説明

溶融亜鉛めっき浴内の堆積物高さ測定方法及び堆積物高さ測定装置

【課題】簡単な構成でボトムドロスの堆積量を測定する。
【解決手段】堆積物高さ測定装置は、めっき浴内に電流を印加する電流印加用電極11,12と、その印加された電流によって発生する電圧を測定する電圧測定用電極21,22とを備え、電圧測定用電極21,22間で測定される電圧値に基づいて、めっき浴内に沈殿する堆積物の堆積高さを推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続亜鉛めっき法による溶融亜鉛めっき鋼板製造中に発生する不純物の堆積高さを測定する方法と装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から行われている連続亜鉛めっき法による溶融亜鉛めっき鋼板の製造は、鋼板をめっき浴に浸潰して、めっき浴中を通過させることで行っている。
図10は、従来の製造方法の概略図を示す。
図10に示すように、従来の製造方法では、鋼板100がスナウト101を介して溶融亜鉛で満たされているめっき浴槽102に送給され、めっき浴槽102内に設置されたシンクロール103を周回して通板され、めっき浴槽102内を上昇する。そして、鋼板100は、浴中サポートロール104を経て、めっき浴槽102外に出て行く。
【0003】
このような製造工程において、めっき浴槽102では、鋼板100から溶出したFeがAl、Znと合金化することで、FeZn7を成分に含むドロスが発生する。ドロスの成分中、FeZn7は主にめっき浴槽102の底部にボトムドロス200として堆積し、Fe2Al5等は、めっき浴表面に浮上しトップドロス201となる。
ボトムドロス200は、シンクロール103等の回転による浴内の流動によりその一部が巻き上げられて、めっき浴槽102中に浮遊するようになる。網を使う等してトップドロス201を汲み出す除去が可能であるが、めっき浴槽102中を浮遊するドロスを取り除くことは難しく、そのため、めっき浴槽102中を浮遊するドロスがめっき浴槽102中を通過する鋼板100表面に付着し、亜鉛めっきの表面品質を悪くしてしまう。その一方で、溶融亜鉛めっき法において、ドロスの発生を無くすこと自体は困難とされている。
【0004】
このようなことから、これまでに、特許文献1には、めっき浴槽の底部の形状を変えて、堆積したドロスを巻き上げにくくする方法が開示されている。また、特許文献2には、ボトムドロスをサブポットに汲み出し、サブポット内でドロスの沈下を早める方法が開示されている。また、特許文献3には、めっき浴槽内の流動を整流板や底部の隆起物等で制御することで、ドロスの巻上げを防止する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平3−68746号公報
【特許文献2】特開平5−17859号公報
【特許文献3】特開平7−97669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1や特許文献3のようにしてめっき浴槽内の流動を制御しようとしても、ドロスの堆積量が増えた場合には、結局、ドロスの巻き上げが起きてしまう。よって、特許文献1や特許文献3のように、めっき浴槽内の流動を制御して、ドロスの巻き上げを防止するには、ドロスの除去を頻繁に行う必要がある。
しかし、めっき浴槽の形状は各ラインによって異なり、ラインによっては、シンクロールを上昇させてドロスの除去作業を行わなければならない場合もある。この場合、ドロス除去作業を行うとしても、そのドロス除去作業は、実質的には定期修理日毎になるが、定期修理日にドロス除去作業を行おうとすれば、めっき浴内でボトムドロスの堆積量が巻き上げの起こらない許容高さを超えているか否かを判断する必要がある、すなわちドロス除去作業の適切な作業時期を知る必要がある。そのためには、ボトムドロスの堆積量を頻繁に測定する必要がある。しかし、従来、ボトムドロスの堆積量の測定は、オペレータ等が手動で、長い棒を差し込む等して行われていることから、ボトムドロスの堆積量を頻繁に測定するとすれば、オペレータ等への負担が過大となる。
【0006】
また、特許文献2に開示されているような方法により、確実に許容高さ以下のタイミングで、ボトムドロスをサブポットに汲み出すことができれば問題はない。しかし、その場合、汲み出すための装置の設置が必要となり、さらには、サブポットの場所の確保やサブポットを保温するためのコストもかかるため、設置には、かなりの制限がかかるようになる。また、ボトムドロスが零にならない限り、サブポットから再びポットに戻すことによる新たな流動も懸念される。
