説明

溶融スラグ製造方法及び、その装置

【課題】 アルカリシリカ反応を起こさない溶融スラグを製造する。
【解決手段】 溶融対象物2を溶融炉1で溶かした後、水槽7に投入して水砕スラグWとして取り出す溶融スラグ製造方法において、水砕スラグWを篩選別し、その粒度が予め設定された選別粒度より大きいものに関しては、別に設定した調整粒度以下になるように粉砕して溶融炉1に投入して再溶融させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融対象物を溶融炉で溶かした後、水槽に投入して水砕スラグとして取り出す溶融スラグ製造方法、及び、その装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の溶融スラグ製造においては、溶融対象物としては、焼却灰(乾灰・湿灰)、ばいじん(飛灰)、プラスチック系ごみ、汚泥、破砕不燃物、汚染土壌、埋立廃棄物、不法投棄物等、さまざまなものがあり、これらを溶融させて取り出された溶融スラグを使用して、各種資材の再製品が形成されている。
製造された溶融スラグは、目的に合わせて選別(例えば、粒度選別)し、粒度を調整したものを再製品の原材料として使用していた(例えば、特許文献1〜4参照)。また、溶融スラグをコンクリート骨材として使用できるようにするための技術としては、溶融スラグを空気中に晒すことによって含有する重金属を難溶性の物質に変えるもの(例えば、特許文献5参照)等があった。
【0003】
【特許文献1】特開平10−156329号公報(図1)
【特許文献2】特開2000−272938(図1)
【特許文献3】特開平6−279084号公報
【特許文献4】特開平8−91883号公報
【特許文献5】特開平10−192814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の溶融スラグ製造方法によれば、それぞれの方法で形成された溶融スラグを、コンクリート骨材として使用する場合に、アルカリシリカ反応が発生する危険性があることが解ってきた。
即ち、骨材中の反応性を有するシリカとセメントに含まれるアルカリとが反応することによって生じた生成物が吸水して膨張し、コンクリートにひび割れなどを生じさせる(アルカリシリカ反応)現象が生じ、コンクリート構造物を著しく劣化させてしまうことにつながる。このような現象をおこす原因は、骨材として使用している溶融スラグ中の溶解性シリカの影響が大きいということが解ってきた。
そして、特に、溶解性シリカ分が凝集した粗大スラグが存在する場合に、アルカリシリカ反応を生じる危険性が高いことも見出した。この粗大スラグは、溶融対象物に花崗岩等のシリカを多く含むものが混ざっている時にでき易い傾向がある。そのメカニズムは、図3に示すように、溶融炉1内で溶融対象物2が溶融して流下していく過程で、溶解性シリカ20がスラグ溶融部分21中を浮上して表層部分に集合し、それら集合した溶解性シリカ20が凝集することで、前記アルカリシリカ反応を起こしやすい粗大スラグの元となり、そのまま水槽7に落下することで粗大スラグ22が形成されると解明できる。
このように、従来の溶融スラグ製造方法によって製造された溶融スラグには、溶解性シリカがそのまま混入している可能性が高く、コンクリート骨材として用いると、アルカリシリカ反応を生じることが有り、その反応が生じるとコンクリート構造物の耐久性低下に繋がるから、通常は使用が困難で、それでもコンクリート骨材として用いるには、例えば、低アルカリセメントを用いる等の制約を受ける問題点があった。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、上述のような制約を受けずに、コンクリート骨材としても使用できる溶融スラグを製造できる溶融スラグ製造方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、溶融対象物を溶融炉で溶かした後、水槽に投入して水砕スラグとして取り出す溶融スラグ製造方法において、前記溶融対象物を溶融炉に入れる前に、別に設定した前処理粒度以下に予め破砕しておくところにある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、溶融対象物の表面積を増加させることができ、より高熱で安定した状態に溶融させ易くなる。その結果、アルカリシリカ反応を生じ難い水砕スラグを得ることが可能となる。