説明

溶着状態検出装置および溶着状態検出方法

【課題】異なる板厚を持つ複数枚の板材をレーザーで溶接する場合でも溶着状態をリアルタイムでかつ正確に検出することができる溶着状態検出方法を提供する。
【解決手段】板厚の異なる複数枚の板材を準備しS1、準備した複数枚の板材を少なくとも一部が重なるように固定しS2、固定した複数枚の板材が重なる部分に向けてレーザー光を照射しS3、前記レーザー光を移動させS4、レーザー照射部に形成されるキーホールが反射したレーザー光を受光しS5、受光したレーザー光の強度波形に基づいて前記板材の溶着状態を検出するS6。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーを用いて溶接される板材の溶着状態を検出することができる溶着状態検出装置および溶着状態検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数枚の板材をレーザーで溶接した場合、その溶接の品質はたとえば下記特許文献1に示されているようにして検査される。
【0003】
すなわち、溶接時にキーホールから発生されるプラズマ光を2つのセンサによって検出し、検出したプラズマ光の周波数分布を求め、求めた周波数分布を基準となる周波数分布と比較することによって、溶接の品質を検査している。
【特許文献1】特開平10−6051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の溶接の品質の検査方法では、プラズマ光の周波数分布に基づいて溶接の品質を検査しているので、重ね合わせた複数の板材のうち、レーザー光の照射側にある板厚が厚い場合は、薄い板厚の場合に比べ、検査精度が若干低下する場合がある。
【0005】
すなわち、プラズマ光の周波数分布は、レーザー光の照射部に生じる溶融池の形状などの状態変化に起因する固有振動数の変化から得られるもので、溶融池の固有振動数の変化は、正常な溶接が行なわれている場合には複数枚の板材の総板厚に依存する。ところが、溶融池の固有振動数の変化は、板材間に隙間が生じて溶融池がそれぞれの板材に分離してしまった場合(未溶着が発生した場合)には、レーザー光の照射側に位置される板材の板厚に大きく依存するようになる。したがって、レーザー光の照射側に位置される板材の板厚が厚い場合には、未溶着の発生が検出しづらくなる傾向にあり、特にレーザー光の照射側の裏側にある板厚が、照射側の板厚よりも薄い場合には顕著となる。
【0006】
たとえば、2枚の板材をレーザー光で溶接する場合、レーザー光の照射側に位置される板材(上板)の厚みa(たとえば1.4mm)がレーザー光の照射側とは反対側に位置される板材(下板)の厚みb(たとえば0.65mm)と大きく異なると、未溶着が発生しても、プラズマ光の周波数分布に大きな変化が生じない。未溶着が発生した場合、プラズマ光の周波数分布の変化は、両板厚の和であるa+bの値が上板の板厚aに近づくほど小さくなる。つまり、上板の厚みが下板の厚みに対して厚くなればなるほど検出精度が低下する傾向にあるので、より高精度なセンサや解析装置が求められる。
【0007】
本発明は、このような従来の問題を解消するために成されたものであり、特にレーザー光の照射側に位置される板材の板厚に影響されることなく、溶着状態を高精度に検出することができる溶着状態検出装置および溶着状態検出方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、レーザーを用いて溶接される板材の溶着状態を検出する溶着状態検出装置である。
【0009】
すなわち、複数枚の板材の重なる部分に向けてレーザー光を照射するレーザー光照射手段と、レーザー照射部に形成されるキーホールが反射したレーザー光を受光するレーザー光受光手段と、受光したレーザー光の強度波形に基づいて前記板材の溶着状態を検出する溶着状態検出手段と、を有する溶着状態検出装置である。
【0010】
また、上記目的を達成するための本発明は、レーザーを用いて溶接される板材の溶着状態を検出する溶着状態検出方法である。
【0011】
すなわち、複数枚の板材を準備する段階と、準備した複数枚の板材を少なくとも一部が重なるように固定する段階と、固定した複数枚の板材が重なる部分に向けてレーザー光を照射する段階と、前記レーザー光を移動させる段階と、レーザー照射部に形成されるキーホールが反射したレーザー光を受光する段階と、受光したレーザー光の強度波形に基づいて前記板材の溶着状態を検出する段階と、を含む溶着状態検出方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、キーホールの状態に応じて変化するキーホールからのレーザー光の強度波形から溶接される板材の板厚に影響されることなく、溶着状態を高精度に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付した図面を参照して本発明を適用した最良の実施形態を説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る溶着状態検出装置を適用したリモートレーザー溶接システムの概略構成図である。