本発明の課題は、簡単な構成でボトムドロスの堆積量を測定することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明に係る請求項1に記載の溶融亜鉛めっき浴内の堆積物高さ測定方法は、溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインにて、鋼板表面に亜鉛めっきを施すために該鋼板が通板される溶融亜鉛めっき浴内の電気抵抗を測定し、その測定結果に基づいて、前記溶融亜鉛めっき浴内に沈殿する堆積物の堆積高さを推定することを特徴とする。
また、本発明に係る請求項2に記載の溶融亜鉛めっき浴内の堆積物高さ測定方法は、溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインにて、鋼板表面に亜鉛めっきを施すために該鋼板が通板される溶融亜鉛めっき浴内に電流を印加し、該電流により発生する電圧を測定し、該測定した電圧値に基づいて、前記溶融亜鉛めっき浴内に沈殿する堆積物の堆積高さを推定することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る請求項3に記載の溶融亜鉛めっき浴内の堆積物高さ測定方法は、請求項2に記載の溶融亜鉛めっき浴内の堆積物高さ測定方法において、前記電流を一定値とすることを特徴とする。
また、本発明に係る請求項4に記載の溶融亜鉛めっき浴内の堆積物高さ測定方法は、請求項2又は請求項3に記載の溶融亜鉛めっき浴内の堆積物高さ測定方法において、前記電圧値に基づいて電気抵抗を算出し、その算出した電気抵抗から、前記堆積物の堆積高さを推定することを特徴とする。
また、本発明に係る請求項5に記載の溶融亜鉛めっき浴内の堆積物高さ測定方法は、請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の溶融亜鉛めっき浴内の堆積物高さ測定方法において、前記電流を矩形波とすることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る請求項6に記載の溶融亜鉛めっき浴内の堆積物高さ測定装置は、溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインにて、鋼板表面に亜鉛めっきを施すために該鋼板が通板される溶融亜鉛めっき浴内に沈殿する堆積物の堆積高さを測定する溶融亜鉛めっき浴内の堆積物高さ測定装置であって、前記溶融亜鉛めっき浴内に電流を印加する電流印加用電極と、前記電流印加用電極により印加された電流によって発生する電圧を測定する電圧測定用電極と、前記電圧測定用電極で測定した電圧値に基づいて、前記溶融亜鉛めっき浴内に沈殿する堆積物の堆積高さを推定する堆積高さ推定手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶融亜鉛めっき浴内の電気抵抗の測定結果を基に、溶融亜鉛めっき浴内に沈殿する堆積物の堆積高さを推定しているので、簡単な構成でボトムドロスの堆積量を測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という。)を図面を参照しながら詳細に説明する。
(第1の実施形態)
先ず第1の実施形態を説明する。
(構成)
第1の実施形態は、本発明を適用した堆積物高さ測定装置である。
図1は、溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインのめっき浴槽に取り付けた堆積物高さ測定装置を示す。図2は、堆積物高さ測定装置の構成を示す。
図2に示すように、堆積物高さ測定装置は、溶融亜鉛で満たされているめっき浴槽40内に配置したプローブ1により該めっき浴槽40中のめっき浴内(溶融亜鉛、ボトムドロス、トップドロスなどを含む)の電気抵抗を測定するように構成されている。具体的には、堆積物高さ測定装置は、4本の電極からなり、その4本の電極のうち、外側に位置(最上部及び最下部に位置)される2本の電極11,12が、電流印加用電極11,12を構成し、その電流印加用電極11,12に挟まれるように内側に位置される2本の電極21,22が電圧測定用電極21,22を構成しており、電気抵抗を測定するプローブ1として構成されている。
【0012】
