説明

溶液製膜方法及び設備

【課題】助剤濾過方式において、プレコートを効率良く形成する。
【解決手段】原料ドープ41に濾過助剤を分散させて、第1濾過器47または第2濾過器48で濾過する。濾過器47,48内で濾材支持体60の上に濾過助剤を堆積させ、この濾材支持体60及び堆積層からなる濾材63を用いて原料ドープ41を効率良く濾過する。濾過圧力が高くなったところで、濾過器47,48を切り替えて、使用済みの濾過器に洗浄液を流して、洗浄する。洗浄後に、プレコート液61を循環させて、濾材支持体60上に濾過助剤を均一に堆積させて所定強度のプレコート62aを形成する。原料ドープ41と濾過助剤溶液56と希釈用溶媒70とをプレコート液調製タンク65に投入し、プレコート液61を調製する。原料ドープ41を希釈してプレコート液61を形成するため、適切な沈降速度を確保することができ、濾過助剤による厚みが均一な濾材が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドープを効率良く濾過する溶液製膜方法及び設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等の各種表示装置には、偏光板の保護フィルムや視野角拡大フィルムをはじめとする様々なポリマーフィルムが使用されている。このような光学用途のポリマーフィルムの製法としては、溶融製膜方法、溶液製膜方法などがある。溶液製膜方法では、ポリマーと溶媒とを含むドープを、走行する支持体上に流延して流延膜を形成した後、流延膜を支持体から剥ぎ取り、乾燥してフィルムとする方法であり、溶融製膜方法のような熱ダメージの問題がない。したがって、透明度の高さや光学特性が求められるポリマーフィルムの製造方法としては最適である。
【0003】
ところで、ドープの中には、ドープの溶媒に不溶な異物であって、元々ドープの原料に含まれていたものや、ドープを調製する際に混入したゴミや埃等の不純物が含まれている。ただし、不純物を含むドープを使用すると、支持体上に不純物が汚れとして析出し、支持体から流延膜を剥ぎ取ることが困難となる他、完成したフィルムでは不純物のところで光の散乱を生じる等の問題を引き起こす。このため、流延に供する前に、ドープ中の不純物をできる限り取り除く必要がある。
【0004】
そこで、通常、溶液製膜方法では、ドープ中の不純物を取り除くことを目的として、流延する前のドープを多孔質の濾材で濾過する。濾材としては、濾紙や金属フィルタ、濾布等が使用される。しかし、いずれの濾材も濾過開始から時間が経つほど通液孔が閉塞し、濾過時間が長引いたり、濾圧の上昇や濾過流量が減少して濾過効率が低下したりするという問題を抱える。このため、金属フィルタを使用する場合には、金属フィルタに対して濾過方向とは逆向きに洗浄液を供給し、これを循環させることにより、金属フィルタを洗浄し再生させる対策を講じている。しかしながら、これらの対策を講じても一時的なものであり、濾過効率を根本的に向上させるに至っていないのが現状である。
【0005】
また、濾紙や金属フィルタ、濾布等のような濾材を使用するだけでは、溶媒に対して難溶性を示す不純物を取り除くことが難しい。そこで、例えば、特許文献1では、濾材の他に濾過助剤を使用することにより、難溶性の不純物を取り除く助剤濾過方法が提案されている。濾過助剤は、例えば二酸化珪素(SiO)などの不活性な粒又は粉末である。この濾過助剤は金網フィルタ等の濾材支持体の上にランダムに堆積させて使用される。このような堆積層が形成された濾材にドープを通過させると、難溶性であるか否かに係わらず不純物を濾過助剤に吸着させて回収することができるので、清澄度の高い濾液が得られる。この他にも、濾過助剤を使用すれば、濾材の目詰まりを抑えることができるので生産性の向上が見込まれる。
【特許文献1】特開2004−107629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、溶液製膜では、生産速度を上げるためには、流延ドープによる流延膜が早期に自己支持性を有することが重要である。このためにはドープ濃度を上げることが望ましいが、高粘度ドープに対して上記の助剤濾過を行う場合には、圧力損失が大きくなる。この圧力損失を抑えるためには、粒子径が大きく空隙をある程度保持することができる濾過助剤を使用することが必要となる。
【0007】
助剤濾過方式では、所定の濾過精度を得るために、金網フィルタなどの濾材支持体上に一定量の濾過助剤を堆積させるプレコート操作が必要になる。このプレコート操作では、濾過と同じ液体を用いることが、液の入れ換え等を行う必要がなく、効率的である。しかしながら、溶液製膜におけるドープのように高粘度液体の場合には、粘度が高いために圧力損失が大きく、流量を上げることができないという問題がある。流量を上げることができない場合には、プレコート操作が長時間となり、結果として効率のよい濾過作業が行えない。これに対して、実際に用いる濾過液の代わりに、例えばプレコート液としてドープ形成用の溶媒のみを用いることも考えられるが、この場合には、プレコート液の粘度が小さくなり、濾過助剤の沈降性が増大するという新たな問題が発生する。沈降性が増大すると、フィルタハウジング内での濾過助剤に不均一な濃度分布が生じ、プレコートの均一性を確保することが困難となる。
【0008】
そこで、その中間を取り、ドープを希釈した希釈ドープ液を使用することが考えられるが、この液は乾燥しやすい性質を有しており、適切にプロセス操作を実施しなければ、表面にスキン層が直ぐに形成されてしまい、濾過助剤表面の微細孔が塞がれて、濾過を適切に実施することができなくなるという新たな問題が発生する。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、均一なプレコートを確実に形成して効率良くドープを濾過することができるようにした溶液製膜方法及び設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、濾材支持体に濾過助剤を堆積させたプレコートを形成してなる濾材を有する複数の濾過器を用いて、ポリマー及び溶媒を含むドープに前記濾過助剤を添加して濾過し、この濾過済みドープを、エンドレスで走行する支持体上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜が自己支持性を有した後に前記支持体から剥ぎ取り、乾燥させてフィルムとする溶液製膜方法において、前記濾過器の内、濾過能力が低下した濾過器への前記ドープ供給を停止し、前記濾過助剤をスラリーとして抜き取り後に洗浄する洗浄工程と、前記ドープを前記溶媒により希釈した希釈ドープに前記濾過助剤を分散させてプレコート液を形成し、前記洗浄工程を終了した前記濾過器に前記プレコート液を循環供給し、前記プレコートを形成するプレコート形成工程と、前記プレコートの形成完了後に前記濾過器からプレコート液を抜き取りつつ、この抜き取ったプレコート液分に応じて前記溶媒の飽和ガスを前記濾過器に補充するプレコート液抜き取り工程と、前記洗浄工程を行う前に、前記プレコート液抜き取り工程を終了した前記濾過器に前記ドープを送り、前記濾過器を切り替える濾過器切替工程とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明は、前記プレコート液の粘度を0.5〜200mPasとすることを特徴とする。