説明

溶液授粉用粉体組成物

【課題】 30℃以下の水系分散媒、特に水に分散させる場合であっても、緩やかに撹拌するだけで、得られた分散体が優れた分散性及び分散安定性(経時安定性)を示す溶液授粉用粉体組成物を提供する。
【解決手段】 本発明においては、特定の二剤式の溶液授粉用粉体組成物を使用する。この特定の二剤式の溶液授粉用粉体組成物は、少なくとも花粉を含有する第1剤と、少なくとも水溶性の糖と増粘剤と分散剤とを含有する第2剤からなり、第1剤と第2剤を使用時に混合して水系分散媒に分散させて溶液授粉を行うものである。
また、溶液授粉方法等も提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液授粉用粉体組成物、詳しくは、少なくとも花粉を含有する第1剤と、少なくとも水溶性の糖と増粘剤と分散剤とを含有する第2剤からなり、第1剤と第2剤を使用時に混合して水系分散媒に分散させて溶液授粉を行う新規な二剤式の溶液授粉用粉体組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
果樹の受粉は、自然界においては、ミツバチ等の訪花昆虫によってなされる。このような受粉方法は、気候的要因等によって訪花活動が阻害されて十分な結実が得られない可能性があるため、果樹栽培においては、人工授粉によって授粉が行われている。
【0003】
人工授粉は、通常、採取した花粉を増量剤、例えば石松子(ヒカゲノカズラの胞子に赤く着色した滑石の粉末を混ぜたもの)で希釈して、綿棒や散粉器で散粉授粉させる方法によって行われている。しかしながら、人工授粉の作業は開花期の晴天日1〜2日の限られた日時で行う必要があるため、多数の労働力を必要とする等の問題がある。
【0004】
そこで、人工授粉の作業を省力化するために多くの提案がされている(特許文献1及び2、並びに非特許文献1〜6等参照)。
【0005】
例えば、花粉を植物油中で室温〜冷蔵で貯蔵した後、余分の植物油を廃棄して得たスラリー状の油脂花粉を別途調製しておいたスクロース(ショ糖)と寒天を溶かした水溶液に懸濁させて噴霧する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、非特許文献1には、寒天溶液(0.08〜0.12%)とジェランガム溶液(0.1〜0.2%)と、必要により10%スクロースとを組み合わせた液体増量剤に、キウイフルーツの花粉を懸濁し、得られた懸濁液を、スプレーを用いて人工授粉を行う方法が記載されている。
【0007】
一方、果樹花粉のほとんどは、温度や湿度の変化に弱く、採取した花粉を常温や直射日光に長時間晒すと、発芽率が低下して結実不良につながる。そのため、作業時以外は、乾燥状態で冷凍貯蔵しなければならず、採取した花粉の取り扱いには細心の注意を要する。
【0008】
そこで、花粉の発芽力を低下させることなく長期間保存する方法として、従来から、花粉をシリカゲル等の乾燥剤と共に酸素透過性の袋に入れて冷凍して保存する方法が提案されている。また、油脂類、アセトン、n−ヘキサン、エチルエーテル、ベンゼン等の溶剤に花粉を浸漬して貯蔵する方法も提案されている。
【0009】
【特許文献1】特開2006―246702号公報
【特許文献2】特開昭63−59378号公報
【非特許文献1】矢野隆、「液体増量剤を用いたキウイフルーツの人工受粉」、果試ニュース第18号、愛媛県立果樹試験場、平成15年3月
【非特許文献2】藤島宏之、外2名、「キウイフルーツのショ糖溶液を用いた人工受粉における花粉の適正希釈倍率」、九州沖縄農業研究成果情報、No.20、p.211−212、2005年12月22日
【非特許文献3】和中学、外3名、「果樹の省力的人工授粉技術の確立 1)カキにおける溶液受粉技術の確立(1)新規液体増量剤(サビ果症対策)の開発 a.溶液種類および濃度がサビ果症発生に及ぼす影響」、和歌山県農林水産総合技術センター果樹試験場果樹試験研究成績、Vol.2005、p.169−170、2005年
【非特許文献4】和中学、角田秀孝、「果樹の省力的人工授粉技術の確立 1)カキにおける溶液受粉技術の確立(1)新規液体増量剤(サビ果症対策)の開発 c.花粉の溶液混入後の経過時間が花粉発芽率に及ぼす影響」、和歌山県農林水産総合技術センター果樹試験場果樹試験研究成績、Vol.2005、p.173−174、2005年
【非特許文献5】和中学、角田秀孝、「果樹の省力的人工授粉技術の確立 1)カキにおける溶液受粉技術の確立(2)花粉採取法の開発 a.雄花の溶液直接混入による花粉採取法」、和歌山県農林水産総合技術センター果樹試験場果樹試験研究成績、Vol.2005、p.175−176、2005年
【非特許文献6】佐賀県果樹試験場、ナシ再構築研修会報告、p.6−7、平成17年3月10日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、花粉懸濁液(分散体)を用いる人工授粉(溶液授粉)において、花粉はその表面が疎水性であり、また比重が1.4〜1.7と重いため分散媒(通常は水)に均一かつ安定に分散(懸濁)させるのは極めて難しい。また、花粉懸濁液を激しく撹拌すると吸水した花粉が破れ破壊されてしまうため緩やかな撹拌で手早く分散させる必要がある。したがって、疎水性の花粉を、液体、特に寒天溶液等の粘性のある液体に分散させるのは困難である。
【0011】
また、花粉は短時間で発芽し始めるため、花粉懸濁液の調製、即ち花粉の増量剤との混合及びこの混合物の分散媒(通常、水)への分散と、散布(授粉)とを短時間(およそ1〜2時間以内)に行う必要がある。したがって、これまで試みられている方法を用いる場合、花粉懸濁液の一定量を複数回に分けて調製・散布する必要があるので、授粉作業が煩雑となる。
