溶融めっき浴中のドロス吸着装置
【課題】本発明は、鋼板の連続溶融亜鉛めっき工程において、溶融亜鉛めっき浴槽内の底部に沈殿・堆積した不純物であるボトムドロスが、めっき処理中に、鋼板の移動に随伴して巻き上がり、鋼板めっき表面に付着することを防止することができる装置を提供することを課題とする。
【解決手段】シンクロールの軸の端部が対面する溶融めっき浴槽の両側方壁面に、シンクロールの下部において一部が離隔するボトムドロス吸着部材を、該部材が上記壁面に接触した状態となるように設置し、該壁面に沿って上昇または下降する溶融めっき金属中のボトムドロスを吸着するボトムドロス吸着装置であって、
該部材は、開口部を有する複数枚の鋼板を、該鋼板の開口部が重ならないように、所定の間隔をもって重ねたことを特徴とするボトムドロス吸着装置。
【解決手段】シンクロールの軸の端部が対面する溶融めっき浴槽の両側方壁面に、シンクロールの下部において一部が離隔するボトムドロス吸着部材を、該部材が上記壁面に接触した状態となるように設置し、該壁面に沿って上昇または下降する溶融めっき金属中のボトムドロスを吸着するボトムドロス吸着装置であって、
該部材は、開口部を有する複数枚の鋼板を、該鋼板の開口部が重ならないように、所定の間隔をもって重ねたことを特徴とするボトムドロス吸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板又はその他金属板の連続溶融めっき工程において、めっき浴槽内に沈殿・浮遊するドロス等の固形粒子が巻き上がり、めっき鋼板等の表面に付着することによって生じる表面欠陥等を防止するため、巻き上がるドロス等の固形粒子を捕捉し、めっき浴槽内のドロス等の固形粒子を減少させるドロス吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融めっき金属板は、古くから、様々な種類のものが開発され、実用化されてきた。その中でも、溶融亜鉛系めっき鋼板は、その優れた耐食性と経済性から、自動車・建材・家電用等の素材として広く普及している。
【0003】
本発明は、溶融亜鉛系めっき以外に、アルミニウムめっき、錫めっき等、様々な種類の溶融めっきに対して適用可能であるが、最も一般的な、鋼板への溶融亜鉛めっき装置の場合を例に挙げ、以下のとおり説明する。
【0004】
溶融亜鉛系めっき鋼板を連続的に製造する場合、溶融めっき浴槽内で、鋼板を浸漬しながら移動させて、めっきを施す方法が一般的に用いられている。
【0005】
この際、溶融めっき浴槽内の底部に沈殿・堆積した不純物である固体粒子、例えば、ボトムドロス(めっき浴槽底部に沈殿するドロスの通称)が、めっき処理中に、鋼板の移動に随伴して巻き上がり、鋼板めっき表面に付着し、めっき鋼板の外観を損なうことが知られている。
【0006】
溶融めっき浴槽内のボトムドロスの巻き上がりに対して、操業現場では、様々な防止対策が試みられているが、完全な解決策がないのが現状である。
【0007】
図10に、一般に採用されている鋼板の連続溶融亜鉛めっき装置の概略を示す。図10に示す連続溶融亜鉛めっき装置において、鋼板1は、焼鈍炉(図示せず)で焼鈍された後、スナウト2を通り、溶融亜鉛めっき浴槽3に導入される。
【0008】
導入された鋼板は、溶融亜鉛めっき浴槽3内に設けられたシンクロール4により、上向きに方向転換され、サポートロール5で反りが矯正された後、めっき浴面6から引き出される。
【0009】
次いで、溶融亜鉛めっきされためっき鋼板1’の両面に向けて、ガスワイピングノズル7からワイピングガスを吹きつけて、めっき付着量を調整する。
【0010】
さらに、めっき鋼板1’の形状を矯正し、鋼板振動を抑制する制振装置8を通過させた後、必要に応じて、合金化加熱炉9にて、めっきの合金化処理を行う。
【0011】
溶融亜鉛めっき浴槽内では、鋼板からFeが溶融亜鉛浴中に溶出し、Fe−Znの金属間化合物からなる粒状・粉状の物質、いわゆる、ドロスが生成する。
【0012】
このドロスのうち、FeZn7を主成分とするものは、溶融亜鉛よりも比重が大きいために、めっき浴槽底部に沈殿・堆積するので、一般に、ボトムドロス(図10中の10)と呼ばれている。
【0013】
ボトムドロスは、亜鉛めっき浴槽内において、シンクロールを周回する鋼板の移動により発生する随伴流に起因して巻き上がり始め、やがては、めっき鋼板の表面に付着し、めっき鋼板の外観不良を引き起こす。
【0014】
特に、シンクロール又はサポートロールと鋼板が接触する部分で、ボトムドロスが噛み込まれ、圧着されて、そのまま、めっき鋼板上に残り、めっき鋼板を最終製品としてプレス成形する際、外観不良を助長する原因となる。
【0015】
特に、最近の操業現場においては、生産能力の向上のために、鋼板の通板速度を高めることが試みられており、これに伴い、めっき浴槽中で、強い攪拌と、ドロス発生の原因となるFeの溶出量が増加し、ボトムドロスの巻き上がりが、一層、激しくなる傾向にある。
【0016】
また、一方で、顧客が要求するめっき鋼板の外観品質も厳格化する傾向にあり、操業現場では、ボトムドロスの巻き上がりの問題を解決する必要に迫られている。
【0017】
上記問題を解決するため、従来から様々な提案がなされている。
【0018】
例えば、特許文献1、及び、特許文献2には、シンクロールとめっき槽底部の間に、シンクロールの全胴長さを覆い、めっき浴の流れを抑制する遮蔽板を設け、この遮蔽板の下方に、ボトムドロスが堆積する空間を形成するボトムドロス巻き上げ抑制方法が提案されている。
【0019】
また、特許文献3では、シンクロールとめっき槽底部の間に、浴内流動を抑制する多孔板を設置したことを特徴とする連続溶融亜鉛めっき装置が提案されている。
【0020】
さらに、特許文献4では、シンクロールの両端部から中央部に向けて、シンクロール胴長の20〜40%に相当する長さの2枚の板状部材を、シンクロール面から離隔して設けたことを特徴とするボトムドロス巻き上がり防止装置が提案されている。
【0021】
しかしながら、これらの提案では、後述するように、ボトムドロスの巻き上がりを完全に解決することは困難である。
【0022】
溶融亜鉛めっき浴槽内におけるボトムドロスの巻き上がりについては、従来は、主として、シンクロールの回転に伴って生じる接線方向の力(図10中の11)により、シンクロールの前後の底部に堆積するボトムドロスが巻き上がるものと考えられていた。
【0023】
しかし、本発明者らは、ボトムドロスの巻き上がり現象を究明するため、溶融亜鉛めっき浴槽内の3次元流動解析を行った。その結果、鋼板随伴流が、シンクロールによって絞られる部分で、強い流れとなることを見出した。
【0024】
即ち、シンクロール巻き付け部の側方に生じる噴流が、溶融亜鉛めっき浴槽内の側方底部に向かって勢いよく流れ、そのため、溶融亜鉛めっき浴槽の底部に堆積していたボトムドロスが巻き上がることを見出した。
【0025】
鋼板が幅広材の場合には、図11(a)に示すように、シンクロール巻き付け部の側方に生じる噴流により、ボトムドロスに、ボトムドロスをシンクロール4の前方中央付近から上方に向けて巻き上げようとする力(図中のA)が発生する。
【0026】
また、鋼板が幅狭材の場合には、図11(b)に示すように、ボトムドロスに、ボトムドロスをシンクロール4と溶融亜鉛めっき浴槽3の側方壁面間に巻き上げようとする力(図中のB)が発生する。
【0027】
いずれの場合においても、結果的に、ボトムドロスは、めっき浴槽内で、縦方向に円を描くような形態で攪拌されて、浮遊状態となる。本発明者らは、ボトムドロスが浮遊状態となり、鋼板のめっきに悪影響を与えるメカニズムを解明した。
【0028】
このメカニズムを前提にすると、従来の技術には、以下のような問題点がある。
【0029】
第一に、特許文献1、及び特許文献2に開示の方法では、シンクロールの回転により円周の接線方向に流れようとするボトムドロスに対しては、遮蔽板の設置により、ボトムドロスの巻き上がりを効果的に防止し得るが、シンクロールの両側面部に生じる壁面流に対しては、遮蔽対策又は整流対策が講じられていないため、ボトムドロスの巻き上がりを充分に抑制することはできない。
【0030】
第二に、特許文献3に開示の装置では、シンクロールの両側面部に生じる壁面流に対する解決手段を備えていないので、ボトムドロスの巻き上がりを抑制する効果は充分なものではない。
【0031】
また、上記装置においては、多孔整流板が、シンクロールの幅方向で、ほぼ全体に設けられているため、シンクロールと多孔整流板の間で乱流が生じ、シンクロールと接していない鋼板表面へのボトムドロスの付着が起こるし、また、多孔整流板の上に、ボトムドロスが堆積する懸念がある。
【0032】
さらに、上記装置においては、シンクロール等の交換時に、鋼板をシンクロール等のめっき装置に通す作業が煩雑となるという問題がある。
【0033】
第三に、特許文献4に開示の装置では、2枚の遮蔽板が、シンクロールの両側に、離隔された状態で設置されているので、シンクロール等の交換時の問題は解消されるが、シンクロールの両側面部に生じる壁面流に対しては、整流対策が講じられていないため、ボトムドロスの巻き上がりを完全に抑制することができない。
【0034】
また、上記装置において、シンクロールと板状部材の間隔が広い場合には、板状部材の上に、ボトムドロスが堆積するので、鋼板を幅狭材から幅広材に切替えて通板する際、堆積したドロスの巻き上がりが助長される。
【0035】
逆に、シンクロールと板状部材の間隔が狭い場合には、ボトムドロスを含んだ強い流れが、この狭い間隙空間に集中するため、ボトムドロスをめっき浴槽内に撒き散らすこととなり、シンクロールやサポートロールと鋼板の間に、ボトムドロスが噛み込まれる恐れがある。
【0036】
本発明の発明者らによるめっき浴槽内の随伴流解析に基づき、特許文献5には、これらドロス巻上げの原因となる随伴流を抑制するため、めっき浴槽内に整流板の設置が開示されているが、流れを抑制するのみで、めっき浴槽の浮遊ドロスそのものの量を減らすものではなく、めっき表面の欠陥減少には限界がある。
【0037】
めっき浴槽内の随伴流解析に基づく対策は特許文献6にも開示されている。これは、浴槽壁沿いに発生する強い下降流がドロス巻上げの原因として、この下降流の発生する部位に流動抵抗となる貫通穴のある部材を設け、下降流の流速を低下させるものである。しかし、これもめっき浴槽内のドロスそのものの量を減らすものではないことと、ドロス巻上げの主要原因となるシンクロールによって絞られる部分での強い流れに対しての対策となっていない。
【特許文献1】特公平6−21331号公報
【特許文献2】実公平5−38045号公報
【特許文献3】特開平6−158253号公報
【特許文献4】特開2001−140050号公報
【特許文献5】PCT/J07/061147
【特許文献6】特開2007−204783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0038】
本発明は、鋼板の連続溶融亜鉛めっき工程において、溶融亜鉛めっき浴槽内の底部に沈殿・堆積した不純物であるボトムドロスが、めっき処理中に、鋼板の移動に随伴して巻き上がり、鋼板めっき表面に付着することを防止することができる装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0039】
