説明

溶液製膜方法

【課題】チップの再利用と品種切替との両立を実現しつつ、光学特性に優れたフィルムを効率よく製造する。
【解決手段】各ユニット11、12では主溶剤及び副溶剤から第1混合溶剤27及び第2混合溶剤68をそれぞれ調製する。混合部20は、原料ポリマー26及び第1混合溶剤27を用いて原料ドープ28をつくる。溶解部21は、原料ドープ28から第1混合溶剤27の一部を蒸発させて濃縮ドープ53をつくる。チップドープ調製ユニット12は、第2混合溶剤68及びチップ67を用いてチップドープ69をつくる。三方弁15は、濃縮ドープ53とチップドープ69とのうち一方を、流延ドープ80として製膜ユニット13に送る。製膜ユニット13では、溶液製膜方法が行われ、流延ドープ80からフィルムが製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー形成体の破砕物と溶剤とから調製されたドープを用いて、フィルムを製造する溶液製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルム(以下、フィルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟並びに軽量化及び薄膜化が可能であるなどの特長から光学機能性フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、強靭性を有し、低複屈折率であることから、写真感光用フィルムをはじめとして、液晶表示装置の構成部材である偏光板の保護フィルムまたは光学補償フィルムなどの光学機能性フィルムに用いられている。
【0003】
フィルムの主な製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶液製膜方法は、ポリマーが溶剤に溶解するポリマー溶液(以下、ドープと称する)を調製し、流延ダイを用いて、ドープを支持体上に吐出し、支持体上に形成した流延膜が自己支持性を有するものとなった後、流延膜を支持体から剥がして湿潤フィルムとし、さらに、湿潤フィルムを乾燥させてフィルムとする方法である。このような溶液製膜方法は、融解したポリマーを押出機で押し出してフィルムを製造する溶融押出方法に比べて、光学等方性や膜厚の厚み均一性に優れるとともに、含有異物の少ないフィルムを得ることができるため、光学機能性フィルムは、主に溶液製膜方法で製造されている。
【0004】
ドープを調製する場合において、セルロースアシレート等のように、ポリマーが溶剤に溶けにくい化合物である場合には、特許文献1のように、加熱溶解方法や冷却溶解方法などを用いてポリマーを溶剤に溶解させる。加熱溶解方法では、加熱装置を用いて、ポリマーと溶剤との混合物を加熱する、或いは、加圧条件下で混合物を加熱する。一方、冷却溶解方法では、冷却装置を用いて混合物を一旦冷却した後、加熱装置を用いて加熱する。また、混合物においてポリマーの溶解が十分でない場合には、冷却溶解方法を繰り返し行う。更に、ポリマー濃度が高いドープを調製する場合には、フラッシュ装置内を用いて、加熱溶解方法や冷却溶解方法等により得られたドープを加熱し、ドープに含まれる溶剤を蒸発させる濃縮工程を行う。以上の各溶解方法や濃縮工程により、所望のポリマー濃度のドープを調製することができる。
【0005】
ところで、溶液製膜方法では、フィルムのシワやタルミの除去、或いは、フィルムの光学特性が所望の範囲内となるように、クリップ等を用いてフィルムの幅方向両端(以下、耳部と称する)を把持して、幅方向に延伸する延伸処理を行うことが多い。このような延伸処理が施されたフィルムの耳部は、クリップ等の把持跡が残るため、製品フィルムとしては用いることができない。そこで、延伸処理を経たフィルムから耳部を切断除去し、耳部を除く部分を製品フィルムとして用いていた。
【0006】
フィルムから切断除去された耳部の廃棄は、製造コストの増大、及び環境の汚染等の問題となる。そこで、原料となる綿等から精製された原料ポリマーとともに、このチップを溶剤に溶解させることで、チップを再利用してドープをつくっていた。
【特許文献1】特開2006−76280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年において、液晶表示装置の需要の急速な増加に伴い、多種多様の液晶表示装置が開発されている。したがって、あらゆる液晶表示装置に応じて、多種多様の光学機能性フィルムを効率よく製造する方法の確立が求められている。
【0008】
