説明

溶接電流設定方法

【課題】複数の溶接個所を有するワークをアーク溶接する場合において、各溶接個所の溶接期間及び休止期間の設定が変更されてワークの温度上昇特性が変化しても、均一な溶接ビードを形成すること。
【解決手段】複数の溶接個所を有するワークをアーク溶接するときの溶接電流設定方法において、ワークの第n番目の溶接個所における溶接電流設定信号Irを、第1番目の溶接個所の溶接開始時点から第n番目の溶接個所の溶接開始時点までの溶接期間の積算値及び休止期間の積算値を入力として予め定めた電流可変関数によって算出する。これにより、各溶接個所における溶接期間及び休止期間が変更されてワークの温度上昇特性が変化しても、それに対応して溶接電流Iwの減少の傾斜が適正化されるので、均一な溶接ビードを形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の溶接個所を有するワークをアーク溶接するときに、溶接の進行に伴ってワークの温度が上昇しても均一な溶接ビードを形成するための溶接電流設定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワークをアーク溶接するときに、溶接開始時点から溶接が進行するのに伴いワークの温度が次第に高くなってくる。このために、溶け込み深さ、ビード幅等の溶接ビードの品質を溶接開始時点から終了時点まで均一にするためには、ワークの温度上昇に伴ってアークからの入熱を次第に小さくする必要がある。ワークへの入熱は、溶接電流の値及び溶接速度によって決まる。このために、溶接開始時からワークの温度が略一定値に収束するまでの期間中は、溶接電流の値を次第に小さくするか、又は溶接速度を次第に速くすれば良い。ここで、アーク溶接には、消耗電極アーク溶接及び非消耗電極アーク溶接の両者を含んでいる。アーク溶接が消耗電極アーク溶接であるときには、溶接電流の値は溶接ワイヤの送給速度によって決まる。したがって、この場合には、溶接電流を設定することは、送給速度を設定することになる。他方、アーク溶接が非消耗電極アーク溶接であるときには、溶接電源は定電流制御されているので、溶接電流の値を直接設定することができる。
【0003】
特許文献1の発明は、溶融部(ワーク)の温度を検出し、この検出した溶融部温度が設定された基準温度になるように溶接電流値又は溶接速度の少なくとも一方を制御する溶接制御方法である。これにより、特許文献1の発明では、溶接開始時点からのワークの温度上昇に伴って、溶接電流値又は溶接速度を変化させて、均一な溶接ビードを形成することができる。
【0004】
特許文献2の発明では、前回の溶接終了時点から今回の溶接開始時点までの休止時間を検出し、この休止時間に応じてホットスタート電流値及び/又はその通電時間を変化させるものである。これにより、溶接休止時間が長くなるのに伴い、ワーク及び溶接ワイヤの温度が低下してアークスタートが悪くなることを、溶接ワイヤがワークに接触した時点で通電するホットスタート電流の値及び/又はその通電時間を大きくすることで抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−35878号公報
【特許文献2】特開昭62−9773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
1つのワークに1つの溶接個所がある場合には、従来技術のように、溶接開始時点からワークの温度上昇に対応する予め定めた傾斜で溶接電流を減少させることによって、均一な溶接ビードを形成することができる。この減少の傾斜は、実験によって適正値に設定することができるので、特許文献1のように、ワークの温度をセンサによって検出する必要は、必ずしもない。
【0007】
他方、1つのワークに複数の溶接個所があり、短い溶接長の溶接個所が短い間隔で並んでいるワークを溶接する場合も多い。ここで、短い溶接長とは、溶接期間が10秒以下の場合とし、短い間隔とは休止期間(移動期間)が10秒以下の場合とする。例えば、第1番目の溶接個所を4秒間の溶接期間で溶接し、その後は2秒間の休止期間で次に移動する。第2番目の溶接個所を4秒間の溶接期間で溶接し、その後は2秒間の休止期間で次に移動する。以後は、これらの動作を最後の溶接個所まで繰り返して行う。このようなワークに対する溶接では、ワークの温度上昇が収束する第n番目の溶接個所までは、均一な溶接ビードを形成するために溶接電流を次第に減少させる必要がある。しかし、このようなワークの温度上昇の傾斜は、溶接期間及び休止期間によって種々に変化する。このために、溶接電流の減少の傾斜もそれに対応させて種々に変化させる必要がある。特許文献1のように温度センサを使用すれば、この溶接電流の減少の傾斜を自動的に適正化することができる。しかしながら、温度センサを使用すると、溶接電源のコストが高くなる。さらに、溶接のように悪環境下で温度センサを精密に動作させるためには、メンテナンスに多くの時間を費やすことになる。
【0008】
そこで、本発明では、複数の溶接個所を有するワークをアーク溶接するときに、各溶接個所の溶接期間及び休止期間が変化しても、温度センサを使用することなく溶接電流の減少の傾斜を自動的に適正化することができる溶接電流設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、複数の溶接個所を有するワークをアーク溶接するときの溶接電流設定方法において、
