説明

溶融めっき設備

【課題】停電が発生したときに、溶融金属流下による被害の発生を防止する。
【解決手段】鋼板Sは、導入室120内のデフレクタロール122を経てチャネル112に導入され、本体容器111内を下方から上方に移動する。このとき、溶融金属Mが鋼板Sに付着してめっきが行われる。通常運転時には回収ガイド板141はチャネル112の直下位置から退避している。停電が発生すると、回動機構142により回収ガイド板141が回動してチャネル112の直下に斜めに配置される。このため、停電によりチャネル112から流出した溶融金属Mは、回収ガイド板141上を流れて回収槽143に回収される。このため流下した溶融金属Mがデフレクタロール122に掛かることを防止でき、停電回復後に迅速に通常運転に復帰することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融めっき設備に関し、溶融金属回収装置を備えることにより、停電が発生して溶融金属が溶融めっき装置の底面から流下しても、流下した溶融金属を回収して溶融金属による被害を抑えることができるように工夫したものである。
【背景技術】
【0002】
溶融金属めっき鋼板を製造する手順は、一般的には、次の通りである。即ち、まず鋼板を圧延し、圧延した鋼板の表面を酸洗し、酸洗した鋼板を焼鈍し、焼鈍した鋼板の表面に溶融金属(例えば溶融亜鉛)を付着(めっき)する。
なお、焼鈍は、非酸化性あるいは還元性の雰囲気となっている焼鈍炉の内部にて行われ、溶融金属の付着は、溶融めっき装置により行われる。
【0003】
ここで溶融めっき装置の一例を、図7を参照して説明する。図7に示す溶融めっき装置10は、いわゆる「空中ポット」と称されるめっき装置である。
この溶融めっき装置10の本体容器11内には、溶融金属(溶融亜鉛)Mが貯溜される。この本体容器11の底面には、鋼板Sを通過させるチャネル12が形成されている。このチャネル12の周囲には、電磁力発生装置13が配置されている。また、本体容器11の上方には鋼板Sを挟む状態で一対のエアノズル14が配置されている。
【0004】
本体容器11の下側には、導入室20が形成され、この導入室20には導入通路21が連通している。導入室20は、チャネル12や電磁力発生装置13を囲繞する部屋であり、この導入室20内にはデフレクタロール22やガイドロール23が配置されている。
シールが施された導入室20及び導入通路21内には、非酸化性または還元性のガスが充満されて不活性雰囲気状態に保たれている。なお、導入通路21は、不活性雰囲気状態に保たれている焼鈍炉に繋がっている。
【0005】
焼鈍炉において焼鈍され、導入通路21を通って送られてきた鋼板Sは、デフレクタロール22を経て上方に引き上げられ、ガイドロール23にてガイドされてチャネル12を貫通して本体容器11内を下方から上方に向かって移動する。鋼板Sが本体容器11内を通過する際に、本体容器11内に貯溜した溶融金属Mが鋼板Sの表面に付着する。そして鋼板Sが、溶融金属Mの液面よりも上方に移動していく際に、エアノズル14から噴出するエアが、鋼板Sの表面に付着している余剰の溶融金属Mを除去することにより、鋼板Sの表面に溶融金属Mからなる被覆層を形成(めっき)することができる。
【0006】
なお、本体容器11内の溶融金属Mは、電磁力発生装置13から生じたローレンツ力(電磁力)により、チャネル12から下方に流出することなく保持されている(例えば特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特許第3811817号
【特許文献2】特許第2814306号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで図7に示す溶融めっき装置10では、停電等により電磁力発生装置13への給電が止まると、磁束の発生が無くなってローレンツ力が無くなり、本体容器11内の溶融金属Mは、チャネル12を通って落下してしまう。
【0009】
このようにして溶融金属Mが流下すると、この溶融金属Mが導入室20の壁面やデフレクタロール22の周面に付着して凝固してしまう。
【0010】
デフレクタロール22の周面で溶融金属Mが凝固すると、このデフレクタロール22を新しいものに交換しないと、運転の再開ができない。
また、導入室20の壁面に凝固した金属を除去等しなければならない。
【0011】
そこでかかる不具合を防止するため従来では種々の工夫がされている。
例えば特許文献2に示す例では、停電等により電磁力発生装置が機能しなくなると、チャネルの下端部において、鋼板を切断すると共に、チャネルを塞いでいる。