本発明は、上記課題を解決するため、めっき浴槽内の流れを大きく変えることなく、ボトムドロスを確実に捕捉するものであり、その要旨は次のとおりである。
【0040】
(1)シンクロールの軸の端部が対面する溶融めっき浴槽の両側方壁面に、シンクロールの下部において一部が離隔するボトムドロス吸着部材を、該部材が該壁面に接触または該壁面と100mm以下の間隙を有した状態となるように設置し、該壁面に沿って上昇または下降する溶融めっき金属中のボトムドロスを吸着するボトムドロス吸着装置であって、該部材は、開口部を有する複数枚の鋼板を、該鋼板の開口部が重ならないように、所定の間隔をもって重ねたことを特徴とするボトムドロス吸着装置。
【0041】
(2)前記溶融めっき浴槽の前方壁面および/または後方壁面に、ボトムドロス吸着部材を、該部材が該壁面に接触または該壁面と100mm以下の間隙を有した状態となるように設置し、該壁面に沿って上昇または下降する溶融めっき金属中のボトムドロスを吸着するボトムドロス吸着装置であって、該部材は、開口部を有する複数枚の鋼板を、該鋼板の開口部が重ならないように、所定の間隔をもって重ねたことを特徴とするボトムドロス吸着装置。
【0042】
(3)前記溶融めっき浴槽の両側方壁面に、ボトムドロス吸着部材を、該部材が該壁面に接触または該壁面と100mm以下の間隙を有した状態となるように設置し、該壁面に沿って上昇または下降する溶融めっき金属中のボトムドロスを吸着することを特徴とする(2)記載のボトムドロス吸着装置。
【0043】
(4)前記ボトムドロス吸着装置において、前記ボトムドロス吸着部材の一部が、溶融めっき浴槽底部からの距離が該底部とシンクロール下端の間隔の0.8倍を超えない位置に位置するように設置することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のボトムドロス吸着装置。
【0044】
(5)前記溶融めっき浴槽の側方壁面に、設置したボトムドロス吸着部材の幅寸法Wは、上記側方壁面から鋼板端部までの距離X以下、上記側方壁面からシンクロールの支持部材までの距離Z以上とすることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【0045】
(6)前記溶融めっき浴槽の側方壁面に、設置したボトムドロス吸着部材の奥行き寸法Lは、シンクロールの0.7倍以上、溶融めっき浴槽の内側の奥行き寸法Y以下とすることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【0046】
(7)前記ボトムドロス吸着部材が複数の開口部を備え、かつ、開口部の面積の合計が、該ボトムドロス吸着部材の鋼板の全面積の20〜80%であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【0047】
(8)前記ボトムドロス吸着部材が複数の開口部を備え、かつ、開口部1個当りの平均面積が、5000mm2以下であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の金属板のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【0048】
(9)前記ボトムドロス吸着部材が、1枚または複数枚の表面に凹凸のある形状であることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【0049】
(10)前記ボトムドロス吸着部材が、複数枚の鋼材の金網の間に直径20〜100mmのボール状の鋼材を充填したものであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【0050】
(11)前記ボトムドロス吸着部材が、JISG3556で規定される空間率20〜80%の1枚または複数枚の網状物体であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【0051】
(12)前記ボトムドロス吸着部材が、炭素鋼でできていることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、連続溶融亜鉛めっき処理を通板速度の高い状態で行なう際に、従来よりもめっき浴槽内に沈殿・堆積したボトムドロスの巻き上がりを抑制でき、ボトムドロスをボトムドロス吸着装置に付着させることで確実に浴中のボトムドロス量を減少させることができるので、めっき鋼板へのボトムドロス付着を大幅に低減し、表面欠陥の少ないめっき鋼板またはめっきした金属材料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
本発明における第1実施態様(請求項1の発明)を説明する。図1に、開口部を有する鋼板を所定の間隔をもって複数枚(ここでは2枚の場合を例に説明する)重ね、その開口部同士が重ならないようにしたものを両側方壁面に設置する。そして、これに浴槽内を浮遊するボトムドロスを捕捉させるため、ボトムドロス吸着部材と呼ぶこととする。図2に、ボトムドロス吸着部材を用いた場合の浴槽内の流れ(浴流)の態様を示す。
【0054】
図11に示すボトムドロス吸着部材を設置しない状態と比較してみると分かるように、吸着部材を設置した場合でも浴流の方向はほとんど変わらない。しかし、2枚の開口部を有する鋼板(多孔板)の開口部を、例えば鉛直方向に重ならないように配置することにより、2枚の多孔板の中で浴流の方向は変化しており、そのため流れに乗って移動する比重の重いボトムドロスを浴流から分離し、浴流の下流側の多孔板上の開口部ではない部分に堆積させ捕捉することができる。言い替えると、比重の重いボトムドロスを浴流から分離させるため、2枚の多孔板の間で浴流の方向が変化し、ボトムドロスを堆積させ捕捉できるように、開口位置を考慮して2枚の多孔板を設置する必要がある。図3に、その様子を模式的に示す。
【0055】
更に、こうした多孔板の配置は、本発明者らの発明による特許文献5に記載の多孔整流板と同等の効果を奏し、壁面流速を減衰させる作用効果も得られる。この作用効果で、浴槽底部に沈殿しているボトムドロスの巻き上がりを、溶融亜鉛めっき浴槽の低い領域に抑えることもでき、この抑制効果により、鋼板へのボトムドロス噛み込みを低減することもできる。
【0056】
なお、本発明でいう多孔板を重ねる際の「所定の間隔」とは、浴流の方向を変化せしめる程度に狭くなければならず、且つ堆積・捕捉したボトムドロスにより浴流の流動性が阻害されない程度に広くなければならない。これは、多孔板の開口部形状、溶融亜鉛めっき浴槽形状、および操業条件等により決められる事項であるが、ボトムドロスのサイズが数μmから数mmであることから、1cm程度から30cm程度であることが望ましい。
【0057】
また、本発明でいう「シンクロールの下部において一部が離隔する」状態とは、シンクロール下部において、ボトムドロス吸着部材が離れて設置されているか、若しくはボトムドロス吸着部材のシンクロールの下部に位置する部分が一部切り欠かれた状態となっていることをいう。図1には、左右の側方壁面に設置されたボトムドロス吸着部材が、シンクロール下部にて、離れて設置されている状態を示している。図8は、後述するように、前方および後方壁面にもボトムドロス吸着部材を設置し、四方をボトムドロス吸着部材で取り囲んだ状態を示すが、例えば、この図8の各ボトムドロス吸着部材を一体にした、つまり内部を切り欠いたボトムドロス吸着部材を左右の側方壁面に設置してもよく、この状態も「シンクロールの下部において一部が離隔する」状態に含まれる。
【0058】
本発明において、ボトムドロス吸着部材のめっき浴槽内への設置は、図1に示すように、めっき浴槽3内の両側方壁面21に、ボトムドロス吸着部材22が接触または該壁面と100mm以下の間隙を有した状態となるように設置する。
【0059】
本発明でいう壁面への「設置」の形態は、ボトムドロス吸着部材22を、めっき浴槽の側方壁面21や前方壁面、後方壁面に、直接、取り付けた状態だけを意味しない。
【0060】
上記「設置」の形態は、図4(a)に示すように、上方から吊り下げた支持部材23に、ボトムドロス吸着部材22を取り付けた状態、また、図4(b)に示すように、めっき浴槽底部に据え置いた支持部材23に、ボトムドロス吸着部材22を取り付けた状態などを意味する。ボトムドロス吸着部材22は、前記壁面(該図中では側方壁面21を例に示す。以下、同じ。)と接触状態にあることが望ましいが、該壁面21とボトムドロス吸着部材22に、100mm以下であれば、隙間があっても機能上問題はない。ボトムドロス吸着部材22と該壁面21との隙間が100mmを超えると、この隙間を流れる浴流の割合が大きくなり、この浴流に乗って流れるドロスを捕捉することができなくなる。
【0061】
実際の操業において、生産を休止して、めっき浴槽内に堆積したボトムドロスを除去する清掃作業を行なう場合、ボトムドロス吸着部材22が両側方壁面21に溶接等で固定されていると、清掃作業の邪魔となる場合がある。
【0062】
一方、図4(a)及び(b)に示すように、パイプフレームのような支持部材23でボトムドロス吸着部材22を吊り下げるか、又は、支持部材23の上にボトムドロス吸着部材22を据え置いた設置態様にすると、ボトムドロス吸着部材22の取り付け取り外しが容易となり、清掃作業がし易くなる。
【0063】
ボトムドロス吸着部材22が、両側方壁面21に、完全に接触していなくとも、実質的に、側方壁面流を減衰させる効果を期待することができる。なお、ボトムドロス吸着部材22の他の取り付け方法として、シンクロールの支持部材に取り付けて一体化する方法も可能である。
【0064】
また、本発明において、ボトムドロス吸着部材のめっき浴槽内への設置は、図1に示すように、めっき浴槽3内のボトムドロス吸着部材22の少なくとも一部が、シンクロールの下部において離隔するように行う。
【0065】
即ち、シンクロールの中央付近にボトムドロス吸着部材がなく、開放された状態で、言い換えると、両側方壁面に設置した一対、又は、複数対のボトムドロス吸着部材を、間隔を隔てた状態で配置することを意味する。
【0066】
その理由は、シンクロールの全胴長さにわたってボトムドロス吸着部材を配置すると、シンクロールの中央付近に漂うドロスが、ボトムドロス吸着部材の上に沈殿・堆積し、その後に、巻き上がる恐れがあるからである。
【0067】
シンクロールの中央付近は、両端部付近に比べ、溶融めっき金属の流れが遅いので、ボトムドロス吸着部材がなくても、ボトムドロスが巻き上がる危険性は小さい。
【0068】
また、シンクロールの中央付近の下にボトムドロス吸着部材が横たわっていると、めっき操業を開始する時、鋼板の先端部をシンクロールに巻き付ける作業、いわゆる、スレッディング作業が煩雑になる。
【0069】
