説明

溶融スラグの処理設備

【課題】溶融スラグを迅速かつ効率的に冷却処理することができ、しかも溶融スラグを冷却処理装置に一定量ずつ安定して供給することができる溶融スラグの処理設備を提供する。
【解決手段】回転する冷却ロール10の外周面に供給された溶融スラグを冷却して固化させる冷却処理装置1と、冷却処理装置1に溶融スラグを供給するスラグ供給装置2と、冷却処理装置1で冷却・固化したスラグを回収して移送する回収移送装置3を有し、スラグ供給装置2は、スラグ鍋を脱着可能に保持する傾動可能な鍋保持体20と、鍋保持体20を傾動させる駆動装置21と、鍋保持体20を傾動させることでスラグ鍋から流出した溶融スラグを案内し、冷却ロール10の外周面に供給する樋22を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼製造プロセスなどで発生する溶融スラグを冷却処理し、さらに好ましくはスラグの冷却・固化過程での顕熱回収を行うための処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製造プロセスで発生する溶融スラグ(例えば、製鋼スラグ)の多くは、冷却ヤードにおいて放冷した後、散水して冷却される。また、一部では、パン冷却方式と呼ばれる鉄製の容器に流し込んで散水冷却する方法も採られることがある。
一方、溶融スラグを冷却処理するための装置として、双ロール(ドラム)方式のスラグ冷却処理装置が知られている(例えば、特許文献1など)。このスラグ冷却処理装置は、水平方向で並列し、対向する外周部分が上向きに回転する回転方向を有する1対の冷却ロールを備えており、この1対の冷却ロールの上部外周面間に上方から溶融スラグが供給され、スラグ液溜まりが形成される。このスラグ液溜まりから、回転する冷却ロールの表面に付着することで溶融スラグが持ち出され、この溶融スラグは冷却ロール面に付着した状態で適度な凝固状態(例えば、半凝固状態または表層のみ凝固した状態)まで冷却された後、所定のロール回転位置において自重により冷却ロール面から剥離し、回収手段に回収される。
【0003】
このような冷却処理装置で溶融スラグを冷却処理することにより、(i)従来のような広大な冷却ヤードが必要ない、(ii)厚みの小さいスラグ凝固体が得られるため、所望の粒度の土木材料や骨材などへの加工が容易であるとともに、破砕処理して粒状スラグを製造する際の粉や細粒品の発生量が少ないため、製品歩留まりが向上する、(iii)冷却のための散水が不要であるか若しくは散水量が少なくて済むため、水分を含まない若しくは水分量が少ないスラグが得られ、セメント原料などに供する場合に乾燥処理を必要としない、などの利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−308397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような冷却処理装置を実操業で用いる場合、特定の精錬プロセス(例えば、転炉脱炭精錬)で発生した溶融スラグを迅速かつ効率的に処理すること、溶融スラグを冷却処理装置に一定量ずつ安定して供給すること、などが求められる。また、冷却ロールは溶融スラグの熱によって膨張するが、この熱膨張によって冷却ロールどうしが強く接触し、ロールやその支持部に変形が生じ、故障や損傷の原因となりやすい。これを防止するには、冷却ロール間にギャップを設けておく必要があるが、溶融スラグがそのギャップから下方に漏れ出してしまう問題がある。
また、近年、製鉄所内では、省エネルギーやCOの削減の観点から、種々のプロセスで発生する廃熱を回収・利用する必要性が高まりつつあり、その廃熱源の一つとして高温状態で発生するスラグが考えられる。
【0006】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、溶融スラグを迅速かつ効率的に冷却処理することができ、しかも溶融スラグを冷却処理装置に一定量ずつ安定して供給することができる溶融スラグの処理設備を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、双ロール方式のスラグ冷却処理装置を備えた設備において、冷却ロール間からの溶融スラグの漏れなどの問題を生じることなく、冷却ロールの熱膨張に伴う故障や損傷が生じにくい設備を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、冷却・固化させた後、未だ高温状態にあるスラグから顕熱回収を行うことができる設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]回転可能な冷却ロール(10)を備え、回転する冷却ロール(10)の外周面に供給された溶融スラグを冷却して固化させる冷却処理装置(1)と、該冷却処理装置(1)に溶融スラグを供給するスラグ供給装置(2)と、前記冷却処理装置(1)で冷却・固化した後、冷却ロール(10)から剥離したスラグを回収して移送する回収移送装置(3)を有し、