【0012】
一方、花粉の保存において、冷凍してこれを保存する場合には設備の設置とその維持管理が必要であるため、費用と手間がかかる。また、花粉を溶剤に浸漬させてこれを保存する場合には、溶剤の取り扱いの危険性と溶剤による環境汚染の問題がある。花粉を油脂に浸漬させてこれを保存する場合には、花粉の油脂溶液から油脂が分離してくるため、これを授粉溶液として使用することに困難が生じる場合がある。
【0013】
したがって、緩やかに撹拌するだけで適当な分散媒、特に30℃以下の水に均一に分散させて、分散性及び分散安定性に優れた花粉懸濁液(分散体)を調製する方法の開発が求められる。しかも、少なくとも花粉を含有する第1剤と、少なくとも水溶性の糖と増粘剤と分散剤とを含有する第2剤からなり、第1剤と第2剤を使用時に混合して水系分散媒に分散させて溶液授粉を行う二剤式の溶液授粉用粉体組成物等についての記載は見当たらない。
【0014】
本発明は上記の事情に鑑み、水系分散媒、特に30℃以下の水に分散させる場合であっても、緩やかに撹拌するだけで、得られた分散体が優れた分散性及び分散安定性(経時安定性)を示す溶液授粉用粉体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明においては、特定の二剤式の溶液授粉用粉体組成物を用いる。この特定の二剤式の溶液授粉用粉体組成物は、少なくとも花粉を含有する第1剤と、少なくとも水溶性の糖と増粘剤と分散剤とを含有する第2剤からなり、第1剤と第2剤を使用時に混合して水系分散媒に分散させて溶液授粉を行うものである。前記第1剤の組成により、花粉の長期保存が達成される。前記第2剤は、花粉の分散、浸透圧、栄養等に係わる成分を含む。前記第2剤の組成により、花粉の水系分散媒への易分散(容易な分散)及び発芽率の向上が達成される。本発明では、前記第1剤と前記第2剤を使用時に混合して水系分散媒に分散させるため、使用(混合)前に、前記第2剤に含まれる増粘剤と分散剤との混合物が高濃度の状態で花粉と直接触れることによって生じるおそれのある花粉の生理機能の低下を防止できる。また、前記第1剤と前記第2剤に分けることにより、それぞれの剤について最も適した製造時期と製造場所、そして保管温度条件と保管場所を選択でき、その結果実用面(製造、保管、流通等)において省コスト、省エネルギー、省スペースが達成される。更に本発明の二剤式の溶液授粉用粉体組成物の実施に際し、第1剤と第2剤を混合し適当な水系分散媒、特に30℃以下の水に添加した場合には、撹拌機の使用等の機械的な処理による強力な撹拌をしなくても、緩やかに撹拌するだけで、花粉が水系分散媒に短時間で均一に分散する。即ち第1剤と第2剤の混合物(粉体組成物)は、水系分散媒に対して優れた易分散性を有する。しかも得られた分散体は、経時での分散安定性に優れているので、花粉の沈降(沈殿)がなく、花粉の良好な分散状態が長期間維持される。なお、本発明では、前記第1剤に、更に水溶性の粉末状担体を含有させることができる。この場合には、第1剤を調製する工程(第1剤に含まれる各成分の混合の工程)で行われる撹拌による物理的作用によって、第1剤において複数の花粉粒子が凝集して形成されうる花粉塊がほぐれて花粉粒子が微細化されうる。また、前記水溶性の粉末状担体は、花粉表面に存在しうる粘着物と結合するため、再び花粉塊が形成されることを防止することができるので、特に低温で長期間保存した場合であっても、花粉の物理的状態が良好に維持されうる。さらに、花粉は、前記水溶性の粉末状担体により、第1剤中にすでに均一に分散した状態にあるので、第1剤の第2剤との均一混合を速やかに、かつ容易に達成することができ、その結果、第1剤と第2剤を使用時に混合して水系分散媒に分散させた場合には、第1剤に含まれる花粉を水系分散媒により均一に分散させることができる。
【0016】
即ち、本発明において、
少なくとも花粉を含有する第1剤と、少なくとも水溶性の糖と増粘剤と分散剤とを含有する第2剤からなり、第1剤と第2剤を使用時に混合して水系分散媒に分散させて溶液授粉を行うことに特徴を有する二剤式溶液授粉用粉体組成物(以下、「本発明の二剤式溶液授粉用粉体組成物」とも称する。)を提供することができる。
【0017】
また、本発明では、前記花粉が、二剤式溶液授粉用粉体組成物の全組成中、純花粉換算で1〜30重量%含有されることが好ましい。
【0018】
また、本発明では、前記第1剤に、更に水溶性の粉末状担体を含有させることが好ましい。この場合において、前記水溶性の粉末状担体を、液状の疎水性物質を吸着してこれを粉末化する水溶性の物質(水溶性の粉末化剤)であって、花粉の生理機能を損なわず、かつ高くとも30℃の水系分散媒に、好ましくは速やかに、より好ましくは5分以内に完全に、溶解するものにすることができる。前記水溶性の粉末状担体として、好ましくは、水溶性デキストリン、α化加工デンプン、ラクトース、無水結晶グルコース、無水結晶マルトース、ソルビット、フラクトオリゴ糖(スクロースに果糖が1〜3個付加したもの)、イヌリン(スクロースに果糖が4個以上付加したもの)、及びシクロデキストリン(増粘剤として使用されるものを除く)のうち少なくとも一種を選択することができる。
【0019】
前記水溶性の糖として、単糖類、二糖類、及び多糖類のうち少なくとも一種を選択することができ、前記単糖類として、グルコース、及びフルクトースのうち少なくとも一種を選択することができ、前記二糖類として、スクロース、ラクトース、マルトース、及びトレハロースのうち少なくとも一種を選択することができ、前記多糖類として、シクロデキストリンを選択することができる。