本発明の第2実施態様(請求項2の発明)は、第1実施態様における両側方壁面を前方壁面及び/又は後方壁面(以下、前・後方壁面という。)にしたものである。図7に、その例として、シンクロールの前方壁面に、ボトムドロス吸着板を設置したものを示す。第3実施態様(請求項3の発明)は、図8に例を示すように、両側方壁面と前・後方壁面、つまりシンクロールの周囲となる四方壁面にボトムドロス吸着板を設置したものである。
【0070】
鋼板の移動速度及びシンクロールの回転速度が高まると、溶融めっき浴槽の前方(鋼板の出側領域)、及び、後方(鋼板の入側領域)にも、溶融めっき金属の流れが発生し、ボトムドロスの巻き上がりを引き起こす恐れがある。
【0071】
また、側方部分の流れをボトムドロス吸着部材で抑制したことに伴い、流れを妨げられた溶融めっき金属が逃げ場を失い、前方又は後方に集束し、新たな巻き上がりのループを形成する恐れがある。
【0072】
これらの実施態様は、少なくとも、前方壁面及び/又は後方壁面にボトムドロス吸着部材を設置し、溶融めっき金属の流れを、多方向から抑制することを狙いとするものである。原理、機能は、第1実施態様と同じため、以下、第1実施態様を例として、説明する。
【0073】
図5及び図6は、シンクロールの軸端部が対面する溶融めっき浴槽の両側方壁面に、溶融めっき浴槽の底部からの距離が、該底部とシンクロール下端の間隔の0.8倍を超えない位置に、ボトムドロス吸着部材の一部が位置するボトムドロス吸着部材を設置した態様を示す図である。
【0074】
本発明においては、浴流の上昇流又は下降流によりボトムドロスを捕捉するものであるから、シンクロールの回転により発生する浴流が側壁面に沿うような下降流や上昇流となる位置に設置することが望ましい。つまり、ボトムドロス吸着部材を、シンクロールの下端部よりも低い位置、望ましくは、溶融めっき浴槽の底部からの距離が、該底部とシンクロール下端の間隔の0.8倍を超えない位置に設置することが好ましい。
【0075】
図5は、段差を設けたボトムドロス吸着部材を、側方壁面に接触した部分が、シンクロール下端部よりも高い位置になるように設置した態様を示す。しかし、図5に示すように、ボトムドロス吸着部材の一部が0.8倍を超える位置に設置されている場合でも、少なくとも他の一部が0.8倍を超えない位置に設置されていれば、壁面に沿った上昇流又は下降流を効果的に捉え、抑制することができる。特に、シンクロール下部に位置するボトムドロス吸着部材の一部が0.8倍を超えない位置に設置されていれば、より好ましい。
【0076】
図6に示す実施態様も、図5に示す実施態様と同様の思想に基づくものであるが、ボトムドロス吸着部材がシンクロールの支持部材に配置されている点で異なっているだけである。
【0077】
以上、述べたとおり、本発明のボトムドロス吸着部材は、壁面に沿った上昇流又は下降流を捕らえて、ボトムドロスを分離捕捉することを目的とするものであるので、ボトムドロス吸着部材の高さは、単一である必要はない。
【0078】
本発明で用いるボトムドロス吸着部材に用いる多孔板の開口部の形状や配置は特に問わない。パンチングメタルのような、規則的な円形の開口部を備えるものや、金網状のものなどを、適宜、選択することができる。捕捉したボトムドロスを再流出させないために、部材に鼠返しのような加工を施すこともある。
【0079】
ただし、開口部の合計面積は、ボトムドロス吸着部材の浴流が面する部分の面積(開口部も含めた面積)の20〜80%(開孔率)とし、開口部1個当りの平均面積は5000mm2以下とすることが好ましい。
【0080】
開孔率が20%に満たないと、浴流が抑制され過ぎてしまうため、めっき金属の浴流自体の通過量が減少し、その分ボトムドロスを捕捉することができなくなるためである。
【0081】
一方、開孔率が80%を超えると、開口部をずらして配置しても浴流の方向を変化させる機能が小さく、そのためボトムドロスの捕捉ができなくなるためである。
【0082】
開口部1個当りの平均面積は、5000mm2を超えると浴流の流速を均一に減衰させることが困難になり、好ましくない。
【0083】
なお、開口部1個当りの平均面積の下限は、特に限定しないが、ボトムドロスのサイズは、通常、数μmから数mm程度であるので、開口部の面積は、ボトムドロスが容易に通過できる程度の面積、例えば100mm2以上であれよい。
【0084】
ボトムドロス吸着部材の多孔板に用いる鋼板は、様々な形態の鋼板を使用することができる。特に、表面に凹凸のある形状の鋼板(例えば、表面を凹凸状に加工したエンボス鋼板や、波形に加工したコルゲート鋼板等)を用いれば、1枚でも浴流の方向を変えることができ、ボトムドロスを捕捉することができる。もちろん、2枚以上重ねることにより、より効果的にボトムドロスを捕捉することができることは、言うまでもない。
【0085】
また、ボトムドロス吸着部材は多孔板により構成されることに限定されない。例えば、繊維状部材、綿状部材、網状部材、籠の中に複数のボール状のものやペレット状のものを詰めた部材等、浴流の方向を変化させ、流速を減衰させる効果がある部材であれば、自由に使用することができる。
【0086】
例えば、鋼材でできた金網の間に、直径20mm〜100mmのボール状鋼材を充填したものにすれば、該ボール状鋼材を通過する間に浴流中のボトムドロスを捕捉することができる。ただし、ボール状鋼材の直径が20mmより小さければ、ボトムドロス吸着部材を通過するめっき金属量が少なくなり、十分にボトムドロスを捕捉することができない。一方、ボール状鋼材の直径が100mmより大きければ、浴流の方向を変化させる機能が小さく、十分にボトムドロスを分離捕捉することができない。
【0087】
また、例えばボトムドロス吸着部材を、JISG3556で規定される空間率20〜80%の1枚または複数枚の網状物体にすれば、フィルタリング機能により、網状物体に浴流中のボトムドロスを十分捕捉することができる。
【0088】
本発明のボトムドロス吸着部材の寸法は、壁面に沿って流れる上昇流又は下降流を有効に捉え、整流できる寸法であればよく、使用する溶融めっき設備の寸法に応じて、適宜、決定されることとなる。
【0089】
側方壁面に設置するボトムドロス吸着部材の寸法を決定する方法を、図9に従って説明する。
【0090】
ボトムドロス吸着部材の幅寸法Wは、側方壁面から鋼板端部までの距離Xよりも短く、側方壁面からシンクロール支持部材までの距離Zよりも長く設定することが望ましい。W≧Xの場合、シンクロールの交換時に行う鋼板の通板作業に支障を来す恐れがある。一方、W≦Zの場合には、浴槽内の壁面に沿って流れる上昇流又は下降流を有効に捉えることができず、また十分な整流効果が得られない場合がある。従って、ボトムドロス吸着部材の幅寸法Wは、Z<W<Xを満たすことが望ましい。なお、距離Xを求める際の鋼板の幅は、処理対象鋼板の中で最も幅の狭いものとする。
【0091】
ボトムドロス吸着部材の奥行き寸法Lは、シンクロールの直径Dの0.7倍よりも長く、めっき浴槽内側の奥行き寸法Yよりも短く設定することが望ましい。L≦0.7Dの場合、シンクロールの巻き付け部から発生する側方噴流を、カバーすることができず、十分に上昇流又は下降流を有効に捉えることができない場合がある。一方、L≧Yの場合、物理的にボトムドロス吸着部材をめっき浴槽内に格納することができない。従って、ボトムドロス吸着部材の奥行き寸法Lは、0.7D<L<Yを満たすことが望ましい。
【0092】
なお、ボトムドロス吸着部材の前後方向の設置位置については、ボトムドロス吸着部材の中央が、シンクロール直下であるよりも、前方側(鋼板出側)にずれた位置に設置するほうが、特に好ましい。
【0093】
ボトムドロス吸着部材に使用する鋼材の材質は、特に限定されない。しかし、発明者らの行った実験による知見から、ステンレス鋼やセラミックスなどのような耐食性の高い材料は、めっき金属による侵食性が普通鋼材より少なく設備寿命が長くなるが、ボトムドロスの堆積性は、ステンレス上への堆積性に比べ普通の鋼材、いわゆる炭素鋼上の方がよく、ドロスを捕捉する能力の観点から、炭素鋼を用いることが望ましい。その理由は明確ではないが、ボトムドロスが本発明の吸着装置に捕捉され始めると、同一時間内に吸着されるボトムドロスの量が加速的に増加することから、ある程度Fe分が浴中に溶け出すほうがドロス中のFe分と反応して吸着しやすくなるためと考えられる。
【0094】
ボトムドロス吸着部材内のボトムドロスの捕捉量が多くなると、該吸着部材が目詰まり状態となり、めっき金属が通過しなくなるが、ボトムドロスの捕捉が目的であるので、むしろ早く捕捉して、目詰まり状態となる前に交換する必要がある。従って、ボトムドロス吸着部材の寿命はあまり考慮する必要がなく、普通鋼材にて製造しても十分である。
【0095】
ボトムドロス吸着部材を上述のように設置する本発明においては、図2(a)及び(b)に示すように、処理対象の鋼板が幅広材、幅狭材のいずれの場合であっても、ボトムドロス吸着部材が、浴槽内の壁面に沿って流れる上昇流又は下降流を有効に捉えることができ、また十分な整流効果が得られ浴流の流速を減衰させることができるので、その結果、浴中のボトムドロスを分離補足することができ、尚且つ浴槽底部に沈殿しているボトムドロスの巻き上がりを顕著に防止することができる。
【実施例】
【0096】
以下本発明を実施例に基づいて説明する。
連続溶融亜鉛めっき浴槽内に、以下の条件のボトムドロス吸着部材を設置して、連続溶融亜鉛めっき処理を行ない、ボトムドロスの巻き上がりによるめっき鋼板へのボトムドロス付着発生率を測定した。その結果を表1に示す。
【0097】
〔ボトムドロス吸着部材の仕様〕
形状・材質:8mm厚のオーステナイト系ステンレス鋼板の2枚重ね
孔の有無:「多孔」と「孔なし」の2水準で実施。多孔の場合は開孔率50%、孔1 個あたりの平均面積2.0×103mm2。
設置条件:めっき浴槽(幅3600mm×奥行4000mm)で、めっき浴槽底部か らシンクロール下端までの間隔(距離)は、1200mmの装置を使用し 、ボトムドロス吸着部材をシンクロール下端から600mmを標準とした 。
側方壁面に設置するボトムドロス吸着部材は、側方壁面と接触(間隙=0mm)、壁 面との間隙=10mm、壁面との間隙=100mmの3水準で実施。
側方壁面に設置するボトムドロス吸着部材は、「離隔」、「離隔なし」の条件で実施 。
例えば「1600mm離隔」とは、両側方壁面に設置された一対のボトムドロス吸着 部材が、シンクロール下部において1600mmの間隔を隔てて設置されている状態 を指す。「離隔なし」とは、ボトムドロス吸着部材が間隔を隔てず、一つに繋がった 状態であることを指す。
【0098】
〔試験条件〕
めっき浴:溶融亜鉛
通板速度:150m/分
試験用コイル:板厚0.6mm×板幅1,200mm 冷延普通炭素鋼コイル(幅狭材)
板厚0.6mm×板幅1,800mm 冷延普通炭素鋼コイル(幅広材)
【0099】
条件の異なる多孔整流板に対して、それぞれ約40個の試験用コイルを、溶融亜鉛めっきラインにてめっき処理し、以下の計算式で鋼板のボトムドロス付着発生率を求めた。ボトムドロス付着の有無は、目視検査にて判断した。
ボトムドロス付着発生率(%)=(ボトムドロス付着のあったコイル数/試験したコ イル数)×100
【0100】
ボトムドロス付着に関する合否判定は、幅狭材および幅広材におけるボトムドロス付着発生率の平均値に基づき、以下の基準に従って行った。
