説明

溶液中のルテニウムを揮発分離させるための電解セル装置

【課題】溶液中に含まれるルテニウム(Ru)を電解酸化することにより、Ruを四酸化物(RuO4)として揮発分離させる際に、還元反応によってRuO2の微粒子として沈殿することを防止できる電解セル装置を提供する。
【解決手段】溶液中に含まれるルテニウム(Ru)を、前記溶液14と接触して配置された電極の作用極11と対極12間で電解酸化することにより、Ruを四酸化物(RuO4)として揮発分離させるための電解セル装置10である。電極の作用極11は、その断面が点対称の柱状極であって、対極12は柱状極の内側に配置された、少なくとも1本の棒状極の構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、原子力プラントから出される使用済み核燃料棒の再処理溶液中に含まれるルテニウム(Ru)を電解酸化することにより、Ruを四酸化物(RuO4)として揮発分離させるための電解セル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶液中のRuを電解酸化することによりRuを四酸化物(RuO4)として、揮発分離させる方法として、幾つかの研究報告がある(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
平板電極を使用した非特許文献1記載の従来方法では、電解電源装置を用いて揮発分離されるRuの濃度を、電解液(温度・共存物質Ceの影響)、電解槽の形状(蒸留/還流・隔膜の有無)および作用極電位についてのパラメータを一定時間毎に変更しながら測定している。そして、得られるデータから電解効率(単位電気量当たりのRuの除去量)、電解速度(単位時間当たりのRuの除去量)に関する基礎データが得られている。その結果、Ruの電解効率は作用極の電位を変えない限りほとんど変化しなかった。(電位を上げることにより、硝酸の分解反応等の影響が大きくなり、電解効率は低下した。)しかし、電解速度については、電解液の条件として、液温が高い方が、さらにCeが存在する方が速くなることがわかった。また、電解槽の形状条件については、蒸留方式(蒸気の凝縮液が電解槽に戻らない)および、対極に隔膜を設置した方が電解速度は速くなった。さらに電位を高くした方が、電解速度は向上することがわかった。
【0004】
また、吸光分析取り出しユニットを用いて、電解液中の吸光スペクトルをin-situにて測定した。また、同時に、自然電位、CVを採取し評価することにより、Ruは電解により直接RuO4まで酸化されるのではなく、一度、中間的な原子価に酸化された後にRuO4まで酸化されることがわかった。このときの、吸光スペクトルの結果から、中間に生成するRuは4価の可能性が考えられた。また、RuがRuO4まで酸化された場合においても、生成したRuO4のすべてが揮発するわけではなく、一部は電解液に溶解することがわかった。さらに、その一部は未反応のRuと反応し沈殿(RuO2の微粒子)を生成することもわかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本原子力学会「2010年秋の大会」講演予稿集B47「次世代燃料サイクルのための高レベル廃液調整技術開発―(3)電解酸化法によるルテニウムの揮発除去―」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述のようにして生成されたRuO4のすべてが揮発するわけではなく、一部は電解液に溶解し、その一部は未反応のRuと反応し沈殿(RuO2の微粒子)を生成するため、揮発させられるRuの濃度を高めることが困難であった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、溶液中に含まれるルテニウム(Ru)を電解酸化することにより、Ruを四酸化物(RuO4)として揮発分離させる際に、還元反応によってRuO2の微粒子として沈殿することを防止できる電解セル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、溶液中に含まれるルテニウム(Ru)を電解酸化する際に、還元反応によって、RuO2の微粒子として沈殿する原因を究明した結果、電解セル装置として次のような構成をとることが重要であることがわかった。
(1)電解セル内で、なるべく低い電位の状態が発生しないようにする。
(2)未反応のRuとの酸化還元反応を抑えるため、未反応のRuとの接触時間がなるべく短くなるように、短時間での電解を行うようにする。そのため電極間距離を出来るだけ小さくするとともに、電極面積を出来るだけ大きくする。
(3)好ましくは、電解酸化を行う際に電解液の電位を高く保持するため、モデレータとしてCeやAgを添加することが望ましい。
【0009】
上述の条件(1)を考慮し、本発明の実施例では、電解セルの電極として、従来の平板形に代えて円筒形とし、中心に対極を置く構造とした。実際に、平板電極を用いた電位の分布と円筒形電極を用いた電位の分布を計算によって求めた結果、明らかに円筒形や直方体などのように中心軸線に対して線対象の電極(円筒状作用極と棒状対極)を用いた場合の方が、電解液の電極電位が高い範囲が広いことがわかった。従って、電極構造を円筒形等とすることにより、従来の平板電極で生じていた部分的な電位低下を大幅に抑えることができる。
【0010】
実用上は円筒電極が最も好ましいが、前記電極の作用極が、その断面が点対称の柱状極であって、対極が前記柱状極の内側に配置された、少なくとも1個の棒状極であれば良い。したがって、正四角柱などの多角柱の電極でも良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る電解セル装置では、例えば、断面が点対称の柱状電極を採用しているので、従来の平板電極で生じていた部分的な電位低下を大幅に抑えることができ、溶液中に含まれるルテニウム(Ru)を電解酸化することにより、Ruを四酸化物(RuO4)として揮発分離させる際に、還元反応によってRuO2の微粒子として沈殿することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の原理を説明するための模擬図である。
【図2】本発明に係る電解セル装置の一実施例の全体構成図である。
