説明

溶液親和性多糖類、高粘性キサンタンガム、高吸水性キサンタンガム、易溶性ローカストビーンガム及び易溶性ペクチン

【課題】食塩水溶液などの水溶液に対する親和性が向上された溶液親和性多糖類、高粘性キサンタンガム、高吸水性キサンタンガム、易溶性ローカストビーンガム及び易溶性ペクチンを提供する。
【解決手段】5重量%の食塩水溶液、並びに3.5W/V%の水溶性タンパク質及び3.3W/V%の油脂を含む水溶液のいずれかの水溶液に対する原料多糖類の親和性が向上された溶液親和性多糖類であって、20℃の前記水溶液に1.0重量%溶解した際の10分後の粘度が、20℃の水に1.0重量%溶解した際の10分後の粘度の50%以上であることを特徴とする溶液親和性多糖類である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食塩水溶液などの水溶液に対する親和性が向上した溶液親和性多糖類、高粘性キサンタンガム、高吸水性キサンタンガム、易溶性ローカストビーンガム及び易溶性ペクチンに関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、増粘多糖類は、食感や喉越しの向上などを目的として広く食品に用いられている。例えば、キサンタンガムやローカストビーンガムは、天然の増粘多糖類であり液状食品の増粘に使用されている。またペクチン(LMペクチン)は、カルシウムと反応して増粘、ゲル化する性質を有しているため、カルシウムと併用して液状食品を増粘、ゲル化する目的で使用されている。特にレストランなどの外食分野では、直接手づくりドレッシングを調整したり、スープ類を増粘させるなどの用時調整が必要とされる場面が多くある。また、近年、嚥下障害者の水分補給や栄養補給として、特に油脂成分やミネラル成分が多い濃厚流動栄養剤や味噌汁、お茶、スポーツ飲料の増粘を用時調整にて行うケースが増えてきている。
【0003】
しかし、増粘多糖類は、それぞれ、食塩水溶液などの溶液に対する親和性に様々な問題を抱えている。例えば、キサンタンガムは、味噌汁や経腸栄養液に使用した場合、塩類やタンパク質、乳化油脂が溶解を阻害し粘度発現が極端に悪くなる。また、ローカストビーンガムは、冷水では溶解せず温水を用意しなければならない。また、LMペクチンは、カルシウムと反応して増粘、ゲル化するが、即時反応のためペクチン粉末をカルシウム溶液に直接溶解しようとすると不溶化が起こってしまうという問題がある。
【0004】
そこで、これらの問題を解決するために、様々な技術が開発されている。例えば、特許文献1には、キサンタンガムの粒子径を調整し、顆粒にして分散性を良くして溶解性が改善することが記載されている。また、特許文献2には、ローカストビーンガムの冷水に対する溶解性を高めることが記載されている。また、特許文献3には、LMペクチンを溶液として使用しカルシウム溶液へ添加して増粘、ゲル化させることが記載されている。さらに、特許文献4には、寒天とポリビニルピロリドン等の水溶性ポリマーを溶解し凍結乾燥した培地は冷水でゲル化することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−006745号公報
【特許文献2】特開昭59−162847号公報
【特許文献3】特開平11−9222号公報
【特許文献4】特開平7−327663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたキサンタンガムは、水への分散性は向上するものの塩類やタンパク質、乳化油脂溶液への溶解は、粒子径を調整しても悪く粘度の発現は遅い。また、特許文献2に記載されたローカストビーンガムは、冷水への溶解性は上がるものの加熱溶解したものに比べると溶解性は低く充分ではない。また、特許文献3に記載されたペクチンは、溶液であるため容量が大きくなり扱いが不便であると同時にペクチンの加水分解が起こりやすいため使用期限が短く、微生物による汚染も問題となる。さらに、特許文献4に記載の寒天は、寒天の乾燥ゲルマトリックス中に存在するポリビニルピロリドン等の水溶性多糖類が冷水に溶解することによって見かけ上ゲル状に見えるのであって、寒天が冷水に溶解しているわけではない。また、食塩水溶液などの溶液においても、高粘性を示す多糖類や、かかる溶液に対する吸水性が優れた多糖類が望まれている。