説明

溶菌剤

【課題】 病原性細菌の溶菌作用に優れ、安全性の高く、食中毒防止、食品・化粧品の細菌汚染防止やヒト、動物、養殖魚介類、植物の病気予防法を提供する。
【解決手段】 病原性細菌を乳酸菌処理物で溶菌することで、経口摂取により食中毒を防止し、食品および化粧品に配合することで微生物汚染を防止し、飼料に配合することで、細菌性に起因する疾病を防止、若しくは予防する。さらに植物に散布することで細菌性の病気を防止・予防し、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌性食中毒、食品の保存、化粧品の微生物汚染防止、家畜・家禽・養殖魚の疾病予防、衣服・物品の消毒、身体消毒・洗浄、植物疾病予防に関する。
【背景技術】
【0002】
食品・化粧品等の微生物汚染や増殖による弊害は、不十分な衛生状態・防腐対策を怠ることで、生じている。その対策は素材や調理の衛生状態の改善や微生物の一次汚染をなくすことが第一であるが、食品・化粧品の微生物増殖・汚染防止として、従来ソルビン酸、安息香酸及びその塩類、パラベン類の合成保存料、リゾチーム、リモネン、プロタミン、キトサン、ペクチン分解物、茶抽出物の天然系保存料が使用されている(特許文献1、2、3参照)。しかしながら、これらは安全性、刺激性、その効果、さらにその素材の色調、味覚において十分に満足させるものではない。
【0003】
またヒトや動植物の微生物汚染防止または治療として、抗生物質が多量に使用され、人類史上それまで有効な治療方法のなかった多くの感染症が制圧され人類に大きな福音をもたらした。抗生物質はこのような特性からヒトばかりでなく家畜、家禽、養殖魚の細菌性の疾病に広く使用され、日本国内では年間約2000トンも使用されるようになり、このような抗生物質の乱用により耐性菌が増加し、ヒトの死亡率の増加、食への安全性の問題が生じている(非特許文献1)
【0004】
乳酸菌は古来、食品保存、食品として長年使用され、最近では免疫賦活作用、整腸作用、コレステロール低減作用、抗腫瘍作用が注目され、健康維持のため幅広く飲用されるようになってきた(非特許文献2参照)。
そこで、微生物汚染を防ぐために、安全性の高く、健康に良いと言われている乳酸菌が検討されている(非特許文献3参照)。
【0005】
しかしながら、これらの乳酸菌は直接、微生物に対して作用を示すものではなく、乳酸菌を服用し、免疫機能を高め、IgAの作用により間接的に抗菌作用を示すものである。従ってその効果は軽微で食品添加物や直接微生物に対して作用もないことから用途は限定される。また、ストレプトコッカスの酵素前駆体組成物がグラム陽性菌の阻止および溶菌作用を示すことが報告されているが、これは菌体そのものではなく、菌体細胞質からの抽出成分である(非特許文献4)。
【0006】
以上の事項から、細菌に対して耐性菌が生じることなく安全で使用感に影響を与えず、病原性微生物に対する抗菌作用を有する添加物の開発が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特許公報 昭62−53141号公報
【特許文献2】特許公報 平4−35151号公報
【特許文献3】特許公報 平5−58702号公報
【非特許文献1】日本子孫基金・編 「食べ物から広がる耐性菌」発行所:株式会社三五館(2003)
【非特許文献2】細野明義・編 「発酵乳の科学」アイ・ケイコーポレーション社(2002)
【非特許文献3】小崎道雄・佐藤英一・編著「乳酸発酵の新しい系譜」中央法規出版株式会社(2004)
【非特許文献4】Rober W.Jackson, Bacteriolysis and Inhibition of Gram−Positive Bacteria by Components of Streptococcus zymogenes Lysin、 Journal of Bacterology Jan.P156−159 (1971 )
