説明

溶融体を下回る温度で調製した残留フリーラジカルが減少した高弾性率架橋ポリエチレン

【課題】フリーラジカルが減少し、好ましくは残留フリーラジカルを実質的に含まない放射線照射架橋ポリエチレンの提供。
【解決手段】本発明は、ポリエチレンを融点を下回る高温にて増感環境と接触させ、残留フリーラジカルの濃度を検出不可能なレベルまで減少させることによる放射線照射架橋ポリエチレンの製造方法が開示する。また、ポリエチレンをポリエチレンの融点を下回る温度で、所望により増感環境にて機械的に変形することによるフリーラジカル含量の減少した、好ましくは、残留フリーラジカルを実質的に含まない放射線照射架橋ポリエチレン組成物の製造方法も、本明細書に開示される。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本出願は、2002年1月4日出願の仮出願連続番号60/344,354号に対する優先権を主張するものであり、上記出願の全内容は、その開示の一部として本明細書に引用される。
【0002】
本発明は、フリーラジカル含量の減少した、好ましくは、残留フリーラジカルが減少したまたは実質的に含まない放射線照射架橋ポリエチレン(PE)組成物、および架橋ポリエチレンの製造方法に関する。これらの方法は、融点を下回る高温にて増感環境と接触させながらポリエチレンを放射線照射し、残留フリーラジカルの濃度を、好ましくは検出不可能なレベルまで減少させる工程を含んでなることができる。本発明はまた、放射線照射中にポリエチレンの融点を下回る温度にて増感環境と接触させまたはさせることなく放射線照射PEを機械的に変形させることによって、フリーラジカル含量の減少した、好ましくは残留フリーラジカルを実質的に全く含まない架橋ポリエチレンの製造方法に関する。これらの方法は相補的であり、一緒にまたは別々に用いることができる。
【0003】
背景技術
ポリエチレンにおいて架橋度を増加させることは、この材料の耐摩耗性をかなり増加するから、関節形成術において表面適用性を与える上では望ましいものである。好ましい架橋方法は、ポリエチレンを電離放射線に暴露することによるものである。しかしながら、電離放射線は、架橋の他に、残留フリーラジカルも生成させ、これは酸化によって誘発される脆化の前駆体となる。これは、イン・ビボにおける装置の性能に悪影響を及ぼすことが知られている。従って、放射線照射の後に残留フリーラジカルの濃度を、好ましくは検出不能なレベルまで減少させて、長期酸化を防止することが望ましい。
【0004】
従来は、放射線照射ポリエチレンにおける残留フリーラジカルの濃度を実質的に減少させるために、ポリエチレンをその融解温度を上回る温度(例えば、約140℃)に加熱しなければならないとされていた。融解により、残留フリーラジカルが閉じ込められていると考えられる結晶構造が解かれまたは除去されるのである。このフリーラジカル移動度の増加により再結合反応が促進され、これにより残留フリーラジカル濃度を著しく減少させることができる。この手法は、残留フリーラジカルの再結合に有効であるが、材料の最終結晶化度を減少させることが示されている。この結晶化度の損失により、ポリエチレンの弾性率が減少してしまう。さらに、ユニコンパートメント膝関節デザイン(unicompartmental knee designs)、薄ポリエチレン脛骨膝関節インサート、低調和関節結合(low conformity articulations)などのような高ストレス用途にあっても、高弾性率が、クリープを最小限に抑える上で望まれる。
【0005】
従って、ポリエチレンの結晶化度の著しい減少を防止するため、融点を上回る温度にて加熱することなしに残留フリーラジカル濃度を減少させ、弾性率の低下が僅かであるか、実質的に保持され、または増加されるようにすることが望ましい。
【0006】
発明の概要
本発明の目的は、ポリエチレンの融点を下回る温度で、所望により増感環境と接触させて、ポリエチレンに放射線照射し、所望により機械的変形によって、残留フリーラジカルの含量を好ましくは検出不可能なレベルまで減少させることを含んでなる方法によって製造される、フリーラジカルの濃度が減少したものである改良した架橋ポリエチレンを提供することである。
【0007】
本発明の一つの態様によれば、ポリエチレンの結晶化度が少なくとも約51%以上である放射線照射架橋ポリエチレンが提供される。
