説明

溶接装置

【課題】 シールドガスを使用するアーク溶接において、溶接開始時点の溶接性能を改善すると共に、シールドガス費用を低減する。
【解決手段】 溶接開始時点で溶接性能の良好なシールドガスを供給し、アークの形成状態が安定した時点で他の種類のシールドガスへ切替えて供給する。そのために、シールドガス供給装置(4a)を、少なくとも2種類のシールドガス供給源(41a、41b)と、少なくとも2種類の前記ガス供給源(41a、41b)を選択切替え可能な切替弁(44)と、で構成する。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は溶接装置に関するものであり、シールドガスとして炭酸ガスあるいは混合ガスを使用するアーク溶接の溶接装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄鋼材料の溶接において、炭酸ガスあるいは混合ガスをシールドガスとして使用するアーク溶接方法が広く普及している。この溶接方法の利点は、溶接部の機械的性質が低水素系被覆アーク溶接棒による溶接方法と同程度に優秀であること、高効率であること、溶込みが大きいこと、全姿勢の溶接が可能であること、可視アークであること等である。シールドガスとしての炭酸ガスは、アルゴンあるいはヘリウムのイナートガスあるいは混合ガスと比較して非常に安価であることに特徴がある。混合ガスは、炭酸ガスに他のガスを加えることにより、炭酸ガス単独の場合と比較して、溶接性能を改良されている。混合ガスとしては、炭酸ガスにアルゴンガスを混合したもの、酸素ガスを混合したもの、一酸化炭素ガスを混合したもの、アルゴンガス及び酸素ガスを混合したもの等が使用されている。
例えば、炭酸ガスとアルゴンガスとの混合ガスでは、ビードの形状が改良され、スパッタの発生量が減少し、アーク温度が上昇して溶込み量が増加する。炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスでは、アーク温度が上昇し、ワイヤの溶融速度が大きくなって溶込み量が増加する。
【0003】
従来、この炭酸ガスあるいは混合ガスをシールドガスとして使用するアーク溶接は、図2に示されるような構成の溶接装置により行われている。すなわち、図2において、溶接装置は、制御機能を備えた溶接機1、ワイヤ送給装置2、溶接トーチ3及びシールドガス供給装置4を主要構成機器として構成されている。該溶接機1は、前記シールドガス供給装置4から第1接続管7aを介してシールドガスを供給され、第2接続管7bを介して前記溶接トーチ3へシールドガスを供給するように配管接続されている。また、該溶接機1は、第1電源ケーブル5aを介して溶接トーチ3へ、第2電源ケーブル5bを介して被溶接物10へ、溶接電流を供給するように接続されている。前記ワイヤ送給装置2はワイヤリール2aを備え、溶接ワイヤ6を前記溶接トーチ3へ供給している。前記シールドガス供給装置4は、さらにシールドガスを充填されたガスボンベ(シールドガス供給源)41、シールドガスの流量を調節するレギュレータ42及び両機器間を接続する第3接続管43で構成されている。
【0004】
以上のように構成された溶接装置により、アーク溶接は、溶接機1から溶接トーチ3及び被溶接物10へ第1電源ケーブル5a、第2電源ケーブルを介して溶接電流が供給され、ガスボンベ41のシールドガスが第3接続管43、レギュレータ42及び第1接続管7aを介して流量を調節されながら溶接機1へ、さらに溶接機1から第2接続管7bを介して溶接トーチ3へ供給され、ワイヤ送給装置2から溶接トーチ3へ溶接ワイヤ6が供給されて行われる。
【0005】
【考案が解決しようとする課題】