【0020】
本発明では、前記増粘剤を、水溶性の物質であって、花粉の生理機能を損なわず、かつ高くとも30℃の水系分散媒に、好ましくは速やかに、より好ましくは5分以内に完全に、溶解して粘性を付与するものにすることができる。好ましくは、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシメチルセルロース、キプロガム、グアガム、キサンタンガム、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム、ペクチン、ヒアルロン酸ナトリウム及びα化加工デンプンのうち少なくとも一種を選択することができる。
【0021】
本発明では、前記分散剤を、水溶性の物質であって、花粉の生理機能を損なわず、かつ高くとも30℃の水系分散媒に、好ましくは速やかに、より好ましくは5分以内に、分散又は溶解して分散体又は溶液の表面張力を低下させるものとすることができる。好ましくは、脂肪酸石鹸、スルホコハク酸アルキルエステル塩、高級アルコールを疎水基とするアルキル硫酸塩、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー、及びアルキルポリグルコシドのうち少なくとも一種を選択することができる。
【0022】
本発明において使用される水系分散媒は、通常、水である。
【0023】
本発明において、別の形態として、下記工程を含むことに特徴を有する溶液授粉方法(以下、「溶液授粉方法」とも称する。)を提供することができる:
a)少なくとも花粉を含有する第1剤と、少なくとも水溶性の糖と増粘剤と分散剤とを含有する第2剤とを混合する工程;
b)工程a)において得られた粉体組成物を、水系分散媒に分散させる工程;並びに
c)工程b)において得られた分散体を用いて授粉を行う工程。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、水系分散媒、特に30℃以下の水において容易に均一に分散する二剤式の溶液授粉用粉体組成物を提供することができる。
【0025】
更に、前記二剤式の溶液授粉用粉体組成物を使用して、分散性及び分散安定性に優れた花粉懸濁液(分散体)が得られる。更にこの懸濁液を使用して、果樹の人工授粉を、容易かつ簡便に実施することができる。したがって、本発明は特に農業分野において、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、少なくとも花粉を含有する第1剤と、少なくとも水溶性の糖と増粘剤と分散剤とを含有する第2剤からなり、第1剤と第2剤を使用時に混合し、適当な水系分散媒に分散させて溶液授粉を行う二剤式の溶液授粉用粉体組成物、即ち本発明の二剤式溶液授粉用粉体組成物を中心に、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、これに限定されることはない。
【0027】
(本発明の二剤式溶液授粉用粉体組成物)
本発明の二剤式溶液授粉用粉体組成物は、少なくとも花粉を含有する第1剤と、少なくとも水溶性の糖と増粘剤と分散剤とを含有する第2剤からなり、第1剤と第2剤を使用時に混合し、適当な水系分散媒、特に水に分散させて溶液授粉を行うものである。
【0028】
花粉のほとんどにおいて、その形状は円球又は角球であり、その大きさは0.01〜0.1mm程度の範囲にある。本発明において使用する第1剤に含まれる花粉については、特に制限はないが、ナシ、リンゴ等の植物、特に果樹の花粉が選択される。
【0029】
前記花粉を得ることには、特に困難はなく、例えば、下記の公知の方法により得ることができる。
【0030】
先ず開花直前の蕾を摘み、この蕾を葯採取器等にかけて花びら等を除去して葯のみを取り出す。次に、この葯を開葯器に入れて葯を開き、中から花粉(粗花粉)を取り出す。そして花粉精製器等で葯を除去して花粉(純花粉)のみを得る。
【0031】
本発明において、粉体組成物(二剤式溶液授粉用粉体組成物)は溶液授粉に使用することが適している。したがって、粗花粉を選択した場合には混在する夾雑物の大きさと量によっては使用する噴霧器(スプレー)のノズルが詰まるおそれがある。そこで、本発明では、前記花粉として、粗花粉を精製した純花粉が選択される。
【0032】
本発明では、前記花粉として、採取後にシリカゲル等の乾燥剤と共に冷凍保存した花粉を使用することもできるが、この場合には、通常、温度と湿度に慣らすため冷凍保存した花粉を1〜2日間程度室温で静置する。
【0033】
また、前記花粉の粉体(粒子)の表面を0℃以上で液体の状態にある疎水性物質で処理(被覆)して表面処理花粉とし、この表面処理花粉を、第1剤における花粉の成分として又は花粉の成分の一部として使用することもできる。前記疎水性物質には、花粉がその保存中に大気中の水分を吸収することによって生じる発芽率の低下を抑える能力があるため表面処理花粉においてその保存性が向上するが、前記表面処理花粉と水溶性の粉末状担体とを組み合わせたものは、より優れた保存性を有することとなる。前記疎水性物質については、使用される分散媒(水系分散媒)が好ましくは0℃〜30℃の水であるため、好ましくは、この温度範囲(0℃〜30℃)で液体であり、かつ花粉の発芽と成長を妨げないものが選択される。より好ましくは食用の脂肪酸トリグリセライド又は流動パラフィンが選択される。前記食用の脂肪酸トリグリセライドとして、例えば、コーン油、菜種油等の植物油及び炭素数8〜10の飽和脂肪酸からなるトリグリセライドが挙げられる。なお、これらの処理工程そのものは従来既知の方法が採用できる。
【0034】