前記スラグ供給装置(2)は、スラグ鍋を脱着可能に保持する傾動可能な鍋保持体(20)と、該鍋保持体(20)を傾動させる駆動装置(21)と、前記鍋保持体(20)を傾動させることでスラグ鍋から流出した溶融スラグを案内し、前記冷却ロール(10)の外周面に供給する樋(22)を備えることを特徴とする溶融スラグの処理設備。
【0008】
[2]上記[1]の処理設備において、冷却処理装置(1)は、冷却ロール(10)の外周面に付着したスラグを、冷却ロール(10)との間で拘束して加工する加工ロール(11)を備えることを特徴とする溶融スラグの処理設備。
[3]上記[1]または[2]の処理設備において、鍋保持体(20)は、冷却処理装置(1)側の一端部が支持基部(5)に枢支され、該枢支部(24)を支点として上下方向回動可能であり、駆動装置(21)は、鍋保持体(20)を前記枢支部(24)を支点として上下方向に回動させるシリンダ装置(25)からなることを特徴とする溶融スラグの処理設備。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの処理設備において、冷却処理装置(1)は、水平方向で並列し、対向する外周部分が上向きに回転する回転方向を有する1対の冷却ロール(10a),(10b)を備え、スラグ供給装置(2)の樋(22)から、前記1対の冷却ロール(10a),(10b)の上部外周面間に溶融スラグが供給されるようにしたことを特徴とする溶融スラグの処理設備。
【0009】
[5]上記[4]の処理設備において、少なくとも一方の冷却ロール(10a)の支持体(14a)を水平方向スライド自在とすることにより、1対の冷却ロール(10a),(10b)の軸間距離を可変とするとともに、
少なくとも一方の冷却ロール(10a)の支持体(14a)を他方の冷却ロール(10b)方向に付勢することで、冷却ロール(10a),(10b)どうしを接触させる付勢手段(12)を有することを特徴とする溶融スラグの処理設備。
[6]上記[5]の処理設備において、付勢手段(12)がエアシリンダまたはスプリングであることを特徴とする溶融スラグの処理設備。
【0010】
[7]上記[1]〜[6]のいずれかの処理設備において、駆動装置(21)による鍋保持体(20)の傾動速度を制御可能とし、その傾動速度制御により冷却処理装置(1)に対する溶融スラグの供給速度を制御できるようにしたことを特徴とする溶融スラグの処理設備。
[8]上記[1]〜[7]のいずれかの処理設備において、固化したスラグから顕熱回収を行う熱回収装置(4)を有し、回収移送装置(3)で移送されたスラグが前記熱回収装置(4)に投入されることを特徴とする溶融スラグの処理設備。
[9]上記[8]の処理設備において、熱回収装置(4)は、内部で熱交換用のガスとスラグを接触させる熱回収塔(40)を備え、該熱回収塔(40)は、上部にスラグ装入口とガス排出口を有し、下部にスラグ排出口とガス導入口を有することを特徴とする溶融スラグの処理設備。
【発明の効果】
【0011】
本発明の処理設備は、溶融スラグを迅速かつ効率的に冷却処理することができ、しかも溶融スラグを冷却処理装置に一定量ずつ安定して供給することができる。このため、鉄鋼製造プロセスで発生する製鋼スラグなどの溶融スラグを利材化に適した形状に効率的に処理することができる。
また、双ロール方式のスラグ冷却処理装置を備えた設備において、特定の構造を採ることにより、冷却ロール間からの溶融スラグの漏れなどの問題を生じることなく、冷却ロールの熱膨張に伴う故障や損傷を確実に防止することができる。
さらに、スラグの顕熱回収を行う熱回収装置を設けることにより、冷却・固化させた後、未だ高温状態にあるスラグから効率的な顕熱回収を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の溶融スラグの処理設備の一実施形態を示す側面図