【0012】
ところで、上述した特許文献2に示す従来例では、鋼板を切断してしまうため、復旧の際に鋼板を再びチャネルや容器本体内に通す作業が必要になり、復旧作業に多くの手間と時間がかかっていた。
【0013】
本発明は、上記従来技術に鑑み、停電等により電磁力発生装置が機能しなくなり、溶融めっき装置の本体容器内の溶融金属がチャネルを介して流出してしまっても、この流出した溶融金属を回収して、溶融金属がデフレクタロール等に掛かることがないようにして、被害の発生を防止することができる溶融めっき設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本発明の構成は、
溶融金属を貯溜する本体容器と、この本体容器の底面に形成されたチャネルと、このチャネルを挟む状態で配置されており前記溶融金属が前記チャネルを通して流出するのを防ぐ電磁力を発生する電磁力発生装置とを有する溶融めっき装置と、
前記溶融めっき装置の下方に配置されたデフレクタロールと、
を備えた溶融めっき設備において、
前記チャネルの幅よりも広くなっていると共に、前記チャネルの直下位置とこの直下位置から離れた位置との間で移動可能となっている回収ガイド板と、
前記電磁力発生装置に電気が供給されているときには、前記回収ガイド板を前記チャネルの直下位置から離れた位置に退避させ、前記電磁力発生装置への電気供給が停止されると、前記回収ガイド板を前記チャネルの直下位置に水平面に対して斜めに配置させる回収ガイド板移動機構と、
前記回収ガイド板が、前記チャネルの直下位置に水平面に対して斜めに配置された状態のときに、前記回収ガイド板の下端の下方に位置するように配置された回収槽とを有する溶融金属回収装置を備えたことを特徴とする。
【0015】
また本発明の構成は、
前記回収ガイド板移動機構は、電気が供給されているときには前記回収ガイド板を前記チャネルの直下位置から離れた位置に退避させる力を前記回収ガイド板に付与する電気的機構と、前記回収ガイド板を移動させて前記チャネルの直下位置に水平面に対して斜めに配置させる力を前記回収ガイド板に付与する機械的機構とを有し、しかも、前記電気的機構の力は前記機械的機構の力よりも大きく設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、停電が発生すると、溶融金属が溶融めっき装置のチャネルから流下するが、この流下した溶融金属を、溶融金属回収装置により回収することができる。
したがって、流下した溶融金属がデフレクタロールに掛かることがなくなり、溶融金属の流下による被害の発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1〜図3は、本発明の実施例1に係る溶融めっき設備100を示す。なお、図1は正常運転がされているときの状態を示し、図2,図3は停電が発生したときの状態を示す。
【0019】
図1〜図3に示すように、実施例1の溶融めっき設備100は、溶融めっき装置110と、この溶融めっき装置110の下側に配置された導入室120と、導入室120内に配置された雰囲気遮断装置130と、導入室120内に配置された溶融金属回収装置140とで構成されている。
【0020】
溶融めっき装置110の本体容器111内には、溶融金属(溶融亜鉛)Mが貯溜される。この本体容器111の底面には、鋼板Sを下方から上方に向けて通過させるチャネル112が形成されている。電磁力発生装置113は、チャネル112を挟む状態で配置されている。本体容器111の上方には鋼板Sを挟む状態で一対のエアノズル114が配置されている。
【0021】
電磁力発生装置113は、2つのヨークを有するコアにコイルを巻回した2極型の磁界発生器113aと、2つのヨークを有するコアにコイルを巻回した2極型の磁界発生器113bとでなり、磁界発生器113a,113bがチャネル112を挟む状態で配置されている。各磁界発生器113a,113bには商用電流(周波数が50Hzまたは60Hzの電流)が供給される。
そして、電磁力発生装置113の磁界発生器113a,113bから生じる交流磁束により、ローレンツ力(電磁力)が発生し、この電磁力により溶融金属Mがチャネル112を介して下方に流出するのを防止している。
【0022】
溶融めっき装置110の下側には、導入室120が配置されており、この導入室120には導入通路121が連通している。導入室120内にはデフレクタロール122が配置されている。つまり、デフレクタロール122は溶融めっき装置110の下方に配置されている。
【0023】