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、食塩水溶液などの水溶液に対する親和性が向上された溶液親和性多糖類、高粘性キサンタンガム、高吸水性キサンタンガム、易溶性ローカストビーンガム及び易溶性ペクチンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究の結果、多糖類を水に溶解させた後、溶解状態で真空乾燥又は真空凍結乾燥により乾燥させることによって、食塩水溶液、並びに水溶性タンパク質及び油脂を含む水溶液のいずれかに対する親和性を向上させることができることを見出した。すなわち、本発明は、原料多糖類を水に溶解させた後、溶解状態で真空乾燥又は真空凍結乾燥により乾燥された溶液親和性多糖類である。
【0009】
また、本発明は、5重量%の食塩水溶液、並びに3.5W/V%の水溶性タンパク質及び3.3W/V%の油脂を含む水溶液のいずれかの水溶液に対する原料多糖類の親和性が向上された溶液親和性多糖類であって、20℃の前記水溶液に1.0重量%溶解した際の10分後の粘度が、20℃の水に1.0重量%溶解した際の10分後の粘度の50%以上であることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明は、前記原料多糖類がキサンタンガムである前記溶液親和性多糖類が加熱処理された高粘性キサンタンガムであって、20℃の5重量%の食塩水溶液に0.5重量%溶解した際の24時間後の粘度が500mPa・s〜5000mPa・sであることを特徴とし、前記原料多糖類がキサンタンガムである前記溶液親和性多糖類が加熱処理された高吸水性キサンタンガムであって、20℃の5重量%の食塩水溶液に1.0重量%溶解した際の24時間後の膨潤度が、20倍〜200倍であることを特徴とする。
【0011】
またさらに、本発明は、ローカストビーンガムの水に対する溶解性が向上された易溶性ローカストビーンガムであって、20℃の水に1.0重量%溶解した際の10分後の粘度が、易溶化処理前の80℃の水に1.0重量%溶解した際の20℃の粘度の50%以上であることを特徴とし、ペクチンのカルシウムイオン溶液に対する溶解性が向上された易溶性ペクチンであって、20℃のカルシウムイオン溶液に直接添加してゲル化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、食塩水溶液などの水溶液に対する親和性が向上された溶液親和性多糖類、高粘性キサンタンガム、高吸水性キサンタンガム、易溶性ローカストビーンガム及び易溶性ペクチンを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る溶液親和性多糖類は、水に溶解された状態で真空乾燥又は真空凍結乾燥を行うことにより、分子を水に溶解させた状態のまま乾燥させたものである。そのため、分子同士が接近することなく粒子内部の水素結合が弱い状態で粉末化される。通常、多糖類の粉末は、スプレードライ法やアルコール沈殿法により乾燥、粉末化される。しかし、この方法では、分子同士が接近し粒子内部の水素結合が強まるため、溶解するにはより多くのエネルギーが必要となり、食塩水溶液などの水溶液や冷水には溶解しにくくなる。このような理由から、冷凍(凍結)により分子運動が妨げられ、溶液の状態における分子状態を維持した状態で乾燥できる真空凍結乾燥が特に好ましい。
【0014】
本発明に係る溶液親和性多糖類において、原料となる多糖類としては、キサンタンガム、ローカストビーンガム、LMペクチン、ιカラギナン、λカラギナン、ナトリウム型κカラギナン、グアーガム、タラガム、タマリンドガム、グルコマンナン、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。その中でも特に、塩類溶液に対して安定であるキサンタンガム、キサンタンガムと反応してゲルを形成するローカストビーンガム、カルシウム溶液をゲル化することができるLMペクチンが好ましい。
【0015】
本発明に係る溶液親和性多糖類において、溶液に対する親和性とは、食塩水溶液などの溶液に対する多糖類の溶解性や膨潤性、及びこれらの速度が向上することをいい、溶解性が向上すれば、粘度が上昇し、また膨潤性が向上しても、粘度が向上するけれども、溶液に対する吸水性も向上する。
