説明

溶融亜鉛めっきのやけ防止方法

【課題】 溶融亜鉛めっきのやけの発生を防止することができ、溶融亜鉛めっきの品質を向上させる方法を提供するものである。
【解決手段】 本発明は、溶融亜鉛めっき処理において、被めっき鋼材を溶融亜鉛浴に浸漬する前に、被めっき鋼材表面の結晶粒径を1μm以下に微細化処理した後、これを溶融亜鉛浴に浸漬して溶融亜鉛めっき処理を施すものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっきのやけを防止する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛めっきは、鋼材を430℃〜460℃の溶融亜鉛中に浸漬することにより処理を行い、鋼材表面に形成されるめっき皮膜は、鋼材表面に生成した亜鉛−鉄合金層とその合金層の上に付着する純亜鉛層からなっている。
【0003】
亜鉛−鉄合金層は、溶融亜鉛めっき皮膜の膜厚を大きくして耐食性を向上させることに役立っているが、鋼材の化学成分の影響などにより通常以上に亜鉛−鉄合金層が成長し、皮膜の異常を引き起こす場合がある。例えば、亜鉛−鉄合金層が大きく成長すると鋼材との密着が悪くなり剥離が発生する場合や、鋼材を溶融亜鉛浴から引上げた後に純亜鉛層が合金化されることでめっき皮膜表面の光沢がなくなる、いわゆるやけの現象を引き起こす場合がある。また、亜鉛−鉄合金層が大きく成長すると膜厚増加により亜鉛の消費量が増加する問題もある。
【0004】
やけ発生の原因としては、鋼材の化学成分の影響があり、鋼材中の珪素濃度とりん濃度が合金層の成長速度に大きく影響する。特に、珪素は製鋼時の脱酸素剤として使用されるため、多くの鋼材に含まれており、珪素の含有量がJIS G3106の規定内であっても、亜鉛めっきの反応速度に大きく影響する場合がある。
【0005】
また、他のやけ発生の原因としては、溶融亜鉛浴から引上げられてからの鋼材の温度の影響があり、鋼材の温度が高い状態が続くと合金層の成長が進行し、純亜鉛層が合金化される。例えば、鋼材のサイズ、特に厚みが大きい場合は、熱容量が大きいため、引上げ後長時間鋼材の温度が保たれ、やけが進行する。また、鋼材の長さが長い場合も、溶融亜鉛浴からの引上げに時間がかかるため、水冷までに時間がかかり、鋼材の温度が高い状態が続き、やけが進行する。さらに、溶融亜鉛浴からの鋼材の引上げ速度が遅い場合も、鋼材が長時間空中にさらされることになり、鋼材の温度が高い状態が長き、やけが進行する。
【0006】
後者の原因によるやけ発生を防止するには、溶融亜鉛浴から引上げ後の空冷時間を短くして、早く水冷することで防ぐことができる。また、鋼材を溶融亜鉛浴から引上げる速度を大きくすることによっても、空冷時間が短くなるとともに亜鉛の持ち出し量が増えて表面まで合金化する時間が延び、やけの発生を防ぐことができる。
【0007】
この後者の原因によるやけ発生を防止する方法として、各処理槽が長手方向に直線状に配置されている鋼材の溶融亜鉛めっき装置において、水冷槽をめっき処理槽の長手方向と平行横方向に隣接させて配置することで、めっき処理槽と水冷槽の移動距離を短くする鋼材自動溶融亜鉛めっき装置のめっきやけ防止方法が提案されている(例えば、特許文献1。)。
【0008】
また、溶融亜鉛めっきの品質を向上させることを目的として、溶融亜鉛めっき処理を施す前に鋼材表面に研削、研磨などの処理を施す方法が提案されており、帯鋼の表面にショットプラスト処理を施し、数μ〜数十μの深さの凹凸を形成させた後、溶融亜鉛めっき処理することで、亜鉛めっきの付着量を多くすることが提案されている(例えば、特許文献2。)。また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の分野では、鋼材表面に酸洗脱スケールの際にショットブラスト処理を施し、溶融亜鉛めっき処理を施した後、これを加熱し合金化処理をすることで、合金化速度を著しく向上させる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が提案されている(例えば、特許文献3。)。
【0009】
【特許文献1】特開2001−303227号公報
【特許文献2】特開昭60−75568号公報
【特許文献3】特開平6−158254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、めっき処理槽と水冷槽の移動距離を短くする鋼材自動溶融亜鉛めっき装置のめっきやけ防止方法を用いた場合、鋼材の温度の影響によるやけの発生に対しては効果があるが、鋼材の化学成分の影響によるやけの発生に対しては効果がなかった。
【0011】
また、帯鋼の表面をショットブラスト処理し、数μ〜数十μの深さの凹凸を形成させた後、溶融亜鉛めっき処理する方法では、数μ〜数十μの深さの凹凸を形成して表面積を増すことで亜鉛めっきの付着量が多くなり耐食性は向上するが、鋼材の化学成分の影響によるやけの発生に対しては効果がなかった。