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、ヒト、家畜、家禽、魚介類、植物に対して安全性が高く、微生物汚染、細菌性疾病に対処する溶菌作用を有する添加剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記目的を達成するために、すでに食経験からも安全性が確認されている乳酸菌に着目し、鋭意研究を重ねた結果、乳酸菌を培養し、菌体を超音波処理、ホモジナイザー粉砕もしくは凍結・融解のいずれの方法にて処理し、水、または生理食塩水で洗浄し、遠心分離後、細胞質を除いた細胞膜のみを凍結乾燥、もしくは低温乾燥して得られる乳酸菌処理物が病原性細菌を溶菌させるとの新知見を得、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0010】
本発明に乳酸菌処理物は顕著に病原性細菌の増殖を抑制した。本発明品は、食品・化粧料の防腐剤、家畜、家禽、養殖魚・海老飼料、植物病気予防剤、医薬品において上記目的のあらゆる分野に応用可能で、乳酸菌処理物を有効成分として食品、化粧品に配合すると微生物の増殖が抑制され、微生物の二次汚染や食中毒を予防・防止することが可能となった。また、家畜・家禽・魚介類の飼料として経口投与すると病原性細菌による疾患を予防・防止することが可能となり、その効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いられる乳酸菌はラクトバチルス(Lactobacillus)属、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ラクトコッカス(Lacococcus)属、ロイコノストックス(Lueconostoc)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属及びワイセラ(Weissella)属等に属する乳酸菌を培養して得られる菌体の処理物からなる群より選ばれた1種又は2種以上である。
【0012】
上記の本発明の乳酸菌の処理物調製法は、菌体を破砕し、細胞質を除去し、細胞膜を得るものである。従って菌の増殖能はない。その処理方法および乳酸菌の種類は特に制限されるものではないが、その例としては、先ずラクトバチルス属、ラクトコッカス属、ペディオコッカス属、ロイコノストックス属、ストレプトコッカス属、エンテロコッカス及びワイセラ属等に属する乳酸菌をその乳酸菌に適した培地を用いて培養する。その後、培地と菌体を遠心分離器にて分離し、水、または生理食塩水にて洗浄し、菌体を得る。さらに菌体を水、または生理食塩水に懸濁し、超音波、ホモジナイザー、凍結・融解法にて菌体膜を破壊する。その後遠心分離・洗浄工程を経て、乳酸菌の細胞菌のみを得る。これを凍結乾燥および低温乾燥にて乳酸菌処理物を得る。必要ならば工程中に溶菌効果低下に影響を及ぼさない範囲で更に、細胞膜の純度を向上させるために活性炭、シリカゲル、イオン交換樹脂等を使用し、脱臭、脱色等の精製処理をしても良い。
【0013】
本発明で使用する乳酸菌にはラクトバチルス属、ラクトコッカス属、ペディオコッカス属、ロイコノストックス属、ストレプトコッカス属及びエンテロコッカス属等があるが、これらの属および種に限定されるものではない。ラクトバチルス属としては、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチル・プランタム、スラクトバチルス・デルブルッキー、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ペントーサス等がある。ラクトコッカス属としては、ラクトコッカスおよびラクチスクレモリス等がある。