合格(優):6%未満
合格(良):6%以上8%未満
合格(可):8%以上12%未満
不合格:12%以上
【0101】
【表1】
【0102】
表1のNo1〜3は、ボトムドロス吸着部材の端部を側方壁面に設置し、シンクロール下部においてボトムドロス吸着部材を離隔して設置した場合を表すものであり、本発明における第1実施態様に該当する。このときの鋼板のドロス付着発生率は、いずれも合格の範囲内である。No4は、側方壁面との間隙が開き過ぎたため、浴流の多くがこの間隙をながれ、ボトムドロスが捕捉できなかったものと思われる。No8は整流板に孔が開いていないため、幅広材のめっき処理時にボトムドロスが巻き上がったものと見られる結果となった。No5、No6、No7、No12はボトムドロス吸着部材の設置条件が離隔なしのものや、設置高さが高すぎるものであり、いずれもボトムドロスの巻き上がりを十分に抑制できなかった。No13はボトムドロス吸着部材を設置しない場合であり、最も劣る結果となった。No9は多孔整流板を側方・前方壁面に設置し、No10は多孔整流板を側方・前方・後方壁面に設置した場合であって、それぞれ図7、図8に示す第2の実施態様に該当する。このように、ボトムドロス吸着部材を側方壁面以外に設置した場合も本発明の効果が十分に得られることを確認できた。
【0103】
表2は、本発明における図5に示した段差のあるボトムドロス吸着部材で試験を行った結果を示す。整流板の高い方の部分の高さを「設置高さ1」、その低い方の部分の高さを「設置高さ2」と定義し、溶融めっき浴槽底部からシンクロール下端までの距離に対する倍率で、それぞれの高さを表している。
【0104】
〔ボトムドロス吸着部材の仕様〕
形状・材質:8mm厚のオーステナイト系ステンレス鋼板の2枚重ね
孔の有無:開孔率50%、孔1個あたりの平均面積2.0×103mm2の多孔整流 板を使用。
設置条件:両側方壁面に接触する状態(間隙=0mm)で設置
試験条件等は前記と同様の方法で行った。
【0105】
【表2】
【0106】
表2のNo14からNo18は、設置高さ2を一定の値(浴槽底面からの設置高さと浴槽底面からロールまでの距離の比(以下「高さ比」)=0.4)にして、設置高さ1の影響を調べたものである。設置高さ1が高さ比で0.8を超えてもNo17とNo18は、合格の範囲であるが、No23のようにのように設置高さ2が高さ比で0.8を超えると、不合格になることが解った。
【0107】
側方壁面に設置するボトムドロス吸着部材の寸法に関して、試験を行った結果を表3に示す。
【0108】
〔ボトムドロス吸着部材の仕様〕
形状・材質:8mm厚のオーステナイト系ステンレス鋼板の2枚重ね
孔の有無:開孔率50%、孔1個あたりの平均面積2.0×103mm2
設置条件:シンクロール下端から600mm、めっき浴槽底部から600mmの高さ に設置。溶融めっき浴槽の両側方壁面に、シンクロールの下部において一 部が離隔するボトムドロス吸着部材を、該部材が上記壁面に接触した状態 となるように設置。
その他の試験条件等は、表1の場合と同様である。
【0109】
【表3】
【0110】
図9に各記号が、どこの長さを示すのか表示している。No24〜No33は、浴槽の奥行方向に関する寸法(Y,L,D)を固定し、幅方向の寸法(Z,W,X)の関係を調べた結果である。
【0111】
前述したように、No24,25のように、W≦Zの場合には、浴槽内の壁面に沿って流れる上昇流又は下降流を有効に捉えることができず、また十分な整流効果が得られないため、鋼板へのドロス付着が増加したものと思われる。No32,33のW≧Xの場合、鋼板へのドロス付着については、合格の範囲であるが、これも前述したように、シンクロールの交換時に行う鋼板の通板作業に支障を来すことが考えられる。
【0112】
No34〜No43は、浴槽の幅方向に関する寸法(Z,W,X)を固定し、奥行方向の寸法(Y,L,D)の関係を調べた結果である。
【0113】
これも前述したように、L<0.7Dの場合、シンクロールの巻き付け部から発生する側方噴流を、カバーすることができず、十分に上昇流又は下降流を有効に捉えることができない場合があることを実験結果から確認できた。
【0114】
ボトムドロス吸着部材の開孔率及び吸着部材の種類に関して、試験を行った結果を表4に示す。
【0115】
〔ボトムドロス吸着部材の仕様〕
形状・材質:8mm厚のオーステナイト系ステンレス鋼板の2枚重ね
設置条件:シンクロール下端から600mm、めっき浴槽底部から600mmの高さ に設置。溶融めっき浴槽の両側方壁面に、シンクロールの下部において一 部が離隔するボトムドロス吸着部材を、該部材が上記壁面に接触した状態 となるように設置。
その他の試験条件等は、表1の場合と同様である。
【0116】
【表4】
【0117】
No44〜No51が、多孔板の開孔率による影響を調べたものである。前述したように、開孔率が20%に満たないと、浴流が抑制され過ぎてしまうため、めっき金属の浴流自体の通過量が減少し、その分ボトムドロスを捕捉することができなくなっているため、鋼板へのドロスの付着が生じている。一方、開孔率が80%を超えると、開口部をずらして配置しても浴流の方向を変化させる機能が小さく、そのためボトムドロスの捕捉ができなくなっていると、実験結果からも想定される。
【0118】
No52、53はコルゲート状の鋼板に、No54,55は千鳥山谷鋼板に開口部を設けたものにて、実験をした結果である。これら、表面に凹凸を有するものを用いても、所定の効果があることが確認できた。
【0119】
No56〜No59は、吸着部材としてボール状の鋼材を使用したものである。ボール直径が20〜100mmの範囲で、浴流中のドロスを捕捉していることが、実験結果から推定できる。また、No60は、ボール状鋼材の代わりに、繊維状の鋼材を使用したときの実験結果を示す。繊維状鋼材を吸着部材に使用しても、所定の効果があることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】は、本発明の第1実施態様を示す図である。
【図2】は、本発明の第1実施態様において生じる浴流の態様を示す図である。(a)は、幅広材の場合を示し、(b)は、幅狭材の場合を示す。
【図3】は、本発明の第1実施態様において、ボトムドロス吸着部材内での浴流とボトムドロスの分離捕捉を示す模式図である。
【図4】は、多孔整流板の設置態様を示す図である。(a)は、支持部材を介して、多孔整流板を吊り下げる態様を示し、(b)は、支持部材を介して、多孔整流板を据え置く態様を示す。
【図5】は、段差を設けたボトムドロス吸着部材の例を示す図である。
【図6】は、段差を設けたボトムドロス吸着部材の例を示す図である。
【図7】は、本発明の第2実施態様の例を示す図である。
【図8】は、本発明の第3実施態様の例を示す図である。
【図9】は、側方の壁面に設置する整流部材の寸法を決定する方法を説明する図である。(a)は、連続溶融亜鉛めっき装置の側面を示し、(b)は、その正面を示す。
【図10】は、一般的な連続溶融亜鉛めっき装置の概略を示す図である。
【図11】は、図10に示す装置において生じる浴流の態様を示す図である。(a)は、幅広材の場合を示し、(b)は、幅狭材の場合を示す。
【符号の説明】
【0121】
1 鋼板
1’ めっき鋼板
2 スナウト
3 溶融亜鉛めっき浴槽
4 シンクロール
5 サポートロール
6 めっき浴面
7 ガスワイピングノズル
8 制振装置
9 合金化加熱炉
10 ボトムドロス
11 放射接線方向に働く力
21 溶融亜鉛めっき浴槽側方壁面
22 ボトムドロス吸着部材
23 支持部材
24 多孔板
A,B 浴流方向
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板又はその他金属板の連続溶融めっき工程において、めっき浴槽内に沈殿・浮遊するドロス等の固形粒子が巻き上がり、めっき鋼板等の表面に付着することによって生じる表面欠陥等を防止するため、巻き上がるドロス等の固形粒子を捕捉し、めっき浴槽内のドロス等の固形粒子を減少させるドロス吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融めっき金属板は、古くから、様々な種類のものが開発され、実用化されてきた。その中でも、溶融亜鉛系めっき鋼板は、その優れた耐食性と経済性から、自動車・建材・家電用等の素材として広く普及している。
【0003】
本発明は、溶融亜鉛系めっき以外に、アルミニウムめっき、錫めっき等、様々な種類の溶融めっきに対して適用可能であるが、最も一般的な、鋼板への溶融亜鉛めっき装置の場合を例に挙げ、以下のとおり説明する。
【0004】
溶融亜鉛系めっき鋼板を連続的に製造する場合、溶融めっき浴槽内で、鋼板を浸漬しながら移動させて、めっきを施す方法が一般的に用いられている。
【0005】
この際、溶融めっき浴槽内の底部に沈殿・堆積した不純物である固体粒子、例えば、ボトムドロス(めっき浴槽底部に沈殿するドロスの通称)が、めっき処理中に、鋼板の移動に随伴して巻き上がり、鋼板めっき表面に付着し、めっき鋼板の外観を損なうことが知られている。
【0006】
溶融めっき浴槽内のボトムドロスの巻き上がりに対して、操業現場では、様々な防止対策が試みられているが、完全な解決策がないのが現状である。
【0007】
図10に、一般に採用されている鋼板の連続溶融亜鉛めっき装置の概略を示す。図10に示す連続溶融亜鉛めっき装置において、鋼板1は、焼鈍炉(図示せず)で焼鈍された後、スナウト2を通り、溶融亜鉛めっき浴槽3に導入される。
【0008】
導入された鋼板は、溶融亜鉛めっき浴槽3内に設けられたシンクロール4により、上向きに方向転換され、サポートロール5で反りが矯正された後、めっき浴面6から引き出される。
【0009】
次いで、溶融亜鉛めっきされためっき鋼板1’の両面に向けて、ガスワイピングノズル7からワイピングガスを吹きつけて、めっき付着量を調整する。
【0010】
さらに、めっき鋼板1’の形状を矯正し、鋼板振動を抑制する制振装置8を通過させた後、必要に応じて、合金化加熱炉9にて、めっきの合金化処理を行う。
【0011】
溶融亜鉛めっき浴槽内では、鋼板からFeが溶融亜鉛浴中に溶出し、Fe−Znの金属間化合物からなる粒状・粉状の物質、いわゆる、ドロスが生成する。
【0012】
このドロスのうち、FeZn7を主成分とするものは、溶融亜鉛よりも比重が大きいために、めっき浴槽底部に沈殿・堆積するので、一般に、ボトムドロス(図10中の10)と呼ばれている。
【0013】
ボトムドロスは、亜鉛めっき浴槽内において、シンクロールを周回する鋼板の移動により発生する随伴流に起因して巻き上がり始め、やがては、めっき鋼板の表面に付着し、めっき鋼板の外観不良を引き起こす。
【0014】
特に、シンクロール又はサポートロールと鋼板が接触する部分で、ボトムドロスが噛み込まれ、圧着されて、そのまま、めっき鋼板上に残り、めっき鋼板を最終製品としてプレス成形する際、外観不良を助長する原因となる。
【0015】
特に、最近の操業現場においては、生産能力の向上のために、鋼板の通板速度を高めることが試みられており、これに伴い、めっき浴槽中で、強い攪拌と、ドロス発生の原因となるFeの溶出量が増加し、ボトムドロスの巻き上がりが、一層、激しくなる傾向にある。