4本の電極は電線で構成されており、電線が耐熱絶縁ケース(カバー)1a内を通り、その先端部がケース1aの外に突出している。電線は、耐熱絶縁皮膜されており、先端部が、その皮膜が除去されて電極11,12,21,22となり、めっき浴槽40内の溶融亜鉛と接触している。なお、電極11,12,21,22(電線)の材質は、溶融亜鉛と反応しない材質が良い。例えばSUS等のように、耐食性があり、導電率の大きいものが良い。
【0013】
このような電極11,12,21,22を備えたプローブ1がめっき浴槽40内のめっき浴内に浸漬されている。このとき、プローブ1は、4本の電極11,12,21,22がめっき浴槽40の深さ方向に並ぶように浸漬されている。具体的には、図1に示すように、ボトムドロス200が堆積して問題となる高さ付近に設置し、上側の電圧測定用電極21がその堆積物高さ上限値付近に位置するように設置している。
なお、めっき浴槽40は、特許文献1や特許文献3に開示しているような、堆積したボトムドロスの巻き上げを制御可能な形状とされている。このようなことから、堆積物高さ上限値とは、ボトムドロス200の巻き上げを制御可能な堆積物高さの上限値である。
【0014】
図3は、堆積物高さ測定装置の電気回路構成を示す。
図3に示すように、電気回路構成は、電流印加用電極11,12の間及び電圧測定用電極21,22の間がそれぞれ媒体(溶融亜鉛)を介して導通状態になることを前提とした構成になっており、そのような構成において、定電流源31より電流印加用電極11,12に電流を印加し、電流印加用電極11,12に電流が流れたときの電圧値を電圧測定用電極21,22間に取り付けた電圧測定器32で測定している。
そして、電圧測定器32で測定した電圧値V(ボルト)を用いて、下記(1)式により、抵抗値R(Ω)を算出している。
R=V/A ・・・(1)
【0015】
Aは、定電流値(アンペア)である。たとえば、電線など、電流印加用電極や電圧測定電極に比べて、細い対象物に電流を印加する場合には、どこに電圧測定用電極を配置しても、電圧測定用電極間の電流値は(1)式のAとなるので、電圧測定値から、その部分の電気抵抗の絶対値が求められる。しかし、電極に対して、大きい面積や体積を有する対象物(板形状や液状など)に電流を印加する場合は、電極間を流れる電流は広がり、場所で電流分布が異なってくる。一般的には、電流は広がるため、電極間の電流は、(1)式で示される電流値Aよりも小さくなると考えられるので、電気抵抗の絶対値を厳密に求めることは困難となる。
【0016】
本発明が測定対象とする、めっき浴の場合、後者の場合に該当するので、電圧測定場所によって、電流値が変化し、電気抵抗の絶対値測定は難しいかも知れないが、電流分布の時間的な変化はなく、一定であると考えられるので、ある時刻の電圧測定値や算出した電気抵抗値を基準として、そこからの相対的な変化量を求めることは可能である。めっき浴内の堆積物高さの管理は、相対的な変動が把握できればよく、(1)式から電気抵抗値を求めて、相対的な評価をすればよい。例えば、電気抵抗と堆積高さとの関係を予め求めておき、電気抵抗の変動と対応付ければよい。
【0017】
(作用及び効果)
堆積物高さ測定装置によるボトムドロスの堆積量(高さ)の測定、並びにその作用及び効果は次のようになる。
プローブ1を、めっき浴槽40内に、その深さ方向に4本の電極11,12,21,22が並ぶようにめっき浴内に浸漬する。具体的には、図1に示すように、ボトムドロス200の堆積高さが問題となる付近にプローブ1を設置する。
そして、定電流源31により電流印加用電極11,12に電流を印加して、電流印加用電極11,12間の電圧値を、電圧測定用電極21,22間に取り付けた電圧測定器32で測定する。そして、その測定した電圧値に基づいて、抵抗値を算出する(前記(1)式)。このとき、その抵抗値は、溶融亜鉛の場合とボトムドロスの場合とで異なり、ボトムドロスの方が大きい値になる。このようなことから、抵抗値を基に、ボトムドロスの深さを推定できる。
【0018】
図4は、ボトムドロスが沈殿しているめっき浴槽底面からの高さとその高さにおける局所的な抵抗値との関係を示す。
図4に示すようになるのは、ボトムドロスがめっき浴槽の底面から離れるほど、ボトムドロスが存在しなくなり、ボトムドロスの割合(ボトムドロスの濃度)が低くなるため、抵抗値が小さくなるからである。例えば、ボトムドロスの割合が高いところ(めっき浴の下部でめっき浴槽40の底面近傍)の抵抗値は、ボトムドロスの割合が低いところ(めっき浴の上部)の抵抗値(例えば約1.8×10−7Ωm(めっき浴の温度約500℃において))の5倍以上になるといったように、大きい値になる。これは、ボトムドロスの方が抵抗値が大きく、ボトムドロスが増えると、電流がそのボトムドロスを迂回して流れようとするが、迂回できる領域が少なくなるためである。
