説明

溶融亜鉛めっき浴中のドロスの除去方法および装置

【目的】 鋼板に対し、溶融亜鉛めっき処理を施すに際し、亜鉛めっき浴中に生成したドロスを、操業を中止することなく効率的に除去し、これによって、表面外観の優れた溶融金属めっき鋼板を製造する。
【構成】 ポット1内の亜鉛めっき浴を、その上方から垂直に挿入された吸上げ管13によって吸い上げ、吸い上げられためっき浴を、外槽19と内槽20とからなる、複数枚の邪魔板9を有するドロス除去槽18に送給し、めっき浴中のドロスをドロス除去槽18の内槽20内に沈降させ、そして、ドロスの除去されためっき浴をドロス除去槽18の上部から抜き出し、ポット1内に返送する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、溶融亜鉛めっき設備によって、鋼板に対し溶融亜鉛めっき処理を施す際に、ポット内の溶融亜鉛めっき浴中に生成したドロスを、操業を中止することなく、効率的に除去するための方法および装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】溶融亜鉛めっき設備によって、鋼板に対し連続的に溶融亜鉛めっき処理を施すに際し、ポット内の溶融亜鉛めっき浴中には、鋼板から溶出した鉄分と、溶融亜鉛めっき浴中の亜鉛とが反応して、鉄−亜鉛合金が生成する。生成した鉄−亜鉛合金は、めっき浴中を浮遊しそして時間の経過と共にポット内の底部に堆積してボトムドロスとなる。このようなボトムドロスの堆積量が増加すると、ポット内のめっき浴中を通る鋼板によって生ずるめっき浴の流れにボトムドロスが巻き込まれて、めっき浴中を通る鋼板の表面上に付着する。その結果、製造された溶融亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっき層の表面上にドロスの付着による欠陥が発生し、製品の外観を損なう問題が生ずる。
【0003】上述したボトムドロスの堆積を防止する手段として、溶融亜鉛めっき浴中にアルミニウムを添加し、ボトムドロスとアルミニウムとの下記置換反応によって、その比重が亜鉛よりも低い鉄−アルミニウム金属間化合物を生成させ、そして、これをめっき浴の表面上に浮上させて除去する方法が知られている。
2FeZn7+5Al →Fe2Al5+14Zn
【0004】しかしながら、上述した方法には、次のような問題がある。即ち、めっき浴中に添加されたアルミニウムに、鉄−亜鉛合金化反応を抑制する作用があるために、近年需要が増大している鉄−亜鉛合金溶融めっき鋼板の製造時に、添加したアルミニウムによって合金化反応が阻害される結果、合金化処理時間が長くなって生産性が低下し、且つ、均一な鉄−亜鉛合金めっき層が得られなくなる。
【0005】上述した問題を解決し、生成したボトムドロスを、ポット外に排出しそして除去するための手段として、特開平3−267357号公報には、下記からなる方法および装置が開示されている。即ち、ポット内の溶融亜鉛めっき浴を、ポンプによってポット底部から抜き出し、抜き出しためっき浴を、ポットの上方に設けられた、複数枚の邪魔板を有するドロス除去槽に送給し、めっき浴中のボトムドロスを、ドロス除去槽内に沈降させ、そして、ドロス除去槽の上部から、ドロスを含まない溶融亜鉛めっき浴を抜き出し、ポット内に返送する(以下、先行技術という)。
【0006】図7は、先行技術の方法を実施するための装置の概略垂直断面図である。図7に示すように、その中にスナウト3およびシンクロール2によって鋼板Sを連続的に導き入れて、鋼板Sに連続的に溶融亜鉛めっきを施すための、溶融亜鉛めっき浴8が収容されたポット1の底部には、ポット1からめっき浴8を抜き出すための、その途中にポンプ5が設けられた導管4が接続されている。ポット1の底部12は、その中央部に向って谷状に傾斜しており、導管4は、谷状のポット底部12の最下部に取り付けられている。
