説明

溶断装置

【課題】連結体によって固定された第1の物体と第2の物体の位置関係を解除する切離機構として利用可能で、固定作業が容易な溶断装置を提供する。
【解決手段】本発明の溶断装置1は、連結体3をスライド可能に通すためのチューブ状の連結体収納部5と、連結体収納部5の外側にコイル状に巻かれた電気ヒータ部7と、これらを収納するケース13とからなる溶断装置本体2と、電気ヒータ部7に電流を供給するための電源9と、電源9から電気ヒータ部7へ電流を流すスイッチ回路11とを備えている。連結体3によって第1の物体と第2の物体が固定されており、スイッチ回路11がオン状態になると、電源9から電気ヒータ部7に電流が流れ、連結体収納部5及び連結体収納部5を通る連結体3を溶断することで、第1の物体と第2の物体が切り離される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定した位置関係にある第1の物体と第2の物体との位置関係を解除するための切離機構に利用可能な溶断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、固定した位置関係にある第1の物体と第2の物体を切り離すための切離機構が知られている。例えば、海底に沈めて地震の調査を行うため、海底に設置して計測を行う海底地震計(OBS[Ocean Bottom Seismograph])がある。海底における地震の発生メカニズム等を調査するために行われる屈折法地震探査では、人工的な地震波を発生させ、海底下の各地層の境界面で屈折した音波を所定の距離をあけて海底に設置された多数の海底地震計で受振し、測定を行う。このようにして用いられる海底地震計は、センサ等を内蔵した第1の物体である浮力を有する海底地震計本体と、海底地震計本体を海底に係留するための第2の物体であるアンカー(錘)とが連結されて水底に沈められており、測定後は、データの回収・機器の保守等の目的で、海底地震計の本体部分の回収作業が行われる。回収作業は、第1の物体と第2の物体とを切り離すために設けられた切離機構を作動させて行う。
【0003】
切離機構としては、第1の物体と第2の物体とを連結するケーブルを切断するための動力を火薬の爆発を利用して発生する火薬方式[特開平8−271291号(特許文献1)]、第1の物体と第2の物体とを連結する金属板(例えば、ステンレス板)または金属線を強制的に電蝕させて切断することにより、第1の物体と第2の物体とを切り離す電蝕方式[特開2006−30124号(特許文献2)]等の方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−271291号公報
【特許文献2】特開2006−30124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、火薬方式の場合には、切離機構を動かすための構造が複雑で大掛かりとなるため、切離装置の重量が重く、また、容積も大きくなるという問題があった。
【0006】
また、電蝕方式の場合には、金属板または金属線を強制的に電蝕させて切断するまでに数分から十数分の時間を要するという問題があった。また、海底に長期間設置した場合には、金属板または金属線が自然腐蝕したり、皮膜を形成してしまうことがあり、正常に動作しなくなることがあった。さらに、強制的に電蝕させる方式は、淡水中では用いることができないという問題もあった。
【0007】
本発明の目的は、第1の物体と第2の物体を切り離し可能な切離機構として利用可能な小型軽量で且つ複雑な機構を有しない溶断装置を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、短時間で第1の物体と第2の物体を切り離し可能な切離機構として利用可能な溶断装置を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、第1の物体と第2の物体を固定する際の作業が容易な切離機構として利用可能な溶断装置を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、長期間、海底に設置しておいても動作可能な切離機構として利用可能な溶断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の溶断装置は、熱可塑性材料からなる連結体を利用して固定した位置関係にある第1の物体と第2の物体との位置関係を、連結体を溶断することにより解除するための溶断装置である。
【0012】