【0008】
本発明の他の態様によれば、ポリエチレンの弾性率が放射線未照射の出発ポリエチレンまたは融解を施した放射線照射ポリエチレンの弾性率より高いもの、またはごく僅か低いすなわちほぼ等しいものである、放射線照射架橋ポリエチレンが提供される。
【0009】
本発明によれば、ポリエチレンはポリオレフィンであり、好ましくは低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、またはそれらの混合物からなる群から選択されるものである。
【0010】
本発明の一つの態様によれば、ポリエチレンを増感環境に接触させた後に放射線照射を行う。増感環境は、例えば、アセチレン、クロロ-トリフルオロエチレン(CTFE)、トリクロロフルオロエチレン、エチレンなど、またはそれらの混合物であって希ガス、好ましくは窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、および当該技術分野で知られている任意の不活性ガスからなる群から選択される希ガスを含むものからなる群から選択することができる。
ガスは、アセチレンおよび窒素の混合物であって、例えば、約5体積%のアセチレンと約95体積%の窒素とを含んでなる混合物であることができる。
【0011】
本発明の一つの態様によれば、 ポリエチレンの出発材料は圧縮ストック(consohidated stock)の形態であることができ、または出発材料は完成品の形態であることもできる。
【0012】
本発明の他の態様によれば、弾性率が放射線未照射の出発ポリエチレンまたは融解を施した放射線照射ポリエチレンの弾性率にほぼ等しいかまたは僅かに高いことを特徴とする、フリーラジカル濃度が減少した、好ましくは残留フリーラジカルが検出不可能な(すなわち、フリーラジカルの含量が最新の検出限界1014スピン/gを下回る)放射線照射架橋ポリエチレンが提供される。本発明のさらに他の態様によれば、放射線未照射の出発ポリエチレンまたは融解を施した放射線照射ポリエチレンと比較したときに改良された耐クリープ性を特徴とする、残留フリーラジカル含量が減少した架橋ポリエチレンが提供される。
【0013】
本発明の一つの態様によれば、架橋ポリエチレンの製造方法であって、ポリエチレンをポリエチレンの融点を下回る温度にて増感環境と接触させながら放射線照射し、フリーラジカルの含量を好ましくは検出不可能なレベルまで減少させることを含んでなる方法が提供される。
【0014】
本発明の他の態様によれば、架橋ポリエチレンの処理方法であって、ポリエチレンの結晶化度が出発の放射線未照射ポリエチレンのそれにほぼ等しく、ポリエチレンの結晶化度が少なくとも約51%以上であり、ポリエチレンの弾性率が出発の放射線未照射ポリエチレンまたは融解を施した放射線照射ポリエチレンのそれにほぼ等しいかまたはそれより高い方法が提供される。
【0015】
架橋ポリエチレンの製造方法であって、アニーリング温度がポリエチレンの融点を下回り、アニーリング温度が約145℃未満であり、好ましくは約140℃未満であり、さらに好ましくは約137℃未満である方法も提供される。
【0016】
また、ここでは、電離線に暴露し、フリーラジカル濃度が減少し、好ましくは残留フリーラジカルを実質的に全く含まないポリエチレンであり、145℃未満、好ましくは140℃未満、さらに好ましくは137℃未満の融点を下回る温度にて増感環境の存在下における放射線照射の後のアニーリングによって得られるものである材料も提供される。
【0017】
本発明の一つの態様によれば、架橋ポリエチレンの製造方法であって、ポリエチレンを増感環境に接触した後に放射線照射を行う方法が提供される。
【0018】
本発明の他の態様によれば、架橋ポリエチレンの製造方法であって、増感環境がアセチレン、クロロ-トリフルオロエチレン(CTFE)、トリクロロフルオロエチレン、エチレンガス、またはそれらのガスの混合物であり、ガスがアセチレンおよび窒素の混合物であり、混合物が約5体積%のアセチレンと約95体積%の窒素を含んでなる方法が提供される。
【0019】
さらに本発明の他の態様によれば、架橋ポリエチレンの製造方法であって、増感環境が様々な炭素数を有するジエン、またはそれらの液体および/またはガスの混合物である方法が提供される。
【0020】