また、本発明は、前記プレコート形成工程における濾過助剤の終末沈降速度を10−4〜1cm/secに制御して行うことを特徴とする。また、本発明は、前記プレコート形成工程における前記濾材支持体に対するプレコート液の流速を3.3〜80L/m2/minとすることを特徴とする。さらに、本発明は、前記プレコート液抜き取り工程におけるプレコート液の抜き取り流速をプレコート層の面に対して1×10−3m/secとすることを特徴とする。また、前記濾過助剤として平均粒径が20〜50μmの範囲内のSiOを用い、前記ポリマーをセルロースアシレートとし、前記プレコート液の濾過助剤濃度を0.25〜6.0重量%、セルロース濃度を0.5〜5.0重量%とすることを特徴とする。
【0012】
濾材支持体に濾過助剤を堆積させたプレコートを形成してなる濾材を有する複数の濾過器を用いて、ポリマー及び溶媒を含むドープに前記濾過助剤を添加して濾過し、この濾過済みドープを、エンドレスで走行する支持体上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜が自己支持性を有した後に前記支持体から剥ぎ取り、乾燥させてフィルムとする溶液製膜設備において、前記濾過器の内、濾過能力が低下した濾過器への前記ドープ供給を停止し、前記濾過助剤をスラリーとして抜き取り後に洗浄する洗浄部と、前記ドープを前記溶媒により希釈した希釈ドープに前記濾過助剤を分散させてプレコート液を形成し、前記洗浄工程を終了した前記濾過器に前記プレコート液を循環供給し、前記プレコートを形成するプレコート形成部と、前記プレコートの形成後に前記濾過器からプレコート液を抜き取りつつこの抜き取ったプレコート液分の前記溶媒の飽和ガスを補充するプレコート液抜き取り部と、前記洗浄部で前記濾過器を洗浄する際に、前記プレコート液の抜き取りを終了した前記濾過器に前記ドープを送り、前記濾過器を切り替える切替部とを有することを特徴とする。
【0013】
なお、前記プレコート形成部は、前記ドープを前記溶媒により希釈した希釈ドープに前記濾過助剤を分散させて前記プレコート液を形成するプレコート液調製タンクを備えることが好ましい。また、前記プレコート液抜き取り部は、前記プレコート液を貯留するプレコート液タンクと、前記濾過器の出口側に接続され前記プレコート液を前記プレコート液タンクに戻す戻し配管系と、前記プレコート液タンクの溶媒飽和ガスを前記濾過器の入り口側に供給するための溶媒飽和ガス連通管とを備え、前記プレコート液抜き取り部におけるプレコート液の抜き取り流速をプレコート層の面に対し1×10−3m/sec以下とすることを特徴とする。また、前記濾過助剤として平均粒径が20〜50μmの範囲内のSiOを用い、前記ポリマーをセルロースアシレートとし、前記プレコート液の濾過助剤濃度を0.25〜5重量%、セルロース濃度を0.5〜5重量%とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ドープを溶媒により希釈した希釈ドープに濾過助剤を分散させてプレコート液を形成することにより、適切な沈降速度を確保して濾過助剤による厚みが均一な濾過層を形成することができる。また、ドープを希釈した希釈ドープをプレコート液とすることにより、ドープと異なる液を用いることがなく、次の濾過工程でコンタミネーションが発生することがない。しかも、プレコート液抜き取り工程におけるプレコート液の抜き取り流速をプレコート層の面に対して1×10−3m/sec以下とすることにより、形成したプレコートの崩落が抑えられる。特に、濾過助剤として平均粒径が20〜50μmの範囲内のSiOを用い、ポリマーをセルロースアシレートとし、プレコート液の濾過助剤濃度を0.25〜5重量%、セルロース濃度を0.5〜5重量%とすることにより、プレコートの確実な形成と、崩落を抑えたプレコート液の抜き取りが可能になり、セルロースアシレートフィルムを溶液製膜する場合に、ドープの濾過を確実に行うことができる。
【0015】
また、プレコートの形成後に濾過器からプレコート液を自重により抜き取るので、乾燥空気や乾燥窒素にて加圧して押し出す方式に比べて、プレコートの表面にスキン層が形成されることがなく、スキン層の形成による濾過不能や濾過効率の低下が無くなる。また、抜き取ったプレコート液分の溶媒飽和ガスを濾過器に補充するから、プレコートの形成後にプレコート液を抜き取っても、プレコートが乾燥してスキン層が形成されることがなく、プレコートを確実に維持することができる。しかも、ドープを希釈したものに濾過助剤を入れたプレコート液を用いる場合であってもスキン層が形成されることがなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1に示す溶液製膜設備10は、原料ドープ調製ユニット11と、濾過ユニット12と、製膜ユニット13とを備える。
【0017】
原料ドープ調製ユニット11は、計量器14、溶媒タンク15、添加剤タンク16、溶解タンク17、及び貯蔵タンク18を備える。計量器14にはポリマー20が入れられており、このポリマー20は計量されて溶解タンク17に投入される。溶媒タンク15には溶媒21が貯留されており、開閉バルブ23を制御することにより溶解タンク17への投入量が調整される。また、添加剤タンク16には添加剤22が貯留されており、開閉バルブ24を制御することにより溶解タンク17への投入量が調整される。
【0018】
本発明に係るポリマー20は特に限定されず、溶液製膜方法に適用可能であれば良い。この中で、セルロースアシレートを使用すれば、透明度が高く、光学特性に優れたフィルムを得ることができるので、偏光板用の保護フィルムや光学補償フィルム等の光学用途として好適である。中でも、セルロースアセテートを使用し、特にアセチル化度の平均値が57.5%〜62.5%のセルローストリアセテートを使用すれば、光学特性に優れたフィルムを得ることができる。上記のアセチル化度とは、セルロース単位重量当りの結合酢酸量を意味し、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度の測定および計算に従って求めることができる。本実施形態では、粒状のセルローストリアセテートを使用する。なお、粒状のポリマーを使用する場合には、溶媒との相溶性の観点から、その90重量%以上が0.1〜4mmの粒径であることが好ましく、より好ましくは粒径が1〜4mmである。
【0019】