本発明の溶断装置は、連結体に熱が伝達することを許容し且つ連結体の少なくとも一部をスライド可能に収納する連結体収納部と、連結体収納部の外側に配置されて連結体収納部を介して連結体の少なくとも一部を加熱する電気ヒータ部と、電気ヒータ部に電流を供給するための電源と、溶断指令を受信するまではオフ状態にあり、溶断指令を受信するとオン状態となって電源から電気ヒータ部へ電流を流すスイッチ回路を含む通電制御部とからなることを特徴としている。溶断指令を受信し、オン状態となって電源から電気ヒータ部へ電流が流れると、電気ヒータ部が熱を発し、連結体収納部を介して連結体にも熱が伝達され、熱可塑性材料からなる連結体が溶断される。連結体が溶断されることによって、第1の物体と第2の物体が切り離されることになる。その後、第1の物体と第2の物体が切り離されることにより起因する物理的な変化(たとえば、水圧、傾斜角度、加速度、経過時間などの変化)や、タイマの時限の計数の完了を基に通電制御部は、電源から電気ヒータ部へ電流を流すスイッチ回路をオフ状態に戻す。例えば、海底に設置されている海底地震計の例では、溶断指令によって、第1の物体である本体と、第2の物体であるアンカーとが切り離され、第1の物体である本体が海面まで浮上することになる。
【0013】
本発明では、熱可塑性材料からなる連結体を電気ヒータ部の発熱により溶断しているため、複雑な機構も必要なく、また、短時間(数秒)で第1の物体と第2の物体の切り離しが可能である。特に、本発明では、連結体収納部が連結体の少なくとも一部をスライド可能な状態で収納しているため、第1の物体と第2の物体とを固定した位置関係にする際に、連結体の長さが部分的に短すぎたり長すぎたりした場合に、長さ調整ができる。その結果、本発明によれば、第1の物体と第2の物体とを連結体を介して連結する作業が容易であり、且つ、連結体上の所望の位置に溶断装置を設置することができる。また、連結体が溶断されたときには、連結体が連結体収納部からスムーズに抜け出るため、第1の物体と第2の物体の位置関係の解除も確実且つスムーズに行うことができる。
【0014】
さらには、連結体として、金属を用いていないことから、腐蝕が発生しないため、長期間、水中に設置しておいた後でも、確実に第1の物体と第2の物体の切り離しが可能である。
【0015】
連結体として用いる熱可塑性材料は、例えば、熱可塑性樹脂が適している。樹脂材料を適宜に選択することにより、第1の物体と第2の物体とを連結するのに十分な強度を得ることができ、また、電気ヒータ部の熱によって容易に溶断することが可能である。
【0016】
連結体収納部は、電気ヒータ部からの熱を連結体に伝達することができる構造であれば、どのような構造であってもよい。また連結体収納部を構成する素材は、電気ヒータ部からの熱を連結体に伝達することができるものであれば、どのような素材でもよい。例えば、連結体収納部は金属製のものでもよい。ただし、連結体収納部を金属製にした場合には、連結体に熱が伝達して溶断するまで時間がかかることもある。そこで、連結体収納部は、連結体を構成する熱可塑性材料の融点以下の融点を有する熱可塑性材料により形成してもよい。このような連結体収納部を用いれば、溶断指令を受信するまでは連結体がスライド可能に収納されており、溶断指令を受信して電気ヒータ部が発熱すると、まず連結体収納部が溶融し、その後、またはほぼ同時に、連結体が溶断することになる。したがって、短時間のうちに第1の物体と第2の物体の切り離しが可能になる。
【0017】
通電制御部に対する溶断指令は、無線または有線等、どのような手段で発信してもよい。例えば、無線により溶断指令を受信できるように構成しておけば、溶断指令を発信する場所が、第1の物体と第2の物体から離れた遠隔地にある場合でも、溶断指令の送受信が容易になる。
【0018】
本発明の溶断装置は、様々な使用目的、環境において使用することが可能である。例えば、第1の物体が浮力を有する浮力体であり、第2の物体が該浮力体を係留する錘であり、浮力体と錘とが、拘束力の解除により解除状態となるトリガ機構を有する連結構造によって連結されており、溶断前の連結体が拘束力を発生し、連結体の溶断が拘束力の解除を生じさせるようにトリガ機構中に使用される場合に用いることができる。このような使用方法例としては、浮力体の部分に測定装置を内蔵した海底に設置して測定を行う海底設置型の観測機器等が考えられる。溶断装置を作動させて、浮力体を回収することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の溶断装置の例を概念的に示す図である。
【図2】本発明の溶断装置を適用したトリガ機構を備えた観測機器の全体図である。