【図3】本発明に係る電解セル装置で用いる電極の一実施例の構造を示す横断面図である。
【図4】図3に示された電極構造の電位分布のシミュレーションの結果を示す図である。
【図5】本発明に係る電解セル装置で用いる電極の他の実施例に係る電極構造の電位分布のシミュレーションの結果を示す図である。
【図6】図5に示された構造に対する比較例に係る電極構造の電位分布のシミュレーションの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
最初に図1を用いて本発明の原理について、詳細に説明する。図1において、符号1は比較的高電位の電極(表面電位1.5V)であり、2は原子力プラントの使用済み燃料からの再処理工程溶液である。図1は、電極1によって電解酸化されたRuO4が、比較的低電位の箇所で硝酸に溶解し、溶存状態のまま他のRuイオンと反応しRuO2・2H2Oなどが生成し、沈殿が起こる様子を示している。この現象から、電解酸化を行うに当たって、比較的低電位となる箇所を少なくするように電極の構造を設計することで、Ruを四酸化物(RuO4)として揮発分離させる際に、還元反応によってRuO2の微粒子として沈殿することを防止できることがわかる。
【実施例】
【0014】
図2に、上述の原理に基づいて作製された、本発明に係る電解セル装置の一実施例の全体構成図を示す。図1において、符号10が本発明に係る電解セル装置である。11と12は、それぞれ作用極とその対極である。作用極11には約1.0V、対極12には約‐1.0Vの電位が与えられる。図ではこれらの電極へ電位を与える電源装置は省略されている。また、13は、内部に電極11、12を収納し、溶液の電解酸化を行うための電解容器、14は電解酸化を行う再処理溶液を模擬した電解液(ルテニウムと硝酸の試薬)である。
本実施例の電解セル装置は、実機の模擬装置であり、具体的には以下の仕様を有する。
【0015】
1) 装置・器具
○電解電源装置
ポテンショスタット 北斗電工 HAL-3001
電源ブースター 北斗電工 HAL3011B10
作用極としては、次の2種類を準備し、それぞれ別個に試験を行った。
作用極 円筒型電極(20mmφ×20mmH) 白金製
円筒型電極(60mmφ×60mmH) Ti(白金メッキ)電極
対極 白金線 (1mmφ)
基準電極 銀塩化銀標準電極(飽和KCl)
○電解容器
パイレックス(登録商標)製容器 (内径23mmφ×高さ100mm)
ガラスボールフィルター(ガラスフリット付きガラス棒)
フリット部(10mmφ)、ガラス管部 (内径3.5mmφ、外径6.0mmφ)
○メンブランフィルター(ろ過)
Nucle pore filter (47mmφ、Pore Size 0.4μm)
2) 試薬
○ルテニウム フルヤ金属 3000ppm 硝酸濃度 2.5M,5M, 10M
○硝酸 和光純薬 試薬特級
【0016】
図3は、図2に示された電極の横断面を示している。図3の電極は、円筒状作用電極11と、その中心に配置された棒状対極12から構成されている。この実施例では、作用極11は円筒状をしているが、正方形や多角形などのように作用極の中心線に関して線対称の構造であれば良い。
【0017】
図3の電極による電位分布をシミュレーションした結果を図4に示す。図4において、黒色領域が比較的電位が高く、ハッチング部分がややプラス電位にある部分を示している。また、白色部分は、マイナス電位にある部分を示している。図4からわかるように、作用極11付近に還元反応を起こすような電位領域がないので、Ruは効率的にRuO4として回収される。
【0018】
図3の電極構造では、棒状の対極12が円筒状の作用極11の中心軸に配置されているが、作用極11の大きさに応じて、複数本の対極12を儲けても良い。このような例を図5と図6に示す。図5は本発明の実施例であり、図6はその比較例である。図5の電極構造では、4本の対極12a、12b、12c、12dが、作用極11の中心軸よりも作用極11の側面に近い位置に配置されているが、図6の電極構造では、逆に、4本の対極が、作用極11の側面よりも作用極の中心軸に近い位置に配置されている。
【0019】
図5及び図6は、電極構造とともに電位分布のシミュレーション結果を示している。これらの図において、黒色、灰色、白色の各部分の電位は図2と同様の値を示す。これらの図から明らかなように、装置が大型となり複数本の対極が必要になった場合には、図5の電極構造のような配置を取ることにより、マイナス電位となる領域を狭めることができ、電解酸化されたRuO4を効率的に回収できる。
【0020】
前に戻って図2を参照し、本発明の電解セル装置の動作について説明する。ルテニウム硝酸溶液を、作用極11、対極12が配置された電解容器13に適宜採取する。また、作用極11の表面付近の溶液と、同じ溶液を入れた外部ビーカ17とをルギン管15により液絡する。外部ビーカ17には参照電極16が設置され、液位は基本的に電極の上端面とほぼ同じ位置に来るように調整される。
【0021】
このような電解セル装置において一定時間電解を行い、得られた電解液をすぐにNuclepore filterにてろ過した。ろ過後のフィルターは減圧デシケータ内で3日間以上乾燥させて、重量を測定した。試験のためのパラメータとしては電解液の硝酸濃度、電極上端面から液表面までの高さ(液厚)、モデレータであるCeの影響について、30分間の電解試験を行った。電位は1.7〜1.8V(vs.Ag/AgCl)とした。(ただし、液厚が57mmの際には、電流値が低かったため、電位を約1.9V(vs.Ag/AgCl)まで上昇させた。また温度の影響については円筒状の作用極11を大きくし、液量を増やすことにより、一定温度を確保した。温度は室温(25℃)、50℃、95℃の3段階で行った。
【0022】
上述の試験の結果及び考察は次の通りである。
【0023】
結果:
1)硝酸濃度の影響
硝酸濃度の影響について、表1に示した。これまでの電解試験の条件での沈殿量についても参考として記した。この表の沈殿化率は、電解液から除去されたRuの量がすべてRuO2となった場合を1としたときの比率(%)とした。この表から酸濃度を上昇させることにより、沈殿の生成量は低下することがわかった。特に、硝酸濃度2.5Mから5Mに硝酸濃度が上昇した時では沈殿率は4.3%から2.6%以下となり、1/2以下となった。
【0024】
【表1】