シールが施された導入室120及び導入通路121の内部空間には、非酸化性または還元性のガスが充満されて不活性雰囲気状態に保たれている。なお、導入通路121は、不活性雰囲気状態に保たれている焼鈍炉に繋がっている。このように導入室120及び導入通路121の内部空間を不活性空間とすることにより、搬送されていく鋼板Sが酸化することを防止している。
【0024】
雰囲気遮断装置130は、導入室120内に配置されている。更に配置位置を詳述すると、雰囲気遮断装置130は、鋼板Sの搬送方向に沿い、デフレクタロール122よりも下流側で且つチャネル112よりも上流側、換言すると、導入室120を、下流側空間120aと、上流側空間120bとに区画する位置に配置されている。
【0025】
この雰囲気遮断装置130は、シール板131a,131b及びシール板作動機構132a,132bを有している。
【0026】
シール板131a,131bは、鋼板Sを間に挟んで相対向する状態で配置されており、シール板131a,131b相互は、水平面内で接近離間自在(図1,図2では左右方向に移動自在に)配置されている。このシール板131a,131bは、例えば、セラミックファイバで形成されている。
【0027】
シール板作動機構132aは、電気的な引張機構(例えば電磁石)と、機械的な押出機構(例えばバネ機構)とを有している。電気的な引張機構は、電気が供給されると、シール板131aをシール板作動機構132a側に引っ張り、機械的な押出機構はシール板131aをシール板作動機構132a側から鋼板S側に押し出すように付勢している。しかも、電気的な引張力は、機械的な押出力よりも大きく設定している。
【0028】
このため、シール板作動機構132aに電気が供給されていると、図1に示すように、シール板131aはシール板作動機構132a側に引っ張られ、鋼板Sから離れた位置にある。一方、シール板作動機構132aに電気が供給されなくなると、図2に示すように、シール板131aはシール板作動機構132aから押し出されて鋼板Sに向かって移動していく。
【0029】
同様に、シール板作動機構132bは、電気的な引張機構(例えば電磁石)と、機械的な押出機構(例えばバネ機構)とを有している。電気的な引張機構は、電気が供給されると、シール板131bをシール板作動機構132b側に引っ張り、機械的な押出機構はシール板131bをシール板作動機構132b側から鋼板S側に押し出すように付勢している。しかも、電気的な引張力は、機械的な押出力よりも大きく設定している。
【0030】
このため、シール板作動機構132bに電気が供給されていると、図1に示すように、シール板131bはシール板作動機構132b側に引っ張られ、鋼板Sから離れた位置にある。一方、シール板作動機構132bに電気が供給されなくなると、図2に示すように、シール板131bはシール板作動機構132bから押し出されて鋼板Sに向かって移動していく。
【0031】
溶融金属回収装置140は、回収ガイド板141と、回動機構142と、回収槽143と、移動ローラ144と、ローラ作動機構145と、排出系統146を有している。また導入室120内で且つチャネル112の直下近傍にはローラ147が取り付けられている。
【0032】
回収ガイド板141は、樋状の板であり、その上端が回動機構142により回動自在に支持されており、その先端にはローラ141aが備えられている。回収ガイド板141の板幅(図1,図2において紙面に垂直方向の長さ)は、チャネル112の幅(図1,図2において紙面に垂直方向の長さ)よりも広くなっている。
【0033】
回動機構(回収ガイド板移動機構)142は、回収ガイド板141の上端を回動自在に支持すると共に、正常運転時(停電が発生していない時)には回収ガイド板141をチャネル112の直下位置から離れた位置に退避させ、停電時には回収ガイド板141をチャネル112の直下位置に斜めに(水平面に対して斜めに)配置させるように、回収ガイド板141を回動させる機構が内蔵されている。
【0034】
具体的には、回動機構142には、回収ガイド板141を、図1,図2において、反時計回り方向に付勢する機械的回動機構(例えばバネ機構)と、回収ガイド板141を、図1,図2において、時計回り方向に付勢する電気的回動機構(例えば電磁石)とが備えられている。しかも、電気的作動機構による回動力は、機械的作動機構による回動力よりも大きく設定している。
【0035】
このため回動機構142に電気が供給されていると、図1に示すように、回収ガイド板141は時計回り方向に回動されてチャネル112の直下位置から退避した位置にセットされる。一方、回動機構142に電気が供給されなくなると、図2に示すように、回収ガイド板141は反時計回り方向に回動してチャネル112の直下位置に斜めに配置される。