従来の、シールドガスとして炭酸ガスあるいは混合ガスを使用するアーク溶接の溶接方法及び溶接装置は以上のように構成されているため、つぎのような課題が存在していた。すなわち、溶接は終始1種類のシールドガスを使用して行われている。従って、炭酸ガスを使用する場合は、溶接開始からアークの形成状態が安定するまでの間、溶込みが不充分となってビード形状が劣り、スパッタの発生量が多く、溶接不良の原因となることがある。また、混合ガスを使用する場合は、溶接開始時点においても炭酸ガスの場合のような不具合は発生しないが、混合ガスは炭酸ガスに比較して高価であり、溶接の施工費用が高くなる。また、従来の溶接装置では、溶接の途中でシールドガスを変更すること、すなわち、溶接を継続しながら、溶接条件に急激な変化を与えず、ガスボンベを交換することは不可能である。
【0006】
本考案は以上のような課題を解決するためになされたものであり、シールドガスとして炭酸ガスあるいは混合ガスを使用するアーク溶接において、溶接開始時点の溶接性能を安価に向上させる溶接装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、シールドガスを使用するアーク溶接において、本考案による溶接装置は、溶接開始時点で溶接性能の良好なシールドガスを供給し、アークの形成状態が安定した時点で他の種類のシールドガスへ切替えて供給することを特徴とするものである。
【0008】
さらに詳細には、溶接開始時点のシールドガスから他の種類のシールドガスへ切替える際に、該他の種類のシールドガスを供給開始した後に前記溶接開始時点のシールドガスを供給停止することを特徴とする溶接装置である。
【0009】
さらに詳細には、前記他の種類のシールドガスが炭酸ガスであることを特徴とする溶接装置である。
【0010】
また、シールドガスを使用するアーク溶接において、本発明による溶接装置は、制御機能を備えた溶接機と、ワイヤ送給装置と、溶接トーチと、シールドガス供給装置と、で構成される溶接装置において、前記シールドガス供給装置が少なくとも2種類のシールドガス供給源と、少なくとも2種類の前記ガス供給源を選択切替え可能な切替弁と、から構成されていることを特徴とするものである。
【0011】
さらに詳細には、前記切替弁が、少なくとも2箇所の流入口の箇々と流出口とを切替えて連通すると共に、流出口と任意の2箇所の流入口との連通状態を切替える途中で、流出口と任意の2箇所の流入口とを同時に連通することを特徴とする溶接装置である。
【0012】
【考案の実施の形態】
以下、図面とともに本発明によるシールドガスを使用するアーク溶接の溶接装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。図1は本考案による溶接装置の全体構成図である。図1において、溶接装置は、制御機能を備えた溶接機1、ワイヤ送給装置2、溶接トーチ3及びシールドガス供給装置4aを主要構成機器として構成されている。該溶接機1は、前記シールドガス供給装置4aから第1接続管7aを介してシールドガスを供給され、第2接続管7bを介して前記溶接トーチ3へシールドガスを供給するように配管接続されている。また、該溶接機1は、第1電源ケーブル5aを介して溶接トーチ3へ、第2電源ケーブル5bを介して被溶接物10へ、溶接電流を供給するように接続されている。前記ワイヤ送給装置2はワイヤリール2aを備え、溶接ワイヤ6を前記溶接トーチ3へ供給している。
【0013】
前記シールドガス供給装置4aは、さらに、2箇のシールドガス供給源すなわち溶接性能が良好な炭酸ガスとアルゴンガスとの混合ガスを高圧力で充填した1本の混合ガスボンベ41a及び安価な炭酸ガスを高圧力で充填した1本の炭酸ガスボンベ41b、1箇の切替弁44、該切替弁44と前記2本のガスボンベ41a、41bとを接続する第4接続管43a、第5接続管45a、第6接続管43b、第7接続管45b及び該第4接続管43a、第5接続管45a、第6接続管43b、第7接続管45bの途中に設けられた第1レギュレータ42a、第2レギュレータ42bにより構成されている。前記切替弁44は、例えば三方向切替え弁のように、1箇所の流出口と2箇所の流入口とを備えており、切替え操作により流出口は各流入口と箇別に連通されると共に、連通状態を切替える際に、その途中で流出口と2箇所の流入口とが同時に連通するように構成されている。