【0019】
このような関係を利用して、例えば、ボトムドロスの割合(濃度)と抵抗値との関係を示す特性図を予め用意して、測定電圧値を基に得た抵抗値からボトムドロスの堆積量を推定する。例えば、抵抗値が所定のしきい値を超えた場合、ボトムドロス堆積量が許容量(堆積高さの上限値)を超えたと判断する。また、電圧値に基づく抵抗値の算出、さらには抵抗値に基づくボトムドロスの堆積量の測定(推定)については、パーソナルコンピュータ等の演算手段を用いて行う。
以上のようにして、めっき浴内の電気抵抗値に基づいて、ボトムドロスの堆積量を測定(推定)でき、簡単な構成でボトムドロスの堆積量を測定できる。これにより、溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインにおいて、堆積物の堆積高さを常時監視でき、操業を妨げることなく、最適なタイミングでドロス除去作業を実施できる。
【0020】
なお、前記第1の実施形態を次のような構成により実現することもできる。
すなわち、前記図4の特性図は、めっき浴槽の底面にボトムドロスが沈殿している場合を前提としているが、そのような前提に限定されるものではない。例えば、ボトムドロス中の溶融亜鉛の割合、ボトムドロスの成分、ボトムドロスの周辺温度(めっき浴の温度)の変化による堆積状態の変化、ボトムドロスが低密度であることで半ば浮遊している状態もある、等のボトムドロスの状態を考慮して、ボトムドロスの領域を定義し、判定で用いる特性図或いはボトムドロス領域判定用の抵抗値をライン毎に設定することもできる。
【0021】
また、前記第1の実施形態では、電極11,12,21,22が深さ方向(鉛直方向)に並んで位置されるように、プローブ1をめっき浴槽40内に配置している。しかし、これに限定されるものではない。すなわち、電極11,12,21,22が水平方向に並んで位置されるように、プローブ1をめっき浴槽40内に配置することもできる。このように配置することで、水平に設置したプローブ1の位置までボトムドロスが達したか否か(所定の堆積量になったか否か)を判定することもできる。
【0022】
また、プローブ1をめっき浴槽40内のめっき浴内を任意方向(例えば上下左右方向)にスキャンして、そのときの抵抗値を測定することもできる。これにより、めっき浴槽40内のボトムドロスの堆積状態(堆積形状)を3次元的に測定することもできる。なお、スキャンする場合はプローブ1によるボトムドロスの巻き上げに十分注意することは言うまでもない。
【0023】
また、めっき浴槽40内のボトムドロスの堆積状態(堆積形状)を3次元的に計測するために、それに応じて電流印加用電極(1対に限定されない)及び電圧測定用電極(2つに限定されない)をめっき浴槽40内に3次元的に多点に適宜配置しても良い。このようにすることで、めっき浴槽40内のボトムドロスの堆積状態(堆積形状)を3次元的に計測する場合でも、プローブでスキャンする必要がなくなるので、ボトムドロスの巻き上げを予防できる。
【0024】
(第2の実施形態)
次に第2の実施形態を説明する。
第2の実施形態では、プローブが、1対の電流印加用電極間に3つ以上の複数の電圧測定用電極を備えている。
図5は、そのプローブ1の構成を示す。
図5に示すように、プローブ1が、1対の電流印加用電極11,12間に複数(本例では7本)の電圧測定用電極21,22,23,24,25,26,27を備えており、これら複数の電圧測定用電極21〜27で、隣り合う電極間の電圧値ΔV1〜ΔV6を測定できるように構成されている。
【0025】
図6は、電圧測定用電極21〜27で、隣り合う電極間で得た電圧値ΔV1〜ΔV6の測定結果の例を示す。
図6に示すように、この例では、電圧測定用電極24から上の電圧値ΔV1〜ΔV3と、電圧測定用電極24から下の電圧値ΔV4〜ΔV6とで、大きく異なっており(高さ方向hの、あるX位置を境界に電圧値が大きく変化しており)、電圧測定用電極24から下の電圧値ΔV4〜ΔV6の方が大きくなっている。
このような結果を基に、電圧測定用電極23,24間の電圧値(抵抗値)と、電圧測定用電極24,25間の電圧値(抵抗値)との間に、溶融亜鉛とボトムドロスとの境界面が存在するとして、すなわち、電圧測定用電極24近傍にボトムドロスの上面部が存在するとして、ボトムドロスの堆積高さを測定する。
【0026】
