説明

溶接部の温度測定装置

【課題】2色測温法に於いて画像間の較正を省略できる様に、又簡単な装置で而も簡便に温度測定を可能とした。
【解決手段】撮像素子10を有し、溶接部23を撮像するカメラ11と、異なる波長をそれぞれ透過する2つの光学フィルタ19,20,21,22を少なくとも1組備え、各光学フィルタが前記カメラの光軸15を通過する様回転可能に支持されたフィルタテーブル14と、該フィルタテーブルを回転させるモータ17と、前記2つの光学フィルタを透して2波長で撮像した前記撮像素子からの2色の画像信号に基づき、2色測温法により画像中の任意の点についての温度を演算する制御演算部13とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶接部の画像を取得し、取得した画像から溶接部の温度を測定する溶接部の温度測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接部の温度を測定する方法として2色測温法があり、該2色測温法は、波長の異なる2つの光を用いて同一点の画像を取得し、光強度と測定対象物の放射率から温度を測定するものである。又、放射率は測定対象物の状態、固体、液体或は表面状態(表面酸化膜の有無)等で変化する。2色測温法では、2波長でそれぞれ温度と放射率の関係を示す関係式(関係式については後述)が2式得られ、又同時に同一点の画像を取得するので、2式に於ける放射率は同じである。2式に於ける放射率が同じであることを利用して、測定対象物の温度を測定するものである。
【0003】
従来の2色測温法について説明する。
【0004】
従来の2色測温法では2つのカメラで測定対象物の同一箇所を撮像するものであり、測定対象物の所定点、例えば溶融プールの中心で、2つのカメラの光軸が合致する様設定され、光軸の合致した点を中心とした画像を取得する様になっている。又、前記2つのカメラにはそれぞれ異なる波長を透過する波長フィルタが設けられ、前記2つのカメラによって測定対象物について2波長の画像の光強度分布を取得する。又、2つの画像の光強度分布から上記2色測温法により、測定対象物の温度が測定できる。
【0005】
一方、上記従来の2色測温法では、2つのカメラにより画像を取得している為、視野のずれ等を補正する為のキャリブレーションが必要であり、又キャリブレーションは手間の掛る作業であった。
【0006】
又、2色測温法により測定した温度を実際の温度に換算する為には、基準値となる値が必要であり、従来では熱電対等を測定対象物に取付け、実際の温度を測定して基準値としていた。この為、基準値を測定する為の準備、測定に手間が掛っていた。
【0007】
尚、非特許文献1には、2色放射測温法を利用した溶滴温度測定方法が示され、更に非特許文献1には、入射光軸を光学的に2分割し、分割した各分割光軸毎に波長フィルタが設けられ、前記分割光軸を通して得られる2つの画像を撮像素子の異なる位置で取得し、取得した2つの画像に基づき2色放射測温法による温度測定を行うことが示されている。非特許文献1では複雑な光学系を有する撮像装置が必要となり、又異なる2画像間のキャリブレーションも必要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】溶接学会論文集 第26巻 第3号 P214〜219(赤外線二色放射測温法によるGMA溶接の溶滴温度測定)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は斯かる実情に鑑み、2色測温法に於いて画像間の較正を省略できる様に、又簡単な装置で而も簡便に温度測定を可能としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、撮像素子を有し、溶接部を撮像するカメラと、異なる波長をそれぞれ透過する2つの光学フィルタを少なくとも1組備え、各光学フィルタが前記カメラの光軸を通過する様回転可能に支持されたフィルタテーブルと、該フィルタテーブルを回転させるモータと、前記2つの光学フィルタを透して2波長で撮像した前記撮像素子からの2色の画像信号に基づき、2色測温法により画像中の任意の点についての温度を演算する制御演算部とを具備する溶接部の温度測定装置に係るものである。
