説明

溶融めっき熱延鋼板およびその製造方法

【課題】優れた伸びフランジ性と高い降伏比とを有する引張強度590MPa以上の溶融めっき熱延鋼板とそれを複雑な工程を経ることなく製造しうる方法とを提供する。
【解決手段】熱延鋼板の表面に溶融めっき層を有する溶融めっき熱延鋼板であって、熱延鋼板は、質量%で、C:0.03%以上0.12%以下、Si:0.005%以上0.5%以下、Mn:2.0%超3.0%以下、P:0.05%以下、S:0.005%以下、sol.Al:0.001%以上0.100%以下およびN:0.0050%以下を含有する化学組成を有し、フェライトが主相であり、ベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの体積率の合計が5%以下(0%を含む)であるとともに、フェライトの平均粒径が7μm以下である鋼組織を有し、溶融めっき熱延鋼板は、引張強度590MPa以上、降伏比70%以上、穴拡げ率90%以上である機械特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張強度590MPa以上の溶融めっき熱延鋼板およびそれらの製造方法に関する。ここで、本発明において、「溶融めっき熱延鋼板」とは熱延鋼板の表面に溶融めっき層を有するものをいい、このめっき層を形成する処理がなされたあとに合金化処理が施されてなる「合金化溶融めっき熱延鋼板」も含まれる。
【背景技術】
【0002】
自動車用鋼板の分野においては、車体軽量化による燃費向上のため高強度と耐食性を兼ね備えた引張強度レベル590MPa以上のめっき鋼板の適用が拡大しており、近年特に足回り用途など従来非めっき熱延鋼板が使用されていた部品にまで適用されるようになってきている。これらの部品の素材には、その成形方法から優れた伸びフランジ性が要求され、部品としての耐久性から高い降伏強度とが要求される場合が多い。
【0003】
従来から、熱延鋼板をめっき基材とする溶融亜鉛めっき熱延鋼板について、多くの提案がなされている。
特許文献1には、析出強化を利用してC添加量を低減させてパーライトの体積率を低く抑え、かつ熱延後の焼鈍処理によりフェライト粒界にパーライトまたはセメンタイトを微細に分散析出させた組織とすることにより優れた伸びフランジ性するとされる溶融亜鉛めっき熱延鋼板が開示されている。
【0004】
また、特許文献2ではSi、Mnを多量に含有していても不めっき欠陥のない強度延性バランスに優れるとされる高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−12947号公報
【特許文献2】特開2000−290730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された溶融亜鉛めっき熱延鋼板は、フェライト−パーライト組織であるために延性が十分であるとはいえず、近年の成形の難しい用途に適用することは困難である。
【0007】
また、特許文献2は、多量のSi、Mnを含有させて強度延性バランスを高めているため、酸洗後焼鈍・冷却したのちに鋼板表面をさらに酸洗し、連続溶融亜鉛めっきラインで焼鈍・めっきを行うという複雑な工程を経なければならず、コスト的に不利である。
【0008】
このようなことから、本発明は、優れた伸びフランジ性と高い降伏比とを有する引張強度590MPa以上の溶融めっき熱延鋼板とそれを複雑な工程を経ることなく製造しうる方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、熱延後の冷却条件を制御したした上で、オーステナイト単相域に焼鈍しその後特定条件で冷却・保持することで、フェライトを微細にしするとともに第二相を微細かつ少量に抑え、これにより、優れた伸びフランジ性と高い降伏比を有する高強度溶融めっき熱延鋼板を得ることができることを新たに知見した。
【0010】
本発明は、これらの新たな知見に基づくものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)熱延鋼板の表面に溶融めっき層を有する溶融めっき熱延鋼板であって、前記熱延鋼板は、質量%で、C:0.03%以上0.12%以下、Si:0.005%以上0.5%以下、Mn:2.0%超3.0%以下、P:0.05%以下、S:0.005%以下、sol.Al:0.001%以上0.100%以下およびN:0.0050%以下を含有する化学組成を有し、フェライトが主相であり、ベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの体積率の合計が5%以下(0%を含む)であるとともに、前記フェライトの平均粒径が7μm以下である鋼組織を有し、前記溶融めっき熱延鋼板は、引張強度590MPa以上、降伏比70%以上、穴拡げ率90%以上である機械特性を有することを特徴とする溶融めっき熱延鋼板。
【0011】
