説明

溶湯保持炉

【課題】レードル法、電磁誘導ポンプ法、ストッパ法によらずに出湯する溶湯保持炉を提供する。
【解決手段】溶湯保持炉20は、出湯口22を有し、軸心C回りに回転可能なルツボ21と、該ルツボ21内の軸心Cからオフセットした位置に溶湯Mを供給可能な溶湯供給樋29とを備え、この溶湯供給樋29から供給される溶湯を遠心力でルツボ21の炉壁に押し付け、該ルツボ内に溶湯Mを保持可能な構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、底注ぎ式の溶湯保持炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶湯保持炉に溶湯を保持し、保持した溶湯を出湯する方法としては、アームの先端にルツボを取り付けたレードル機構を備え、アームを移動することにより、溶湯を貯留した炉からルツボで溶湯を汲み上げ、鋳型の湯口にルツボ内の溶湯を出湯するレードル法がある(例えば、特許文献1参照)。また、溶湯を貯留した炉と鋳型の湯口とを圧送パイプでつなぎ、配管に電磁誘導ポンプを設け、電磁誘導ポンプを作動させることにより、出湯する電磁誘導ポンプ法や、溶湯保持炉の出湯口を形成するノズルをストッパで開閉するストッパ法(例えば、特許文献2参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭60−025220号公報
【特許文献2】特開平6−079431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、レードル法は、レードル機構が大きく、レードル機構を配置する溶解室を小さくできないので、溶解室内の圧力、温度、気体の種類等の雰囲気を制御する場合には向かない。
電磁誘導ポンプ法では、電磁誘導ポンプの溶湯推進力が弱いので、1回分の溶湯を計量する精度が悪い。溶湯推進力を強くするには、電磁誘導ポンプの電源装置が大規模化し、コストやスペースの観点で生産性を悪化させてしまう。また、圧送パイプの熱膨張対応やメンテナンスにもコストが嵩む。
ストッパ法では、ストッパのシール面への異物の付着により、ストッパとノズルとの間のシール性が下がり、溶湯漏れを起こすおそれがある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、レードル法、電磁誘導ポンプ法、ストッパ法によらずに出湯する溶湯保持炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、出湯口を有し、軸心回りに回転可能なルツボと、該ルツボ内の軸心からオフセットした位置に溶湯を供給可能な溶湯供給樋とを備え、この溶湯供給樋から供給される溶湯を遠心力で前記ルツボの炉壁に押し付け、該ルツボ内に溶湯を保持可能としたことを特徴とする。
上記構成によれば、出湯口を有し、軸心回りに回転可能なルツボと、ルツボ内の軸心からオフセットした位置に溶湯を供給可能な溶湯供給樋とを備えたため、回転するルツボに溶湯供給樋から溶湯が供給されると、ルツボ内に供給された溶湯を、遠心力でルツボの炉壁に押し付けて出湯口から離し、ルツボ内に保持できる。
【0006】
上記構成において、前記溶湯供給樋が溶湯を前記ルツボの内周面に衝突させて供給してもよい。
上記構成によれば、溶湯供給樋が溶湯をルツボの内周面に衝突させて供給するため、溶湯を出湯口から離して供給できるので、溶湯をルツボ内に供給する際に溶湯が出湯口からこぼれることを防止できる。
【0007】
上記構成において、前記ルツボが該ルツボの出湯口に連なる外部出湯口を有した密閉部材で覆われ、この密閉部材内が加圧され、前記外部出湯口に出湯時の溶湯の熱で貫通する閉塞部材を備えてもよい。
上記構成によれば、ルツボがルツボの出湯口に連なる外部出湯口を有した密閉部材で覆われ、この密閉部材内が加圧され、外部出湯口に出湯時の溶湯の熱で貫通する閉塞部材を備えたため、出湯直前まで閉塞部材で密閉部材内を密閉できるとともに、出湯口を瞬時に開くことができる。
