説明

溶接金属及びサブマージアーク溶接方法

【課題】靱性が安定して優れているとともに、耐SR性が優れている高強度Cr−Mo鋼の溶接金属及びその溶接金属を得るサブマージアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】サブマージアーク溶接によって溶接された溶接金属は、C:0.05乃至0.15質量%、Si:0.10乃至0.25質量%、Mn:0.50乃至1.30質量%、Cr:2.00乃至3.25質量%、Mo:0.90乃至1.20質量%、V:0.20乃至0.40質量%、Nb:0.010乃至0.040質量%、O:250乃至450ppm、を含有し、Al:0.040質量%以下、P:0.010質量%以下、S、Sn、Sb、As:総量で0.010質量%以下、Bi、Pb:総量で1.0ppm以下、であり、残部がFe及び不可避不純物である組成を有し、ミクロ組織において、粒面積が400μm以下の結晶粒が結晶粒全体の70%以上を占める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度Cr−Mo鋼(Cr:2.00−3.25、Mo:0.90−1.20)の溶接に使用され、特に、Cr及びMoの他にVを必須成分として含有し、更に必要に応じて、Nb、Ti、B及びCa等を含有する高強度Cr−Mo鋼の溶接に有効な高強度Cr−Mo鋼の溶接金属及びサブマージアーク溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2.25乃至3質量%のCr及び1質量%のMoを含むCr−Mo鋼は高温特性に優れているため、ボイラー及び化学反応容器等の高温高圧環境下において使用される材料として、従来から広く使用されている。これらの構造物は大型厚肉のものが多く、その溶接にはおもに、溶接効率がよいサブマージアーク溶接が採用されている。また、設備の高効率操業を図るために、溶接業条件がより一層高温高圧化される傾向があるので、従来鋼を使用する場合、溶接構造物が更に一層厚肉となり、実用的でなくなる。従って、高温高圧条件下においても構造物の厚肉化を抑制するために、Vを添加した高強度Cr−Mo鋼又はV及びNb等を添加した高強度Cr−Mo鋼が実用化されている。
【0003】
溶接材料についても、室温及び高温強度、靱性、クリープ強度、耐焼戻し脆化特性(高温環境での使用中に脆化が少ないこと)、耐高温割れ性(凝固時の割れが少ないこと)、耐低温割れ性(水素による遅れ破壊が生じ難いこと)、及び耐SR割れ性(析出時効による粒界割れが生じ難いこと)に関して、従来の溶接材料よりも優れたものが要求されてきている。そこで、特許文献1及び2において、上述の性能を有する溶接金属が得られるサブマージアーク溶接方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−328292号公報
【特許文献2】特開平9−192881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1及び2に開示されたサブマージアーク溶接方法により溶接しても、近時のより低温における溶接金属の靭性向上という要求を満足させる点で、未だ十分な特性が得られていない。
【0006】
本発明はかかる問題点を鑑みてなされたものであって、靱性が安定して優れているとともに、耐SR性が優れている高強度Cr−Mo鋼の溶接金属及びその溶接金属を得るサブマージアーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る第1の溶接金属は、サブマージアーク溶接によって溶接された溶接金属において、
C:0.05乃至0.15質量%、
Si:0.10乃至0.25質量%、
Mn:0.50乃至1.30質量%、
Cr:2.00乃至3.25質量%、
Mo:0.90乃至1.20質量%、
V:0.20乃至0.40質量%、
Nb:0.010乃至0.040質量%、
O:250乃至450ppm、
を含有し、