(2)前記化学組成が、質量%で、Ti:0.15%以下およびNb:0.10%以下からなる群から選択された1種または2種をさらに含有することを特徴とする上記(1)に記載の溶融めっき熱延鋼板。
【0012】
(3)前記化学組成が、質量%で、Cr:1%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下、Cu:1%以下、Ni:1%以下およびB:0.005%以下からなる群から選択された1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の溶融めっき熱延鋼板。
【0013】
(4)前記化学組成が、質量%で、Ca、REMおよびMgからなる群から選択された1種または2種以上を合計で0.005%以下をさらに含有することを特徴とする上記(1)〜上記(3)のいずれかに記載の溶融めっき熱延鋼板。
【0014】
(5)前記ベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトを有する場合にはそれら最大粒径が2μm以下であることを特徴とする上記(1)〜上記(4)のいずれかに記載の溶融めっき熱延鋼板。
【0015】
(6)下記工程(A)および(B)を有することを特徴とする溶融めっき熱延鋼板の製造方法:
(A)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の化学組成を有するスラブを熱間圧延した後、30℃/秒以上の平均冷却速度で600℃まで冷却し、400℃以上550℃以下の温度域で巻取って熱延鋼板とする熱間圧延工程;および
(B)前記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板をAc点以上900℃以下の温度域で均熱した後、3℃/秒以上20℃/秒以下の平均冷却速度で550℃まで冷却し、420℃以上550℃以下の温度域に20秒間以上500秒間以下保持し、次いで、溶融亜鉛めっきを施して室温まで冷却する連続溶融亜鉛めっき工程。
【0016】
(7)前記溶融亜鉛めっき工程において、溶融亜鉛めっきを施したのち室温まで冷却する前に、480℃以上600℃以下の温度域に10秒間以上保持する合金化処理を施すことを特徴とする上記(6)に記載の溶融めっき熱延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、引張強度590MPa以上の高強度と優れた伸びフランジ性と高い降伏比を有する高強度溶融めっき熱延鋼板を製造することができ、産業上極めて有益である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る溶融めっき熱延鋼板の基材をなす鋼板の化学組成および鋼組織、溶融めっき熱延鋼板における溶融めっき層ならびに溶融めっき熱延鋼板の製造方法について説明する。以下の説明において、化学組成を規定する「%」は特にことわりがない限り「質量%」である。
【0019】
1.化学組成
(C:0.03%以上0.12%以下)
Cは、強度を高める作用を有する。C含有量が0.03%未満では590MPa以上の引張強度を得ることが困難である。したがって、C含有量は0.03%以上とする。好ましくは0.04%以上である。一方、C含有量が0.12%超では、ベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計面積率が過大となり、伸びフランジ性の低下や降伏比の低下が著しくなる場合がある。したがって、C含有量は0.12%以下とする。好ましくは0.09%以下、さらに好ましくは0.07%以下である。
【0020】
(Si:0.005%以上0.5%以下)
Siは、延性の低下を抑制しつつ強度を高めるのに有効な元素である。また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合には、合金化反応を適度に抑制して良好なめっき密着性を実現するのに有効な元素である。Si含有量が0.005%未満では上記効果を得ることが困難となる場合がある。したがって、Si含有量は0.005%以上とする。一方、Si含有量が0.5%超では、溶融めっきを施す際の濡れ性の低下が著しくなる場合がある。したがって、Si含有量は0.5%以下とする。好ましくは0.2%未満である。
【0021】
(Mn:2.0%超3.0%以下)
Mnは、焼入性を高めることにより鋼板の強度高めるのに有効な元素である。Mn含有量が2.0%以下では本発明の目的とする強度を確保することが困難な場合がある。したがってMn含有量は2.0%超とする。好ましくは2.1%以上である。一方、Mn含有量が3.0%超では、焼入性が高くなり過ぎて第二相の体積率が過大となり、伸びフランジ性が低下したり、高い降伏比が得られなかったりする場合がある。したがって、Mn含有量は3.0%以下とする。好ましくは2.7%以下である。
【0022】
(P:0.05%以下)