そこで、原料ポリマーを溶剤に溶解させて得られる原料ドープや、チップを溶剤に溶解させて得られるチップドープをつくり、原料ドープとチップドープとのうちから選択された一のドープを用いて溶液製膜を行うことで、製造目的に応じたフィルムを容易に製造することができる。しかしながら、チップドープを用いて、原料ドープの場合と同一の製造条件でフィルムを製造しようとすると、流延膜を支持体から剥がすときに、一部の流延膜が支持体に残ってしまう剥げ残り故障が発生する他、チップドープから製造されたフィルムと原料ドープから製造されたフィルムとでは、光学特性にばらつきが生じてしまう故障が発生した。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、チップの再利用とドープの品種切り替え対応との両立を可能にしつつ、光学特性に優れたフィルムを効率よく製造することができる溶液製膜方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の溶液製膜方法は、複数の溶剤からなる第1の混合溶剤及び原料ポリマーを用いて、原料ドープを調製する原料ドープ調製工程と、前記複数の溶剤のうち前記第1の混合溶剤における比率が最も大きい主溶剤の一部を前記原料ドープから蒸発させて、前記原料ドープに比べて前記原料ポリマーの濃度が高い濃縮ドープを調製する濃縮工程と、前記複数の溶剤からなる第2の混合溶剤及び前記原料ポリマーからなる成形体の破砕物を用いて、前記濃縮ドープ中の前記混合溶剤と同一の組成の前記混合溶剤に前記破砕物が溶解する破砕物ドープを調製する破砕物ドープ調製工程と、流延ダイの直前に設けられた切替え装置を用いて、前記濃縮ドープ及び前記破砕物ドープのうち、いずれか一方を流延ドープとして前記流延ダイに送る切替工程と、前記流延ドープを支持体に吐出して流延膜を形成し、前記支持体から剥ぎ取られた流延膜を乾燥する製膜工程とを有することを特徴とする。
【0011】
前記濃縮ドープ中の前記混合溶剤の組成と前記第2の混合溶剤の組成とが同一であることが好ましい。または、前記破砕物ドープ調製工程にて、前記濃縮ドープ中の前記混合溶剤と組成が異なる前記第2の混合溶剤を用いて前記破砕物ドープを調製した後、前記主溶剤の一部を前記破砕物ドープから蒸発させる破砕物ドープ濃縮工程と、前記複数の溶剤のうち前記主溶剤を除く副溶剤を前記破砕物ドープに加える副溶剤添加工程とのうち少なくとも一方を、前記破砕物ドープ中の前記混合溶剤の組成が前記濃縮ドープ中の前記混合溶剤の組成と同一となるまで行ってもよい。
【0012】
前記主溶剤は、前記複数の溶剤のなかで最も沸点が低いことが好ましい。また、前記原料ポリマーはセルロースアシレートを含み、前記複数の溶剤はn−ブタノールとメタノールとのうち少なくとも1つを含み、前記主溶剤はメチレンクロライドと酢酸メチルとのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0013】
冷却により前記流延膜をゲル化させることが好ましい。また、前記濃縮ドープに含まれる前記原料ポリマーの濃度が18質量%以上25質量%以下であり、前記破砕物ドープに含まれる前記原料ポリマーの濃度が18質量%以上25質量%以下であることが好ましい。
【0014】
前記原料ドープ調製工程から前記流延ダイまでの配管容量をC1としたときに、前記流延ダイを基準にして{(1/280)×C1}以上{(1/7)×C1}以下の配管容量となる位置で、前記切替工程を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第1の混合溶剤及び原料ポリマーを用いて原料ドープを調製し、濃縮処理により前記原料ポリマーから濃縮ドープを調製し、第1の混合溶剤と同一成分の第2の混合溶剤及び前記原料ポリマーの成形体の破砕物を用いて、前記濃縮ドープ中の前記混合溶剤と同一の組成の前記混合溶剤に前記破砕物が溶解する破砕物ドープを調製するため、濃縮ドープ及び破砕物ドープに含まれる混合溶剤の成分の比率が同一となり、結果として、いずれのドープに切り替えても、光学特性のばらつきや剥げ残り故障の発生を抑えながら、フィルムを製造することができる。したがって、本発明によれば、チップの再利用とドープの品種切り替え対応との両立を可能にしつつ、光学特性に優れたフィルムを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(溶液製膜設備)
図1に示すように、濃縮ドープ調製ユニット11、チップドープ調製ユニット12、及び製膜ユニット13は、配管14a〜14cにより、それぞれ三方弁15と接続する。三方弁15は、各ユニット11〜13のうち濃縮ドープ調製ユニット11及び製膜ユニット13のみが連通する第1の位置と、各ユニット11〜13のうちチップドープ調製ユニット12及び製膜ユニット13のみが連通する第2の位置とを切り替え自在になっている。コントローラ16の制御の下、三方弁15は、第1の位置と第2の位置とのうち一方の位置に切り替えられる。また、配管14cにはフィルタ17が設けられる。
【0017】
(濃縮ドープ調整ユニット)
濃縮ドープ調製ユニット11は、混合部20、溶解部21、濃縮部22、及び貯留部23から構成され、原料ポリマー26及び第1混合溶剤27を用いて原料ドープ28を調製した後、所定の処理により原料ドープ28から濃縮ドープを調製する。