Al:0.040質量%以下、
P:0.010質量%以下、
S、Sn、Sb、As:総量で0.010質量%以下、
Bi、Pb:総量で1.0ppm以下、
であり、残部がFe及び不可避不純物である組成を有し、
ミクロ組織において、粒面積が400μm以下の結晶粒が結晶粒全体の70%以上を占めることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る第2の溶接金属は、
C:0.09乃至0.19質量%、
Si:0.30質量%以下、
Mn:0.50乃至1.40質量%、
Cr:2.00乃至3.80質量%、
Mo:0.90乃至1.20質量%、
V:0.25乃至0.45質量%、
Nb:0.010乃至0.040質量%、
残部:Fe及び不可避不純物
である組成の溶接ワイヤを、
CO換算で3.0乃至12.0質量%である炭酸塩を含有したフラックスと組合せて、
サブマージアーク溶接することにより溶接された溶接金属において、
C:0.05乃至0.15質量%、
Si:0.10乃至0.25質量%、
Mn:0.50乃至1.30質量%、
Cr:2.00乃至3.25質量%、
Mo:0.90乃至1.20質量%、
V:0.20乃至0.40質量%、
Nb:0.010乃至0.040質量%、
O:250乃至450ppm、
を含有し、
Al:0.040質量%以下、
P:0.010質量%以下、
S、Sn、Sb、As:総量で0.010質量%以下、
Bi、Pb:1.0ppm以下、
であり、残部がFe及び不可避不純物である組成を有し、
ミクロ組織において、粒面積が400μm以下の結晶粒が結晶粒全体の70%以上を占めることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る第3の溶接金属は、
上記第2の溶接金属において、溶接条件として、溶接入熱が20乃至50kJ/cmの範囲で、1層当たりの積層厚さ(mm)が入熱量(kJ/cm)の0.15倍以下であるように制御したサブマージアーク溶接によって溶接されたものであることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る第1のサブマージアーク溶接方法は、
C:0.09乃至0.19質量%、
Si:0.30質量%以下、
Mn:0.50乃至1.40質量%、
Cr:2.00乃至3.80質量%、
Mo:0.90乃至1.20質量%、
V:0.25乃至0.45質量%、
Nb:0.010乃至0.040質量%、
残部:Fe及び不可避不純物
である組成の溶接ワイヤを、
CO換算で3.0乃至12.0質量%である炭酸塩を含有したフラックスと組合せて、
溶接条件として、溶接入熱が20乃至50kJ/cmの範囲で、1層当たりの積層厚さ(mm)が入熱量(kJ/cm)の0.15倍以下であるように制御してサブマージアーク溶接することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る第2のサブマージアーク溶接方法は、第1のサブマージアーク溶接方法において、
C:0.05乃至0.15質量%、
Si:0.10乃至0.25質量%、
Mn:0.50乃至1.30質量%、
Cr:2.00乃至3.25質量%、
Mo:0.90乃至1.20質量%、
V:0.20乃至0.40質量%、
Nb:0.010乃至0.040質量%、
O:250乃至450ppm、
を含有し、
Al:0.040質量%以下、
P:0.010質量%以下、
S、Sn、Sb、As:総量で0.010質量%以下、
Bi、Pb:総量で1.0ppm以下、
残部がFe及び不可避不純物である組成を有し、
ミクロ組織において、粒面積が400μm以下の結晶粒が結晶粒全体の70%以上を占める溶接金属を得るものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ステンレス鋼溶接時に、溶接金属の靭性が安定していて、高い値を示すと共に、耐SR性及び溶接作業性も優れている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】開先形状を示す図である。