Pは、一般に不純物として含有されるが、固溶強化により強度を高める作用も有する。したがって、積極的に含有させてもよい。しかし、P含有量が0.05%を超えると、靱性の劣化が著しくなる。したがって、P含有量は0.05%以下とする。
【0023】
(S:0.005%以下)
Sは、不純物として含有され、鋼中にMnSを形成して伸びフランジ性を劣化させる作用を有する。S含有量が0.005%を超えると上記作用による伸びフランジ性の劣化が著しくなる場合がある。したがって、S含有量は0.005%以下とする。好ましくは0.003%以下、さらに好ましくは0.002%以下である。
【0024】
(sol.Al:0.001%以上0.100%以下)
Alは、鋼を脱酸して鋼板を健全化する作用を有する。sol.Al含有量が0.001%未満では脱酸が十分でない。したがって、sol.Al含有量は0.001%以上とする。一方、sol.Al含有量が0.100%超では、上記作用による効果は飽和してコスト的に不利となる。したがって、sol.Al含有量は0.100%以下とする。
【0025】
(N:0.0050%以下)
Nは、不純物として含有され、鋼中に粗大な窒化物を形成して伸びフランジ性を劣化させる。N含有量が0.0050%超えると、上記作用による伸びフランジ性の劣化が著しくなる。したがって、N含有量は0.0050%以下とする。N含有量は少ないほど好ましいのでN含有量の下限を規定する必要はない。しかし、N含有量を過度に低減すると大幅なコストの増加を招くので、0.0005%以上とすることが好ましい。
【0026】
(Ti:0.15%以下およびNb:0.10%以下からなる群から選択された1種または2種)
TiおよびNbは、CやNなどと結合あるいはさらに複合化し、鋼中に微細析出物を形成してフェライト相を強化する作用を有するので、高い強度と良好な伸びフランジ性とを両立させるのに有効な元素である。したがって、TiおよびNbの1種または2種を含有させることが好ましい。しかしながら、Ti含有量を0.15%超としても、または、Nb含有量を0.10%超としても、上記作用による効果は飽和してコスト的に不利になる。したがって、Ti含有量は0.15%以下、Nb含有量は0.10%以下とする。また、TiやNbを含有させると熱延鋼板が細粒かつ異方性の大きい組織を形成しやすくなるなり、このような熱延鋼板を焼鈍して得られる鋼板も異方性が大きくなりやすい。したがって、TiおよびNbの含有量の合計を0.150%以下とすることが好ましい。この傾向は特にNb含有量が多い場合に顕著となるので、Nb含有量を0.050%以下とすることがさらに好ましい。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Ti:0.025%以上およびNb:0.010%以上のいずれか満足させることが好ましい。TiおよびNbの合計含有量を0.050%以上とすることがさらに好ましい。
【0027】
(Cr:1%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下、Cu:1%以下、Ni:1%以下、B:0.005%以下からなる群から選択された1種または2種以上)
上記元素は強度を高める作用を有する。したがって上記元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、上記元素の含有量をそれぞれ上記範囲を超えて含有させても、上記作用による効果は飽和してコスト的に不利となる。したがって、上記元素の含有量を上記範囲とする。
【0028】
(Ca、REMおよびMgからなる群から選択される1種または2種以上を合計で0.005%以下)
上記元素は硫化物の形態を制御することにより、伸びフランジ性を高める作用を有する。したがって、上記元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、上記元素の合計含有量を0.005%超としても、上記作用による効果は飽和してコスト的に不利となる。したがって、上記元素の合計含有量は0.005%以下とする。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、上記元素の合計含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。
ここで、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。ランタノイドの場合、工業的にはミッシュメタルの形で添加される。
【0029】
2.鋼組織
本発明の溶融めっき熱延鋼板の基材をなす熱延鋼板は、フェライトが主相である。ここで、本発明において、「主相」とは鋼組織に占める割合がもっとも高い相または組織をいう。優れた伸びフランジ性と高い降伏比とを具備させるために主相をなすフェライトの体積率は98%以上であることが好ましい。
【0030】
