説明

溶融亜鉛の分析用サンプル容器およびそれを用いた分析方法

【課題】迅速な乾式法による分析を適用しても、亜鉛めっき浴の組成を正確かつ簡便に分析できる溶融亜鉛の分析用サンプル容器およびそれを用いた分析方法を提供する。
【解決手段】側壁部と、前記側壁部から分離可能な平坦な底部とからなり、前記底部には冷却機構が備えられ、かつ少なくとも前記底部の溶融亜鉛と接する面がステンレス鋼、銅、グラッシーカーボン、窒化ホウ素のいずれかよりなる溶融亜鉛の分析用サンプル容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板の製造ラインに設けられた亜鉛めっき浴の組成を分析するための分析用サンプル容器およびそれを用いた分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板を亜鉛めっき浴に浸漬することにより鋼板面に亜鉛めっき皮膜を形成させた鋼板である。その大量生産を図るには、通常、連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)を用いて鋼板を連続的に亜鉛めっき処理している。こうした連続的な亜鉛めっき処理では、一定した品質の亜鉛めっき皮膜を形成するために、亜鉛めっき浴の組成変動を極力抑制することが重要である。そのため、めっき浴の組成分析を定期的に実施して組成の管理が行われている。
【0003】
亜鉛めっき浴の組成分析は、溶融状態のままでは分析することが困難なため、溶融した亜鉛を凝固させ、凝固後の亜鉛に切断や切削などの機械加工を施してチップ状の試料を作製し、酸などで溶解後ICP(誘導結合プラズマ)発光分光法や原子吸光法などにより分析する方法(湿式法)で行われている。最近では、迅速な分析を目的にして、凝固後の亜鉛を切断、研磨後、研磨面を蛍光X線分析法やスパーク発光分析法などにより分析する方法(乾式法)も普及している。
【0004】
また、溶融亜鉛の凝固時にはめっき浴に含有されるAlなどの元素の偏析が起こったり、ドロスが生成して、めっき浴の組成の正確な分析を阻害するため、例えば、特許文献1には、側壁部や底部を水冷した銅鋳型に溶融亜鉛を流し込み、溶融亜鉛を急速に冷却固化してAlなどの偏析やドロスの生成を防止する分析試料の作成方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-172731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の分析試料の作成方法では、作成した分析試料を切断、研磨して乾式法で分析を行うと、従来の湿式法で分析を行った場合に比べ、Al量が高く検出され、めっき浴の組成を正確に分析できないという問題がある。また、この方法は、大掛かりな冷却装置が必要であるとともに、試料のハンドリングも煩雑となり、簡便な分析方法とはいい難い。
【0007】
本発明は、迅速な乾式法による分析を適用しても、亜鉛めっき浴の組成を正確かつ簡便に分析できる溶融亜鉛の分析用サンプル容器およびそれを用いた分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。
【0009】
i) 分析試料を切断、研磨して乾式法で分析を行うと、湿式法で分析を行った場合に比べ、Al量が高く検出される原因は、切断、研磨などの機械加工によってAlが試料表面に濃化するためである。
【0010】
ii) そのため、切断、研磨などの機械加工を行わずに試料作成ができれば、乾式法で分析を行っても正確な亜鉛めっき浴の分析が可能となるが、それには、側壁部と、側壁部から分離可能な平坦な底部とからなり、かつ凝固後の亜鉛と接する底部の面がステンレス鋼、銅、グラッシーカーボン、窒化ホウ素のような亜鉛が剥離しやすい材料からなる容器を用いることが効果的であり、簡便である。
【0011】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、側壁部と、前記側壁部から分離可能な平坦な底部とからなり、前記底部には冷却機構が備えられ、かつ少なくとも前記底部の溶融亜鉛と接する面がステンレス鋼、銅、グラッシーカーボン、窒化ホウ素のいずれかよりなる溶融亜鉛の分析用サンプル容器を提供する。
【0012】
本発明は、また、上記の溶融亜鉛の分析用サンプル容器に溶融亜鉛を注入し、前記分析用サンプル容器内で前記溶融亜鉛を凝固させた後、前記分析用サンプル容器の底部から剥離し、露出した凝固後の亜鉛の剥離面を機械加工することなく分析する溶融亜鉛の分析方法を提供する。
【0013】
本発明の溶融亜鉛の分析方法では、分析する手段として、蛍光X線分析法、スパーク発光分析法、グロー放電分光法、レーザ発光分析法、レーザICP分析法のいずれかを用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、迅速な乾式法による分析を適用しても、亜鉛めっき浴の組成を正確かつ簡便に分析できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明である溶融亜鉛の分析用サンプル容器の一例を模式的に示す図である。
【図2】本発明の分析方法、従来の切断・研磨を伴う乾式法、湿式法による溶融亜鉛中のAl量の定量結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、本発明である溶融亜鉛の分析用サンプル容器の一例を模式的に示す。本発明の分析用サンプル容器は、円筒状の側壁部1と平坦な板状の底部2とから構成され、側壁部1は板状の底部2上に置かれている。そのため、側壁部1と底部2とは容易に分離できる状態にある。底部2には、容器内に注入された溶融亜鉛を急速に冷却固化するための冷却機構3が備えられている。また、少なくとも底部2の溶融亜鉛と接する面は、亜鉛との濡れ性が悪い、すなわち凝固後の亜鉛が剥離しやすいステンレス鋼、銅、グラッシーカーボン、窒化ホウ素のいずれかの材料で作製されている。