【図2】PWHTの方法を示す温度線図である。
【図3】溶着金属のステップクーリング方法を示す図である。
【図4】(a)乃至(e)は円筒型試験片の採取方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。高強度Cr−Mo鋼が実用化された1990年代では、−18℃における衝撃値(vE−18℃)が55J以上であることが、高強度Cr−Mo鋼に要求される一般的な靭性特性であった。しかし、近時、−30℃における衝撃値(vE−30℃)が55J以上であることが要求され、より低温における衝撃特性の向上が要求されている。
【0015】
このような低温衝撃特性の向上の要求を満たすべく、溶接金属の組成を調整するというアプローチで溶接金属の低温靱性を改善しようとすると、平均的には目標を達成できるものの、時折、靱性が極めて悪い値を示すケースが確認された。溶接金属の靱性の評価においては、溶接後の試験片から温度当たりN=3〜5本の試験片を連続的に採取して試験に供するが、その全数又は多くの場合そのうちの1〜2本で、異常に悪い靭性値が出るために、要求仕様を満足できないケースが散見された。
【0016】
良好な靱性値を示した試験片と、悪い値を示した試験片を比較調査した結果、化学成分の差異は確認できなかったものの、ミクロ組織の細かさによって、良好な靭性を示すものと、悪い靭性を示すものとの差異を整理できることが判明した。即ち、悪い靭性値を示した試験片は、必ず原質部主体のミクロ組織であることが判明し、この原質部の粗粒が靱性を不安定化させていると考えられる。
【0017】
このため、溶接金属を細粒主体の再熱部とすることで靱性を安定化させる検討を行ったが、溶接金属の成分を調整するだけでは達成できなかった。高強度Cr−Mo鋼を使用する構造物には数十〜数百mmの厚板が使用されるため、サブマージアーク溶接(SAW)であっても多層溶接となる。そこで、施工面からも検討を行った結果、一層当たりの積層厚を制御することで、ある層の溶接時にその前の層を再熱する効果によって再熱部主体の溶接金属を作ることができた。また、一般的にミクロ組織の微細化には溶接入熱を低減し、冷却速度を増加させることが有効と考えられてきたが、本発明者等は、それだけでは不十分であることも見いだした。低入熱の場合でも、例えば電流が大きく、電圧が低い条件で溶接すると、溶け込みが深くなる等、層厚が増すことで、次層の再熱が及ばずに粗粒が残留するケースがあった。一方、入熱が高くても、溶け込みが浅く、一定の層厚を保つように溶接すれば、次層の再熱によって十分に細粒化することが確認された。
【0018】
一方、細粒の定義と、靱性に及ぼす分布量の影響についても検討した。ASTM E112及びJIS G0551等による結晶粒の測定方法に基づいて調査を行い、再熱部又は細粒部の結晶粒面積を、400μm以下と定義して、その再熱部又は細粒部の面積を規定することが有効であることを見いだした。なお、本発明者等の実験研究によれば、実際の施工において、細粒を100%とすることは困難であった。しかし、本発明者等は、ある程度の粗粒が混入していても、靱性が安定することを見いだした。このため、細粒の領域を、結晶粒面積が400μm以下の領域であると定義して、その比率について、靭性の安定及び向上を図ることができる範囲を確認した。
【0019】
以下、本発明における成分添加理由及び組成限定理由と、結晶粒の数値限定理由について説明する。
【0020】
(A)先ず、ソリッドワイヤにおける化学成分の限定理由について説明する。
【0021】
「C:0.09乃至0.19質量%」
Cは溶接金属の室温及び高温強度、クリープ強度及び靱性を確保するために添加するものであり、溶接金属中のC含有量を0.05−0.15質量%にするために、ソリッドワイヤ中のC含有量を制限する必要がある。従って、ソリッドワイヤ中のC含有量は0.09−0.19質量%とする。
【0022】
「Si:0.30質量%以下」