【0018】
混合部20は、第1及び第2タンク31,32、溶解タンク33、貯留タンク34、ポンプ35を有する。第1タンク31には原料ポリマー26が入れられており、付属の計量器により所定量の原料ポリマー26が溶解タンク33に投入される。第2タンク32には第1混合溶剤27が入れられており、付属の定量ポンプによって所定量の第1混合溶剤27が溶解タンク33に投入される。
【0019】
混合溶剤とは、複数の溶剤が混合してなる。そして、複数の溶剤のうち、混合溶剤における比率が最も大きいものを主溶剤と称し、複数の溶剤のうち主溶剤を除く溶剤を副溶剤と称する。副溶剤は、主溶剤よりも沸点が高いことが好ましい。なお、副溶剤は、一の化合物からなるものでもよいし、複数の化合物からなるものでもよい。
【0020】
溶解タンク33は攪拌翼を備えており、この攪拌翼が回転することにより、溶解タンク33内の原料ポリマー26、第1混合溶剤27が攪拌される。この攪拌により、原料ポリマー26などの溶質が第1混合溶剤27に十分に溶けていない粗溶解液が得られる。
【0021】
溶解タンク33内の粗溶解液は、貯留タンク34に一旦貯蔵される。これにより溶解タンク33は空になり、粗溶解液を繰り返し形成する連続バッチ式が可能になる。貯留タンク34も攪拌翼を備えている。この攪拌翼を回転することにより、粗溶解液が攪拌され均一にされる。
【0022】
貯留タンク34内の粗溶解液はポンプ35を介して、溶解部21の第1加熱器41に送られる。第1加熱器41は、多管式熱交換器や静止型混合器などのインラインミキサが用いられる。この第1加熱器41により粗溶解液が加熱される。加熱温度は50℃以上120℃以下であることが好ましく、加熱時間は2分以上30分以下であることが好ましい。この加熱により、溶液製膜に必要な原料ポリマー26などの溶質は変性することなく、第1混合溶剤27に溶解し、原料ドープ28が調製される。
【0023】
第1加熱器41により加熱された原料ドープ28は、冷却器42に送られる。冷却器42によって、原料ドープ28は、主溶剤の沸点以下にまで冷却される。冷却された原料ドープ28はポンプ43によりフィルタ44に送られる。
【0024】
フィルタ44は、図示は省略したが、切り替えて使用するための複数のフィルタ本体やこれらフィルタ本体の洗浄装置などを備えており、一方で濾過を行いつつ、他方でフィルタの洗浄・交換を行う。これにより、原料ドープの連続濾過を可能にしている。濾過方式は特に限定されない。濾過後の原料ドープはポンプ45により濃縮部22に送られる。
【0025】
濾過後の原料ドープ28は濃縮部22の第2加熱器51により加熱された後に、フラッシュタンク52に送られる。フラッシュタンク52では、原料ドープ28にフラッシュ濃縮処理を施す。フラッシュ濃縮処理では、原料ドープ28の温度が25℃以上50℃以下にとなるように、原料ドープ28を加熱して、原料ドープ28中から主溶剤の一部を蒸発させる。原料ドープ28にフラッシュ濃縮処理を施すことにより、原料ドープ28に比べて、原料ポリマー26の濃度が高い濃縮ドープ53を得ることができる。濃縮ドープ53はポンプ54により貯留部23の貯留タンク55に送られ、貯留タンク55に貯留される。コントローラ16の制御の下、ポンプ56は、貯留タンク55に貯留された濃縮ドープ53を三方弁15へ送る。
【0026】
(チップドープ調製ユニット)
チップドープ調製ユニット12は、第3及び第4タンク61,62、溶解タンク63、貯留タンク64、ポンプ65を有する。各タンク61〜64は、各タンク31〜34と同様の構造を有する。第3タンク61にはチップ67が入れられており、所定量のチップ67が溶解タンク63に投入される。第4タンク62には第2混合溶剤68が入れられており、付属の定量ポンプによって所定量の第2混合溶剤68が溶解タンク63に投入される。
【0027】
第2混合溶剤68は、第1混合溶剤27で用いた主溶剤及び副溶剤から構成される。また、第2混合溶剤68における主溶剤及び副溶剤の比率は、第1混合溶剤27における比率と異なるものの、濃縮ドープ53中の混合溶剤における比率と同一であることが好ましい。濃縮ドープ53中の混合溶剤における主溶剤及び副溶剤の比率の分析方法は、公知の方法でよく、例えば、貯留タンク55に貯蔵される濃縮ドープ53の一部をサンプルとして取り出し、ガスクロマトフィーを用いてこのサンプルに含まれる各成分の分析する方法などがある。そして、この分析結果に基づき、第2混合溶剤68における主溶剤及び副溶剤の比率が、濃縮ドープ53中の混合溶剤における比率と同一となるように、所定の量の主溶剤及び副溶剤を、それぞれ第4タンク62に投入することが好ましい。また、フラッシュ濃縮処理の各条件から、フラッシュ濃縮処理前後における主溶剤及び副溶剤の比率の変動量を予め求めることができる場合には、この変動量、及び第1混合溶剤27における主溶剤及び副溶剤の比率に基づいて、第2混合溶剤68における主溶剤及び副溶剤の比率を決めてもよい。