【0008】
上記構成において、前記ルツボが該ルツボ内と前記出湯口とを連通する中空状の回転軸を備え、この回転軸の外周が軸受けにより回転自在に支持されていてもよい。
上記構成によれば、ルツボがルツボ内と出湯口とを連通する中空状の回転軸を備え、この回転軸の外周が軸受けにより回転自在に支持されているため、ルツボが回転中に軸心からぶれないので、ルツボを安定して回転させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、出湯口を有し、軸心回りに回転可能なルツボと、ルツボ内の軸心からオフセットした位置に溶湯を供給可能な溶湯供給樋とを備えたため、回転するルツボに溶湯供給樋から溶湯が供給されると、ルツボ内に供給された溶湯を、遠心力でルツボの炉壁に押し付けて出湯口から離し、ルツボ内に保持できる。したがって、ルツボの回転を止めることで、レードル法、電磁誘導ポンプ法、ストッパ法によらずに出湯できる。
【0010】
また、溶湯供給樋が溶湯をルツボの内周面に衝突させて供給するため、溶湯を出湯口から離して供給できるので、溶湯をルツボ内に供給する際に溶湯が出湯口からこぼれることを防止でき、溶湯をルツボ内に確実に保持できる。
【0011】
また、ルツボがルツボの出湯口に連なる外部出湯口を有した密閉部材で覆われ、この密閉部材内が加圧され、外部出湯口に出湯時の溶湯の熱で貫通する閉塞部材を備えたため、出湯直前まで閉塞部材で密閉部材内を密閉できるとともに、出湯口を瞬時に開くことができ、その結果、密閉部材内の雰囲気を出湯直前まで制御できる。
【0012】
また、ルツボがルツボ内と出湯口とを連通する中空状の回転軸を備え、この回転軸の外周が軸受けにより回転自在に支持されているため、ルツボが回転中に軸心からぶれないので、ルツボを安定して回転させることができ、溶湯が出湯口からこぼれることを確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る溶湯保持炉を適用した鋳造装置を模式的に示す図である。
【図2】溶湯供給樋の配置構造を図1の溶湯保持炉の側方から示す図である。
【図3】溶湯供給樋の配置構造を図1の溶湯保持炉の上方から示す図である。
【図4】溶湯が溶湯保持炉に供給された鋳造装置を模式的に示す図である。
【図5】出湯時の鋳造装置を模式的に示す図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る溶湯保持炉を適用した鋳造装置を模式的に示す図である。
【図7】出湯時の鋳造装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
<第1の実施の形態>
図1は、第1の実施の形態に係る溶湯保持炉を適用した鋳造装置を模式的に示す図である。
鋳造装置1は、鋳型10と、溶湯保持炉20とを備えて大略構成されている。鋳型10は、鋳物の一例として2本のカムシャフトを鋳造する銅製の金型であり、鋳型10には、図示しない冷却手段が設けられている。鋳型10は、固定型10A(例えば鋳型10の紙面垂直方向下半分)及び可動型10B(例えば鋳型10の紙面垂直方向上半分)を有し、固定型10A及び可動型10Bが互いに開閉可能に構成されている。なお、図1は、固定型10Aを可動型10B側から示す図である。鋳型10は、固定型10Aと可動型10Bとの合わせ面に、湯口11、メインランナ12、サブランナ13、チョーク14、フィルタ15、ガス抜き孔16、ゲート17、及び、キャビティ18を備えている。鋳型10の構成は、メインランナ12に対して左右対称となっている。
【0015】
