説明

溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】めっき性及び伸び特性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.04%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.05〜0.5%、S:0.01%以下、P:0.05%以下、sol.Al:0.08%以下、N:0.01%以下を含有する成分組成を有する鋼板に対して、直火加熱方式の直火帯で加熱し、さらに、還元帯において還元雰囲気中で表面の還元と焼鈍を行ったのち、溶融亜鉛めっき浴に浸漬させて亜鉛めっき処理を行う。この時、前記直火帯を入側から第1〜第4の4つのゾーンに分け、各々のゾーンの空気比を以下のようにする。第1ゾーンの空気比:0.70〜0.90、第2ゾーンの空気比:0.70〜0.90、第3ゾーンの空気比:0.70〜0.90、第4ゾーンの空気比:0.70〜0.85

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき性及び伸び特性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するものであり、詳しくは、直火加熱方式の直火帯と還元帯を備える焼鈍炉で熱処理したのち溶融亜鉛めっき処理を施して製造する溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛めっき鋼板は、自動車、家電、建材等の分野において広く用いられている金属材料である。溶融亜鉛めっき鋼板は、直火加熱方式の直火帯と還元帯を備える焼鈍炉で熱処理したのち溶融亜鉛めっき処理を施すことで製造される。
【0003】
特許文献1には、Si濃度及びMn濃度が高い鋼板を加熱焼鈍したのち溶融亜鉛めっき処理を施して高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造する際に、めっき性不良の発生を防止することを目的として、還元帯内の還元性ガスの流れの方向が鋼板の進行方向と逆方向になるような流路を構成し、竪型還元帯では、少なくとも入側領域において雰囲気ガスを鋼板進行方向と逆方向に流す方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、直火帯と還元帯の連接部またはその近傍から炉内のガスを排気することで、直火加熱帯で形成された酸化皮膜が続く還元帯で十分に還元され、溶融亜鉛めっき時のめっき不良の発生を防止する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-146241号公報
【特許文献2】特開2007-146242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術では、めっき性は改善されるものの、鋼板の伸びが不足する問題がある。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑み、めっき性及び伸び特性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の要旨構成は次のとおりである。
【0009】
質量%で、C:0.04%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.05〜0.5%、S:0.01%以下、P:0.05%以下、sol.Al:0.08%以下、N:0.01%以下を含有する成分組成を有する鋼板に対して、直火加熱方式の直火帯で加熱し、さらに、還元帯において還元雰囲気中で表面の還元と焼鈍を行ったのち、溶融亜鉛めっき浴に浸漬させて亜鉛めっき処理を行う溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、前記直火帯を入側から第1〜第4の4つのゾーンに分け、各々のゾーンの空気比を以下のようにすることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
第1ゾーンの空気比:0.70〜0.90
第2ゾーンの空気比:0.70〜0.90
第3ゾーンの空気比:0.70〜0.90
第4ゾーンの空気比:0.70〜0.85