Siは脱酸効果を有しており、本発明で重要な役割を果たすO量を制御する作用がある。溶接金属中のSi含有量を0.10乃至0.25質量%にする必要があるので、ソリッドワイヤ中のSi含有量は0.30質量%以下とする。
【0023】
「Mn:0.50乃至1.40質量%」
MnもSi同様に脱酸効果を有し、本発明で重要な役割を果たすO量を制御する役割があるほか、高温強度及び靱性を向上させることから、溶接金属中のMn含有量を0.50乃至1.30質量%とする必要がある。従って、溶接金属への歩留まりを考えると、ソリッドワイヤ中のMn含有量は0.50乃至1.40質量%とする。
【0024】
「Cr:2.00乃至3.80質量%、Mo:0.90乃至1.20質量%」
Cr及びMoは、高強度2.25%Cr−1%Mo鋼の基本成分であり、溶接金属の母材成分として、所定量をソリッドワイヤから添加する必要がある。即ち、ソリッドワイヤ中のCr含有量が2.00質量%未満若しくは3.80質量%を超える場合、又はMo含有量が0.90質量%未満若しくは1.20質量%を超える場合においても本発明の効果は認められるが、その結果得られる溶接金属成分は実際には対象とする高温環境下では使用されない母材成分範囲となる。従って、ソリッドワイヤ中のCr含有量は2.00乃至3.80質量%とし、Mo含有量は0.90乃至1.20質量%とする。
【0025】
「V:0.25乃至0.45質量%、Nb:0.010乃至0.040質量%」
Vは、溶接金属の室温及び高温強度とクリープ強度を高める効果があり、溶接金属中のV含有量を0.20乃至0.40質量%にするために、ソリッドワイヤ中のV含有量を0.25乃至0.45質量%にする必要がある。NbもVと同様の効果があり、溶接金属中のNb含有量を0.010乃至0.040質量%にするために、ソリッドワイヤ中のNb含有量を0.010乃至0.040質量%とする必要がある。
【0026】
(B)次に、フラックスにおける化学成分の限定理由について説明する。
【0027】
「金属炭酸塩(COに換算した値):3乃至12質量%」
金属炭酸塩によるCOは、溶接金属の拡散性水素量を低減し、耐低温割れ性を向上する効果と、O量を調整する効果を持つ。そのためには、金属炭酸塩をCOに換算した値で3質量%以上必要であるが、CO換算値が12質量%を超えると、溶接金属中のO量が本発明範囲の上限値を外れ、靱性が低下する。従って、金属炭酸塩の量はCOに換算した値で3乃至12質量%とする。なお、金属炭酸塩としては、CaCO、BaCO及びMgCO等があるが、COに換算した値が上記範囲に入れば、いずれも同様の効果を有する。
【0028】
(C)次に、溶接条件の限定理由について説明する。
【0029】
「溶接入熱:20乃至50kJ/cm」
本発明者等は、溶接入熱を適切に選択すると、強度、焼戻し特性、耐高温割れ性及び耐低温割れ性がバランス良く、またこれらの特性が良好である溶接金属が得られることを見いだした。溶接入熱が20kJ/cm未満であると、焼き入れ硬化性が大きくなりすぎ、強度は向上するが、靱性及び耐SR割れ性が低下する。一方、溶接入熱が50kJ/cmを超えると、溶接金属中の酸素量が高くなるとともに、焼き入れ性が低下するので、組織が粗大化し、強度、靱性及び耐焼戻し脆化特性低下する。
【0030】
「1層あたり積層厚さ(mm)が入熱量(kJ/cm)の0.15倍以下」
本発明者等は、後述の組成範囲に調整された溶接金属を溶接する時点において、1層あたりの積層厚さを制御することによって原質部の粗粒を再熱によって著しく減少させることができ、靱性が安定した細粒主体のミクロ組織が得られることを見いだした。溶接入熱量の単位をkJ/cmとして計算した数値を用い、その数値を0.15倍した計算値を最大層厚(mm)とすると、溶接入熱毎の最大層厚を超えた場合に、次層での再熱効果が不十分となり、組織が十分に細粒化せず、靱性が安定しない。好ましくは、積層厚さ(mm)≦入熱(kJ/cm)×0.12の範囲とする。この範囲であれば衝撃試験片N=3〜5のうち異常な低値を示す試験片はほぼ皆無となる。
