説明

溶接装置およびそのヘッド構造

【課題】放熱性能を高める。
【解決手段】溶接装置1は、溶接ヘッド用ベース231と、この溶接ヘッド用ベース231に対してZ軸方向に移動可能なZ方向可動部材260と、このZ方向可動部材260に配設されてローラ電極240を回転可能に保持すると共に、当該ローラ電極240に電流を供給するローラ保持部236と、を備える。Z方向可動部材260は、炭化ケイ素または窒化アルミニウムからなり、熱伝導性と、熱放射性と、絶縁性と、を有する。ローラ電極240で発生する溶接熱は、ローラ保持部236を経てZ方向可動部材260に伝達すると同時に当該Z方向可動部材260の表面から外部に放熱される。ローラ保持部236と溶接ヘッド用ベース231とは、Z方向可動部材260によって絶縁される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーム溶接に適した溶接装置およびそのヘッド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子等の電子部品は、パッケージの開口に蓋となるリッドをシーム溶接する等して製造される(例えば、特許文献1〜3参照)。シーム溶接は、従来、窒素ガス下において、パッケージとリッドとの接触部にローラ電極を押し付けて、パルス状の電圧を印加しながら転動させることによって行われている。パッケージ内には窒素ガスが封入されるので、パッケージ内に空気が入って影響を及ぼすことが防止される。ローラ電極から生じる熱の大半は、窒素ガスの対流により放熱される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−147097号公報
【特許文献2】特開2009−147288号公報
【特許文献3】特開2010−194544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近は、電子部品の小型化に伴い、パッケージ内に封入される窒素ガスの電気的特性に対する影響が無視できない状況となっている。このため、シーム溶接を真空雰囲気(略真空)下で行って、パッケージ内を真空雰囲気に保つ必要性が生じている。
【0005】
しかしながら、シーム溶接を真空雰囲気中で行う場合、対流による放熱ができず、ローラ電極に熱が蓄積する。蓄積した熱は、ローラ電極と当該ローラ電極を回転可能に保持するローラハウジングとの間に介在する導電ペーストを溶かして外部に流出させ、ひいては、ローラ電極の通電に不具合を生じさせる。結果、シーム溶接を長時間連続してすることができない。
【0006】
なお、小型で軽量のパッケージに対してシーム溶接をする場合、その際に溶接箇所に加わる荷重を100g〜400g程度と軽くする必要があるところ、このような軽荷重をコントロールするために、ローラ電極を搭載する溶接ヘッドを小型で軽量にする必要がある。この場合、ローラ電極から溶接ヘッドへの熱の移動量は少なく、ローラ電極からの放熱は十分ではない。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、放熱性能を向上させた溶接装置およびそのヘッド構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者の鋭意研究により、上記目的は以下の手段によって達成される。
【0009】
(1)本発明は、溶接ヘッド用ベースと、前記溶接ヘッド用ベースに対してZ方向に移動可能なZ方向可動部材と、前記Z方向可動部材に配設されてローラ電極を回転可能に保持すると共に、該ローラ電極に電流を供給するローラ保持部と、を備え、前記Z方向可動部材は、熱伝導性と、熱放射性と、絶縁性と、を有してなることで、前記ローラ電極で発生する溶接熱は、前記ローラ保持部を経て前記Z方向可動部材に伝達すると同時に該Z方向可動部材の表面(ひょうめん)から外部に放熱され、且つ、前記ローラ保持部と前記溶接ヘッド用ベースとは前記Z方向可動部材によって絶縁されることを特徴とする、溶接装置のヘッド構造である。
【0010】
(2)本発明はまた、前記Z方向可動部材は、熱伝導率が170W/(m・K)以上の材料からなることを特徴とする、上記(1)に記載の溶接装置のヘッド構造である。
【0011】