ペディオコッカス属としては、ペディオコッカス・ペントサセウス、ペディオコッカス・アシディラクティシ、ペディオコッカス・ヘパリナス等がある。 ロイコノストックス属としては、ロイコノストックス・ラクティス、ロイコノストック・メセンテロイデス、ロイコノストックス・メセンテロイデス等がある。ストレプトコッカス属としてはストレプトコッカス・ サーモフィラスがある。エンテロコッカス属にはエンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、ワイセラ属としては、ワイセラ・シバリア、ワイセラ・コンフューサ、ワイセラ・ヘレニカ、ワイセラ・カンドレリ、ワイセラ・マイナー、ワイセラ・パラメセンテロイデスまたは/およびワイセラ・タイランデンシス等を挙げることができる。
【0014】
これらの種に属する乳酸菌の中でも、ラクトバチルス・ファーメンタム キリシマ1R株、ペディオコッカス ペントサセウス キリシマ1C株、ラクトバチルス・ファーメンタム キリシマ3R株、ペディオコッカス・アシディラクティシ キリシマ2C株などがグラム陽性菌およびグラム陰性菌の病原菌に対して溶菌作用が強く好適である。なお、これらの菌株は下記の受託番号によりセンターに寄託されている。
【0015】
ラクトバチルス・ファーメンタム キリシマ1R (NITE P−784)
ペディオコッカス・ペントサセウス キリシマ1C (NITE P-787)
ラクトバチルス・ファーメンタム キリシマ3R (NITE P-786)
ペディオコッカス・アシディラクティシ キリシマ2C (NITE P-788)
【0016】
好ましい乳酸菌の培養方法の例としては、本発明に用いる培地は天然培地、合成培地、半合成培地などの培地がある。培地の窒素源としては肉エキス、ペプトン、グルテン、カゼイン、酵母エキス、アミノ酸等が使用できる。炭素源としてはグルコース、キシロース、フラクトース、イノシトール、デンプン、バガス、フスマ、糖蜜、グルセリン等が使用できる。この他に窒素源と炭素源を含むスキムミルク、またはその分解物、コーンスティープリカー、焼酎粕、大豆粕とその分解物も培地の成分の一成分として配合可能である。この他にミネラルやイオン化成分として鉄、マンガン、モリブデン、塩化マグネシウム、食塩、リン酸カリウム、硫酸アンモニウム等の成分の配合が可能である。さらに適宜乳酸菌の特性に応じて各種のビタミン、界面活性剤、有機酸、トマトジュースを添加できる。
【0017】
培養温度は25℃〜45℃であるが、好ましくは約30〜37℃で、培養時間は約12〜48時で静置もしくは振とう培養でもよい。培地のpHは3〜7で、このましくはpH4〜6である。培養終了後、菌体を採取し、上記で示した方法にて処理し、溶菌作用を有する乳酸菌処理物を得る。
【0018】
本発明の溶菌作用を有する乳酸菌処理物のその形態については、この有効成分を含む限り特に制限はなく、液状、ペースト状、ゲル状等のいずれの形態で用いることもできる。さらにデキストリン、乳糖、コーンスターチ、セルロース等の賦形薬で媒散して用いることもできる。
【0019】
以下、本発明の有効成分である溶菌作用を有する乳酸菌処理物の応用例について説明する。
(食中毒防止剤)
本発明の応用例の食中毒防止剤は、前記乳酸菌処理物を含有することを特徴とする。本発明の乳酸菌処理物を1日に10mg〜1gを摂取することでご飯、弁当の食材、飲料水、生菓子、玉子、サラダ、サンドイッチ、おにぎり等による食品による細菌性食中毒を防止、または軽微にすることができる。
【0020】
(食品保存剤)
本発明の応用例の食品保存剤は、前記乳酸菌処理物を含有することを特徴とする。本発明の乳酸菌処理物の食品における上記乳酸菌処理物の含有量は、食品中、乾燥固形分として0.01〜5.0質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜1.0質量%である。この範囲であれば、食品の防腐効果により微生物の増殖を抑制し、賞味期限の延長効果に優れ、食中毒抑制効果や賞味期限の延長が可能で経時安定性の面からも良好なものが得られる。