【0031】
(D)次に、溶接金属の組成及び組織の限定理由について説明する。
【0032】
「C:0.05乃至0.15質量%」
一般に、溶接金属中にO量が多いと高温強度、クリープ強度及び靱性は大きく低下する。特に、溶接金属中のO量が0.025質量%以上であると顕著であるが、本発明者の研究により、溶接金属中のC量を0.05乃至0.15質量%にすると、これらの特性が大きく改善されることが分かった。しかし、溶接金属中のC量が0.05質量%未満では、強度及び靱性が十分ではなく、また0.15質量%を超えると、強度が高くなりすぎて靱性が低下する。従って、溶接金属中のC量は0.05乃至0.15質量%とする。
【0033】
「Si:0.10乃至0.25質量%」
Siは脱酸効果があり、O量を制御する作用を有し、そのためには溶接金属中に0.10質量%以上含有することが必要である。しかし、Si含有量が0.25質量%を超えると、耐焼戻し脆化特性及び耐SR割れ性が低下すると共に、強度が高くなりすぎて靱性低下の原因ともなる。従って、溶接金属中のSi量は0.10乃至0.25質量%とする。
【0034】
「Mn:0.50乃至1.30質量%」
MnもCと同様に、高温強度及び靱性を改善する効果を有する。また、Mnは脱酸効果もあり、O量を制御する作用も有している。しかし、Mn含有量が0.50%未満では強度及び靱性が十分ではなく、またMn含有量が1.30質量%を超えると、クリープ強度及び耐焼戻し脆化特性が低下する。従って、溶接金属中のMn量は0.50乃至1.30質量%とする。
【0035】
「Cr:2.00乃至3.25質量%、Mo:0.90乃至1.20質量%」
Cr及びMoは、高強度(2.25〜3質量%)Cr−1質量%Mo鋼の基本成分である。溶接金属中のCr量が2.00質量%未満若しくは3.25質量%を超える場合、又はMo量が0.90質量%未満若しくは1.20質量%を超える場合においても、本発明の効果は認められるが、実際上、対象とする高温環境下では使用されない母材成分範囲である。従って、溶接金属中のCr量は2.00乃至3.25質量%、Mo量は0.90乃至1.20質量%とする。
【0036】
「V:0.20乃至0.40質量」
Vは、Cr活量を高め、C活量を低くする元素の一つであり、セメンタイトの析出抑制効果を有する。しかし、V量が0.40質量%を超えると、MC炭化物が大量に析出し、靱性を低下させる。また、V量が0.20%より低いと、クリープ強度が低下する。従って、溶接金属中のV量は0.20乃至0.40質量%とする。
【0037】
「Nb:0.010乃至0.040質量%」
Nbは、Vを単独添加する場合と比較して、更に一層、室温及び高温強度並びにクリープ強度を向上させる効果をもつ。しかしながら、Nb量が0.010質量%未満ではその効果が十分でなく、0.040質量%を超えると、強度が高くなりすぎて、靱性低下の原因ともなる。従って、溶接金属中のNb量は0.010乃至0.040質量%とする。
【0038】
「Al:0.040質量%以下」
Alは靱性を低下させる作用を有し、溶接金属中のAl量が0.040質量%を超えると、靱性の低下が顕著になる。従って、溶接金属中のAl量の上限値は0.040質量%とする。
【0039】
「P:0.010質量%以下」
Pは粒界に偏析し、粒界強度を低下させる元素である。溶接金属中のP量が0.010質量%を超えると、粒界強度が低下し、SR割れが発生する可能性が高くなる。また、Pが粒界に偏析することによって、耐焼戻し脆化特性が低下する。従って、溶接金属中のP量は0.010質量%以下とする。
【0040】
「S、Sn、Sb、As:総量で0.010質量%以下」
溶接金属中に不可避的に混入する元素として、P、Al及びOの他に、S、Sn、Sb、As等がある。これらの含有量が高いと、SR割れ及び焼戻し脆化が発生する原因となる。従って、S、Sn、Sb、As量は0.010質量%以下とする。
【0041】
「Bi,Pb:1.0ppm以下」