【0011】
又本発明は、異なる波長をそれぞれ透過する2つの光学フィルタの組を2組備え、一方の組の光学フィルタは他方の組の光学フィルタより光透過率が小さく設定された溶接部の温度測定装置に係るものである。
【0012】
又本発明は、前記制御演算部は、任意の時点の2色の画像信号から該任意の時点の静止温度分布画像を作成する溶接部の温度測定装置に係るものである。
【0013】
又本発明は、前記制御演算部は、前記フィルタテーブルを回転することで得られる時系列の2色の画像信号から動的な温度分布の動画像を作成する溶接部の温度測定装置に係るものである。
【0014】
又本発明は、前記制御演算部は、2色の画像信号に基づき溶接部の溶融部を通過する線上の光強度分布曲線を求め、該光強度分布曲線より光強度の2次ピークが形成される液相・固相の境界を求め、該境界の温度を2色の画像信号に基づき算出し、算出した境界温度と溶接部の母材融点の温度との関係から2色測温法により求めた測定温度を補正する溶接部の温度測定装置に係るものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、撮像素子を有し、溶接部を撮像するカメラと、異なる波長をそれぞれ透過する2つの光学フィルタを少なくとも1組備え、各光学フィルタが前記カメラの光軸を通過する様回転可能に支持されたフィルタテーブルと、該フィルタテーブルを回転させるモータと、前記2つの光学フィルタを透して2波長で撮像した前記撮像素子からの2色の画像信号に基づき、2色測温法により画像中の任意の点についての温度を演算する制御演算部とを具備するので、簡単な構成で2色測温法による温度測定が可能であり、同一の光軸で同一の視野の2色画像を取得するので、画像間の較正が省略できるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例に係る溶接部の温度測定装置の概略構成図である。
【図2】該温度測定装置の概略ブロック図である。
【図3】(A)はカメラとフィルタテーブル、波長フィルタとの関係を示し、(B)はフィルタテーブルを回転させて、画像を取得した場合の第1波長フィルタ、第2波長フィルタ、第3波長フィルタ、第4波長フィルタと画像との関係を示す図である。
【図4】溶接部と該溶接部の光強度分布曲線と撮像素子からの出力信号の関係を示す説明図であり、(A)は溶接トーチと溶接線、溶接部との関係を示す図、(B)は溶接線に沿った光強度分布曲線のグラフ、(C)〜(E)は、高温域、中温域、低温域での撮像素子からの出力信号の状態を示す説明図である。
【図5】溶接時の溶融プールを中心とした温度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0018】
先ず、本発明に係る実施例の概略構成を図1、図2を参照して説明する。
【0019】
図1中、11は支持部材12に支持されたカメラであり、CCD、CMOSセンサ等、多数の画素の集合体である撮像素子10を具備し、静止画像、連続画像のデジタル画像信号を出力する。又、撮像素子10の基準位置、例えば撮像素子10の中央とカメラ11の光軸15(後述)とが合致しており、各画素の位置は前記基準位置に対して位置が特定される様になっている。13は制御演算装置、例えばモニタ3を具備したパーソナルコンピュータ(PC)である。
【0020】
該制御演算装置13は、図2に示す様に主に演算処理部(CPU)31、記憶部32、画像処理部33、操作部34を具備しており、前記記憶部32には温度測定装置の作動を制御する為のシーケンスプログラム、前記撮像素子10からの画像信号から各画素毎の光強度を算出し、算出した結果を該撮像素子10内の画素の位置情報に関連付ける画像処理プログラム、算出した光強度に基づき2色測温法により放射率又は/及び温度を演算し、更に温度分布等を演算する為の演算プログラム、得られた温度、温度分布より温度分布の静止画像、温度分布の動画像を作成する映像プログラム等のプログラムが格納されている。
