説明

溶湯測温用保護管および溶湯測温計

【課題】 耐久性および耐衝撃性に優れる溶湯測温用保護管を提供する。
【解決手段】 溶湯温度を測定する温度検出素子40を収容可能な溶湯測温用保護管1であって、管本体10と、管本体10を被覆する補強材30とを備え、補強材30は、ガラス繊維からなる基材シート32にガラス質コーティング剤を含浸させると共に、基材シート32の表面全体をガラス質コーティング剤の塗布膜34で覆うことにより形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶湯測温用保護管および溶湯測温計に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム、亜鉛、銅などの非鉄金属やこれらの合金の溶湯温度を測定するため、熱電対などの温度検出素子を収容する保護管が従来から知られている。この溶湯測温用の保護管は、溶湯に浸漬させて用いられるため、例えば、シリカ、アルミナ、アルミナ・シリカ、ジルコニア等の金属酸化物や、炭化ケイ素、窒化ケイ素等の溶湯と反応し難い耐火物粉末を、水ガラスやシリカゾル・アルミナゾルなどの水溶液中に分散させたコーティング材を鋳鉄管などの管表面に塗布し、乾燥固化することにより得られる。
【0003】
ところが、このような保護管は、取り扱い時の衝撃や、測温中に鋳鉄管との間に生じる熱膨張差などによって、コーティング材に亀裂や剥離を生じるおそれがあり、或いは、コーティング材に付着した溶湯酸化物を除去清掃する際に、コーティング材の剥離や欠損を引き起こすおそれがあった。このため、例えば、アルミニウムダイカストにおける溶解炉や保持炉の溶湯温度の測定に用いられる場合、約1週間毎にコーティング材の再塗布が必要になるため作業が面倒なだけでなく、塗布後の乾燥処理が必要になることから操業に支障が無いように予備品を用意しておかなければならず、コスト面での問題も有していた。
【0004】
温度検出素子の保護管としては、上述した以外に、窒化ケイ素などのセラミック製保護管も知られている(例えば、特許文献1)。セラミック製保護管は、溶湯に浸漬させたまま長期間使用することができるため、メンテナンス上の問題は解消されるが、製造コストが高くなるだけでなく、機械的な衝撃に弱いという問題があり、溶解炉や保持炉への取り付け作業や付着した溶湯酸化物の除去作業などにおいて破損を生じるおそれがあった。
【特許文献1】特開2002−249380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、耐久性および耐衝撃性に優れる溶湯測温用保護管および溶湯測温計の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の前記目的は、溶湯温度を測定する温度検出素子を収容可能な溶湯測温用保護管であって、管本体と、前記管本体を被覆する補強材とを備え、前記補強材は、ガラス繊維からなる基材シートにガラス質コーティング剤を含浸させると共に、前記基材シートの表面全体をガラス質コーティング剤の塗布膜で覆うことにより形成されている溶湯測温用保護管により達成される。
【0007】
この溶湯測温用保護管において、前記管本体は、一端側にセラミック製のキャップが装着されていることが好ましく、前記管本体およびキャップが前記補強材により被覆された構成にすることができる。この場合、前記キャップは、前記管本体の端面と当接する段部を内周面に備えることが好ましい。また、前記キャップの前記管本体への装着は、前記管本体の外周面に設けられたフランジ部を介して行われていることが好ましい。更に、前記キャップは、炭化ケイ素質材料からなることが好ましい。
【0008】
また、本発明の前記目的は、上述した各溶湯測温用保護管に、温度検出素子が収容された溶湯測温計により達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐久性および耐衝撃性に優れる溶湯測温用保護管および溶湯測温計を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実態形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる溶湯測温用保護管を一部断面で示す側面図である。
【0011】
図1に示すように、溶湯測温用保護管1は、管本体10と、管本体10の一端側を閉塞するキャップ20と、管本体10及びキャップ20を被覆する補強材30とを備えている。
【0012】
管本体10は、普通鋼、ステンレス、鋳鉄などの金属材料からなり、両端に開口部を有している。管本体10は、一端側にキャップ20が取り付けられ、他端側から熱電対、測温抵抗体、サーミスタなどの温度検出素子(図示せず)が挿入される。