【図2】図1の実施形態の平面図
【図3】図1の実施形態における冷却処理装置の側面図
【図4】図1の実施形態における冷却処理装置を構成する冷却ロールの平面図
【図5】図1の実施形態の使用状況を示す側面図
【図6】図1の実施形態の使用状況を示す側面図
【図7】図1の実施形態の使用状況を示す側面図
【図8】図1の実施形態の使用状況を示す側面図
【図9】本発明の処理設備における熱回収装置の一実施形態を示す説明図
【図10】本発明の処理設備における熱回収装置の他の実施形態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1〜図4は、本発明の溶融スラグの処理設備の一実施形態を示すもので、図1は側面図、図2は平面図、図3は冷却処理装置の側面図、図4は冷却処理装置を構成する冷却ロールの平面図である。なお、図2では、図1に示される加工ロール11、付勢手段12、樋22などは省略してある。
この処理設備は、溶融スラグを冷却して固化させる冷却処理装置1と、この冷却処理装置1に溶融スラグを供給するスラグ供給装置2と、前記冷却処理装置1で冷却・固化したスラグを回収して移送する回収移送装置3と、この回収移送装置3で移送されたスラグを受け入れ、スラグから顕熱回収を行う熱回収装置4を有する。なお、この熱回収装置4は、スラグから顕熱回収を行う場合に設ける。
【0014】
前記冷却処理装置1は、回転可能な冷却ロール10(冷却ドラム)を備え、回転する冷却ロール10の外周面に供給された溶融スラグを冷却して固化させるものであり、本実施形態では、水平方向で並列し、対向する外周部分が上向きに回転する回転方向を有する1対の冷却ロール10a,10bを備え、後述するスラグ供給装置2の樋22から、前記1対の冷却ロール10a,10bの上部外周面間に溶融スラグが供給されるようになっている。
冷却ロール10a,10bは、そのロール軸100が支持体14a,14bに設けられた軸受15に軸支されることで、支持体14a,14bに回転自在に支持されている。
【0015】
冷却ロール10a,10bの内部には、冷媒を通すための流路を有する内部冷却機構(図示せず)が設けられ、この内部冷却機構に対する冷媒供給部101と冷媒排出部102がロール軸100の各端部に各々設けられ、回転継手を介して外部の配管との間で冷媒の給排がなされるようになっている。なお、冷媒には一般に水(冷却水)が用いられるが、他の流体(液体または気体)を用いてもよい。
また、冷却ロール10a,10bのスラグと接触する面は銅製であり、内部を冷却することによりロールの温度を低温に保ち、ロールの変形を防止している。
冷却ロール10a,10bは、駆動装置13a,13b(モータ)の動力がスプロケットおよびチェンを介してロール軸100に伝達されることで、上記の回転方向に回転駆動する。冷却ロール10a,10bは、操業条件に応じて回転速度を制御することができる。
【0016】
1対の冷却ロール10a,10bのうち、一方の冷却ロール10bの幅方向両端にはフランジ103が設けられるとともに、このフランジ103が他方の冷却ロール10aの端面に接しており、このフランジ103によって、冷却ロール10a,10bの上部外周面間に形成される断面V溝状の凹部A(スラグ液溜まりが形成される凹部)の両端を塞ぐ堰が形成される。
なお、上記フランジ103の代わりに、冷却ロール幅方向の両端側に、冷却ロール10a,10bの端面に接するようにして堰板を配置し、この堰板を適当な支持部材を介して装置本体(基体)に支持させるようにしてもよい。
【0017】
また、本実施形態では、冷却ロール10a,10bのうち、一方の冷却ロール10aの支持体14aを水平方向スライド自在とすることにより、1対の冷却ロール10a,10bの軸間距離を可変とするとともに、冷却ロール10aの支持体14aを他方の冷却ロール10b方向に付勢することで、冷却ロール10a,10bどうしを接触させる付勢手段12を有している。具体的には、冷却ロール10bの支持体14bは支持基部5(装置基体)に固定され、一方、冷却ロール10aの支持体14aは、支持基部5に対して水平方向スライド可能に設けられるとともに、付勢手段12であるエアシリンダ16により冷却ロール10b方向に付勢されている。前記エアシリンダ16は、その一端部側(シリンダ本体160)が支持基部5に、他端部側(ピストンロッド161)が支持体14aと一体のフレーム140に、それぞれ連結されている。
【0018】