前記表面処理される前の花粉(粒子)に対する前記疎水性物質の量については、表面処理する前の(表面処理すべき)花粉の重量に対して、好ましくは0.5〜2倍程度となるような量が選択される。0.5倍を下回ると、前記花粉と前記疎水性物質との混合物の物性がペースト状又は粘土状になり、水溶性の粉末状担体と組み合わせる場合には均一に混合された粉体とすることが困難になる傾向があり、2倍を超えると、第1剤を粉末状にすることが困難になる傾向がある。なお、花粉表面上に余分な疎水性物質が存在すると、後述する第2剤の機能に悪影響を与え、分散媒に分散させて散布した後に樹木に悪影響を与える可能性があるため、表面処理花粉から余分な疎水性物質を取り除くことが好ましい。
【0035】
本発明において、前記花粉の含有量(使用量)は、水系分散媒に分散させたときの分散体中に存在する花粉の重量により規定される。したがって、本発明では、分散体中に、純花粉換算で、0.1〜2重量%程度が含有されるようにすることが好ましい。0.1重量%を下回ると受精率が急速に低下する傾向があり、2%を超えても受精率は向上せず、かえって花粉を無駄に消費する傾向がある。なお、前記花粉の含有量は、更に、二剤式溶液授粉用粉体組成物の全組成中、純花粉換算で1〜30重量%程度にあることが好ましい。
【0036】
成熟した花粉は、特に果樹のような虫媒花では、花粉が昆虫の体やめしべに付着するのを助けるためその表面にターペタム組織の崩壊物やユーピッシュ体等の粘着物を持っている。このため、純花粉を採取して精製する過程で花粉の塊が生じ易い現象がある。本発明の液授粉用粉体組成物において、第1剤に含まれる花粉は、水系分散媒に後述する第2剤に含まれる分散剤の効果により、1〜5粒程度の花粉又は花粉塊の状態で速やかに分散されるが、本発明において使用する第1剤に、更に水溶性の粉末状担体を含有させた場合には、当該第1剤を調製する工程(第1剤に含まれる各成分の混合の工程)で行われる撹拌による物理的作用によって花粉塊をほぐすことができ、さらに当該担体が花粉表面の粘着物と結合して花粉粒子の再付着による塊化を防止する効果が期待できる。その結果、第1剤と第2剤を混合する前に、すでに花粉が、第1剤中に、より均一に分散した状態となり、第1剤と第2剤の混合に際しては、花粉が第1剤中にすでに均一に分散した状態にあるので、より短い混合時間で花粉の液授粉用粉体組成物における均一混合を達成することができる。したがって、本発明において使用する第1剤には、更に水溶性の粉末状担体を含有させることが好ましい。
【0037】
本発明において使用する水溶性の粉末状担体としては、液状の疎水性物質を吸着してこれを粉末化する水溶性の物質(水溶性の粉末化剤)であって、花粉の生理機能を損なわず、かつ30℃以下の水系分散媒、例えば水に、好ましくは速やかに、より好ましくは5分以内に完全に、溶解するものが選択される。このような水溶性の粉末状担体としては、例えば、水溶性デキストリン、α化加工デンプン、ラクトース、無水結晶グルコース、無水結晶マルトース、ソルビット、フラクトオリゴ糖(スクロースに果糖が1〜3個付加したもの)、イヌリン(スクロースに果糖が4個以上付加したもの)、シクロデキストリン等(増粘剤として使用されるものを除く)が挙げられる。なお、本発明においてはこれらを単独で、又は任意の組み合わせの混合物で使用してもよい。
【0038】
本発明において、前記花粉と前記水溶性の粉末状担体とを物理的に混合して、前記花粉が均一に分散した第1剤を効率よく得るためには、前記花粉の体積量に対して前記水溶性の粉末状担体の体積量が等量であるか又は等量よりも多いことが好ましい。したがって、前記花粉と前記水溶性の粉末状担体の好ましい重量割合は、選択される水溶性の粉末状担体の比重によって影響を受け、例えば、前記水溶性の粉末状担体として、先に列挙したものの中で最も比重の大きい無水結晶グルコースを選択した場合には1:1〜1:5であることが好ましく、先に列挙したものの中で最も比重の小さいα化加工デンプンを選択した場合には1:0.5〜1:5であることが好ましい。
【0039】
本発明において、前記第1剤の調製には特に困難はない。前記花粉のみで第1剤を構成してもよいし、或いは前記花粉と、前記水溶性の粉末状担体等の花粉以外の適当な成分とを混合したものを第1剤としてもよい。なお、後者の場合には、前記花粉と前記水溶性の粉末状担体等の花粉以外の成分とを単純に混合するだけで前記第1剤を調製することができる。
【0040】
本発明の二剤式溶液授粉用粉体組成物の組成において、第2剤は、以下の機能を有するように構成されている:
(1)浸透圧によって花粉の吸水速度を調節する機能;
(2)花粉の発芽を促進し、かつ花粉管の生長に必要な栄養成分を補給する機能;
(3)花粉表面の濡れ性を良くして、花粉を、好ましくは速やかに、水系分散媒に分散させて花粉粒子が均一に懸濁した分散体を生じせしめる機能;
(4)分散体中の花粉の懸濁濃度を均一に保ち、かつ噴霧に際しては液滴を霧状に微細化する機能;並びに
(5)花粉懸濁液(分散体)の微細な液滴が雌芯の柱頭に付着し易く、かつ流失し難くさせる機能。
【0041】
ここで、花粉は、その内部に精細胞と生長成分を含む原形質を有し、水に触れると細胞膜を通して吸水して活性化され、発芽し始める。また、急激に吸水した場合には原形質が吐出したり、過度に膨潤して破裂したりすることがある。したがって、花粉の種類に応じて花粉の吸水速度を適当なものにすべく適当な浸透圧に調節する必要がある。一方、花粉は、その内部の物質だけでは花粉管の生長に必要な栄養分をまかなうことができないので、柱頭に付着すると、柱頭細胞から水と栄養分を吸収して発芽し花粉管を生長させ受精に至る。したがって、人工授粉では受精率をあげ、発芽後花粉管を生長させるため栄養成分の補給が必要になる。