溶接金属中に不可避的に混入する元素としてBi、Pb等もあるが、これらは極微量の含有でも耐SR割れ性を著しく劣化させる。従って、溶接金属中のBi、Pb量は1.0ppm以下とする。
【0042】
「O:250乃至450ppm」
Oは溶接金属中にて金属酸化物を形成し、結晶粒の核となるが、O量が250ppm未満であると、金属酸化物の生成量が少ないため、結晶粒の数が少なく、粒が粗粒に成長してしまうため、靱性が低下する。一方、O量が450ppmを超えると、非金属介在物としての酸化物が多すぎるため、靱性が低下する。従って、溶接金属中のO量は250乃至450ppmとする。溶接金属中のO量は、好ましくは、300乃至400ppmである。
【0043】
「ミクロ組織において、粒面積が400μm以下の結晶粒が結晶粒全体の70%以上」
ミクロ組織のうち、細粒と定義した粒面積400μm以下の結晶粒が70%より少ない比率である場合、N=6のうち少なくとも1〜2個の衝撃試験において、−30℃における衝撃値(vE−30℃)が54Jを下回る低値を示すことが判明した。従って、粒面積が400μm以下の結晶粒が結晶粒全体の70%以上を占めるミクロ組織にする。望ましくは、粒面積が400μm以下の結晶粒が結晶粒全体の90%以上とすることで、靱性が高い値で安定する。本発明の溶接金属の組成範囲内で、溶接金属中のO量を250乃至450ppmに調整することにより、細粒の比率が70%以上を確保し、−30℃の低温衝撃値(vE−30℃)の個々の値が46Jを確実に超えることができた。また、O量を300乃至400ppmに調整し、かつ溶接条件によって層厚を調整することで、細粒の比率を90%以上とすることができ、衝撃エネルギ(vE−30℃)の個々の値が55Jを超え、高く安定した値を得ることができた。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の実施例について、本発明の範囲から外れる比較例と比較して説明する。下記表1に示す母材を、図1に示すように、被溶接材1間に開先角度が10°、ルートギャップが25mmの開先形状を設け、試験板とした。この開先の下部に裏当材2を設けた。下記表2に示す組成のソリッドワイヤと、下記表3に示す組成のフラックスとを組合せ、下記表4に示す溶接条件で溶接した。溶接後、図2に示す2水準のPWHTを実施し、焼戻脆化特性の評価試験を実施する試験片については図3に示すステップクーリングを実施した。溶着金属の機械試験は下記表5に示す要領で実施した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
2水準のPWHT(溶接後熱処理)条件で熱処理した試験体のうち、長時間(32h)で実施した方は、引張試験及びクリープ破断試験を実施した。強度については、鋼材の規格:ASME A542を参考に、Class 4鋼と同等であることを目標に、室温引張強さが585〜760MPa(PWHT 700℃×32h)の場合を良好とした。また、高温(454℃)引張強さは、460MPa(PWHT 700℃×32h)以上を良好とした。クリープ破断試験については、ASME SecVIIIの規定に従い、540℃、210MPaの負荷条件において、非破断時間が900h以上の場合を良好とした。なお、試験時間は最長2000hまでとした。
【0051】
一方、PWHTの熱処理を短時間(8h)で実施した方は、ミクロ組織観察、靱性、焼戻し脆化特性評価試験を実施した。ミクロ組織観察では低温割れの確認をする一方、細粒の比率も確認した。試験片をナイタールエッチングした後、画像処理装置付きの光学顕微鏡で組織を観察し、JIG G0551・ASTM E112準拠の結晶粒度測定ソフトウェアを使用して所定の粒径の比率を自動測定した。靱性については、安定性を確認するため、通常N=3で試験を実施するところ、倍のN=6で実施し、衝撃値(vE−30℃)の平均値が55J、最低値が46Jの場合を良好とした。焼戻し脆化特性については、vTr55(55Jを示すシャルピー遷移温度)とΔvTr55(ステップクーリング後のvTr55の遷移量)が、vTr55+3.0ΔvTr55≦0℃を満足すれば良好とした。