【0012】
さらに、鋼材表面に酸洗脱スケールの際にショットブラスト処理を施し、溶融亜鉛めっき処理を施した後、これを加熱し合金化処理をする方法では、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する上では合金化速度を向上させるのに有効であるが、通常の溶融亜鉛めっきでは、脱スケールを行う程度の研削処理を行っても特異な効果が認められず、鋼材の化学成分の影響によるやけの発生に対しては効果がなかった。
【0013】
本発明は、上記の様な事情に着目してなされたものであって、鋼材の化学成分の影響による溶融亜鉛めっきのやけの発生を防止し、溶融亜鉛めっきの品質を向上させる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、鋼材の化学成分の影響による溶融亜鉛めっきのやけの発生を防止する方法を検討し、次のような知見を得ることができた。
【0015】
溶融亜鉛めっきのやけの原因である亜鉛−鉄合金層の異常成長は、鋼材の結晶粒界に多く偏在する珪素の存在が大きく影響する。溶融亜鉛めっきの亜鉛−鉄合金層は、鋼材の結晶粒界部分で珪素の影響により亜鉛−鉄合金反応が活発となるため、結晶粒界部分で合金層が速く成長し、合金層全体の成長速度が増すことになる。また、結晶粒界が粗いと合金層の厚みが均一にならない。このことから、鋼材表面の結晶粒径を微細化し、結晶粒界の数を多くすることで、各結晶粒界に偏在する珪素の量が少なくなり、亜鉛−鉄合金層全体の成長を比較的遅い速度で進行させることができる。この結果、凹凸の少ない均一な溶融亜鉛めっき皮膜を形成することができ、溶融亜鉛めっき皮膜の異常な成長を抑制することで、やけの発生を防止することができる。
【0016】
本発明は、上記知見事項などを基にして完成されたものであり、溶融亜鉛めっき処理において、被めっき鋼材を溶融亜鉛浴に浸漬する前に、被めっき鋼材表面にワイヤブラッシング処理、ショットブラスト処理、サンドペーパーによる研磨処理のいずれかの方法で表面処理を施して、鋼材表面の結晶粒径を1μm以下に微細化した後、被めっき鋼材を溶融亜鉛浴に浸漬して溶融亜鉛めっき処理を施すことによって、溶融亜鉛めっき皮膜の異常な成長を抑制し、やけの発生を防止できるようにした点に大きな特徴を有している。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鋼材の化学成分の影響による溶融亜鉛めっきのやけの発生を防止し、溶融亜鉛めっきの品質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、被めっき鋼材を溶融亜鉛浴に浸漬する前に、被めっき鋼材表面にワイヤブラッシング処理、ショットブラスト処理、サンドペーパーによる研磨処理のいずれかの方法で表面処理を施して、鋼材表面の結晶粒径を1μm以下に微細化した後、被めっき鋼材を溶融亜鉛浴に浸漬して溶融亜鉛めっき処理を施すことで溶融亜鉛めっきのやけを防止する方法である。
【0019】
表面の結晶粒径を1μm以下に微細化した後の鋼材は、必要により脱脂処理を行った後、酸洗処理を行う。次いで、めっき処理までの錆発生防止や合金化反応を促進するためにフラックス処理を行い、その後、溶融亜鉛浴に浸漬して溶融亜鉛めっき処理を施す。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。試験片は、幅75mm、長さ150mm、厚さ6mm、材質SS400の鋼板を用意した。試験片は溶融亜鉛浴に浸漬する前に、試験片表面をワイヤブラッシング処理、ショットブラスト処理およびサンドペーパーによる研磨で処理をし、試験片表面の結晶粒径を1μm以下になるまで微細化した。また、ワイヤブラッシング処理の後に鋼材表面の凹凸を除去するため冷間圧延を実施した試験片も用意した。試験片表面の微細化処理後、脱脂処理、酸洗処理、フラックス処理を行い、次いで試験片を溶融亜鉛浴に浸漬して、溶融亜鉛めっき処理を施した。なお、溶融亜鉛めっき処理の条件は、溶融亜鉛浴温度440℃、浸漬時間180秒、引き上げ速度1m/minとした。
【0021】
なお、ワイヤブラッシング処理、ワイヤブラッシング処理+冷間圧延、ショットブラスト処理、およびサンドペーパーによる研磨の条件は下記の通りとした。また、比較例として微細化処理を施さない試験片も用意した。
(1)ワイヤブラッシング処理
回転数:2000rpm
試験片の送り速度:50mm/min
ワイヤブラシの押し付け深さ:6mm
(2)ワイヤブラッシング処理+冷間圧延
回転数:2000rpm
試験片の送り速度:50mm/min
ワイヤブラシの押し付け深さ:6mm
圧下率:5%
(3)ショットブラスト処理
鋼球径:800μm
空気圧:0.2MPa
ノズル径:10mm
噴射距離:100mm
噴射角度:90度
(4)サンドペーパー
粗さ:#40番
押し付け強さ:0.027g/mm
【0022】