一方、主相以外の相または組織、つまり第二相として、ベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの少なくとも一つを含有してもよい。以下、ベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトを「硬質相」と総称する。第二相が硬質相を含有する場合には、硬質相の組織全体に対する体積率の合計を5%以下とする。すなわち、本発明に係る溶融めっき熱延鋼板の基材をなす熱延鋼板において、硬質相の体積率の合計は5%以下(0%を含む)である。硬質相の体積率の合計が5%を超えると伸びフランジ性が劣化するとともに降伏比が低下する。硬質相の体積率の合計は3%以下とすることが好ましい。
【0031】
なお、上記の硬質相以外の第二相として、パーライトやセメンタイトが例示される。これらの組織全体に対する体積率の合計は特に限定されないが、5%を超えると強度が低下したり、相対的にフェライトの体積率が低下して伸びフランジ性が劣化したりすることが懸念される。したがって、硬質相以外の第二相の体積率の合計は5%以下とすることが好ましい。
【0032】
また、本発明の溶融めっき熱延鋼板の基材をなす熱延鋼板は、上記の主相をなすフェライトの平均粒径が7μm以下である鋼組織を有する。フェライトの平均粒径が7μmを超えると、高い降伏比が得られなかったり、伸びフランジ性が劣ったりする場合がある。したがって、フェライトの平均粒径は7μm以下とする。好ましくは5μm以下である。
【0033】
さらに、本発明の溶融めっき熱延鋼板の基材をなす熱延鋼板の鋼組織が硬質相を含有する場合において、その最大粒径が2μmを超えると、伸びフランジ性の劣化が著しくなる。したがって、硬質相を含有する場合にはその最大粒径は2μm以下とする。
【0034】
3.溶融めっき層
溶融めっき層としては、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっき、溶融Zn−Al合金めっき、溶融Zn−Al−Mg合金めっき、溶融Zn−Al−Mg−Si合金めっき等が例示される。めっき付着量は特に制限されず、従来と同様でよい。また、めっき後に適当な化成処理(例えば、シリケート系のクロムフリー化成処理液の塗布と乾燥)を施して、耐食性をさらに高めることも可能である。
【0035】
4.製造方法
以下、本発明に係る溶融めっき熱延鋼板の好適な製造方法について、溶融めっき層が溶融亜鉛めっき層である場合を例として、以下に詳述する。
【0036】
熱間圧延に先立つスラブ加熱はTiの炭窒化物を溶解し、最終製品で微細析出物を得るために1220℃以上とすることが好ましい。また熱間圧延の仕上温度は860℃〜950℃とすることが好ましい。本発明に係る鋼は多量のTiを含有する場合があり、この場合には860℃未満の温度で圧延を終了すると極めて細粒かつ異方性のある熱延組織となる。これを焼鈍して得られる鋼板は、引張特性の異方性が非常に大きく、成形においてイヤリングの発生や特定方向の伸び不足による割れ発生の恐れがある。一方、950℃を超える仕上温度ではスケール疵が発生する恐れがある。
【0037】
(熱間圧延工程)
熱間圧延完了後の冷却過程および巻取温度は本発明の目的とする鋼組織を得るために重要であり、熱間圧延完了後600℃まで30℃/秒以上の平均冷却速度で冷却して400℃以上550℃以下の温度域で巻取る。熱間圧延後焼鈍前の段階において、鋼組織をベイナイト主体とすることにより、焼鈍後のフェライトを微細にし、かつ第二相を微細分散させることが可能となる。
【0038】
熱間圧延完了後600℃までの平均冷却速度が30℃/秒未満では、熱間圧延後均熱処理前の段階において、ベイナイト主体の鋼組織とはならずに、フェライトの体積率が高く、パーライトや粗大なセメンタイトを含有する鋼組織となる。このような鋼組織を有する熱延鋼板をオーステナイト単相域で焼鈍しても、熱間圧延後均熱処理前の段階におけるCなどの元素の濃化の影響を受けてしまい、ベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計体積率が高くなるとともに、これらが粗大になるため、伸びフランジ性に劣る。したがって、熱間圧延完了後600℃までの平均冷却速度は30℃/秒以上とする。
【0039】
巻取温度が550℃超えた場合も熱間圧延後均熱処理前の段階で粗大なセメンタイトが生成しやすいので、同様に伸びフランジ性に劣る。したがって、巻取温度は550℃以下とする。一方、巻取温度が400℃未満になると、温度のコントロールが難しくなり、鋼組織のばらつきも大きくなるため安定した特性を得ることが困難となる。このため、巻取温度は400℃以上とする。
【0040】
熱間圧延後は必要に応じて平坦矯正のためのスキンパス圧延を施してもよく、本発明の効果に影響することは無い。熱延鋼板は、酸洗などによる脱スケール処理を施されたのちに、連続溶融亜鉛めっき工程に供される。
【0041】