前記ワークの第n番目の溶接個所における溶接電流設定値Irを、第1番目の溶接個所の溶接開始時点から第n番目の溶接個所の溶接開始時点までの溶接期間の積算値Ta及び休止期間の積算値Tbを入力として予め定めた電流可変関数によって算出する、
ことを特徴とする溶接電流設定方法である。
【0010】
請求項2の発明は、係数K(但し、0.0≦K≦0.8)を予め設定し、温度指標値XcをXc=Ta−K・Tbとして定義し、
溶接電流増加値ΔIr、定常溶接電流設定値Icr及び基準温度指標値Xtを予め設定し、前記電流可変関数を、
0≦Xc<XtのときIr=ΔIr/Xt)・Xc+ΔIr+Icr
Xt≦XcのときIr=Icr
として定義する、
ことを特徴とする請求項1記載の溶接電流設定方法である。
【0011】
請求項3の発明は、前記係数K=0である、
ことを特徴とする請求項2記載の溶接電流設定方法である。
【0012】
請求項4の発明は、前記アーク溶接が消耗電極アーク溶接であり、前記ワークにおける複数の溶接個所を溶接するときの溶接ワイヤの送給速度を一定とし、前記電流可変関数によって算出された前記溶接電流設定値Irに基づいて給電チップ・母材間距離を変化させて溶接を行う、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶接電流設定方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数の溶接個所を有するワークをアーク溶接する場合において、ワークの第n番目の溶接個所における溶接電流設定値Irを、第1番目の溶接個所の溶接開始時点から第n番目の溶接個所の溶接開始時点までの溶接期間の積算値Ta及び休止期間の積算値Tbを入力として予め定めた電流可変関数によって算出する。これにより、本発明では、複数の溶接個所を有するワークをアーク溶接するときに、各溶接個所の溶接期間及び休止期間が変化しても、温度センサを使用することなく溶接電流の減少の傾斜を自動的に適正化することができるので、均一な溶接ビードを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1に係る溶接電流設定方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
【図2】図1の溶接電流設定回路IRに内蔵されている電流可変関数の一例を示す図である。
【図3】図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
【図4】本発明の実施の形態2に係る溶接電流設定方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
【図5】図4の距離設定回路LWRに内蔵されている距離可変関数の一例を示す図である。
【図6】図4の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る溶接電流設定方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、アーク溶接法が消耗電極アーク溶接法の場合である。以下、同図を参照して、各ブロックについて説明する。
【0017】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、出力電圧E及び溶接電流Iwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流回路、整流されたリップルのある直流を平滑するコンデンサ、上記の駆動信号Dvによって駆動されて、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を整流する2次整流回路を備えている。直流リアクトルDCLは、上記の出力電圧Eを平滑する。溶接ワイヤ1は、送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を通って送給され、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4は、ロボット(図示は省略)によって把持されている。溶接ワイヤ1と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。ここで、溶接トーチ4の給電チップ・母材間距離をトーチ高さとして定義することにする。給電チップ・母材間距離は、基準距離(例えば20mm)に設定される。1つのワークにおける複数の溶接個所を溶接するときの給電チップ・母材間距離は基準距離のままで一定となるようにロボットが制御される。
【0018】
ロボット制御装置RCは、溶接を開始するときにHighレベルとなる溶接開始信号St及びワークが治具に設置されるとHighレベルになるワーク設置信号Wsを出力する。電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。通電判別回路CDは、この電流検出信号Idを入力として、その値が予め定めたしきい値以上のときは溶接電流Iwが通電していると判別してHighレベルになる通電判別信号Cdを出力する。しきい値は、通電を判別できれば良いので小さな値である5〜10A程度に設定される。
【0019】