【0036】
移動ローラ144は、スライド板144aにより回転自在に支持されている。スライド板144aは、図示しないスライド機構により、水平方向にスライド移動自在となっている。
【0037】
ローラ作動機構145は、電気的な引張機構(例えば電磁石)と、機械的な押出機構(例えばバネ機構)とを有している。電気的な引張機構は、電気が供給されると、スライド板144aをローラ作動機構145側に引っ張り、機械的な押出機構はスライド板144aをローラ作動機構145から押し出すように付勢している。しかも、電気的な引張力は、機械的な押出力よりも大きく設定している。
【0038】
このため、ローラ作動機構145に電気が供給されていると、図1に示すように、スライド板144a及び移動ローラ144は、ローラ作動機構145側に引っ張られる。一方、ローラ作動機構145に電気が供給されなくなると、図2に示すように、スライド板144a及び移動ローラ144は、ローラ作動機構145から押し出される。
【0039】
回収槽143は下流側空間120a内に配置されており、図2に示すように、回収ガイド板141がチャネル112の直下位置に斜めに配置されたときに、回収ガイド板141の下端が、回収槽143の上方に位置するように配置されている。
つまり、回収槽143は、回収ガイド板141がチャネル112の直下位置に斜めに配置されたときに、この回収ガイド板141の下端の下方に位置するように配置されている。
【0040】
排出系統146は回収槽143に連通しており、排出バルブ146aを有している。
【0041】
正常運転時、即ち、電磁力発生装置113、シール板作動機構132a,132b、回動機構142、ローラ作動機構145に電気が供給されているときには、図1に示す状態となる。
つまり、
(1)電磁力発生装置113から発生したローレンツ力(電磁力)により、溶融金属Mがチャネル112から流出することが防止され、
(2)シール板作動機構132a,132bによりシール板131a,131bが引っ張られてシール板131a,131b相互が離間し、
(3)回動機構142により回収ガイド板141が時計回り方向に回動されて、回収ガイド板141がチャネル112の直下位置から離れた位置に退避させられ、
(4)ローラ作動機構145により移動ローラ144が引っ張られる。
【0042】
このため、焼鈍炉において焼鈍され、導入通路121を通って送られてきた鋼板Sは、デフレクタロール122を経て上方に引き上げられ、移動ローラ144及びローラ141aにてガイドされてチャネル112を貫通して本体容器111内を下方から上方に向かって移動する。鋼板Sが本体容器111内を通過する際に、本体容器111内に貯溜した溶融金属Mが鋼板Sの表面に付着する。そして鋼板Sが、溶融金属Mの液面よりも上方に移動していく際に、エアノズル114から噴出するエアが、鋼板Sの表面に付着している余剰の溶融金属Mを除去することにより、鋼板Sの表面に溶融金属Mからなる被覆層を形成(めっき)することができる。
【0043】
一方、停電時、即ち、電磁力発生装置113、シール板作動機構132a,132b、回動機構142、ローラ作動機構145に電気が供給されなくなったときには、図2,図3に示す状態となる。
つまり、
(11)電磁力発生装置113からはローレンツ力(電磁力)が発生せず、溶融金属Mがチャネル112から流出し、
(12)シール板作動機構132a,132bによりシール板131a,131bが押し出され、シール板131a,131bが鋼板Sを挟持して、シール板131a,131bにより導入室120内を下流側空間120aと上流側空間120bとに区画し、
(13)回動機構142により回収ガイド板141が反時計回り方向に回動されて、回収ガイド板141がチャネル112の直下位置に斜めに配置され、
(14)ローラ作動機構145により移動ローラ144が押し出される。
(15)更に、鋼板Sの搬送移動が停止する。
【0044】
このため停電時には、本体容器111内に貯溜されていた溶融金属Mはチャネル112を通して下方に流出する。このようにして流出した溶融金属Mは、回収ガイド板141によりガイドされ斜め下方に流れて、回収槽143内に流下して回収される。回収槽143内に回収された溶融金属Mは、バルブ146aを開けることにより排出系統146を通って排出される。
【0045】
このように停電が発生して溶融金属Mがチャネル112を介して下方に流出しても、流出した溶融金属Mは溶融金属回収装置140により回収されるため、流出した溶融金属Mがデフレクタロール122や導入室120の壁面に掛かることはない。