湯口11は、例えば鋳鉄材料を溶かした溶湯Mの注入口である。メインランナ12は、湯口11から注入された溶湯Mを左右のサブランナ13に供給する湯道である。サブランナ13は、メインランナ12からの溶湯Mをキャビティ18に供給する湯道である。チョーク14は、サブランナ13の入口側に設けられ、サブランナ13に供給された溶湯Mの流速を減速させる絞り部である。フィルタ15は、サブランナ13においてチョーク14とゲート17との間に設けられ、溶湯M中のガスや異物を除去する。ガス抜き孔16はサブランナ13に接続され、溶湯Mから発生したガスを排出する。ゲート17は、サブランナ13の出口側に設けられ、キャビティ18に接続される。左右のゲート17は、キャビティ18の数に対応し、それぞれ1個設けられている。鋳型10は、キャビティ18の上部が開放された開放型の金型である。
【0016】
溶湯保持炉20は、溶湯Mを溜めるルツボ21を備えている。ルツボ21は上面が開放した有底円筒状に形成され、軸心C周りに回転可能に構成されている。ルツボ21の底部21Aには、軸心C近傍に、出湯口22を構成するノズル23が形成されている。ルツボ21内の溶湯Mは、破線矢印で示すように、出湯口22から鋳型10に出湯される。ルツボ21は、鋳型10の上方に、出湯口22が湯口11に対向するように配置されている。
ルツボ21は底部21A及び炉壁21Bを外装体24に覆われている。外装体24の底部には、出湯口22より大きい開口24Aが形成されており、この開口24Aから、ルツボ21のノズル23が外部に円筒状に延出している。ノズル23の外周には円筒状の摺動部材25が固定されている。ノズル23及び摺動部材25は回転軸26を構成している。回転軸26の外周は軸受け27により回転自在に支持され、軸受け27は図示しない固定部に固定されている。
【0017】
ルツボ21は、電動機61によって、水平に、かつ、一方向のみに回転されるよう構成されている。本実施の形態では、回転方向Xで示すように、ルツボ21が平面視で右回転するものとして説明するが、回転方向はこれに限定されない。電動機61は、図示しない固定部に固定されている。
外装体24の外周には、電動機61の回転が伝達される回転伝達部28が周方向に渡って設けられている。回転伝達部28は、略水平な水平面28Aと、水平面28Aに向かって斜めに延出する傾斜面28Bと、略鉛直に延出して水平面28A及び傾斜面28Bを結ぶ鉛直面28Cとを有している。水平面28Aに少なくとも1つ(本実施の形態では、2つ)の第1ローラ62が配置され、傾斜面28Bに少なくとも1つ(本実施の形態では、2つ)の第2ローラ63が配置され、回転伝達部28が第1及び第2ローラ62,63に挟まれた状態で回転可能に支持される。第1及び第2ローラ62,63の軸62A,63Aは図示しない固定部に回転可能に支持されている。
【0018】
第2ローラ63の1つは、その軸63Aが電動機61に接続されている。電動機61の回転は、第2ローラ63を介して回転伝達部28に伝達され、ルツボ21が軸心C回りに回転することとなる。ルツボ21の回転数(回転速度)は、ルツボ21の内径、1回に供給される溶湯Mの重量、出湯口22の径等の条件によって異なり、ルツボ21内の溶湯Mを保持している間に、出湯口22から溶湯Mが流出しないように、実験やシミュレーション等から決定される。
ルツボ21の側方には、鉛直面28Cに対向するように、ルツボ21の回転を停止するブレーキ54が配置されている。ブレーキ64は、矢印Yで示すように、ルツボ21の半径方向に移動可能に、図示しない固定部に支持されている。ブレーキ64は、鉛直面28Cを押さえるブレーキパッド64Aを備えている。電動機61、第1ローラ62、第2ローラ63、及びブレーキ64は、回転駆動機構60を構成している。
【0019】
溶湯保持炉20には、溶湯Mをルツボ21内に供給する溶湯供給樋29が設けられている。溶湯供給樋29は、外部から溶湯Mを受ける溶湯受け部29Aと、受けた溶湯Mをルツボ21内に供給する樋部29Bとを備えて構成されている。
図2は溶湯供給樋29の配置構造を図1の溶湯保持炉20の側方から示す図であり、図3は溶湯供給樋29の配置構造を図1の溶湯保持炉20の上方から示す図である。なお、図2及び図3では、軸受け27及び回転駆動機構60を省略する。
【0020】