なお、付勢手段12としては、エアシリンダ16の代わりにスプリングなどを用いてもよい。また、上記のように一方の冷却ロール10aだけではなく、両方の冷却ロール10a,10bの支持体14a,14bを水平方向スライド自在とし、かつ両方の冷却ロール10a,10bの支持体14a,14bを付勢手段12により互いの方向に付勢するようにしてもよい。
以上のような構造では、付勢手段12の作用で冷却ロール10a,10bどうしが適度な接触圧で接触するため、冷却ロール10a,10b間からの溶融スラグの漏れが防止できるとともに、冷却ロール10a,10bに熱膨張が生じても、その熱膨張は付勢手段12で吸収されるので、ロールやその支持部の変形などが確実に防止できる。
【0019】
前記冷却ロール10a,10bの上部には、冷却ロールの外周面に付着したスラグ(溶融・凝固状態の程度を問わない)を、冷却ロールとの間で拘束して加工する加工ロール11が冷却ロールと平行に設けられている。この加工ロール11は、例えば、冷却ロールの外周面に付着したスラグを、冷却ロールとの間で圧延して展伸させる。また、ロール面に凹凸を有する加工ロール11を用いてもよく、この場合には、冷却ロールの外周面に付着したスラグを、必要に応じて圧延して展伸させつつ、ロール面の凹凸で細片状に分割する。
【0020】
冷却ロール10aに付設された加工ロール11は、下端がフレーム140に回動可能に枢支170されたアーム17の先端に回転自在に設けられ、このアーム17に支持されることで、冷却ロール10aの上部に位置している。前記アーム17は、フレーム140に立設された支持フレーム19に対してシリンダ装置18(油圧シリンダ)で保持され(シリンダ装置18のシリンダ本体180が支持フレーム19に、ピストンロッド181がアーム17に、それぞれ連結されている)、このシリンダ装置18のピストロッド181の伸縮により、アーム17の回動角度が調整され、加工ロール11の外周面と、冷却ロール10aの外周面との間隔が調整できるようにしてある。
【0021】
一方、冷却ロール10bに付設された加工ロール11については、その支持構造の図示は省略してあるが、加工ロール11は、下端が支持基部5(装置本体)に回動可能に枢支されたアーム17の先端に回転自在に設けられ、このアーム17に支持されることで、冷却ロール10bの上部に位置している。前記アーム17は、支持基部5に立設された支持フレーム19に対してシリンダ装置18(油圧シリンダ)で保持され(シリンダ装置18のシリンダ本体180が支持フレーム19に、ピストンロッド181がアーム17に、それぞれ連結されている)、このシリンダ装置18のピストロッド181の伸縮により、アーム17の回動角度が調整され、加工ロール11の外周面と、冷却ロール10bの外周面との間隔が調整される。
【0022】
本実施形態の加工ロール11は非駆動であり、フリー回転状態で冷却ロール10a,10bの上部外周面に付着したスラグを加工する。例えば、圧延ロール上のスラグを適当な厚さに圧延し、或いは必要に応じて圧延して展伸させつつ、ロール面の凹凸で細片状に分割する。なお、加工ロール11は駆動ロールとしてもよい。
加工ロール11は、冷却ロール面に付着したスラグを上記のように加工するためのものであるため、その外径は冷却ロール10a,10bの外径よりも十分小さくてよいが、ロール長さが長くなるとスラグ熱や自重で撓み、冷却ロール面との間隔がロール幅方向でバラツキやすくなるため、ロール長さやロール剛性に応じて外径を選択することが好ましい。
また、加工ロール11についても、前記冷却ロール10a,10bと同様の内部冷却機構を備えた方が、スラグの冷却効率および圧延ロールの耐久性の観点から好ましい。
また、各冷却ロール10a,10bに対して、複数の加工ロール11を配置してもよい。
【0023】
前記スラグ供給装置2は、スラグ鍋を脱着可能に保持する傾動可能な鍋保持体20と、この鍋保持体20を傾動させる駆動装置21と、前記鍋保持体20を傾動させることでスラグ鍋から流出した溶融スラグを案内し、前記冷却ロール10a,10bの上部外周面間に供給する樋22を備えている。
前記鍋保持体20は、平面U字形状に構成され、そのU字形状の両腕の中間部に、スラグ鍋6の両端の軸部60を支持する支持部23を有している。この鍋保持体20は、冷却処理装置1側の一端部であるU字形状の両腕の先端が、支持基部5に枢支24され、この枢支部24を支点として上下方向回動可能となっている。