このため、デフレクタロール122や導入室120の壁面に溶融金属Mが掛かって凝固してしまうという不具合が発生することはなく、停電が解消した時には、デフレクタロール122の交換作業は不要であり、迅速・簡単に運転を再開することができる。
つまり、溶融金属Mが流出しても、溶融金属漏洩にかかわるメンテナンスが不要となる。
【0046】
また、停電が発生すると、シール板作動機構132a,132bによりシール板131a,131bが押し出され、シール板131a,131bが鋼板Sを挟持して、シール板131a,131bにより導入室120内を下流側空間120aと上流側空間120bとに区画する。
このため、容器本体111内の溶融金属Mが全て流出してしまった後は、大気がチャネル112を介して、導入室120のうちの下流側空間120a内には流入するが、上流側空間120b側には流入することはない。
【0047】
したがって、停電により搬送が停止した鋼板Sのうち、下流側空間120a内のものは、大気に触れて大気中の酸素により酸化されて不良品となるが、デフレクタロール122が配置されている上流側空間120bよりも上流側には大気が侵入することはなく、上流側空間120bよりも上流側に存在する鋼板Sは、大気に触れることなく品質保持ができる。
【0048】
このため、導入室120に大気が流入しても、鋼板Sが損傷する量(長さ)が制限され、損傷を最小限に抑えることができる。
【実施例2】
【0049】
次に本発明の実施例2に係る溶融めっき設備100Aを、図4〜図6を参照して説明する。
実施例1では、シール板作動機構132a,132b、回動機構142、ローラ作動機構145を、それぞれ、電気的な機構(例えば電磁石)と機械的な機構(例えばバネ機構)により構成しているが、実施例2では、後述するように、各作動機構として、電磁弁により制御される空気シリンダ(電気的機構)とカウンタウエイト(機械的機構)を利用した機構を採用している。
【0050】
なお、図4は正常運転がされているときの状態を示し、図5は停電が発生したときの状態を示している。
また理解を容易にするため、図4,図5では各作動機構は図示省略しており、各作動機構は図6に抽出して示している。
【0051】
図4〜図6に示すように、実施例2の溶融めっき設備100Aは、溶融めっき装置110と、この溶融めっき装置110の下側に配置された導入室120と、導入室120内に配置された雰囲気遮断装置130Aと、導入室120内に配置された溶融金属回収装置140Aとで構成されている。
【0052】
溶融めっき装置110の本体容器111内には、溶融金属(溶融亜鉛)Mが貯溜される。この本体容器111の底面には、鋼板Sを下方から上方に向けて通過させるチャネル112が形成されている。電磁力発生装置113は、チャネル112を挟む状態で配置されている。本体容器111の上方には鋼板Sを挟む状態で一対のエアノズル114が配置されている。
【0053】
電磁力発生装置113は、2つのヨークを有するコアにコイルを巻回した2極型の磁界発生器113aと、2つのヨークを有するコアにコイルを巻回した2極型の磁界発生器113bとでなり、磁界発生器113a,113bがチャネル112を挟む状態で配置されている。各磁界発生器113a,113bには商用電流(周波数が50Hzまたは60Hzの電流)が供給される。
そして、電磁力発生装置113の磁界発生器113a,113bから生じる交流磁束により、ローレンツ力(電磁力)が発生し、この電磁力により溶融金属Mがチャネル112を介して下方に流出するのを防止している。
【0054】
溶融めっき装置110の下側には、導入室120が配置されており、この導入室120には導入通路121が連通している。導入室120内にはデフレクタロール122が配置されている。つまり、デフレクタロール122は溶融めっき装置110の下方に配置されている。
【0055】
シールが施された導入室120及び導入通路121の内部空間には、非酸化性または還元性のガスが充満されて不活性雰囲気状態に保たれている。なお、導入通路121は、不活性雰囲気状態に保たれている焼鈍炉に繋がっている。このように導入室120及び導入通路121の内部空間を不活性空間とすることにより、搬送されていく鋼板Sが酸化することを防止している。
【0056】
雰囲気遮断装置130Aは、導入室120内に配置されている。更に配置位置を詳述すると、雰囲気遮断装置130Aは、鋼板Sの搬送方向に沿い、デフレクタロール122よりも下流側で且つチャネル112よりも上流側、換言すると、導入室120を、下流側空間120aと、上流側空間120bとに区画する位置に配置されている。
【0057】
