説明

溶融亜鉛めっき浴用浸漬部材

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、亜鉛めっき浴中に浸漬して使用される部材、より詳しくは亜鉛めっき鋼板の製造設備にあって、亜鉛あるいは亜鉛−アルミニウム合金めっき浴中で用いられるシンクロール、サポートロール等の部材に関する。すなわち、これらの部材の表面に溶融亜鉛と反応しにくく、ぬれにくいセラミックスを溶射するに際し、下層コーティングとして溶融亜鉛合金の侵食を防止し、セラミックスと金属との接合を増強することのできる溶射材料を溶射して2層構造の皮膜が形成された浸漬部材とすることを特徴とする。
【0002】
【従来の技術】亜鉛めっき処理鋼板の製造法としては、主として連続溶融亜鉛めっき法が採用されている。連続溶融亜鉛めっき法の主要な工程は次の通りである。すなわち、表面を清浄化された鋼帯がアルミニウムを0.1〜0.2%含有する溶融亜鉛合金槽中に浸漬され、浴中のシンクロールによって進行方向が転換され、サポートロール、ワイピングノズルなどを経由し、加熱炉に送られて合金化処理された後、常温まで冷却される。
【0003】上記連続溶融亜鉛めっきの工程において、溶融亜鉛が浸漬部材を侵食し、また、アルミニウムを含有する溶融亜鉛中を鋼帯が通過する際、鋼帯から溶融亜鉛へ鉄が溶出し、シンクロール表面にFeAlあるいはFeZn系の固相金属間化合物(付着金属層あるいはドロスと呼ぶ)を形成する。この付着合金層は硬く強固に付着しているため、特に高級めっき鋼板において鋼帯の表面品質を低下させることになる。
【0004】上記浸漬部材の亜鉛による侵食の防止および同部材への亜鉛合金の付着防止に関して、シンクロールやサポートロールの表面に特定の材料を溶射することが提案されている。表面溶射の役割は、一つは亜鉛合金による部材表面の侵食防止であり、もう一つは該部材表面における付着合金層の形成(ドロス付着)を防止することである。例えば、特開平4−116147号公報ではCr3 2 ,WC,TiC,TiB2 ,CrB2 ,ZrB2 などの非酸化物セラミックスとCo,Crなどを混合したサーメット溶射材料が、また特開平5−78801号公報では部材表面にAlを22%以上含むFe−Al合金層を形成するための溶射材料が、さらに特開平5−106011号公報ではAl2 3 −TiO2 擬2元系金属酸化物の溶射材料がそれぞれ提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、酸化物セラミックスは、例えば特開平5−106011に開示の溶射材のように、耐溶融亜鉛侵食性、耐亜鉛合金付着性とも優れるが、機械強度が低いため、実ロールに溶射して使用すると、溶射皮膜にクラックや剥離が生ずることが多く、保護皮膜として不適当である。
【0006】また、非酸化物セラミックスは酸化物セラミックスと同様に密着性と機械強度に乏しく、これの改善のために金属成分の添加が不可欠となる。例えば特開平4−116147の溶射材料はCo、Crなどを混合したサーメット材料であるが、亜鉛合金の侵食があり、表面にドロスの付着がある。
【0007】また、特開平5−78801では、Fe−Alはドロスとほぼ同じ成分でドロスの付着が著しく、また特開平5−33113では、非酸化性セラミックスにFe−Alを0.1〜20%添加した溶射材料が示されており、Alを添加すると亜鉛の拡散速度が低下し、Al添加効果が大きいと強調しているが、一方酸化物セラミックスは金属とのマッチングが悪いので、酸化物セラミックスにAlを添加することによりもたらされる効果は乏しいと指摘している。
【0008】上記の溶融亜鉛めっき関連設備用溶射皮膜の性能要求としては、(1)耐溶融亜鉛合金侵食性、(2)耐ドロス付着性、(3)緻密性および(4)機械強度である。
【0009】セラミックスは上記の(1)、(2)項の特性を備える材料であるが、セラミックスは靭性が小さく、金属溶射皮膜に比べて気孔率が大きく、またセラミックスは基材金属表面との界面における拡散が容易ではなく、接合力が小さく、金属溶射皮膜に比べて使用中に皮膜の剥離の恐れがあるので、前述のような提案がなされているが、前記溶射皮膜の性能要件を充分満足する溶射材料が開発されていない。