溶媒21は、ハロゲン化炭化水素、エステル類、ケトン類、エーテル類、アルコール類等が好適であるが特に限定されず、使用するポリマーとの溶解性等を考慮して適宜選択すれば良い。溶媒21は1種類の化合物であっても良いし、複数の化合物を混合した混合溶媒でも良い。具体的には、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン等)、エステル類(例えば、酢酸メチル、メチルホルメート、エチルアセテート、アミルアセテート、ブチルアセテート等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、エーテル類(例えば、ジオキサン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル等)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール等)等が挙げられる。
【0020】
添加剤22は、所望とするフィルム19の特性に応じて適宜選択すれば良い。例えば、可塑剤や、紫外線吸収剤、剥離促進剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。この中で、可塑剤としては、リン酸エステル系(例えば、トリフェニルホスフェート(以下、TPPと称する)、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート(以下、BDPと称する)、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等)、フタル酸エステル系(例えば、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート等)、グリコール酸エステル系(例えば、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等)等が挙げられる。この中で、セルロースアシレートをフィルムとするために特に好ましいものとしてはTPPが挙げられる。なお、可塑剤は、上記以外にも公知であるものを用いることができ、特に限定されない。また、紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物が好ましく、中でも、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物が特に好ましい。
【0021】
溶解タンク17は、モータ26によって回転する攪拌翼27を備えている。攪拌翼27が回転することにより、溶解タンク15内のポリマー20、溶媒21、添加剤22が攪拌される。この攪拌により、ポリマー20などの溶質が溶媒に完全には溶けていない粗溶解液30が得られる。
【0022】
溶解タンク17内の粗溶解液30は、貯蔵タンク18に一旦貯蔵される。これにより溶解タンク17は空になり、粗溶解液30を繰り返し形成する連続バッチ式が可能になる。貯蔵タンク18も、モータ31で回転する攪拌翼32を備えている。攪拌翼32を回転することにより、粗溶解液30が攪拌され均一にされる。
【0023】
貯蔵タンク18内の粗溶解液30はポンプ35及び配管36を介して、加熱器40に送られる。加熱器40は、多管式熱交換器や静止型混合器などのインラインミキサが用いられる。この加熱器40により粗溶解液30が加熱される。加熱温度は50〜120℃が好ましく、加熱時間は5〜30分が好ましい。この加熱により、溶液製膜に必要なポリマー20などの溶質は変性することなく完全に溶解し、原料ドープ41が調製される。このようにして調製される原料ドープ41は、セルロースエステルの固形分濃度として14〜24重量%にされる。なお、必要に応じてフラッシュ濃縮法等により、原料ドープ41を濃縮してもよい。
【0024】
加熱器40により加熱された原料ドープ41は、冷却器42に送られる。冷却器42によって原料ドープ41を構成する主要溶媒の沸点以下にまで冷却される。冷却された原料ドープ41はポンプ43により濾過ユニット12のボディフィード用タンク45に送られる。
【0025】
濾過ユニット12は、ボディフィード用タンク45、濾過助剤タンク46、第1濾過器47、第2濾過器48、プレコート液循環部49、洗浄液循環部50、及び流延ドープ貯留タンク51を備え、濾過助剤44を利用して原料ドープ41を濾過し、流延ドープ52を生成する。また、各タンク45,46,51や濾過器47,48を繋ぐ配管には、適所にバルブV1〜V7が取り付けられており、各バルブV1〜V7の開閉操作により配管の切り替えが行われ、濾過器47,48の切替、使用済み濾過器47,48の洗浄処理、プレコート処理などが実施される。これにより、原料ドープ41が連続的に濾過されて流延ドープ52が得られる。なお、濾過ユニット12内に設置されるバルブV1〜V7は本実施形態に限定されず、必要に応じて増減して良い。また、必要に応じて適宜箇所に図示しないポンプが配置されている。
【0026】
濾過助剤タンク46には、濾過助剤溶液56が貯留されている。濾過助剤溶液56は、ポンプ57及びバルブ58を介して、ボディフィード用タンク45に送られる。濾過助剤溶液56は、予め所望とする濾過助剤44を溶媒に分散させたものであり、原料ドープ41に含まれている不純物の捕捉効率を向上させる目的で使用される。濾過助剤44は特に限定されるものではないが、例えば、粒状の珪藻土(SiO)或いはセルロース系化合物からの派生物が好適に用いられる。また、上記の溶媒は、ドープとの相溶性の観点から原料ドープ41に含まれている溶媒と同一のものを少なくとも1種類以上含んでいることが好ましい。原料ドープ41に対する濾過助剤44の添加量は0.01〜10重量%であり、好ましくは0.05〜5重量%であり、より好ましくは0.1〜2重量%である。なお、濾過助剤44の種類、組成、平均粒径、嵩密度に関しては、特開2004−107629号公報に詳しく記載されており、この記載も本発明に適用することができる。
【0027】
ボディフィード用タンク45には、原料ドープ41と濾過助剤溶液56が入れられる。ボディフィード用タンク45はモータ53で回転する攪拌翼54を備えている。攪拌翼54を回転することにより、原料ドープ41に一定割合の濾過助剤溶液56を均一に分散させることができる。
【0028】
第1濾過器47を使用して助剤濾過を行う場合に、バルブV1〜V6の開閉操作により、ボディフィード用タンク45を第1濾過器47に接続するように、ラインが切り替えられた後、濾過助剤44が混入された原料ドープ41が第1濾過器47に送られる。第1濾過器47には、図2に示すように、金網フィルタからなる濾材支持体60上に濾過助剤44がランダムに堆積して堆積層62が形成されており、これら濾材支持体60及び堆積層62から濾材63が構成されている。
【0029】