【0028】
溶解タンク63に設けられたジャケットにより、溶解タンク63内のチップ67及び第2混合溶剤68からなる混合物の温度は、20℃以上であって主溶剤の沸点以下の範囲で略一定となるように保持される。これにより、チップ67が第2混合溶剤68に溶解し、チップドープ69となる。なお、溶解タンク63内の混合物の温度は、チップ67に含まれるポリマーにできるだけ熱を与えない点から、チップ67に含まれるポリマーが第2混合溶剤68に溶解する範囲内であれば、できるだけ低い温度であることが好ましい。
【0029】
溶解タンク63にて調製されたチップドープ69は、貯留タンク64に一旦貯蔵される。コントローラ16の制御の下、ポンプ65はチップドープ69を所定の流量で三方弁15へ送る。
【0030】
なお、溶解タンク63及び貯留タンク64の間、または貯留タンク64内にて、チップドープに脱泡処理を行うことが好ましい。脱泡処理として、ポリマーにできるだけ熱を与えないようにする点から、遠心脱泡または真空脱泡を行うことが好ましい。遠心脱泡は、遠心脱泡装置を用いる。遠心脱泡装置は、チップドープを貯留する容器と、回転自在に設けられ、容器内のドープを攪拌する攪拌器とを備え、チップドープの攪拌により生じた遠心力により、チップドープ中の気泡を攪拌器の回転軸近傍に集め、チップドープから気泡を取り除くことができる。真空脱泡は、チップドープが貯留する容器を大気圧よりも低い減圧環境下に配することにより行われる。これにより、チップドープから気泡を取り除くことができる。更に、真空脱泡中においては、コンデンサを用いて、チップドープから蒸発した溶剤を回収し、液化させた後に、チップドープへ戻すことが好ましい。また、真空脱泡においてチップドープから所定量Xの溶剤が蒸発する結果、真空脱泡の前後においてチップドープのポリマー濃度が上昇してしまう場合には、目標とするポリマー濃度のチップドープに所定量Xの溶剤を加えたチップドープを予め調製した上で、このチップドープに真空脱泡を行ってもよい。なお、遠心脱泡装置を減圧環境下に配し、遠心脱泡及び真空脱泡を同時に行ってもよい。
【0031】
(添加剤液供給ユニット)
図1及び図2に示すように、濃縮ドープ53またはチップドープ69のいずれか1つが流れる配管14cに合流部70を設け、この合流部70にノズル71を設けることが好ましい。ノズル71は、先端が平たく潰されるように形成され、その扁平先端部には、配管14cの流路の径方向に長く延ばされた扁平噴射口71aが形成される。ノズル71は、配管14dを介して、添加剤及び溶剤とからなる添加剤液74を調製する添加剤液調製ユニット75と連通する。添加剤液74の調製に用いられる溶剤は、添加対象となるドープ中の混合溶剤の組成と同一であること、すなわち濃縮ドープ53またはチップドープ69中の混合溶剤の組成と同一であることが好ましい。添加剤液調製ユニット75にて調製された添加剤液74は、配管14dを介してノズル71に送られ、濃縮ドープ53またはチップドープ69中において扁平噴射口71aから噴射する。
【0032】
合流部70よりも下流側の配管14cには、インラインミキサ77が設けられる。インラインミキサ77は、各ドープが流れる方向Aの上流側から順に直列に並べられる分割混合型ミキサ77aと、捻転混合型ミキサ77bとから構成される。インラインミキサ77により、濃縮ドープ53及びチップドープ69のうちいずれか一方と添加剤液74とが混合されて、流延ドープ80となる。流延ドープ80はフィルタ17を介して、製膜ユニット13へ送られる。ノズル71、分割混合型ミキサ77a、及び捻転混合型ミキサ77bについては、特開2006−117904号公報に詳しく説明されており、詳細な説明は省略する。
【0033】
(製膜ユニット)
製膜ユニット13は、図3に示すように、流延室100と、渡り部101と、テンタ102と、乾燥室103と、巻取機104とを備え、流延ドープ80を用いてフィルム106が作られる。流延室100には、流延ドープ80の吐出口が形成された流延ダイ107と、支持体として作用する流延ドラム108と、剥取ローラ109とが配置されている。
【0034】
流延ダイ107は、吐出口を介して、エンドレスに回転している流延ドラム108の上に流延ドープ80を吐出する。流延ドラム108の上では、吐出した流延ドープ80が流れながら延ばされる結果、流延膜111が形成される。流延ドラム108の表面温度は−10℃以上10℃以下の範囲内で略一定とされているため、流延ドラム108上の流延ドープ80は冷却され、流延ドープ80のゲル化が進行する。ゲル化の進行により自己支持性を有するものとなった流延膜111は剥取ローラ109で支持されながら流延ドラム108から湿潤フィルム113として剥ぎ取られる。
【0035】