因みに、前処理粒度は、例えば、各粒度毎に溶融対象物をそれぞれ溶融させて生成された水砕スラグを対象にアルカリシリカ反応性試験を行って、「無害」と言う結果が得られた水砕スラグの元となった溶融対象物の粒度の中での最大値を採用する等の方法で設定することができる。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、溶融対象物を溶融炉で溶かした後、水槽に投入して水砕スラグとして取り出す溶融スラグ製造方法において、前記水砕スラグを篩選別し、その粒度が予め設定された選別粒度より小さいものだけを製造品として取り出すところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、溶解性シリカは凝集することで粗大スラグ化し易いという現象を利用して、前記選別粒度を適切な値に設定することによって、その選別粒度より小さいスラグに関しては、溶解性シリカ分が含まれている確率が低く、アルカリシリカ反応を生じ難い溶融スラグのみを選別することが可能となる。
【0010】
本発明の第3の特徴構成は、篩選別された前記水砕スラグの内、その粒度が予め設定された選別粒度より大きいものに関しては、別に設定した調整粒度以下になるように粉砕して前記溶融炉に投入して再溶融させるところにある。
【0011】
本発明の第3の特徴構成によれば、本発明の第2の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、選別粒度より大きな水砕スラグに関しても、前記調整粒度以下に粉砕することで、再溶融させた時に小さな粒度の溶解性シリカ分が分散供給されて、他の溶融部分に反応しながら安定した状態に融合し、再びシリカ分が凝集して粗大スラグとなり難いようにすることが可能となる。そして、選別粒度より小さい水砕スラグも、選別粒度より大きい水砕スラグもすべてを使ってアルカリシリカ反応を生じ難い溶融スラグを形成することが可能となり、結果的には、資源の有効利用率を高く維持することができ、且つ、溶融スラグをコンクリート骨材としても安心して使用することができるようになる。
【0012】
本発明の第4の特徴構成は、前記選別粒度は、生成された複数の水砕スラグを対象に粒度毎に実施したアルカリシリカ反応性試験の各結果で、「無害」という結果が得られた水砕スラグの粒度のなかでの最大値であるところにある。
【0013】
本発明の第4の特徴構成によれば、本発明の第2又は3の特徴構成による上述の作用効果を叶えることができるのに加えて、アルカリシリカ反応性試験で「無害」という結果が得られると言うことは、文字通り、その水砕スラグをコンクリート骨材として使用した場合でも、アルカリシリカ反応を生じないことを意味している。即ち、アルカリシリカ反応が生じない水砕スラグをより確率高く選別することが可能となる。そして、溶融炉に再投入する水砕スラグの選別も無駄なく実施できるようになり、スラグ製造効率を向上させることが可能となる。
【0014】
本発明の第5の特徴構成は、溶融炉内に投入された溶融対象物を加熱溶融して、生成した溶融スラグを水砕スラグとして取り出すように構成された溶融スラグ製造装置において、溶融スラグを急冷して水砕スラグ化する水槽が設けられていると共に、その水砕スラグを予め設定された選別粒度で選別する篩選別装置が設けられ、選別された水砕スラグの内、前記選別粒度より大きい水砕スラグを、別に設定する調整粒度以下になるように粉砕する粉砕装置が設けられ、粉砕装置で粉砕された水砕スラグを前記溶融炉に搬送投入する搬送機構が設けられているところにある。
【0015】
本発明の第5の特徴構成によれば、請求項2〜4に記載の溶融スラグ製造方法を、より好ましい状態で実施することができ、同様の作用効果を叶えることが可能となる。
即ち、篩選別装置によって水砕スラグを前記選別粒度で選別することができ、選別粒度を適切な値に設定することによって、その選別粒度より小さいスラグに関しては、溶解性シリカ分が含まれている確率が低く、アルカリシリカ反応を生じ難い溶融スラグのみを選別することが可能となる。更には、選別粒度より大きな水砕スラグに関しては、前記調整粒度以下に粉砕することができ、再溶融させた時に小さな粒度の溶解性シリカ分が分散供給されて、他の溶融部分に反応しながら安定した状態に融合し、再びシリカ分が凝集して粗大スラグとなり難いようにすることが可能となる。このように、選別粒度より小さい水砕スラグも、選別粒度より大きい水砕スラグもすべてを使ってアルカリシリカ反応を生じ難い溶融スラグを形成することが可能となり、結果的には、資源の有効利用率を高く維持することができ、且つ、コンクリート骨材としても安心して使用することができる水砕スラグを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明の溶融スラグ製造方法を実施可能に構成された溶融炉1を示すものである。