【0042】
本発明において使用する糖は、これらの要求にこたえるべく配合されるものであり、浸透圧の調節と栄養の補給の目的で配合されるものである。前記糖としては、水溶性の糖類であって、花粉を適当な浸透圧下におき、代謝に必要なもので、かつ花粉の発芽と花粉管の生長を阻害しないものが選択される。具体的には、前記糖として、グルコース、及びフルクトース等の単糖類、スクロース、ラクトース、マルトース、及びトレハロース等の二糖類、及びシクロデキストリン等の多糖類が挙げられる。なお、本発明においてはこれらを単独で、又は任意の組み合わせの混合物で使用してもよい。
【0043】
多くの場合、花粉は、スクロースを使った場合で、5〜13%程度の浸透圧下にあることが好ましい。したがって、前記糖の含有量(使用量)は、好ましくは分散体中に50〜90重量%程度が選択される。
【0044】
本発明において使用する増粘剤は、これが溶液に粘性を付与して分散体中の花粉の懸濁濃度を均一に保ち、かつ微細液滴が雌芯の柱頭に付着し易くそこから流出し難くさせる効果の他、水の移動を抑えることで花粉の吸水を遅くして結果的に糖の浸透圧調節機能を補完する効果を有することから、これらの効果を発揮させるべく配合されるものである。前記増粘剤としては、水溶性の物質であって、花粉の生理機能を損なわず、かつ30℃以下の水系分散媒、例えば水に、好ましくは速やかに、より好ましくは5分以内に完全に、溶解して粘性を付与するものが選択される。前記増粘剤として、例えばアルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシメチルセルロース、キプロガム、グアガム、キサンタンガム、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム、ペクチン、ヒアルロン酸ナトリウム及びα化加工デンプン等が挙げられる。
【0045】
前記増粘剤の含有量(使用量)は、選択される増粘剤及び花粉の種類や、他の粉体成分及び水系分散媒の含有量等に応じて選択されるが、好ましくは分散体中に0.01〜3重量%程度が選択される。
【0046】
本発明において使用する分散剤としては、水溶性の物質であって、花粉の生理機能を損なわず、かつ30℃以下の水系分散媒、例えば水に、好ましくは速やかに、より好ましくは5分以内に、分散又は溶解して分散体又は溶液の表面張力を下げ、或いは花粉粒子の疎水性表面に吸着してその表面の濡れを良くして、花粉を均一に分散させるものが選択される。具体的には、前記分散剤としては、例えば、脂肪酸石鹸、スルホコハク酸アルキルエステル塩、高級アルコールを疎水基とするアルキル硫酸塩、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー、及びアルキルポリグルコシド等の非イオン界面活性剤が挙げられる。
【0047】
前記分散剤の含有量(使用量)は、選択される分散剤及び花粉の種類や、他の粉体成分及び水系分散媒の含有量等に応じて選択されるが、好ましくは分散体中に0.01〜0.3重量%程度が選択される。
【0048】
本発明において、前記第2剤の調製にも特に困難はなく、少なくとも前記糖と前記増粘剤と前期分散剤とを単純に混合するだけで前記第2剤を調製することができる。
【0049】
本発明では、前記第2剤に、更に色素(着色剤)を配合させることができる。前記色素については、花粉の種類とその花粉が採取される花の色に応じて、その種類及びその含有量(使用量)が選択される。前記色素を含有させることにより、授粉作業が終わった花とそうでない花とを識別しながら作業をすることができ、簡便である。
【0050】
本発明では、前記の第2剤には、更に、本発明の目的及び効果(花粉の分散性や発芽率等)を阻害しない範囲で他の成分、例えば、水分蒸発抑制物質、Caイオン、ホウ酸塩等の成長促進物質等を適宜配合することができる。
【0051】
本発明の二剤式溶液授粉用粉体組成物において、前記第1剤と第2剤は、それぞれ前記したように、各成分が所定の割合で含有されるように調製されている。したがって、本発明において、使用時に、前記第1剤と前記第2剤とを混合する際には、一方の剤に他方の剤を単に添加すればよく、機械的処理を何ら行わずにこれらの混合を行うことができる。また、得られた前記第1剤と前記第2剤の混合物(粉体組成物)を水等の水系分散媒に分散させる際には、この混合物を水系分散媒に添加して、穏やかに撹拌するだけで容易に均一な分散体を製造することができ、混合分散機等の使用等、比較的強力な機械的処理を特に行う必要がない。
【0052】
本発明において、分散媒として、水系分散媒が使用される。水系分散媒として、水及び水溶性有機溶剤のうち少なくとも1種が選択可能であるが、通常、水、好ましくは、花粉の発芽能力保持の観点から、30℃以下の水が選択される。
【0053】
本発明の二剤式溶液授粉用粉体組成物を前記水系分散媒に分散させて分散体を調製する際、二剤式溶液授粉用粉体組成物の使用量は、前記したように、分散体の組成中に花粉成分が純花粉換算で、0.1〜2重量%程度含有されるように選択される。
【0054】
本発明において得られた分散体(花粉懸濁液)による授粉については、従来公知の方法により、特に困難はなく、行うことができる。例えば、噴霧器(スプレー)等により噴霧することができる。なお、綿棒や散粉器により散布することもできる。
【0055】
(本発明の溶液授粉方法)
本発明の溶液授粉方法は、下記工程を含む:
a)少なくとも花粉を含有する第1剤と、少なくとも水溶性の糖と増粘剤と分散剤とを含有する第2剤とを混合する工程;