渡り部101では、多数のローラで湿潤フィルム113を支持し、搬送する間に乾燥が進められる。テンタ102では、湿潤フィルム113の耳部がピン等の保持手段で保持される。テンタ102の下流には耳切装置115が設けられている。耳切装置115は湿潤フィルム113の耳部を切断する。この切断された耳部は、送風によりクラッシャ(図示しない)に送られて、破砕または粉砕され、チップ67となる。チップ67は、図示しない送風装置により、チップドープ調製ユニット12に送られる。残った部分はフィルム106として、乾燥室103へ搬送され、乾燥室103中にて乾燥処理が施される。この後、フィルム106は、巻取機104の巻芯117にロール状に巻き取られる。
【0036】
流延室100、流延ダイ107、流延ドラム108等の構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載も本発明に適用することができる。なお、上記実施形態では、流延ドラム108上で流延膜111を冷却ゲル化させて、流延膜111に自己支持性を持たせる冷却ゲル化方式としたが、ドラムやバンドなどの支持体上で流延膜111を乾燥し、流延膜111に自己支持性を持たせる乾燥方式でもよい。
【0037】
次に、本発明の作用について説明する。図1に示すように、濃縮ドープ調製ユニット11の混合部20及び溶解部21では、原料ポリマー26と、主溶剤及び副溶剤が所定の比率で混合された第1混合溶剤27とから原料ドープ28がつくられる。更に、濃縮部22では、フラッシュ濃縮処理により原料ドープ28から、目標とするフィルムの特性に適する濃縮ドープ53、すなわち、ポリマーや混合溶剤の各成分の比率が目標値である濃縮ドープ53がつくられる。そして、所定の分析方法により、濃縮ドープ53中の混合溶剤における主溶剤及び副溶剤の比率の分析結果を得る。
【0038】
一方、チップドープ調製ユニット12では、濃縮ドープ53に含まれる混合溶剤の成分比率の分析結果に基づいて、所定量の主溶剤及び副溶剤をそれぞれ第4タンク62に投入して、主溶剤及び副溶剤の成分比率が濃縮ドープ53に含まれる混合溶剤と同一の第2混合溶剤68を調製する。そして、第2混合溶剤68とチップ67とが溶解タンク63にて混合される。チップドープ調製ユニット12ではドープのポリマー成分としてチップ67のみを用いており、チップ67に含まれるポリマーは、湿潤フィルム113の製造時に用いられるドープの調製段階で溶解処理や濃縮処理を経ているため、各処理が施される前の原料ポリマーと異なり、比較的低温域であっても溶剤に溶解しやすい。したがって、溶解タンク63において、第2混合溶剤68とチップ67との混合物にほとんど熱を加えない状態で、チップ67を第2混合溶剤68に溶解させて、結果として、チップドープ69を調製することができる。
【0039】
コントローラ16により三方弁15が第1の位置に切り替えられ、濃縮ドープ調製ユニット11と製膜ユニット13とが連通し、チップドープ調製ユニット12と製膜ユニット13とが切り離される。濃縮ドープ53は、ポンプ56により、三方弁15を介して配管14cに送られる。合流部70では、配管14c中を流れる濃縮ドープ53中に添加剤液74が添加される。添加剤液74及び濃縮ドープ53は、インラインミキサ77により混合され、流延ドープ80となって、製膜ユニット13に送られる。
【0040】
一方、コントローラ16により三方弁15が第2の位置に切り替えられると、チップドープ調製ユニット12と製膜ユニット13とが連通し、濃縮ドープ調製ユニット11と製膜ユニット13とが切り離される。チップドープ69は、ポンプ65により、三方弁15を介して配管14cに送られる。合流部70では、配管14c中を流れるチップドープ69中に添加剤液74が添加される。添加剤液74及びチップドープ69は、インラインミキサ77により混合され、流延ドープ80となって、製膜ユニット13に送られる。
【0041】
濃縮ドープ調整ユニット11における各部20〜23での各処理により、主溶剤及び副溶剤の成分の比率は、濃縮ドープ53中の混合溶剤と、第1混合溶剤27とで異なる。一方、チップドープ調製ユニット12における処理では、第2混合溶剤68やチップドープ69がほとんど加熱されないため、主溶剤及び副溶剤の成分の比率は、チップドープ69中の混合溶剤と第2混合溶剤68とで同一である。したがって、第1混合溶剤27と第2混合溶剤68とが同一組成である場合、濃縮ドープ53中の混合溶剤とチップドープ69中の混合溶剤とでは、主溶剤及び副溶剤の成分の比率が異なる。
【0042】
このように、含有する混合溶剤の成分の比率が異なる濃縮ドープ53とチップドープ69とのうちいずれか一方に適宜切り替えて、流延膜111の冷却条件(例えば、流延ドラム108の表面温度)や乾燥条件(例えば、流延室100の雰囲気の温度や溶剤の凝縮点)等の製膜条件を変更しないまま溶液製膜方法を行った場合において、ドープを占める主溶剤の成分比率が大きくなると、冷却によるドープのゲル化が起こりにくくなるため、剥げ残り故障が発生しやすくなる。また、ドープを占める副溶剤の成分比率が大きくなると、得られるフィルム106の厚み方向のレターデーションRthは、製造目標値に比べ小さくなり、ドープを占める副溶剤の成分比率が小さくなると、フィルム106のレターデーションRthは、製造目標値に比べ大きくなる。この場合において、各ドープの切り替えの度に、流延ドープ80中の混合溶剤の成分の比率の変更に応じて、流延ドラム108の表面温度などの各条件を調節すると、生産効率が下がってしまう。