【0016】
例えばキサンタンガムの場合、通常のキサンタンガム粉末は、分子中にナトリウム塩などとして存在するカルボキシル基の密度が高く、そのため塩類溶液やミネラル溶液中では解離が生じにくく溶解や膨潤が悪いが、本発明のように真空乾燥又は真空凍結乾燥を行うと、通常のキサンタンガムと比較してカルボキシル基の密度が高くならないために粒子が塩類やミネラル溶液中でも短時間で溶解したり膨潤したりすることができる。同様の理由で、後述する高粘性や高吸水性に加工されたキサンタンガムも同様の効果を発揮する。
【0017】
また、例えばローカストビーンガムの場合、通常のローカストビーンガムは、一部冷水膨潤するが冷水不溶性の性質を有しているため、加温しないと溶解しない。本発明のように真空乾燥又は真空凍結乾燥を行うと、通常のローカストビーンガムと比較して溶解された状態で粉末化されるために分子が相互作用をおこす前に乾燥されて、アモルファスの状態で粉末化することができる。このため、ローカストビーンガムの水に対する溶解性が向上する。本発明に係る易溶性ローカストビーンガムは、20℃の水に1.0重量%溶解した際の10分後の粘度が、易溶化処理前の80℃の水に1.0重量%溶解した際の10分後の20℃の粘度の50%以上であるが、60%以上であることが好ましい。また、得られたローカストビーンガムは、冷水への溶解性が増すため、キサンタンガムやカラギナンと併用することにより冷水における増粘作用が相乗的に上昇する。
【0018】
また、例えばLMペクチンの場合、通常のLMペクチンは、カルシウムとの反応基が高密度に存在するためカルシウムとの反応が急激におこり不溶性粒子となってしまうが、本発明のように真空乾燥又は真空凍結乾燥を行うと、通常のLMペクチンと比較して分子構造を広げ反応基の密度を下げることができる。このため、ペクチンのカルシウムイオン溶液に対する溶解性を向上させ、例えば20℃のカルシウムイオン溶液に直接添加してゲル化させることができる。
【0019】
本発明に係る溶液親和性多糖類において、真空乾燥又は真空凍結乾燥前の多糖類の溶解の濃度としては、水に対して多糖類0.1〜20重量%が好ましく、1〜10重量%がさらに好ましい。特に、キサンタンガムの場合、0.2〜15重量%であることが好ましく、1〜10重量%であることがさらに好ましい。また、ローカストビーンガム場合、0.2〜10重量%であることが好ましく、1〜7重量%であることがさらに好ましい。LMペクチンの場合、0.2〜20重量%であることが好ましく、1〜15重量%であることがさらに好ましい。20重量%を超えると粘度が高すぎて作業性が劣り、0.1重量%未満であると乾燥効率が悪くなるため好ましくない。溶解には、冷水又は温水を使用することが出来るが、多糖類がローカストビーンガムの場合は加熱溶解したものを使用することが好ましい。
【0020】
本発明に係る溶液親和性多糖類において、真空乾燥とは、溶液は真空下で低温にて乾燥する一般的な方法をいい、真空凍結乾燥とは、溶液を凍結後、真空下で昇華現象を利用して凍結したまま加温し乾燥する一般的な方法をいう。真空乾燥又は真空凍結乾燥は、通常行われている条件であれば特に限定はなく、例えば真空乾燥の場合、溶液が沸騰しない真空度で40〜80℃にて水分値25重量%以下にすることが好ましく、例えば真空凍結乾燥の場合、−40℃で完全に凍るまで急速冷凍(4時間以上)し、6.0Pa以下で60℃にて24時間以上乾燥することが好ましい。
【0021】
本発明に係る溶液親和性多糖類の食塩水溶液、並びに水溶性タンパク質及び油脂を含む水溶液のいずれかの水溶液に対する親和性を示す指標として、多糖類は、その親和性が向上すると粘度が高くなる性質を有するので、前記水溶液に溶解した際の粘度と水に溶解した際の粘度の比較値を用いることができる。例えば20℃の前記水溶液に1.0重量%溶解した際の10分後の粘度が、その水溶液親和性多糖類を20℃の水に1.0重量%溶解した際の10分後の粘度の50%以上であると、溶解性に優れ、60%以上であるとさらに優れているといえる。
【0022】