b)工程a)において得られた粉体組成物を、水系分散媒に分散させる工程;並びに
c)工程b)において得られた分散体を用いて授粉を行う工程。
したがって、本発明については、前記記載を参考にして容易に実施することができる。
【0056】
(キット)
本発明では、溶液授粉を行うためのキットであって、
第一の容器内に少なくとも花粉を含有する第1剤と;
第二の容器内に少なくとも水溶性の糖と増粘剤と分散剤とを含有する第2剤と;を含み、
前記第1剤及び前記第2剤が水系分散媒に適当な割合で分散されるための説明書を更に含むキットを提供することができる。したがって、本発明については、前記記載を参考にして容易に実施することができる。
【0057】
前記記載のように第1剤と第2剤は、それぞれ前記成分を適当な割合で含有するよう調製されているので、前記説明書に従って、使用時に前記第1剤と前記第2剤を混合し、得られた混合物を、所定の濃度の花粉懸濁液(分散体)を調製するのに必要とされる量の水系分散媒、特に水に、分散させ、緩やかに撹拌するだけで容易に花粉懸濁液を調製することができ、更にこの花粉懸濁液を使用して容易に溶液授粉を行うことができる。
【実施例】
【0058】
[実施例1] 二剤式溶液授粉用粉体組成物の製造
開花直前のナシのつぼみを採取し、所定の器具を使って葯から花粉を取り出し精製して純花粉を得た。
この純花粉5gに、水溶性デキストリン10g及び無水結晶グルコース5gを混合して、花粉含有粉体組成物(本発明に係る第1剤)20gを得た。
スクロース76gに、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル1gとアルギン酸プロピレングリコールエステル2gとグアガム1gを混合して、粉体組成物(本発明に係る第2剤)80gを得た。
以上により、目的とする二剤式の溶液授粉用粉体組成物を得た。
【0059】
[実施例2] 二剤式溶液授粉用粉体組成物の製造
実施例1において得られた純花粉5gに、食用なたね油5gを混合した後、更に水溶性デキストリン15gを混合して、油脂処理花粉含有粉体組成物(本発明に係る第1剤)25gを得た。
マルトース40gとスクロース34gに、ポリオキシエチレンオレイルエーテル0.6gとキサンタンガム0.4gを混合して、粉体組成物(本発明に係る第2剤)75gを得た。
以上により、目的とする二剤式の溶液授粉用粉体組成物を得た。
【0060】
[実施例3] 二剤式溶液授粉用粉体組成物の製造
食用なたね油に替えて、流動パラフィンを5g使用すること以外は、実施例2と同様の方法で二剤式の溶液授粉用粉体組成物を製造した。
【0061】
[実施例4] 二剤式溶液授粉用粉体組成物の製造
実施例1において得られた純花粉と同等のものであって、乾燥状態で冷凍しておいたものを、室温冷暗所に2日間静置して外気の温度と湿度に慣らす処理を行った。
この純花粉17gを、本発明に係る第1剤とした。
トレハロース10gとショ糖10gとを混合し、得られた混合物に、更にα化加工デンプン7gとソルビット2gとα型シクロデキストリン2gと水溶性デキストリン8gとキサンタンガム0.4gとポリオキシエチレンソルビタンモノステアリン酸エステル0.3gとポリグリセリンモノオレイン酸エステル0.3gとを加えて混合して、粉体組成物(本発明に係る第2剤)40gを得た。
以上により、目的とする二剤式の溶液授粉用粉体組成物を得た。
【0062】
[実施例5] 二剤式溶液授粉用粉体組成物の製造
実施例1において得られた純花粉5gに、食用なたね油5gを混合した後、更に水溶性デキストリン15gを混合して、油脂処理花粉含有粉体組成物(本発明に係る第1剤)25gを得た。
マルトース40gとスクロース34gに、ポリオキシエチレンオレイルエーテル0.6gとキサンタンガム0.2gとヒアルロン酸ナトリウム0.2gを混合して、粉体組成物(本発明に係る第2剤)75gを得た。
以上により、目的とする二剤式の溶液授粉用粉体組成物を得た。
【0063】
[比較例1] 溶液授粉用粉体組成物の製造
実施例1において得られた純花粉10gと水溶性デキストリン10gを混合して、花粉含有粉体組成物20gを得た。
【0064】
[比較例2] 溶液授粉用粉体組成物の製造
ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステルを使用しないこと以外は、実施例1と同様の方法で花粉含有粉体組成物99gを製造した。
【0065】
[比較例3] 溶液授粉用粉体組成物の製造
アルギン酸プロピレングリコールエステルとグアガムを使用しないこと以外は、実施例1と同様の方法で花粉含有粉体組成物97gを製造した。
【0066】
[実施例6] 花粉懸濁液の製造
実施例1において得られた本発明に係る第1剤20gと本発明に係る第2剤80gを混合して溶液授粉用粉体組成物100gを得た。
得られた溶液授粉用粉体組成物10gを蒸留水100mlに添加した。
その後、この混合物を、5分間、緩やかに撹拌して、溶液受粉用の花粉懸濁液(分散体)を得た。この分散体を目視で観察したところ、塊はなく、花粉が均一に分散しその他の粉体成分が完全に溶解していた。
【0067】
[実施例7] 花粉懸濁液の製造
実施例2において得られた本発明に係る第1剤25gと本発明に係る第2剤75gを混合して溶液授粉用粉体組成物100gを得た。
得られた溶液授粉用粉体組成物10gを脱イオン水100ml中に添加して緩やかに5分間撹拌して、溶液受粉用の花粉懸濁液(分散体)を得た。この分散体を目視で観察したところ、花粉と油脂が均一に分散し、その他の粉体成分が完全に溶解していた。
【0068】
[実施例8] 花粉懸濁液の製造