【0016】
また、一方で、顧客が要求するめっき鋼板の外観品質も厳格化する傾向にあり、操業現場では、ボトムドロスの巻き上がりの問題を解決する必要に迫られている。
【0017】
上記問題を解決するため、従来から様々な提案がなされている。
【0018】
例えば、特許文献1、及び、特許文献2には、シンクロールとめっき槽底部の間に、シンクロールの全胴長さを覆い、めっき浴の流れを抑制する遮蔽板を設け、この遮蔽板の下方に、ボトムドロスが堆積する空間を形成するボトムドロス巻き上げ抑制方法が提案されている。
【0019】
また、特許文献3では、シンクロールとめっき槽底部の間に、浴内流動を抑制する多孔板を設置したことを特徴とする連続溶融亜鉛めっき装置が提案されている。
【0020】
さらに、特許文献4では、シンクロールの両端部から中央部に向けて、シンクロール胴長の20〜40%に相当する長さの2枚の板状部材を、シンクロール面から離隔して設けたことを特徴とするボトムドロス巻き上がり防止装置が提案されている。
【0021】
しかしながら、これらの提案では、後述するように、ボトムドロスの巻き上がりを完全に解決することは困難である。
【0022】
溶融亜鉛めっき浴槽内におけるボトムドロスの巻き上がりについては、従来は、主として、シンクロールの回転に伴って生じる接線方向の力(図10中の11)により、シンクロールの前後の底部に堆積するボトムドロスが巻き上がるものと考えられていた。
【0023】
しかし、本発明者らは、ボトムドロスの巻き上がり現象を究明するため、溶融亜鉛めっき浴槽内の3次元流動解析を行った。その結果、鋼板随伴流が、シンクロールによって絞られる部分で、強い流れとなることを見出した。
【0024】
即ち、シンクロール巻き付け部の側方に生じる噴流が、溶融亜鉛めっき浴槽内の側方底部に向かって勢いよく流れ、そのため、溶融亜鉛めっき浴槽の底部に堆積していたボトムドロスが巻き上がることを見出した。
【0025】
鋼板が幅広材の場合には、図11(a)に示すように、シンクロール巻き付け部の側方に生じる噴流により、ボトムドロスに、ボトムドロスをシンクロール4の前方中央付近から上方に向けて巻き上げようとする力(図中のA)が発生する。
【0026】
また、鋼板が幅狭材の場合には、図11(b)に示すように、ボトムドロスに、ボトムドロスをシンクロール4と溶融亜鉛めっき浴槽3の側方壁面間に巻き上げようとする力(図中のB)が発生する。
【0027】
いずれの場合においても、結果的に、ボトムドロスは、めっき浴槽内で、縦方向に円を描くような形態で攪拌されて、浮遊状態となる。本発明者らは、ボトムドロスが浮遊状態となり、鋼板のめっきに悪影響を与えるメカニズムを解明した。
【0028】
このメカニズムを前提にすると、従来の技術には、以下のような問題点がある。
【0029】
第一に、特許文献1、及び特許文献2に開示の方法では、シンクロールの回転により円周の接線方向に流れようとするボトムドロスに対しては、遮蔽板の設置により、ボトムドロスの巻き上がりを効果的に防止し得るが、シンクロールの両側面部に生じる壁面流に対しては、遮蔽対策又は整流対策が講じられていないため、ボトムドロスの巻き上がりを充分に抑制することはできない。
【0030】
第二に、特許文献3に開示の装置では、シンクロールの両側面部に生じる壁面流に対する解決手段を備えていないので、ボトムドロスの巻き上がりを抑制する効果は充分なものではない。
【0031】
また、上記装置においては、多孔整流板が、シンクロールの幅方向で、ほぼ全体に設けられているため、シンクロールと多孔整流板の間で乱流が生じ、シンクロールと接していない鋼板表面へのボトムドロスの付着が起こるし、また、多孔整流板の上に、ボトムドロスが堆積する懸念がある。
【0032】
さらに、上記装置においては、シンクロール等の交換時に、鋼板をシンクロール等のめっき装置に通す作業が煩雑となるという問題がある。
【0033】
第三に、特許文献4に開示の装置では、2枚の遮蔽板が、シンクロールの両側に、離隔された状態で設置されているので、シンクロール等の交換時の問題は解消されるが、シンクロールの両側面部に生じる壁面流に対しては、整流対策が講じられていないため、ボトムドロスの巻き上がりを完全に抑制することができない。
【0034】
また、上記装置において、シンクロールと板状部材の間隔が広い場合には、板状部材の上に、ボトムドロスが堆積するので、鋼板を幅狭材から幅広材に切替えて通板する際、堆積したドロスの巻き上がりが助長される。
【0035】
逆に、シンクロールと板状部材の間隔が狭い場合には、ボトムドロスを含んだ強い流れが、この狭い間隙空間に集中するため、ボトムドロスをめっき浴槽内に撒き散らすこととなり、シンクロールやサポートロールと鋼板の間に、ボトムドロスが噛み込まれる恐れがある。
【0036】
本発明の発明者らによるめっき浴槽内の随伴流解析に基づき、特許文献5には、これらドロス巻上げの原因となる随伴流を抑制するため、めっき浴槽内に整流板の設置が開示されているが、流れを抑制するのみで、めっき浴槽の浮遊ドロスそのものの量を減らすものではなく、めっき表面の欠陥減少には限界がある。
【0037】
めっき浴槽内の随伴流解析に基づく対策は特許文献6にも開示されている。これは、浴槽壁沿いに発生する強い下降流がドロス巻上げの原因として、この下降流の発生する部位に流動抵抗となる貫通穴のある部材を設け、下降流の流速を低下させるものである。しかし、これもめっき浴槽内のドロスそのものの量を減らすものではないことと、ドロス巻上げの主要原因となるシンクロールによって絞られる部分での強い流れに対しての対策となっていない。
【特許文献1】特公平6−21331号公報
【特許文献2】実公平5−38045号公報
【特許文献3】特開平6−158253号公報
【特許文献4】特開2001−140050号公報
【特許文献5】PCT/J07/061147
【特許文献6】特開2007−204783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0038】
本発明は、鋼板の連続溶融亜鉛めっき工程において、溶融亜鉛めっき浴槽内の底部に沈殿・堆積した不純物であるボトムドロスが、めっき処理中に、鋼板の移動に随伴して巻き上がり、鋼板めっき表面に付着することを防止することができる装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0039】
本発明は、上記課題を解決するため、めっき浴槽内の流れを大きく変えることなく、ボトムドロスを確実に捕捉するものであり、その要旨は次のとおりである。
【0040】
(1)シンクロールの軸の端部が対面する溶融めっき浴槽の両側方壁面に、シンクロールの下部において一部が離隔するボトムドロス吸着部材を、該部材が該壁面に接触または該壁面と100mm以下の間隙を有した状態となるように設置し、該壁面に沿って上昇または下降する溶融めっき金属中のボトムドロスを吸着するボトムドロス吸着装置であって、該部材は、開口部を有する複数枚の鋼板を、該鋼板の開口部が重ならないように、所定の間隔をもって重ねたことを特徴とするボトムドロス吸着装置。
【0041】
(2)前記溶融めっき浴槽の前方壁面および/または後方壁面に、ボトムドロス吸着部材を、該部材が該壁面に接触または該壁面と100mm以下の間隙を有した状態となるように設置し、該壁面に沿って上昇または下降する溶融めっき金属中のボトムドロスを吸着するボトムドロス吸着装置であって、該部材は、開口部を有する複数枚の鋼板を、該鋼板の開口部が重ならないように、所定の間隔をもって重ねたことを特徴とするボトムドロス吸着装置。
【0042】
(3)前記溶融めっき浴槽の両側方壁面に、ボトムドロス吸着部材を、該部材が該壁面に接触または該壁面と100mm以下の間隙を有した状態となるように設置し、該壁面に沿って上昇または下降する溶融めっき金属中のボトムドロスを吸着することを特徴とする(2)記載のボトムドロス吸着装置。
【0043】
(4)前記ボトムドロス吸着装置において、前記ボトムドロス吸着部材の一部が、溶融めっき浴槽底部からの距離が該底部とシンクロール下端の間隔の0.8倍を超えない位置に位置するように設置することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のボトムドロス吸着装置。
【0044】
(5)前記溶融めっき浴槽の側方壁面に、設置したボトムドロス吸着部材の幅寸法Wは、上記側方壁面から鋼板端部までの距離X以下、上記側方壁面からシンクロールの支持部材までの距離Z以上とすることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【0045】
(6)前記溶融めっき浴槽の側方壁面に、設置したボトムドロス吸着部材の奥行き寸法Lは、シンクロールの0.7倍以上、溶融めっき浴槽の内側の奥行き寸法Y以下とすることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【0046】
(7)前記ボトムドロス吸着部材が複数の開口部を備え、かつ、開口部の面積の合計が、該ボトムドロス吸着部材の鋼板の全面積の20〜80%であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【0047】
(8)前記ボトムドロス吸着部材が複数の開口部を備え、かつ、開口部1個当りの平均面積が、5000mm2以下であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の金属板のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【0048】
(9)前記ボトムドロス吸着部材が、1枚または複数枚の表面に凹凸のある形状であることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【0049】
(10)前記ボトムドロス吸着部材が、複数枚の鋼材の金網の間に直径20〜100mmのボール状の鋼材を充填したものであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【0050】
(11)前記ボトムドロス吸着部材が、JISG3556で規定される空間率20〜80%の1枚または複数枚の網状物体であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【0051】
(12)前記ボトムドロス吸着部材が、炭素鋼でできていることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、連続溶融亜鉛めっき処理を通板速度の高い状態で行なう際に、従来よりもめっき浴槽内に沈殿・堆積したボトムドロスの巻き上がりを抑制でき、ボトムドロスをボトムドロス吸着装置に付着させることで確実に浴中のボトムドロス量を減少させることができるので、めっき鋼板へのボトムドロス付着を大幅に低減し、表面欠陥の少ないめっき鋼板またはめっきした金属材料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