【0010】したがって本発明の目的は、部材表面に形成された溶射皮膜を有し、該皮膜が耐溶融亜鉛合金侵食性、耐ドロス付着性ともに優れていて、かつ緻密性および十分な機械強度をもち耐剥離性を備えたものであるような亜鉛めっき浴用浸漬部材を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記目的を達成すべく研究を進めた結果、セラミックス系溶射皮膜の長所を利用し、その欠点は2層コーティングを行うことにより、すなわち金属部材表面に(Fex Aly 金属間化合物+酸化物セラミックス)サーメットを溶射し、その上にさらにサーメット中のセラミックスと同種類のセラミックスを溶射するようにすれば除くことができ、耐溶融亜鉛合金侵食性および耐亜鉛合金付着性も優れると共に耐剥離性にも優れた溶射皮膜を持つ浸漬用部材が得られることを見いだし本発明に到達した。コーティングの厚みは下層80〜120μm、上層40〜80μmが適切である。
【0012】すなわち本発明は、第1に、溶融亜鉛めっき浴中に浸漬して使用される表面に溶射皮膜が施された部材であって、Fex Aly 金属間化合物と酸化物セラミックスとの混合物からなる溶射用粉末材料を部材表面に直接溶射して形成したサーメット層と、さらにその上に該サーメット中に含まれるものと同種類のセラミックスからなる溶射用粉末材料を溶射して形成したセラミックス層とからなる2層構造の耐剥離性皮膜が部材表面に形成されていることを特徴とする耐溶融亜鉛合金侵食性および耐亜鉛合金付着性に優れた溶融亜鉛めっき浴用浸漬部材を提供することであり;第2に、前記サーメット層のFex Aly 金属間化合物がx=1〜3、y=1〜5に相当する金属間化合物であり、混合される酸化物セラミックスの添加量が金属間化合物と酸化物セラミックスとの合計量を基準として5〜70重量%である上記の部材を提供することであり(ただし、上記Fex Aly においてFeとAl間の結合は金属間化合物でなければならない。Fe−Al間の単純な合金結合は耐Zn侵食性が低く、保護皮膜として不適である。FeAl金属間化合物の組成はFe3 Al、FeAl2 、Fe3 Al5 、FeAl8 (x=1〜3、y=1〜5)などがあるが、最も耐Zn侵食性が強いのはFeAl2 、Fe3 Al5 である。);第3に、前記酸化物セラミックスがAl2 3 、安定化もしくは部分安定化したZrO2 、Cr2 3 、ZrSiO4 およびスピネル(Al2 3 ・MgO)のうちから選ばれる1種以上である上記第1または第2に記載の部材を提供することである。
【0013】
【作用】本発明の浸漬用部材に溶射によって形成された皮膜はセラミックスと金属との接合が改善されており、皮膜の下層として溶射された(FeAl2 +酸化物セラミックス)は優れた耐亜鉛侵食性があるので、たとえ上層のセラミックス皮膜の緻密性が低くて亜鉛が浸透しても基材が侵食されない保護効果があり、被溶射材と同等の膨脹係数を持つ皮膜が形成されるように調整できるという特徴がある。なお下層サーメット中に添加するセラミックス量を5〜70%としたのは、5%未満の場合はセラミックスの体積率が小さすぎ、70%を越える場合はセラミックスの体積率が大きすぎて、結合層効果に乏しくなるので5〜70%とした。
【0014】
【実施例1】図1は本発明の実施例および比較例において共通に用いられた実験装置の模式断面図である。この図を参照して以下説明する。
【0015】加熱器1により内部が所定温度に保持された炉体8の底部に設けられた台6に載置されたるつぼ4内に貯えられた溶融亜鉛−0.1%アルミニウム合金5中に、回転軸9に直結保持された棒状試料(SUS403製、径20mm、長さ275mm)が窓7を有する軟鉄製円筒3内で回転するようにし、上記棒状試料に厚さ0.1〜0.15mmのサーメット層の(FeAl2 80wt% +Al23 20wt%)皮膜を溶射し、その上にAl23 のセラミックス層を溶射した溶射サンプル2を用意し、炉内にセットした後、炉内を460〜550℃の水素−窒素雰囲気に調整して浸漬実験を行った。
【0016】2週間以上浸漬した結果、供試された棒状試料の溶射皮膜は溶融亜鉛と反応しにくく、極めて安定度の高いものであることが確認された。
【0017】
【実施例2】図1の実験装置を用いて、棒状試料にサーメット層として(FeAl2 80wt% +ZrO2 20wt% )皮膜を、またその上にZrO2 のセラミックス層を溶射した以外は、実施例1と同じ要領で浸漬実験を行ったところ、結果は同様に2週間後にも異常が認められなかった。
【0018】
【比較例1】図1に示された実験装置を用い、棒状試料にWC−Coのサーメット層を溶射した溶射サンプルを実施例1の要領に従い浸漬実験を行った。結果は溶射サンプル全面にドロスが付着していた。
【0019】