【0007】ポット1の上方には、ポット1の底部から導管4を通って抜き出された溶融亜鉛めっき浴中よりドロスを分離しそして除去するためのドロス除去槽6が設けられている。ドロス除去槽6の一側端上部にはめっき浴流入口10が設けられ、そして、その他端側上部にはめっき浴排出口11が設けられている。めっき浴流入口10には、導管4の他端が接続され、めっき浴排出口11には、ドロス除去槽6によってドロスが除去されためっき浴をポット1内に返送するための返送管7が接続されている。
【0008】ドロス除去槽6内には、流入口10を通って送給された溶融亜鉛めっき浴中からドロスを分離し沈降させるための、複数枚の邪魔板9a,9b が設けられている。邪魔板9aは、除去槽6の底部に上方に向けて所定間隔で立設されており、そして、邪魔板9bは、除去槽6の頂部に下方に向けて所定間隔で垂設され、その下端部が邪魔板9aの上端部間に入り込むようになっている。
【0009】ポット1内で生成したボトムドロスを含むめっき浴は、ポット1の底部から導管4を通って抜き出され、ドロス除去槽6内に送給される。ドロス除去槽6内に送給されためっき浴は、複数枚の邪魔板9a,9b 間を矢印に示すように通り、排出口11に向って流れ、その間に、めっき浴中のドロスは、除去槽6の底部に沈降する。このようにして、ドロスが除去されためっき浴は、排出口11から返送管7を通ってポット1内に返送される。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】上述した先行技術には、次のような問題がある。
■) 現状の一般的な設備においては、ポット1と、導管4によってポット1に接続された、ポット1の上方のドロス除去槽6との間の配管長が長く、それに伴い圧力損失が大になるため、必要なポンプ揚程が大きくなる。その結果、導管4に設けられたポンプ5の回転数を高めて、導管4およびドロス除去槽6を流れるめっき浴の流速を早めなければならない。このようにめっき浴の流速を早めると、ドロス除去槽6におけるドロスの沈降が不十分になり、しかも、その間に生成した鉄−亜鉛合金が再反応して、再びドロスが生成する。
【0011】■ 上述した問題を解決するためには、ドロス除去槽6内に設けられた邪魔板9a,9b の枚数を多くして、めっき浴の流速を遅らせればよいが、このように邪魔板9a,9b の枚数を増やすと、ドロス除去槽6が大型になる問題が生ずる。
【0012】■ 先行技術の装置においては、ポット1内の溶融亜鉛めっき浴を、ポット1の底部から抜き出すようになっているので、既存の設備を、先行技術の装置のように改造するための改造工事が極めて複雑になり、長い工期と多額の設備費を必要とし、特に2基のポットからなるタンデムポットの場合には改造が困難である。また、改造した場合でも、作業性(運転性)および保全性等の信頼性が乏しい。従って、先行技術の装置は、実操業上多くの問題を有しており、その適用が困難である。
【0013】このように、従来、ポット内からドロスを連続的に除去するための有効な手段がなく、従って、現状においては、定期的に操業を中止し、ポット内からドロスを汲み上げて除去している。
【0014】従って、この発明の目的は、上述した問題を解決し、鋼板に対し、溶融亜鉛めっき処理を施すに際し、溶融亜鉛めっき浴中に生成したドロスを、操業を中止することなく効率的に除去し、これによって、表面外観の優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる、溶融亜鉛めっき浴中のドロスの除去方法および装置を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】この発明の方法は、ポット内の溶融亜鉛めっき浴を、その上方から実質的に垂直に前記めっき浴中に挿入された吸上げ管によって、前記ポット内から吸い上げ、吸い上げられためっき浴を、内槽と外槽とからなる、複数枚の邪魔板を有するドロス除去槽に送給し、前記めっき浴中のドロスを、前記ドロス除去槽の前記内槽内に沈降させ、そして、前記ドロス除去槽の上部から、ドロスが除去された溶融亜鉛めっき浴を抜き出し、前記ポット内に返送することに特徴を有するものである。