【0021】
又該記憶部32には前記カメラ11から入力される画像信号、或は各画素毎の光強度、演算された温度、温度分布等のデータを格納するデータ格納領域を具備している。
【0022】
前記操作部34からは、測定作業に必要な条件、例えば母材の融点、モータ17の回転速度等が入力される。
【0023】
14はフィルタテーブルであり、該フィルタテーブル14は前記カメラ11の光軸15と平行な回転軸16を介して回転自在に設けられている。該回転軸16はモータ17に設けられ、該モータ17によって前記フィルタテーブル14が定速回転される、或は間欠回転される様になっている。又、前記モータ17の回転速度、回転角はエンコーダ18によって検出される様になっている。
【0024】
前記フィルタテーブル14には円周を4等分した位置に光学フィルタである第1波長フィルタ19、第2波長フィルタ20、第3波長フィルタ21、第4波長フィルタ22が設けられており、前記第1波長フィルタ19〜前記第4波長フィルタ22は同一円周上に配設され、前記フィルタテーブル14の回転により各波長フィルタ中心が前記光軸15を通過する様になっている。尚、前記カメラ11の光軸15が前記第1波長フィルタ19〜前記第4波長フィルタ22を通過する様に前記フィルタテーブル14の回転中心を設定すればよく、該フィルタテーブル14の回転軸16は必ずしも前記カメラ11の光軸15と平行である必要はない。
【0025】
又、前記第1波長フィルタ19と前記第3波長フィルタ21は同一波長λ1 を透過し、又前記第3波長フィルタ21は減光作用を有しており、波長フィルタ自体の光透過率が調整されるか、或は波長フィルタと減光フィルタが組合されて構成される。該第3波長フィルタ21の光透過率は、前記第1波長フィルタ19の光透過率の、例えば1/10となっている。
【0026】
前記第2波長フィルタ20と前記第4波長フィルタ22は同一波長λ2 (≠λ1 )をそれぞれ透過し、又前記第4波長フィルタ22は減光作用を有しており、波長フィルタ自体の光透過率が調整されるか、或は波長フィルタと減光フィルタが組合されて構成される。該第4波長フィルタ22の光透過率は、前記第2波長フィルタ20の光透過率の、例えば1/10となっている。
【0027】
測定対象23は図示では隅肉溶接部を示しており、又図中、24は溶接トーチ、25は溶融プール、6は母材、7はレーザ光線を示している。
【0028】
前記カメラ11からの撮像データは、前記制御演算装置13に送出され、又前記カメラ11の撮像作動は前記制御演算装置13によって制御される。又、前記モータ17の回転は前記制御演算装置13によって設定された回転速度に制御され、前記エンコーダ18からの回転速度信号、回転角度信号は、前記制御演算装置13に送出される。
【0029】
前記カメラ11と前記モータ17(即ち前記フィルタテーブル14)とは、前記制御演算装置13によって同期駆動され、前記光軸15が前記第1波長フィルタ19〜前記第4波長フィルタ22の中心と合致した時点で、前記カメラ11によって前記隅肉溶接部23の画像が取得される様、制御される。
【0030】
ここで、前記フィルタテーブル14が1回転する速度(周期)は、溶接状態での前記隅肉溶接部23の温度変化の速度に対して充分早く、前記フィルタテーブル14が1回転する間に生じる温度変化が測定上無視できる様に設定する。即ち、前記フィルタテーブル14の回転速度(周期)は、前記隅肉溶接部23の温度変化の状態、要求される測定精度によって決定される。
【0031】
以下、作動について説明する。
【0032】
図3(A)、(B)は前記フィルタテーブル14を回転させて、画像を取得した場合の前記第1波長フィルタ19、第2波長フィルタ20、第3波長フィルタ21、第4波長フィルタ22と画像との関係を示している。