本発明の一つの態様は、架橋ポリエチレンの製造方法であって、放射線照射をガンマ放射線または電子ビーム放射線を用いて行い、放射線照射を融解温度を下回る高温で行い、放射線線量レベルが約1-約10,000kGyである方法を提供することである。
【0021】
一つの態様によれば、架橋ポリエチレンの製造方法であって、増感環境の存在下でのアニーリングを少なくとも約1.0気圧(atm)の周囲大気圧を上回る圧力で行い、増感分子のポリエチレンへの拡散速度を増加させることを特徴とする方法が提供される。
【0022】
他の態様によれば、増感環境の存在下でのアニーリングを高周波音波処理で行い、増感分子のポリエチレンへの拡散速度を増加させることを特徴とする方法が提供される。
【0023】
さらに他の態様にれば、放射線照射した架橋ポリエチレンの処理方法であって、ポリエチレンを増感環境と接触させ、ポリエチレンの融点を下回る温度にてアニーリングを行い、この融点を下回る温度を増感環境の存在下にて上昇させ、残留フリーラジカルの濃度を、好ましくは検出不可能なレベルまで減少させることを含んでなる方法が提供される。
【0024】
本発明の他の態様によれば、フリーラジカル濃度を減少させた改良された放射線照射架橋ポリエチレン組成物、ポリエチレンの融点を下回る温度にて、所望により増感環境で放射線照射を行い、ポリエチレンを機械的に変形させることによって残留フリーラジカルの濃度を減少させ、所望によりはポリエチレンの融点を下回る温度にて、好ましくは約135℃にてアニーリングを行い、熱応力を減少させることを含んでなる工程により製造される組成物を提供する。
【0025】
本発明の一態様によれば、ポリエチレンの機械的変形は増感環境の存在下にてポリエチレンの融点を下回る高温にて行われ、ここでポリエチレンは、そのフリーラジカル含量が減少し、好ましくは電子スピン共鳴によって検出可能な残留フリーラジカルを持たない。
【0026】
本発明の他の態様によれば、放射線照射は、空気中、または窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、および当該技術分野で知られている任意の不活性ガスからなる群から選択される不活性環境中にて行われる。
【0027】
さらに他の本発明の態様によれば、機械的変形は、一軸、チャンネルフロー、一軸圧縮、二軸圧縮、振動圧縮、引張応力(tension)、一軸引張応力、二軸引張応力、超音波振動、曲げ、平面応力圧縮 (チャンネルダイ)、または上記の任意のものの組合せであり、増感ガスの存在または非存在下にてポリエチレンの融点を下回る温度にて行われる。
【0028】
さらに他の態様によれば、ポリエチレンの機械的変形は、ポリエチレンの融点を下回り且つ室温を上回る温度、好ましくは約100℃〜約137℃であり、さらに好ましくは約120℃〜約137℃であり、さらに一層好ましくは約130℃〜約137℃であり、最も好ましくは、約135℃で行われる。
【0029】
一つの態様によれば、放射線照射架橋ポリエチレンのアニーリング温度は、ポリエチレンの融点を下回り、好ましくは約145℃未満であり、さらに好ましくは約140℃未満であり、さらに一層好ましくは約137℃未満である。
【0030】
さらに他の態様によれば、ポリエチレンの弾性率が放射線未照射の出発ポリエチレンの弾性率にほぼ等しいかまたはそれより高い放射線照射架橋ポリエチレンが提供される。
【0031】
本発明によれば、放射線照射架橋ポリエチレンの製造方法であって、ポリエチレンの融点を下回る温度にて、所望によりは増感環境にて放射線照射を行い、ポリエチレンを機械的に変形させることによって残留フリーラジカルの濃度を減少させ、所望によいポリエチレンの融点を下回る温度にて、好ましくは約135℃にてアニーリングを行って熱応力を減少させることを含んでなる方法が提供される。
【0032】
本発明の一つの態様によれば、所望により増感環境の存在下にてポリエチレンの融点を下回る高温、好ましくは約135℃にてポリエチレンを機械的に変形する方法であって、ポリエチレンのフリーラジカル含量が減少し、好ましくは電子スピン共鳴によって検出可能な残留フリーラジカルが全くないことを特徴とする方法が提供される。
【0033】