前記溶融炉1は、投入された溶融対象物2を加熱溶融して、生成した溶融物3を水砕スラグWとして取り出すように構成してあり、前記溶融対象物2を加熱して溶融処理する主室1Aが設けられるとともに、その主室1Aのスラグ排出口4下方に、主室1Aで生成した溶融物3と共に、同じく主室1Aで生成した燃焼生成ガス5を受け入れる二次室1Bが設けられ、前記二次室1Bにガス排出路6を接続して構成されている。そして、二次室1Bの下方には、溶融物3が落下する位置に、溶融物3を急冷して水砕スラグ化する水槽7が設けられると共に、水槽7内で固化した水砕スラグWを篩選別装置8に搬送する第一搬送機構9が設けられている。
そして、篩選別装置8は、選別粒度Pを設定することにより、その選別粒度Pより大きい水砕スラグW1と、その選別粒度Pより小さい水砕スラグW0とに分離することができるように構成されている。また、篩選別装置8の下流側には、選別粒度Pより大きい水砕スラグW1を、別に設定する調整粒度X以下になるように粉砕する粉砕装置10と、粉砕した水砕スラグW2を、前記主室1Aに搬送投入して再溶融させる第二搬送機構11が設けられている。
【0018】
次に、本発明の溶融スラグ製造方法について、図2を用いてその一例を説明する。
[1] 各種溶融対象物2に適した前処理を行うとともに、それらを混ぜて均質化を図る。
[2] 溶融対象物2を溶融炉1の主室1Aに投入して、例えば、1250〜1400℃の雰囲気下で溶融させて、その溶融物3を落下させることで前記水槽7で水砕スラグWを形成する。
[3] 水砕スラグWを篩選別装置8に搬送して、選別粒度Pを基準にして篩選別する。この選別粒度Pは、予め、対象とする溶融対象物2から得られた水砕スラグWを各種粒度に分類しておき、夫々に対してアルカリシリカ反応性試験(JIS A 5308参照)を実施し、その結果から「無害」という結果が得られた水砕スラグWの粒度のなかでの最大値をもって設定することが好ましい。この実施形態においては、選別粒度Pは、例えば75mmに設定している。
[4] 篩選別の結果、選別粒度Pより小さい水砕スラグW0は、そのまま製品とする一方、選別粒度Pより大きい水砕スラグW1は、調整粒度X以下になるように、前記粉砕装置10で粉砕する。この実施形態においては、調整粒度Xは、例えば5mmに設定している。
[5] 粉砕された水砕スラグW2を、第二搬送機構11によって主室1Aに送って再溶融させる。
【0019】
以上の方法によれば、溶解性シリカが混入し難くい状態に水砕スラグを形成することができ、アルカリシリカ反応を生じ難い溶融スラグ製品を製造することが可能となる。そして、使用する原料を無駄なく使用した溶融スラグ製品の製造が可能となる。その結果、資源の有効利用率を維持できながら、コンクリート骨材としても安心して使用することができる溶融スラグを製造することが可能となる。
【実施例1】
【0020】
花崗岩を含む溶融処理対象物に以下の二つの処理方法による処理を行って得た水砕スラグを対象にして、アルカリシリカ反応の変化を観察した。
(1)花崗岩を100mm以下の粗破砕を行ってから他の溶融処理対象物と共に溶融炉に投入して溶融処理した。
(2)花崗岩を30mm以下に破砕し、他の溶融処理対象物と均質に混合してから、溶融炉に投入して溶融処理した。
前記(1)、(2)の試料に対するアルカリシリカ反応性試験の結果は、表1に示すとおりである。因みに、100mmや30mmは、前処理粒度に相当する
【表1】

【実施例2】
【0021】
粒径75mm以上の粗大スラグを混入した水砕スラグを対象にして、以下の三つの処理方法により、アルカリシリカ反応の変化を観察した。
(3)分離した粗大スラグを破砕機によって破砕後、溶融炉に再投入して溶融処理した。
(4)分離した粗大スラグを溶融炉に戻さずに除去した。
(5)分離した粗大スラグを5mm以下に粉砕後、溶融炉に再投入して溶融処理した。