例えば、ボトムドロスの堆積高さの変動が大きい(測定のダイナミックレンジが大きい)場合、電流印加用電極11,12間の距離を大きくする必要があるが、これに対応して、電圧測定用電極を1対としてその間の距離を大きくしてしまうと、電圧測定用電極による電圧値(抵抗値)の測定の分解能(精度)が低下する可能性があるので、第2の実施形態のように、電流印加用電極11,12間に複数の電圧測定用電極を備えて、隣り合う電極間の電圧値(抵抗値)を測定することで、ボトムドロスの堆積高さの変動が大きい場合でも、ボトムドロスの堆積量の測定を精度を高くして行うことができる。
【0027】
ここで、図7は、電圧測定用電極21〜27で、隣り合う電極間で得た電圧値ΔV1〜ΔV6の測定結果の例を示す。
この例では、図7に示すように、隣り合う電極間で得た電圧値ΔV1〜ΔV6に明確な差異はないが、このような場合には、溶融亜鉛とボトムドロスとの境界層が広い、つまり、ボトムドロスの濃度変化が緩やか、と判断して、そのような判断の下で、どの辺りからボトムドロスが存在するかを判断する。
【0028】
(第3の実施形態)
次に第3の実施形態を説明する。
第3の実施形態では、電流印加用電極間に印加する電流を矩形波(ステップ波)にしている。電極が熱起電力を発生するような場合には、それが電圧値にノイズ(ドリフト等)となって現れることがあり、その場合、そのノイズの影響で抵抗値(ボトムドロスの堆積高さ)を精度良く測定できなくなる。しかし、電流印加用電極間に印加する電流を矩形波(ステップ波)にすることで、そのようなノイズの影響を防止できる。
【0029】
図8(a)は、第3の実施形態において電流印加用電極11,12間に印加する矩形波の電流を示す。電流は、例えば±1(A)で変化する矩形波とされている。このとき、電圧測定用電極(例えば前記第1の実施形態であれば2つの電圧測定用電極21,22)で測定できる電圧の波形は、図8(b)に示すように、立ち上がり(プラス側とマイナス側の両方)初期(同図A領域)において、熱起電力等による影響を受けて、大きく振れている。そこで、電圧測定用電極で測定できる電圧波形におけるプラス側の立ち上がり後の平滑部分(同図B領域)と電圧波形におけるマイナス側の立ち上がり後の平滑部分(同図C領域)との差分値(例えば、同図に示すオフセットδ相当)を算出し、その差分値に基づいて、抵抗値を算出する。
【0030】
このようにすることで、電圧測定用電極で測定する電圧波形の立ち上がり(プラス側とマイナス側の両方)初期に、熱起電力等によりノイズ(ドリフト、例えば同時に示すオフセットOS)が発生する場合でも、そのようなノイズの影響を除去した電圧値に基づいて、抵抗値を算出、すなわちボトムドロスの堆積高さを測定できる。これにより、ボトムドロスの堆積高さを精度を高くして検出できる。
【0031】
(第4の実施形態)
次に第4の実施形態を説明する。
第4の実施形態では、2本のプローブに電流印加用電極と電圧測定用電極と別々に備えている。
図9は、そのプローブ50,60の構成を示す。
図9に示すように、電流印加用電極収納プローブ50は、離れた位置に2本の電流印加用電極51,52を備えており、電圧測定用電極プローブ60は、電流印加用電極収納プローブ50に備えた2本の電流印加用電極51,52間の距離内に収まるように、複数(本例では7本)の電圧測定用電極61〜67を備えている。
【0032】
これにより、図9に示すように、めっき浴内において、電流印加用電極収納プローブ50と電圧測定用電極プローブ60とを対向させるとともに、高さ方向で、電流印加用電極51,52の間に電圧測定用電極61〜67が位置するように電流印加用電極収納プローブ50と電圧測定用電極プローブ60とを配置して、電流印加用電極収納プローブ50側で、電流印加用電極51,52間に電流を流したときに、電圧測定用電極プローブ60で、電圧測定用電極61〜67において隣り合う電極間の電圧値(抵抗値)を測定する(前記第2の実施形態参照)。これにより、例えばボトムドロスの状態を3次元的に測定できる。
【0033】
なお、前記実施形態の説明において、電流印加用電極11,12は、溶融亜鉛めっき浴内に電流を印加する電流印加用電極を実現しており、電圧測定用電極21,22は、前記電流印加用電極により印加された電流によって発生する電圧を測定する電圧測定用電極を実現しており、電圧測定器32及び演算手段は、前記電圧測定用電極で測定した電圧値に基づいて、前記溶融亜鉛めっき浴内に沈殿する堆積物の堆積高さを推定する堆積高さ推定手段を実現している。詳しくは、電流印加用電極11,12は、溶融亜鉛めっき浴内に配置された少なくとも1対の電流印加用電極を実現しており、電圧測定用電極21,22は、溶融亜鉛めっき浴内に配置されるとともに、電流印加用電極間に配置される少なくとも2つの電圧測定用電極を実現しており、電圧測定器32及び演算手段は、電流印加用電極間に電流を流したときに電圧測定用電極間で測定した電圧値に基づいて、溶融亜鉛めっき浴槽内に沈殿する堆積物の堆積高さを推定する堆積高さ推定手段を実現している。