本発明の他の態様によれば、ポリエチレンを変形する方法であって、その温度がポリエチレンの融点を下回りかつ室温を上回り、好ましくは約100℃〜約137℃であり、さらに好ましくは約120℃〜約137℃であり、さらに一層好ましくは約130℃〜約137℃であり、最も好ましくは約135℃である方法が提供される。
【0034】
本発明のさらに他の態様によれば、放射線照射架橋ポリエチレン組成物を処理して残留フリーラジカルを減少させる方法であって、ポリエチレンを機械的に変形し、ポリエチレンの融点を下回る温度でアニーリングを行って熱応力を減少させ、所望により機械的変形を増感環境の存在下にて(好ましくは約135℃にて)行うことを含んでなる方法が提供される。
【0035】
本発明のさらに他の態様によれば、放射線照射架橋ポリエチレン組成物であって、ポリエチレンの融点を下回る温度にて放射線照射を行い、ポリエチレンを放射線照射ポリエチレンの融点を下回る温度にて機械的に変形して残留フリーラジカルの濃度を減少させ、融点を上回る温度にてアニーリングを行い、室温まで冷却することを含んでなる方法によって製造される、組成物が提供される。
【0036】
他の態様によれば、本発明は、放射線照射架橋ポリエチレン組成物の製造方法であって、ポリエチレンを固体または溶融状態にて機械的に変形させ、ポリエチレンを変形した状態にて結晶化/固化させ、ポリエチレンをポリエチレンの融点を下回る温度にて放射線照射し、放射線照射ポリエチレンを融点を下回る温度にて加熱することによって残留フリーラジカルの濃度を減少させ、かつ、最初の形状を回復しまたは形状メモリーを保存することを含んでなる方法を提供する。
【0037】
さらに他の態様によれば、本発明は、放射線照射架橋ポリエチレン組成物であって、ポリエチレンを固体または溶融状態にて機械的に変形させ、ポリエチレンを変形した状態にて結晶化/固化させ、ポリエチレンをポリエチレンの融点を下回る温度にて放射線照射し、放射線照射ポリエチレンを融点を下回る温度にて加熱することによって残留フリーラジカルの濃度を減少させ、かつ、最初の形状を回復しまたは形状メモリーを保存することを含んでなる方法によって製造される組成物を提供する。
【0038】
さらに他の態様によれば、本発明は、残留フリーラジカルが実質的に減少したまたは検出不可能な放射線照射架橋ポリエチレンであって、ポリエチレンの結晶化度が約51%以上であるものを提供する。
【0039】
これらおよび他の本発明の態様は、当業者には下記の説明により明らかになるであろう。
【発明の具体的説明】
【0040】
本発明は、材料をその融点を上回る温度にて加熱することなく、放射線照射ポリエチレンの残留フリーラジカルの濃度を、好ましくは検出不能なレベルまで減少させる方法に関するものである。この方法は、放射線照射ポリエチレンを増感環境と接触させ、ポリエチレンを、フリーラジカルが増感環境と反応することができる臨界温度を上回るが融点を下回る温度まで加熱することを含んでなる。この臨界温度は、ポリエチレンのアルファ遷移に相当すると思われる。ポリエチレンのアルファ遷移は通常は約90〜95℃であるが、ポリエチレンに可溶性の増感環境の存在下では、アルファ遷移は低下することがある。アルファ遷移は結晶相にて運動を誘発すると考えられ、これが増感環境のこの相への拡散を増加し、かつ/または閉じ込められたフリーラジカルを放出すると考えられている。これにより、フリーラジカルが増感ガスおよび/または液体と反応することができ、これは隣接するフリーラジカル間のカップリング剤として作用すると考えられる。
【0041】
本発明により得られる材料は、残留フリーラジカルの減少した、好ましくはフリーラジカルが検出されないが、結晶化度および弾性率に実質的に悪影響を及ぼさない架橋ポリエチレンである。
【0042】
本発明によれば、ポリエチレンを放射線照射してポリマー鎖を架橋させる。一般に、ガンマ放射線照射は高い透過度を示すが、時間がかかり、幾らかの酸化の可能性を生じる。
一般に、電子線照射は透過度は限定されるが、時間は短くてすみ、酸化の可能性は減少する。 照射線量を変化させて、最終ポリエチレン生成物の架橋度および結晶化度を制御することができる。好ましくは、約1kGyより大きな線量が用いられ、さらに好ましくは、約20kGyより大きな線量が用いられる。電子線照射を用いるときには、電子のエネルギーを変化させて電子の透過度を変化させることによって、最終生成物における架橋の透過度を制御することができる。好ましくは、エネルギー約0.5MeV〜約10MeVであり、さらに好ましくは、約5MeV〜約10 MeVである。このような変動性は、放射線照射対象が厚さまたは深さの変化する製品、例えば、医療用人工器官の関節カップであるときに、特に有用である。