尚、粗大スラグそのものに対するアルカリシリカ反応性試験の結果は、「無害でない」と言う結果が得られることがあり、コンクリート骨材として使用すると、アルカリシリカ反応を生じる危険性が高いことが確認されている。
前記(3)、(4)、(5)の試料に対するアルカリシリカ反応性試験の結果は、表2に示すとおりである。
【表2】

【0022】
この結果から見られるように、前記(3)、(4)、(5)の何れの方法においても、「無害」と言う試験結果が得られている。即ち、何れの方法においても、アルカリシリカ反応を生じ難い水砕スラグが得られるものである。
尚、アルカリシリカ反応性試験によれば、溶解シリカ量Scとアルカリ濃度減少量Rcとの関係として、Sc/Rcの値が1未満の場合に「無害」と言う判定が成されるものであり、このSc/Rcの値に注目すると、前記(5)の方法による結果が最も小さく、より好ましい状態の水砕スラグが得られていることを示している。
【0023】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0024】
〈1〉 当該発明において対象とする溶融対象物は、例えば、焼却灰(乾灰・湿灰)、ばいじん(飛灰)、プラスチック系ごみ、汚泥、破砕不燃物、汚染土壌、埋立廃棄物、不法投棄物等、さまざまなものを挙げることができる。また、溶解性シリカを含む花崗岩等が混入した溶融対象物を溶融させる場合には、特に、アルカリシリカ反応の生じ難い状態に水砕スラグを製造することが可能となる。
〈2〉 前記選別粒度は、先の実施形態で説明した75mmに限るものではなく、適宜設定することができる。但し、同じ産地から出た溶融対象物でも、物性が異なることもあり、生成された複数の水砕スラグを対象に粒度毎に実施したアルカリシリカ反応性試験の各結果で、「無害」という結果が得られた水砕スラグの粒度のなかでの最大値を選別粒度とするのが好ましい。
〈3〉 前記調整粒度は、先の実施形態で説明した5mmに限るものではなく、適宜設定することが可能である。
【0025】
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】溶融炉を示す模式図
【図2】溶融スラグ製造方法を示すフロー図
【図3】シリカの生成状況を示す説明図
【符号の説明】
【0027】
1 溶融炉
2 溶融対象物
7 水槽
P 選別粒度
X 調整粒度
W 水砕スラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融対象物を溶融炉で溶かした後、水槽に投入して水砕スラグとして取り出す溶融スラグ製造方法であって、
前記溶融対象物を溶融炉に入れる前に、別に設定した前処理粒度以下に予め破砕しておく溶融スラグ製造方法。
【請求項2】
溶融対象物を溶融炉で溶かした後、水槽に投入して水砕スラグとして取り出す溶融スラグ製造方法であって、
前記水砕スラグを篩選別し、その粒度が予め設定された選別粒度より小さいものだけを製造品として取り出す溶融スラグ製造方法。
【請求項3】
篩選別された前記水砕スラグの内、その粒度が予め設定された選別粒度より大きいものに関しては、別に設定した調整粒度以下になるように粉砕して前記溶融炉に投入して再溶融させる請求項2に記載の溶融スラグ製造方法。
【請求項4】
前記選別粒度は、生成された複数の水砕スラグを対象に粒度毎に実施したアルカリシリカ反応性試験の各結果で、「無害」という結果が得られた水砕スラグの粒度のなかでの最大値である請求項2又は3に記載の溶融スラグ製造方法。
【請求項5】
溶融炉内に投入された溶融対象物を加熱溶融して、生成した溶融スラグを水砕スラグとして取り出すように構成された溶融スラグ製造装置であって、
溶融スラグを急冷して水砕スラグ化する水槽が設けられていると共に、その水砕スラグを予め設定された選別粒度で選別する篩選別装置が設けられ、選別された水砕スラグの内、前記選別粒度より大きい水砕スラグを、別に設定する調整粒度以下になるように粉砕する粉砕装置が設けられ、粉砕装置で粉砕された水砕スラグを前記溶融炉に搬送投入する搬送機構が設けられている溶融スラグ製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−23048(P2006−23048A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203160(P2004−203160)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】