この雰囲気遮断装置130Aは、シール板131a,131b(図4,図5参照)及びシール板作動機構135,136(図6参照)を有している。
【0058】
シール板131a,131bは、鋼板Sを間に挟んで相対向する状態で配置されており、シール板131a,131b相互は、水平面内で接近離間自在(図4,図5では左右方向に移動自在に)配置されている。このシール板131a,131bは、例えば、セラミックファイバで形成されている。
【0059】
シール板作動機構135は、滑車135aと、滑車135aに巻回されたロープ135bと、ロープ135bの一端に連結されたカウンタウエイト135cと、ロープ135bの他端に連結されたピストンPを有する空気シリンダ135dと、図示しない圧縮空気源から空気シリンダ135dに圧縮空気を供給する空気管135eと、空気管135eに介装された電磁弁135fと、滑車135aとシール板131aとをフレキシブルに連結する連結部材135gとで構成されている。
【0060】
電磁弁135fは電流が供給されると開状態となり、これにより、圧縮空気が空気シリンダ135dに供給される。これにより、空気シリンダ135dがロープ135bを引っ張る。空気シリンダ135dの引っ張り力は、カウンタウエイト135cの自重による引っ張り力よりも大きく設定されている。
また、電磁弁135fは電流が供給されなくなると閉状態となり、これにより、圧縮空気が空気シリンダ135dに供給されなくなり、空気シリンダ135dはロープ135bを引っ張る力を発揮しなくなる。
【0061】
このため、シール板作動機構135の電磁弁135fに電気が供給されると、空気シリンダ135dがロープ135bを引っ張り、滑車135aがα方向に回転して連結部材135gを引っ張る。この結果、シール板131aは、図4に示すように、シール板作動機構135側に引っ張られ、鋼板Sから離れた位置にある。
【0062】
一方、停電により、シール板作動機構135の電磁弁135fに電気が供給されなくなると、カウンタウエイト135cがロープ135bを引っ張り、滑車135aがβ方向に回転して連結部材135gを押し出す。この結果、シール板131aは、図5に示すように、シール板作動機構135から押し出されて鋼板Sに向かって移動していく。
【0063】
同様に、シール板作動機構136は、滑車136aと、滑車136aに巻回されたロープ136bと、ロープ136bの一端に連結されたカウンタウエイト136cと、ロープ136bの他端に連結されたピストンPを有する空気シリンダ136dと、図示しない圧縮空気源から空気シリンダ136dに圧縮空気を供給する空気管136eと、空気管136eに介装された電磁弁136fと、滑車136aとシール板131aとをフレキシブルに連結する連結部材136gとで構成されている。
【0064】
電磁弁136fは電流が供給されると開状態となり、これにより、圧縮空気が空気シリンダ136dに供給される。これにより、空気シリンダ136dがロープ136bを引っ張る。空気シリンダ136dの引っ張り力は、カウンタウエイト136cの自重による引っ張り力よりも大きく設定されている。
また、電磁弁136fは電流が供給されなくなると閉状態となり、これにより、圧縮空気が空気シリンダ136dに供給されなくなり、空気シリンダ136dはロープ136bを引っ張る力を発揮しなくなる。
【0065】
このため、シール板作動機構136の電磁弁136fに電気が供給されると、空気シリンダ136dがロープ136bを引っ張り、滑車136aがα方向に回転して連結部材136gを引っ張る。この結果、シール板131bは、図4に示すように、シール板作動機構136側に引っ張られ、鋼板Sから離れた位置にある。
【0066】
一方、停電により、シール板作動機構136の電磁弁136fに電気が供給されなくなると、カウンタウエイト136cがロープ136bを引っ張り、滑車136aがβ方向に回転して連結部材136gを押し出す。この結果、シール板131bは、図5に示すように、シール板作動機構136から押し出されて鋼板Sに向かって移動していく。
【0067】
溶融金属回収装置140Aは、図4,図5に示すような、回収ガイド板141、回収ガイド板141の先端に備えられたローラ141a、回収槽143、排出系統146、ローラ147、ローラ148、並びに、図6に示すような回収ガイド板移動機構149を有している。
【0068】
回収ガイド板141は、樋状の板であり、その板幅(図4,図5において紙面に垂直方向の長さ)は、チャネル112の幅(図4,図5において紙面に垂直方向の長さ)よりも広くなっている。