【0052】
また、耐SR割れの評価方法は、「応力除去焼鈍割れに関する研究(第2報)」(木内ら、溶接学会誌、Vol.33、No.9(1964) p718)を参考に、図4に示すように円筒型試験片を採取し、曲げ応力をかけた状態でTIGにてリメルトし、U溝部分に引張残留応力を生じさせたまま、625℃で10時間の熱処理を行い、U溝底部に割れが生じない場合を良好とした。
【0053】
なお、P,S,Sn,Sb,Asの不可避不純物については、ワイヤからの混入量はほぼ一定かつ低値安定のため、上限量の規制は事実上意味がないと考えているが、フラックス等からの混入が懸念されるので、溶接金属に規制をかけたが、実施例の試験においてフラックスからの添加が困難であったため、ワイヤから添加することとした。一方、Bi及びPbは適当な原料があったため、フラックスからの添加とした。
【0054】
この試験結果を下記表6乃至表9に示す。
【0055】
【表6】

【0056】
【表7】

【0057】
【表8】

【0058】
【表9】

【0059】
これらの表6乃至表9に示すように、実施例1乃至13までは溶接時の層厚、溶接金属の化学成分、ミクロ組織の細粒の比率が本発明の範囲であったため、靱性が安定して高値となった。また、実施例14、15は、溶接入熱が低すぎ、ビードが広がらずに、幅/溶込み比が小さくなってしまった結果、次層での再熱効果が不十分で細粒の比率が本発明の範囲を下回ったため、靱性は合格であったものの、規定値に余裕のない値となった。
【0060】
実施例16は、溶接入熱が高すぎ、ビードの層厚が厚くなりすぎた結果、次層での再熱効果が低下し、細粒の比率が本発明の下限ぎりぎりとなったため、靱性は合格であったものの、規定値に余裕のない値となった。
【0061】
一方、比較例17、18は溶接金属中のBi・Pbが本発明範囲の上限を超えているため、SR中に割れが発生し、以降の試験を実施できなかった。比較例19は、溶接金属中のSi、Mnが本発明の上限を超えているため、脱酸過多となり、溶接金属中のOが本発明の下限を下回り、細粒の比率が本発明の下限を上回らず、靱性の平均値は良好な値であるが、非常に低値の試験片があったため不合格となった。比較例20は、溶接金属中のOが本発明の上限を上回っているため、靱性が極端に劣化し不合格となった。比較例21は、溶接金属中のAlが本発明の上限を超えているため、靱性が急激に劣化した。
【0062】
比較例22は、溶接金属中のCが本発明の下限を下回っていたため、十分な靱性を得られなかった。比較例23は、溶接金属中のCが本発明の上限を超えていたため、靱性が急激に劣化した。比較例24は、溶接金属中のSiが本発明の下限を下回っていたため、脱酸不足になり、溶接金属中のOが本発明の上限を上回るまで歩留まり、靱性が急激に劣化した。比較例25は、溶接金属中のMnが本発明の下限を下回っていたため、脱酸不足になり、溶接金属中のOが本発明の上限を上回るまで歩留まり、靱性が急激に劣化した。比較例26は、溶接金属中のVが本発明の下限を下回っていたため、強度が低めとなり、クリープ破断時間が不合格となった。比較例27は、溶接金属中のVが本発明の上限を超えているため、強度過多が原因と思われる低靱性となった。
【0063】
比較例28は、溶接金属中のNbが本発明の下限を下回っているため、強度が低めとなり、クリープは段強度が不合格となった。比較例29は、溶接金属中のNbが本発明の上限を超えているため、強度過多が原因と思われる低靱性となった。比較例30〜34は、溶接金属中のP,S,Sn,Sb,Asの総量が本発明の上限を超えているため、SR中に割れが発生し、以降の試験を実施できなかった。
【符号の説明】
【0064】
1:被溶接材
2:裏当材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブマージアーク溶接によって溶接された溶接金属において、
C:0.05乃至0.15質量%、
Si:0.10乃至0.25質量%、