【0043】
本発明では、第2混合溶剤68と濃縮ドープ53中の混合溶剤とで主溶剤及び副溶剤の成分の比率が同一となるように、チップドープ調製ユニット12において第2混合溶剤68を予め調製しているため、濃縮ドープ53またはチップドープ69のいずれを用いても、流延ドープ80における混合溶剤の組成は同一となる。したがって、剥げ残り故障の発生を抑えつつ、光学特性に優れたフィルムを製造することができる。
【0044】
本明細書において、「2の混合溶剤の成分の比率が同一」には、各成分が同一であり、各成分の比率のみが異なる混合溶剤X及び混合溶剤Yにおいて、混合溶剤Xにおける任意の成分Aの比率をCAXとし、混合溶剤Yにおける成分Aの比率をCAYとするときに、主溶剤についての|CAX−CAY|の値が0.5%以下であり、副溶剤についての|CAX−CAY|の値が0.2%以下であることが、混合溶剤X、Yに含まれる各成分すべてについて満たす場合を含むものとする。
【0045】
上記実施形態では、濃縮ドープ53中の混合溶剤における主溶剤及び副溶剤の比率が同一の第2混合溶剤68を用いて、チップドープ69を調製したが、本発明はこれに限られず、濃縮ドープ53中の混合溶剤の成分が同一であり、その比率が異なる第2混合溶剤68を用いてチップドープ69を調製した後に、チップドープ69中の混合溶剤の成分が、濃縮ドープ53に含まれる混合溶剤の成分と同一になるまで、チップドープ69についてフラッシュ濃縮処理を行ってもよい。このフラッシュ濃縮処理では、チップドープ69の温度が70℃以上100℃以下にとなるように、チップドープ69を加熱して、チップドープ69中から主溶剤の一部を蒸発させることが好ましい。
【0046】
また、フラッシュ濃縮処理に代えて、チップドープ69中の混合溶剤の成分が、濃縮ドープ53に含まれる混合溶剤の成分と同一になるまで、チップドープ69に副溶剤を加える副溶剤添加処理を行ってもよい。なお、副溶剤添加処理では、副溶剤のみならず、副溶剤及び主溶剤の両者を添加してもよい。
【0047】
チップドープ69についてフラッシュ濃縮処理を行う濃縮部、或いはチップドープ69に副溶剤添加処理を行う添加部は、チップドープ調製ユニット12内の貯留タンク64の下流側に設けることが好ましい。
【0048】
更に、上記のチップドープ69にフラッシュ濃縮処理や副溶剤添加処理を行う代わりに、濃縮ドープ53中の混合溶剤の組成が、チップドープ69に含まれる混合溶剤の組成と同一になるまで、濃縮ドープ53に対してフラッシュ濃縮処理や副溶剤添加処理を行ってもよい。この場合において、副溶剤添加処理を行う添加部を濃縮ドープ調整ユニット11の濃縮部22の下流側に設けてもよい。また、各ドープについてのフラッシュ濃縮処理や副溶剤添加処理は、逐次または同時のいずれで行ってもよい。
【0049】
なお、濃縮ドープ調製ユニット11内の配管、配管14a、及び三方弁15から製膜ユニット13に設けられた流延ダイまでの配管14cの合計の容量をC1とするときに、三方弁15から製膜ユニット13に設けられた流延ダイまでの配管14cの容量C2が、{(1/280)×C1}以上{(1/7)×C1}以下となるように、三方弁15を配管14cに設けることが好ましい。
【0050】
上記実施形態では、1つの濃縮ドープ調製ユニット11及び1つのチップドープ調製ユニット12を、三方弁15を介して製膜ユニット13と接続したが、本発明はこれに限られず、1つの濃縮ドープ調製ユニット11及び複数のチップドープ調製ユニット12を、切り替え装置を介して製膜ユニット13と接続してもよいし、複数のチップドープ調製ユニット12のみを、切り替え装置を介して製膜ユニット13と接続してもよい。
【0051】
上記実施形態では、湿潤フィルム113の耳部を切断したものをチップ67としたが、本発明はこれに限られず、製品として用いられるフィルム106を破砕してもよいし、液晶表示装置に取り付けられたフィルムを、液晶表示装置から取り外し、その後に破砕してもよい。また、チップ67はフィルムの破砕物に限られず、ポリマー形成体の破砕物でもよい。
【0052】
ポリマーと溶剤とともに添加剤を用いてドープを調製する、或いは、添加剤を流延ダイの直前で所定のドープに添加するかは、用いる添加剤によって適宜決定すればよい。組成の異なる複数のドープを切り替えながら、複数の品種のフィルムを製造する溶液製膜方法において、いずれのドープにも共通して含まれる添加剤がある場合には、濃縮ドープ調製ユニット11やチップドープ調製ユニット12にて、原料ドープ28やチップドープ69に予め当該添加剤を添加してもよい。また、いずれのドープにも共通して含まれない添加剤は、合流部70にて所定のドープに、必要に応じて適宜添加すればよい。なお、合流部70において、濃縮ドープ53やチップドープ69に添加剤液74を添加して流延ドープ80をつくらない場合には、ノズル71や添加剤液調製ユニット75を省略してもよい。