【比較例2】図1に示された実験装置を用い、棒状試料にコバルト基合金+Al23 のサーメット層を溶射し、さらにその上にZrO2 のセラミックス層を溶射した溶射サンプルを用いて実施例1の要領に従い浸漬実験を行った。供試された溶射サンプル上の皮膜を調べたところ、浴中の亜鉛による侵食がSUS母材にまで及んでいることが判明した。
【0020】上記実施例および比較例で得られた実験結果を表1にまとめて示す。
【0021】
【表1】


【0022】
【実施例3】浴温を450〜480℃に保った自動車外板用亜鉛メッキ浴の浴中で使用されるサポートロール駆動軸(スピンドル)に実施例1と同様のサーメット層(FeAl2 80wt% +Al23 20wt% )およびセラミックス層(Al23 )の2層構造からなる表面被覆を溶射により形成した。この部材を用いて自動車外板に亜鉛メッキを施工した結果次の効果が確認された。
(1)ドロス巻き付きによりサポートロールの回転ブレが生じるのを有効に防止できた。
(2)スピンドルに巻き付いたドロスの除去作業が不要となった。
(3)従来、SUS403材を使用した場合、ドロスが付着すると再使用不能で、母材として短命であったが、本発明の方法に従って2層構造の溶射皮膜を形成すると溶射皮膜を再生して再使用することが可能となり合金の寿命が延びた。
【0023】
【実施例4】2層構造の溶射皮膜として実施例2の場合と同様に、サーメット層として(FeAl2 80wt% +ZrO2 20wt% )皮膜をその上のセラミックス層としてZrO2 を形成した以外は実施例3と同様のことを行い、実施例3の場合と同様の効果が得られることを確認した。
【0024】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の溶射皮膜を備えた浸漬部材では、溶射皮膜が下層はサーメット層、上層はサーメット層に含まれるセラミックスと同種類のセラミックス層という2層皮膜であるので、たとえセラミックス層の緻密性が低くて亜鉛が浸透しても基材が侵されることがなく、耐溶融亜鉛侵食性および耐亜鉛合金付着性と共に耐剥離性があり部材への優れた保護効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例および比較例において、共通に用いられた浸漬実験装置の模式断面図である。
【符号の説明】
1 加熱器
2 溶射サンプル
3 軟鉄製円筒
4 るつぼ
5 溶融亜鉛−アルミニウム合金
6 台
7 窓
8 炉体
9 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】 溶融亜鉛めっき浴中に浸漬して使用される表面に溶射皮膜が施された部材であって、FeAl金属間化合物と酸化物セラミックスとの混合物からなる溶射用粉末材料を部材表面に直接溶射して形成したサーメットと、さらにその上に該サーメット層中に含まれるものと同種類の酸化物セラミックスからなる溶射用粉末材料を溶射して形成したセラミックス層とからなる2層構造の耐剥離性皮膜が部材表面に形成されていることを特徴とする耐溶融亜鉛金属侵食性および耐亜鉛合金付着性に優れた溶融亜鉛めっき浴用浸漬部材。
【請求項2】 前記サーメット層のFeAl金属間化合物がx=1〜3、y=1〜5に相当する金属間化合物であり、混合される酸化物セラミックスの添加量が金属間化合物と酸化物セラミックスとの合計量を基準として5〜70重量%である請求項1記載の部材。
【請求項3】 前記酸化物セラミックスがAl、安定化もしくは部分安定化したZrO、Cr、ZrSiOおよびスピネル(Al・MgO)のうちから選ばれる1種以上である請求項1または2記載の部材。

【図1】
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【特許番号】第2982944号
【登録日】平成11年(1999)9月24日
【発行日】平成11年(1999)11月29日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−22257
【出願日】平成7年(1995)1月17日
【公開番号】特開平8−199329
【公開日】平成8年(1996)8月6日
【審査請求日】平成9年(1997)8月28日
【出願人】(393001523)プラクスエア エス ティ テクノロジー インコーポレイテッド (1)
【出願人】(000001258)川崎製鉄株式会社 (8,589)
【参考文献】
【文献】特開 平4−350154(JP,A)