【図3】本発明の溶断装置を適用したトリガ機構を備えた観測機器の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の溶断装置を適用したトリガ機構の例を示す図であり、(A)は、平面図、(B)は、正面図である。
【図5】本発明の溶断装置を適用したトリガ機構を備えた観測機器のトリガ機構を作動させた状態を示す図である。
【図6】本発明の溶断装置を適用したトリガ機構を備えた第2の観測機器の全体図である。
【図7】本発明の溶断装置を適用したトリガ機構を備えた第2の観測機器の構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の溶断装置を適用したトリガ機構を備えた第2の観測機器のトリガ機構を作動させた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の溶断装置の実施の形態について説明する。図1は、本発明の溶断装置の実施の形態の一例を概念的に示した例であり、図2は、本発明の溶断装置を適用したトリガ機構を備えた観測機器の全体図であり、図3は、本発明の溶断装置を適用したトリガ機構を備えた観測機器の構成を示すブロック図であり、図4は、本発明の溶断装置を適用したトリガ機構の例であり、図5は、本発明の溶断装置を適用したトリガ機構を備えた観測機器のトリガ機構を作動させた状態を示す図である。
【0021】
<溶断装置>
図1に示すように、本実施の形態の溶断装置1は、連結体3をスライド可能に通すためのチューブ状の連結体収納部5と、連結体収納部5の外側にコイル状に巻かれた電気ヒータ部7と、これらを収納するケース13とからなる溶断装置本体2と、電気ヒータ部7に電流を供給するための電源9と、電源9から電気ヒータ部7へ電流を流すスイッチ回路11とを備えている。電源9は電池により構成されている。電気ヒータ部7と電源9とは、リード線8で電気的に接続されている。図1において通電制御部は図示されていないが、後述のように、スイッチ回路11は、通電制御部の一部を構成している。本実施の形態では、連結体収納部5と電気ヒータ部7とがケース13の内部に収納されている。ケース13の内部には、シリコーンゴム15が充填されており、電気ヒータ部7にかかる水圧が均等になり、且つ、防水構造になるように加工されている。ただし、図1では、ケース13の内部構造を説明するために、シリコーンゴム15を透明なものとして描いている。ケース13には、対向する位置に孔17,19が設けられており、連結体収納部5の一端が孔17に、他端が孔19に合わせられて、連結体3が通る通路がケース13内に形成されている。電源9及びスイッチ回路11(通電制御部)は、ケース13の外に設けられているが、溶断装置1を設置する他の構成要素の内部に内蔵される。
【0022】
連結体3及び連結体収納部5は、熱可塑性材料によって形成されており、電気ヒータ部7の発熱により溶融するようになっている。なお、連結体収納部5を、連結体3を構成する熱可塑性材料の融点以下の融点を有する熱可塑性材料(例えば、連結体3をナイロン、連結体収納部5をポリプロピレン)により形成すれば、電気ヒータ部7が発熱すると、まず連結体収納部5が溶融し、その後、またはほぼ同時に、連結体3が溶断することになる。
【0023】
スイッチ回路11がオン状態になると、電源9から電気ヒータ部7に電流が流れ、電気ヒータ部7の発熱により連結体収納部5及び連結体収納部5を通る連結体3を溶断する構造になっている。
【0024】
<溶断装置を適用したトリガ機構を備えた観測機器>
図2及び図3は、図1の溶断装置を適用したトリガ機構を備えた観測機器21の一例である。観測機器21は、海底に設置して測定を行うための装置であり、例えば海底地震計(OBS)である。観測機器21は、測定装置等を内蔵し、浮力を有する観測機器本体23(第1の物体・浮力体)と、観測機器本体23を海底に沈めて係留するためのアンカー25(第2の物体・錘)と、観測機器本体23の上部に設けられ、溶断装置本体2が取り付けられたトリガ機構27と、トリガ機構27を介して観測機器本体23とアンカー25とを固定している2本の連結部材29,29と、溶断指令を受信するためのトランスデューサ31とから構成されている。
【0025】
観測機器本体23は、水圧に耐え、内蔵する機器を浸水から守るためのガラス球33と、ガラス球33を保護するハードハット35とから構成されている。ガラス球33の内部には、図示しない測定装置に加えて、トリガ機構27を作動させるための構成要素が内蔵されている。すなわち、ガラス球33の内部には、上述の電源9並びにスイッチ回路11及び制御部12からなる通電制御部37が内蔵されており、ガラス球33に設けられた水中コネクタ39を介してリード線8でトリガ機構27に取り付けられた溶断装置本体2と接続されて、溶断装置1を構成している。ガラス球33を耐圧容器とする観測機器本体23は、排水体積相当の水の重量より軽く作られているため、観測機器本体23は水中において浮力を有している。アンカー25は、金属等により構成された重量物であり、図示していないが、アンカー25には、後述する連結部材29,29を取り付けるための取付金具が固定されている。