【0015】
本発明に係る溶着状態検出装置は、レーザーを用いて溶接される板材の溶着状態をリアルタイムかつ高精度に検出することができる。また、リモートレーザー溶接システムは、ある溶接箇所から次の溶接箇所までの移動が極めて速いという特徴を有していることから、自動車の溶接工程に急速に用いられるようになった溶接システムである。
【0016】
リモートレーザー溶接システムは、スキャナー100と、レーザー光受光部200と、アンプ300と、コンピュータ400とを備えている。
【0017】
スキャナー100は、レーザー光照射手段として機能するものであって、レーザー光Lを異なる板厚を持つ2枚の板材10A、10Bの重なる部分に向けて照射する。レーザー光受光部200は、レーザー光受光手段として機能するものであって、レーザー照射部20に形成されるキーホールが反射したレーザー光を受光する。アンプ300は、受光したレーザー光に基づいてレーザー光受光部200が出力する電気信号を増幅する。コンピュータ400は、溶着状態検出手段として機能するものであって、アンプ300が増幅した電気信号を取り込んで2枚の板材10A、10Bの溶着状態を検出する。
【0018】
スキャナー100は図示されていないロボットハンドに取り付けられる。スキャナー100は図示白抜き矢印の方向に移動され、2枚の板材10A、10Bに設定されている溶接箇所を溶接する。
【0019】
なお、本実施形態では、本発明の内容の理解を容易にするために、レーザー光を照射する対象として2枚の板材10A、10Bを例示して説明するが、本発明は、レーザー光を照射する対象として3枚以上の板材であっても適用可能である。また、本実施形態では2枚の板材10A、10Bとして異なる厚みを有する板材を例示しているが同一の厚みを有する板材であっても良い。
【0020】
スキャナー100は、YAGレーザーダイオード110と、第1光学系120と、第2光学系130とを備えている。
【0021】
YAGレーザーダイオード110は、YAGレーザー光を発生して外部に放射する。第1光学系120は、YAGレーザーダイオード110から出力されたレーザー光を平行光に変換する。第2光学系130は、第1光学系120から出力されたレーザー光を、ハーフミラー132、YAG光透過フィルター134、減衰フィルター136を介して、複数回反射させながら焦点を絞り込んで2枚の板材10A、10Bのレーザー照射部20に照射する。
【0022】
レーザー光Lが照射される2枚の板材10A、10Bは、レーザー光Lが照射される側(上板)に板厚の厚い板材10Aを、レーザー光Lが照射される側とは反対側(下板)にレーザー光Lが照射される側の板厚よりも薄い板厚の板材を、少なくとも一部が重なるように固定されている。具体的には、上板となる板材10Aは1.4mmの厚みを有しており、下板となる板材10Bは0.65mmの厚みを有している。
【0023】
レーザー光受光部200は、反射ミラー210と、凸レンズ220と、レーザー光入力部230と、光ファイバー240と、反射ミラー250と、光学フィルター260と、フォトダイオード270とを備えている。
【0024】
反射ミラー210は、レーザー照射部20に形成されるキーホールが反射したレーザー光を、第2光学系130に備えられている減衰フィルター136、YAG光透過フィルター134、ハーフミラー132を介して、ほぼ90°角度を変えて反射する。
【0025】
凸レンズ220は、反射ミラー210で反射されたキーホールからのレーザー光を絞り込んでレーザー光入力部230に入力させる。レーザー光入力部230に入力されたレーザー光は光ファイバー240を介して反射ミラー250に向けて出力される。
【0026】
反射ミラー250は、光ファイバー240から出力されるレーザー光をほぼ90°角度を変えて反射させ、光学フィルター260に向けて出力する。光学フィルター260は、レーザー光に含まれるノイズとなる波長領域の光をカットするものである。
【0027】
フォトダイオード270は、入力したレーザー光の強度に応じた電気信号を出力する。
【0028】
アンプ300は、フォトダイオード270から出力される電気信号をある一定のレベルまで増幅する。
【0029】