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%は、すべて質量%である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、めっき性及び伸び特性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。めっき性及び伸び特性に優れるので、自動車用途での高加工プレス材に適用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備の要部構成例を示す概略側面図である。
【図2】本発明例、比較例、参考例の伸び特性の測定結果を示す図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0013】
従来の直火加熱方式の直火帯と還元帯を備える溶融亜鉛めっき設備(焼鈍炉)での焼鈍の考え方は、以下の通りである。スケールがあるとめっき性は低下することは知られているため、前段の直火帯のゾーンで鋼板表面を酸化させ、後段の還元帯のゾーンの不完全燃焼(未燃焼)領域でスケールの最表面のみを還元して、めっき性を改善するというものである。このように、従来は、前段の直火帯のゾーンは、完全燃焼である。しかしながら、直火加熱方式の直火帯と還元帯を備える溶融亜鉛めっきラインで、種々製造条件を変えて機械的性質を検討する実験を行い、伸び特性が劣る原因を調査したところ、直火帯のゾーンで完全燃焼し鋼板表面を酸化させることで、粒界酸化が起こり、酸化したところが引張試験時の破壊の起点となり、伸び特性が劣ることがわかった。
【0014】
上記結果を受けて、本発明では、前段の直火帯のゾーンでは完全燃焼せず、不完全燃焼(未燃焼を含む)とし、鋼板表面が酸化するのを防止することとする。鋼板表面が酸化するのを防止することで引張試験の破壊の起点となる粒界酸化を防止する。その結果、伸び特性の低下を抑えることができる。さらに、直火帯のゾーンで不完全燃焼とした場合でも、めっき性が劣化しないように、本発明では、成分組成の範囲を規定することとする。このように、めっき性が劣化しない成分組成とした上で、直火帯のゾーンで不完全燃焼とすることで、めっき性及び伸び特性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板が得られることになる。
【0015】
図1は、直火加熱方式の直火帯と還元帯を備える焼鈍炉で熱処理をした後、亜鉛めっきを行う溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備の要部構成例を示す概略側面図である。
【0016】
図1において、1は鋼板、2は直火加熱方式の直火帯(以下、単に「直火加熱帯」とも記載する。)、3は還元帯(竪型還元帯)、4は冷却帯、5はスナウト、6は溶融めっき槽、7はガスワイピング装置である。直火加熱帯2と竪型還元帯3が連接されている。溶融めっき槽6にはめっき金属である溶融亜鉛が保持されている。
【0017】
直火加熱帯は、(A)加熱速度が速い、(B)鋼板温度が低くても、燃焼ガス温度が高く、燃焼ガス中のラジカルが鋼板に達して鋼板との反応に関与するので反応速度が速く、空気比が高ければ酸化膜が早く形成され、空気比が低く還元が早く行われる直火還元帯を設ければ還元も行える、などの特徴がある。
【0018】
また、直火加熱帯は複数の加熱ゾーンに分割され、各々の加熱ゾーンには直火加熱バーナ103が配置され、燃料供給系統101から燃料ガス、空気供給系統102から燃焼用空気が供給される。各加熱ゾーンの燃料ガス流量、燃焼用空気流量及びその流量比は独立に制御可能である。
【0019】
還元帯3は、炉内の上部及び下部に所定の高さをもって配設された炉内ロールが所定間隔で複数設けられている。還元帯3内を走行する鋼板1は、上部炉内ロールと下部炉内ロールで支持されて鉛直方向に走行する複数の縦パスが存在し、縦パス間に鋼板に面してラジアントチューブバーナ8が配設されている。
【0020】
通常は、図示されていない鋼板送り出し装置から送り出された鋼板は、直火加熱帯2で燃料ガスを用いて直火加熱され、鋼板表面の圧延油が除去されるとともに、鋼板表面にFe酸化物(酸化皮膜)を形成する。直火加熱帯の前段は、空気比を高くして鋼板を加熱し、鋼板表面に酸化膜を形成し、次いで直火加熱帯の後段(以下、直火還元帯とも記載する。)は、前段より空気比を低くして前段で形成した酸化膜を還元する。直火還元帯だけでは還元が不十分であるので、次の還元帯でさらに酸化膜の還元が行われる。
【0021】