【0013】
キャップ20は、図2に拡大図で示すように、内周面にリング状の段部22を有しており、管本体10の端面が段部22に当接している。キャップ20は、温度検出素子の測温部を収納保護するものであることから、溶湯の温度を迅速に伝えるため熱応答性に優れることが要求される。このため、キャップ20は、セラミック製であることが好ましく、特に、炭化ケイ素(SiC)質材料は、強度、耐熱性、耐食性、耐酸化性、熱伝導性、入手性などに優れた性質を有するため好適である。キャップ20を構成するセラミックは、必ずしも高密度で緻密なものは要求されず、低コストの原料を用いて低い焼結温度で製造することができる。キャップ20の高さは、特に限定されないが、例えば、20〜100mmである。キャップ20への管本体10の挿入部の周囲には、パッチング材やキャスタブル材のような軟性の糊状耐火材を供給する等して、管本体10及びキャップ20内への溶湯の浸入を確実に防止することが好ましい。
【0014】
補強材30は、図1及び図2に示すように、管本体10及びキャップ20の外周面を被覆するように筒状に形成された基材シート32と、基材シート32の表面を覆う塗布膜34とを備えている。本実施形態においては、補強材30によるキャップ20の被覆は、熱伝導性を良好にするためキャップ20の先端面が露出するように行われているが、キャップ20の全体を被覆してもよい。
【0015】
基材シート32は、ガラススリーブ、ガラス織布、ガラス不織布などのガラス繊維からなり、ガラス繊維のガラス組成は、Eガラス、Sガラス(Tガラス)などを好ましく例示することができる。基材シート32は、内径が管本体10の外径と同程度か若干小さく設定されており、管本体10への装着後に管本体10の外表面と密着する。
【0016】
基材シート32におけるガラス繊維の隙間には、耐熱性を有するガラス質コーティング剤が、管本体10への装着前に塗布や浸漬などによって予め含浸されている。耐熱性のガラス質コーティング剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、アルミナ・シリカ、ジルコニア等の金属酸化物や、炭化ケイ素、窒化ケイ素等の溶湯と反応し難い耐火物粉末を、水ガラス(アルカリ金属ケイ酸塩)やシリカゾル・アルミナゾルなどの水溶液中に分散させたものを用いることができる。上述した耐火物粉末は、コーティング材の被覆強度を高めるため、繊維状の素材を粉砕して得られたものが好ましい。
【0017】
基材シート32表面への塗布膜34の形成は、耐熱性を有するガラス質コーティング剤の塗布により行われる。耐熱性のガラス質コーティング剤の塗布は、基材シート32の表面全体に均一に行うことが好ましく、粘度を適宜調整して複数回繰り返し行うことが好ましい。こうして得られる塗布膜34の基材シート32表面からの厚みは、0.2〜1.0mm程度が好ましい。基材シート32の表面に塗布するガラス質コーティング剤も、基材シート32に含浸させるガラス質コーティング剤と同様のものを例示することができる。
【0018】
上記の構成を有する溶湯測温用保護管1は、図3に示すように、温度検出素子40を挿入して測温部42がキャップ20内に位置するように収容することにより、溶湯測温計2が得られる。管本体10及びキャップ20の内部における温度検出素子40の周囲には、酸化マグネシウム粉末など良好な熱伝導性及び絶縁性を有する充填材を充填してもよい。
【0019】
温度検出素子40は、本実施形態では熱電対を使用し、多数に分割した絶縁パイプで熱電対素線を被覆したものを使用しているが、ステンレスパイプで被覆された汎用のシース熱電対などを使用することもでき、更には、測温抵抗体やサーミスタなどの他の温度検出素子を使用することもできる。
【0020】
本実施形態の溶湯測温用保護管1によれば、管本体10を被覆する補強材30が、耐熱性のガラス質コーティング剤を含浸したガラス繊維からなる基材シート32と、基材シート32の表面に形成した耐熱性のガラス質コーティング剤の塗布膜34とを備えているので、管本体10への溶湯の浸透による溶損劣化を防止できると共に、基材シート32の弾性によって、衝撃や熱膨張に伴うコーティング剤の剥離、亀裂を防止することができ、更には、付着した溶湯酸化物を除去する際のコーティング剤の剥離、欠損を防止することができる。この結果、耐久性および耐衝撃性が向上し、長期間の連続使用を行うことができる。
【0021】
また、温度検出素子40において特に保護が必要な測温部42の近傍が、セラミック製のキャップ20及び補強材30により覆われているので、溶湯に常時浸漬される部分の耐久性をより確実に高めることができる。