コンピュータ400は、溶着状態検出手段として機能するものであって、アンプ300によって増幅された電気信号を入力し、この電気信号をA/Dコンバータによってディジタル化し、ディジタル化された電気信号に基づいて、現在行なわれている溶接が正常に行われているか、未溶着状態が発生しているかを検出する。コンピュータ400は、経時的な電気信号のレベルの強度変化の波形と等価なレーザー光の経時的な強度変化を示す波形を、あらかじめ準備してあるレーザー光の経時的な強度変化を示すモデル波形と比較して両波形の相関関係を取る比較部を有する。なお、レーザー光の経時的な強度変化を示す波形は、受光した生波形または受光した生波形をウェーブレット変換した後の波形のいずれかの波形である。
【0030】
図2は、コンピュータ400の内部を機能別に分けたブロック図である。
【0031】
コンピュータ400は、レーザー光強度変化波形記憶部410と、レーザー光強度変化モデル波形記憶部420と、ウェーブレット変換部430と、比較部440と、表示部450とを備えている。
【0032】
レーザー光強度変化波形記憶部410は、アンプ300から出力されディジタル化された電気信号の生波形を経時的に記憶するものである。換言すれば、図3(A)または図3(B)に示すような、フォトダイオード270で捕らえられたレーザー光の経時的な強度変化を示す生波形を記憶するものである。
【0033】
レーザー光強度変化モデル波形記憶部420は、未溶着状態の発生を検出するために、未溶着状態の発生時に生じるモデル波形を記憶するものである。換言すれば、図4(A)または図4(B)に示すような、フォトダイオード270で捕らえられた未溶着状態の発生時にレーザー光の経時的な強度変化を示すモデル波形を記憶するものである。なお、レーザー光強度変化モデル波形記憶部420は、レーザー光強度変化波形記憶部410に記憶されているレーザー光の経時的な強度変化を示す生波形をそのまま用いて(ウェーブレット変換せずに)未溶着状態の発生を検出する場合には、図4(A)に示すような生のモデル波形を記憶させておく。これに対して、レーザー光強度変化波形記憶部410に記憶されているレーザー光の経時的な強度変化を示す生波形をウェーブレット変換してから未溶着状態の発生を検出する場合には、図4(B)に示すようなウェーブレット変換後のモデル波形を記憶させておく。
【0034】
ウェーブレット変換部430は、レーザー光強度変化波形記憶部410に記憶されているレーザー光の経時的な強度変化を示す生波形をウェーブレット変換するものである。ウェーブレット変換は、ウェーブレット関数を用いた周波数解析手法の1つである。現在では、ウェーブレット変換は、一般的に知られている解析手法であるので、ここでの詳細な説明は省略する。なお、レーザー光強度変化波形記憶部410に記憶されているレーザー光の経時的な強度変化を示す生波形をそのまま用いて未溶着状態の発生を検出する場合には、ウェーブレット変換部430は不要になる。
【0035】
比較部440は、比較手段として機能するものであって、ウェーブレット変換部430によって変換されたウェーブレット変換後の波形とレーザー光強度変化モデル波形記憶部420に記憶されている未溶着状態の発生時に生じるモデル波形(ウェーブレット変換されている)とを比較しその相関関係を見て、相関関係が強ければ、未溶着の発生があると判断するものである。なお、ウェーブレット変換部430を設けていない場合には、比較部440は、レーザー光強度変化波形記憶部410に記憶されているレーザー光の経時的な強度変化を示す生波形とレーザー光強度変化モデル波形記憶部420に記憶されている未溶着状態の発生時に生じるモデル波形(ウェーブレット変換されてない)とを比較しその相関関係を見て、相関関係が強ければ、未溶着の発生があると判断する。なお、相関関係が強いか否かの判断は、モデル波形と類似している波形が存在しているか否かを数学的手法によって求める。相関関係の強弱を求める手法には様々なものがあるが、現在一般的に使用されているものであれば、どのような手法を用いても良い。
【0036】
表示部450は、比較部440によって判断された未溶着の発生の有無を表示する。
【0037】
以上のように構成された本発明に係る溶着状態検出装置は、概略次のように動作する。
【0038】
まず、YAGレーザーダイオード110からレーザー光が出力される。レーザー光Lはスキャナー100によって板厚の異なる板材10A、10Bに照射される。レーザー光Lの照射によって照射部20に溶融池が形成されレーザー溶接が開始される。レーザー光Lは図1の白抜き矢印の方向に移動される。このとき、レーザー照射部20に形成されるキーホールより反射されたレーザー光はレーザー光受光部200に受光される。レーザー光受光部200から出力されるレーザー光の強弱に応じた電気信号は、アンプ300によって増幅される。増幅された電気信号はコンピュータ400でディジタル化されて時系列に記憶される。記憶された電気信号の波形はあらかじめ記憶されているモデル波形と比較され、モデル波形との相関が強い波形が存在すれば未溶着が発生していると判断し、モデル波形との相関が強い波形が存在しなければ正常に溶接が行われていると判断する。