【0043】
本発明は、フリーラジカル濃度が減少し、好ましくはフリーラジカルが実質的に検出されない改良放射線照射架橋ポリエチレンであって、放射線照射ポリエチレンを増感環境と接触させ、ポリエチレンの融点を下回る温度でアニーリングを行い、増感環境の存在下にて融点を下回る温度まで上昇させることによって残留フリーラジカルの濃度を、好ましくは検出不可能なレベルまで減少させることを含んでなる方法によって製造されるポリエチレンも提供する。
【0044】
本発明は、ポリエチレンの処理方法であって、ポリエチレンの結晶化度が放射線未照射の出発ポリエチレンまたは融解を施した放射線照射ポリエチレンのそれより高く、ポリエチレンの結晶化度が少なくとも約51%であり、ポリエチレンの弾性率が放射線未照射の出発ポリエチレンとほぼ同一であるかまたはそれより高いことを特徴とする方法を提供する。
【0045】
本発明は、放射線照射ポリエチレン中の残留フリーラジカルの濃度を、その融点を上回る温度まで加熱することなく、検出不能なレベルまで減少させる方法にも関する。この方法は、放射線照射試料に、融点を下回る機械的変形を施すことを伴う。変形温度は、約135℃程度であることができる。変形によって結晶格子の運動が生じ、これによって架橋によって以前に格子に閉じ込められたフリーラジカルと隣接鎖との再結合、または同じ鎖の主鎖に沿うトランス-ビニレン不飽和が形成される。変形が十分に小さな規模のものであるときには、プラスチック流れ(plastic flow)を防止することができる。結晶化度は、結果として悪化すべきではない。さらに、処理を行った成分については、機械的耐性を損失することなく機械的変形を行うことができる。本発明から生じる材料は、結晶化度および弾性率に実質的に悪影響を与えることなく、残留フリーラジカル濃度が減少した、好ましくはフリーラジカルが実質的に検出されない架橋ポリエチレンである。
【0046】
本発明はまた、変形が大きい、例えばチャンネルダイにおける圧縮比が2であることにも関する。変形は、結晶性相に閉じ込められた残留フリーラジカルに移動性を持たせるのに十分な塑性変形を提供することができる。これにより、ポリマーに異方性力学特性を提供することができる配向性を誘発し、これを移植組織片の製作に用いることもできる。所望でないならば、ポリマー配向を、融点を下回るまたは上回る増加温度での追加アニーリング工程にて除くことができる。
【0047】
本発明の他の態様によれば、放射線照射成分に高歪変形を行うことができる。このやり方で、結晶性領域に閉じ込められているフリーラジカルは、変形によって誘発される流れ中に結晶性平面が互いに通過するので、隣接結晶性平面のフリーラジカルと反応することができると思われる。超音波周波数のような高周波振動を用いて、結晶格子に運動を引き起こすことができる。この変形は、ポリエチレンの融点を下回る高温で、増感ガスの存在または非存在下で行うことができる。超音波によって導入されるエネルギーによって、全般的温度の上昇なしに結晶の可塑性(crystalline plasticity)を生じる。
【0048】
本発明は、融点を下回る温度でのフリーラジカル除去の後におけるさらなるアニーリングの方法も提供する。本発明によれば、溶融体を下回る温度でのフリーラジカルの除去は、増感ガス法および/または機械的変形法によって行われる。残留フリーラジカルが減少したまたは検出されない架橋ポリエチレンのさらなるアニーリングは、例えば
1. 機械的変形の大きさ(例えば、チャンネルダイ変形中の圧縮比2)が大きければ、分子配向が誘発されるが、これは股臼(acetabular)ライナーのようなある種の用途には望ましくないことがある。従って、機械的変形には、
a) 融点を下回る温度(例えば、約137℃未満)でのアニーリングを用いて、配向の量を減少させ、また高温での機械的変形および冷却の後に持続する可能性がある熱応力の幾らかも減少させる。アニーリングの後に、ポリエチレンを、熱応力を最小限にするのに十分遅い冷却速度(例えば、約10℃/時)で冷却するのが望ましい。所定の環境下にて、融点を下回る温度でのアニーリングが配向を減少させおよび/または熱応力を除去するのに十分でないときには、ポリエチレンをその融点を上回る温度まで加熱することができる。