温度指標値算出回路XCは、上記のワーク設置信号Ws及び上記の通電判別信号Cdを入力として、ワーク設置信号WsがHighレベルに変化した後に最初に通電判別信号CdがHighレベルに変化した時点から、通電判別信号CdがHighレベルである時間を積算して溶接期間積算値Taを算出し、Lowレベルである時間を積算して休止期間積算値Tbを算出し、温度指標値信号Xc=Ta−K・Tbを出力する。ここで、Kは、予め定めた係数であり、0.0≦K≦0.8の範囲に設定される。この温度指標値信号Xcは、ワークの温度上昇を表す指標であり、溶接期間中は温度上昇が進行するので正の値となり、休止期間は温度上昇が抑制(冷却)されるので減算している。係数K=0のときは、溶接期間によるワークの温度上昇のみを考慮している場合であり、休止期間が溶接期間に比べて相当に短い場合等に使用される。また、係数Kの最大値を0.8としているのは、ワークの温度はほぼ確実に上昇するので、これに対応するためである。すなわち、K=1.0の場合、溶接期間と休止期間とが等しいときに温度指標値信号Xcが常に0となるので、これを避けるためである。ワーク設置信号WsがHighレベルに変化した後に最初に通電判別信号CdがHighレベルに変化した時点とは、第1番目の溶接個所の溶接を開始した時点ということである。したがって、この回路では、第1番目の溶接個所の溶接開始時点から第n番目の溶接個所の溶接開始時点までの溶接期間の積算値Ta及び休止期間の積算値Tbを算出していることになる。
【0020】
定常溶接電流設定回路ICRは、予め定めた定常溶接電流設定信号Icrを出力する。溶接電流設定回路IRは、上記の通電判別信号Cd、上記の温度指標値信号Xc及び上記の定常溶接電流設定信号Icrを入力として、通電判別信号CdがHighレベルに変化(各溶接個所の溶接を開始)するごとに、その時点での温度指標値信号Xcを予め定めた電流可変関数に入力して溶接電流設定信号Irを算出する。電流可変関数の一例を以下に示す。
0≦Xc<Xt Ir=(−1・ΔIr/Xt)・Xc+ΔIr+Icr …(11)式
X t≦Xc Ir=Icr …(12)式
但し、ΔIrは予め定めた溶接電流増加値であり、Xtは予め定めた基準温度指標値である。これら両値は、ワークの温度が上昇する傾斜に対応して実験によって適正値に設定される。したがって、これら両値は、ワークの材質、板厚、形状、溶接速度等に応じて適正地に設定される。この電流可変関数については、図2で後述する。
【0021】
出力電圧設定回路ERは、上記の溶接電流設定信号Irを入力として、予め定めた一元関数によって出力電圧設定信号Erを出力する。この一元関数は、溶接電流に対する適正なアーク長になる出力電圧を関数として設定したものであり、従来から慣用されている。出力電圧検出回路EDは、高周波変圧器の2次側出力を整流したパルス状電圧である出力電圧E(直流リアクトルDCLを通過する前の電圧)を検出し、この検出値をローパスフィルタ(カットオフ周波数1〜10Hz程度)に通して、出力電圧検出信号Edとして出力する。誤差増幅回路EAは、上記の出力電圧設定信号Erとこの出力電圧検出信号Edとの誤差を増幅して、誤差増幅信号Eaを出力する。この誤差増幅回路EAによって、定電圧特性の電源となる。駆動回路DVは、上記の溶接開始信号St及びこの誤差増幅信号Eaを入力として、溶接開始信号StがHighレベルのときは、誤差増幅信号Eaに従ってパルス幅変調制御を行い、その結果に基づいて上記の電源主回路PM内のインバータ回路を駆動するための駆動信号Dvを出力する。
【0022】
送給速度設定回路FRは、上記の溶接電流設定信号Irを入力として、予め定めた電流送給速度変換関数によって送給速度設定信号Frを算出して出力する。この電流送給速度変換関数は、給電チップ・母材間距離が基準距離であるときの溶接電流と送給速度との関係を示す関数であり、従来から慣用されている。送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Frを入力として、この設定値に相当する送給速度で溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0023】
図2は、上述した溶接電流設定回路IRに内蔵されている電流可変関数の一例を示す図である。同図の横軸は温度指標値信号Xcを示し、縦軸は溶接電流設定信号Ir(A)を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0024】
上述した(11)式及び(12)式において、溶接電流増加値ΔIr=50A、基準温度指標値Xt=10及び定常溶接電流設定信号Icr=200Aとすると、下式となる。
0≦Xc<10のときIr=(−50/10)・Xc+50+200
10≦XcのときIr=200
これらの式をグラフ化したものが同図である。したがって、Xc=0のときIr=250Aとなり、Xcが大きくなるのに伴いIrは傾斜−5で右肩下がりに小さくなり、Xc=10のときIr=200Aとなり、Xcが10以上になるとIr=200Aのままとなる。図3で後述するように、1つのワークにおける第1番目の溶接個所の溶接が開始された時点がXc=0のときとなる。それから第n番目の溶接個所の溶接が開始された時点で、初めてXc≧10となったとする。そうすると、第1番目の溶接個所〜第n番目の溶接個所まで溶接電流値が定常溶接電流値よりも大きくなっていることになる。ワークの温度が上昇するのに伴い、溶接電流を減少させて、均一な溶接ビードが形成されるようにしている。
【0025】