【0016】また、この発明の装置は、溶融亜鉛めっき浴が収容されたポット内に、その上方から実質的に垂直に挿入された、前記ポット内の前記めっき浴を吸い上げるための吸上げ管と、前記吸上げ管によって前記ポット内から吸い上げられた前記めっき浴が、前記吸上げ管に取り付けられた導管を通って送給されるドロス除去槽と、前記ドロス除去槽によってドロスが除去された前記めっき浴を、前記ポット内に返送するための返送管とからなっており、前記ドロス除去槽は、外槽と内槽とからなっており、前記導管は、前記外槽の一側端上部に設けられためっき浴流入口に接続され、そして、前記返送管は、前記外槽の他端側上部に設けられためっき浴排出口に接続されており、前記ドロス除去槽の前記内槽の底部には、複数枚の第1邪魔板が上方に向けて所定間隔で立設されており、そして、前記ドロス除去槽の前記外層の頂部には、複数枚の第2邪魔板が下方に向けて所定間隔で垂設され、その下端部が前記第1邪魔板の上端部間に入り込むようになっており、そして、前記返送管の途中には、流量調整弁が設けられていることに特徴を有するものである。
【0017】
【作用】この発明によれば、ポット内のめっき浴中にその上方から挿入された吸上げ管により、ドロスを含むめっき浴が吸い上げられドロス除去槽内に送給されるようになっているので、先行技術の装置に比べドロス除去槽の揚程を低くすることができる。従って、ドロス除去槽内におけるめっき浴の流速を遅くなし、これによって、めっき浴中のドロスを、小型の設備で、操業を中止することなく確実に除去することができる。
【0018】図1は、この発明の装置の第1実施態様を示す概略垂直断面図である。図1に示すように、その中にスナウト3およびシンクロール2によって鋼ストリップSを連続的に導き入れて、鋼板Sに連続的に溶融亜鉛めっきを施すための、溶融亜鉛めっき浴8が収容されたポット1には、ポット1内からめっき浴8を吸い上げるための吸上げ管13が、ポット1の上方からめっき浴8中に実質的に垂直に挿入されている。
【0019】吸上げ管13には、モータ15とモータ15によって回転する翼16とからなるポンプ14が設けられており、吸上げ管13は、その下端の吸込み口13a がポット1内におけるめっき浴8の中間部に位置するように、めっき浴8中に挿入されている。ポンプ14によって吸い上げられためっき浴8は、吸上げ管13に取り付けられた導管17を通って、ポット1の上方に低い揚程で配置されたドロス除去槽18に導かれる。
【0020】ドロス除去槽18は、外槽19と内槽20とからなっており、外槽19の一側端上部にはめっき浴流入口10が設けられ、外槽19の他端側上部にはめっき浴排出口11が設けられている。めっき浴流入口10には、導管17の他端が接続され、めっき浴排出口11には、ドロスが除去されためっき浴をポット1内に返送するための返送管21が接続されている。返送管21の途中には、流量調整弁22が設けられている。
【0021】ドロス除去槽18内には、流入口10を通って流入しためっき浴中からドロスを分離し沈降させるための、複数枚の第1邪魔板9aおよび第2邪魔板9bが、ドロス除去槽18の幅方向に設けられている。第1邪魔板9aは、内槽20の底部に上方に向けて所定間隔で立設されており、そして、第2邪魔板9bは、外槽19の頂部に下方に向けて所定間隔で垂設され、その下端部が邪魔板9aの上端部間に入り込むようになっている。
【0022】導管17、ドロス除去槽18の外槽19、および、返送管21の各々の外周は、その中を通る溶融亜鉛めっき浴の凝固を防止するために、保温材の中に埋め込まれたヒータ23によって覆われており、ヒータ23により所定温度に保持されるように制御されている。