また、本発明に係る溶液親和性多糖類の原料多糖類がキサンタンガムの場合に、乾燥処理後、さらに高温で加熱を継続して改質処理すると、粘度が原料キサンタンガムより高い高粘性キサンタンガム又は一部水に不溶化して膨潤粒子を作る高吸水性キサンタンガムを得ることができる。特開平10−33125号公報、及び特開2003−192703号公報には、改質された高粘性キサンタンガムおよび高吸水性に加工されたキサンタンガムが記載されているが、これらは粉末をそのまま加工したものであり、塩類やミネラル溶液への溶解は極めて悪い。これに対し、本発明に係る高粘性又は高吸水性キサンタンガムは、塩類やミネラル溶液への溶解性やそれらに対する吸水性が向上させることができる。
【0023】
本発明に係る高粘性キサンタンガムにおいて、20℃の5重量%の食塩水溶液に0.5重量%溶解した際の24時間後の粘度が、500mPa・s〜5000mPa・sであるが、1000mPa・s〜5000mPa・sであることが好ましい。また、その粘度が、20℃の水に0.5重量%溶解した際の24時間後の粘度の40%以上であることが好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。このような高粘性キサンタンガムは、前記真空乾燥又は真空凍結乾燥された易容性キサンタンガムをさらに60℃〜70℃の条件で36時間〜120時間、好ましくは50時間〜100時間加熱を継続して改質処理することによって得られ、1.0重量%、25℃における粘度が1,200m・Ps以上である。この方法により得られた高粘性キサンタンガムは、塩類やミネラル溶液中でも粘度の発現が早く、かつ通常のキサンタンガムより高粘性になるため、ドレッシング、たれ、ソース、塩辛、漬物、などの増粘に好適に使用できる。
【0024】
本発明に係る高吸水性キサンタンガムにおいて、20℃の5重量%の食塩水溶液に1.0重量%溶解した際の24時間後の膨潤度が、20倍〜200倍であるが、50倍〜200倍であることが好ましい。また、その膨潤度が、20℃の水に膨潤した際の24時間後の膨潤度の40%以上であることが好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。ここで、膨潤度とは、高吸水製キサンタンガム1gを自由膨潤できる条件(200倍吸水しても破裂しない大きさの不織布)のティーパック袋に入れ、20℃の500mLの水又は食塩水に24時間浸漬した時の吸水倍率である。このような高吸水性キサンタンガムは、前記真空乾燥又は真空凍結乾燥された容易性キサンタンガムをさらに80℃〜90℃の条件で36時間〜120時間、好ましくは50時間〜100時間加熱を継続して改質処理することによって得られる。この方法により得られた高吸水性キサンタンガムは、塩類やミネラル溶液でも吸水するため、おむつやサニタリー製品に好適に使用できる。
【0025】
上記の高粘性キサンタンガム化又は高吸水性キサンタンガム化は、真空乾燥又は真空凍結乾燥によって乾燥されたキサンタンガムを通常の加熱方法により加熱して改質処理することによっても製造できる。具体的には、真空乾燥と凍結乾燥により水分値が25%以下になった乾燥物をブロック状のまま、又は粉砕して粉末状にしたあと、通常の箱型乾燥機、流動層乾燥機、などの加温できる設備であれば方法を選ばない。このような加熱方法の場合、高粘性キサンタンガムは、80℃以上で30分〜24時間の加温が好ましく、高吸水性ポリマーは、50℃〜200℃以下で30分〜200時間加温することが好ましい。
【0026】
本発明に係る溶液親和性多糖類などは、糖類を添加して溶解後、真空乾燥又は真空凍結乾燥しても良く、塩への溶解性が向上する。糖類としては、ぶどう糖、果糖などの単糖類;ショ糖、マルトース、トレハロースなどの2糖類;フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖などのオリゴ糖;ソルビトールなどの還元糖;デキストリンなどが上げられる。添加量は多糖類に対し10%から1000%が好ましい。10%より低いと溶解性向上に対して効果がなく、1000%より多いと、多糖類の濃度が薄くなり多量に使用しなければならないという問題がある。
【0027】
本発明に係る溶液親和性多糖類などは、乾燥後は通常の粉砕機により粉末化することが好ましい。
【0028】