図3は、図1で上述した溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)はワーク設置信号Wsの時間変化を示し、同図(B)は溶接開始信号Stの時間変化を示し、同図(C)は通電判別信号Cdの時間変化を示し、同図(D)は溶接電流設定信号Irの時間変化を示し、同図(E)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(F)は溶接電圧Vwの時間変化を示す。同図は、1つのワークに6つの溶接個所がある場合である。また、同図は、係数K=0.5の場合であり、電流可変関数が上述した図2の場合である。したがって、温度指標値信号Xc=Ta−0.5・Tbとなる。同図は、4秒間の溶接期間と2秒間の休止期間とを繰り返して6つの溶接個所を溶接する場合である。以下、同図を参照して説明する。
【0026】
時刻t0において、ワークが交換されて治具に設置されると、同図(A)に示すように、ワーク設置信号WsがHighレベルに変化する。時刻t1において、ロボットに把持された溶接トーチが第1番目の溶接個所の溶接開始位置に到達すると、同図(B)に示すように、溶接開始信号StがHighレベルに変化する。これに応動して溶接電流Iwが通電するので、同図(C)に示すように、通電判別信号CdはHighレベルに変化する。
【0027】
第n番目の溶接個所における溶接電流設定信号Irの値は、第1番目の溶接個所の溶接開始時点から第n番目の溶接個所の溶接開始時点までの溶接期間の積算値Ta及び休止期間の積算値Tbを入力として、上述した(11)式及び(12)式のように定義された電流可変関数によって算出される。第1番目の溶接個所の溶接開始時点では、溶接期間積算値Ta=0、休止期間積算値Tb=0であるので、温度指標値信号Xc=0となる。このために、図2から、溶接電流設定信号Ir=250Aとなる。
【0028】
したがって、同図(D)に示すように、時刻t1において、溶接電流設定信号Irの値は、0からIr1=250Aに変化する。これに応動して、同図(E)に示すように、溶接電流Iwは、0AからI1=250Aへと変化する。同時に、同図(F)に示すように、溶接電圧Vwは、0Vから溶接電流I1に対応した適正な値のV1へと変化する。
【0029】
時刻t1から4秒間の溶接期間が経過すると、時刻t11において、溶接トーチは第1番目の溶接個所の終了位置に到達する。同図(A)に示すように、ワーク設置信号Wsは、時刻t11以降もHighレベルのままである。時刻t11において、同図(B)に示すように、溶接開始信号StはLowレベルに変化する。これに応動して、同図(C)に示すように、通電判別信号CdはLowレベルに変化する。同図(D)に示すように、溶接電流設定信号IrはIr1のままである。同図(E)に示すように、溶接電流Iwは0Aとなり、同図(F)に示すように、溶接電圧Vwも0Vとなる。この状態が、溶接トーチが第2番目の溶接個所の溶接開始位置に到達する時刻t2まで継続する。時刻t1〜t11の溶接期間中は、アークが発生して溶接が行われる。そして、時刻t11〜t2の休止期間中は、アークは発生していない。
【0030】
時刻t2において、溶接トーチが第2番目の溶接個所の溶接開始位置に到達した場合も、溶接電流設定信号Irの値Ir2、それに対応する溶接電流Iwの値I2及びそれに対応する溶接電圧Vwの値V2のみが異なり、それ以外の動作は時刻t1〜t2の期間と同様である。時刻t2において、第2番目の溶接個所の溶接が開始された時点における溶接期間積算値Ta=4となり、休止期間積算値Tb=2となるので、温度指標値信号Xc=4−0.5・2=3となる。したがって、図2から、溶接電流設定信号Irの値Ir2=235Aとなる。時刻t2において、同図(D)に示すように、溶接電流設定信号Irの値は、Ir1よりも小さな値であるIr2=235Aに変化する。これに応動して、同図(E)に示すように、溶接電流Iwの値は、I1よりも小さな値のI2=235Aとなり、同図(F)に示すように、溶接電圧Vwの値は、V1よりも小さな値の溶接電流値I2に対応するV2となる。
【0031】
時刻t3において、溶接トーチが第3番目の溶接個所の溶接開始位置に到達した場合も、溶接電流設定信号Irの値Ir3、それに対応する溶接電流Iwの値I3及びそれに対応する溶接電圧Vwの値V3のみが異なり、それ以外の動作は時刻t1〜t2の期間と同様である。時刻t3において、第3番目の溶接個所の溶接が開始された時点における溶接期間積算値Ta=4+4=8となり、休止期間積算値Tb=2+2=4となるので、温度指標値信号Xc=8−0.5・4=6となる。したがって、図2から、溶接電流設定信号Irの値Ir3=220Aとなる。時刻t3において、同図(D)に示すように、溶接電流設定信号Irの値は、Ir2よりも小さな値のIr3=220Aに変化する。これに応動して、同図(E)に示すように、溶接電流Iwの値は、I2よりも小さな値のI3=220Aとなり、同図(F)に示すように、溶接電圧Vwの値は、V2よりも小さな値の溶接電流値I3に対応するV3となる。
【0032】
時刻t4において、溶接トーチが第4番目の溶接個所の溶接開始位置に到達した場合も、溶接電流設定信号Irの値Ir4、それに対応する溶接電流Iwの値I4及びそれに対応する溶接電圧Vwの値V4のみが異なり、それ以外の動作は時刻t1〜t2の期間と同様である。時刻t4において、第4番目の溶接個所の溶接が開始された時点における溶接期間積算値Ta=4+4+4=12となり、休止期間積算値Tb=2+2+2=6となるので、温度指標値信号Xc=12−0.5・6=9となる。したがって、図2から、溶接電流設定信号Irの値Ir4=205Aとなる。時刻t4において、同図(D)に示すように、溶接電流設定信号Irの値は、Ir3よりも小さな値のIr4=205Aに変化する。これに応動して、同図(E)に示すように、溶接電流Iwの値は、I3よりも小さな値のI4=205Aとなり、同図(F)に示すように、溶接電圧Vwの値は、V3よりも小さな値の溶接電流値I3に対応するV4となる。