【0023】ポット1内で生成したボトムドロスを含むめっき浴は、その上方から実質的に垂直にめっき浴中に挿入された吸上げ管13によって吸い上げられ、そして、吸上げ管13に取り付けられた導管17を通ってドロス除去槽18に送給される。ドロス除去槽18内に送給されためっき浴は、複数枚の第1邪魔板9aおよび第2邪魔板9b間を、矢印に示すように通り、排出口11に向って流れ、その間に、めっき浴中のドロスは、ドロス除去槽18の内槽20内に沈降する。このようにしてドロスが除去されためっき浴は、排出口11から返送管21を通ってポット1内に返送される。ドロス除去槽18の内槽20は、定期的に外槽19から取り外し、内槽20内に沈降したドロスを除去する。
【0024】ポット1の上方に配置されたドロス除去槽18の、ポット1内のめっき浴上面からの高さ即ちポンプ揚程を1.2m以下に低くし、ポンプ14の吐出流量を50l/min 以下とすることによって、ドロス除去槽18内を流れるめっき浴の流速を、6.7mm/秒以下に保持することが好ましい。このようにポンプ揚程およびポンプの吐出流量を低くして、ドロス除去槽18内を流れるめっき浴の流速を遅くすることにより、ドロス除去槽18内において、めっき浴中のドロスを、少ない枚数の邪魔板9aおよび9bにより、除去槽6の底部に確実に沈降させることができる。
【0025】上述のようにしてドロスが除去されためっき浴は、ドロス除去槽18に設けられた排出口11から返送管21を通ってポット1内に返送される。このとき、返送管21の、排出口11に接続されている水平部21a は、 1.8°以内の角度で下方に向けて傾斜させておくことが好ましい。返送管21における水平部21a を上述した角度で傾斜させ、そして、返送管21の途中に設けられた流量調整弁22によって返送管21を通るめっき浴の流量を制御することにより、ドロスが除去されためっき浴がポット1内に戻されるときに、浴面からの空気の混入によって、酸化ドロス(2ZnO)が生成することが抑制される。
【0026】この発明によれば、ポット1内の溶融亜鉛めっき浴中に生成した浮遊ドロスは、めっき浴と共にポット1内にその上方から実質的に垂直に挿入された吸上げ管13および導管17を通ってドロス除去槽18に送給される。また、ポット1の底部に堆積したボトムドロスは、ポット1内に設けられたシンクロール2の回転、および、ポット1内をシンクロール2に掛け回されて移動する鋼板Sによりめっき浴が攪拌される結果、浮遊ドロスになる。従って、これを、吸上げ管13によって吸い上げ、導管17を通ってドロス除去槽18に送給し、上述したように除去することができる。
【0027】ポットがタンデムに2基設けられている場合において、操業休止中のポット内の溶融亜鉛めっき浴中からドロスを除去する場合には、図2に示すように、モータ25によって回転する攪拌翼26を有する攪拌器24を、ポット1内のめっき浴8中に挿入し、攪拌器24によってめっき浴8を攪拌して、ポット1の内底部に沈降したドロスをめっき浴中に浮遊させながら、吸上げ管13および導管17によって、ドロスをめっき浴と共にドロス除去槽18に送給するようにすればよい。
【0028】吸上げ管13の下端の吸込み口13a はポット1内のめっき浴の中間部に位置しているが、図3に示すように、吸上げ管13の吸込み口13a に、その下端開口がポット1の内底面に近接するような補助管27を着脱可能に取り付けてもよい。このように補助管27を取り付ければ、ポット1内の内底部に堆積したボトムドロスaを、補助管27および吸上げ管13を通って直接吸い上げることができる。
【0029】図4に示すように、吸上げ管13を、その下端の吸込み口13a がポット1内におけるめっき浴8の中間部に位置するようにめっき浴8中に挿入された、短い長さの第1吸上げ管13A と、その下端の吸込み口13a がポット1の内底面に近接するようにめっき浴8中に挿入された、長い長さの第2吸上げ管13B とによって構成し、第1吸上げ管13A および第2吸上げ管13B を、ドロス除去槽18に至る導管17に接続し、そして、導管17の途中に、第1吸上げ管13A と第2吸上げ管13B との切換え弁28を設けるようにしてもよい。