なお、第1濾過器47の洗浄処理後は、単に濾材支持体60のみがあるだけであり、この状態では適正な助剤濾過が行えないため、濾材支持体60上に一定厚みの堆積層62を形成する。この初期の堆積層62がプレコート62aであり、このプレコート62aは、プレコート液循環部49により一定時間プレコート液61(図3参照)を第1濾過器47に循環させることで形成される。
【0030】
図2に示すように、第1濾過器47では原料ドープ41のみが濾材63を通過し、濾材63の上には濾過助剤44がランダムに堆積し、堆積層62が構成される。そして、原料ドープ41は、堆積層62及び濾材支持体60からなる濾材63を通過する際に、不純物64が濾過助剤44に吸着回収される他、堆積層62に形成された多数の空隙により比較的サイズの大きい不純物が捕捉される。したがって、濾材63を原料ドープ41が通過することにより、不純物64や未溶解物などが濾過されて清澄度が高い濾液が得られる。この濾液は流延ドープ52として製膜ユニット13に供給され、不純物の混入が無い高品質なフィルム19が製造される。
【0031】
第2濾過器48も第1濾過器47と同様に構成されている。そして、一方の濾過器47で濾過が、他方の濾過器48で洗浄及びこれに続きプレコート処理が行われる。そして、洗浄・プレコート処理、濾過処理が交互に行われることにより、連続濾過が可能になる。なお、2台の濾過器47,48を用いているが、濾過器47,48の設置台数はこれに限られず、3台以上であってもよい。そして、一方の濾過器例えば第1濾過器47で濾過を行い、濾過圧力が高くなった時点で、他方の第2濾過器48に切り替えて、連続濾過を行う。そして、濾過圧力が高くなって切り替えられた第1濾過器47に対しては、洗浄液循環部50により、濾過助剤44及び濾過物をスラリー(図4参照)として取りだして、洗浄を行う。洗浄後に、プレコート液循環部49により第1濾過器47に対してプレコート液61を循環させ、図2に示すように、プレコート62aを形成する。プレコート62aの形成後は、次の切り替えのための待機状態となる。なお、濾過器47,48は並列に複数台を配列する他に、直列に配列してもよく、この場合には濾過による不純物の回収効率を上げることができる。
【0032】
次に、各濾過器47,48のプレコート処理及び洗浄処理について説明する。図3に示すように、プレコート液循環部49は、プレコート液調製タンク65と、プレコート液貯留タンク66と、バルブ65a,67と、ポンプ68と、濁度計69a,69bと、コントローラ72とを備えている。プレコート液調製タンク65には、ボディフィード用タンク45から濾過助剤44入りの原料ドープ41がポンプ45aを介して所定量送られる他に、希釈用溶媒70が溶媒タンク71からバルブ71aを介して所定量送られて、濾過助剤44入りの原料ドープ41が一定濃度に希釈されたプレコート液61が形成される。プレコート液61は、モータ65bにより回転駆動される攪拌翼65cによって攪拌され、均一にされる。
【0033】
プレコート液61は、セルロースエステルの固形分濃度が0.25〜7重量%であり、また、プレコート液61に対する濾過助剤44の添加量は0.01〜10重量%である。なお、好ましくはセルロースエステルの固形分濃度が0.5〜5重量%であり、濾過助剤44の添加量が0.25〜5重量%である。より好ましくはセルロースエステルの固形分濃度が2〜4重量%、濾過助剤44の添加量が0.7〜2重量%である。なお、プレコート液61に対するセルロースエステルの固形分濃度が0.25重量%未満の場合や、濾過助剤44の添加量が0.01重量%未満の場合には、粘度が低くなり、濾過助剤の沈降性が増大し、プレコートの均一性を確保することができなくなる。また、セルロースエステルの固形分濃度が7重量%を超える場合や、濾過助剤の添加料が10重量%を超える場合には、粘度が高くなり、圧力損失が高くなり、流量を上げることができなくなる。濾過助剤44は、平均粒径が10〜70μmのSiO が用いられ、より好ましくは20〜50μmの平均粒径が良い。濾材支持体は、SUS製の350メッシュの金網である。
【0034】
図3に示すように、プレコート処理では、まず、プレコート液貯留タンク66からプレコート液61が第1濾過器47に送られて、濾材支持体60を通過した後にプレコート液貯留タンク66に戻るように循環される。この濾材支持体60を通過する際に、図2に示すように、プレコート液61中の濾過助剤44が徐々に濾材支持体60の上に堆積し、この堆積層62が所定厚みになったときに、プレコート62aの形成終了と判定してプレコート処理を終了する。なお、図3では、プレコート液調製タンク65、プレコート液貯留タンク66を設けているが、プレコート液貯留タンク66は省略して、プレコート液調製タンク65で調製と貯留とを行い、プレコート液61を循環させてもよい。
【0035】
プレコート形成工程における濾材支持体60に対するプレコート液の流速は、3.3〜80L/m/minであり、好ましくは、20〜60L/m/minである。流速が80L/m/minを超えると、濾材支持体60上に堆積層62を形成することができなくなる。また、流速が3.3L/m/min未満であると、強固なプレコート62aを形成することができない。
【0036】
プレコート形成工程における濾過助材の終末沈降速度は、10−4〜1cm/secに制御して行う。この終末沈降速度は好ましくは、10−3〜10−2cm/secである。この範囲内の終末沈降速度を得るためには、液粘度、助剤粒径を変えることにより行う。終末沈降速度が10−4cm/sec未満の場合には圧力損失が大きく流量が流せなくなり、1cm/secを超える場合には均一なプレコートを形成することができない。
【0037】
プレコート液における濾過助材濃度は0.01〜10.0重量%の範囲であり、好ましくは0.1〜2.0重量%である。なお、濾過助材濃度が6.0重量%を超えると、干渉沈降が生じて均一なプレコートを形成することができない。また、濾過助材濃度が0.1重量%未満であると、プレコートの形成に多大な時間を要し、効率が低下する。
【0038】
濾過器47を開放してプレコート62aの形成厚みを確認することは手間を要する他に、空気と接触してプレコート62aの表面にカワバリが発生するおそれがあり、好ましくない。そこで、プレコート液貯留タンク66の出口側と濾過器47の入り口側との接続配管74に第1濁度計69aを設け、プレコート液貯留タンク66と濾過器47との間の配管73に第2濁度計69bを設けて、これらの濁度計69a,69bの出力に基づきコントローラ72により、プレコート62aの形成完了か否かを判定する。すなわち、プレコート62aが形成されると、濾過性能が安定し、プレコート液中の濾過助剤44はその殆どが濾材63で捕捉されるため、濾過器47の出口からのプレコート液61中の濾過助剤44は激減する。この濾過助剤44の減少を濁度計69a,69bを介してコントローラ72により監視し、濁度計69a,69bの出力が予め設定した一定値以下となった時に、プレコート62aの形成完了と判定する。このプレコート形成完了の判定後は、次のプレコート液抜き取り工程に移行する。なお、第1及び第2の濁度計69a,69bを設けているが、第1濁度計69aのみによりプレコート62aの形成完了を検出してもよい。しかし、第2濁度計69bも用いることにより、濾過器47の濾液の入り口側及び出口側の濁度に基づき、プレコート62aの形成完了を確実に検出することができる。