(3)本発明はまた、前記Z方向可動部材は、熱の放射率が0.8以上の材料からなることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の溶接装置のヘッド構造である。
【0012】
(4)本発明はまた、前記Z方向可動部材は、絶縁抵抗が10Ω・cm以上の材料からなることを特徴とする、上記(1)乃至(3)に記載の溶接装置のヘッド構造である。
【0013】
(5)本発明はまた、前記Z方向可動部材は、セラミックスからなることを特徴とする、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の溶接装置のヘッド構造である。
【0014】
(6)本発明はまた、前記セラミックスは、炭化ケイ素または窒化アルミニウムであることを特徴とする、上記(5)に記載の溶接装置のヘッド構造である。
【0015】
(7)本発明はまた、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の溶接装置のヘッド構造を備えることを特徴とする、溶接装置である。
【0016】
(8)本発明はまた、前記ヘッド構造を収容する真空チャンバを備え、真空環境下でワークを溶接することを特徴とする、上記(7)に記載の溶接装置である。
【0017】
(9)本発明はまた、前記Z方向可動部材は、前記真空チャンバの内壁に対向する熱放射面を有することを特徴とする、上記(8)に記載の溶接装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、放熱性能を高められるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る溶接装置の平面図である。
【図2】溶接装置の正面図である。
【図3A】溶接ヘッドの拡大正面図である。
【図3B】溶接ヘッドの拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の例について詳細に説明する。なお、以下の説明では、図に示したX、Y、Z軸を基準として方向を説明する。X、Y軸は互いに直角な水平軸であり、Z軸はX、Y軸に直角な鉛直軸である。図のX軸方向は本発明に係るX方向であり、Y軸方向は本発明に係るY方向であり、Z軸方向は本発明に係るZ方向であるが、本発明はこれに限定されるものではない。各図において、一部の構成の図示を適宜省略して、図面を簡略化している。
【0021】
図1は本発明の実施の形態に係る溶接装置1の平面図である。図2は溶接装置1の正面図である。図3Aは溶接ヘッド230の拡大正面図である。図3Bは溶接ヘッド230の拡大側面図である。なお、図1〜図3では、一部を断面にして、断面部分を斜線で示している。
【0022】
これらの図に示される溶接装置1は、電子部品を製造するラインに設置され、真空雰囲気中でワーク10に対してシーム溶接する際に使用される。ワーク10は、パッケージの開口に蓋となるリッドが載置され、または、仮付けされた状態で、ワークトレイ20上に配列される。ワークトレイ20上には、ワーク10を収容する複数の窪みがX、Y軸方向のマトリクス状に形成されており、複数のワーク10はX、Y軸方向のマトリクス状に配列される。
【0023】
溶接装置1は、ワークトレイ20上に配列した複数のワーク10を全体としてX軸方向に搬送しながらまとめて溶接する。具体的に、溶接装置1は、内部を真空雰囲気に保つ真空チャンバ100と、この真空チャンバ100内において複数のワーク10に対して溶接する溶接ユニット200と、真空チャンバ100の上流側に並設された仕込室(ロードロック)300と、真空チャンバ100の下流側に並設された取出室(アンロードロック)400と、真空チャンバ100にワーク10を送り込む上流側搬送ユニット500と、真空チャンバ100からワーク10を送り出す下流側搬送ユニット600と、制御ユニット(図示省略)と、等を備えている。
【0024】
これら溶接装置1の各部は、制御ユニットによって統括的に制御される。制御ユニットは、CPU、RAMおよびROM等から構成され、各種制御を実行する。CPUは、いわゆる中央演算処理装置であり、各種プログラムが実行されて各種機能(例えば、溶接回数をカウントする機能)を実現する。RAMは、CPUの作業領域として使用される。ROMは、CPUで実行されるプログラムを記憶する。
【0025】