【0030】吸上げ管13を、上述したように第1吸上げ管13A および第2吸上げ管13B によって構成すれば、切換え弁28によって、第1吸上げ管13A から浮遊ドロスを含むめっき浴を吸い上げ、または、第2吸上げ管13B からボトムドロスaを含むめっき浴を吸い上げ、これらを導管17を通して、ドロス除去槽18に送り込むことができる。従って、浮遊ドロスおよびボトムドロスを共に除去することができる。
【0031】図5は、この発明の装置の第2実施態様を示す概略垂直断面図である。図5に示すように第2実施態様の装置においては、吸上げ管13およびドロス除去槽18が、導管17および返送管21と共に、1つの移動台29に一体的に配設されており、移動台29は、昇降・移動機構30によって、昇降且つ水平移動可能になっている点のみが、第1実施態様の装置と相違する。
【0032】昇降・移動機構30は、床上を車輪32によって水平移動可能な台車31と、移動台29の一端に取り付けられた垂直な支持材33が嵌挿されその昇降を案内するための、台車31上に立設された案内部材34と、支持材33を案内部材34をガイドとして昇降させるための、台車31上に設けられた油圧シリンダ35とからなっている。油圧シリンダ35の基部は台車31上に軸着されており、そして、そのロッド35a の上端は、支持材33の上部に金具36を介して軸着されている。
【0033】第2実施態様の装置によれば、上述したように、吸上げ管13およびドロス除去槽18が、導管17および返送管21と共に、1つの移動台29に一体的に配設されているので、昇降・移動機構30の台車31を適宜の駆動機構によって移動させることにより、吸上げ管13は、導管17と共にポット1内のめっき浴8中を水平移動する。また、昇降・移動機構30の油圧シリンダ35を駆動することによって、吸上げ管13は、導管17と共にポット1内のめっき浴8中を昇降する。従って、吸上げ管13を導管17と共に、ポット1内のめっき浴8中の任意の深さおよび場所に位置させることができる。
【0034】従って、ポット1内のめっき浴8中に存在する浮遊ドロスをめっき浴と共に吸い上げ、また、ポット1の内底部に堆積したボトムドロスaを、その堆積状況に応じた適切な位置においてめっき浴と共に吸い上げ、これらを導管17を通ってドロス除去槽18に送給し、ドロス除去槽18においてドロスを除去することができる。
【0035】図6は、この発明の装置の第3実施態様を示す概略垂直断面図である。図6に示すように第3実施態様の装置においては、外槽19と内槽20とからなるドロス除去槽18は、ポット1の一方の側壁の上部にその一端が固定された支持台37によって支持されており、これによって、ドロス除去槽18は、導管17および返送管21と共にポット1内のめっき浴8中に浸漬される結果、ドロス除去槽18の外槽19、導管17および返送管21にヒータを設ける必要のない点のみが、第1実施態様の装置と相違する。
【0036】第3実施態様の装置によれば、上述したように、ドロス除去槽18が導管17および返送管21と共にポット1内のめっき浴8中に浸漬されているので、ドロス除去槽18、導管17および返送管21は、高温のめっき浴8によって加熱され且つ保温されている。従って、第1実施態様の装置のように、ドロス除去槽18、導管17および返送管21をヒータによって加熱することなく、その中を通るめっき浴の凝固を防止することができる。なお、図示はしないが、図2に示したような、モータ25によって回転する攪拌翼26を有する攪拌器24を、ポット1内のめっき浴8中に挿入し、攪拌器24によりめっき浴8を攪拌して、ボトムドロスを浮上させながら、吸上げ管13および導管17によって、めっき浴8をドロス除去槽18に送り込むようにしてもよい。
【0037】