また、鍋保持体20には、スラグ鍋6に付設された固定金具61を引っ掛けて係止するためのフック26が設けられている。
【0024】
前記駆動装置21は、鍋保持体20を前記枢支部24を支点として上下方向に回動させる1対のシリンダ装置25で構成され、このシリンダ装置25のシリンダ本体250が支持基部5(装置基体)に支持され、ピストンロッド251が鍋保持体20の他端部側(U字形状の両腕の基端部)に連結されている。
前記樋22は、冷却ロール10bの上方位置に配置され、前記鍋保持体20を傾動させることでスラグ鍋6から流出した溶融スラグを案内し、冷却ロール10a,10bの上部外周面間(断面V溝状の凹部A)に供給する。この樋22は支持基部5(装置基体)に支持されている。
このスラグ供給装置2は、図示しない制御装置により、駆動装置21(シリンダ装置25)による鍋保持体20の傾動速度を制御可能とし、その傾動速度制御により冷却処理装置1に対する溶融スラグの供給速度を制御できるようにしてある。鍋保持体20の傾動速度の制御は、例えば、スラグ鍋を溶融スラグが鍋から流出する直前まで高速で傾け、その後は、低速の一定速度とし、スラグ流出量が一定となるようにする。
【0025】
前記回収移送装置3は、冷却処理装置1で冷却・固化した後、冷却ロール10a,10bから剥離したスラグを回収して移送するもので、本実施形態では、移送コンベア30で構成されている。この移送コンベア30は、始端側が冷却ロール10a,10bの下方に位置するとともに、長手方向の途中から移送方向に向けて傾斜状に立ち上がり、終端側が所定の高さに位置している。図において、31は移送コンベアの駆動装置(モータ)である。この移送コンベア30は、十分な耐熱性を有する金属材で構成すればよいが、スラグ温度や連続処理量によってコンベアが高温になり、変形するおそれがある場合には、水、空気またはそれらの混合流体を吹き付けて冷却してもよい。
【0026】
冷却ロール10a,10bの表面に付着して冷却されるスラグは、冷却ロール面がロール下方側に回り込み始める回転位置において自重により冷却ロール面から剥離し、このスラグは移送コンベア30上に落下する。
この回収移送装置3の移送先でスラグの顕熱回収を行う場合には、回収移送装置3はスラグを保温できる構造を有することが好ましく、本実施形態のように回収移送装置3が移送コンベア30からなる場合には、移送コンベア30の搬送面を覆う保温カバーを設けることが好ましい。
【0027】
前記熱回収装置4は、前記回収移送装置3(移送コンベア30)で移送されてきたスラグを受け取り、その顕熱回収を行う。本実施形態では、傾斜状に立ち上がった移送コンベア30の終端の下方に熱回収装置4が配置され、移送されてきたスラグがこの熱回収装置4に投入される。
なお、前記回収移送装置3をシュートなどで構成し、冷却ロール10a,10bから剥離したスラグを、このシュートを介して熱回収装置4に装入するようにしてもよい。
【0028】
熱回収装置4の形式や構造は特に制限はないが、通常は、スラグと熱交換用のガスを接触させる熱回収塔を用いる。
図9は、熱回収装置4の一実施形態を示している。この熱回収装置4は、スラグを上部から装入して下部から取り出すようにした熱回収塔40を備え、この熱回収塔40内に充填され、塔内を下降するスラグに対して熱交換用のガスを向流方向(すなわち、下から上に)に流し、熱交換を行うようにしてある。このため、熱回収塔40は、その上部にスラグ装入口41とガス排出口45を有し、下部にスラグ排出口42とガス導入口44を有している。熱回収塔40の底部には、塔内のスラグ充填層Sにガスを吹き込むための分散板46(多孔板)が設けられ、その下方に形成された風箱47にガス導入口44が設けられている。スラグ排出口42には開閉可能なシャッター43が設けられている。なお、図において48は、移送コンベア30の移送面を覆う保温カバーである。
【0029】
この熱回収装置4では、回収移送装置3(移送コンベア30)で移送されてきたスラグがスラグ装入口41から熱回収塔40内に装入され、スラグ充填層Sが形成される。熱回収塔40内のスラグは、スラグ排出口42(シャッター43)を開放することで適宜排出され、それに伴い塔内のスラグは順次下降する。ガス導入口44から熱交換用のガス(通常は空気)が導入され、分散板46を通じて塔内に吹き込まれる。ガスは、塔内を上昇する間にスラグと熱交換し、スラグ顕熱を回収してガス排出口45から排出される。通常、このガスはボイラーなどに導かれ、スラグ顕熱が蒸気として回収される。ガスは、循環使用することができ、その場合には、再びガス導入口44に導かれる。