【0021】
本発明の乳酸菌処理物含有の食品は、食中毒、細菌による腐敗・変質防止成分として、常法に従い、通常の食品に使用され、配合することができる。例えば、ご飯、弁当の食材、飲料水、生菓子、玉子、サラダ、サンドイッチ、おにぎり、漬物等である。
【0022】
また、本発明の乳酸菌処理物含有の食品には、天然の防腐剤であるプロタミン分解物、グリシン、ポリリジン、グレープ・フルーツシード・エキス等を本発明の効果を損なわない範囲で目的に応じて適宜加えることができる。
【0023】
(化粧品防腐剤)
本発明の応用例の化粧品防腐剤は、前記乳酸菌処理物を含有することを特徴とする。本発明の乳酸菌処理物の食品における上記乳酸菌処理物の含有量は、化粧品中、乾燥固形分として0.01〜5.0質量%(以下、単に「%」と記す)が好ましく、より好ましくは0.05〜1.0質量%である。この範囲であれば、化粧品の防腐効果により一次汚染および二次汚染による微生物増殖を抑制し、経時変化による化粧品の臭い、色調の変質を防止し、経時安定性の面からも良好なものが得られる。
【0024】
本発明の乳酸菌処理物含有の化粧品は、配合形態の例としては、特に限定されず、例えば、乳液、クリーム、化粧水、美容液、パック、洗浄料、メーキャップ化粧料、分散液、軟膏、液剤、エアゾール、貼付剤、パップ剤等のいずれの形態の化粧料であっても外用医薬品等であっても良い。
【0025】
また、本発明の乳酸菌処理物含有の化粧品には、天然の防腐剤であるプロタミン分解物、グリシン、ポリリジン、グレープ・フルーツシード・エキス等を本発明の効果を損なわない範囲で目的に応じて適宜加えることがで きる。
【0026】
(家畜、家禽、養殖魚飼料)
本発明の応用例の家畜、家禽、養殖魚飼料は、前記乳酸菌処理物を含有することを特徴とする。本発明の乳酸菌処理物の食品における上記乳酸菌処理物の含有量は、飼料中、乾燥固形分として0.01〜2.0質量%(以下、単に「%」と記す)が好ましく、より好ましくは0.1〜1.0質量%である。この範囲であれば、飼料の溶菌効果により牛、豚においては下痢の一因となっている大腸菌O157菌の増殖を抑制し、抗生物質投与量を大幅に減少可能な良好な飼料が得られる。
【実施例】
【0027】
次に製造例及び実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら制約されるものではない。
【0028】
[溶菌作用を有する乳酸菌処理物の製造]
[製造例1]
MRS培地にラクトバチルス・ファーメンタム キリシマ1Rをおおよそ10cfu/mLの前培養液を1.0v/v%になるように接種し、30℃で20時間培養した。得られた培養液を1万Gにて遠心分離し、菌体を分離した。さらに精製水洗浄と遠心分離を繰り返し、菌体を十分に洗浄した後、超音波処理し、細胞膜を破砕した。その後精製水で洗浄し、遠心分離後沈殿物を凍結乾燥し、乳酸菌処理物を得た。おおよそ培養液から0.10質量%の収率で淡黄色の乳酸菌処理物を得た。
【0029】
[製造例2]
MRS培地にラクトバチルス・ファーメンタム キリシマ3Rをおおよそ10cfu/mLの前培養液を1.0v/v%になるように接種し、35℃で20時間培養した。得られた培養液を1万Gにて遠心分離し、菌体を分離した。さらに精製水洗浄と遠心分離を繰り返し、菌体を十分に洗浄した後、超音波処理し、細胞膜を破砕した。その後精製水で洗浄し、遠心分離後沈殿物を凍結乾燥し、乳酸菌処理物を得た。おおよそ培養液から0.12質量%の収率で淡黄色の乳酸菌処理物を得た。
【0030】
[製造例3]