実施例3において得られた本発明に係る第1剤25gと本発明に係る第2剤75gを混合して溶液授粉用粉体組成物100gを得た。
実施例7と同様の方法で溶液受粉用の花粉懸濁液(分散体)を製造した。
【0069】
[実施例9] 花粉懸濁液の製造
実施例4において得られた本発明に係る第1剤17gと本発明に係る第2剤40gを混合して溶液授粉用粉体組成物57gを得た。
得られた溶液授粉用粉体組成物5.7gを市販の軟水系天然水100mlに添加した。得られた混合物を目視で観察したところ、塊は生じていなかった。
その後、この混合物を、5分間、緩やかに撹拌して、溶液受粉用の花粉懸濁液(分散体)を得た。この分散体を目視で観察したところ、塊はなく、花粉が均一に分散しその他の粉体成分が完全に溶解していた。
【0070】
[実施例10] 花粉懸濁液の製造
実施例5において得られた本発明に係る第1剤25gと本発明に係る第2剤75gを混合して溶液授粉用粉体組成物100gを得た。
得られた溶液授粉用粉体組成物10gを脱イオン水100ml中に添加して緩やかに5分間撹拌して、溶液受粉用の花粉懸濁液(分散体)を得た。この分散体を目視で観察したところ、花粉と油脂が均一に分散し、その他の粉体成分が完全に溶解していた。
【0071】
[比較例4] 花粉懸濁液の製造
比較例1において得られた花粉含有粉体組成物2gを蒸留水100ml中に添加した。得られた混合物を目視で観察したところ、花粉が微小な塊になって水面を浮遊していた。したがって、花粉を、速やかに均一分散させることが出来なかったが、これを花粉懸濁液とした。
【0072】
[比較例5] 花粉懸濁液の製造
比較例2において得られた花粉含有粉体組成物9.9gを蒸留水100ml中に添加した。得られた混合物を目視で観察したところ、花粉だけが水面上に浮遊していた。この混合物について、5分間の緩やかな撹拌を行ったが、それだけでは均一な花粉懸濁液(分散体)を得ることができなかった。
また、この花粉懸濁液をハンドスプレーで噴霧しようとしたところ、ハンドスプレーのノズルにおいて目詰まりが発生して均一な花粉散布ができなかった。
【0073】
[比較例6] 花粉懸濁液の製造
比較例3において得られた花粉含有粉体組成物9.7gを蒸留水100ml中に添加した。得られた混合物を、5分間、緩やかに撹拌して、花粉が分散しその他の粉体成分が完全に溶解した花粉懸濁液が得られた。
この花粉懸濁液をハンドスプレーで噴霧して、噴霧開始から噴霧終了時点までの花粉の濃度を調べたところ、その濃度にバラツキが認められた。また、噴霧終了後、ハンドスプレーを目視確認したところ、その底部に花粉の沈殿物が存在していた。
【0074】
[評価例1]実施例1において得られた花粉含有粉体組成物(本発明に係る第1剤)と比較例2及び3において得られた花粉含有粉体組成物との比較評価
上記実施例1並びに及び比較例2及び3において得られた各種花粉含有粉体組成物について、下記評価方法により評価した。
【0075】
(評価方法)
各種花粉含有粉体組成物をシャーレに採り、10℃で1ヶ月間保存した後、鏡検し、その時の花粉の発芽率を評価した。その後、実施例1において得られた花粉含有粉体組成物の場合には実施例6と同様の方法で、比較例2及び3において得られた花粉含有粉体組成物の場合にはそれぞれ比較例5及び6と同様の方法で、各種溶液受粉用の花粉懸濁液(分散体)を製造し、その懸濁液中の花粉の分散状態を、目視により確認した。
【0076】
(評価結果)
結果を表1に示す。実施例1において得られた花粉含有粉体組成物における花粉の発芽率は良好であった。これに対し、第1剤の成分と第2剤の成分との混合物である比較例3において得られた花粉含有粉体組成物では、長期間の保存により発芽率が急速に低下し、花粉の生理機能が損なわれていた。したがって、本発明によれば、第1剤と第2剤からなる二剤式の溶液授粉用粉体組成物としているため、花粉の生理機能を損なうことなく、花粉を保管することができることは明らかである。また、実施例1において得られた花粉含有粉体組成物を使用して調製した花粉懸濁液において花粉は均一かつ安定に分散していた。これに対して、比較例2及び3において得られた花粉含有粉体組成物を使用して調製した花粉懸濁液において花粉は均一かつ安定に分散しなかった。したがって、本発明によれば、花粉を長期間保存した後であっても、そのような花粉を使用して分散性及び分散安定性に優れた花粉懸濁液(分散体)が得られることは明らかである。
【0077】
【表1】

【0078】
[評価例2]実施例6及び9において得られた花粉懸濁液の分散状態の評価
上記実施例6及び9において得られた各種花粉懸濁液について、下記評価方法によりその分散状態評価した。
【0079】
(評価方法)
5分間撹拌して調製した直後の各種花粉懸濁液について、その懸濁液中の花粉の分散状態を、顕微鏡観察(倍率:75倍)により、1〜5粒未満の花粉で形成された花粉塊、5〜10粒未満の花粉で形成された花粉塊、10粒以上の花粉で形成された花粉塊の存在を確認し、それぞれの花粉塊が花粉全体に占める割合を測定することによって評価した。
【0080】
(評価結果)
結果を表2に示す。実施例6及び9において得られた花粉懸濁液の何れにおいても、花粉は良好に分散していた。特に、花粉と水溶性の粉末状担体とを含有する第1剤を含む、実施例6において得られた花粉懸濁液における花粉の分散状態が特に良好であった。したがって、本発明によれば、分散性及び分散安定性に優れた花粉懸濁液(分散体)が得られることは明らかである。
【0081】
【表2】

【0082】
[評価例3]実施例6〜10において得られた花粉懸濁液と比較例4において得られた花粉懸濁液との比較評価