【0033】
時刻t5において、溶接トーチが第5番目の溶接個所の溶接開始位置に到達した場合も、溶接電流設定信号Irの値Ir5、それに対応する溶接電流Iwの値I5及びそれに対応する溶接電圧Vwの値V5のみが異なり、それ以外の動作は時刻t1〜t2の期間と同様である。時刻t5において、第5番目の溶接個所の溶接が開始された時点における溶接期間積算値Ta=4+4+4+4=16となり、休止期間積算値Tb=2+2+2+2=8となるので、温度指標値信号Xc=16−0.5・8=12となる。したがって、図2から、溶接電流設定信号Irの値Ir5=200Aとなり、定常溶接電流設定信号Icrの値と同一となる。時刻t5において、同図(D)に示すように、溶接電流設定信号Irの値は、Ir4よりも小さな値のIr5=200Aに変化する。これに応動して、同図(E)に示すように、溶接電流Iwの値は、I4よりも小さな値のI5=200Aとなり、同図(F)に示すように、溶接電圧Vwの値は、V4よりも小さな値の溶接電流値I4に対応するV5となる。
【0034】
時刻t6において、溶接トーチが最後の第6番目の溶接個所の溶接開始位置に到達した場合も、溶接電流設定信号Irの値Ir6、それに対応する溶接電流Iwの値I6及びそれに対応する溶接電圧Vwの値V6のみが異なり、それ以外の動作は時刻t1〜t11の期間と同様である。時刻t6において、第6番目の溶接個所の溶接が開始された時点における溶接期間積算値Ta=4+4+4+4+4=20となり、休止期間積算値Tb=2+2+2+2+2=10となるので、温度指標値信号Xc=20−0.5・10=15となる。したがって、図2から、溶接電流設定信号Irの値Ir6=200Aとなり、定常溶接電流設定信号Icrの値と同一となる。時刻t6において、同図(D)に示すように、溶接電流設定信号Irの値は、Ir5と同一値のIr6=200Aのままである。これに応動して、同図(E)に示すように、溶接電流Iwの値は、I5と同一値のI6=200Aとなり、同図(F)に示すように、溶接電圧Vwの値は、V5と同一値の溶接電流値I6に対応するV6となる。時刻t61において、第6番目の溶接個所の溶接が終了すると、溶接トーチは退避位置へと移動を開始する。時刻t61以降も、同図(A)に示すように、ワーク設置信号Wsは、ワークが交換のために治具から取り外されるまではHighレベルのままである。
【0035】
上述したように、ワークの温度上昇に伴って、第1番目〜第6番目の溶接個所の溶接電流値は、250A、235A、205A、200A、200Aと次第に小さくなるように変化する。これにより、均一な溶接ビードを形成することができる。
【0036】
溶接期間が6秒間、休止期間が4秒間に変更されると、第1番目〜第6番目の溶接個所の溶接電流値は、以下のように変化する。
第1番目の溶接個所 Xc=0 Ir1=250A
第2番目の溶接個所 Xc=4 Ir2=230A
第3番目の溶接個所 Xc=8 Ir3=210A
第4番目の溶接個所 Xc=12 Ir4=200A
第5番目の溶接個所 Xc=16 Ir5=200A
第6番目の溶接個所 Xc=20 Ir6=200A
【0037】
溶接期間が3秒間、休止期間が2秒間に変更されると、第1番目〜第6番目の溶接個所の溶接電流値は、以下のように変化する。
第1番目の溶接個所 Xc=0 Ir1=250A
第2番目の溶接個所 Xc=2 Ir2=240A
第3番目の溶接個所 Xc=4 Ir3=230A
第4番目の溶接個所 Xc=6 Ir4=220A
第5番目の溶接個所 Xc=8 Ir5=210A
第6番目の溶接個所 Xc=10 Ir6=200A
【0038】
次に、溶接期間が4秒間、休止期間が2秒間と最初の条件に戻し、係数Kを0に変更すると、第1番目〜第6番目の溶接個所の溶接電流値は、以下のように変化する。
第1番目の溶接個所 Xc=0 Ir1=250A
第2番目の溶接個所 Xc=4 Ir2=230A
第3番目の溶接個所 Xc=8 Ir3=210A
第4番目の溶接個所 Xc=12 Ir4=200A
第5番目の溶接個所 Xc=16 Ir5=200A
第6番目の溶接個所 Xc=20 Ir6=200A
【0039】
上記のように、溶接期間及び休止期間が変化しても、ワークの温度上昇に対応して溶接電流値が減少することになる。このために、常に、均一な溶接ビードを形成することができる。このときに、係数Kを調整することによって、溶接電流値の減少の傾斜を調整することができる。
【0040】
上述した実施の形態1によれば、複数の溶接個所を有するワークをアーク溶接する場合において、ワークの第n番目の溶接個所における溶接電流設定値Irを、第1番目の溶接個所の溶接開始時点から第n番目の溶接個所の溶接開始時点までの溶接期間の積算値Ta及び休止期間の積算値Tbを入力として予め定めた電流可変関数によって算出する。これにより、本実施の形態では、複数の溶接個所を有するワークをアーク溶接するときに、各溶接個所の溶接期間及び休止期間が変化しても、温度センサを使用することなく溶接電流の減少の傾斜を自動的に適正化することができるので、温度センサを使用しなくても均一な溶接ビードを形成することができる。
【0041】