【0034】
また、前記実施形態では、溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインにて、鋼板表面に亜鉛めっきを施すために該鋼板が通板される溶融亜鉛めっき浴内の電気抵抗を測定し、その測定結果に基づいて、溶融亜鉛めっき浴内に沈殿する堆積物の堆積高さを推定することを特徴とした溶融亜鉛めっき浴槽内の堆積物高さ測定方法を実現している。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施形態の堆積物高さ測定装置のめっき浴槽内における設置状態を示す図である。
【図2】堆積物高さ測定装置のプローブの構成を示す図である。
【図3】堆積物高さ測定装置の電気回路構成を示す図である。
【図4】ボトムドロスが沈殿しているめっき浴槽底面からの高さと抵抗値との関係を示す特性図である。
【図5】本発明の第2の実施形態におけるプローブの構成を示す図である。
【図6】第2の実施形態におけるプローブによる電圧値の測定結果の例を示す図である。
【図7】第2の実施形態におけるプローブによる電圧値の測定結果の他の例を示す図である。
【図8】本発明の第3の実施形態において、電流印加用電極間に印加する矩形波の電流を示す図である。
【図9】本発明の第4の実施形態におけるプローブの構成を示す図である。
【図10】従来の製造方法の説明に用いた図である。
【符号の説明】
【0036】
1 プローブ、11,12 電流印加用電極、21,22 電圧測定用電極、31 定電流源、32 電圧測定器、40 めっき浴槽、200 ボトムドロス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインにて、鋼板表面に亜鉛めっきを施すために該鋼板が通板される溶融亜鉛めっき浴内の電気抵抗を測定し、その測定結果に基づいて、前記溶融亜鉛めっき浴内に沈殿する堆積物の堆積高さを推定することを特徴とする溶融亜鉛めっき浴内の堆積物高さ測定方法。
【請求項2】
溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインにて、鋼板表面に亜鉛めっきを施すために該鋼板が通板される溶融亜鉛めっき浴内に電流を印加し、該電流により発生する電圧を測定し、該測定した電圧値に基づいて、前記溶融亜鉛めっき浴内に沈殿する堆積物の堆積高さを推定することを特徴とする溶融亜鉛めっき浴内の堆積物高さ測定方法。
【請求項3】
前記電流を一定値とすることを特徴とする請求項2に記載の溶融亜鉛めっき浴内の堆積物高さ測定方法。
【請求項4】
前記電圧値に基づいて電気抵抗を算出し、その算出した電気抵抗から、前記堆積物の堆積高さを推定することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の溶融亜鉛めっき浴内の堆積物高さ測定方法。
【請求項5】
前記電流を矩形波とすることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の溶融亜鉛めっき浴内の堆積物高さ測定方法。
【請求項6】
溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインにて、鋼板表面に亜鉛めっきを施すために該鋼板が通板される溶融亜鉛めっき浴内に沈殿する堆積物の堆積高さを測定する溶融亜鉛めっき浴内の堆積物高さ測定装置であって、
前記溶融亜鉛めっき浴内に電流を印加する電流印加用電極と、
前記電流印加用電極により印加された電流によって発生する電圧を測定する電圧測定用電極と、
前記電圧測定用電極で測定した電圧値に基づいて、前記溶融亜鉛めっき浴内に沈殿する堆積物の堆積高さを推定する堆積高さ推定手段と、
を備えることを特徴とする溶融亜鉛めっき浴内の堆積物高さ測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−231481(P2008−231481A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70678(P2007−70678)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】