上記実施例6〜10及び比較例4において得られた各種花粉懸濁液について、下記評価方法により評価した。
【0083】
(評価方法)
各種花粉懸濁液1mlをシャーレに採り、25℃で3時間(実施例7、8及び10の場合には4時間)培養した後、鏡検し、その時の花粉の発芽率及び花粉管長(花粉管の花粉径に対する大きさ(倍率))を評価した。
【0084】
(評価結果)
結果を表3に示す。実施例6〜10において得られた花粉懸濁液における花粉の発芽率及び花粉管長は何れも良好であった。したがって、本発明によれば、花粉の生理機能を損なうことなく、分散性及び分散安定性に優れた花粉懸濁液(分散体)が得られることは明らかである。
【0085】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも花粉を含有する第1剤と、少なくとも水溶性の糖と増粘剤と分散剤とを含有する第2剤からなり、第1剤と第2剤を使用時に混合して水系分散媒に分散させて溶液授粉を行うことを特徴とする二剤式溶液授粉用粉体組成物。
【請求項2】
前記花粉が、二剤式溶液授粉用粉体組成物の全組成中、純花粉換算で1〜30重量%含有される請求項1に記載の溶液授粉用粉体組成物。
【請求項3】
前記第1剤が、更に水溶性の粉末状担体を含有する請求項1又は2に記載の溶液授粉用粉体組成物
【請求項4】
前記水溶性の粉末状担体が、液状の疎水性物質を吸着してこれを粉末化する水溶性の物質であって、花粉の生理機能を損なわず、かつ高くとも30℃の水系分散媒に溶解するものである請求項3に記載の溶液授粉用粉体組成物。
【請求項5】
前記水溶性の粉末状担体が、水溶性デキストリン、α化加工デンプン、ラクトース、無水結晶グルコース、無水結晶マルトース、ソルビット、フラクトオリゴ糖(スクロースに果糖が1〜3個付加したもの)、イヌリン(スクロースに果糖が4個以上付加したもの)、及びシクロデキストリンのうち少なくとも一種である請求項3に記載の溶液授粉用粉体組成物。
【請求項6】
前記水溶性の糖が、単糖類、二糖類、及び多糖類のうち少なくとも一種である請求項1〜5の何れか一項に記載の溶液授粉用粉体組成物。
【請求項7】
前記単糖類が、グルコース、及びフルクトースのうち少なくとも一種である請求項6に記載の溶液授粉用粉体組成物。
【請求項8】
前記二糖類が、スクロース、ラクトース、マルトース、及びトレハロースのうち少なくとも一種である請求項6に記載の溶液授粉用粉体組成物。
【請求項9】
前記多糖類が、シクロデキストリンである請求項6に記載の溶液授粉用粉体組成物。
【請求項10】
前記増粘剤が、水溶性の物質であって、花粉の生理機能を損なわず、かつ高くとも30℃の水系分散媒に溶解して粘性を付与するものである請求項1〜9の何れか一項に記載の溶液授粉用粉体組成物。
【請求項11】
前記増粘剤が、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシメチルセルロース、キプロガム、グアガム、キサンタンガム、サイリウムシードガム、タマリンドシードガム、ペクチン、ヒアルロン酸ナトリウム及びα化加工デンプンのうち少なくとも一種である請求項1〜9の何れか一項に記載の溶液授粉用粉体組成物。
【請求項12】
前記分散剤が、水溶性の物質であって、花粉の生理機能を損なわず、かつ高くとも30℃の水系分散媒に分散又は溶解して分散体又は溶液の表面張力を低下させるものである請求項1〜11の何れか一項に記載の溶液授粉用粉体組成物。
【請求項13】
前記分散剤が、脂肪酸石鹸、スルホコハク酸アルキルエステル塩、高級アルコールを疎水基とするアルキル硫酸塩、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー、及びアルキルポリグルコシドのうち少なくとも一種である請求項1〜11の何れか一項に記載の溶液授粉用粉体組成物。
【請求項14】
前記水系分散媒が、水である請求項1〜13の何れか一項に記載の溶液授粉用粉体組成物。
【請求項15】
下記工程を含むことを特徴とする溶液授粉方法:
a)少なくとも花粉を含有する第1剤と、少なくとも水溶性の糖と増粘剤と分散剤とを含有する第2剤とを混合する工程;
b)工程a)において得られた粉体組成物を、水系分散媒に分散させる工程;並びに
c)工程b)において得られた分散体を用いて授粉を行う工程。
【請求項16】
前記工程a)において、第1剤が、更に水溶性の粉末状担体を含有する請求項15に記載の溶液授粉方法
【請求項17】
前記増粘剤が、水溶性の物質であって、花粉の生理機能を損なわず、かつ高くとも30℃の水系分散媒に溶解して粘性を付与するものであり、前記分散剤が、水溶性の物質であって、花粉の生理機能を損なわず、かつ高くとも30℃の水系分散媒に分散又は溶解して分散体又は溶液の表面張力を低下させるものであり、前記水溶性の粉末状担体が、液状の疎水性物質を吸着してこれを粉末化する水溶性の物質であって、花粉の生理機能を損なわず、かつ高くとも30℃の水系分散媒に溶解するものであり、前記水系分散媒が、水である請求項16に記載の溶液授粉方法。

【公開番号】特開2009−178083(P2009−178083A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19410(P2008−19410)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(592246381)株式会社ミズホケミカル (7)
【出願人】(390026491)小林製袋産業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】