MRS培地にラクトバチルス・ファーメンタム NBRC3071をおおよそ10cfu/mLの前培養液を1.0v/v%になるように接種し、30℃で20時間培養した。得られた培養液を1万Gにて遠心分離し、菌体を分離した。さらに精製水洗浄と遠心分離を繰り返し、菌体を十分に洗浄した後、超音波処理し、細胞膜を破砕した。その後精製水で洗浄し、遠心分離後沈殿物を凍結乾燥し、乳酸菌処理物を得た。おおよそ培養液から0.08質量%の収率で淡黄色の乳酸菌処理物を得た。
【0031】
[製造例4]
MRS培地にペディオコッカス・ペントサセウス キリシマ1Cをおおよそ10cfu/mLの前培養液を1.0v/v%になるように接種し、30℃で20時間培養した。得られた培養液を1万Gにて遠心分離し、菌体を分離した。さらに精製水洗浄と遠心分離を繰り返し、菌体を十分に洗浄した後、超音波処理し、細胞膜を破砕した。その後精製水で洗浄し、遠心分離後沈殿物を凍結乾燥し、乳酸菌処理物を得た。おおよそ培養液から0.09質量%の収率で淡黄色の乳酸菌処理物を得た。
【0032】
[製造例5]
MRS培地にペディオコッカス・アシディラクティシ キリシマ2Cをおおよそ10cfu/mLの前培養液を1.0v/v%になるように接種し、30℃で20時間培養した。得られた培養液を1万Gにて遠心分離し、菌体を分離した。さらに精製水洗浄と遠心分離を繰り返し、菌体を十分に洗浄した後、凍結・融解法にて処理し、細胞膜を破砕した。その後精製水で洗浄し、遠心分離後沈殿物を凍結乾燥し、乳酸菌処理物を得た。おおよそ培養液から0.11質量%の収率で淡黄色の乳酸菌処理物を得た。
【0033】
[製造例6]
5w/v%スキムミルクをプロテアーゼで酵素分解し、オートクレーブ後、沈殿物を除去したものを培地とし、これに製造例MRS培地にラクトバチルス・ファーメンタム キリシマ1Rをおおよそ10cfu/mLの前培養液を1.0v/v%になるように接種し、30℃で20時間培養した。得られた培養液を1万Gにて遠心分離し、菌体を分離した。さらに精製水洗浄と遠心分離を繰り返し、菌体を十分に洗浄した後、超音波処理し、細胞膜を破砕した。その後精製水で洗浄し、遠心分離後沈殿物を凍結乾燥し、乳酸菌処理物を得た。おおよそ培養液から0.09質量%の収率で白色の乳酸菌処理物を得た。
【0034】
[製造例7]
5w/v%スキムミルクをプロテアーゼで酵素分解し、オートクレーブ後、沈殿物を除去したものを培地とし、これにペディオコッカス・ペントサセウス キリシマ1C おおよそ10cfu/mLの前培養液を1.0v/v%になるように接種し、35℃で20時間培養した。得られた培養液を1万Gにて遠心分離し、菌体を分離した。さらに精製水洗浄と遠心分離を繰り返し、菌体を十分に洗浄した後、超音波処理し、細胞膜を破砕した。その後精製水で洗浄し、遠心分離後沈殿物を凍結乾燥し、乳酸菌処理物を得た。おおよそ培養液から0.10質量%の収率で白色の乳酸菌処理物を得た。
【0035】
[製造例8]
5w/v%スキムミルクをプロテアーゼで酵素分解し、オートクレーブ後、沈殿物を除去したものを培地とし、これにラクトバチルス・ファーメンタム NBRC3071をおおよそ10cfu/mLの前培養液を1.0v/v%になるように接種し、30℃で20時間培養した。得られた培養液を1万Gにて遠心分離し、菌体を分離した。さらに精製水洗浄と遠心分離を繰り返し、菌体を十分に洗浄した後、超音波処理し、細胞膜を破砕した。その後精製水で洗浄し、遠心分離後沈殿物を凍結乾燥し、乳酸菌処理物を得た。おおよそ培養液から0.011質量%の収率で白黄色の乳酸菌処理物を得た。
【0036】
[製造例9]