【0033】
前記フィルタテーブル14を回転させつつ、前記カメラ11で画像を取得することで、前記波長フィルタ19,20,21,22を通して順次、波長λ1 の画像a、波長λ2 の画像b、減光した波長λ1 の画像c、減光した波長λ2 の画像dが順次取得され、これら4の画像が1周期として繰返し取得される。即ち、1周期の画像群により、前記隅肉溶接部23の所定の瞬間の画像が取得され、連続的に画像群を取得することで前記隅肉溶接部23の連続画像が取得できる。
【0034】
次に、温度Tと光強度Iと前記撮像素子10からの出力信号Sとの関係を説明する。
【0035】
図4(A)は溶接部の進行方向を示すものであり、溶接トーチ24は溶接線27に沿って図中右から左に移動する。溶融プール25は、前記溶接トーチ24の移動と共に移動し、前記溶融プール25の後方にはビード8が形成される。
【0036】
前記カメラ11の画像の撮像範囲の設定は、広範囲の温度分布を取得したい場合、例えば図4(A)の様に、溶接後のビード8の温度変化を知りたい場合等は、前記カメラ11の倍率を低くして広画角とし、又溶融プール25及びその周辺の温度分布、温度変化を取得したい場合は、前記カメラ11の倍率を高くして狭画角とする。尚、前記カメラ11の画像の撮像範囲の設定は、画角を調整せず、前記カメラ11と測定点迄の距離を調整してもよい。
【0037】
又、溶融プール25及びその周辺の温度分布、温度変化を取得する場合は、前記溶接トーチ24と連動して前記カメラ11及び前記フィルタテーブル14を移動させる様にしてもよい。
【0038】
図4(B)は、前記溶接線27に沿った光強度分布を示しており、前記溶融プール25中心(即ち、レーザ光線7の照射点)が光強度の最大値Imax を示し、後方に向って漸次光強度が低下している。尚、光強度の最大値(1次ピーク)Imax の後方に、光強度の2次ピークIp が現れるが、これは、溶融金属が固体化することで、放射率が増大することに起因するものである。従って、光強度分布曲線より、光強度のピークIp を検出することで、前記溶融プール25と固体部との境界、即ち液相部と固相部との境界を求めることができる。
【0039】
図4(C)〜図4(E)は、光強度Iと前記撮像素子10からの出力信号の関係を示している。前記撮像素子10のダイナミックレンジは限られており、強強度の光が入射すると、前記撮像素子10は飽和状態に達し、光強度Iに対応した信号が出力できなくなる。本実施例では、前記第1波長フィルタ19、前記第2波長フィルタ20に対して前記第3波長フィルタ21、前記第4波長フィルタ22の光透過率を減少させているので、前記第1波長フィルタ19、前記第2波長フィルタ20を透して撮像した画像が飽和状態であっても、前記第3波長フィルタ21、前記第4波長フィルタ22を透して撮像した画像は、光強度Iを反映した画像となる。
【0040】
図4(C)は高温域の前記撮像素子10の出力信号を示している。尚、出力信号は図中太線で示している。前記第1波長フィルタ19、前記第2波長フィルタ20を透した波長λ1 の画像a、波長λ2 の画像bの信号(Sa,Sb)は飽和しており、前記第3波長フィルタ21、前記第4波長フィルタ22を透し減光した波長λ1 の画像c、減光した波長λ2 の画像dの信号(Sc,Sd)は光強度Iに対応した出力信号となっている。
【0041】
図4(D)は中温域の前記撮像素子10の出力信号を示している。前記第1波長フィルタ19、前記第2波長フィルタ20を透した波長λ1 の画像a、波長λ2 の画像bの信号、減光した波長λ1 の画像c、減光した波長λ2 の画像dの信号共には光強度Iに対応した出力信号Sとなっている。いずれの信号を用いてもよいが、S/Nを考慮すると信号値の高い前記第1波長フィルタ19、前記第2波長フィルタ20を透した波長λ1 の画像a、波長λ2 の画像bの信号を用いることが好ましい。尚、精度を向上させる為に、減光しない画像信号、減光した画像信号を用いてそれぞれ測定し、平均化してもよい。
【0042】
