説明

溶融亜鉛めっきナット

【課題】 溶融亜鉛めっきでボルトのねじについた余分なめっきを、ねじ山の形にする修正方法を得て、めっきのためのオーバサイズを小さくすること。その修正方法を適用した溶融亜鉛めっきボルトを得ること。修正方法は、めっきに要求される耐食性を落とさない方法であること。
【解決手段】 溶融亜鉛めっきしたナットのねじの余分なめっきを、塑性変形でねじ山の形を整える。工具は、めねじを塑性変形で形成するタップ又はボルトである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボルト・ナットに属す。表面処理は、溶融亜鉛又は溶融亜鉛合金めっきに属す。
【背景技術】
【非特許文献1】JEM 1433:1988溶融亜鉛めっきメートルねじ
【非特許文献2】JEM 1434:1988溶融亜鉛めっき六角ボルト及び六角ナット
【0002】
溶融亜鉛めっき(以下、溶融亜鉛めっき、溶融亜鉛−アルミニウム系合金など溶融金属めっきの総称として溶融亜鉛めっきを使う)したボルトに、溶融亜鉛めっきしたナットを組合せて使う場合、おねじとめねじの間に、めっき代分の隙間を予め設けておき、めっきする必要がある。この隙間は、ボルトのねじを基準より小さくしたり(アンダサイズ)、ナットのねじを大きくしたり(オーバサイズ)して作る。しかしここでは、一般的に行なわれている、ボルトのねじは基準通り(めっきをしないで使う標準ボルト)で、ナットのねじをオーバサイズにした例で以下説明をする。
【0003】
ナットのめねじのオーバサイズについて、上記の非特許文献の規格と規格外の例を表1の二重線の上側に示す。この表のオーバサイズ量がおねじとめねじの両方のめっき代になる。表1の二重線と三重線の間に加工公差を示す。加工公差は、おねじはマイナス側に、めねじはプラス側にとるので、ボルトとナットのねじが公差の限界になった場合は、表のおねじとめねじの加工公差の和がめっき代として、オーバサイズ量に追加して利用できる。しかし実際には、ボルトとナットが同時に公差の限界にはならないので、和の1/4〜1/2位しか追加利用はできない。
【0004】
【表1】

【0005】
溶融亜鉛めっきのねじ面に直角方向の厚さは、規格で0.05mmである。この値を直径方向のめっき代に換算(ねじの頂角が60度なので半径方向に換算し2倍(1/sin30=2)、直径にするために2倍、おねじとめねじの両方で2倍、合計8倍)すると0.4mmになる。この値を基準に表1のオーバサイズ量を検証すると、JEM 1433及び流通品は、M10はオーバサイズ量が0.4mmで余裕がないが、M10以外はめっき厚さの規格値を超える分やねじ底のめっき溜まりなどのための余裕がある。M10に余裕がないのは、ねじ山の高さが小さいからである。
【0006】
数値は上述のようであるが、実際には、規格に準拠したものは無いといってよい状態で、表1の流通品しか手に入らない。その理由は、規格のオーバサイズ量ではボルトとナットが上手く嵌らないものが多量にでるからである。その一方で、めっきが均一な厚さで溜まりが少ないものは、ボルトとナットのねじの隙間が大き過ぎて“ガタガタ”になり、これで大丈夫かと心配になる状態である。このようになっているのは、余分についためっきをねじ切りのタップで浚うと亜鉛めっきを削ってしまうからである。
【0007】
ナットの内径(下穴径)は、オーバサイズに応じて大きくなるが、JEM 1433規格のひっかかり率は52〜62%位であり、めっきしない通常のものの80%以上と比べ小さい。結果として、強度不足になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
溶融亜鉛めっきでナットのねじについた余分なめっきを、ねじ山の形にする修正方法を得て、めっきのためのオーバサイズを小さくすること。その修正方法を適用して溶融亜鉛めっきナットを得ること。修正方法は、めっきに要求される耐食性を落とさない方法であること。
【課題を解決するための手段】
【0009】
溶融亜鉛めっきしたナットのねじの余分なめっきを、塑性変形でねじ山の形を整える。工具は、めねじを塑性変形で形成するタップ又はボルト(以下、これらを総称してタップという)である。
【発明の効果】
【0010】
ねじの形が整えられ、めっき代が小さくできるので、ひっかっかり率を上げた設計ができる。その結果、強度が上がり、溶融亜鉛めっきナットの用途拡大ができる。
【0011】
溶融亜鉛めっきしたボルトのねじの余分なめっきを、転造してねじ山の形に整えたボルトと本発明のナットを組合せた場合は、めっき代が最小にできる。そのために、オーバサイズが小さくでき、めっきしないボルト・ナットと同等の強度を有する溶融亜鉛めっきボルト・ナット、M8以下の溶融亜鉛めっきボルト・ナットなどの可能性が開ける。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
ナットに溶融亜鉛めっきし、必要あれば遠心分離機にかけたものに、タップをねじ込んで、めっきの厚い部分や溜まりの部分のねじ山を整形する。タップのオーバサイズ量は、相手のおねじより大きく、整形した山の当りが、めっきの厚い部分や溜まりの部分は山の高さ方向のほぼ全面、その他の部分はねじ山の高さの1/3位まで着くのがよい。最後に、抜き取りで耐食性試験をする。
【実施例】
【0013】
M10〜M36のナットについて、表1の流通品(表のオーバサイズで公差6H)各50個を溶融亜鉛メッキし遠心分離機にかけた。このナットに表1の最下行に示すオーバサイズ(公差0.02mm)のタップを通しねじ山の形を整えた。使用したタップの山頂にはほんの少し亜鉛の粉がついたが、ナットのねじ面はめっきが剥離した形跡は無かった。表1の流通品とタップのオーバサイズの差がめっき代(表の下から2行目)になるが、M16以上は、タップの当りがM12以下より少な目で、めっき代を表の値より小さくしても良さそうに感じられた。
【0014】
各呼び径について、めっきのままの物と上記ねじ山を整えた物各10個を塩水噴霧試験した。その結果、両者に有意な差はなかった。
【0015】
ナットは、表1のタップのオーバサイズより0.05mmオーバサイズを小さくしたおねじに嵌めて、動きを調べた。回転に違和感は無く、使えると判断した。0.05mmの隙間は公差のgに近く、最小g程度の隙間があれば動きに問題の無いことが判明した。このことから、JEM 1433のオーバサイズにめねじを切ってもタップを通せば、M16以上は溶融亜鉛めっきをしたボルトに使える、M12以下はボルトのねじも転造をして形を整えれば使えると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
ボルト及びナットのねじ山の形を整えるためのコストアップと、めっきしないボルト・ナットと同じ強度が得られることとの兼ね合いで、利用範囲が決まってくる。最近の材料高騰から、ステンレスボルト・ナットの変わりに使われる可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融亜鉛めっきしたナットのねじの余分なめっきを、塑性変形で形成するタップ又はボルトを用いて、ねじ山の形を整えることを特徴とするねじ山の修正方法。
【請求項2】
請求項1に記載した方法で製造したことを特徴とするナット。

【公開番号】特開2010−592(P2010−592A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184286(P2008−184286)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(591006520)株式会社興和工業所 (34)
【Fターム(参考)】