【0039】
濁度計69a,69bはプレコート液61の濾過助剤44の量を検知することができるものであればよく、その検出方法は限定されない。例えば、吸光光度方式やレーザー散乱光方式で濁度を検出するものが用いられる。
【0040】
プレコート形成工程でのプレコート液中の濾過助剤総量は、予めプレコートとこのプレコートの濾過助剤量との関係に基づき決定されている。すなわち、一定の強度を有するプレコートとそのときの濾過助剤量とを実験などにより求めておき、一定量の濾過助剤量を用いてプレコートが形成されたときに、一定強度が得られているものとする。なお、安全を見込んで、循環する濾過助剤量は予め実験などにより決定したものに、例えば数%〜十数%多めに規定しておくことが好ましい。したがって、濁度計出力が一定値以下となり、清澄液が得られるようになると、濾過助剤の殆どがプレコート形成に使用されたと判定して、所定の強度を有するプレコートの形成完了を知ることができる。
【0041】
図6は、プレコート液中の濾過助剤総量と、このとき形成されるプレコートの厚み及び強度との関係を示すグラフであり、濾過助剤総量が増えることにより、プレコートの厚みが増えることになり、所定の強度が得られるようになる。
【0042】
プレコート62aの形成完了の判定後に、濾過器47内のプレコート液61が自重により抜き取られる。このように自重による抜液によるため、乾燥エアや乾燥窒素を用いて加圧し押し出す方式に比べて抜液速度を低くした緩和な条件となり、堆積層62の表面にスキン層が形成されることがなくなる。また、この自重による抜き取りの際に、プレコート液貯留タンク66と濾過器47とを連通する連通管75のバルブV7を開として連通させることで、自重での抜液時に溶媒飽和ガス76をプレコート液貯留タンク66から前記濾過器47内に補充することができる。この溶媒飽和ガス76を用いて濾過器47内をガス置換することにより、溶媒乾燥による堆積層62のカワバリや、このカワバリが広範囲に広がってなるスキン層が形成されることがなく、次の濾過処理を安定的に行うことができる。
【0043】
次に洗浄処理について説明する。濾過器47,48のいずれかを使用していて、堆積層62が一定以上の厚みとなり濾過圧力が上昇すると、濾過器47,48の切り替えが行われる。例えば、第1濾過器47で濾過を行い、第1濾過器47の濾過圧力が上昇して切り替え時期となったときには、各バルブV1〜V6等を切り替えて、第1濾過器47から第2濾過器48へ原料ドープ41が流れるように流路が切り替えられ、連続的な濾過が行われる。第2濾過器48に切り替えた後は、第1濾過器47の抜液、洗浄が行われた後に、上述したプレコート処理が行われる。なお、この切り替えは、互いの流量を徐々に増減させて、次第に切り替えることが好ましい。
【0044】
図4に示すように、洗浄液循環部50は、洗浄液タンク80と、洗浄タンク81と、回収タンク82と、供給配管83,回収配管84と、ポンプ78a,79a,85,92aと、加熱器86と、分離器87と、及び乾燥装置88(図5参照)とを備えている。供給配管83は洗浄タンク81の溶媒出口と第1濾過器47のドープ出口とに接続されており、この供給配管83には、ポンプ85及び加熱器86が設けられている。また、回収配管84は、洗浄タンク81の溶媒入り口と第1濾過器47のドープ入り口とに接続されている。洗浄液タンク80には洗浄液89が貯留されており、バルブ80aの開閉制御により、所定量の洗浄液89が洗浄タンク81内に送られる。洗浄液89は、濾過器47,48の濾材63を洗浄することができるものであれば特にその溶媒種類は限定されないが、溶媒がドープ溶媒を構成する溶媒の内、少なくとも1種以上の溶媒であることが好ましく、ドープ溶媒を構成する全溶媒であることが更に好ましい。
【0045】
加熱器86は多管式熱交換器が用いられ、この加熱器86により洗浄液89が加熱される。加熱温度は、洗浄液89が沸騰しない条件下で洗浄液89の常圧での沸点よりも20℃低い値以上の温度とする。このように洗浄液89を加熱して濾過器47に供給することによって、濾過器47の洗浄効果を向上させることができる。
【0046】
供給配管83を介して濾過器47に送られた洗浄液89は、濾過処理時の原料ドープ41とは逆方向に濾材63を通過し、回収配管84を介して洗浄タンク81に戻される。これにより、濾過器47に洗浄液89が循環して供給され、濾材支持体60上の堆積層62が濾材支持体60から剥離される。剥離後の堆積層(ケーク)62は洗浄液89に分散されてスラリー90となり、濾過器47から排出されて洗浄タンク81に戻される。スラリー90の濁度は濁度計84aを用いて測定されており、このスラリー90の濁度が目標値になったときに、洗浄タンク81の一部(又は全部)が排出配管78及びポンプ78aを介して回収タンク82に送られる。また、回収タンク82へのスラリー90の排出が終了すると、新品の洗浄液89が洗浄液タンク80から洗浄タンク81に補充される。そして、予め決定されている洗浄時間に達しており、前記スラリー90の濁度が一定値以下になったときに、洗浄液89の循環を停止する。この停止の後に洗浄液89が第1濾過器47から抜き取られる。この抜き取りは、第1濾過器47内に洗浄液の溶媒飽和ガス76や窒素ガス等が送られることにより確実且つ迅速に行われる。
【0047】
回収タンク82に送られたスラリー90は、配管91を介して分離器87に送られ、この分離器87により、残渣90a溶液90bとに分離される。また、回収タンク82と洗浄タンク81との間の循環配管79には、ポンプ79a、粘度計79bが設けられている。
【0048】
粘度計79bは、回収したスラリー90の粘度を常時測定する。そして、粘度計79bによる測定粘度に基づきスラリー90の粘度が常に一定範囲となるように、洗浄タンク81に洗浄液89が投入される。これにより、例えば、スラリー90の粘度を200mPa・s以下としてから、このスラリー90を分離器87に送ることができる。ここでスラリー90の粘度を200mPa・s以下とすると、流量を確保しながら分離回収を行うことができる。ただし、粘度が200mPa・sを超えるようなスラリー90は粘度が高いので分離器87による作業性が低下する。
【0049】