次に鋼板は還元帯3に通板される。通常、還元性ガスとして、水素濃度が数%〜数十%(vol%)の水素と窒素の混合ガスがガス供給配管104から冷却帯4及び還元帯3の複数箇所に供給され、供給されたガスは還元帯3入側に流れ、直火加熱帯2と還元帯3の連接部9を通って直火加熱帯2に流出する。このガスによって、還元帯3の雰囲気は還元性に保持される。鋼板は、還元帯3を通板される間に、高温のラジアントチューブ8によって所定温度で所定時間に加熱焼鈍され、同時に鋼板表面の酸化皮膜が還元される。還元の進行は、炉内の温度パターンや通板速度、炉内ガスの水素濃度と供給量で決まる。還元帯で鋼板の還元が完了するように適宜の条件が設定される。還元帯3に供給された還元性ガスは還元帯3と直火加熱帯2の連接部9を通って直火加熱帯2へ流れる。
【0022】
酸化皮膜が還元された鋼板1は、冷却帯4で溶融めっき槽6に浸漬させるのに適した鋼板温度に調整されたのち溶融めっき槽6に浸漬めっきされ、溶融めっき浴槽6から引き上げられてガスワイピング装置7で所要のめっき付着量に調整され、さらにスパングル調整あるいは合金化処理が施された後冷却され、あるいは前記処理を施すことなく冷却され、所要の溶融亜鉛めっき鋼板となる。
【0023】
ここで、本発明においては、直火加熱帯のゾーンにおいて、空気比を低く制御して、鋼板表面を不完全燃焼とし、鋼板表面が酸化するのを防止する。その結果、伸び特性の向上が図られる。通常は、直火加熱帯の前段は、空気比を高くして鋼板を加熱し、鋼板表面に酸化膜を形成し、次いで直火加熱帯の後段(以下、直火還元帯とも記載する。)は、前段より空気比を低くして前段で形成した酸化膜を還元する。これに対して、本発明では、直火加熱帯を入側(鋼板送り出し装置側)から第1〜第4の4つのゾーンに分け、各々のゾーンの空気比を以下のようにする。
第1ゾーンの空気比:0.70〜0.90
第2ゾーンの空気比:0.70〜0.90
第3ゾーンの空気比:0.70〜0.90
第4ゾーンの空気比:0.70〜0.85
いわゆる直火加熱帯の前後である第1、第2ゾーンを含む第1〜3ゾーンの空気比が0.90、第4ゾーンの空気比が0.85を超えると、伸び特性が低下する。一方、第1〜4ゾーンの空気比が0.70未満では、原単位が極端に低下して生産コスト高となり、また、アフターバーニングによる設備トラブルの原因となる場合がある。
【0024】
次に本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の成分組成について説明する。
【0025】
C:0.04%以下
Cは、過剰に含有すると伸び特性の低下をもたらすため、0.04%以下とする。好ましくは0.03%以下である。
【0026】
Si:0.05%以下
Siは、めっき性に悪影響を及ぼし、鋼板表面に濃化して不めっきの原因となるため、0.05%以下とする。
【0027】
Mn:0.05%以上0.5%以下
Mnは、Sによる熱間割れを抑制する働きがあるので0.05%以上とする。一方、過剰に含有すると、耐食性を低下させるため、0.5%以下とする。
【0028】
S:0.01%以下
Sは、Mnと結合してMnSを形成し、耐食性を低下させるため、0.01%以下とする。
【0029】
P:0.05%以下
Pは、伸び特性の低下をもたらすため、低いほど望ましいが、0.05%以下であれば伸び特性を著しく低下させることはない。このため、0.05%以下とする。
【0030】
Sol.Al: 0.08%以下
Alは、脱酸に用いられる元素であるが、過剰に含有されると伸び特性の低下をもたらすため、Sol.Al で0.08%以下とする。なお、Alは固溶Nを固定して耐常温時効性を向上させる作用効果もあるため、鋼板中のsol.Alは0.001%以上とすることが好ましい。
【0031】
N: 0.01%以下
Nは、多量に含有すると、伸びが低下するとともに、耐常温時効性が低下するため、0.01%以下とする。Nは低いほど好ましいが、0.0001%未満とするには生産コストが著しく大きくなるため、下限は0.0001%程度とすることが好ましい。
【0032】
残部は、Feおよび不可避的不純物であることが好ましい。不可避的不純物としては、Ni、Cu、Cr、O(酸素)などがあるが、例えば、Ni、Cu、Crは各々0.05%程度以下、O(酸素)は、0.02%程度以下とすることが好ましい。
以上、必須成分について説明したが、本発明では、その他にも以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
【0033】
B:0.0030%以下(好適元素)