真空チャンバ100は、略六面体の箱形容器であるチャンバ本体110と、真空ポンプ120と、大気開放弁130と、を備えている。チャンバ本体110には、上流側の側壁に仕込室300と連通する第一開口112が形成されていると共に、下流側の側壁に取出室400と連通する第二開口114が形成されている。第一開口112は、後述する仕込室300の上流側仕切扉315によって開閉される。第二開口114は、後述する取出室400の下流側仕切扉415によって開閉される。第一開口112および第二開口114が閉じられた状態の真空チャンバ100は、真空ポンプの動作によって、チャンバ本体110内の空気圧を大気圧から真空雰囲気までの任意の圧力に制御する。大気開放弁130は、メンテナンス時等に利用される。
【0026】
溶接ユニット200は、複数のワーク10がワークトレイ20と共に載置されるキャリア210と、このキャリア210をX軸方向に移動させるキャリア移動機構220と、一対のローラ電極240を有する溶接ヘッド230と、この溶接ヘッド230をY軸方向に移動させる溶接ヘッド移動機構250と、溶接ヘッド230を構成する溶接ヘッド用ベース231に対してZ軸方向に移動可能に配設された一対のZ方向可動部材260と、このZ方向可動部材260に着脱可能に配設されてローラ電極240を回転可能に支持する一対のローラハウジング270と、を備えている。
【0027】
キャリア210は、チャンバ本体110内の下方に、X軸方向に直線移動可能に配設されている。キャリア移動機構220は、キャリア210の動力源として、チャンバ本体110内の底面に配設されている。具体的に、キャリア移動機構220は、X軸方向に沿って互いに平行に配設された一対のキャリア用レール222と、これら一対のキャリアレール222に沿ってX軸方向に直線移動するリニアモータ式の二対のキャリア用スライダ224と、を備えている。二対のキャリア用スライダ224は、キャリア210を搭載し、当該キャリア210について、一対のキャリア用レール222に沿ったX軸方向の直線移動を可能にする。
【0028】
溶接ヘッド230は、基礎となる溶接ヘッド用ベース231と、この溶接ヘッド用ベース231の前面に対してY軸方向に沿って互いに平行に配設された一対のY方向レール232と、これら一対のY方向レール232に沿ってY軸方向に直線移動するリニアモータ式の二対のY方向スライダ233と、これら二対のY方向スライダ233に対してZ軸方向に沿って互いに平行に配設された一対のZ方向レール234と、これら一対のZ方向レール234に沿ってZ軸方向に直線移動するリニアモータ式の二対のZ方向スライダ235と、これら二対のZ方向スライダ235に取り付けられてZ軸方向に移動可能な一対のZ方向可動部材260と、これら一対のZ方向可動部材260の下端に配設された一対のローラ保持部236と、これら一対のローラ保持部236に着脱可能に配設された一対のローラハウジング270と、これら一対のローラハウジング270に対して回転シャフト237が回転可能に支持される一対のローラ電極240と、を備えている。
【0029】
溶接ヘッド用ベース231は、キャリア210の上方に、水平方向となるY軸方向に直線移動可能に配設されている。溶接ヘッド移動機構250は、溶接ヘッド230の動力源として、チャンバ本体110内の天井に配設されている。具体的に、溶接ヘッド移動機構250は、Y軸方向に沿って配設された溶接ヘッド用レール252と、この溶接ヘッド用レール252に沿ってY軸方向に直線移動するリニアモータ式の溶接ヘッド用スライダ254と、を備えている。溶接ヘッド用スライダ254は、溶接ヘッド用ベース231を搭載し、溶接ヘッド230について、溶接ヘッド用レール252に沿ったY軸方向の直線移動を可能にする。
【0030】
Z方向可動部材260は、溶接ヘッド用ベース231の前面に対し、Z軸方向に移動可能に配設されている。このZ方向可動部材260は、熱伝導性と、熱放射性と、絶縁性と、を有する材料からなり、シーム溶接により生じる熱の放熱性能を高めている。また、このZ方向可動部材260は、真空チャンバ100の内壁と対向する所定の面積となる放熱面260Aを備えている。この放熱面260Aによって、途中に気体(媒介)が存在しない真空環境下であっても、真空チャンバ100の内壁に熱を伝達する。即ち、ローラ電極240で発生する溶接熱は、ローラ保持部236を経てZ方向可動部材260に伝達すると同時に当該Z方向可動部材260の表面(ひょうめん)から真空チャンバ100の内壁まで放熱される。また、ローラ保持部236と溶接ヘッド用ベース231とは、Z方向可動部材260によって絶縁される。なお、Z方向可動部材260の前面を放熱面260Aとする場合は、その面積を可能な限り大きく設定し、放熱性能を高めることが好ましい。また、この放熱面の面積は、3cm以上、好ましくは5cm以上を確保することが望ましい。