(連続溶融亜鉛めっき工程)
均熱温度はAc点以上900℃以下とする。
均熱温度がAc点未満では、ベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計体積率が高くなるため伸びフランジ性が劣化する。したがって、均熱温度はAc点以上とする。一方、均熱温度が900℃を超えると、フェライトが粗大化して目的とする強度を確保することが困難となる。したがって、均熱温度は900℃以下とする。
【0042】
均熱処理後は、3℃/秒以上20℃/秒以下の平均冷却速度で550℃まで冷却する。
550℃までの平均冷却速度が3℃/秒未満では、パーライトや粗大なセメンタイトが多く生成してしまい、目的とする強度が得られない場合がある。また、フェライトの体積率が相対的に低下し、伸びフランジ性が劣化することも懸念される。したがって、550℃までの平均冷却速度は3℃/秒以上とする。一方、550℃までの平均冷却速度が20℃/秒を超えるとフェライトの体積率が不足して、延性が劣るようになる。したがって、550℃までの平均冷却速度は20℃/秒以下とする。
【0043】
その後、420℃以上550℃以下の温度域に20秒間以上500秒間以下保持する。
420℃以上550℃以下の温度域に保持する時間が20秒間未満では、ベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの合計体積率が高くなり、特に、マルテンサイトや残留オーステナイトの体積率が高くなって、伸びフランジ性が劣化する。したがって、420℃以上550℃以下の温度域に保持する時間は20秒間以上とする。
【0044】
一方、420℃以上550℃以下の温度域に保持する時間が500秒間超では、生産性の低下や設備の長大化を招く。したがって、420℃以上550℃以下の温度域に保持する時間は500秒間以下とする。
【0045】
上記の420℃以上550℃以下の温度域に保持した後に、溶融めっきを施して室温まで冷却する。溶融めっきは常法に従えばよい。溶融めっきが溶融亜鉛めっきである場合には、常法に従って、溶融亜鉛めっき浴中に焼鈍した鋼板を浸漬することにより行えばよい。溶融亜鉛めっき浴の温度は特に限定されないが、410℃以上490℃以下とすることが一般的である。溶融亜鉛めっき浴における溶融金属の化学組成は、亜鉛を含む限り特に限定されない。亜鉛のみでもよいし、亜鉛合金でもよい。亜鉛合金の場合における合金元素としてアルミニウムが例示される。また、基材をなす鋼板から溶出した元素を含有していてもよい。
【0046】
上記の溶融亜鉛めっき処理に引き続いて合金化処理を施す場合には、合金化処理温度を480℃以上600℃以下とする。
合金化処理温度が480℃未満では合金化処理が不十分となる合金化処理むらが生じる場合がある。したがって、合金化処理温度は480℃以上とする。一方、合金化処理温度が600℃超では、めっき密着性が不良となる場合がある。したがって、合金化処理温度は600℃以下とする。なお、合金化処理の時間は、合金化処理むらを防ぐために10秒間以上とすることが好ましく、合金化処理設備の長大化を防ぐために40秒間以下とすることが好ましい。
【0047】
溶融亜鉛めっき処理後には平坦矯正のためスキンパス圧延を行ってもよい。この場合、伸びの劣化を抑制するため1.0%以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0048】
本発明を、実施例を参照しながらより具体的に説明する。
表1に示す化学成分を含有する供試材No.1〜16の鋼板を試作した。連続鋳造によりスラブとし、スラブを1270℃に加熱後、圧延完了温度900℃で熱間圧延を行い板厚2.6mmとし、その後表2に示される条件で冷却および巻き取りを行った。
【0049】
熱間圧延により得られた鋼板の一部についてはスキンパス圧延を行った。こうして得られた熱延鋼板およびスキンパス圧延後の鋼板を酸洗した。酸洗後の鋼板に対して連続溶融亜鉛めっきラインにて表2に示される条件で焼鈍およびめっきを施し、さらに合金化処理も行った(一部の鋼板を除く。)。この際、均熱温度における保持時間は20〜80秒とした。溶融亜鉛めっきは片面当り45g/mの付着量で実施した。溶融亜鉛めっき浴の温度は460℃とし、一部の溶融亜鉛めっき鋼板は合金化処理を施した。さらに伸び率0.2%の調質圧延を施した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
得られた試験材(合金化溶融亜鉛めっき鋼板および溶融亜鉛めっき鋼板)について、圧延直角方向にJIS5号試験片を採取し、JISに従い引張試験を実施した。また、伸びフランジ性を評価するために、日本鉄鋼連盟規格の「JFS T 1001穴拡げ試験方法」に従い、穴拡げ率を測定した。さらに、鋼板の圧延方向断面をナイタール腐食し、走査型電子顕微鏡を用い観察した視野数10の組織写真においてフェライト、ベイナイト・マルテンサイト・残留オーステナイトの合計の面積%を画像解析により求め、フェライト、ベイナイト・マルテンサイト・残留オーステナイトの体積率とした。また、同じ組織写真においてフェライトの平均粒径、第二相の最大粒径をそれぞれ測定した。