本発明における第1実施態様(請求項1の発明)を説明する。図1に、開口部を有する鋼板を所定の間隔をもって複数枚(ここでは2枚の場合を例に説明する)重ね、その開口部同士が重ならないようにしたものを両側方壁面に設置する。そして、これに浴槽内を浮遊するボトムドロスを捕捉させるため、ボトムドロス吸着部材と呼ぶこととする。図2に、ボトムドロス吸着部材を用いた場合の浴槽内の流れ(浴流)の態様を示す。
【0054】
図11に示すボトムドロス吸着部材を設置しない状態と比較してみると分かるように、吸着部材を設置した場合でも浴流の方向はほとんど変わらない。しかし、2枚の開口部を有する鋼板(多孔板)の開口部を、例えば鉛直方向に重ならないように配置することにより、2枚の多孔板の中で浴流の方向は変化しており、そのため流れに乗って移動する比重の重いボトムドロスを浴流から分離し、浴流の下流側の多孔板上の開口部ではない部分に堆積させ捕捉することができる。言い替えると、比重の重いボトムドロスを浴流から分離させるため、2枚の多孔板の間で浴流の方向が変化し、ボトムドロスを堆積させ捕捉できるように、開口位置を考慮して2枚の多孔板を設置する必要がある。図3に、その様子を模式的に示す。
【0055】
更に、こうした多孔板の配置は、本発明者らの発明による特許文献5に記載の多孔整流板と同等の効果を奏し、壁面流速を減衰させる作用効果も得られる。この作用効果で、浴槽底部に沈殿しているボトムドロスの巻き上がりを、溶融亜鉛めっき浴槽の低い領域に抑えることもでき、この抑制効果により、鋼板へのボトムドロス噛み込みを低減することもできる。
【0056】
なお、本発明でいう多孔板を重ねる際の「所定の間隔」とは、浴流の方向を変化せしめる程度に狭くなければならず、且つ堆積・捕捉したボトムドロスにより浴流の流動性が阻害されない程度に広くなければならない。これは、多孔板の開口部形状、溶融亜鉛めっき浴槽形状、および操業条件等により決められる事項であるが、ボトムドロスのサイズが数μmから数mmであることから、1cm程度から30cm程度であることが望ましい。
【0057】
また、本発明でいう「シンクロールの下部において一部が離隔する」状態とは、シンクロール下部において、ボトムドロス吸着部材が離れて設置されているか、若しくはボトムドロス吸着部材のシンクロールの下部に位置する部分が一部切り欠かれた状態となっていることをいう。図1には、左右の側方壁面に設置されたボトムドロス吸着部材が、シンクロール下部にて、離れて設置されている状態を示している。図8は、後述するように、前方および後方壁面にもボトムドロス吸着部材を設置し、四方をボトムドロス吸着部材で取り囲んだ状態を示すが、例えば、この図8の各ボトムドロス吸着部材を一体にした、つまり内部を切り欠いたボトムドロス吸着部材を左右の側方壁面に設置してもよく、この状態も「シンクロールの下部において一部が離隔する」状態に含まれる。
【0058】
本発明において、ボトムドロス吸着部材のめっき浴槽内への設置は、図1に示すように、めっき浴槽3内の両側方壁面21に、ボトムドロス吸着部材22が接触または該壁面と100mm以下の間隙を有した状態となるように設置する。
【0059】
本発明でいう壁面への「設置」の形態は、ボトムドロス吸着部材22を、めっき浴槽の側方壁面21や前方壁面、後方壁面に、直接、取り付けた状態だけを意味しない。
【0060】
上記「設置」の形態は、図4(a)に示すように、上方から吊り下げた支持部材23に、ボトムドロス吸着部材22を取り付けた状態、また、図4(b)に示すように、めっき浴槽底部に据え置いた支持部材23に、ボトムドロス吸着部材22を取り付けた状態などを意味する。ボトムドロス吸着部材22は、前記壁面(該図中では側方壁面21を例に示す。以下、同じ。)と接触状態にあることが望ましいが、該壁面21とボトムドロス吸着部材22に、100mm以下であれば、隙間があっても機能上問題はない。ボトムドロス吸着部材22と該壁面21との隙間が100mmを超えると、この隙間を流れる浴流の割合が大きくなり、この浴流に乗って流れるドロスを捕捉することができなくなる。
【0061】
実際の操業において、生産を休止して、めっき浴槽内に堆積したボトムドロスを除去する清掃作業を行なう場合、ボトムドロス吸着部材22が両側方壁面21に溶接等で固定されていると、清掃作業の邪魔となる場合がある。
【0062】
一方、図4(a)及び(b)に示すように、パイプフレームのような支持部材23でボトムドロス吸着部材22を吊り下げるか、又は、支持部材23の上にボトムドロス吸着部材22を据え置いた設置態様にすると、ボトムドロス吸着部材22の取り付け取り外しが容易となり、清掃作業がし易くなる。
【0063】
ボトムドロス吸着部材22が、両側方壁面21に、完全に接触していなくとも、実質的に、側方壁面流を減衰させる効果を期待することができる。なお、ボトムドロス吸着部材22の他の取り付け方法として、シンクロールの支持部材に取り付けて一体化する方法も可能である。
【0064】
また、本発明において、ボトムドロス吸着部材のめっき浴槽内への設置は、図1に示すように、めっき浴槽3内のボトムドロス吸着部材22の少なくとも一部が、シンクロールの下部において離隔するように行う。
【0065】
即ち、シンクロールの中央付近にボトムドロス吸着部材がなく、開放された状態で、言い換えると、両側方壁面に設置した一対、又は、複数対のボトムドロス吸着部材を、間隔を隔てた状態で配置することを意味する。
【0066】
その理由は、シンクロールの全胴長さにわたってボトムドロス吸着部材を配置すると、シンクロールの中央付近に漂うドロスが、ボトムドロス吸着部材の上に沈殿・堆積し、その後に、巻き上がる恐れがあるからである。
【0067】
シンクロールの中央付近は、両端部付近に比べ、溶融めっき金属の流れが遅いので、ボトムドロス吸着部材がなくても、ボトムドロスが巻き上がる危険性は小さい。
【0068】
また、シンクロールの中央付近の下にボトムドロス吸着部材が横たわっていると、めっき操業を開始する時、鋼板の先端部をシンクロールに巻き付ける作業、いわゆる、スレッディング作業が煩雑になる。
【0069】
本発明の第2実施態様(請求項2の発明)は、第1実施態様における両側方壁面を前方壁面及び/又は後方壁面(以下、前・後方壁面という。)にしたものである。図7に、その例として、シンクロールの前方壁面に、ボトムドロス吸着板を設置したものを示す。第3実施態様(請求項3の発明)は、図8に例を示すように、両側方壁面と前・後方壁面、つまりシンクロールの周囲となる四方壁面にボトムドロス吸着板を設置したものである。
【0070】
鋼板の移動速度及びシンクロールの回転速度が高まると、溶融めっき浴槽の前方(鋼板の出側領域)、及び、後方(鋼板の入側領域)にも、溶融めっき金属の流れが発生し、ボトムドロスの巻き上がりを引き起こす恐れがある。
【0071】
また、側方部分の流れをボトムドロス吸着部材で抑制したことに伴い、流れを妨げられた溶融めっき金属が逃げ場を失い、前方又は後方に集束し、新たな巻き上がりのループを形成する恐れがある。
【0072】
これらの実施態様は、少なくとも、前方壁面及び/又は後方壁面にボトムドロス吸着部材を設置し、溶融めっき金属の流れを、多方向から抑制することを狙いとするものである。原理、機能は、第1実施態様と同じため、以下、第1実施態様を例として、説明する。
【0073】
図5及び図6は、シンクロールの軸端部が対面する溶融めっき浴槽の両側方壁面に、溶融めっき浴槽の底部からの距離が、該底部とシンクロール下端の間隔の0.8倍を超えない位置に、ボトムドロス吸着部材の一部が位置するボトムドロス吸着部材を設置した態様を示す図である。
【0074】
本発明においては、浴流の上昇流又は下降流によりボトムドロスを捕捉するものであるから、シンクロールの回転により発生する浴流が側壁面に沿うような下降流や上昇流となる位置に設置することが望ましい。つまり、ボトムドロス吸着部材を、シンクロールの下端部よりも低い位置、望ましくは、溶融めっき浴槽の底部からの距離が、該底部とシンクロール下端の間隔の0.8倍を超えない位置に設置することが好ましい。
【0075】
図5は、段差を設けたボトムドロス吸着部材を、側方壁面に接触した部分が、シンクロール下端部よりも高い位置になるように設置した態様を示す。しかし、図5に示すように、ボトムドロス吸着部材の一部が0.8倍を超える位置に設置されている場合でも、少なくとも他の一部が0.8倍を超えない位置に設置されていれば、壁面に沿った上昇流又は下降流を効果的に捉え、抑制することができる。特に、シンクロール下部に位置するボトムドロス吸着部材の一部が0.8倍を超えない位置に設置されていれば、より好ましい。
【0076】
図6に示す実施態様も、図5に示す実施態様と同様の思想に基づくものであるが、ボトムドロス吸着部材がシンクロールの支持部材に配置されている点で異なっているだけである。
【0077】
以上、述べたとおり、本発明のボトムドロス吸着部材は、壁面に沿った上昇流又は下降流を捕らえて、ボトムドロスを分離捕捉することを目的とするものであるので、ボトムドロス吸着部材の高さは、単一である必要はない。
【0078】
本発明で用いるボトムドロス吸着部材に用いる多孔板の開口部の形状や配置は特に問わない。パンチングメタルのような、規則的な円形の開口部を備えるものや、金網状のものなどを、適宜、選択することができる。捕捉したボトムドロスを再流出させないために、部材に鼠返しのような加工を施すこともある。
【0079】
ただし、開口部の合計面積は、ボトムドロス吸着部材の浴流が面する部分の面積(開口部も含めた面積)の20〜80%(開孔率)とし、開口部1個当りの平均面積は5000mm2以下とすることが好ましい。
【0080】
開孔率が20%に満たないと、浴流が抑制され過ぎてしまうため、めっき金属の浴流自体の通過量が減少し、その分ボトムドロスを捕捉することができなくなるためである。
【0081】
一方、開孔率が80%を超えると、開口部をずらして配置しても浴流の方向を変化させる機能が小さく、そのためボトムドロスの捕捉ができなくなるためである。
【0082】
開口部1個当りの平均面積は、5000mm2を超えると浴流の流速を均一に減衰させることが困難になり、好ましくない。
【0083】
なお、開口部1個当りの平均面積の下限は、特に限定しないが、ボトムドロスのサイズは、通常、数μmから数mm程度であるので、開口部の面積は、ボトムドロスが容易に通過できる程度の面積、例えば100mm2以上であれよい。
【0084】
ボトムドロス吸着部材の多孔板に用いる鋼板は、様々な形態の鋼板を使用することができる。特に、表面に凹凸のある形状の鋼板(例えば、表面を凹凸状に加工したエンボス鋼板や、波形に加工したコルゲート鋼板等)を用いれば、1枚でも浴流の方向を変えることができ、ボトムドロスを捕捉することができる。もちろん、2枚以上重ねることにより、より効果的にボトムドロスを捕捉することができることは、言うまでもない。
【0085】
また、ボトムドロス吸着部材は多孔板により構成されることに限定されない。例えば、繊維状部材、綿状部材、網状部材、籠の中に複数のボール状のものやペレット状のものを詰めた部材等、浴流の方向を変化させ、流速を減衰させる効果がある部材であれば、自由に使用することができる。