【0030】
図10は、熱回収装置4の他の実施形態を示している。図9の実施形態と同様、この熱回収装置4も、スラグを上部から装入して下部から取り出すようにした熱回収塔40を備え、この熱回収塔40内に充填され、塔内を下降するスラグに対して熱交換用のガスを向流方向に流し、熱交換を行うようにしてあるが、この実施形態では、熱回収塔40内の上部隔壁を熱交換用の流体流路を有するメンブレン構造とすることにより、塔内の上部領域をボイラー構造部54としてある。また、熱回収塔40のガス排出口45はホットサイクロン49に接続され、このホットサイクロン49のガス出側には、ボイラー50とブロア51が順に設けられている。また、熱回収塔40の下部には、傾斜した底面に沿ってスラグをスラグ排出口42側に押し出すためのプッシャー52が設けられている。また、スラグ排出口42の外側には、スラグ排出口42から押し出されたスラグが充填状態で通過する通路53が設けられ、この通路53内を充填状態で通過するスラグにより、スラグ排出口42(シャッター43)を開放した際のマテリアルシールが形成されるようにしてある。なお、その他の構成は、図9の実施形態と同様である。
【0031】
この熱回収装置4でも、図9の実施形態と同様、回収移送装置3(移送コンベア30)で移送されてきたスラグがスラグ装入口41から熱回収塔40内に装入され、スラグ充填層Sが形成される。熱回収塔40内のスラグは、スラグ排出口42(シャッター43)を開放し、プッシャー52で押し出すことで適宜排出され、それに伴い塔内のスラグは順次下降する。ガス導入口44から熱交換用のガス(通常は空気)が導入され、分散板46を通じて塔内に吹き込まれる。ガスは、塔内を上昇する間にスラグと熱交換し、スラグ顕熱を回収する。このガスの顕熱の一部は塔上部のボイラー構造部54(メンブレン構造部分)にて蒸気として回収され、次いで、ホットサイクロン49で飛散した微細スラグが捕集された後、さらに、ガス顕熱の一部がボイラー50にて蒸気として回収される。なお、ホットサイクロン49の一部をメンブレン構造として、上記ボイラー構造部54のように蒸気を回収してもよい。ボイラー50の出側ガス温度は、通常150〜200℃程度であり、ブロア51で吸引して昇圧し、熱回収塔40に循環使用するため、再びガス導入口44に導かれる。
【0032】
図5〜図8は、図1の実施形態の設備において、スラグ供給装置2の作動状態を示す側面図である。
任意の精錬プロセス、例えば製鋼プロセスで発生したスラグ(製鋼スラグ)はスラグ鍋6に入れられ、天井クレーン7で搬送されてくる。図5に示すように、このスラグ鍋6をスラグ供給装置2に吊り下ろし、その両軸部60を鍋保持体20の支持部23に係合させ、スラグ鍋6を鍋保持体20に保持させる。スラグ鍋6に付設された固定金具61を鍋保持体20のフック26に引っ掛けて係止し、鍋保持体20を傾動させた場合に、スラグ鍋6が鍋保持体20と一体に傾動するよう、スラグ鍋6を鍋保持体20に対して固定する。
【0033】
図6に示すように、駆動装置21を構成する1対のシリンダ装置25のピストンロッド251を伸長させると、スラグ鍋6を保持した鍋保持体20が枢支部24を支点として傾動し、スラグ鍋6内の溶融スラグが冷却処理装置1(冷却ロール10a,10b)側に流れ出る。この溶融スラグは樋22を経由して冷却ロール10a,10bの上部外周面間に供給される。図7および図8に示すように、シリンダ装置25のピストンロッド251をさらに伸長させ、鍋保持体20の傾動角を大きくしていくことにより、スラグ鍋6からの溶融スラグの払い出しが進む。この際、駆動装置21(シリンダ装置25)による鍋保持体20の傾動速度を制御することにより、冷却処理装置1に対する溶融スラグの供給速度を制御することができる。
スラグ鍋6からの溶融スラグの払い出しが完了すると、シリンダ装置25のピストンロッド251を縮小させて図5の状態に戻し、固定金具61をフック26から取り外した後、空のスラグ鍋6を天井クレーン7で吊り上げてスラグ供給装置2から取り出す。以上を繰り返すことで、処理設備に対する溶融スラグの供給を行う。
【0034】
冷却処理装置1では、対向する外周部分が上向きに回転する冷却ロール10a,10bの上部外周面間(断面V溝状の凹部A)に、樋22から溶融スラグが供給され、スラグ液溜まりが形成される。溶融スラグは、回転する冷却ロール10a,10bの表面に付着することでスラグ液溜まりから持ち出され、冷却ロール10a,10bに板状に付着した状態で冷却される。