【0031】
Z方向可動部材260の材料は、熱伝導率が170W/(m・K)以上であることが好ましい。そして、Z方向可動部材260の材料は、熱の放射率が0.8以上であること、すなわち、1に近いことが好ましい。また、Z方向可動部材260の材料は、絶縁抵抗が10Ω・cm以上であることが好ましい。さらに、Z方向可動部材260の材料は、防錆性、軽量性を有することが好ましい。Z方向可動部材260の材料には、セラミックスが適しており、その中では、炭化ケイ素または窒化アルミニウムが更に適している。採用するセラミックスの熱の放射率は0.8以上1.0以下であることが好ましく、0.93以上0.95以下であることがより好ましい。すなわち、セラミックスの熱の放射率は、アルミニウムの熱の放射率の0.02以上0.1以下や、鉄の熱の放射率の0.5以上0.9以下と比較すると高い。炭化ケイ素は、熱伝導率が170W/(m・K)であり、熱の放射率が0.8以上1.0以下であり、絶縁抵抗が10Ω・cm以上5×10Ω・cm以下である。窒化アルミニウムは、熱伝導率が170W/(m・K)以上230W/(m・K)以下であり、熱放射率が0.93であり、絶縁抵抗が1013Ω・cm以上である。なお、炭化ケイ素および窒化アルミニウムは、上記の好ましいとした条件を全て満たしている。
【0032】
ローラ保持部236は、Z方向可動部材260の下端に配設されてローラ電極240を回転可能に保持すると共に、当該ローラ電極240に電流を供給して、ローラ電極240による溶接を可能にする。
【0033】
ローラハウジング270は、ローラ電極240との間に介在させる通電用の導電ペーストを内包している。このローラハウジング270は、ローラ電極240と一体に構成されており、当該ローラ電極240と一体に交換可能となっている。
【0034】
一対のローラ電極240は、Z方向可動部材260によってZ軸方向に移動可能で、かつ、溶接ヘッド用ベース231と共にY軸方向に移動可能となっている。また、一対のローラ電極240は、Y軸回りに回転可能となっている。さらに、一対のローラ電極240は、Y方向スライダ233によってY方向に移動して互いの間隔が調整可能となっている。これら一対のローラ電極240は、溶接電極を構成し、ワーク10に対してシーム溶接をする。すなわち、一対のローラ電極240は、ワーク10に対してパルス状の電圧を印加しながら転動することによって、当該ワーク10に対するシーム溶接をする。このため、一対のローラ電極240は、溶接ヘッド用ベース231と絶縁をする必要があるが、その絶縁は、絶縁性を有するZ方向可動部材260によって実現されている。
【0035】
この溶接装置1では、溶接ユニット200において、キャリア210をX軸方向に移動させると共に、溶接ヘッド230をY軸方向に移動させることで、ワークトレイ20上にマトリクス状に配列された任意のワーク10の上に一対のローラ電極240を配置できる。
【0036】
仕込室300は、真空チャンバ100を真空雰囲気に保ちながら大気中から当該真空チャンバ100に複数のワーク10を送り込む機能を有する。具体的に、仕込室300は、略六面体の箱形容器である仕込室本体310と、仕込室本体用真空ポンプ320と、仕込室本体用大気開放弁330と、を備えている。仕込室本体310には、上流側の側壁に外部に連通する仕込室本体用外部開口312が形成されて、当該仕込室本体用外部開口312を開閉する仕込室本体用外部扉313を備えている。また、仕込室本体310には、真空チャンバ100側の側壁に第一開口112を介して真空チャンバ100と連通する仕込室本体用連通口314が形成されて、当該仕込室本体用連通口314を開閉する上流側仕切扉315を備えている。仕込室本体用外部開口312および仕込室本体用連通口314が閉じられた状態の仕込室300は、仕込室本体用真空ポンプ320の動作によって、仕込室本体310内の空気圧を大気圧から真空雰囲気までの任意の圧力に制御する。なお、仕込室300は、仕込室本体用真空ポンプ320として、真空ポンプ120を兼用するように構成することも可能であり、仕込室本体用真空ポンプ320を省略することも可能である。