図4(E)は低温域の前記撮像素子10の出力信号を示している。前記第1波長フィルタ19、前記第2波長フィルタ20を透した波長λ1 の画像a、波長λ2 の画像bの信号は光強度Iに対応した出力信号となっているが、前記第3波長フィルタ21、前記第4波長フィルタ22で撮像した画像では、信号強度が低く、有効な信号値が得られていない状態となっている。
【0043】
前記制御演算装置13は、撮像素子からの出力信号値に基づき前記第1波長フィルタ19、前記第2波長フィルタ20を透して撮像した画像信号を用いるか、或は前記第3波長フィルタ21、前記第4波長フィルタ22を透して撮像した画像信号を用いるかを選択して、2色測温法により温度を測定する。
【0044】
従って、本実施例の様に、減光フィルタと波長フィルタを組合せることで、実質的に前記撮像素子10のダイナミックレンジを拡大することができる。尚、広いダイナミックレンジが必要ない場合は、減光フィルタを省略し、第1波長フィルタ19、第2波長フィルタ20を2組設けてもよい。又、更にダイナミックレンジを拡大する場合は、光透過度の異なる減光フィルタを2組以上設けてもよい。
【0045】
尚、前記撮像素子10からの出力信号(光強度信号)は、1つの信号と次の信号との間に1周期分の時間間隔が生じる。例えば、図4(C)に於いて、最初の画像cの信号sを取得して次の画像cの信号s′を取得する迄に、1周期分の時間間隔を生じる。上記した様に、信号sと信号s′との信号の間に時間差に対応した偏差が生じ、得られる信号は階段状になるが、信号sと信号s′との間を内挿補完することで、時間の経過に対応した連続した信号出力を得ることができる。
【0046】
前記撮像素子10は、画素の集合体であり、各画素全てから光強度信号が出力される。又、各画素の位置は画像上位置(点)と対応しているので、画像上の任意な点について対応する画素からの信号に基づき2色測温法による温度測定を行うことができる。即ち、画像全体に亘る温度測定が可能であると共に温度分布を求めることができる。尚、各画素からの信号に含まれるノイズの影響を低減する為に、隣接する複数の画素からの光強度信号を平均化して2色測温法による温度測定を行ってもよい。
【0047】
上記した様に、本実施例では、2色の画像信号が簡単に得られるが、2色の画像は、同一の光軸で同一範囲を撮像し、波長の相違を無視できる時間差を除けば全く同一条件であるので、2つの画像間の較正は必要なくなる。
【0048】
以下に、2色で撮像した画像から温度を測定する場合の、温度の導出式を示す。又、該温度の導出式は、前記演算プログラムに組込まれている。
【0049】
物体が放出する電磁波の強度は温度、波長に対して以下のプランクの放射則に従う。
【0050】
I=ε(2Ca /λ5 )×(1/[exp(Cb /λT)−1])・・・(式1)
【0051】
ここで、I:光強度、ε:放射率、λ:波長、T:温度、Ca 、Cb :プランク定数とする。
【0052】
2つの波長λ1 、λ2 により光強度I1 、I2 を求めることで、以下の式2で温度Tを求めることができる。
【0053】
T=[Cb (λ1 −λ2 )/λ1 ・λ2 ]×[1/ln(I1 λ1 5 /I2 λ2 5 )]・・・(式2)
【0054】
尚、式1は放射率εについても解くことが可能であり、放射率εを求める様にすれば、本装置を放射率測定装置として使用することも可能である。
【0055】
正確な温度測定値を得るには、得られた温度を実際の温度(仮に絶対温度と称す)に補正する必要がある。
【0056】
基準となる絶対温度を測定するには、前記ビード8が形成される近傍に熱電対等を設置して測定してもよい。熱電対の位置は、画像上で特定でき、又画像上の各点での温度は対応する画素からの光強度で求められる。従って、熱電対で得られた測定結果を基に2色測温法で得られた温度を較正することができる。
【0057】