【0039】
このように動作する本実施形態の溶着状態検出装置によれば、次のような効果を得ることができる。
【0040】
キーホールの状態に応じて変化するキーホールからのレーザー光の強度波形を観測すると、キーホールの挙動がわかり、異なる板厚の板材の溶着状態を検出することができる。したがって、異なる板厚の複数枚の板材が正常に溶着されているか、板材間の隙間に起因する未溶着状態が発生していないかを検出することができるようになる。
【0041】
また、一般的に、板材間の隙間に起因する未溶着状態が発生しているか否かは、レーザー光が照射される側に位置する板材の板厚が、レーザー光が照射される側の反対側に位置する板材の板厚よりも厚くなるにしたがって検出し難くなる。ところが、本発明のように、キーホールの状態に応じて変化するキーホールからのレーザー光の強度波形をモニターすることによって、異なる板厚の板材の溶着状態を検出することができる。したがって、異なる板厚の複数枚の板材が正常に溶着されているか、板材間の隙間に起因する未溶着状態が発生していないかを、リアルタイムで検出することができるようになる。
【0042】
そして、レーザー光の経時的な強度変化を示す波形をあらかじめ準備してある前記レーザー光の経時的な強度変化を示すモデル波形と比較し両波形の相関関係を取るようにすると、波形の特徴をより明確に鮮明に表すことができることになり、異なる板厚の板材の溶着状態を精度良く検出することができる。したがって、異なる板厚の複数枚の板材が正常に溶着されているか、板材間の隙間に起因する未溶着状態が発生していないかを、リアルタイムかつ高精度で検出することができるようになる。
【0043】
さらに、レーザー光の経時的な強度変化を示す生波形またはウェーブレット変換した後の波形をあらかじめ準備してある前記レーザー光の経時的な強度変化を示すモデル波形と比較して両波形の相関関係を取るようにしたので、異なる板厚の板材の溶着状態を精度良く検出することができる。したがって、異なる板厚の複数枚の板材が正常に溶着されているか、板材間の隙間に起因する未溶着状態が発生していないかを、リアルタイムかつ高精度で検出することができるようになる。
【0044】
次に、本発明に係る溶着状態検出方法について詳細に説明する。
【0045】
図5は、本発明に係る溶着状態検出方法の手順を示すフローチャートである。本発明に係る溶着状態検出方法は、レーザーを用いて溶接される板材の溶着状態を検出するものである。
ステップS1
まず、板厚の異なる2枚の板材を準備する。本実施形態では、図1に示すように、2枚の板材10A、10Bを準備する。なお、本実施形態では2枚の板材を準備する場合を例示する。板材は2枚に限らず3枚以上であっても良い。また、2枚の板材10A、10Bの厚みは異なる厚みであっても良いし、同一の厚みであっても良い。本実施形態では発明の理解を容易にするために異なる板材を例示して説明している。
ステップS2
次に、準備した2枚の板材10A、10Bを少なくとも一部が重なるようにして固定する。2枚の板材10A、10Bはレーザー光によって溶接されるため、レーザー光が照射される照射部20(図1参照)は2枚の板材10A、10Bが重なるようにしている。なお、レーザー光Lが照射される2枚の板材10A、10Bは、レーザー光Lが照射される側(上板)に板厚の厚い板材10Aを、レーザー光Lが照射される側とは反対側(下板)にレーザー光Lが照射される側の板厚よりも薄い板厚の板材を配置する。具体的には、上板となる板材10Aは1.4mmの厚みを有しており、下板となる板材10Bは0.65mmの厚みを有している。
ステップS3
固定した2枚の板材10A、10Bの重なる部分に向けてレーザー光を照射する。レーザー光Lは図1のスキャナー100から照射される。レーザー光が照射されると、図6(A)、図6(B)に示すように、レーザー照射部20に溶融池22が形成される。溶融池22は、レーザー照射部20において、重なり合っている2枚の板材10A、10Bの面方向に円状に広がり2枚の板材10A、10Bの厚み方向全体が溶けている部分である。また、溶融池22のレーザー光Lが直接当たっている部分にはキーホール24と言われる気体部が形成される。
ステップS4
次に、レーザー光Lを図6の白抜き矢印の方向に向けて移動させる。レーザー光Lの移動に伴ってレーザー照射部20が移動する。そのため、溶融池22であった部分が凝固して2枚の板材10A、10Bを溶着させる。
ステップS5
次に、レーザー照射部20に形成されるキーホール24が反射したレーザー光を受光する。キーホール24が反射したレーザー光は図1のレーザー光受光部200によって受光され、受光したレーザー光の強度に応じた電気信号に変換される。レーザー光を受光して電気信号に変換するのは図1に示すフォトダイオード270である。フォトダイオード270から出力された電気信号はアンプ300で増幅されコンピュータ400に入力される。