【0017】
まず、図1(a)に示すように、円筒状の側壁部1と平坦な板状の底部2とから構成された容器に溶融亜鉛を注入し、冷却機構3により溶融亜鉛を急速に冷却して凝固させる。このとき、側壁部1が底部2上に置かれているだけであっても、溶融亜鉛は底部2に接触後直ちに凝固するため、溶融亜鉛が容器外に漏れ出すことはない。また、次に述べるように、乾式分析する部分は、底部2と直接接触していた凝固亜鉛の剥離面なので、急冷の効果が顕著に発揮され、Alなどの元素の偏析が起こったり、ドロスが生成することは全くない。
【0018】
次に、図1(b)に示すように、凝固した亜鉛が充填している側壁部1を底部2から剥離する。このとき、円筒状の側壁部1は底部2から容易に分離できるようになっており、かつ底部2の溶融亜鉛と接する面は凝固後の亜鉛が剥離しやすい材料でできているため、剥離は容易に行える。
【0019】
そして、剥離によって露出された凝固後の亜鉛の剥離面を機械加工することなく、そのまま定量して分析すれば、Alの表面濃化を起こすことなく、亜鉛めっき浴の組成を正確に分析できることになる。このとき、分析する手段としては、蛍光X線分析法、スパーク発光分析法、グロー放電分光法、レーザ発光分析法、レーザICP分析法のいずれかを用いることができる。
【0020】
本発明の分析方法は、冷却機構3を底部2だけに備えればよく、また、溶融亜鉛の凝固後、側壁部1を底部2から剥離してそのまま分析できるので、簡便な分析方法といえる。
【0021】
側壁部1の大きさや形状は、凝固後の亜鉛をそのまま上記の方法により分析することができるものであれば、必ずしも円筒状である必要はない。ハンドリングのし易さからは、直径40mmφ、高さ15mm程度の円筒状のものが好ましい。また、側壁部1の材料も、溶融亜鉛と接触して融解したり、腐食しない材料であればよい。なお、凝固後の亜鉛の分析では、側壁部1を着けたまま分析装置に装入しても全く問題はないが、側壁部1の溶融亜鉛と接触する面を、亜鉛が剥離し易いステンレス鋼、銅、グラッシーカーボン、窒化ホウ素のいずれかの材料で作製すれば、側壁部1を外して分析することも可能である。
【0022】
上述したように、底部2の溶融亜鉛と接する面は、ステンレス鋼、銅、グラッシーカーボン、窒化ホウ素のいずれかの材料で作製されるが、底部2全体をこうした材料で作製してもよく、また、底部2の基板を他の材料、例えば軟鋼板で作製し、溶融亜鉛と接する面のみにステンレス鋼、銅、グラッシーカーボン、窒化ホウ素の皮膜をめっき法やPVD法やCVD法でコティングすることも可能である。
【0023】
底部2に備える冷却機構3としては、底部2の溶融亜鉛と接する面を4℃程度まで冷却できるものであればよいが、電子冷却プレートを用いるのがより簡便である。
【実施例】
【0024】
連続溶融亜鉛めっきラインのめっき浴の浴面から約70cmの深さの位置から柄杓で約100gの溶融亜鉛を採取し、図1に示したような直径40mmφ、高さ15mmの円筒状のステンレス鋼製側壁部と下面に備えた電子冷却プレートにより4℃に冷却された平坦なステンレス鋼板とからなる底部とからなる分析用サンプル容器に、容器内部に空気を吹き付けて結露を防止しながら注入し、凝固させた。このとき、凝固させた試料の厚みは約5mmであった。凝固後の試料を側壁部を着けたまま底部から剥離し、露出した試料の剥離面を機械加工することなく、メタノールで洗浄、乾燥後、波長分散型蛍光X線分析装置を用いて試料中のAlを分析した(本発明法)。また、比較として、同じ凝固試料の厚さ方向中央部をミリング切断し、研磨後、あるいは♯100レンジクロスベルトによりベルダー研磨後、メタノールで洗浄、乾燥後、波長分散型蛍光X線分析装置を用いて試料中のAlを分析した(従来の乾式法)。さらに、同じ凝固試料からドリルでチップ状の試料を採取し、塩酸+硝酸で溶解後、ICP発光分析装置を用いて試料中のAlを分析し、めっき浴中のAlの真の含有量を求めた(湿式法)。
【0025】
同様な試験を、8時間おきに5回繰り返して行った。
【0026】
結果を図2に示す。5回の試験とも、本発明法によるAlの分析結果は湿式法によるAlの分析結果とよく一致しており、本発明の分析方法によりめっき浴の組成を正確に分析できることがわかる。一方、凝固試料をミリング切断後研磨したり、ベルダー研磨したりして機械加工を施した後にAlを分析すると、Al量が高く検出されるとともに、バラツキも大きく、正確な分析ができない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側壁部と、前記側壁部から分離可能な平坦な底部とからなり、前記底部には冷却機構が備えられ、かつ少なくとも前記底部の溶融亜鉛と接する面がステンレス鋼、銅、グラッシーカーボン、窒化ホウ素のいずれかよりなる溶融亜鉛の分析用サンプル容器。
【請求項2】
請求項1に記載の溶融亜鉛の分析用サンプル容器に溶融亜鉛を注入し、前記分析用サンプル容器内で前記溶融亜鉛を凝固させた後、前記分析用サンプル容器の底部から剥離し、露出した凝固後の亜鉛の剥離面を機械加工することなく分析する溶融亜鉛の分析方法。
【請求項3】
分析する手段として、蛍光X線分析法、スパーク発光分析法、グロー放電分光法、レーザ発光分析法、レーザICP分析法のいずれかを用いる請求項2に記載の溶融亜鉛の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−175260(P2010−175260A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15033(P2009−15033)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】