5w/v%スキムミルクをプロテアーゼで酵素分解し、オートクレーブ後、沈殿物を除去したものを培地とし、これにペディオコッカス・アシディラクティシ キリシマ2Cをおおよそ10cfu/mLの前培養液を1.0v/v%になるように接種し、30℃で20時間培養した。得られた培養液を1万Gにて遠心分離し、菌体を分離した。さらに精製水洗浄と遠心分離を繰り返し、菌体を十分に洗浄した後、超音波処理し、細胞膜を破砕した。その後精製水で洗浄し、遠心分離後沈殿物を凍結乾燥し、乳酸菌処理物を得た。おおよそ培養液から0.08質量%の収率で白黄色の乳酸菌処理物を得た。
【0037】
[製造例10]
5w/v%スキムミルクをプロテアーゼで酵素分解し、オートクレーブ後、沈殿物を除去したものを培地とし、これにラクトバチルス・ファーメンタム キリシマ3Rをおおよそ10cfu/mLの前培養液を1.0v/v%になるように接種し、30℃で20時間培養した。得られた培養液を1万Gにて遠心分離し、菌体を分離した。さらに精製水洗浄と遠心分離を繰り返し、菌体を十分に洗浄した後、凍結・融解法にて処理し、細胞膜を破砕した。その後精製水で洗浄し、遠心分離後沈殿物を凍結乾燥し、乳酸菌処理物を得た。おおよそ培養液から0.10質量%の収率で白色の乳酸菌処理物を得た。
【0038】
[製造例11]
5w/v%スキムミルクをプロテアーゼで酵素分解し、オートクレーブ後、沈殿物を除去したものを培地とし、これにエンテロコッカス・フェカリス NBRC 3989をおおよそ10cfu/mLの前培養液を1.0v/v%になるように接種し、30℃で20時間培養した。得られた培養液を1万Gにて遠心分離し、菌体を分離した。さらに精製水洗浄と遠心分離を繰り返し、菌体を十分に洗浄した後、超音波処理し、細胞膜を破砕した。その後精製水で洗浄し、遠心分離後沈殿物を凍結乾燥し、乳酸菌処理物を得た。おおよそ培養液から0.09質量%の収率で淡黄色の乳酸菌処理物を得た。
【0039】
[製造例12]
MRS培地にペディオコッカス・ペントサセウス NBRC 3182をおおよそ10cfu/mLの前培養液を1.0v/v%になるように接種し、35℃で20時間培養した。得られた培養液を1万Gにて遠心分離し、菌体を分離した。さらに精製水洗浄と遠心分離を繰り返し、菌体を十分に洗浄した後、凍結・融解法にて処理し、細胞膜を破砕した。その後精製水で洗浄し、遠心分離後沈殿物を凍結乾燥し、乳酸菌処理物を得た。おおよそ培養液から0.12質量%の収率で淡黄色の乳酸菌処理物を得た。
【0040】
[製造例13]
5w/v%スキムミルクをプロテアーゼで酵素分解し、オートクレーブ後、沈殿物を除去したものを培地とし、これにラクトバチルス・ラクティス 亜種 ラクティス NBRC12007をおおよそ10cfu/mLの前培養液を1.0v/v%になるように接種し、30℃で20時間培養した。得られた培養液を1万Gにて遠心分離し、菌体を分離した。さらに精製水洗浄と遠心分離を繰り返し、菌体を十分に洗浄した後、凍結・融解法にて処理し、細胞膜を破砕した。その後精製水で洗浄し、遠心分離後沈殿物を凍結乾燥し、乳酸菌処理物を得た。おおよそ培養液から0.08質量%の収率で白色の乳酸菌処理物を得た。
【0041】
1.溶菌乳酸菌処理物に使用した乳酸菌の特性
前記の製造例で使用した寄託乳酸菌株の菌学的特性を細菌検査用キットApi 50 CH(bio Merieux社製)を使用して調べた。結果を表1〜4に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】








【0044】
【表3】











【0045】
【表4】









【0046】
2.乳酸菌の遺伝学的特性
前記の製造例で使用した寄託乳酸菌株について常法に従い16S rDNAの塩基配列を決定し、既存のデータベースから既存菌種との相同性検索を行った。その結果、乳酸菌キリシマ1R株および乳酸菌キリシマ3R株はラクトバチルス・ファーメンタム、乳酸菌キリシマ1C株および乳酸菌キリシマ2C株はペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)とペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)であると同定された。