樋部29Bは、軸心Cからオフセットした位置のルツボ21内に溶湯Mを供給可能に設けられている。すなわち、樋部29Bは、図2に示すように、炉壁21Bの底部21A近傍に向けて傾斜して配置されている。樋部29Bの傾斜角度は、実験やシミュレーション等によって決定され、本実施の形態では、水平面からの傾斜角度θが約30度に設定されている。
また、樋部29Bは、図3に示すように、溶湯Mの水平方向における供給方向Sが直交する直径Dに沿って、供給方向Sがルツボ21の回転方向Xと同じになる正方向側Rに、軸心Cからオフセットして配置される。樋部29Bは、軸心Cからルツボ21の半径方向外方にできるだけ寄せて設けられるのが望ましい。
【0021】
次に、図1−図5を参照し、本実施の形態の作用について説明する。図4は溶湯Mが溶湯保持炉20に供給された鋳造装置1を模式的に示す図であり、図5は出湯時の鋳造装置1を模式的に示す図である。
まず、図1を参照し、固定型10A及び可動型10Bが型締めされるとともに、電動機61が作動され、ルツボ21が回転される。なお、このとき、ブレーキ64は、ルツボ21の半径方向外側に位置しており、ブレーキパッド64Aが鉛直面28Cから離れているので、ルツボ21は回転可能な状態になっている。ルツボ21の回転数が所定回転数に到達すると、溶湯供給樋29から1回分の溶湯Mがルツボ21内に供給される。
【0022】
このとき、溶湯供給樋29は、軸心Cからオフセットした位置のルツボ21内に溶湯Mを供給可能に設けられているため、溶湯Mをルツボ21内に供給するときに、溶湯Mが出湯口22から流出することを防止できる。また、樋部29Bは、図2に示すように、炉壁21Bの底部21A近傍に向けて傾斜して設けられているため、炉壁21Bの底部21A近傍に供給できるので、溶湯Mがルツボ21の上部からこぼれることを防止できる。供給された溶湯Mは、図4に示すように、矢印Gで示す重力によって底部21Aに押し付けられるとともに、矢印Fで示す遠心力により、ルツボ21の炉壁21Bに押し付けられて出湯口22から離れるので、ルツボ21内に保持される。
【0023】
また、溶湯供給樋29は、図3に示すように、溶湯Mの水平方向における供給方向Sがルツボ21の回転方向Xに沿う正方向側R1に、軸心Cからオフセットして設けられている。これにより、ルツボ21に溶湯Mが供給されるときに、溶湯Mの水平速度の多くが角速度となるので、樋部29Bを軸心Cから正方向側R1にオフセットしない場合に比べ、溶湯Mの角速度の初速度を速くすることができる。その結果、溶湯Mにより大きな遠心力をかけることができるので、溶湯Mをルツボ21内に確実に保持きる。
【0024】
出湯するには、図5に示すように、ブレーキ64がルツボ21の半径方向内側に移動される。これにより、ブレーキパッド64Aが鉛直面28Cを押さえ、ルツボ21の回転を停止する。ルツボ21の回転の停止に伴い溶湯Mにかかる遠心力がなくなるので、炉壁21Bに溶湯Mは、重力によって出湯口22から流れ出て、出湯口22の真下にある湯口11から鋳型10内に注ぎ込まれる。ルツボ21の回転を急激に止めることで、出湯口22からすばやく鋳型10に注湯できる。このように、軸心C回りに回転可能なルツボ21と、ルツボ21内の軸心Cからオフセットした位置に溶湯Mを供給可能な溶湯供給樋29とを備えたため、ルツボ21の回転時には遠心力により溶湯Mを保持し、ルツボ21の回転を停止することで出湯できる。本実施の形態の溶湯保持炉20は、レードル法や電磁誘導ポンプ法に比べてコンパクトでシンプルな構成となるとともに、ストッパ法に対して溶湯漏れを防止できる。
【0025】
ルツボ21の内径が150mm、出湯口22の径が20mmである溶湯保持炉20に、10kgの溶湯Mを供給するシミュレーションを行った結果、ルツボ21を1000rpmの回転数で回転した場合に溶湯Mを保持でき、ルツボ21の回転を停止することで出湯することができた。なお、ルツボ21を1000rpmで回転させる場合には、ブレーキ64によりルツボ21の回転を停止させても、ルツボ21の回転が完全に止まりきる前に、ルツボ21内の溶湯Mの全てが出湯口22から流れ出る。