加工ロール11によるスラグの加工は必要に応じて行えばよく、冷却ロールに付着したスラグが厚すぎる場合や、スラグをロール幅方向で冷却ロール面に均一に付着させ、冷却効率を高めたい場合などには、フラット面の加工ロール11を所定の位置に配置し、冷却ロールとの間でスラグを圧延する。これによりスラグはロール幅方向に展伸され、薄くなるとともに、スラグの冷却効率が高まり、かつスラグの冷却速度も高くなる。また、冷却ロールに付着した板状のスラグを細かくしたい場合は、ロール面に凹凸を有する加工ロール11を所定の位置に配置し、冷却ロール面に付着したスラグを、必要に応じて圧延して展伸させつつ、ロール面の凹凸で細片状に分割する。
【0035】
溶融スラグは冷却ロール面に付着した状態で適度な凝固状態(例えば、半凝固状態または表層のみ凝固した状態)まで冷却された後、所定のロール回転位置において自重により冷却ロール面から自然に剥離し、この剥離したスラグはそのまま回収移送装置3を構成する移送コンベア30に受け取られ、この移送コンベア30で熱回収装置4に移送される。そして、この熱回収装置4において、例えば、上述したようなスラグの顕熱回収がなされる。
【0036】
スラグの厚みは、冷却ロール10a,10bの回転速度で調整可能であり、回転速度を大きくするほど、スラグの厚みは薄くなる。但し、回転速度が大きすぎると、溶融スラグがロールで跳ね飛ばされて十分に冷却されず、形状と冷却速度が安定しないので、その点を考慮する必要がある。また、冷却ロール10a,10bの回転速度を制御することにより、冷却時間および冷却温度を調整することもできる。
【0037】
通常、冷却ロール10a,10bによる冷却が完了した直後のスラグは、適度な凝固状態(例えば、半凝固状態または表層のみ凝固した状態)に固化している。但し、スラグの性質や冷却処理装置1の使用形態によっては、スラグのロール接触面側は凝固しているが、自由表面側や内部は未凝固の場合もあり、溶融状態で流れて回収移送装置2に達するものもある。本発明において、冷却処理装置1において溶融スラグを冷却して固化させるとは、スラグが以上のような凝固状態に冷却される場合を含む意味とする。
冷却ロール10a,10bから剥離したスラグは未だ相当の高温であり、移送コンベア30で移送するのに高温過ぎる場合には、冷却ロール10a,10bから剥離したスラグを散水冷却してもよい。散水冷却は、シャワー状散水による冷却、スプレー冷却、ミスト冷却のいずれでもよい。
【0038】
本発明の処理設備によれば、製鉄所などで発生する溶融スラグ、特に塩基度が高く、粉化しやすいスラグの粉化を抑制しつつ冷却凝固させて、安定した塊状ないし破片状スラグを得ることができ、しかも凝固スラグからの顕熱回収も行うことができる。
本発明の処理設備で処理されたスラグは、通常、破砕処理または/および磨砕処理され、必要に応じて、篩い分けなどにより整粒することにより、粒状のスラグ製品を得ることができる。このスラグ製品の種類に制限はないが、通常は、土木材料や建築材料となるスラグ製品である。例えば、路盤材、細骨材、海洋土木材料などが挙げられる。
【0039】
本発明の処理設備で処理されて得られるスラグ製品は急冷することにより製造されるため粉化が抑制され、このため微粉部分が少なくなり、海洋土木材として利用する際に海水が白濁することがない。また、薄い層状に急冷凝固させるため、破砕工程が簡略化でき、微粒分の少ない細骨材とすることができる。また、緻密質なものとなるため吸水率は低く、アスコン用にも利用できる硬質なものとなる。
【符号の説明】
【0040】
1 冷却処理装置
2 スラグ供給装置
3 回収移送装置
4 熱回収装置
5 支持基部
6 スラグ鍋
7 天井クレーン
10,10a,10b 冷却ロール
11 加工ロール
12 付勢手段
13a,13b 駆動装置
14a,14b 支持体
15 軸受
16 エアシリンダ
17 アーム
18 シリンダ装置
19 支持フレーム
20 鍋保持体
21 駆動装置
22 樋
23 支持部
24 枢支部
25 シリンダ装置
26 フック
30 移送コンベア
31 駆動装置
40 熱回収塔
41 スラグ装入口
42 スラグ排出口
43 シャッター
44 ガス導入口
45 ガス排出口
46 分散板
47 風箱
48 保温カバー
49 ホットサイクロン
50 ボイラー
51 ブロア