【0053】
さらに、得られた試験材について、先端r=1mmの60度V曲げ−曲げ戻し後のテープ剥離(使用したテープ:ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標))を行い、剥離幅からめっき密着性を評価した。
【0054】
製造条件および機械的特性を調査した結果を表3に示す。なお、表1〜3における、化学組成、製造条件、鋼組織の特性および機械特性を示す数値に下線が付されたものは、本発明の規定の範囲外であることを示している。
【0055】
本発明の化学組成および鋼組織の規定を満たし、さらに適切な製造方法により得られた溶融亜鉛めっき鋼板は、必要な強度(引張強度TSが590MPa以上)と良好な伸びフランジ性(穴拡げ率が90%以上)、降伏比(降伏比YRが70%以上)を有し、自動車などのプレス成形用途の高強度鋼板として最適である。
【0056】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱延鋼板の表面に溶融めっき層を有する溶融めっき熱延鋼板であって、
前記熱延鋼板は、質量%で、C:0.03%以上0.12%以下、Si:0.005%以上0.5%以下、Mn:2.0%超3.0%以下、P:0.05%以下、S:0.005%以下、sol.Al:0.001%以上0.100%以下およびN:0.0050%以下を含有する化学組成を有し、
フェライトが主相であり、ベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの体積率の合計が5%以下(0%を含む)であるとともに、前記フェライトの平均粒径が7μm以下である鋼組織を有し、
前記溶融めっき熱延鋼板は、引張強度590MPa以上、降伏比70%以上、穴拡げ率90%以上である機械特性を有することを特徴とする溶融めっき熱延鋼板。
【請求項2】
前記化学組成が、質量%で、Ti:0.15%以下およびNb:0.10%以下からなる群から選択された1種または2種をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の溶融めっき熱延鋼板。
【請求項3】
前記化学組成が、質量%で、Cr:1%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下、Cu:1%以下、Ni:1%以下およびB:0.005%以下からなる群から選択された1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶融めっき熱延鋼板。
【請求項4】
前記化学組成が、質量%で、Ca、REMおよびMgからなる群から選択された1種または2種以上を合計で0.005%以下をさらに含有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の溶融めっき熱延鋼板。
【請求項5】
前記ベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトを有する場合にはそれらの最大粒径が2μm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の溶融めっき熱延鋼板。
【請求項6】
下記工程(A)および(B)を有することを特徴とする溶融めっき熱延鋼板の製造方法:
(A)請求項1〜請求項4のいずれかに記載の化学組成を有するスラブを熱間圧延した後、30℃/秒以上の平均冷却速度で600℃まで冷却し、400℃以上550℃以下の温度域で巻取って熱延鋼板とする熱間圧延工程;および
(B)前記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板をAc点以上900℃以下の温度域で均熱した後、3℃/秒以上20℃/秒以下の平均冷却速度で550℃まで冷却し、420℃以上550℃以下の温度域に20秒間以上500秒間以下保持し、次いで、溶融亜鉛めっきを施して室温まで冷却する連続溶融亜鉛めっき工程。
【請求項7】
前記溶融亜鉛めっき工程において、溶融亜鉛めっきを施したのち室温まで冷却する前に、480℃以上600℃以下の温度域に10秒間以上保持する合金化処理を施すことを特徴とする請求項6に記載の溶融めっき熱延鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2012−36441(P2012−36441A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177503(P2010−177503)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】