【0037】
取出室400は、真空チャンバ100を真空雰囲気に保ちながら当該真空チャンバ100から大気中に複数のワーク10を送り出す機能を有する。具体的に、取出室400は、略六面体の箱形容器である取出室本体410と、取出室本体用真空ポンプ420と、取出室本体用大気開放弁430と、を備えている。取出室本体410には、下流側の側壁に外部に連通する取出室本体用外部開口412が形成されて、当該取出室本体用外部開口412を開閉する取出室本体用外部扉413を備えている。また、取出室本体410には、真空チャンバ100側の側壁に第二開口114を介して真空チャンバ100と連通する取出室本体用連通口414が形成されて、当該取出室本体用連通口414を開閉する下流側仕切扉415を備えている。取出室本体用外部開口412および取出室本体用連通口414が閉じられた状態の取出室400は、取出室本体用真空ポンプ420の動作によって、取出室本体410内の空気圧を大気圧から真空雰囲気までの任意の圧力に制御する。なお、取出室400は、取出室本体用真空ポンプ420として、真空ポンプ120を兼用するように構成することも可能であり、取出室本体用真空ポンプ420を省略することも可能である。
【0038】
上流側搬送ユニット500は、上流側第一搬送機構510と、上流側第二搬送機構520と、を備え、これらが上流側から順に配設されている。上流側第一搬送機構510は、仕込室本体310の外側底面における仕込室本体用外部扉313の近傍に配設され、ワークトレイ20を仕込室本体310の外側から内側に向けて搬送する。具体的に、上流側第一搬送機構510は、X軸方向に連続して配列された複数の上流側第一搬送ローラ512を備えている。これら複数の上流側第一搬送ローラ512は、それぞれ、Y軸回りに回転可能に配設され、ワークトレイ20をX軸方向に搬送する。上流側第二搬送機構520は、仕込室本体310の内側底面に配設され、ワークトレイ20を仕込室本体310からチャンバ本体110に向けて搬送する。具体的に、上流側第二搬送機構520は、X軸方向に連続して配設された複数の上流側第二搬送ローラ522を備えている。これら複数の上流側第二搬送ローラ522は、それぞれ、Y軸回りに回転可能に配設され、ワークトレイ20をX軸方向に搬送する。
【0039】
下流側搬送ユニット600は、下流側第一搬送機構610と、下流側第二搬送機構620と、を備え、これらが下流側へ順に配設されている。下流側第一搬送機構610は、取出室本体410の内側底面に配設され、ワークトレイ20を取出室本体410の内側から外側に向けて搬送する。具体的に、下流側第一搬送機構610は、X軸方向に連続して配設された複数の下流側第一搬送ローラ612を備えている。これら複数の下流側第一搬送ローラ612は、それぞれ、Y軸回りに回転可能に配設され、ワークトレイ20をX軸方向に搬送する。下流側第二搬送機構620は、取出室本体410の外側底面における取出室本体用外部扉413の近傍に配設され、ワークトレイ20を取出室本体410の外側から遠退くように搬送する。具体的に、下流側第二搬送機構620は、X軸方向に連続して配設された複数の下流側第二搬送ローラ622を備えている。これら複数の下流側第二搬送ローラ622は、それぞれ、Y軸回りに回転可能に配設され、ワークトレイ20をX軸方向に搬送する。
【0040】
次に、溶接装置1によるシーム溶接の手順について説明する。
【0041】
まず、ワークトレイ20に配列された複数のワーク10を、仕込室300を経由して真空チャンバ100のチャンバ本体110内に送り込む。仕込室300を経由することで、チャンバ本体110内を真空雰囲気に保ち続けた状態で送り込める。そして、チャンバ本体110内に送り込まれた複数のワーク10を、溶接ユニット200において溶接する。その後、溶接後のワーク10を、チャンバ本体110内から取出室400を経由して大気中に送り出す。取出室400を経由することで、チャンバ本体110内を真空雰囲気に保ち続けた状態で送り出せる。なお、仕込室300を経由したワーク10の流れの詳細、あるいは、取出室400を経由したワーク10の流れの詳細は、上記特許文献3を参照されたい。