【0053】
上記実施形態では、冷却により流延膜111に自己支持性を発現させたが、本発明はこれに限られず、流延膜111に含まれる主溶剤の蒸発により流延膜111に自己支持性を発現させてもよいし、冷却及び主溶剤の蒸発の組み合わせにより流延膜111に自己支持性を発現させてもよい。
【0054】
上記実施形態では、支持体として流延ドラム108を用いたが、本発明はこれに限られず、ローラに掛け渡され、ローラの回転により、エンドレスに走行する流延バンドを用いてもよい。また、上記実施形態では、走行する支持体にドープを流延したが、本発明はこれに限られず、静止する支持体にドープを流延してもよい。
【0055】
(ポリマー濃度)
濃縮ドープ53及びチップドープ69のポリマー濃度は、18質量%以上25質量%以下であることが好ましい。また、原料ドープ28のポリマー濃度は、14質量%以上24質量%以下であることが好ましい。
【0056】
(原料ポリマー)
以下、本発明において原料ドープを調製する際に使用する原料ポリマーについて説明する。
【0057】
本実施形態では、原料ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、AおよびBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0058】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0059】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基がアセチル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基がアセチル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基がアセチル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
【0060】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0061】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れた溶液(ドープ)を作製することができる。特に、非塩素系有機溶剤を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
【0062】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでもよい。
【0063】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0064】
(溶剤)
ドープを調製する溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)およびエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明においてドープとは、原料ポリマーやチップを溶剤に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を示す。
【0065】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度および光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは、5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0066】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶剤組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステルおよびアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステルおよびアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶剤として用いることができる。
【0067】