分離器87では、SUS製の350メッシュの金網により円筒状に形成したストレーナ95を用いて、スラリー90を残渣90aと溶液90bとに分離する。この分離器87でも残渣90aが濾過助剤として作用し、残渣90aと溶液90bとの分離を確実に行うことができる。なお、分離直後は、残渣90aによるプレコートが形成されていない状態であり、分離を確実に行うことができない。このため、所定厚みのプレコートが形成されるように、分離開始時には、分離器87と回収タンク82との間で循環配管92,93を用いて、スラリー90を循環させる。循環配管92,93は、ポンプ92a,バルブ92b,93bを有する。そして、スラリー90の循環により、図2と同様にしてプレコートが形成されると、分離効果が得られるので、バルブ93bを切り替えて、循環処理から分離処理にして、分離後の溶液90bを溶液回収タンク94に送る。回収した溶液90bは、ドープ調製用や洗浄用に再利用することができる。
【0050】
分離器87には圧力計96が設けられており、分離器87内の濾過圧力を検出している。この濾過圧力値が所定値になった時点で、分離用の濾材厚みが使用限界に達したと判断し、分離処理を終了する。この場合には、分離器ケース87aからストレーナ95を取りだして、図5に示すような乾燥装置88で残渣90aを乾燥させる。
【0051】
乾燥装置88は、乾燥室120、溶媒ガス回収装置121、乾燥風循環装置122を備えている。乾燥室120内には、ストレーナ95が並べて配置される。乾燥室120内には乾燥風循環装置122により、乾燥風123が送られる。この乾燥風によって、残渣90aから溶液90bが揮発される他に、不純物64が燃焼する。なお、乾燥方法は、乾燥風123の循環の他に、バーナーやヒータによる直接加熱方式で行ってもよい。
【0052】
乾燥に供された乾燥風123は、溶媒ガスを含んだ状態である。このため、溶媒ガス回収装置121により乾燥風123は一旦回収されて、ここで溶媒21が除去される。この後、溶媒21が取り除かれた乾燥風123は、乾燥風循環装置122内の加熱部で所定の温度に加熱された後、再び乾燥風123として乾燥室120内に供給される。乾燥後の残渣90aは濾過助剤として再利用することができる。なお、再利用に際しては、そのまま用いても、新品の濾過助剤44と適宜比率で混合して用いてもよい。
【0053】
回収タンク82から分離器87へのスラリー90の送液はポンプ79aにより行う他に、図示しない加圧装置によるNガスを利用した圧送方式や自重を利用した方式を用いてもよい。また、スラリー90のスムーズな流れを確保する上で、スラリー90の濃度は0.15重量%以上25重量%以下とすることが好ましい。スラリー90の濃度とは、スラリー90に含まれている残渣90aの割合である。この濃度が25重量%を超えるようなスラリー90の場合には、スラリー90を送液することが難しく、特に自重を利用しての送液が著しく困難となる。
【0054】
洗浄処理後の濾過器47に対しては、上述したように、プレコート液循環部49によりプレコート操作を行い、図2に示すように濾材支持体60上にプレコート62aを形成する。なお、第1濾過器47についてのみ洗浄処理、プレコート処理を説明したが、第2濾過器48についても同様の洗浄処理及びプレコート処理が行われる。
【0055】
また、洗浄液循環部50では、洗浄タンク81、回収タンク82、及び分離器87を用いているが、回収タンク82は省略して、回収タンク82の代わりに分離器87を設けて、スラリー90の回収及び分離を行ってもよい。
【0056】
図7に示すように、製膜ユニット13は、流延室100と、渡り部101と、テンタ102と、乾燥室103、巻取機104とを備え、流延ドープ52を用いてフィルム106が作られる。流延室100には、流延ドープ52の吐出口が形成された流延ダイ107と、支持体として作用する流延ドラム108と、剥取ローラ109とが配置されている。
【0057】
不純物が取り除かれた流延ドープ52は、流延ダイ107を介してエンドレスに回転している流延ドラム108の上に流延され、流延膜111が形成される。流延ドラム108の表面温度は−10℃以上10℃以下の範囲内で略一定とすることが好ましい。このような流延ドラム108にドープを流延すれば、ドープは速やかに冷却されるため短時間の内にゲル状の流延膜111が形成される。流延ドラム108の回転と共に流延膜111のゲル化が進められ、自己支持性を有する流延膜111は剥取ローラ109で支持されながら流延ドラム108から湿潤フィルム113として剥ぎ取られる。
【0058】
渡り部101では、多数のローラで湿潤フィルム113を支持し、搬送する間に乾燥が進められる。テンタ102では、湿潤フィルム113の両側端部がピン等の保持手段で保持された後、搬送する間に乾燥が進められフィルム106とされる。この後、フィルム106は、巻取ローラ105によりロール状に巻き取られる。
【0059】
流延ダイ107の上流側には濾過器114が設置されており、流延に供する前のドープが濾過される。これにより流延ドープ中の不純物がよりいっそう取り除かれる。本実施形態では金属製のフィルタを備える装置を使用するが特に、濾過方式は特に限定されず、濾紙も好適に用いられる。ここで、フィルタが有する孔は微細な不純物でさえも取り除く上で、その平均孔径が100μm以下であることが好ましい。平均孔径が小さすぎると濾過に要する時間が長くなるので濾過効率が低下する。その一方で、平均孔径が大きすぎると流延ドープ52中の微細な不純物を捕捉するのが難しい。フィルタは、生産性などを考慮しながら適宜選択すれば良い。
【0060】
流延ダイ、減圧室、支持体等の構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0061】
本発明により得られるフィルムは、透明度やレタデーション値が高く、湿度依存性が低い。そのため、特に、偏光板の位相差フィルムとして好適に用いることができるが、偏光板の表面を保護するための保護フィルムとしても利用することができる。本発明のセルロースエステルフィルムの具体的用途に関しては、特開2005−104148号公報において、例えば、[1088]段落から[1265]段落には、液晶表示装置として、TN型、STN型、VA型、OCB型、反射型、その他の例が詳しく記載されており、この記載も本発明に適用させることができる。
【0062】
以下、本発明について行なった実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0063】
下記の各種ドープ原料を混合して原料ドープ41を調製した。本実施例では、溶媒21としては、ジクロロメタンと、メタノールと、1−ブタノールとを混合した混合溶媒を用いた。
【0064】
〔ドープ原料〕
セルローストリアセテート 100重量部ジクロロメタン 320重量部メタノール 83重量部1−ブタノール 3重量部可塑剤A 7.6重量部可塑剤B 3.8重量部UV剤a 0.7重量部UV剤b 0.3重量部クエン酸エステル混合物 0.006重量部
微粒子 0.05重量部
【0065】