【0026】
以上説明したように、本実施の形態によれば、出湯口22を有し、軸心C回りに回転可能なルツボ21と、ルツボ21内の軸心Cからオフセットした位置に溶湯Mを供給可能な溶湯供給樋29とを備え、この溶湯供給樋29から供給される溶湯Mを遠心力でルツボ21の炉壁21Bに押し付け、ルツボ21内に溶湯Mを保持可能とする構成とした。この構成により、回転するルツボ21に溶湯供給樋29から溶湯Mが供給されると、ルツボ21内に供給された溶湯Mを、遠心力でルツボ21の炉壁21Bに押し付けて出湯口22から離し、ルツボ21内に保持できる。そして、ルツボ21の回転を止めることで、レードル法、電磁誘導ポンプ法、ストッパ法によらずに出湯できる。
【0027】
また、本実施の形態によれば、溶湯供給樋29が溶湯Mをルツボ21の内周面に衝突させて供給するため、溶湯Mを出湯口22から離して供給できるので、溶湯Mをルツボ21内に供給する際に溶湯Mが出湯口22からこぼれることを防止でき、溶湯Mをルツボ21内に確実に保持できる。
【0028】
また、本実施の形態によれば、ルツボ21がルツボ21内と出湯口22とを連通する中空状の回転軸26を備え、この回転軸26の外周が軸受け27により回転自在に支持されているため、ルツボ21が回転中に軸心Cに対してぶれないので、ルツボ21を安定して回転させることができ、その結果、溶湯Mが出湯口22からこぼれることを確実に防止できる。
【0029】
<第2の実施の形態>
次に、図6及び図7を参照し、本発明の第2の実施の形態について説明する。
図1に示す鋳造装置1では、ルツボ21を開放していたが、図6及び図7に示す第2の実施の形態の鋳造装置100では、ルツボ21を密閉部材70内に配置している。なお、図6及び図7では、図1に示す鋳造装置1と同一部分には同一の符号を付して説明を省略する。
鋳型110は、図6に示すように、キャビティ18が密閉された密閉型の金型であり、キャビティ18が密閉されている以外は図1に示す鋳型10と同一に構成されている。
【0030】
溶湯保持炉120は、略箱状の密閉部材70を備えている。密閉部材70の天部には、樋部29Bを貫通させる貫通孔71が形成されている。樋部29Bと貫通孔71との間には、密閉部材70内の密閉状態を維持できるように図示しないパッキンが設けられている。本実施の形態では、溶湯受け部29Aが図示を省略した蓋部材により気密に閉塞される。
密閉部材70には、ルツボ21の出湯口22に対向するように、外部出湯口72が形成されている。密閉部材70には、密閉部材70内を加圧する加圧手段41が加圧経路41Aを介して接続されている。加圧経路41Aは、密閉部材70を貫通して密閉部材70内に連通しており、図示しないシール材により気密に密閉部材70に接続されている。
【0031】
密閉部材70は、外部出湯口72が鋳型110の湯口11に対向するように、鋳型110上に配置される。鋳型110と密閉部材70との間には、湯口11及び出湯口22を囲うようにシール部材153A,153Bが設けられ、鋳型110内及び密閉部材70内が密閉されるようになっている。シール部材153A,153Bは、ゴム等の弾塑性材で形成されている。シール部材153A,153Bの間に、外部出湯口72を塞ぎ、密閉部材70内と鋳型110内とを仕切る薄板(閉塞部材)50が配置される。
【0032】
薄板50は、出湯時に溶湯Mの熱によって貫通するように構成されている。薄板50が、紙や樹脂等の可燃物で形成された場合には、出湯時に溶湯Mの熱で燃焼して貫通する。また、薄板50が、溶湯Mよりも融点の低い金属で形成された場合には、出湯時に溶湯Mの熱で溶けて貫通する。また、薄板50が、溶湯Mよりも融点の高い金属で形成された場合には、出湯時に溶湯Mの熱で薄板50の強度が下がり、溶湯Mの勢いで簡単に破れて貫通する。例えば、溶湯Mがアルミ合金の場合、薄板50は、消失させる仕切りとして、紙、又は、PETやポリエステル等の樹脂で形成され、強度を下げる仕切りとしてアルミ箔で形成される。また、例えば、溶湯Mが鉄系合金の場合には、薄板50は、消失させる仕切りとして、紙、樹脂、又はアルミ箔で形成され、強度を下げる仕切りとしてステンレス箔で形成される。