本発明において、主溶剤としては、ジクロロメタンと酢酸メチルとのうちいずれか一方を含むことが好ましい。副溶剤としては、n−ブタノールとメタノールとのうちいずれか一方を含むことが好ましい。また、混合溶剤における主溶剤の比率は、80質量%以上88質量%以下であることが好ましい。混合溶剤におけるn−ブタノールの比率は、0.2質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。混合溶剤におけるメタノールの比率は、10質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0068】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶剤および可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】溶液製膜設備の概要を示し、濃縮ドープ調製ユニット及びチップドープ調製ユニットの詳細を示す説明図である。
【図2】合流部及びインラインミキサの概要を示す斜視図である。
【図3】溶液製膜設備の概要を示し、製膜ユニットの詳細を示す説明図である。
【符号の説明】
【0070】
10 溶液製膜設備
11 濃縮ドープ調製ユニット
12 チップドープ調製ユニット
13 製膜ユニット
26 原料ポリマー
27 第1混合溶剤
28 原料ドープ
53 濃縮ドープ
67 チップ
68 第2混合溶剤
69 チップドープ
80 流延ドープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の溶剤からなる第1の混合溶剤及び原料ポリマーを用いて、原料ドープを調製する原料ドープ調製工程と、
前記複数の溶剤のうち前記第1の混合溶剤における比率が最も大きい主溶剤の一部を前記原料ドープから蒸発させて、前記原料ドープに比べて前記原料ポリマーの濃度が高い濃縮ドープを調製する濃縮工程と、
前記複数の溶剤からなる第2の混合溶剤及び前記原料ポリマーからなる成形体の破砕物を用いて、前記濃縮ドープ中の前記混合溶剤と同一の組成の前記混合溶剤に前記破砕物が溶解する破砕物ドープを調製する破砕物ドープ調製工程と、
流延ダイの直前に設けられた切替え装置を用いて、前記濃縮ドープ及び前記破砕物ドープのうち、いずれか一方を流延ドープとして前記流延ダイに送る切替工程と、
前記流延ドープを支持体に吐出して流延膜を形成し、前記支持体から剥ぎ取られた流延膜を乾燥する製膜工程とを有することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
前記濃縮ドープ中の前記混合溶剤の組成と前記第2の混合溶剤の組成とが同一であることを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
前記破砕物ドープ調製工程にて、前記濃縮ドープ中の前記混合溶剤と組成が異なる前記第2の混合溶剤を用いて前記破砕物ドープを調製した後、
前記主溶剤の一部を前記破砕物ドープから蒸発させる破砕物ドープ濃縮工程と、前記複数の溶剤のうち前記主溶剤を除く副溶剤を前記破砕物ドープに加える副溶剤添加工程とのうち少なくとも一方を、前記破砕物ドープ中の前記混合溶剤の組成が前記濃縮ドープ中の前記混合溶剤の組成と同一となるまで行うことを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
前記主溶剤は、前記複数の溶剤のなかで最も沸点が低いことを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項5】
前記原料ポリマーはセルロースアシレートを含み、
前記複数の溶剤はn−ブタノールとメタノールとのうち少なくとも1つを含み、
前記主溶剤はメチレンクロライドと酢酸メチルとのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項6】
冷却により前記流延膜をゲル化させることを特徴とする請求項1ないし5のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項7】
前記濃縮ドープに含まれる前記原料ポリマーの濃度が18質量%以上25質量%以下であり、
前記破砕物ドープに含まれる前記原料ポリマーの濃度が18質量%以上25質量%以下であることを特徴とする請求項1ないし6のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項8】
前記原料ドープ調製工程から前記流延ダイまでの配管容量をC1としたときに、前記流延ダイを基準にして{(1/280)×C1}以上{(1/7)×C1}以下の配管容量となる位置で、前記切替工程を行うことを特徴とする請求項1ないし7のうちいずれか1項記載の溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−149361(P2010−149361A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329215(P2008−329215)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】