【0026】
連結部材29,29は、それぞれ伸縮性を有する、または、長さを適宜に設定することにより調節し締め込み可能な紐状の部材であり、一端がリング状の係止部30を有しており、後述のトリガ機構27の開閉機構に通すことが可能な構造になっている。他端は、アンカー25に固定される構造になっている。
【0027】
トリガ機構27は、観測機器本体23のハードハット35の頂部に設けられており、トリガ機構27を中心にして連結部材29,29が張力を発生するように延ばされた状態でアンカー25に固定することで、観測機器本体23とアンカー25とが固定した位置関係になっている。後述のように、トランスデューサ31が溶断指令を受信し、溶断装置1が作動すると、連結体3が溶断されて、トリガ機構27から連結部材29,29が解放され、観測機器本体23が解放される。
【0028】
<トリガ機構>
図4は、溶断装置1の溶断装置本体2を取り付けたトリガ機構27の一例を示す図である。このトリガ機構27は、溶断装置本体2を取り付けるトリガ機構本体41、連結部材29の係止部30(図2)を取り付ける開閉機構43とから構成されている。トリガ機構本体41には、正面部に溶断装置本体2を取り付ける孔45が形成されており、上部には、開閉機構43を挟んで2カ所に連結体3の一端を通すための通路部47,49及び連結体3をガイドする切欠部50が形成されている。通路部47は、上部から孔45まで貫通しており、通路部49は、背面に設けられた連結体固定部46の近傍まで延びている。さらに、トリガ機構本体41の内部には、孔45の内側であり且つ通路部47の延長線上に始点があり、背面に設けられた連結体固定部46の近傍に終点がある、連結体3の他端を通すための通路部(図示せず)が形成されている。通路部47及び図示しない通路部は、連結体3を通して、溶断装置本体2を孔45に取り付けた状態で、連結体収納部5に設けた孔17,19の位置に適合する位置に形成されている。
【0029】
開閉機構43は、平面図における中点を中心にして点対称の構成になっており、トリガ機構本体41に固定されているアーム固定部51と、アーム固定部51の両端に設けられた回動軸53,53を中心にして回動するアーム部55,55とから構成されている。アーム部55,55は、それぞれ先端に係合部57,57を有しており、アーム部55,55がトリガ機構本体41の方向に回動して折りたたまれた状態で互いに係合する形状を有しており、且つ、通路部47,49の位置を超える位置まで延びる長さ寸法を有している。
【0030】
<観測機器本体及びアンカーの固定>
観測機器本体23及びアンカー25を固定するまでの手順は次の通りである。
【0031】
(1)観測機器本体23をアンカー25に固定する位置に配置する(図2参照)。本実施の形態では、アンカー25の枠内に観測機器本体23を配置している。
【0032】
(2)連結部材29,29のリング状の係止部30,30を、それぞれアーム部55,55に通して、アーム部55,55をトリガ機構本体41の方向に折りたたむ。
【0033】
(3)溶断装置本体2及び連結体3の取り付けを行う。溶断装置本体2の連結体収納部5にスライド可能に収納した連結体3の一端を、孔45の側から通路部47に通し、折りたたまれた状態のアーム部55,55の係合部57,57の上を越えるように連結体3を引っ張り、通路部49に通し、背面の連結体固定部46まで通した状態にする。次に、連結体3の他端を孔45内の通路部(図示せず)に通し、連結体3の他端を背面の連結体固定部46まで通した状態にする。このようにして、連結体3の一端及び他端をトリガ機構本体41内に通した状態で、連結体収納部5の孔17,19と、通路部47及び図示しない通路部の位置を合わせた状態になるように、孔45に溶断装置本体2を収納する。この時点では、連結体3はどこにも固定されておらず、また、スライド可能に連結体収納部5に収納されているため、連結体3の長さ調整やたるみが発生しないような調整が可能である。連結体3の調整を行った後、最後に、連結体3の両端を連結体固定部46に固定する。このように連結体3で係合部57,57を拘束することで、アーム部55,55が回動しなくなるため、連結部材29,29の係止部30,30が拘束される。
【0034】
(4)連結部材29,29が直線的に並ぶように、また、張力が発生するように引っ張った状態でそれぞれの他端をアンカー25に固定する。