上記においては、温度指標値信号Xc=Ta−K・Tbとしたが、これに限らない。例えば、Xc=K1・Ta−K2・Tbとしても良い。但し、K1、K2は共に正の値であり、かつ、K1>K2である。また、上記においては、電流可変関数を(11)式及び(12)式として定義したが、これに限らない。温度指標値信号Xcが大きくなるのに伴い、溶接電流設定信号Irの値が次第に小さくなり、定常溶接電流設定信号Icrの値に収束するようになれば良い。すなわち、曲線状又は階段状に減少する関数であっても良い。図1で上述した溶接電源は、消耗電極アーク溶接電源の場合であるが、非消耗電極アーク溶接電源の場合も略同様である。この場合には、溶接電流設定信号Irによって、溶接電流Iwを直接設定することになる。
【0042】
[実施の形態2]
実施の形態2に係る発明では、アーク溶接が消耗電極アーク溶接であり、ワークにおける複数の溶接個所を溶接するときの溶接ワイヤの送給速度を一定とし、電流可変関数によって算出された溶接電流設定値Irに基づいて溶接トーチの高さ(給電チップ・母材間距離)を変化させることによって溶接電流を変化させて溶接を行うものである。以下、図面を参照して説明する。
【0043】
図4は、本発明の実施の形態2に係る溶接電流設定方法を実施するための溶接電源のブロック図である。同図は、アーク溶接法が消耗電極アーク溶接法の場合である。同図は上述した図1と対応しており、同一のブロックには同一符号を付して、それらの説明は省略する。同図は、図1の送給速度設定回路FRを第2送給速度設定回路FR2に置換し、距離設定回路LWRを追加し、図1のロボット制御装置RCを第2ロボット制御装置RC2に置換したものである。以下、同図を参照して、異なるブロックについて説明する。
【0044】
第2送給速度設定回路FR2は、温度指標値信号Xc=0を上記の電流可変関数に入力して初期溶接電流設定値を算出し、この初期溶接電流設定値を入力として予め定めた電流送給速度変換関数によって送給速度設定信号Frを算出して出力する。この初期溶接電流設定値は、図2に示す電流可変関数において、温度指標信号Xc=0のときの溶接電流設定信号Irの値となる。すなわち、第1番目の溶接個所を溶接するときの溶接電流値となる。また、電流送給速度変換関数は、実施の形態1と同様に、給電チップ・母材間距離が基準距離であるときの溶接電流と送給速度との関係を示す関数であり、従来から慣用されている。したがって、実施の形態2では、1つのワークにおける複数の溶接個所を溶接するときの送給速度は常に一定値(初期溶接電流設定値に対応した送給速度)となる。図2においては、初期溶接電流値は250Aとなっており、溶接ワイヤが直径1.2mmの鉄鋼ワイヤであり、基準距離が20mmのときであるとすると、そのときの送給速度設定信号Frの値はこの電流送給速度変換関数から8.5m/minとなる。
【0045】
距離設定回路LWRは、溶接電流設定信号Irを入力として、予め定めた距離可変関数によって距離設定信号Lwrを算出して出力する。この距離設定信号Lwrは、給電チップ・母材間距離を設定する信号である。送給速度を一定にしたままで、給電チップ・母材間距離が長くなると溶接電流値は小さくなり、短くなると大きくなる。したがって、この回路では、溶接電流値Iwが溶接電流設定信号Irの値と等しくなるような給電チップ・母材間距離を算出していることになる。この距離可変関数については、図5で後述する。
【0046】
第2ロボット制御装置RC2は、溶接を開始するときにHighレベルとなる溶接開始信号St及びワークが治具に設置されるとHighレベルになるワーク設置信号Wsを出力する。さらに、第2ロボット制御装置RC2は、上記の距離設定信号Lwrを入力として、給電チップ・母材間距離がこの設定信号の値と等しくなるように、ロボット(図示は省略)を移動させて溶接トーチ4の高さを変化させる。
【0047】
図5は、上述した距離設定回路LWRに内蔵されている距離可変関数の一例を示す図である。同図の横軸は溶接電流設定信号Ir(A)を示しており、その範囲は150〜300Aである。縦軸は距離設定信号Lwr(mm)を示しており、その範囲は0〜50mmである。同図は、溶接ワイヤが直径1.2mmの鉄鋼ワイヤであり、送給速度が8.5m/minの場合である。この送給速度の値は、図2で上述したように、初期溶接電流値250Aに対応した値である。以下、同図を参照して説明する。
【0048】
同図に示すように、距離可変関数は、右肩下がりの直線となっている。そして、Ir=150AのときLwr=40mmとなり、Ir=200AのときLwr=30mmとなり、Ir=250AのときLwr=20mmとなり、Ir=300AのときLwr=10mmとなっている。
【0049】
距離可変関数は、溶接電流設定信号Irの値が大きくなると、距離設定信号Lwrの値は小さくなる関数である。その変化は、直線状だけでなく、曲線状であっても良い。距離可変関数は、溶接ワイヤの材質、直径、送給速度等に応じて実験によって適正化される。
【0050】