【実施例】次に、この発明を、実施例により説明する。図1に示した第1実施態様の装置を使用し、ポット1内において、鋼板Sに溶融亜鉛めっき処理を施す際に、ポット1内の溶融亜鉛めっき浴8中に生成したドロスを除去した。下記にその条件を示す。
【0038】(1) ポットの大きさ :幅4.6m×長さ3.4m×高さ1.9m(2) ポット内のめっき浴温度:460 ℃(3) ポンプの仕様■ 口径 : 40A■ 揚程 : 2m■ 容量 : 50〜200 Kgf/min■ 駆動機構:エアーモータ■ 空気圧力: 3.0〜5.0 Kgf/cm2■ 回転数 : 860〜880 mpm
【0039】(4) ドロス除去槽の大きさ■ 外槽:820mm ×500mm ×500mm■ 内槽:630mm ×485mm ×200mm ×400mm■ 区画:4区画
【0040】(5) 導管の寸法 :40A ×1700mm(6) 返送管の寸法:40A ×1200mm(7) 吸上げ管下端の吸込み口の位置:めっき浴の浴面から450mm 下方の位置
【0041】
(8) 全揚程 : 1.2m(9) めっき浴の最大流量 : 50 l/min(10)めっき浴の実流量 : 40 l/min(11)ドロス除去槽内のめっき浴流速:5.0mm/秒
【0042】上述した条件によって操業を行った結果、ポット内の溶融亜鉛めっき浴中に生成したドロスを、操業を中止することなく確実に除去することができ、これによって、亜鉛めっき層にドロスの付着による欠陥が生ずることのない、表面外観の優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができた。
【0043】
【発明の効果】この発明によれば、下記のような効果がもたらされる。
(1) ポット内のめっき浴中にその上方から挿入された吸上げ管により、ドロスを含むめっき浴が吸い上げられドロス除去槽内に送給されるようになっているので、先行技術の装置に比べドロス除去槽の揚程を低くすることができる。このようにドロス除去槽の揚程を低くなし得たこと、および、返送管の勾配を 1.8°以内とし且つ返送管の途中に流量調整弁を設けて、その流量を調整したことにより、ドロス除去槽内におけるめっき浴の流速を低くすることができる。従って、ドロス除去槽において、鉄−亜鉛合金が再反応することなく、適確にドロスが除去され、且つ、ドロス除去槽の中に設けられている邪魔板の枚数は少なくて済み、ドロス除去槽を小型化することができる。
【0044】(2) 第2実施態様の装置のように、吸上げ管およびドロス除去槽を、導管および返送管と共に、1つの移動台に一体的に配設し、昇降・移動機構によって、吸上げ管を導管と共に、ポット内のめっき浴中の任意の深さおよび場所に位置させることにより、ポット内のめっき浴中に存在する浮遊ドロス、または、ポットの内底部に堆積したボトムドロスを、それぞれ適切な位置においてめっき浴と共に吸い上げ、これをドロス除去槽に送り込み、めっき浴中のドロスを除去することができる。
【0045】(3) 第3実施態様の装置のように、ドロス除去槽を、導管および返送管と共にポット内のめっき浴中に浸漬したことにより、ドロス除去槽、導管および返送管を、めっき浴の熱によって、ヒータを必要とせずに加熱することができ、これによって、ドロス除去槽、導管および返送管を通るめっき浴の凝固を防止することができる。
【0046】以上述べたように、この発明によれば、鋼板に対し溶融亜鉛めっき処理を施すに際し、溶融亜鉛めっき浴中に晶析したドロスを、小型の設備により、操業を中止することなく経済的且つ効率的に除去し、これによって、表面外観の優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる、工業上有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の装置の第1実施態様を示す概略垂直断面図である。
【図2】第1実施態様の装置において、操業休止中のポット内の溶融亜鉛めっき浴中からドロスを除去する場合を示す概略垂直断面図である。