この回収ガイド板141は、水平面に対して斜めになった状態で、回収ガイド板移動機構149により、斜めにスライド移動できるようになっている。
【0069】
回収ガイド板移動機構149は、回収ガイド板141に連結された連結棒149aと、斜め配置されたスライド板149bと、連結棒149aの上端側に連結されたピストンPを有する空気シリンダ149cと、図示しない圧縮空気源から空気シリンダ149cに圧縮空気を供給する空気管149dと、空気管149dに介装された電磁弁149eと、連結棒149aの下端に連結されてスライド板149b上でスライド移動するカウンタウエイト149fとで構成されている。空気シリンダ149cは、スライド板149b上に配置されている。
【0070】
電磁弁149eは電流が供給されると開状態となり、これにより、圧縮空気が空気シリンダ149cに供給される。これにより、空気シリンダ149cが連結棒149aを斜め上に引っ張る。空気シリンダ149cの引っ張り力は、カウンタウエイト149fの自重による引っ張り力よりも大きく設定されている。
また、電磁弁149eは電流が供給されなくなると閉状態となり、これにより、圧縮空気が空気シリンダ149eに供給されなくなり、空気シリンダ149cは連結棒149aを引っ張る力を発揮しなくなる。
【0071】
このため、回収ガイド板移動機構149の電磁弁149eに電気が供給されると、空気シリンダ149cが連結棒149aを斜め上方に引っ張り、回収ガイド板141は斜め上方に引き上げられて、図4に示すように、チャネル112の直下位置から退避した位置にセットされる。
一方、停電により電磁弁149eに電気が供給されなくなると、カウンタウエイト149fが連結棒149aを斜め下方引っ張り、回収ガイド板141は斜め下方に引き下げられて、チャネル112の直下位置に斜めに配置される。
【0072】
回収槽143は下流側空間120a内に配置されており、図5に示すように、回収ガイド板141がチャネル112の直下位置に斜めに配置されたときに、回収ガイド板141の下端が、回収槽143の上方に位置するように配置されている。
つまり、回収槽143は、回収ガイド板141がチャネル112の直下位置に斜めに配置されたときに、この回収ガイド板141の下端の下方に位置するように配置されている。
【0073】
排出系統146は回収槽143に連通しており、排出バルブ146aを有している。
【0074】
正常運転時、即ち、電磁力発生装置113、シール板作動機構135,136、回収ガイド板移動機構149に電気が供給されているときには、図4に示す状態となる。
つまり、
(1)電磁力発生装置113から発生したローレンツ力(電磁力)により、溶融金属Mがチャネル112から流出することが防止され、
(2)シール板作動機構135,136によりシール板131a,131bが引っ張られてシール板131a,131b相互が離間し、
(3)回収ガイド板移動機構149の空気シリンダ149cにより回収ガイド板141が斜め上方に引き上げられて、回収ガイド板141がチャネル112の直下位置から離れた位置に退避させられる。
【0075】
このため、焼鈍炉において焼鈍され、導入通路121を通って送られてきた鋼板Sは、デフレクタロール122を経て上方に引き上げられ、チャネル112を貫通して本体容器111内を下方から上方に向かって移動する。鋼板Sが本体容器111内を通過する際に、本体容器111内に貯溜した溶融金属Mが鋼板Sの表面に付着する。そして鋼板Sが、溶融金属Mの液面よりも上方に移動していく際に、エアノズル114から噴出するエアが、鋼板Sの表面に付着している余剰の溶融金属Mを除去することにより、鋼板Sの表面に溶融金属Mからなる被覆層を形成(めっき)することができる。
【0076】
一方、停電時、即ち、電磁力発生装置113、シール板作動機構135,136、回収ガイド板移動機構149に電気が供給されなくなると、図5に示す状態となる。
つまり、
(11)電磁力発生装置113からはローレンツ力(電磁力)が発生せず、溶融金属Mがチャネル112から流出し、
(12)シール板作動機構135,136によりシール板131a,131bが押し出され、シール板131a,131bが鋼板Sを挟持して、シール板131a,131bにより導入室120内を下流側空間120aと上流側空間120bとに区画し、
(13)回収ガイド板移動機構149のカウンタウエイト149fにより回収ガイド板141が斜め下方に引き下げられて、回収ガイド板141がチャネル112の直下位置に斜めに配置され、
(14)更に、鋼板Sの搬送移動が停止する。
【0077】