b) 融点を上回る温度(例えば、約137℃を上回る)でのアニーリングを用いて、結晶性物質を除去し、ポリマー鎖を低エネルギー高エントロピー状態に弛緩させることができる。この弛緩により、ポリマーの配向が減少し、熱応力が実質的に減少する。次に、室温までの冷却は、熱応力を最小限にするのに十分遅い冷却速度(例えば、約10℃/時)で行う。
2. 他の方法では放射線照射およびそれに続く溶融の後に起こる結晶化度の減少と比較した場合の、放射線照射前、中および/または後の増感環境との接触により、結晶化度が実質的に減少しないポリエチレンを生成する。増感環境と接触したポリエチレンの結晶化度および放射線照射処理を行ったポリエチレンの結晶化度は、ポリマーを融点を上回る温度(例えば、約137℃を上回る)にてアニーリングすることによって減少する。次に、室温までの冷却は、熱応力熱応力を最小限にするのに十分遅い冷却速度(例えば、約10℃/時)にて行う。
【0049】
本明細書に記載されるように、機械的変形は放射線架橋UHMWPE中の残留フリーラジカルを除去することができることが明らかにされる。本発明はまた、最初にUHMWPEを例えば圧縮によって固体または溶融状態にて新規な形状に変形することができることを提供する。
本発明の方法によれば、UHMWPEの機械的変形を溶融状態にて行うと、ポリマーを荷重下で結晶化し、新規な変形形状を保持する。変形工程の後に、変形したUHMWPE試料を融点を下回る温度で放射線照射して架橋を行い、これにより残留フリーラジカルが生成する。これらのフリーラジカルを除去するため、放射線照射ポリマー標本を、変形した放射線照射ポリエチレンの融点を下回る温度まで(例えば、約135℃まで)加熱し、形状メモリーについて最初の形状を部分的に回復させる。一般に、最初の形状の約80-90%を回復することが予想される。この回復の際に、結晶は運動を行うことによってフリーラジカル再結合および除去を促進することができる。上記の工程は、「逆-IBMA」と呼ばれている。逆-IBMA(溶融体および機械的アニーリングを下回る温度での逆放射線照射(reverse-irradiation below the melt and mechanicalannealing))法は、UHMWPEをベースとする医療装置の大規模生産という点において、適当な方法であるといえる。
【0050】
これらおよび他の本発明の態様は、下記の説明を考慮すれば、当業者には明らかになるであろう。
【0051】
「増感環境」とは、残留フリーラジカルと反応して残留フリーラジカルの再結合を促進することができる(複数の)増感ガスおよび/または液体成分を含む、(室温の)ガスおよび/または液体の混合物を表す。ガスは、アセチレン、クロロ-トリフルオロエチレン(CTFE)、エチレンなどであることができる。ガスまたはそれらのガスの混合物は、窒素、アルゴン、ネオンなどの希ガスを含むことができる。二酸化炭素または一酸化炭素のような他のガスは、上記混合物に含まれていてもよい。装置製造の際に処理材料の表面を加工する用途にあっては、ガス混合物は酸素のような酸化性ガスを含むこともできる。増感環境は、様々な炭素数を有するジエン、またはそれらの液体および/またはガスの混合物であることができる。増感液体成分の一例はオクタジエンまたは他のジエンであり、それらは他の増感液体および/またはヘキサンまたはヘプタンのような非増感液体と混合することができる。増感環境としては、アセチレン、エチレン、または同様なガスまたはガスの混合物のような増感ガス、または増感液体、例えば、ジエンを挙げることができる。この環境は、室温から材料の融点を下回る温度までの温度に加熱する。
【0052】
「残留フリーラジカル」とは、ポリマーをガンマまたは電子ビーム(e-beam)放射線照射のような電離線に暴露するときに生成するフリーラジカルを表す。フリーラジカルの幾らかは互いに再結合して架橋結合を形成するが、幾らかは結晶性領域に閉じ込められる。閉じ込められたこのようなフリーラジカルはまた、残留フリーラジカルとしても知られている。
【0053】