ステップS6
受光したレーザー光の強度波形に基づいて板材10A、10Bの溶着状態を検出する。溶着状態の検出はコンピュータ400が行なう。
【0046】
たとえば、正常な溶接が行われているときに、キーホール24から反射されるレーザー光は、図3(A)に示すように強度の低い安定した波形となる。ところが、板材10A、10Bの間に隙間が生じ、隙による未溶着が発生すると、図3(B)に示すように未溶着部分のみ強度の極端に高い不安定な波形となる。
【0047】
コンピュータ400は、図3(A)、図3(B)のような、レーザー光の経時的な強度変化を示す波形を、図4(A)、図4(B)のような、あらかじめ準備してある前記レーザー光の経時的な強度変化を示すモデル波形と比較して両波形の相関関係を取ることによって、板材10A、10B同士の溶着状態を検出する。レーザー光の経時的な強度変化を示す波形は、受光した生波形または受光した生波形をウェーブレット変換した後の波形のいずれかの波形を用いる。図3(B)のような受光した生波形を用いて未溶着を検出する場合には、図4(A)に示すような生のモデル波形を用いて相関関係を取る。相関関係があれば未溶着が発生したと判断できる。また、図3(B)のような受光した生波形をさらにウェーブレット変換した波形を用いて未溶着を検出する場合には、図4(B)に示すようなウェーブレット変換後のモデル波形を用いて相関関係を取る。相関関係があれば未溶着が発生したと判断できる。
【0048】
板材10A、10Bの間に隙間が生じ、隙による未溶着が発生した場合に、なぜキーホール24(図6(B)参照)からのレーザー光の反射が強くなるのかを、図7および図8に基づいて説明する。
【0049】
図7(A)に示すように、板材10A、10Bにレーザー光Lが照射されると、照射部20に溶融池22が形成される。また、溶融池22のレーザー光Lが直接当たる部分にキーホール24が形成される。キーホール24は、溶融池22の金属が気化して気体となっている部分である。図7では、上板となる板材10Aと下板となる板材10Bとの間に隙間が開いており、両板が分離した状態でそれぞれにキーホールが発生する。このときにキーホール24から得られるレーザー光の反射強度は、図8のA部分で示される。
【0050】
この状態のまま溶接が進むと、図7(B)に示すように、キーホールより噴出したが上板となる板材10Aと下板となる板材10Bの隙間に充満する。このときにキーホール24から得られるレーザー光の反射強度は、図8のB部分で示される。
【0051】
そして、図7(C)に示すように、上板となる板材10Aと下板となる板材10Bの隙間に充満した金属蒸気(プルーム)26によってレーザー光Lが遮断される。この結果、図7(D)に示すように、下板となる板材10Bからキーホール24が消える。次に、下板となる板材10Bに到達するレーザー光Lが減少し、キーホール24より発生する溶融池の大きさも減少する。そして、下板となる板材10Bから反射(金属反射)されるレーザー光が急激に増加する。このときにキーホール24から得られるレーザー光の反射強度は、図8のC部分で示される。この場合、上板となる板材10Aと下板となる板材10Bとは未溶着となる。
【0052】
この状態が一旦生じた後、上板となる板材10Aと下板となる板材10Bの隙間に充満したプルーム26が減少し、図7(E)に示すように、再びレーザー光が下板となる板材10Bにキーホール24を生成させる。この結果、下板となる板材10Bから反射されるレーザー光が急激に減少する。このときにキーホール24から得られるレーザー光の反射強度は、図8のD部分で示される。
【0053】
以上のように、上板となる板材10Aと下板となる板材10Bとの間に隙間があるときに、未溶着が発生すると、キーホール24から得られるレーザー光の反射強度が大きく変動する。反射強度の変動の仕方には一定の規則性があるので、本発明ではこれを利用してリアルタイムかつ高精度で未溶着の発生を検出している。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、レーザー光を用いて行なう溶接に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る溶着状態検出装置を適用したリモートレーザー溶接システムの概略構成図である。
【図2】コンピュータの内部を機能別に分けたブロック図である。
【図3】(A)は正常溶接時のYAG反射光の信号波形(生波形)を示す図、(B)は隙による未溶着発生時のYAG反射光の信号波形(生波形)を示す図である。
