが過剰になると、大入熱溶接HAZ靭性を劣化させ易くなる。従ってCrは0.5%以下(好ましくは0.3%以下)、Moは0.5%以下(好ましくは0.3%以下)とする。
【0030】
VとNbはいずれも析出強化によって強度を上昇させる元素である。VとNbの添加量の下限は特に限定されないが、前記作用効果を積極的に期待する場合には、Vは、例えば0.005%以上(好ましくは0.010%以上、さらに好ましくは0.02%以上)、Nbは、例えば、0.001%以上(好ましくは0.005%以上)とすることが推奨される。一方、VやNbが過剰になると、大入熱溶接HAZ靭性を劣化させ易くなる。従って、Vは0.1%以下(好ましくは0.07%以下、さらに好ましくは0.05%以下)、Nbは0.05%以下(好ましくは0.035%以下、さらに好ましくは0.02%以下)とする。
【0031】
上記強度向上元素は、単独で添加してもよく、複数組み合わせて添加してもよい。
【0032】
残部はFe及び不可避不純物であってもよい。なお不可避不純物としては、例えば、PやSなどが挙げられる。これらPやSは、積極的に低減してもよい。例えば、Pは0.02%以下(0%を含まない)としてもよい。Pが過剰になると溶接性が劣化する。好ましくはPは、0.015%以下、特に0.013%以下とする。なおPは、0.001%以上(特に0.005%以上)程度であってもよい。
【0033】
またSは、0.01%以下(0%を含まない)としてもよい。Sが過剰になると、硫化物系介在物が増大し、鋼板の耐水素誘起割れが生じやすくなる。好ましくはSは、0.007%以下、特に0.005%以下とする。なおSは、0.0001%以上(特に0.0005%以上)程度であってもよい。
【0034】
本発明は、いわゆる厚板に有利に適用できる。板厚は、例えば、7mm以上(好ましくは10mm以上)程度である。なお板厚の上限は特に限定されないが、通常、50mm以下(特に30mm以下)程度である。
【0035】
本発明の鋼板は、引張強度に優れているほど好ましく、例えば、350MPa以上程度(好ましくは400MPa以上程度)である。なお引張強度の上限は特に限定されないが、通常、650MPa以下(特に610MPa以下)程度である。
【0036】
本発明の鋼板は、所定成分に調整された鋼片を温度900〜1200℃程度に加熱し、熱間圧延(圧延仕上温度700〜850℃)した後、通常よりも極めて急速に冷却することによって製造できる。急速に冷却すれば、圧延後に第二相へCが濃縮されるのを防止できる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0038】
なお下記実験例で得られた鋼板の評価は、以下のようにした。
【0039】
[第二相のC濃度]
深さt/4位置(tは鋼板の厚さ)における圧延方向に平行な断面を切り出し、研磨した。この断面を、X線マイクロアナライザー(EPMA;日本電子製「JCMA−733」)で分析(加速電圧:15kV、倍率:1000倍、視野数:10)することによって、第二相中のC濃度(質量%)を求めた。
【0040】
[大入熱溶接時の溶接線近傍の低温継手靭性]
加熱温度:1400℃、800〜500℃の冷却時間(Tc):100秒の熱サイクルで鋼板を処理し、温度−60℃におけるシャルピー吸収エネルギー(Vノッチ)を測定した。なお前記熱サイクルは、溶接入熱8kJ/mmのFAB溶接(なおFABは株式会社神戸製鋼所の登録商標)の溶接線近傍における熱サイクルを想定したものである。
【0041】
[小入熱溶接時の二相域加熱部の低温継手靭性]
加熱温度:1400℃、800〜500℃の冷却時間(Tc):15秒の熱サイクルで鋼板を処理した後、加熱温度:800℃、800〜500℃の冷却時間(Tc):15秒の熱サイクルで鋼板を処理した。次いで温度−60℃におけるシャルピー吸収エネルギー(Vノッチ)を測定した。なお前記熱サイクルは、溶接入熱2kJ/mmのCO2溶接において最も脆化すると考えられる溶接線近傍での二相域加熱部を想定したものである。当該二相域加熱部では、前記のような二重熱サイクルが加えられやすい。
【0042】
実験例1
C:0.08%、Si:0.15%、Mn:1.50%、P:0.009%、S:0.002%、Al:0.038%、Ti:0.014%、N:0.0046%を含有する鋼片(鋼種記号A;残部はFe及び不可避不純物)を、下記表1に示す種々の条件で所定の板厚まで圧延した。
【0043】
得られた鋼板の評価結果を下記表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1から明らかなように、No.7の例では、第二相中のC濃度が高すぎるため、大入熱溶接時の溶接線近傍での低温継手靭性に劣る。これに対してNo.1〜6の例では、第二相中のC濃度が適切なため、大入熱溶接時の溶接線近傍での低温継手靭性に優れる。
【0046】
実験例2
実験例1と同様の成分の鋼材(鋼種A)及び下記表2に示す成分の鋼材を溶製し、下記表3に示す種々の条件で所定の板厚まで圧延した。
【0047】
得られた鋼板の評価結果を下記表3に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
表2及び表3から明らかなように、No.17〜21の例では、第二相中のC濃度が高すぎるため、大入熱溶接時の溶接線近傍での低温靭性に劣り、また小入熱溶接時の二相域加熱部の低温靭性にも劣る。これに対して、No.8〜16の例では、第二相中のC濃度が適切なため、大入熱溶接時及の溶接線近傍及び小入熱溶接時の二相域加熱部での低温靭性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の鋼板は溶接継手部(大入熱溶接時の溶接線近傍、小入熱溶接時の二相域加熱部など)の低温靭性に優れている。そのため、低温靭性が要求される種々の鋼板、例えば、液体プロパンガス(LPG)や液化アンモニウムを貯蔵する低温用タンクに使用される鋼板などに有利に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C :0.005〜0.10%(質量%の意味。以下同じ)、
Si:0.7%以下(0%を含まない)、
Mn:0.5〜2%、
Al:0.1%以下(0%を含まない)、
Ti:0.005〜0.03%、及び
N :0.001〜0.01%、
を含有し、
ミクロ組織は、フェライトと該フェライト以外の他の組織とから構成されており、
該他の組織中の平均炭素濃度は、鋼板全体における炭素濃度に対して、4倍以下になっていることを特徴とする溶接継手部の低温靭性に優れた鋼板。
【請求項2】
さらにZr:0.05%以下(0%を含まない)、Ca:0.005%以下(0%を含まない)、Mg:0.005%以下(0%を含まない)、及びREM:0.01%以下(0%を含まない)から選択される少なくとも1種を含有する請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
さらにB:0.005%以下(0%を含まない)、及びNi:0.5%以下(0%を含まない)から選択される少なくとも1種を含有する請求項1又は2に記載の鋼板。
【請求項4】
さらにCu:0.5%以下(0%を含まない)、Cr:0.5%以下(0%を含まない)、Mo:0.5%以下(0%を含まない)、V:0.1%以下(0%を含まない)、及びNb:0.05%以下(0%を含まない)から選択される少なくとも1種を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の鋼板。


【公開番号】特開2006−9109(P2006−9109A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189450(P2004−189450)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】