【0042】
次に、シーム溶接により生じる熱の経路について説明する。
【0043】
シーム溶接によりワーク10やローラ電極240に生じた熱は、ローラハウジング270に移動する。ローラハウジング270に移動した熱は、当該ローラハウジング270からZ方向可動部材260に移動する。Z方向可動部材260に移動した熱は、当該Z方向可動部材260内を伝導して、当該Z方向可動部材260の前面に拡散する。Z方向可動部材260の前面に拡散した熱は、真空雰囲気中を放射して、真空チャンバ100の外部に放出される。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係る溶接装置1は、溶接ヘッド用ベース231と、この溶接ヘッド用ベース231に対してZ軸方向に移動可能なZ方向可動部材260と、このZ方向可動部材260に配設されてローラ電極240を回転可能に保持すると共に、当該ローラ電極240に電流を供給するローラ保持部236と、を備えている。
【0045】
そして、Z方向可動部材260は、絶縁性を有している。このため、溶接ヘッド230をローラ電極240から絶縁するために、ローラ保持部236とZ方向可動部材260との間に絶縁体を介在させる必要がない。このような絶縁体を介在させなければ、シーム溶接によってローラ電極240から生じる熱のローラ保持部236からZ方向可動部材260への移動を妨げることはない。また、Z方向可動部材260は、熱伝導性を有している。このため、ローラ保持部236からZ方向可動部材260に移動した熱を当該Z方向可動部材260の前面に拡散させることができる。さらに、Z方向可動部材260は、熱放射性を有しており、更に真空チャンバ100の内壁に対向する熱放射面260Aを備えている。このため、Z方向可動部材260の前面に拡散した熱を、この熱放射面260Aから放射させることができ、ひいては、ローラ電極240およびローラ保持部236に熱が蓄積することを防止できる。すなわち、放熱性能を向上させられる。結果、ローラ電極240およびローラハウジング270の間に介在する導電ペーストが溶けて外部に流出することを防止でき、ひいては、ローラ電極240の通電に不具合を生じさせることを防止できる。結果、溶接装置1を長時間連続使用できる。
【0046】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨および技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0047】
すなわち、上記実施形態において、溶接装置1は、真空チャンバ100を外部から冷却する外部ユニットを備えるようにしてもよい。外部冷却ユニットは、チャンバ本体110の外表面に配設されて、Z方向可動部材260等から放射(輻射)された熱を吸収し、ひいては、ワーク10や溶接ユニット200などを冷却する。具体的に、外部冷却ユニットは、冷媒用のタンクとなるジャケットと、一対の外部冷却用配管と、外部冷却用熱交換器と、外部冷却用ポンプと、を備えている。
【0048】
ジャケットは、コの字形に形成され、数ミリ程度の厚さを有する。このジャケットは、両端に一対の外部冷却用配管が接続されている。一対の外部冷却用配管はそれぞれ、ジャケットと、外部冷却用ポンプと、を接続する。一方の外部冷却用配管は、外部冷却用ポンプからの水等の冷媒をジャケットに送り出す。他方の外部冷却用配管は、ジャケットを循環した冷媒を、外部冷却用熱交換器を経由して外部冷却用ポンプに回収する。外部冷却用熱交換器は、冷却に使用されて熱を帯びた冷媒を冷却する。外部冷却用ポンプは、冷媒を循環させる。熱対策を講じない場合には、キャリア210の反りや延びが発生したり、チャンバ本体110などの各部材が変形したりするが、外部冷却ユニットによる熱対策により、各部材の変形が防止できる。
【0049】
あるいは、上記実施形態における溶接装置1は、電子部品を製造するラインにおいて、パッケージとリッドとをシーム溶接する場合を例示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、パッケージに対してリッドの一部を溶接する仮付け工程や、パッケージに対してシームリングを仮付けする溶接工程など、他の組立工程で用いることも可能である。