【図4】(A)は隙による未溶着発生時のYAG反射光の信号波形(生のモデル波形)を示す図、(B)は隙による未溶着発生時のYAG反射光の信号波形(ウェーブレット変換後のモデル波形)を示す図である。
【図5】本発明に係る溶着状態検出方法の手順を示すフローチャートである。
【図6】(A)、(B)は、レーザー光を用いた溶接を説明するための図面である。
【図7】(A)〜(E)は、未溶着が発生したときにキーホールから反射されるレーザー光の変化状態を説明するための図面である。
【図8】未溶着が発生したときにキーホールから反射されるレーザー光の反射光強度を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
10A 板材、
10B 板材、
20 レーザー照射部、
22 溶融池、
24 キーホール、
26 プルーム、
100 スキャナー、
110 レーザーダイオード、
120 第1光学系、
130 第2光学系、
132 ハーフミラー、
134 光透過フィルター、
136 減衰フィルター、
200 レーザー光受光部、
210 反射ミラー、
220 凸レンズ、
230 レーザー光入力部、
240 光ファイバー、
250 反射ミラー、
260 光学フィルター、
270 フォトダイオード、
300 アンプ、
400 コンピュータ、
410 レーザー光強度変化波形記憶部、
420 レーザー光強度変化モデル波形記憶部、
430 ウェーブレット変換部、
440 比較部、
450 表示部、
L レーザー光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザーを用いて溶接される板材の溶着状態を検出する溶着状態検出装置であって、
複数枚の板材の重なる部分に向けてレーザー光を照射するレーザー光照射手段と、
レーザー照射部に形成されるキーホールが反射したレーザー光を受光するレーザー光受光手段と、
受光したレーザー光の強度波形に基づいて前記板材の溶着状態を検出する溶着状態検出手段と、
を有することを特徴とする溶着状態検出装置。
【請求項2】
固定した複数枚の板材は、前記レーザー光が照射される側に板厚の厚い板材を、前記レーザー光が照射される側とは反対側に前記レーザー光が照射される側の板厚よりも薄い板厚の板材を、少なくとも一部が重なるように固定されていることを特徴とする請求項1に記載の溶着状態検出装置。
【請求項3】
前記溶着状態検出手段は、前記レーザー光の経時的な強度変化を示す波形をあらかじめ準備してある前記レーザー光の経時的な強度変化を示すモデル波形と比較して両波形の相関関係を取る比較手段を有することを特徴とする請求項1に記載の溶着状態検出装置。
【請求項4】
前記レーザー光の経時的な強度変化を示す波形は、受光した生波形または受光した生波形をウェーブレット変換した後の波形のいずれかの波形であることを特徴とする請求項3に記載の溶着状態検出装置。
【請求項5】
レーザーを用いて溶接される板材の溶着状態を検出する溶着状態検出方法であって、
複数枚の板材を準備する段階と、
準備した複数枚の板材を少なくとも一部が重なるように固定する段階と、
固定した複数枚の板材が重なる部分に向けてレーザー光を照射する段階と、
前記レーザー光を移動させる段階と、
レーザー照射部に形成されるキーホールが反射したレーザー光を受光する段階と、
受光したレーザー光の強度波形に基づいて前記板材の溶着状態を検出する段階と、
を含むことを特徴とする溶着状態検出方法。
【請求項6】
準備した複数枚の板材を少なくとも一部が重なるように固定する段階は、前記レーザー光が照射される側に板厚の厚い板材を、前記レーザー光が照射される側とは反対側に前記レーザー光が照射される側の板厚よりも薄い板厚の板材を、少なくとも一部が重なるように固定することを特徴とする請求項5に記載の溶着状態検出方法。
【請求項7】
受光したレーザー光の強度波形に基づいて前記板材の溶着状態を検出する段階は、前記レーザー光の経時的な強度変化を示す波形をあらかじめ準備してある前記レーザー光の経時的な強度変化を示すモデル波形と比較して両波形の相関関係を取ることによって、前記板材の溶着状態を検出することを特徴とする請求項5に記載の溶着状態検出方法。
【請求項8】
前記レーザー光の経時的な強度変化を示す波形は、受光した生波形または受光した生波形をウェーブレット変換した後の波形のいずれかの波形であることを特徴とする請求項7に記載の溶着状態検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−148795(P2009−148795A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329030(P2007−329030)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】