【0086】
例えば、鋼材でできた金網の間に、直径20mm〜100mmのボール状鋼材を充填したものにすれば、該ボール状鋼材を通過する間に浴流中のボトムドロスを捕捉することができる。ただし、ボール状鋼材の直径が20mmより小さければ、ボトムドロス吸着部材を通過するめっき金属量が少なくなり、十分にボトムドロスを捕捉することができない。一方、ボール状鋼材の直径が100mmより大きければ、浴流の方向を変化させる機能が小さく、十分にボトムドロスを分離捕捉することができない。
【0087】
また、例えばボトムドロス吸着部材を、JISG3556で規定される空間率20〜80%の1枚または複数枚の網状物体にすれば、フィルタリング機能により、網状物体に浴流中のボトムドロスを十分捕捉することができる。
【0088】
本発明のボトムドロス吸着部材の寸法は、壁面に沿って流れる上昇流又は下降流を有効に捉え、整流できる寸法であればよく、使用する溶融めっき設備の寸法に応じて、適宜、決定されることとなる。
【0089】
側方壁面に設置するボトムドロス吸着部材の寸法を決定する方法を、図9に従って説明する。
【0090】
ボトムドロス吸着部材の幅寸法Wは、側方壁面から鋼板端部までの距離Xよりも短く、側方壁面からシンクロール支持部材までの距離Zよりも長く設定することが望ましい。W≧Xの場合、シンクロールの交換時に行う鋼板の通板作業に支障を来す恐れがある。一方、W≦Zの場合には、浴槽内の壁面に沿って流れる上昇流又は下降流を有効に捉えることができず、また十分な整流効果が得られない場合がある。従って、ボトムドロス吸着部材の幅寸法Wは、Z<W<Xを満たすことが望ましい。なお、距離Xを求める際の鋼板の幅は、処理対象鋼板の中で最も幅の狭いものとする。
【0091】
ボトムドロス吸着部材の奥行き寸法Lは、シンクロールの直径Dの0.7倍よりも長く、めっき浴槽内側の奥行き寸法Yよりも短く設定することが望ましい。L≦0.7Dの場合、シンクロールの巻き付け部から発生する側方噴流を、カバーすることができず、十分に上昇流又は下降流を有効に捉えることができない場合がある。一方、L≧Yの場合、物理的にボトムドロス吸着部材をめっき浴槽内に格納することができない。従って、ボトムドロス吸着部材の奥行き寸法Lは、0.7D<L<Yを満たすことが望ましい。
【0092】
なお、ボトムドロス吸着部材の前後方向の設置位置については、ボトムドロス吸着部材の中央が、シンクロール直下であるよりも、前方側(鋼板出側)にずれた位置に設置するほうが、特に好ましい。
【0093】
ボトムドロス吸着部材に使用する鋼材の材質は、特に限定されない。しかし、発明者らの行った実験による知見から、ステンレス鋼やセラミックスなどのような耐食性の高い材料は、めっき金属による侵食性が普通鋼材より少なく設備寿命が長くなるが、ボトムドロスの堆積性は、ステンレス上への堆積性に比べ普通の鋼材、いわゆる炭素鋼上の方がよく、ドロスを捕捉する能力の観点から、炭素鋼を用いることが望ましい。その理由は明確ではないが、ボトムドロスが本発明の吸着装置に捕捉され始めると、同一時間内に吸着されるボトムドロスの量が加速的に増加することから、ある程度Fe分が浴中に溶け出すほうがドロス中のFe分と反応して吸着しやすくなるためと考えられる。
【0094】
ボトムドロス吸着部材内のボトムドロスの捕捉量が多くなると、該吸着部材が目詰まり状態となり、めっき金属が通過しなくなるが、ボトムドロスの捕捉が目的であるので、むしろ早く捕捉して、目詰まり状態となる前に交換する必要がある。従って、ボトムドロス吸着部材の寿命はあまり考慮する必要がなく、普通鋼材にて製造しても十分である。
【0095】
ボトムドロス吸着部材を上述のように設置する本発明においては、図2(a)及び(b)に示すように、処理対象の鋼板が幅広材、幅狭材のいずれの場合であっても、ボトムドロス吸着部材が、浴槽内の壁面に沿って流れる上昇流又は下降流を有効に捉えることができ、また十分な整流効果が得られ浴流の流速を減衰させることができるので、その結果、浴中のボトムドロスを分離補足することができ、尚且つ浴槽底部に沈殿しているボトムドロスの巻き上がりを顕著に防止することができる。
【実施例】
【0096】
以下本発明を実施例に基づいて説明する。
連続溶融亜鉛めっき浴槽内に、以下の条件のボトムドロス吸着部材を設置して、連続溶融亜鉛めっき処理を行ない、ボトムドロスの巻き上がりによるめっき鋼板へのボトムドロス付着発生率を測定した。その結果を表1に示す。
【0097】
〔ボトムドロス吸着部材の仕様〕
形状・材質:8mm厚のオーステナイト系ステンレス鋼板の2枚重ね
孔の有無:「多孔」と「孔なし」の2水準で実施。多孔の場合は開孔率50%、孔1 個あたりの平均面積2.0×103mm2。
設置条件:めっき浴槽(幅3600mm×奥行4000mm)で、めっき浴槽底部か らシンクロール下端までの間隔(距離)は、1200mmの装置を使用し 、ボトムドロス吸着部材をシンクロール下端から600mmを標準とした 。
側方壁面に設置するボトムドロス吸着部材は、側方壁面と接触(間隙=0mm)、壁 面との間隙=10mm、壁面との間隙=100mmの3水準で実施。
側方壁面に設置するボトムドロス吸着部材は、「離隔」、「離隔なし」の条件で実施 。
例えば「1600mm離隔」とは、両側方壁面に設置された一対のボトムドロス吸着 部材が、シンクロール下部において1600mmの間隔を隔てて設置されている状態 を指す。「離隔なし」とは、ボトムドロス吸着部材が間隔を隔てず、一つに繋がった 状態であることを指す。
【0098】
〔試験条件〕
めっき浴:溶融亜鉛
通板速度:150m/分
試験用コイル:板厚0.6mm×板幅1,200mm 冷延普通炭素鋼コイル(幅狭材)
板厚0.6mm×板幅1,800mm 冷延普通炭素鋼コイル(幅広材)
【0099】
条件の異なる多孔整流板に対して、それぞれ約40個の試験用コイルを、溶融亜鉛めっきラインにてめっき処理し、以下の計算式で鋼板のボトムドロス付着発生率を求めた。ボトムドロス付着の有無は、目視検査にて判断した。
ボトムドロス付着発生率(%)=(ボトムドロス付着のあったコイル数/試験したコ イル数)×100
【0100】
ボトムドロス付着に関する合否判定は、幅狭材および幅広材におけるボトムドロス付着発生率の平均値に基づき、以下の基準に従って行った。
合格(優):6%未満
合格(良):6%以上8%未満
合格(可):8%以上12%未満
不合格:12%以上
【0101】
【表1】
【0102】
表1のNo1〜3は、ボトムドロス吸着部材の端部を側方壁面に設置し、シンクロール下部においてボトムドロス吸着部材を離隔して設置した場合を表すものであり、本発明における第1実施態様に該当する。このときの鋼板のドロス付着発生率は、いずれも合格の範囲内である。No4は、側方壁面との間隙が開き過ぎたため、浴流の多くがこの間隙をながれ、ボトムドロスが捕捉できなかったものと思われる。No8は整流板に孔が開いていないため、幅広材のめっき処理時にボトムドロスが巻き上がったものと見られる結果となった。No5、No6、No7、No12はボトムドロス吸着部材の設置条件が離隔なしのものや、設置高さが高すぎるものであり、いずれもボトムドロスの巻き上がりを十分に抑制できなかった。No13はボトムドロス吸着部材を設置しない場合であり、最も劣る結果となった。No9は多孔整流板を側方・前方壁面に設置し、No10は多孔整流板を側方・前方・後方壁面に設置した場合であって、それぞれ図7、図8に示す第2の実施態様に該当する。このように、ボトムドロス吸着部材を側方壁面以外に設置した場合も本発明の効果が十分に得られることを確認できた。
【0103】
表2は、本発明における図5に示した段差のあるボトムドロス吸着部材で試験を行った結果を示す。整流板の高い方の部分の高さを「設置高さ1」、その低い方の部分の高さを「設置高さ2」と定義し、溶融めっき浴槽底部からシンクロール下端までの距離に対する倍率で、それぞれの高さを表している。
【0104】
〔ボトムドロス吸着部材の仕様〕
形状・材質:8mm厚のオーステナイト系ステンレス鋼板の2枚重ね
孔の有無:開孔率50%、孔1個あたりの平均面積2.0×103mm2の多孔整流 板を使用。
設置条件:両側方壁面に接触する状態(間隙=0mm)で設置
試験条件等は前記と同様の方法で行った。
【0105】
【表2】
【0106】
表2のNo14からNo18は、設置高さ2を一定の値(浴槽底面からの設置高さと浴槽底面からロールまでの距離の比(以下「高さ比」)=0.4)にして、設置高さ1の影響を調べたものである。設置高さ1が高さ比で0.8を超えてもNo17とNo18は、合格の範囲であるが、No23のようにのように設置高さ2が高さ比で0.8を超えると、不合格になることが解った。
【0107】
側方壁面に設置するボトムドロス吸着部材の寸法に関して、試験を行った結果を表3に示す。
【0108】
〔ボトムドロス吸着部材の仕様〕
形状・材質:8mm厚のオーステナイト系ステンレス鋼板の2枚重ね
孔の有無:開孔率50%、孔1個あたりの平均面積2.0×103mm2
設置条件:シンクロール下端から600mm、めっき浴槽底部から600mmの高さ に設置。溶融めっき浴槽の両側方壁面に、シンクロールの下部において一 部が離隔するボトムドロス吸着部材を、該部材が上記壁面に接触した状態 となるように設置。
その他の試験条件等は、表1の場合と同様である。
【0109】
【表3】
【0110】
図9に各記号が、どこの長さを示すのか表示している。No24〜No33は、浴槽の奥行方向に関する寸法(Y,L,D)を固定し、幅方向の寸法(Z,W,X)の関係を調べた結果である。
【0111】
前述したように、No24,25のように、W≦Zの場合には、浴槽内の壁面に沿って流れる上昇流又は下降流を有効に捉えることができず、また十分な整流効果が得られないため、鋼板へのドロス付着が増加したものと思われる。No32,33のW≧Xの場合、鋼板へのドロス付着については、合格の範囲であるが、これも前述したように、シンクロールの交換時に行う鋼板の通板作業に支障を来すことが考えられる。
【0112】
No34〜No43は、浴槽の幅方向に関する寸法(Z,W,X)を固定し、奥行方向の寸法(Y,L,D)の関係を調べた結果である。
【0113】
これも前述したように、L<0.7Dの場合、シンクロールの巻き付け部から発生する側方噴流を、カバーすることができず、十分に上昇流又は下降流を有効に捉えることができない場合があることを実験結果から確認できた。
【0114】
ボトムドロス吸着部材の開孔率及び吸着部材の種類に関して、試験を行った結果を表4に示す。
【0115】
〔ボトムドロス吸着部材の仕様〕
形状・材質:8mm厚のオーステナイト系ステンレス鋼板の2枚重ね
設置条件:シンクロール下端から600mm、めっき浴槽底部から600mmの高さ に設置。溶融めっき浴槽の両側方壁面に、シンクロールの下部において一 部が離隔するボトムドロス吸着部材を、該部材が上記壁面に接触した状態 となるように設置。
その他の試験条件等は、表1の場合と同様である。
【0116】
【表4】
【0117】