表面を微細化処理し、溶融亜鉛めっき処理が施された試験片について、表面の結晶粒径とめっき仕上がり外観を調査した。表1に示すように、ワイヤブラッシング処理、ワイヤブラッシング処理+冷間圧延、ショットブラスト処理、サンドペーパーによる研磨を施した試験片の結晶粒径は、透過型電子顕微鏡で観察した結果、1μm以下に微細化していることが確認できた。また、仕上がり外観は、微細化処理を行った試験片では亜鉛めっき表面にやけが発生せず、微細化処理を施していない比較例では、一部にやけの発生が認められた。
【0023】
【表1】

【0024】
また、試験片の断面を走査型電子顕微鏡により観察し、溶融亜鉛めっき皮膜の純亜鉛層および合金層の膜厚を測定した。図1〜図5に走査型電子顕微鏡により倍率350倍で撮影した試験片の亜鉛めっき皮膜断面の様子を示す。図中のAは母材、Bは亜鉛−鉄合金層、Cは純亜鉛層、Dは走査型電子顕微鏡で観察するために試験片を埋め込んだ樹脂を示している。
【0025】
図1に示すワイヤブラッシング処理を施した試験片の亜鉛めっき皮膜断面の様子と、図2に示すワイヤブラッシング処理+冷間圧延を施した試験片の亜鉛めっき皮膜断面の様子と、図4に示すサンドペーパーによる研磨を施した試験片の亜鉛めっき皮膜断面の様子から確認できるように、凹凸の少ない均一な溶融亜鉛めっき皮膜であり、亜鉛−鉄合金層と純亜鉛層の境界が明確で、亜鉛−鉄合金層が表面に現れておらず、表1に示す仕上がり外観の結果においてもやけの発生は確認されなかった。図5に示す比較例の亜鉛めっき皮膜断面の様子では、亜鉛−鉄合金層が一部表面に現れており、この亜鉛−鉄合金層が表面に現れている箇所が外観上やけとなって現れ、表1に示す仕上がり外観の結果においてもやけの発生が確認されている。また、図3に示すショットブラスト処理を施した試験片の亜鉛めっき皮膜断面の様子では、純亜鉛層と亜鉛−鉄合金層の境界が分かりにくくなっているが、亜鉛−鉄合金層が表面に現れておらず、表1に示す仕上がり外観の結果においてもやけの発生は確認されなかった。
【0026】
また、図1〜図5に示す試験片の純亜鉛層および亜鉛−鉄合金層の厚さを測定した結果を表2に示す。純亜鉛層および亜鉛−鉄合金層の厚さは、1つの試験片につき12点測定し、最大値と最小値を除いた10点の値の平均とした。微細化処理を施した試験片の亜鉛−鉄合金層の割合は、微細化処理を施していない試験片と比べて小さくなっており、微細化処理を施すことで亜鉛−鉄合金層全体の成長が遅い速度で進行していることが確認できた。このことから、微細化処理を施すことで、溶融亜鉛めっき皮膜の異常な成長を抑制することができ、やけの発生を防止することができる。
【0027】
【表2】

【0028】
以上に説明したように、本発明によれば、鋼材表面の結晶粒径を1μm以下に微細化することで、凹凸の少ない均一な溶融亜鉛めっき皮膜を形成することができ、溶融亜鉛めっき皮膜の異常な成長を抑制することで、やけの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】 ワイヤブラッシング処理を施した試験片の亜鉛めっき皮膜断面の走査型電子顕微鏡写真
【図2】 ワイヤブラッシング処理+冷間圧延を施した試験片の亜鉛めっき皮膜断面の走査型電子顕微鏡写真
【図3】 ショットブラスト処理を施した試験片の亜鉛めっき皮膜断面の走査型電子顕微鏡写真
【図4】 サンドペーパーによる研磨を施した試験片の亜鉛めっき皮膜断面の走査型電子顕微鏡写真
【図5】 微細化処理を施していない試験片の亜鉛めっき皮膜断面の走査型電子顕微鏡写真
【符号の説明】
【0030】
A 母材
B 亜鉛−鉄合金層
C 純亜鉛層
D 走査型電子顕微鏡で観察するために試験片を埋め込んだ樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融亜鉛めっき処理において、被めっき鋼材を溶融亜鉛浴に浸漬する前に、被めっき鋼材表面にワイヤブラッシング処理、ショットブラスト処理、サンドペーパーによる研磨処理のいずれかの方法で表面処理を施して、鋼材表面の結晶粒径を1μm以下に微細化した後、被めっき鋼材を溶融亜鉛浴に浸漬して溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする溶融亜鉛めっきのやけ防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−297625(P2008−297625A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168149(P2007−168149)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(592233174)株式会社デンロコーポレーション (22)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】