【図3】第1実施態様の装置において、吸上げ管の下端に補助管が取り付けられた場合を示す概略垂直断面図である。
【図4】第1実施態様の装置において、吸込み口がポット内のめっき浴の中間部に位置する第1吸上げ管と、吸込み口がポットの内底面に近接するように位置する第2吸上げ管とによって、吸上げ管が構成されている場合を示す概略垂直断面図である。
【図5】この発明の装置の第2実施態様を示す概略垂直断面図である。
【図6】この発明の装置の第3実施態様を示す概略垂直断面図である。
【図7】先行技術の装置を示す概略垂直断面図である。
【符号の説明】
1 ポット、
2 シンクロール、
3 スナウト、
4 導管、
5 ポンプ、
6 ドロス除去槽、
7 返送管、
8 溶融亜鉛めっき浴、
9a 第1邪魔板、
9b 第2邪魔板、
10 流入口、
11 排出口、
12 底部、
13 吸上げ管、
13a 吸込み口、
13A 第1吸上げ管、
13B 第2吸上げ管、
14 ポンプ、
15 モータ、
16 翼、
17 導管、
18 ドロス除去槽、
19 外槽、
20 内槽、
21 返送管、
22 流量調整弁、
23 ヒータ、
24 攪拌器、
25 モータ、
26 攪拌翼、
27 補助管、
28 切換え弁、
29 移動台、
30 昇降・移動機構、
31 台車、
32 車輪、
33 支持材、
34 案内部材、
35 油圧シリンダ、
36 金具、
37 支持台。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポット内の溶融亜鉛めっき浴を、その上方から実質的に垂直に前記めっき浴中に挿入された吸上げ管によって、前記ポット内から吸い上げ、吸い上げられためっき浴を、内槽と外槽とからなる、複数枚の邪魔板を有するドロス除去槽に送給し、前記めっき浴中のドロスを、前記ドロス除去槽の前記内槽内に沈降させ、そして、前記ドロス除去槽の上部から、ドロスが除去された溶融亜鉛めっき浴を抜き出し、前記ポット内に返送することを特徴とする、溶融亜鉛めっき浴中のドロスの除去方法。
【請求項2】 溶融亜鉛めっき浴が収容されたポット内に、その上方から実質的に垂直に挿入された、前記ポット内の前記めっき浴を吸い上げるための吸上げ管と、前記吸上げ管によって前記ポット内から吸い上げられた前記めっき浴が、前記吸上げ管に取り付けられた導管を通って送給されるドロス除去槽と、前記ドロス除去槽によってドロスが除去された前記めっき浴を、前記ポット内に返送するための返送管とからなっており、前記ドロス除去槽は、外槽と内槽とからなっており、前記導管は、前記外槽の一側端上部に設けられためっき浴流入口に接続され、そして、前記返送管は、前記外槽の他端側上部に設けられためっき浴排出口に接続されており、前記ドロス除去槽の前記内槽の底部には、複数枚の第1邪魔板が上方に向けて所定間隔で立設されており、そして、前記ドロス除去槽の前記外層の頂部には、複数枚の第2邪魔板が下方に向けて所定間隔で垂設され、その下端部が前記第1邪魔板の上端部間に入り込むようになっており、そして、前記返送管の途中には、流量調整弁が設けられていることを特徴とする、溶融亜鉛めっき浴中のドロスの除去装置。
【請求項3】 前記吸上げ管および前記ドロス除去槽が、前記導管および前記返送管と共に、1つの移動台に一体的に配設されており、前記移動台は、昇降・移動機構によって昇降且つ水平移動可能になっている、請求項2に記載の装置。
【請求項4】 前記ドロス除去槽が、前記導管および前記返送管と共に前記ポット内のめっき浴中に浸漬されている、請求項2に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開平6−248405
【公開日】平成6年(1994)9月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−62627
【出願日】平成5年(1993)2月26日
【出願人】(000004123)日本鋼管株式会社 (1,044)