No44〜No51が、多孔板の開孔率による影響を調べたものである。前述したように、開孔率が20%に満たないと、浴流が抑制され過ぎてしまうため、めっき金属の浴流自体の通過量が減少し、その分ボトムドロスを捕捉することができなくなっているため、鋼板へのドロスの付着が生じている。一方、開孔率が80%を超えると、開口部をずらして配置しても浴流の方向を変化させる機能が小さく、そのためボトムドロスの捕捉ができなくなっていると、実験結果からも想定される。
【0118】
No52、53はコルゲート状の鋼板に、No54,55は千鳥山谷鋼板に開口部を設けたものにて、実験をした結果である。これら、表面に凹凸を有するものを用いても、所定の効果があることが確認できた。
【0119】
No56〜No59は、吸着部材としてボール状の鋼材を使用したものである。ボール直径が20〜100mmの範囲で、浴流中のドロスを捕捉していることが、実験結果から推定できる。また、No60は、ボール状鋼材の代わりに、繊維状の鋼材を使用したときの実験結果を示す。繊維状鋼材を吸着部材に使用しても、所定の効果があることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】は、本発明の第1実施態様を示す図である。
【図2】は、本発明の第1実施態様において生じる浴流の態様を示す図である。(a)は、幅広材の場合を示し、(b)は、幅狭材の場合を示す。
【図3】は、本発明の第1実施態様において、ボトムドロス吸着部材内での浴流とボトムドロスの分離捕捉を示す模式図である。
【図4】は、多孔整流板の設置態様を示す図である。(a)は、支持部材を介して、多孔整流板を吊り下げる態様を示し、(b)は、支持部材を介して、多孔整流板を据え置く態様を示す。
【図5】は、段差を設けたボトムドロス吸着部材の例を示す図である。
【図6】は、段差を設けたボトムドロス吸着部材の例を示す図である。
【図7】は、本発明の第2実施態様の例を示す図である。
【図8】は、本発明の第3実施態様の例を示す図である。
【図9】は、側方の壁面に設置する整流部材の寸法を決定する方法を説明する図である。(a)は、連続溶融亜鉛めっき装置の側面を示し、(b)は、その正面を示す。
【図10】は、一般的な連続溶融亜鉛めっき装置の概略を示す図である。
【図11】は、図10に示す装置において生じる浴流の態様を示す図である。(a)は、幅広材の場合を示し、(b)は、幅狭材の場合を示す。
【符号の説明】
【0121】
1 鋼板
1’ めっき鋼板
2 スナウト
3 溶融亜鉛めっき浴槽
4 シンクロール
5 サポートロール
6 めっき浴面
7 ガスワイピングノズル
8 制振装置
9 合金化加熱炉
10 ボトムドロス
11 放射接線方向に働く力
21 溶融亜鉛めっき浴槽側方壁面
22 ボトムドロス吸着部材
23 支持部材
24 多孔板
A,B 浴流方向
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンクロールの軸の端部が対面する溶融めっき浴槽の両側方壁面に、シンクロールの下部において一部が離隔するボトムドロス吸着部材を、該部材が該壁面に接触または該壁面と100mm以下の間隙を有した状態となるように設置し、該壁面に沿って上昇または下降する溶融めっき金属中のボトムドロスを吸着するボトムドロス吸着装置であって、
該部材は、開口部を有する複数枚の鋼板を、該鋼板の開口部が重ならないように、所定の間隔をもって重ねたことを特徴とするボトムドロス吸着装置。
【請求項2】
前記溶融めっき浴槽の前方壁面および/または後方壁面に、ボトムドロス吸着部材を、該部材が該壁面に接触または該壁面と100mm以下の間隙を有した状態となるように設置し、該壁面に沿って上昇または下降する溶融めっき金属中のボトムドロスを吸着するボトムドロス吸着装置であって、
該部材は、開口部を有する複数枚の鋼板を、該鋼板の開口部が重ならないように、所定の間隔をもって重ねたことを特徴とするボトムドロス吸着装置。
【請求項3】
前記溶融めっき浴槽の両側方壁面に、前記ボトムドロス吸着部材を、該部材が該壁面に接触または該壁面と100mm以下の間隙を有した状態となるように設置し、該壁面に沿って上昇または下降する溶融めっき金属中のボトムドロスを吸着することを特徴とする請求項2記載のボトムドロス吸着装置。
【請求項4】
前記ボトムドロス吸着装置において、前記ボトムドロス吸着部材の一部が、溶融めっき浴槽底部からの距離が該底部とシンクロール下端の間隔の0.8倍を超えない位置に位置するように設置することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のボトムドロス吸着装置。
【請求項5】
前記溶融めっき浴槽の側方壁面に、設置したボトムドロス吸着部材の幅寸法Wは、上記側方壁面から鋼板端部までの距離X以下、上記側方壁面からシンクロールの支持部材までの距離Z以上とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【請求項6】
前記溶融めっき浴槽の側方壁面に、設置したボトムドロス吸着部材の奥行き寸法Lは、シンクロールの直径の0.7倍以上、溶融めっき浴槽の内側の奥行き寸法Y以下とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【請求項7】
前記ボトムドロス吸着部材が複数の開口部を備え、かつ、開口部の面積の合計が、該ボトムドロス吸着部材の鋼板の全面積の20〜80%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【請求項8】
前記ボトムドロス吸着部材が複数の開口部を備え、かつ、開口部1個当りの平均面積が、5000mm2以下であることを特徴とする請求の範囲1〜7のいずれかに記載の金属板のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【請求項9】
前記ボトムドロス吸着部材が、1枚または複数枚の表面に凹凸のある形状であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【請求項10】
前記ボトムドロス吸着部材が、複数枚の鋼材の金網の間に直径20〜100mmのボール状の鋼材を充填したものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【請求項11】
前記ボトムドロス吸着部材が、JISG3556で規定される空間率20〜80%の1枚または複数枚の網状物体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【請求項12】
前記ボトムドロス吸着部材が、炭素鋼でできていることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【請求項1】
シンクロールの軸の端部が対面する溶融めっき浴槽の両側方壁面に、シンクロールの下部において一部が離隔するボトムドロス吸着部材を、該部材が該壁面に接触または該壁面と100mm以下の間隙を有した状態となるように設置し、該壁面に沿って上昇または下降する溶融めっき金属中のボトムドロスを吸着するボトムドロス吸着装置であって、
該部材は、開口部を有する複数枚の鋼板を、該鋼板の開口部が重ならないように、所定の間隔をもって重ねたことを特徴とするボトムドロス吸着装置。
【請求項2】
前記溶融めっき浴槽の前方壁面および/または後方壁面に、ボトムドロス吸着部材を、該部材が該壁面に接触または該壁面と100mm以下の間隙を有した状態となるように設置し、該壁面に沿って上昇または下降する溶融めっき金属中のボトムドロスを吸着するボトムドロス吸着装置であって、
該部材は、開口部を有する複数枚の鋼板を、該鋼板の開口部が重ならないように、所定の間隔をもって重ねたことを特徴とするボトムドロス吸着装置。
【請求項3】
前記溶融めっき浴槽の両側方壁面に、前記ボトムドロス吸着部材を、該部材が該壁面に接触または該壁面と100mm以下の間隙を有した状態となるように設置し、該壁面に沿って上昇または下降する溶融めっき金属中のボトムドロスを吸着することを特徴とする請求項2記載のボトムドロス吸着装置。
【請求項4】
前記ボトムドロス吸着装置において、前記ボトムドロス吸着部材の一部が、溶融めっき浴槽底部からの距離が該底部とシンクロール下端の間隔の0.8倍を超えない位置に位置するように設置することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のボトムドロス吸着装置。
【請求項5】
前記溶融めっき浴槽の側方壁面に、設置したボトムドロス吸着部材の幅寸法Wは、上記側方壁面から鋼板端部までの距離X以下、上記側方壁面からシンクロールの支持部材までの距離Z以上とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【請求項6】
前記溶融めっき浴槽の側方壁面に、設置したボトムドロス吸着部材の奥行き寸法Lは、シンクロールの直径の0.7倍以上、溶融めっき浴槽の内側の奥行き寸法Y以下とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【請求項7】
前記ボトムドロス吸着部材が複数の開口部を備え、かつ、開口部の面積の合計が、該ボトムドロス吸着部材の鋼板の全面積の20〜80%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【請求項8】
前記ボトムドロス吸着部材が複数の開口部を備え、かつ、開口部1個当りの平均面積が、5000mm2以下であることを特徴とする請求の範囲1〜7のいずれかに記載の金属板のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【請求項9】
前記ボトムドロス吸着部材が、1枚または複数枚の表面に凹凸のある形状であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【請求項10】
前記ボトムドロス吸着部材が、複数枚の鋼材の金網の間に直径20〜100mmのボール状の鋼材を充填したものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【請求項11】
前記ボトムドロス吸着部材が、JISG3556で規定される空間率20〜80%の1枚または複数枚の網状物体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【請求項12】
前記ボトムドロス吸着部材が、炭素鋼でできていることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のプレート状部材のボトムドロス吸着装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−24472(P2010−24472A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183975(P2008−183975)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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