上記のセルローストリアセテートは、置換度2.84、粘度平均重合度306、含水率0.2重量%、ジクロロメタン溶液中の6重量%の粘度が315mPa・sであり、平均粒子径1.5mm、標準偏差0.5mmの粉体であり、可塑剤Aは、トリフェニルフォスフェートであり、可塑剤Bは、ジフェニルフォスフェートであり、UV剤aは、2(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾールであり、UV剤bは、2(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾールであり、クエン酸エステル化合物はクエン酸とモノエチルエステルとジエチルエステルとトリエチルエステルとの混合物であり、微粒子は平均粒径が15nm、モース硬度が約7の二酸化ケイ素である。また、原料ドープ41の調製時には、レタデーション制御剤(N−N−ジ−m−トルイル−N−P−メトキシフェニル−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミン)をフィルムとしたときの全重量に対して4.0重量%となるように添加した。
【0066】
次に、図1に示す溶液製膜設備10のうち、濾過ユニット12において濾過器47を使用して原料ドープ41を濾過した。この時、濾過助剤としては、平均粒径が35μmの珪藻土を使用し、予め原料ドープ41を濾過する前に、プレコート形成処理を行い、プレコートを形成した後に、プレコート液を抜き取った。
【0067】
プレコート液は、濾過助剤として平均粒径が35μmの珪藻土、セルローストリアセテートが20重量%のドープ液、及び希釈用の溶媒をプレコート液調製タンクに入れて、前記プレコート液の濾過助剤濃度が3.0重量%、セルロース濃度が3.5重量%となるように調製したもので、調製後にプレコート液貯留タンクに貯留した。このプレコート液を20L(リットル)/分/mの流量で、濾過器47とプレコート液貯留タンク66との間で循環させ、第1濾過器内の濾材支持体上に、プレコートを形成した。濾材支持体60としては、SUS製の350メッシュの金網を用いた。
【0068】
そして、第1及び第2濁度計69a,69bとして、竹中電子工業(株)製の光電センサ(F71RAN)を用いて、濁度計出力から濾過助剤濃度を検出した。第2濁度計69bは、濾過器47の出口側配管73に配置されているため、プレコート液の循環を開始してから3分後に0重量%となった。また、濾過器47の入り口側配管74に配置した第1濁度計69aは、プレコート液の循環を開始したときの初期値2.0重量%から徐々に減少し、30分後に0重量%となった。この時点で、プレコートの形成完了と判定した。なお、循環するプレコート液の濾過助剤総量は所定の強度が得られるときの濾過助剤総量から求められており、本実施形態では濾過助剤量は37.5kg/m(濾過面積1m当たりの濾過助剤量)である。この濾過助剤量は、濾材支持体の濾過総面積に対して平均で3mmの厚みを形成する量となる。
【0069】
また、プレコート形成時の濾過助材の終末沈降速度は10−3cm/secであった。この濾過助材の終末沈降速度の測定は、沈降移動距離測定及びストークスの式による計算により行った。プレコート62aの形成に必要な時間は1時間であった。
【0070】
プレコート62aの形成完了後は、第1濾過器47から、プレコート液61を自重により抜き取る。このときに、連通管75のバルブV7が開けられてプレコート液貯留タンク66と第1濾過器47とが連通され、自重によるプレコート液61の抜き取りに連動してプレコート液61を抜き取った分だけ溶媒飽和ガス76が第1濾過器47内に補充される。これにより、従来のように、形成したプレコート62aを乾燥空気や乾燥窒素で圧力をかけて抜液するものと異なり、プレコート62aの表面にスキン層が形成されることがない。また、連通管75のバルブV7の開度を調節することにより、プレコート液61の抜き取り流速をプレコート層の面に対して1×10−3m/s以下とすることができる。このプレコート液61の抜き取り速度が1×10−3m/s以下とすることで、崩落の無いプレコート62aが得られた。この時点で、濾過器47を開放して、中を確認したところ、均一な所定厚みのプレコート62aが得られていることを確認できた。同じ条件で、再度プレコート形成処理を行ったところ、同じ結果が得られた。
【0071】
[比較例1]
プレコート液の流速を3.0L/m/minとした以外は実施例1と同じ条件とした。ドープ液で濾過を開始した後、初期のケーク脱落があり、清澄な濾過液を得るのに実施例1の場合に比べて3倍の時間がかかった。
【0072】
[比較例2]
プレコート液の流速を80L/m/minとした以外は実施例1と同じ条件とした。助剤の脱落が激しく、濾過助材が濾材支持体上に堆積されず、プレコートを形成することができなかった。
【0073】
[比較例3]
原料ドープに濾過助材を加えて、セルロース濃度を5.0重量%としたプレコート液を用いてプレコート形成処理を行った。高粘度のため圧力損失が高く、プレコート液の流量を1L/m/minとしてプレコート液を循環させた。プレコート62aの形成に24時間を要した。上記以外の条件は実施例1と同じにした。
【0074】
[比較例4]
濾過助剤として平均粒径が90μmの珪藻土を用い、プレコート液の粘度を0.4mPas、終末沈降速度を1.1cm/secとし、それ以外の条件は実施例1と同じにしてプレコート形成処理を行ったところ、均一なプレコートを形成することができなかった。
【0075】
[比較例5]
プレコート液の粘度を210mPasとし、終末沈降速度を2×10−4cm/secとしてプレコート形成処理を行ったところ、圧力損失により流量を上げることができず、3.0L/m/minの流量となり、プレコート形成時間が8時間となった。
【0076】
[比較例6]
プレコート62aの形成完了までは実施例1と同様に構成した。プレコート62aの完了後に、窒素ガスを第1濾過器47に送り、抜液した。この抜液後にプレコート62aの表面にカワバリが発生し、圧力損失が大きくなり、濾過不能となった。
【0077】
[比較例7]
実施例1における自重抜液速度が2×10−3m/sとなるように、連通配管のバルブの開き度合を制御した以外は実施例1と同じにした。自重抜液速度が早いために、折角形成したプレコートが流れてしまい、結果としてプレコートを形成することができなかった。
【0078】
以上の結果により、プレコート液の粘度を0.5〜200mPasとし、プレコート液の流速を3.3〜80L/m/minとし、濾過助材の終末沈降速度を10−4〜1cm/secとすることにより、崩落の無いプレコートを効率良く形成することができることが判る。
【0079】
また、プレコート液の抜液時の速度をプレコート層の面に対して1×10−3m/s以下とすることにより、プレコートを形成維持することができ、また、抜液に合わせて溶剤飽和ガスを濾過器内に補充することにより、プレコートの表面にカワバリが発生することを阻止し、濾過能力に優れたプレコートを形成することができることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明を実施した溶液製膜設備の一例を示す概略図である。