また、本発明に係る溶液親和性多糖類などは、使用する際、その効果を妨げない範囲で他の多糖類、具体的には寒天、カラギナン、グアーガム、タラガム、タマリンドガム、グルコマンナン、ジェランガム、澱粉、タマリンド、サイリウムシードガム、アラビアガム、プルラン、カードラン、アルギン酸ナトリウム、CMC-Naなどとともに使用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。
【0030】
[実験例1(実施例1〜5、比較例1):水溶液親和性(易溶性)キサンタンガム]
表1に示した配合にてキサンタンガム(イナゲルV−10:伊那食品工業社製)を水に溶解し水溶液を作製した。この溶液を容器に入れ真空凍結乾燥(DF−05H:日本真空技術社製)(乾燥温度50℃)を行い水分値10%のブロックを作製し、粉砕機にて粉砕後100メッシュ篩にて篩って、実施例1〜5に係る粉末を作製した。これを5重量%の食塩水200gに1重量%になるように添加し粘度の発現(3分後、10分後、30分後、60分後)を調べ、表2に示した。粘度は、B型粘度計(LVDV−1 Prime:ブルックフィールド社製)を使用して測定した(3号ローター、12rpm、測定温度20℃)。比較例1として未処理のキサンタンガム(イナゲルV−10)を使用した。
実施例1〜5及び比較例1を食塩水ではなく水に溶解した時の10分後の粘度を表2に記載した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
以上のように凍結真空乾燥により乾燥したキサンタンガムは塩類への溶解が早く、粘度が発現した。
【0034】
[実験例2(実施例6〜10、比較例2、3):水溶液親和性(易溶性)ローカストビーンガム]
表3に示した配合にてローカストビーンガム(イナゲルL−85:伊那食品工業社製)を水に溶解し80℃にて加熱溶解し水溶液を作製した。これの溶液を容器に入れ真空凍結乾燥(DF−05H:日本真空技術社製)(乾燥温度50℃)を行い水分値10%のブロックを作製し、粉砕機にて粉砕後100メッシュ篩にて篩って実施例6〜10に係る粉末を作製した。これを20℃の水200gに1重量%になるように添加し10分後の粘度を調べ表4に示した。粘度は、B型粘度計(LVDV−1 Prime:ブルックフィールド社製)を使用して測定した(3号ローター、12rpm、測定温度20℃)。比較例2として未処理のローカストビーンガム(イナゲルL−85)を使用し同様に溶解した。また、比較例3としてローカストビーンガムを80℃の水に1重量%になるように添加し溶解後、20℃に冷却して粘度を測定した。
【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
以上のように凍結真空乾燥により乾燥したローカストビーンガムは水への溶解が早かった。
【0038】
[実験例3(実施例11〜15、比較例4):水溶液親和性(易溶性)LMペクチン]
表5に示した配合にてLMペクチン(イナゲルJM−15:伊那食品工業社製)を水に溶解し水溶液を作製した。これの溶液を容器に入れ真空凍結乾燥(DF−05H:日本真空技術社製)(乾燥温度50℃)を行い水分値10%のブロックを作製し、粉砕機にて粉砕後100メッシュ篩にて篩って実施例11〜15に係る粉末を作製した。これを20℃の牛乳200gに0.5重量%になるように添加し10分後の状態を調べ表6に示した。状態は目視によりゲル状になっているかどうかを調べた。比較例4として未処理のLMペクチン(イナゲルJM−15)を使用した。
【0039】
【表5】

【0040】
【表6】

【0041】
以上のように凍結真空乾燥により乾燥したLMペクチンはカルシウムイオン溶液に直接添加してもゲル化した。
【0042】
[実験例4(実施例16〜19、比較例5、6):高粘性キサンタンガム及び高吸水性キサンタンガム]
キサンタンガム(イナゲルV−10:伊那食品工業社製)15gを水500gに溶解した。これを真空凍結乾燥(DF−05H:日本真空技術社製)(乾燥温度60℃)し、水分値が10%になったところで以下の処理を行った。その後、粉砕機にて粉砕後100メッシュ篩にて篩って実施例16〜19に係る粉末を作製した。比較例5、6に係る高粘性キサンタンガム、高吸水性キサンタンガムも以下に示した方法にて作製した。
【0043】