図6は、図4で上述した溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)はワーク設置信号Wsの時間変化を示し、同図(B)は溶接開始信号Stの時間変化を示し、同図(C)は通電判別信号Cdの時間変化を示し、同図(D)は溶接電流設定信号Irの時間変化を示し、同図(E)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(F)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(G)は距離設定信号Lwrの時間変化を示す。同図の(A)〜(F)の信号の時間変化は、上述した図3と同様であるので、それらの信号の説明は原則として省略する。同図(G)に示す距離設定信号Lwrが追加されている。この距離設定信号Lwrは、給電チップ・母材間距離を設定する信号である。同図は、距離可変関数が、上述した図5の場合である。また、以下の条件も図3と同様である。すなわち、同図は、1つのワークに6つの溶接個所がある場合である。また、同図は、係数K=0.5の場合であり、電流可変関数が上述した図2の場合である。したがって、温度指標値信号Xc=Ta−0.5・Tbとなる。同図は、4秒間の溶接期間と2秒間の休止期間とを繰り返して6つの溶接個所を溶接する場合である。以下、同図を参照して説明する。
【0051】
時刻t1において、同図(D)に示すように、溶接電流設定信号Irの値は、図2の電流可変関数によって算出されたIr1=250Aに変化する。この溶接電流設定信号Ir1が初期溶接電流設定値となり、図4の第2送給速度設定回路FR2に内蔵されている電流送給速度変換関数によって送給速度は8.5m/minに設定される。この送給速度は、第1〜第6番目の溶接個所を溶接するときの送給速度となる。また、この溶接電流設定信号Ir1=250Aが図5の距離可変関数に入力されて、距離設定信号Lwrの値Lr1=20mmが算出される。同図(G)に示すように、距離設定信号Lwrの値は、時刻t0〜t1までは予め定めた基準距離20mmであり、時刻t1においてLr1=20mmとなる(この場合変化しない)。この距離設定信号Lwrが第2ロボット制御装置RC2に入力されて、給電チップ・母材間距離がこの距離設定信号Lwrの値と等しくなるように溶接トーチを把持したロボットが移動する。この結果、同図(E)に示すように、溶接電流Iwは、0AからI1=250Aへと変化する。同時に、同図(F)に示すように、溶接電圧Vwは、0Vから溶接電流I1に対応した適正な値のV1へと変化する。したがって、第1番目の溶接個所は、給電チップ・母材間距離20mm、溶接電流250Aで溶接されることになる。
【0052】
時刻t2において、同図(D)に示すように、溶接電流設定信号Irの値は、図2の電流可変関数によって算出されたIr2=235Aに変化する。この溶接電流設定信号Ir2=235Aが図5の距離可変関数に入力されて、距離設定信号Lwrの値Lr2=23mmが算出される。同図(G)に示すように、距離設定信号Lwrの値は、時刻t2においてLr2=23mmに変化する。この距離設定信号Lwrが第2ロボット制御装置RC2に入力されて、給電チップ・母材間距離がこの距離設定信号Lwrの値と等しくなるように溶接トーチを把持したロボットが移動する。この結果、同図(E)に示すように、溶接電流Iwは、I2=235Aへと変化する。同時に、同図(F)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流I2に対応した適正な値のV2へと変化する。したがって、第2番目の溶接個所は、給電チップ・母材間距離23mm、溶接電流235Aで溶接されることになる。
【0053】
時刻t3において、同図(D)に示すように、溶接電流設定信号Irの値は、図2の電流可変関数によって算出されたIr3=220Aに変化する。この溶接電流設定信号Ir3=220Aが図5の距離可変関数に入力されて、距離設定信号Lwrの値Lr3=26mmが算出される。同図(G)に示すように、距離設定信号Lwrの値は、時刻t3においてLr3=26mmに変化する。この距離設定信号Lwrが第2ロボット制御装置RC2に入力されて、給電チップ・母材間距離がこの距離設定信号Lwrの値と等しくなるように溶接トーチを把持したロボットが移動する。この結果、同図(E)に示すように、溶接電流Iwは、I3=220Aへと変化する。同時に、同図(F)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流I3に対応した適正な値のV3へと変化する。したがって、第3番目の溶接個所は、給電チップ・母材間距離26mm、溶接電流220Aで溶接されることになる。
【0054】
時刻t4において、同図(D)に示すように、溶接電流設定信号Irの値は、図2の電流可変関数によって算出されたIr4=205Aに変化する。この溶接電流設定信号Ir4=205Aが図5の距離可変関数に入力されて、距離設定信号Lwrの値Lr4=29mmが算出される。同図(G)に示すように、距離設定信号Lwrの値は、時刻t4においてLr4=29mmに変化する。この距離設定信号Lwrが第2ロボット制御装置RC2に入力されて、給電チップ・母材間距離がこの距離設定信号Lwrの値と等しくなるように溶接トーチを把持したロボットが移動する。この結果、同図(E)に示すように、溶接電流Iwは、I4=205Aへと変化する。同時に、同図(F)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流I4に対応した適正な値のV4へと変化する。したがって、第4番目の溶接個所は、給電チップ・母材間距離29mm、溶接電流205Aで溶接されることになる。
【0055】