【0025】
2)温度の影響
温度の影響について表2に示した。温度の上昇に伴い、沈殿化率が上昇した。特に95℃の時の沈殿化率が高く、10%を越える結果となった。
【0026】
【表2】

【0027】
3)モデレータの影響
モデレータの存在の影響について表3に示した。硝酸濃度が2.5M の場合において、Ceが共存する場合、沈殿化率は4.3%から2.1%と約2分の1となった。また、硝酸5Mにおいても、沈殿化率は1.4%以下であったことから、少なくとも、Ceの存在により沈殿の生成が促進されることがないことを確認できた。以上のこのことから、Ceが共存することにより沈殿の生成が抑制される事がわかった。
【0028】
【表3】

【符号の説明】
【0029】
10 電解セル装置
11 作用極
12 対極
13 電解容器
14 電解液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中に含まれるルテニウム(Ru)を、前記溶液と接触して配置された電極の作用極と対極間で電解酸化することにより、ルテニウム(Ru)を四酸化物(RuO4)として揮発分離させるための電解セル装置において、
前記電極の前記作用極が、その断面が点対称の柱状極であって、前記対極が前記柱状極の内側に配置された、少なくとも1本の棒状極であることを特徴とする電解セル装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電解セル装置において、前記電極が、円筒状作用極と少なくとも1本の棒状対極から成ることを特徴とする電解セル装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電解セル装置において、前記棒状対極が複数本設けられ、さらにそれらの複数本の棒状対極が、前記円筒状作用極の中心軸よりも前記円筒状作用極の側面に近い位置に、互いに等間隔で配置されていることを特徴とする電解セル装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−224905(P2012−224905A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92805(P2011−92805)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、文部科学省、エネルギー対策特別会計委託事業、「次世代燃料サイクルのための高レベル廃液調整技術開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】