52 プッシャー
53 通路
54 ボイラー構造部
60 軸部
61 固定金具
100 ロール軸
101 冷媒供給部
102 冷媒排出部
103 フランジ
140 フレーム
160 シリンダ本体
161 ピストンロッド
170 枢支部
180 シリンダ本体
181 ピストンロッド
250 シリンダ本体
251 ピストンロッド
A 凹部
S スラグ充填層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な冷却ロール(10)を備え、回転する冷却ロール(10)の外周面に供給された溶融スラグを冷却して固化させる冷却処理装置(1)と、該冷却処理装置(1)に溶融スラグを供給するスラグ供給装置(2)と、前記冷却処理装置(1)で冷却・固化した後、冷却ロール(10)から剥離したスラグを回収して移送する回収移送装置(3)を有し、
前記スラグ供給装置(2)は、スラグ鍋を脱着可能に保持する傾動可能な鍋保持体(20)と、該鍋保持体(20)を傾動させる駆動装置(21)と、前記鍋保持体(20)を傾動させることでスラグ鍋から流出した溶融スラグを案内し、前記冷却ロール(10)の外周面に供給する樋(22)を備えることを特徴とする溶融スラグの処理設備。
【請求項2】
冷却処理装置(1)は、冷却ロール(10)の外周面に付着したスラグを、冷却ロール(10)との間で拘束して加工する加工ロール(11)を備えることを特徴とする請求項1に記載の溶融スラグの処理設備。
【請求項3】
鍋保持体(20)は、冷却処理装置(1)側の一端部が支持基部(5)に枢支され、該枢支部(24)を支点として上下方向回動可能であり、
駆動装置(21)は、鍋保持体(20)を前記枢支部(24)を支点として上下方向に回動させるシリンダ装置(25)からなることを特徴とする請求項1または2に記載の溶融スラグの処理設備。
【請求項4】
冷却処理装置(1)は、水平方向で並列し、対向する外周部分が上向きに回転する回転方向を有する1対の冷却ロール(10a),(10b)を備え、スラグ供給装置(2)の樋(22)から、前記1対の冷却ロール(10a),(10b)の上部外周面間に溶融スラグが供給されるようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の溶融スラグの処理設備。
【請求項5】
少なくとも一方の冷却ロール(10a)の支持体(14a)を水平方向スライド自在とすることにより、1対の冷却ロール(10a),(10b)の軸間距離を可変とするとともに、
少なくとも一方の冷却ロール(10a)の支持体(14a)を他方の冷却ロール(10b)方向に付勢することで、冷却ロール(10a),(10b)どうしを接触させる付勢手段(12)を有することを特徴とする請求項4に記載の溶融スラグの処理設備。
【請求項6】
付勢手段(12)がエアシリンダまたはスプリングであることを特徴とする請求項5に記載の溶融スラグの処理設備。
【請求項7】
駆動装置(21)による鍋保持体(20)の傾動速度を制御可能とし、その傾動速度制御により冷却処理装置(1)に対する溶融スラグの供給速度を制御できるようにしたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の溶融スラグの処理設備。
【請求項8】
固化したスラグから顕熱回収を行う熱回収装置(4)を有し、回収移送装置(3)で移送されたスラグが前記熱回収装置(4)に投入されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の溶融スラグの処理設備。
【請求項9】
熱回収装置(4)は、内部で熱交換用のガスとスラグを接触させる熱回収塔(40)を備え、該熱回収塔(40)は、上部にスラグ装入口とガス排出口を有し、下部にスラグ排出口とガス導入口を有することを特徴とする請求項8に記載の溶融スラグの処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−1417(P2012−1417A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141100(P2010−141100)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「環境調和型製鉄プロセス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】