Bは、組織を微細化し、幅方向の組織を均一化するのに有効元素であり、この効果を得るためには、0.0005%以上含有させることが好ましい。一方、0.0030%を超えて含有すると再結晶温度が高くなり、伸びが低下しやすくなるので、上限は0.0030%とすることが好ましい。より好ましくは0.0020%以下である。
【実施例】
【0034】
実施例1
表1に示す化学組成からなる1.2mmの冷延鋼板を、表2に示す条件にて直火加熱方式の直火帯で加熱し、さらに、還元帯において還元雰囲気中で表面の還元と焼鈍(焼鈍温度:760℃)を行ったのち、溶融亜鉛めっき浴に浸漬させて亜鉛めっき処理を行い、溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。なお、炉の雰囲気(還元条件)は、水素ガス:5vol%、窒素ガス:95 vol%であり、露点(D.P):−30℃である。めっき処理は両面に施し、片面あたりの目付量は45g/m2であった。また、直火加熱方式の直火帯を有する焼鈍炉の代わりに、加熱手段の全てをラジアントチューブとした、オールラジアントチューブ炉を用いて酸化を抑制した状態で熱処理および焼鈍を行い、その他は本発明例と同様の条件にて行った参考例も準備した。なお、参考例および直火帯での加熱時の空気比が本発明範囲外の比較例については、本発明例1と同様の冷延鋼板を用いた。
以上により得られた溶融亜鉛めっき鋼板に対して、伸び特性およびめっき性を評価した。各測定方法および評価基準は以下の通りである。
【0035】
伸び特性
JIS5号試験片とし、JIS Z 2241に準拠して引張試験を行った。引張試験は、幅方向ミドル1箇所から測定した。
【0036】
めっき性
めっき性は、パウダリング試験を行い評価した。
パウダリング試験は、まず、試験片幅方向3カ所(両側および中央部)の表、裏面について90°曲げを行う。折り曲げ後、曲げ部内面にセロテープ(登録商標)を強く貼り付け、次いで、引き剥がす。セロテープ(登録商標)に付着しためっき皮膜の量を目視で観察し、パウダリング性を評価した。パウンダリング性の結果は、本発明例、比較例とも、皮膜剥離に大きな差はなく、パウダリング性は良好であった。
【0037】
以上により得られた結果を図2に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
図2より、本発明例では、直火帯での空気比を制御することで、比較例に比べて、伸び特性が約2%改善され、オールラジアントチューブ炉を用いた参考例と同等の伸び特性を得ることができた。
また、上記したように、パウンダリング試験の結果も良好でめっき性にも優れていた。
一方、比較例では伸び特性が劣っている。
【符号の説明】
【0041】
1 鋼板
2 直火加熱方式の直火帯(直火加熱帯)
3 竪型還元帯(還元帯)
4 冷却帯
5 スナウト
6 溶融めっき槽
7 ガスワイピング装置
8 ラジアントチューブバーナ
9 直火加熱帯と還元帯の連接部
101 燃料供給系統
102 空気供給系統
103 直火加熱バーナ
104 ガス供給配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.04%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.05〜0.5%、S:0.01%以下、P:0.05%以下、sol.Al:0.08%以下、N:0.01%以下を含有する成分組成を有する鋼板に対して、
直火加熱方式の直火帯で加熱し、さらに、還元帯において還元雰囲気中で表面の還元と焼鈍を行ったのち、溶融亜鉛めっき浴に浸漬させて亜鉛めっき処理を行う溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、
前記直火帯を入側から第1〜第4の4つのゾーンに分け、各々のゾーンの空気比を以下のようにすることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
第1ゾーンの空気比:0.70〜0.90
第2ゾーンの空気比:0.70〜0.90
第3ゾーンの空気比:0.70〜0.90
第4ゾーンの空気比:0.70〜0.85

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−177142(P2012−177142A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39221(P2011−39221)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】