【0033】
ところで、外部出湯口72に出湯時に溶湯Mの熱で貫通する薄板50を設ける場合、溶湯Mが薄板50を貫通するのに時間が掛かると、薄板50上に溶湯Mが溜まり、外部出湯口72周囲に溶湯Mが触れてしまい、外部出湯口72周辺が損傷するおそれがある。そこで、本実施の形態では、薄板50の厚さが、溶湯Mが瞬時に貫通して外部出湯口72周囲に溶湯Mが触れることのない薄さに設定されている。また、薄板50の厚さは、加圧されたルツボ21内と外部との差圧に耐えられるように設定されている。
【0034】
次に、本実施の形態の作用について説明する。
まず、固定型10A及び可動型10Bが型締めされ、この鋳型110上に、湯口11を囲うようにシール部材153Bが配置される。シール部材153B上に薄板50が配置され、薄板50上に、湯口11を囲うようにシール部材153Aが配置される。そして、密閉部材70が、出湯口22が湯口11に対向するように鋳型110上に配置される。これにより、密閉部材70と鋳型110が密着するとともに、薄板50が密閉部材70と鋳型110との間にシール部材153A,153Bを介して挟持されることとなる。
【0035】
溶湯保持炉120においては、図1に示す溶湯保持炉20と同様に溶湯Mがルツボ21内に供給される。1回分の溶湯Mの供給が終了すると、溶湯受け部29Aが図示を省略した蓋部材によって閉められ、密閉部材70内が加圧手段41により加圧される。密閉部材70内の圧力が所定圧力まで上昇すると、ブレーキ64がルツボ21の半径方向内側に移動される。これにより、ブレーキパッド64Aが鉛直面28Cを押さえ、ルツボ21の回転を停止する。ルツボ21の回転の停止に伴い溶湯Mにかかる遠心力がなくなるので、炉壁21Bに溶湯Mは、重力によって出湯口22から流れ出て、図7に示すように、出湯口22から流れ出た溶湯Mの熱で薄板50が貫通する。このとき、薄板50は、溶湯Mの熱で着火して燃焼する又は溶けることで貫通する。あるいは、薄板50は、溶湯Mの熱で強度が下がり、溶湯Mの運動エネルギーにより、容易に破られて貫通する。そして、溶湯Mは、密閉部材70内と鋳型110内との圧力差及び重力により、鋳型110に円滑に注湯される。鋳物の成型が終了すると、密閉部材70が移動され、薄板50が外される。
【0036】
本実施の形態では、図1に示す鋳造装置1と同様に、ルツボ21を回転させて溶湯Mを保持することによる作用及び効果が得られる。それに加え、外部出湯口72を塞ぎ、出湯時に溶湯Mの熱で貫通する薄板50を設けたため、機密性を容易に維持できるとともに、外部出湯口72を瞬時に開くことができるので、密閉部材70内の圧力を出湯直前まで制御できる。これにより、注湯時に、密閉部材70内を加圧できるようになるため、出湯速度を速くし、鋳型110内の湯廻りを向上できる。なお、密閉部材70内の圧力は、所望の出湯速度となるような所定圧力に設定される。
【0037】
薄板50は、ルツボ21の出湯口22から離間して設けられているため、薄板50が溶湯Mの熱により消失することを防止する冷却部材を設ける必要がなく、部品点数を削減できるとともに、製造工程を簡略化できる。また、薄板50は、密閉部材70の外部出湯口72を鋳型110の湯口11に密着させる際に、密閉部材70と鋳型110の間に挟持されるため、薄板50を固定する固定部材を設ける必要がなく、部品点数を削減し、製造工程を簡略化できる。さらに、薄板50の取り付け部分にシール部材153A,153Bを配置することで、密閉部材70内の機密性をより高めることができる。
【0038】