【0014】
以上のように構成された溶接装置により溶接を行う場合について以下に説明する。溶接を開始するには、まず、切替弁44により第1接続管7aと第5接続管45aとを連通し、混合ガスボンベ41aの図示しない止め弁を開いて混合ガスを供給する。混合ガスは混合ガスボンベ41aから第4接続管43a、第1レギュレータ42a、第5接続管45a、切替弁44、第1接続管7a、溶接機1、第2接続管7bを経て溶接トーチ3へ供給され、溶接トーチ3の先端から溶接部へ放出される。混合ガスの供給量は、第1レギュレータ42aを操作することにより所定の供給量に調節される。つぎに、溶接機1を操作し、第1電源ケーブル5a、第2電源ケーブルを経て溶接トーチ3及び被溶接物10へ溶接電流を供給開始すると共に、ワイヤ送給装置2から溶接トーチ3へワイヤリール2aに巻かれている溶接ワイヤ6を供給開始し、被溶接物10の溶接を開始する。溶接機1の制御機能は、被溶接物10の溶接条件に対応し、ワイヤ送給装置2から供給される溶接ワイヤ6の送給速度、混合ガスの供給量及び溶接電流を設定し、調節する。このようにして開始される溶接のアークの形成条件が不安定な状態においても、シールドガスが溶接性能の良好な混合ガスであることにより、溶込みが充分であり、ビード形状が良好であり、スパッタの発生量が少なく、良好な溶接が行われる。
【0015】
以上のようにして溶接を開始した後、アークの形成条件及び形成されたアークの状態が安定した時点で切替弁44を操作し、シールドガスを混合ガスから炭酸ガスへ切替える。すなわち、炭酸ガスボンベ41bの図示しない止め弁を開いて炭酸ガスを供給する。レギュレータ42bを所定の供給量に設定し、切替弁44を操作し、接続配管7aへ供給されるシールドガスを混合ガスから炭酸ガスへ切替える。切替えに際しては、炭酸ガスの供給量が徐々に増加すると共に混合ガスの供給量が徐々に減少し、混合ガスと炭酸ガスとが混合してその混合割合を変えながら供給されるように、切替弁44の切替え操作が行われる。この切替え操作により、被溶接物10の溶接部ではシールドガスの組成が混合ガスから炭酸ガスへ徐々に変化し、切替えに伴うシールドガスの急激な性状変化、圧力変動あるいは脈動は発生せず、良好な溶接状態が維持される。切替弁44の切替え操作が完了すると、第1接続管7aと第7接続管45bとが正規状態に連通し、第1接続管7aと第5接続管45aとが遮断される。その後混合ガスボンベ41aの止め弁を閉じる。以後この状態で、炭酸ガスをシールドガスとして溶接を継続する。
【0016】
以上の説明において、2種類のシールドガスとして、炭酸ガスとアルゴンガスとの混合ガスと、炭酸ガスと、を使用する場合について述べたが、本発明の技術はこれら以外の混合ガス、例えば炭酸ガスに、酸素ガスを混合したもの、一酸化炭素ガスを混合したもの、アルゴンガス及び酸素ガスを混合したもの、あるいはアルゴンガス、ヘリウムガス等(イナートガス)をシールドガスとして使用する場合についても同様に適用可能であり、シールドガス供給装置が3種類4種類のシールドガスを備え、被溶接物10の材質あるいは溶接条件に応じて適宜シールドガスを選択し、切替えることも可能である。その際の切替弁44は、1箇所の流出口と少なくとも3箇所以上の流入口とを備えており、切替え操作により流出口は各流入口と箇別に連通されると共に、連通状態を切替える際に、流出口と任意の2箇所の流入口とが同時に連通可能なように構成する。例えば、3箇以上の止め弁のそれぞれの一方の開口を一つの流出口として連結し、他方の開口をそのまま独立させ、任意の2箇の止め弁を開度を調整しながら箇々に独立して開閉操作する(この間その他の止め弁は遮断状態とする)ことにより可能となる。
【0017】
また、切替え弁の操作を手動の状態で説明したが、自動化され得る技術であり、半自動溶接装置あるいは全自動溶接装置にも適用可能な技術である。
さらに、本発明の技術は、鉄鋼材料の溶接に限定されるものではなく、シールドガスを使用するアーク溶接が施工される鉄鋼材料以外の金属材料についても適用される技術である。