【0050】
また、上記実施形態において、Z方向可動部材260は、その全体が、熱伝導性と、熱放射性と、絶縁性と、を有する材料からなるようにするだけでなく、その一部が、熱伝導性と、熱放射性と、絶縁性と、を有する材料からなるようにしてもよい。この場合、少なくともその一部は、ローラ保持部236との接触箇所に介在して、絶縁を確保しながらローラ保持部236の熱を回収することが重要である。また、少なくともその一部は、真空チャンバの内壁に対向するような、ある程度の表面(ひょうめん)を確保することが好ましい。この表面を放熱面として、ローラ保持部236から回収した熱を真空チャンバの内壁に対して放射できるからである。
【0051】
更に本実施形態の溶接装置1では、真空チャンバ100を備える場合を例示したが、本発明はこれに限定されず、窒素チャンバでも良く、また、チャンバを有しない構造であっても良い。また、本実施形態では、溶接ヘッド230の動力源としてリニアモータを利用する場合を例示したが、本発明はこれに限定されず、通常の各種モータ、電磁ソレノイド、エアシリンダ、カム、ボールネジなど、各種機構を採用して動力を得るようにすることは勿論可能である。he
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の溶接装置は、電子機器や電子部品もしくはその他の各種物品の製造、または物流の分野において利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 溶接装置
230 溶接ヘッド
231 溶接ヘッド用ベース
236 ローラ保持部
240 ローラ電極
260 Z方向可動部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ヘッド用ベースと、
前記溶接ヘッド用ベースに対してZ方向に移動可能なZ方向可動部材と、
前記Z方向可動部材に配設されてローラ電極を回転可能に保持すると共に、該ローラ電極に電流を供給するローラ保持部と、を備え、
前記Z方向可動部材は、熱伝導性と、熱放射性と、絶縁性と、を有してなることで、
前記ローラ電極で発生する溶接熱は、前記ローラ保持部を経て前記Z方向可動部材に伝達すると同時に該Z方向可動部材の表面から外部に放熱され、且つ、前記ローラ保持部と前記溶接ヘッド用ベースとは前記Z方向可動部材によって絶縁されることを特徴とする、
溶接装置のヘッド構造。
【請求項2】
前記Z方向可動部材は、熱伝導率が170W/(m・K)以上の材料からなることを特徴とする、
請求項1に記載の溶接装置のヘッド構造。
【請求項3】
前記Z方向可動部材は、熱の放射率が0.8以上の材料からなることを特徴とする、
請求項1または2に記載の溶接装置のヘッド構造。
【請求項4】
前記Z方向可動部材は、絶縁抵抗が10Ω・cm以上の材料からなることを特徴とする、
請求項1乃至3のいずれかに記載の溶接装置のヘッド構造。
【請求項5】
前記Z方向可動部材は、セラミックスからなることを特徴とする、
請求項1乃至4のいずれかに記載の溶接装置のヘッド構造。
【請求項6】
前記セラミックスは、炭化ケイ素または窒化アルミニウムであることを特徴とする、
請求項5に記載の溶接装置のヘッド構造。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の溶接装置のヘッド構造を備えることを特徴とする、
溶接装置。
【請求項8】
前記ヘッド構造を収容する真空チャンバを備え、
真空環境下でワークを溶接することを特徴とする、
請求項7に記載の溶接装置。
【請求項9】
前記Z方向可動部材は、前記真空チャンバの内壁に対向する熱放射面を有することを特徴とする、
請求項8に記載の溶接装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate


【公開番号】特開2013−81974(P2013−81974A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222413(P2011−222413)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(501410137)アキム株式会社 (49)