【0047】
3.乳酸菌処理物による黄色ブドウ球菌および大腸菌の溶菌作用
下記方法により乳酸菌処理物の溶菌作用を評価した。
(溶菌試験方法)
黄色ブドウ球菌および大腸菌の乳酸菌処理物の溶菌作用試験は次の順序で行った。先ず培地に2%トリプトソイブイヨン培地(ベクトンディキンソン社)を用い、黄色ブドウ球菌および大腸菌を10〜10cfu/mLに調製し、乳酸菌処理物を波長620nmにて吸光値0.01なるように添加した。調製した試料をマイクロプレートの96ウェルに分注し、30℃で培養し、プレートリーダーで経時的に吸光値:濁度(620nm)を測定した。0時間の濁度を基準として620nmの吸光値で溶菌作用を表した。
【0048】
実施例1:製造例1、2、3、4、5で示す乳酸菌処理物を培地に0.01W/v%添加し、黄色ブドウ球菌を播種し、溶菌作用試験を行った。
(グラム陽性菌の溶菌作用)
5,10、20時間後の吸光値の結果について表5に示した。
【0049】
実施例2:製造例1(本発明品)、2(本発明品)、3(本発明品)、4(本発明品)、5(本発明品)で示す乳酸菌処理物を培地に0.01W/v%添加し、大腸菌を播種し、溶菌作用試験を行った。
(グラム陰性菌の溶菌作用)
5,10、20時間後の吸光値の結果について表6に示した。
【0050】
(結果)
黄色ブドウ球菌では1時間経過すると乳酸菌処理物による溶菌作用が認められ、5時間経過すると各試料とも培地が澄明になり、顕著な溶菌作用が認められた。20時間経過するとほぼ溶菌は完了した。乳酸菌の超音波処理と凍結・融解処理には大きな違い認められなく、双方とも同様な効果が認められた。さらにグラム陰性菌である大腸菌においても同様に溶菌作用が認められた。

【0051】
【表5】







【0052】
【表6】






【0053】
表5および表6から明らかなように、乳酸菌無添加のコントロールは病原性細菌が増殖し、吸光値が増加した。一方、本発明に用いられる乳酸菌処理物添加の培養試料は経時的に吸光値の低下が認められいずれも顕著な溶菌作用を示した。これらの乳酸菌処理物の溶菌効果は極めて優れたものであった。
【0054】
本発明は安全性の高い乳酸菌処理物で、病原性細菌を溶菌することができる。その結果、細菌性疾患を予防若しくは防止及び食品や化粧品等への微生物の二次汚染を防止する可能性があり、食品、医療、化粧品、家畜飼料関係業界などにおいて有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
病原性細菌に対して溶菌作用を有することを特徴とする乳酸菌処理物。
【請求項2】
前記乳酸菌処理物はラクトバチルス(Lactobacillus)属およびペディオコッカス(Pediococcus)属に属する乳酸菌を処理して得られることを特徴とする。
【請求項3】
乳酸菌処理物は乳酸菌を超音波処理、凍結・融解処理、ホモジナイズ処理して得られる細胞質を除いた細胞膜であって、請求項1又は請求項2記載の乳酸菌処理物を含むことを特徴とする溶菌剤。
【請求項4】
前記乳酸菌処理物を0.01質量%以上含む請求項3記載の溶菌剤。


【公開番号】特開2011−57563(P2011−57563A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205456(P2009−205456)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:日本農芸化学会2009年度大会 主催者:社団法人日本農芸化学会 開催日:平成21年3月28日発表
【出願人】(502128442)株式会社鎌田工業 (8)
【Fターム(参考)】