尚、本実施例では、上記した様に光強度分布曲線から、前記溶融プール25と固体部との境界を検出できる。この境界では、溶融金属が固化している状態にあると考えられる。従って、光強度分布曲線の前記境界温度は、母材の融点と見なされる。母材(金属)の融点は、母材の固有の値であり、この固有の融点の温度に基づき前記光強度分布曲線から得られる境界の温度を補正することで、本実施例の2色測温法により測定した温度を絶対温度に較正することができる。尚、融点の温度については事前に調査、或は測定しておく。
【0058】
即ち、本実施例では、別途熱電対等の温度検出器を取付けなくても、2色測温法で得られた測定結果のみで、絶対温度迄求めることができる。
【0059】
前記撮像素子10の各画素について、2色測温法で温度測定し、更に絶対温度に較正することで、画像全範囲に亘る温度と絶対温度が測定できる。前記制御演算装置13は得られた測定結果を基に、例えば図5に示される様な温度分布図を作成し、モニタ3に表示することができる。
【0060】
又温度分布は、所定の瞬間の静的な温度分布が得られると共に瞬間の温度分布の画像を時系列に連続的に作成し、作成した静止画像を連続画像として合成することで、動的な温度分布の動画像としても表示することができる。
【0061】
又、1画像(1フレーム)毎の、各画素の光強度の偏差を求め、更に1周期の時間を求めることで当該画素と対応する点での温度変化の速度が得られ、ビード8の冷却速度、溶接影響部等各部位の冷却速度が実測値として得られ、或は冷却状態、加熱状態をリアルタイムで観察することができる。
【0062】
尚、上記実施例では、溶接線27に沿った光強度分布曲線から、液相と固相の境界を検出したが、別途画像上から前記溶融プール25を通過する直線状の光強度分布曲線を作成し、該光強度分布曲線より液相と固相の境界を検出してもよい。
【符号の説明】
【0063】
3 モニタ
6 母材
7 レーザ光線
8 ビード
10 撮像素子
11 カメラ
12 支持部材
13 制御演算装置
14 フィルタテーブル
15 光軸
16 回転軸
17 モータ
18 エンコーダ
19 第1波長フィルタ
20 第2波長フィルタ
21 第3波長フィルタ
22 第4波長フィルタ
23 隅肉溶接部
24 溶接トーチ
25 溶融プール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像素子を有し、溶接部を撮像するカメラと、異なる波長をそれぞれ透過する2つの光学フィルタを少なくとも1組備え、各光学フィルタが前記カメラの光軸を通過する様回転可能に支持されたフィルタテーブルと、該フィルタテーブルを回転させるモータと、前記2つの光学フィルタを透して2波長で撮像した前記撮像素子からの2色の画像信号に基づき、2色測温法により画像中の任意の点についての温度を演算する制御演算部とを具備することを特徴とする溶接部の温度測定装置。
【請求項2】
異なる波長をそれぞれ透過する2つの光学フィルタの組を2組備え、一方の組の光学フィルタは他方の組の光学フィルタより光透過率が小さく設定された請求項1の溶接部の温度測定装置。
【請求項3】
前記制御演算部は、任意の時点の2色の画像信号から該任意の時点の静止温度分布画像を作成する請求項1又は請求項2の溶接部の温度測定装置。
【請求項4】
前記制御演算部は、前記フィルタテーブルを回転することで得られる時系列の2色の画像信号から動的な温度分布の動画像を作成する請求項1〜請求項3のいずれかの溶接部の温度測定装置。
【請求項5】
前記制御演算部は、2色の画像信号に基づき溶接部の溶融部を通過する線上の光強度分布曲線を求め、該光強度分布曲線より光強度の2次ピークが形成される液相・固相の境界を求め、該境界の温度を2色の画像信号に基づき算出し、算出した境界温度と溶接部の母材融点の温度との関係から2色測温法により求めた測定温度を補正する請求項1〜請求項4のいずれかの溶接部の温度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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