すなわち、実施例16に係る高粘性キサンタンガムは、引き続き真空凍結乾燥機にて加熱処理を行った。ただし加熱条件は65℃で72時間行うことによって得た。実施例17に係る高吸収性キサンタンガムは、引き続き真空凍結乾燥機にて加熱処理を行った。ただし加熱条件は85℃で72時間行うことによって得た。実施例18に係る高粘性キサンタンガムは、真空凍結乾燥機から取り出し、送風乾燥機(Hot air rapid drying oven,soyokaz:ISUZU社製)にて加熱処理を行うことによって得た。加熱条件は100℃で1時間行った。実施例19に係る高吸収性キサンタンガムは、真空凍結乾燥機から取り出し、送風乾燥機120℃(Hot air rapid drying oven,soyokaz:ISUZU社製)にて加熱処理を行うことによって得た。加熱条件は120℃で3時間行った。比較例5は、キサンタンガム(イナゲルV−10)を15g送風乾燥機(Hot air rapid drying oven,soyokaz:ISUZU社製)にて加熱処理を行うことによって得た。加熱条件は100℃で1時間行った。比較例6は、キサンタンガム(イナゲルV−10)を15g、送風乾燥機120℃(Hot air rapid drying oven,soyokaz:ISUZU社製)にて加熱処理を行うことによって得た。加熱条件は120℃で3時間行った。
【0044】
実施例16〜19、比較例5、6に係るキサンタンガムについて5重量%食塩水溶液に1.0重量%になるように溶解し、10分後、120分後の粘度を測定した。粘度はB型粘度計(LVDV−1 Prime:ブルックフィールド社製)を使用して測定し(3号ローター、12rpm、測定温度20℃)、表7に示した。実施例16〜19及び比較例5、6を食塩水ではなく水に溶解した時の10分後の粘度を同様に表7に記載した。
【0045】
また実施例16、18については、0.5重量%濃度になるように、20℃の水または5.0重量%食塩水に溶解したときの24時間後の水溶液粘度(LVDV−1 Prime:ブルックフィールド社製)を、実施例17、19については、1.0重量%濃度になるように、20℃の水または5.0重量%食塩水に膨潤させたときの膨潤度をそれぞれ調べ、表8に示した。膨潤度は、次のように測定した。実施例17、19のキサンタンガム1gを自由膨潤できる条件(200倍吸水しても破裂しない大きさの不織布)のティーパック袋に入れ、20℃の500mLの水又は食塩水に24時間浸漬して吸水倍率を調べた。比較としてキサンタンガム(V−10、伊那食品工業社製)を65℃で72時間加熱処理を行い比較例7に係るキサンタンガムを、100℃で1時間加熱処理を行い比較例8に係るキサンタンガムをそれぞれ作製した。比較例7に係るキサンタンガムは、実施例16、18と同様にして、比較例8に係るキサンタンガムは、実施例17、19と同様にして試験を行った。
【0046】
【表7】

【0047】
以上のように、比較例で作製したキサンタンガムは食塩水溶液中で粘度が発現しなかったのに対し本発明のキサンタンガムは粘度が発現した。
【0048】
【表8】

【0049】
本発明の高粘性キサンタンガム及び高吸水性キサンタンガムは食塩水中においても水に溶解した時と同様な粘性や膨潤度を示した。
【0050】
[試験例5(実施例20〜21):真空凍結乾燥と凍結乾燥]
キサンタンガム20gを水600gに溶解した。これを真空凍結乾燥(DF−05H:日本真空技術社製)(乾燥温度50℃)を行い水分値10%のブロックを作製し、粉砕機にて粉砕後100メッシュ篩にて篩って実施例20に係る粉末を作製した。これとは別に溶液について真空乾燥(ロータリーエバポレーター:V−805、R−200、B−490:BUCHI社製)を行い(乾燥温度50℃)、実施例20と同様にして実施例21に係る粉末を作製した。これを5重量%の食塩水200gに1重量%になるように添加し粘度の発現(3分後、10分後、30分後、60分後)を調べ表9に示した。粘度はB型粘度計(LVDV−1 Prime:ブルックフィールド社製)を使用して測定した(2号ローター、12rpm、測定温度20℃)。
【0051】
【表9】

【0052】
表9に示したとおり実施例20、21に係るキサンタンガムは比較例1のキサンタンガムに比べて食塩水中での溶解性が向上していた。また、真空凍結乾燥と真空乾燥を比較すると、真空凍結乾燥のほうが食塩への溶解性は良かった。
【0053】