【0022】
また、キャップ20の内周面には段部22が形成されており、この段部22に管本体10の端面が当接しているので、管本体10とキャップ20との接合部を密着させることができ、キャップ20内への溶湯の浸入を確実に防止することができる。また、キャップ20への管本体10の挿入長さを一定にすることができるので、溶湯測温用保護管1の寸法精度を高めることができる。
【0023】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明の具体的な態様は上記実施形態に限定されない。例えば、本実施形態の溶湯測温用保護管1は、キャップ20の内周面に段部22を形成し、この段部22に管本体10の端面が当接した構成を有しているが、図4に示すようにキャップ20の内周面が先細のテーパ部24となるように形成し、管本体10をキャップ20に押し込んだ際に、キャップ20の外縁全体が管本体10の内周面と密着するように構成することもできる。
【0024】
また、本実施形態の溶湯測温用保護管1は、管本体10における一方の開口端にセラミック製のキャップ20を装着しているが、一方端が閉塞された有底状の管本体を使用することにより、キャップ20を有しない構成にすることも可能である。この場合は、管本体を閉塞する底部も含めて補強材30により被覆することが好ましい。
【0025】
また、本実施形態の溶湯測温用保護管1において、管本体10とキャップ20との装着は、図5に示すように、管本体10の一方端近傍における外周面に設けられたフランジ部18を介して行うこともでき、これによって、キャップ20の装着を確実に行うことができる。フランジ部18は、図5においては、端部に向けて延びるリング状の保持部18aを外周縁に有しており、保持部18aによってキャップ20の外周面を保持するように構成されているが、保持部18aを有しないリング状の構成であってもよい。フランジ部18がキャップ20の端面と当接するように構成すれば、段部22を設けなくてもキャップ20への管本体10の挿入長さを一定にすることができ、溶湯測温用保護管1の長さに関する製品毎のばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態にかかる溶湯測温用保護管を一部断面で示す側面図である。
【図2】図1に示す溶湯測温用保護管の部分拡大図である。
【図3】図1に示す溶湯測温用保護管を用いた溶湯測温計の分解図である。
【図4】図1に示す溶湯測温用保護管の変形例を示す部分拡大図である。
【図5】図1に示す溶湯測温用保護管の他の変形例を示す部分拡大図である。
【符号の説明】
【0027】
1 溶湯測温用保護管
2 溶湯測温計
10 管本体
20 キャップ
22 段部
30 補強材
32 基材シート
34 塗布膜
40 温度検出素子




【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯温度を測定する温度検出素子を収容可能な溶湯測温用保護管であって、
管本体と、前記管本体を被覆する補強材とを備え、
前記補強材は、ガラス繊維からなる基材シートにガラス質コーティング剤を含浸させると共に、前記基材シートの表面全体をガラス質コーティング剤の塗布膜で覆うことにより形成されている溶湯測温用保護管。
【請求項2】
前記管本体は、一端側にセラミック製のキャップが装着されており、
前記管本体およびキャップが前記補強材により被覆されている請求項1に記載の溶湯測温用保護管。
【請求項3】
前記キャップは、前記管本体の端面と当接する段部を内周面に備える請求項2に記載の溶湯測温用保護管。
【請求項4】
前記キャップの前記管本体への装着は、前記管本体の外周面に設けられたフランジ部を介して行われている請求項2または3に記載の溶湯測温用保護管。
【請求項5】
前記キャップは、炭化ケイ素質材料からなる請求項2から4のいずれかに記載の溶湯測温用保護管。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の溶湯測温用保護管に、温度検出素子が収容された溶湯測温計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−212374(P2007−212374A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34848(P2006−34848)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(592134871)日本坩堝株式会社 (31)
【Fターム(参考)】