このため停電時には、本体容器111内に貯溜されていた溶融金属Mはチャネル112を通して下方に流出する。このようにして流出した溶融金属Mは、回収ガイド板141によりガイドされ斜め下方に流れて、回収槽143内に流下して回収される。回収槽143内に回収された溶融金属Mは、バルブ146aを開けることにより排出系統146を通って排出される。
【0078】
このように停電が発生して溶融金属Mがチャネル112を介して下方に流出しても、流出した溶融金属Mは溶融金属回収装置140Aにより回収されるため、流出した溶融金属Mがデフレクタロール122や導入室120の壁面に掛かることはない。
このため、デフレクタロール122や導入室120の壁面に溶融金属Mが掛かって凝固してしまうという不具合が発生することはなく、停電が解消した時には、デフレクタロール122の交換作業は不要であり、迅速・簡単に運転を再開することができる。
つまり、溶融金属Mが流出しても、溶融金属漏洩にかかわるメンテナンスが不要となる。
【0079】
また、停電が発生すると、シール板作動機構135,136によりシール板131a,131bが押し出され、シール板131a,131bが鋼板Sを挟持して、シール板131a,131bにより導入室120内を下流側空間120aと上流側空間120bとに区画する。
このため、容器本体111内の溶融金属Mが全て流出してしまった後は、大気がチャネル112を介して、導入室120のうちの下流側空間120a内には流入するが、上流側空間120b側には流入することはない。
【0080】
したがって、停電により搬送が停止した鋼板Sのうち、下流側空間120a内のものは、大気に触れて大気中の酸素により酸化されて不良品となるが、デフレクタロール122が配置されている上流側空間120bよりも上流側には大気が侵入することはなく、上流側空間120bよりも上流側に存在する鋼板Sは、大気に触れることなく品質保持ができる。
【0081】
このため、導入室120に大気が流入しても、鋼板Sが損傷する量(長さ)が制限され、損傷を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施例1に係る溶融めっき設備を示す構成図。
【図2】本発明の実施例1に係る溶融めっき設備を示す構成図。
【図3】本発明の実施例1に係る溶融めっき設備を示す破断斜視図。
【図4】本発明の実施例2に係る溶融めっき設備を示す構成図。
【図5】本発明の実施例2に係る溶融めっき設備を示す構成図。
【図6】本発明の実施例2に係る溶融めっき設備を示す破断斜視図。
【図7】従来の溶融めっき設備を示す構成図。
【符号の説明】
【0083】
100,100A 溶融めっき設備
110 溶融めっき装置
120 導入室
122 デフレクタロール
130,130A 雰囲気遮断装置
140,140A 溶融金属回収装置
S 鋼板
M 溶融金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属を貯溜する本体容器と、この本体容器の底面に形成されたチャネルと、このチャネルを挟む状態で配置されており前記溶融金属が前記チャネルを通して流出するのを防ぐ電磁力を発生する電磁力発生装置とを有する溶融めっき装置と、
前記溶融めっき装置の下方に配置されたデフレクタロールと、
を備えた溶融めっき設備において、
前記チャネルの幅よりも広くなっていると共に、前記チャネルの直下位置とこの直下位置から離れた位置との間で移動可能となっている回収ガイド板と、
前記電磁力発生装置に電気が供給されているときには、前記回収ガイド板を前記チャネルの直下位置から離れた位置に退避させ、前記電磁力発生装置への電気供給が停止されると、前記回収ガイド板を前記チャネルの直下位置に水平面に対して斜めに配置させる回収ガイド板移動機構と、
前記回収ガイド板が、前記チャネルの直下位置に水平面に対して斜めに配置された状態のときに、前記回収ガイド板の下端の下方に位置するように配置された回収槽とを有する溶融金属回収装置を備えたことを特徴とする溶融めっき設備。
【請求項2】
前記回収ガイド板移動機構は、電気が供給されているときには前記回収ガイド板を前記チャネルの直下位置から離れた位置に退避させる力を前記回収ガイド板に付与する電気的機構と、前記回収ガイド板を移動させて前記チャネルの直下位置に水平面に対して斜めに配置させる力を前記回収ガイド板に付与する機械的機構とを有し、しかも、前記電気的機構の力は前記機械的機構の力よりも大きく設定されていることを特徴とする溶融めっき設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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