薄板50は、溶湯Mが瞬時に貫通して外部出湯口72周囲に溶湯Mが触れることのない薄さに形成されているため、溶湯Mが薄板50を貫通するのに時間が掛からず、薄板50上に溶湯Mが溜まり、外部出湯口72周辺が損傷することを防止できる。また、薄板50は薄く形成されているため、薄板50が溶湯Mによって溶かされる際、あるいは、薄板50の強度が熱で下げられる際に、溶湯Mの温度低下はごくわずかとなるので、溶湯Mの温度低下によって鋳物品質が悪化することがなく、溶湯Mの温度を高くする必要もない。
【0039】
また、本実施の形態では、密閉部材70の外部出湯口72を鋳型110の湯口11に密着させた状態で、密閉部材70内の圧力を出湯直前まで制御できるため、注湯完了後も、密閉部材70内の圧力は高くなっている。したがって、引け巣対策のために、注湯完了後に密閉部材70内を再度加圧する場合にも、密閉部材70内の圧力を直ぐに高くすることができるので、鋳物に生じる引け巣を確実に防止できる。
また、密閉部材70内及び鋳型110内が密閉されているため、溶湯供給樋29に溶湯供給管等を接続して溶湯Mをルツボ21内に供給することで、溶湯Mが外気に晒されることによる溶湯Mの酸化や温度低下を防止できる。
【0040】
以上説明したように、本実施の形態によれば、ルツボ21がルツボ21の出湯口22に連なる外部出湯口72を有した密閉部材70で覆われ、この密閉部材70内が加圧され、外部出湯口72に出湯時の溶湯Mの熱で貫通する薄板50を備えたため、出湯直前まで薄板50で密閉部材70内を密閉できるとともに、外部出湯口72を瞬時に開くことができ、その結果、密閉部材70内の圧力を出湯直前まで制御できる。
【0041】
なお、本実施の形態では、本発明が、密閉部材70内の雰囲気として圧力を調整する鋳造装置100に適用されたが、これに限定されず、密閉部材70内の雰囲気として、温度を調整する鋳造装置や、空気を他の気体に置換する鋳造装置に適用されてもよい。
また、本実施の形態では、密閉部材70に加圧手段41を接続したが、加圧手段41に変えて、あるいは、この加圧手段41とともに鋳型110に減圧手段を接続してもよい。いずれの場合にも、注湯時には、鋳型110内の圧力に対して密閉部材70内を加圧すればよい。
【符号の説明】
【0042】
20,120 溶湯保持炉
21 ルツボ
21B 炉壁
21B1 内周面
22 出湯口
23 ノズル
27 軸受け
29 溶湯供給樋
50 薄板(閉塞部材)
70 密閉部材
72 外部出湯口
C 軸心
M 溶湯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出湯口を有し、軸心回りに回転可能なルツボと、該ルツボ内の軸心からオフセットした位置に溶湯を供給可能な溶湯供給樋とを備え、この溶湯供給樋から供給される溶湯を遠心力で前記ルツボの炉壁に押し付け、該ルツボ内に溶湯を保持可能としたことを特徴とする溶湯保持炉。
【請求項2】
前記溶湯供給樋が溶湯を前記ルツボの内周面に衝突させて供給することを特徴とする請求項1に記載の溶湯保持炉。
【請求項3】
前記ルツボが該ルツボの出湯口に連なる外部出湯口を有した密閉部材で覆われ、この密閉部材内が加圧され、前記外部出湯口に出湯時の溶湯の熱で貫通する閉塞部材を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の溶湯保持炉。
【請求項4】
前記ルツボが該ルツボ内と前記出湯口とを連通する中空状の回転軸を備え、この回転軸の外周が軸受けにより回転自在に支持されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の溶湯保持炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−179621(P2012−179621A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43096(P2011−43096)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)