【0035】
上記手順によって、観測機器本体23をアンカー25に対して固定した状態にする。海底地震計の場合には、最終的に準備が整ったところで、船舶で計測地点まで運搬し、海面から海底地震計を投げ入れて海底に設置する。
【0036】
<トリガ機構を作動させた状態>
測定が終了した場合や、測定機器のメンテナンス等のために、観測機器本体23を回収する場合には、次の手順で溶断装置1を作動させ、観測機器本体23をアンカー25から解放する。
【0037】
(1)溶断指令を発信する。溶断指令は、例えば、海上や地上から、無線の発信器によって発信する。
【0038】
(2)トランスデューサ31が溶断指令を受信すると、制御部12がスイッチ回路11をオン状態にする。
【0039】
(3)電源9から電気ヒータ部7に直流電流が流れて、発生する熱によって、連結体収納部5及び連結体3が溶断される。
【0040】
(4)連結体3が溶断されることによって、係合部57,57の拘束が解かれ、連結部材29,29の張力によってアーム部55,55が外側に向かって引っ張られて開き、連結部材29,29の係止部30,30がアーム部55,55から抜ける(図5)。
【0041】
(5)観測機器本体23がアンカー25から解放され、観測機器本体23が浮上する(図5)。
【0042】
(6)観測機器本体23とアンカー25とが切り離されることにより起因する物理的な変化(たとえば、水圧、傾斜角度、加速度、経過時間などの変化)や、タイマの時限の計数の完了を基に通電制御部は、電源から電気ヒータ部へ電流を流すスイッチ回路をオフ状態に戻す。
【0043】
上記手順によって、溶断指令を発信することによって、観測機器本体23を短時間で且つ確実に回収することが可能になる。
【0044】
本実施の形態の溶断装置は、様々なタイプの固定した位置関係にある第1の物体と第2の物体を切り離すための切離機構に適用することが可能である。図6乃至図8は、第2の実施の形態の観測機器の図である。図6乃至図8には、図1乃至図4に示した実施の形態と同じ部材には、図1乃至図4に付した符号の数に100の数を加えた数の符号を付して説明を省略する。
【0045】
図6は、説明のために、カバーをはずした状態の図である。図6に図示するように、第2の実施の形態では、トリガ機構127を介して、観測機器本体123(上部の図示は省略)がアンカー125に固定されている。第2の実施の形態のトリガ機構127は、長いアーム143Aと短いアーム143Bの2つのアームを備えた第1及び第2のリンク144A及び144Bを備えている。第1及び第2のリンク144A及び144Bを構成する2つのアーム143A及び143Bは、回動軸153に回転自在に嵌合された軸受部に一体に固定されており、アーム143Aとアーム143Bとの間の角度は、90度より僅かに小さい角度になっている。第1のリンク144Aと第2のリンク144Bは、回動軸の軸線方向にずれた状態で配置されており、図6または図8において、第1のリンク144Aの長いアーム143A及び短いアーム143Bが、第2のリンク144Bの長いアーム143A及び短いアーム143Bよりも手前側に位置している。その結果、第1のリンク144Aと第2のリンク144Bは干渉することがない。
【0046】
図7に示すように、溶断装置101は、トリガ機構本体141の裏側に取り付けられており、耐圧容器133の内部に電源109、制御部112が内蔵されている。溶断装置本体102は、ケース113の孔117,119が形成されている部分が反対側に出るように、トリガ機構本体141に形成された貫通孔145に取り付けられており、連結体103が通される。
【0047】
アンカー125とトリガ機構127の取り付けは、次のように行う。
【0048】
(1)第1及び第2のリンク144A,144Bの短いアーム143B,143Bの両方が、アンカー125に接続された連結部材129のリング状の係止部130を通るように、第1及び第2のリンク144A,144Bを回動させ、短いアーム143B,143Bが図6及び図8の紙面の前後方向で重なる位置で第1及び第2のリンク144A及び144Bを止める。
【0049】
(2)(1)の状態で、交差した状態になっている長いアーム143A,143Aの端部を連結体103で拘束する。
【0050】
このようにしてアンカー125とトリガ機構127を固定することで、アンカー125の重さ(水中では、アンカー125によって固定されている観測機器本体123の浮力)によって回動しようとする第1及び第2のリンク144A及び144Bを止めることができるため、観測機器本体123に対してアンカー125を固定することができる。しかも、長いアーム143A,143Aの端部を拘束しているため、テコの原理によって小さな力で第1及び第2のリンク144A及び144Bの回転を止めることができる。