Mn:0.50乃至1.30質量%、
Cr:2.00乃至3.25質量%、
Mo:0.90乃至1.20質量%、
V:0.20乃至0.40質量%、
Nb:0.010乃至0.040質量%、
O:250乃至450ppm、
を含有し、
Al:0.040質量%以下、
P:0.010質量%以下、
S、Sn、Sb、As:総量で0.010質量%以下、
Bi、Pb:総量で1.0ppm以下、
であり、残部がFe及び不可避不純物である組成を有し、
ミクロ組織において、粒面積が400μm以下の結晶粒が結晶粒全体の70%以上を占めることを特徴とする溶接金属。
【請求項2】
C:0.09乃至0.19質量%、
Si:0.30質量%以下、
Mn:0.50乃至1.40質量%、
Cr:2.00乃至3.80質量%、
Mo:0.90乃至1.20質量%、
V:0.25乃至0.45質量%、
Nb:0.010乃至0.040質量%、
残部:Fe及び不可避不純物
である組成の溶接ワイヤを、
CO換算で3.0乃至12.0質量%である炭酸塩を含有したフラックスと組合せて、
サブマージアーク溶接することにより溶接された溶接金属において、
C:0.05乃至0.15質量%、
Si:0.10乃至0.25質量%、
Mn:0.50乃至1.30質量%、
Cr:2.00乃至3.25質量%、
Mo:0.90乃至1.20質量%、
V:0.20乃至0.40質量%、
Nb:0.010乃至0.040質量%、
O:250乃至450ppm、
を含有し、
Al:0.040質量%以下、
P:0.010質量%以下、
S、Sn、Sb、As:総量で0.010質量%以下、
Bi、Pb:1.0ppm以下、
であり、残部がFe及び不可避不純物である組成を有し、
ミクロ組織において、粒面積が400μm以下の結晶粒が結晶粒全体の70%以上を占めることを特徴とする溶接金属。
【請求項3】
溶接条件として、溶接入熱が20乃至50kJ/cmの範囲で、1層当たりの積層厚さ(mm)が入熱量(kJ/cm)の0.15倍以下であるように制御したサブマージアーク溶接によって溶接されたものであることを特徴とする請求項2に記載の溶接金属。
【請求項4】
C:0.09乃至0.19質量%、
Si:0.30質量%以下、
Mn:0.50乃至1.40質量%、
Cr:2.00乃至3.80質量%、
Mo:0.90乃至1.20質量%、
V:0.25乃至0.45質量%、
Nb:0.010乃至0.040質量%、
残部:Fe及び不可避不純物
である組成の溶接ワイヤを、
CO換算で3.0乃至12.0質量%である炭酸塩を含有したフラックスと組合せて、
溶接条件として、溶接入熱が20乃至50kJ/cmの範囲で、1層当たりの積層厚さ(mm)が入熱量(kJ/cm)の0.15倍以下であるように制御してサブマージアーク溶接することを特徴とするサブマージアーク溶接方法。
【請求項5】
C:0.05乃至0.15質量%、
Si:0.10乃至0.25質量%、
Mn:0.50乃至1.30質量%、
Cr:2.00乃至3.25質量%、
Mo:0.90乃至1.20質量%、
V:0.20乃至0.40質量%、
Nb:0.010乃至0.040質量%、
O:250乃至450ppm、
を含有し、
Al:0.040質量%以下、
P:0.010質量%以下、
S、Sn、Sb、As:総量で0.010質量%以下、
Bi、Pb:総量で1.0ppm以下、
残部がFe及び不可避不純物である組成を有し、
ミクロ組織において、粒面積が400μm以下の結晶粒が結晶粒全体の70%以上を占める溶接金属を得るものであることを特徴とする請求項4に記載のサブマージアーク溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−110932(P2012−110932A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261806(P2010−261806)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】