【図2】濾過器内の濾材とプレコートとを拡大して示す断面図である。
【図3】プレコート液循環部を示す概略図である。
【図4】洗浄液循環部を示す概略図である。
【図5】乾燥装置を示す概略図である。
【図6】循環するプレコート液中の濾過助剤総量とこのときのプレコートの強度との関係の一例を示す線図である。
【図7】製膜ユニットを示す概略図である。
【符号の説明】
【0081】
10 溶液製膜設備
11 原料ドープ調製ユニット
12 濾過ユニット
13 製膜ユニット
14 計量器
19 フィルム
30 粗溶解液
41 原料ドープ
44 濾過助剤
45 ボディフィード用タンク
46 濾過助剤タンク
47 第1濾過器
48 第2濾過器
49 プレコート液循環部
50 洗浄液循環部
51 流延ドープ貯留タンク
52 流延ドープ
56 濾過助剤溶液
60 濾材支持体
61 プレコート液
62 堆積層
62a プレコート
63 濾材
64 不純物
65 プレコート液調製タンク
66 プレコート液貯留タンク
69 濁度計
70 希釈用溶媒
71 溶媒タンク
72 コントローラ
75 連通管
76 溶媒飽和ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾材支持体に濾過助剤を堆積させたプレコートを形成してなる濾材を有する複数の濾過器を用いて、ポリマー及び溶媒を含むドープに前記濾過助剤を添加して濾過し、この濾過済みドープを、エンドレスで走行する支持体上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜が自己支持性を有した後に前記支持体から剥ぎ取り、乾燥させてフィルムとする溶液製膜方法において、
前記濾過器の内、濾過能力が低下した濾過器への前記ドープ供給を停止し、前記濾過助剤をスラリーとして抜き取り後に洗浄する洗浄工程と、
前記ドープを前記溶媒により希釈した希釈ドープに前記濾過助剤を分散させてプレコート液を形成し、前記洗浄工程を終了した前記濾過器に前記プレコート液を循環供給し、前記プレコートを形成するプレコート形成工程と、
前記プレコートの形成完了後に前記濾過器からプレコート液を抜き取りつつ、この抜き取ったプレコート液分に応じて前記溶媒の飽和ガスを前記濾過器に補充するプレコート液抜き取り工程と、
前記洗浄工程を行う前に、前記プレコート液抜き取り工程を終了した前記濾過器に前記ドープを送り、前記濾過器を切り替える濾過器切替工程とを有することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
前記プレコート液の粘度を0.5〜200mPasとすることを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
前記プレコート形成工程における濾過助剤の終末沈降速度を10−4〜1cm/secに制御して行うことを特徴とする請求項1または2記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
前記プレコート形成工程における前記濾材支持体に対するプレコート液の流速を3.3〜80L/m/minとすることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項5】
前記プレコート液抜き取り工程におけるプレコート液の抜き取りプレコート層の面に対して1×10−3m/secとすることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項6】
前記濾過助剤として平均粒径が20〜50μmの範囲内のSiOを用い、前記ポリマーをセルロースアシレートとし、前記プレコート液の濾過助剤濃度を0.25〜5.0重量%、セルロース濃度を0.5〜5.0重量%とすることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項7】
濾材支持体に濾過助剤を堆積させたプレコートを形成してなる濾材を有する複数の濾過器を用いて、ポリマー及び溶媒を含むドープに前記濾過助剤を添加して濾過し、この濾過済みドープを、エンドレスで走行する支持体上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜が自己支持性を有した後に前記支持体から剥ぎ取り、乾燥させてフィルムとする溶液製膜設備において、
前記濾過器の内、濾過能力が低下した濾過器への前記ドープ供給を停止し、前記濾過助剤をスラリーとして抜き取り後に洗浄する洗浄部と、
前記ドープを前記溶媒により希釈した希釈ドープに前記濾過助剤を分散させてプレコート液を形成し、前記洗浄工程を終了した前記濾過器に前記プレコート液を循環供給し、前記プレコートを形成するプレコート形成部と、
前記プレコートの形成後に前記濾過器からプレコート液を抜き取りつつこの抜き取ったプレコート液分の前記溶媒の飽和ガスを補充するプレコート液抜き取り部と、
前記洗浄部で前記濾過器を洗浄する際に、前記プレコート液の抜き取りを終了した前記濾過器に前記ドープを送り、前記濾過器を切り替える切替部とを有することを特徴とする溶液製膜設備。
【請求項8】
前記プレコート形成部は、前記ドープを前記溶媒により希釈した希釈ドープに前記濾過助剤を分散させて前記プレコート液を形成するプレコート液調製タンクを備えることを特徴とする請求項7記載の溶液製膜設備。
【請求項9】
前記プレコート液抜き取り部は、前記プレコート液を貯留するプレコート液タンクと、前記濾過器の出口側に接続され前記プレコート液を前記プレコート液タンクに戻す戻し配管系と、前記プレコート液タンクの溶媒飽和ガスを前記濾過器の入り口側に供給するための溶媒飽和ガス連通管とを備え、前記プレコート液抜き取り部におけるプレコート液の抜き取り流速をプレコート層の面に対し1×10−3m/sec以下とすることを特徴とする請求項7または8記載の溶液製膜設備。
【請求項10】
前記濾過助剤として平均粒径が20〜50μmの範囲内のSiOを用い、前記ポリマーをセルロースアシレートとし、前記プレコート液の濾過助剤濃度を0.25〜5重量%、セルロース濃度を0.5〜5重量%とすることを特徴とする請求項7から9いずれか1項記載の溶液製膜設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−61619(P2009−61619A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229705(P2007−229705)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】