[試験例6(実施例7、12、20、比較例1、2、4):栄養液中での粘度]
実施例20に係る溶液親和性キサンタンガム2g、比較例1に係るキサンタンガム(イナゲルV−10)2g、実施例7に係るローカストビーンガム2g、比較例2に係るローカストビーンガム(イナゲルL−85)2g、実施例12に係るペクチン2g、および比較例4に係るLMペクチン(イナゲルJM−15)2gを、エンシュア・リキッド(タンパク質量3.5W/V%,脂質量3.3W/V%:アボット・ジャパン社製)200gにそれぞれ溶解し粘度発現を調べ、表10に示した。粘度はB型粘度計(LVDV−1 Prime:ブルックフィールド社製)を使用して測定した(3号ローター、12rpm、測定温度20℃)。それぞれの多糖類について水に溶解したときの10分後の粘度を同様に表10に示した。
【0054】
【表10】

【0055】
以上のように、実施例に係る多糖類はタンパク質、脂質、含む栄養液中においても粘度発現が良好であった。
【0056】
[試験例7(実施例22〜26):デキストリン併用]
表11に示した配合にてキサンタンガム溶液を作製し、これを真空凍結乾燥(DF−05H:日本真空技術社製)(乾燥温度50℃)を行い水分値10%のブロックを作製し、粉砕機にて粉砕後100メッシュ篩にて篩って実施例22〜26に係る粉末を作製した。これを5重量%の食塩水200gにキサンタンガム含量が1重量%になるように添加し粘度の発現(3分後、10分後、30分後、60分後)を調べ表12に示した。粘度はB型粘度計(LVDV−1 Prime:ブルックフィールド社製)を使用して測定した(2号ローター、12rpm、測定温度20℃)。
実施例22〜26を食塩水ではなく水に溶解した時の10分後の粘度を表11に記載した。
【0057】
【表11】

【0058】
【表12】

【0059】
表12に示したとおり、デキストリンを添加して、真空凍結乾燥したほうが食塩への溶解性は良かった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
5重量%の食塩水溶液、並びに3.5W/V%の水溶性タンパク質及び3.3W/V%の油脂を含む水溶液のいずれかの水溶液に対する原料多糖類の親和性が向上された溶液親和性多糖類であって、
20℃の前記水溶液に1.0重量%溶解した際の10分後の粘度が、20℃の水に1.0重量%溶解した際の10分後の粘度の50%以上であることを特徴とする溶液親和性多糖類。
【請求項2】
原料多糖類を水に溶解させた後、溶解状態で真空乾燥又は真空凍結乾燥により乾燥させた溶液親和性多糖類。
【請求項3】
前記原料多糖類がキサンタンガム、ローカストビーンガム、LMペクチンであることを特徴とする請求項1又は2記載の溶液親和性多糖類。
【請求項4】
前記原料多糖類がキサンタンガムである請求項1又は2記載の溶液親和性多糖類が加熱処理された高粘性キサンタンガムであって、
20℃の5重量%の食塩水溶液に0.5重量%溶解した際の24時間後の粘度が500mPa・s〜5000mPa・sであることを特徴とする高粘性キサンタンガム。
【請求項5】
前記原料多糖類がキサンタンガムである請求項1又は2記載の溶液親和性多糖類が加熱処理された高吸水性キサンタンガムであって、
20℃の5重量%の食塩水溶液に1.0重量%溶解した際の24時間後の膨潤度が、20倍〜200倍であることを特徴とする高吸水性キサンタンガム。
【請求項6】
ローカストビーンガムの水に対する溶解性が向上された易溶性ローカストビーンガムであって、
20℃の水に1.0重量%溶解した際の10分後の粘度が、易溶化処理前の80℃の水に1.0重量%溶解した際の20℃の粘度の50%以上であることを特徴とする易溶性ローカストビーンガム。
【請求項7】
ペクチンのカルシウムイオン溶液に対する溶解性が向上された易溶性ペクチンであって、
20℃のカルシウムイオン溶液に直接添加してゲル化することを特徴とする易溶性ペクチン。

【公開番号】特開2012−139161(P2012−139161A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293971(P2010−293971)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】