【0018】
【考案の効果】
本考案によるシールドガスを使用するアーク溶接の溶接方法及び溶接装置は以上のように構成されていることにより、以下のような効果を得ることができる。
すなわち、溶接開始時点で溶接性能の良好なシールドガスを供給し、アークの形成状態が安定した時点で他の種類のシールドガスへ切替えて供給する溶接方法により、溶接性能の劣る溶接開始時点の短時間にのみ溶接性能の良好な高価なシールドガスを供給し、溶接性能が良好なその後は、安価なシールドガスを供給し、溶接開始時点から良好な溶接性能を確保したうえで溶接に掛かるシールドガスの費用を低減することができる。
【0019】
例えば、鉄鋼材料を溶接する場合、溶接開始時点で混合ガスを供給し、その後炭酸ガスを供給することにより、溶接開始時点から溶込みが充分でビード形状が良好であり、スパッタの発生量少なく、溶接不良が発生しない良好な溶接性能が安価に実現できる。
【0020】
また、溶接開始時のシールドガスから他の種類のシールドガスへ切替える際に、両方のシールドガスを同時に供給しながら徐々に切替えることにより、切替えに伴うシールドガスの急激な性状変化、圧力変動あるいは脈動は発生せず、良好な溶接状態が維持される。
【0021】
本考案による溶接装置は、複数のシールドガス供給源がこのガス供給源を選択切替え可能な切替弁に連結されていることにより、切替弁を操作することにより供給されるシールドガスをある種類から他の種類へ容易に切替えることが可能となる。
【0022】
また、切替弁は、切替え操作の途中で、切替えを行う2箇所の流入口と流出口とを同時に連通することにより、2種類のシールドガスを徐々に切替え、切替えに伴うシールドガスの急激な性状変化、圧力変動あるいは脈動を発生させず、スムーズな切替えが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案によるシールドガスを使用するアーク溶接の溶接装置を示す全体構成図である。
【図2】従来のシールドガスを使用するアーク溶接の溶接装置を示す全体構成図である。
【符号の説明】
1 溶接機
2 ワイヤ送給装置
3 溶接トーチ
4 シールドガス供給装置
4a シールドガス供給装置
5a 電源ケーブル
5b 電源ケーブル
6 溶接ワイヤ
7a 接続管
7b 接続管
10 被溶接物
41 ガスボンベ(シールドガス供給源)
41a ガスボンベ(シールドガス供給源)
41b ガスボンベ(シールドガス供給源)
42 レギュレータ
42a レギュレータ
42b レギュレータ
43 接続管
43a 接続管
43b 接続管
44 切替弁
45a 接続管
45b 接続管

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 制御機能を備えた溶接機(1)と、ワイヤ送給装置(2)と、溶接トーチ(3)と、シールドガス供給装置(4a)と、で構成されるシールドガスを使用するアーク溶接の溶接装置において、前記シールドガス供給装置(4a)が少なくとも2種類のシールドガス供給源(41a、41b)と、少なくとも2種類の前記シールドガス供給源(41a、41b)を選択切替え可能な切替弁(44)と、から構成されていることを特徴とする溶接装置。
【請求項2】 前記切替弁(44)が、少なくとも2箇所の流入口の箇々と流出口とを切替えて連通すると共に、流出口と任意の2箇所の流入口との連通状態を切替える途中で、流出口と任意の2箇所の流入口とを同時に連通することを特徴とする請求項1記載の溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【登録番号】第3027096号
【登録日】平成8年(1996)5月15日
【発行日】平成8年(1996)7月30日
【考案の名称】溶接装置
【国際特許分類】
【評価書の請求】未請求
【出願番号】実願平8−648
【出願日】平成8年(1996)1月22日
【出願人】(596021322)音戸工業株式会社 (1)