【0051】
観測機器本体123を回収する際には、トランスデューサ131に対して、溶断指令を発信する。トランスデューサ131が溶断指令を受信すると、溶断装置101が作動し、連結体収納部105及び連結体103を溶断することで第1及び第2のリンク144A及び144Bの拘束が解かれ、第1及び第2のリンク144A及び144Bがそれぞれ回動軸153を中心にして回動し、第1及び第2のリンク144A及び144Bの短いアーム143B,143Bがアンカー125に係止された連結部材129のリング状の係止部130を解放することにより、トリガ機構127と共に観測機器本体123が浮上する(図8)。
【0052】
本発明の溶断装置は、水中・海中以外でも使用可能である。例えば、第3の実施の形態として、第2の実施の形態の観測機器本体123を気球に置き換えて、アンカー125の部分に計測機器を内蔵した本体部に置き換えることができる。この場合には、空中に飛ばした後に、溶断指令を発信することによって、気球の部分を切り離して、本体部を回収することができる。他に、気象調査用のラジオゾンデを遠隔から飛ばすために、地上に設置した錘と気球部分を切り離すための切離機構等にも使用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明の溶断装置は、第1の物体と第2の物体を切り離す切離機構として、小型軽量であり且つ複雑な機構を有しない。また、電気ヒータ部の発熱によって連結体を溶断するので、短時間で第1の物体と第2の物体を切り離すことが可能である。さらに、第1の物体と第2の物体の固定作業も容易である。また、長期間、海底に設置しておいても腐食が生じない構造である。
【符号の説明】
【0054】
1 溶断装置
2 溶断装置本体
3 連結体
5 連結体収納部
7 電気ヒータ部
8 リード線
9 電源
11 スイッチ回路
12 制御部
13 ケース
15 シリコーンゴム
17,19 孔
21 観測機器
23 観測機器本体
25 アンカー
27 トリガ機構
29,29 連結部材
30,30 係止部
31 トランスデューサ
33 ガラス球
35 ハードハット
37 通電制御部
39 防水コネクタ
41 トリガ機構本体
43 開閉機構
45 孔
46 連結体固定部
47 通路部
49 通路部
50 切欠部
51 アーム固定部
53,53 回動軸
55,55 アーム部
57,57 係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性材料からなる連結体を利用して固定した位置関係にある第1の物体と第2の物体との位置関係を、前記連結体を溶断することにより解除するための溶断装置であって、
前記連結体に熱が伝達することを許容し且つ前記連結体の少なくとも一部をスライド可能に収納する連結体収納部と、
前記連結体収納部の外側に配置されて前記連結体収納部を介して前記連結体の前記少なくとも一部を加熱する電気ヒータ部と、
前記電気ヒータ部に電流を供給するための電源と、
溶断指令を受信するまではオフ状態にあり、前記溶断指令を受信するとオン状態となって前記電源から前記電気ヒータ部へ電流を流すスイッチ回路を含む通電制御部とからなることを特徴とする溶断装置。
【請求項2】
前記熱可塑性材料は、熱可塑性樹脂である請求項1に記載の溶断装置。
【請求項3】
前記連結体収納部は、前記連結体を構成する前記熱可塑性材料の融点以下の融点を有する熱可塑性材料により形成されている請求項1または2に記載の溶断装置。
【請求項4】
前記通電制御部は、無線により前記溶断指令を受信するように構成されている請求項1に記載の溶断装置。
【請求項5】
前記第1の物体は、浮力体であり、
前記第2の物体は、前記浮力体を係留する錘であり、
前記浮力体と前記錘とが、拘束力の解除により解除状態となるトリガ機構を有する連結構造によって連結されており、
溶断前の前記連結体が前記拘束力を発生し、前記連結体の溶断が前記拘束力の解除を生じさせるように前記トリガ機構中に使用される請求項1乃至4のいずれか1項に記載の溶断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−83473(P2013−83473A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221880(P2011−221880)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【Fターム(参考)】