時刻t5において、同図(D)に示すように、溶接電流設定信号Irの値は、図2の電流可変関数によって算出されたIr5=200Aに変化する。この溶接電流設定信号Ir5=200Aが図5の距離可変関数に入力されて、距離設定信号Lwrの値Lr5=30mmが算出される。同図(G)に示すように、距離設定信号Lwrの値は、時刻t5においてLr5=30mmに変化する。この距離設定信号Lwrが第2ロボット制御装置RC2に入力されて、給電チップ・母材間距離がこの距離設定信号Lwrの値と等しくなるように溶接トーチを把持したロボットが移動する。この結果、同図(E)に示すように、溶接電流Iwは、I5=200Aへと変化する。同時に、同図(F)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流I5に対応した適正な値のV5へと変化する。したがって、第5番目の溶接個所は、給電チップ・母材間距離30mm、溶接電流200Aで溶接されることになる。
【0056】
時刻t6〜t61の期間中の溶接電流設定信号Ir=Ir6、距離設定信号Lwr=Lr6、溶接電流Iw=I6及び溶接電圧Vw=V6の各値は、時刻t5〜t51の期間中と同一となる。したがって、第6番目の溶接個所は、給電チップ・母材間距離30mm、溶接電流200Aで溶接されることになる。
【0057】
時刻t61において、第6番目の溶接個所の溶接が終了すると、溶接トーチは退避位置へと移動を開始する。同図(G)に示すように、距離設定信号Lwrの値は、時刻t61以降もLr6=30mmのままであるが、ロボットが退避位置へと移動を開始するので、給電チップ・母材間距離は次第に長くなる。
【0058】
上述したように、ワークの温度上昇に伴って、第1番目〜第6番目の溶接個所の溶接電流値は、実施の形態1と同様に、250A、235A、205A、200A、200Aと次第に小さくなるように変化する。実施の形態1では、この溶接電流値の変化は、給電チップ・母材間距離を基準距離に維持したままで送給速度が変化することによって行われる。これに対して、実施の形態2では、この溶接電流値の変化は、送給速度を一定値に維持したままで給電チップ・母材間距離が変化することによって行われる。これにより、実施の形態2では、実施の形態1と同様に、均一な溶接ビードを形成することができる。さらには、実施の形態2では、各溶接個所の送給速度が同一であるので溶着量が同一となる。このために、継手にギャップがある場合には、実施の形態1よりも良好な溶接ビードを形成することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
CD 通電判別回路
Cd 通電判別信号
DCL 直流リアクトル
DV 駆動回路
Dv 駆動信号
E 出力電圧
EA 誤差増幅回路
Ea 誤差増幅信号
ED 出力電圧検出回路
Ed 出力電圧検出信号
ER 出力電圧設定回路
Er 出力電圧設定信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
FR2 第2送給速度設定回路
I1〜I6 各溶接個所の溶接電流値
ICR 定常溶接電流設定回路
Icr 定常溶接電流設定(値/信号)
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
IR 溶接電流設定回路
Ir 溶接電流設定(値/信号)
Ir1〜Ir6 各溶接個所の溶接電流設定信号の値
Iw 溶接電流
K 係数
Lr1〜Lr6 各溶接個所の距離設定信号の値
LWR 距離設定回路
Lwr 距離設定信号
PM 電源主回路
RC ロボット制御装置
RC2 第2ロボット制御装置
St 溶接開始信号
Ta 溶接期間積算値
Tb 休止期間積算値
V1〜V6 各溶接個所の溶接電圧値
Vw 溶接電圧
WM 送給モータ
Ws ワーク設置信号
XC 温度指標値算出回路
Xc 温度指標値(信号)
Xt 基準温度指標値
ΔIr 溶接電流増加値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の溶接個所を有するワークをアーク溶接するときの溶接電流設定方法において、
前記ワークの第n番目の溶接個所における溶接電流設定値Irを、第1番目の溶接個所の溶接開始時点から第n番目の溶接個所の溶接開始時点までの溶接期間の積算値Ta及び休止期間の積算値Tbを入力として予め定めた電流可変関数によって算出する、
ことを特徴とする溶接電流設定方法。
【請求項2】
係数K(但し、0.0≦K≦0.8)を予め設定し、温度指標値XcをXc=Ta−K・Tbとして定義し、
溶接電流増加値ΔIr、定常溶接電流設定値Icr及び基準温度指標値Xtを予め設定し、前記電流可変関数を、
0≦Xc<XtのときIr=ΔIr/Xt)・Xc+ΔIr+Icr
Xt≦XcのときIr=Icr
として定義する、
ことを特徴とする請求項1記載の溶接電流設定方法。
【請求項3】
前記係数K=0である、
ことを特徴とする請求項2記載の溶接電流設定方法。
【請求項4】
前記アーク溶接が消耗電極アーク溶接であり、前記ワークにおける複数の溶接個所を溶接するときの溶接ワイヤの送給速度を一定とし、前記電流可変関数によって算出された前記溶接電流設定値Irに基づいて給電チップ・母材間距離を変化させて溶接を行う、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶接電流設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−46925(P2013−46925A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245009(P2011−245009)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)