「実質的に検出不可能な残留フリーラジカル」という用語は、電子スピン共鳴(ESR)によって測定したとき、検出可能なフリーラジカルがないことまたは実質的に残留フリーラジカルがないことを表す。最先端技術(state of fart)を用いた装置にて検出可能なフリーラジカルの最低レベルは約1014スピン/グラムであり、従って、「検出可能」という用語はESRによる1014スピン/グラムの検出限界を表す。
【0054】
数値および範囲に関して「約」または「近似的に」という用語は、本発明が意図した通りに行うことができる列記した値または範囲に近づくまたは接近している値または範囲を表し、本明細書に記載の教示から当業者によって明らかなように、所望の架橋度を有し、および/またはフリーラジカルの所望の不足を有するものである。これは、少なくとも部分的には、ポリマー組成物の特性が変化することによる。従って、これらの用語は、系統的誤差から生じる値の範囲を超えた値を包含する。
【0055】
「アルファ遷移」という用語は遷移温度を表し、通常は約90-95℃であるが、ポリエチレンを溶解する増感環境の存在下では、アルファ遷移は低下することがある。アルファ遷移(「α遷移温度」の説明は「ポリマー性固体における非弾性および誘電効果(Anelastic and Dielectric Effects in Polymeric Solids)」, 141-143頁, N.G. McCrum, B.E. Read and G. Williams著; J. Wiley and Sons, N.Y., N.Y., 1967年刊に見出すことができる)によって結晶性相の運動が誘発されると考えられており、これによりこの相への増感環境の拡散が増加し、および/または閉じ込められたフリーラジカルが放出されると考えられる。
【0056】
「臨界温度」は、ポリエチレンのアルファ遷移に相当する。
【0057】
「融点を下回る」または「溶融体を下回る」という用語は、ポリエチレン、例えば、UHMWPEの融点を下回る温度を表す。「融点を下回る」または「溶融体を下回る」という用語は、145℃未満の温度を表し、これはポリエチレンの融点によって変化することがあり、例えば、145℃、140℃または135℃であり、これはまた処理を行うポリエチレンの特性、例えば、分子量平均値および範囲、バッチ変動などによって変化する。融解温度は、典型的には示差走査熱量計(DSC)を用い、10℃/分の加熱速度にて測定する。このようにして測定されるピーク融解温度は融点として表され、幾つかの等級のUHMWPEについては、例えば、約137℃である。出発ポリエチレン材料について融解研究を行い、融解温度を決定し、放射線照射およびアニーリング温度を決定するのが望ましいことがある。
【0058】
「圧力」という用語は、増感環境中におけるアニーリングのための、少なくとも約1気圧の周囲圧を上回る大気圧を表す。
【0059】
「アニーリング」という用語は、そのピーク融点を下回る温度でポリマーを加熱することを表す。アニーリング時間は、少なくとも1分から数週間とすることができる。一態様によれば、アニーリング時間は、約4時間〜約48時間、好ましくは24〜48時間、さらに好ましくは約24時間である。機械的変形後に所望な程度に回復するのに要するアニーリング時間は、通常は低めのアニーリング温度では長くなる。「アニーリング温度」は、本発明によるアニーリングの熱的条件を表す。
【0060】
「接触した」という用語は、意図した増感剤がその目的とする機能を行うことができるほどの物理的接近または接触を包含する。好ましくは、ポリエチレン組成物またはプレフォームを、増感剤に浸漬されるほどに十分接触させ、これにより接触が十分となる。浸漬は、試料を特殊環境に適当な温度にて十分な時間置くことと定義される。環境としては、アセチレン、エチレン、または同様なガスまたはガスの混合物のような増感ガス、または増感液体、例えば、ジエンが挙げられる。環境は、室温から材料の融点を下回る温度までの範囲の温度に加熱する。接触期間は、少なくとも約1分から数週間までの範囲であり、期間は環境の温度によって変化する。一態様によれば、室温での接触時間は約24時間〜約48時間であり、好ましくは約24時間である。
【0061】
「機械的変形」という用語は、材料の融点を下回る温度にて起こる変形を表し、本質的には材料の「冷間加工」を表す。変形様式としては、一軸、チャンネルフロー、一軸圧縮、二軸圧縮、振動圧縮、引張応力、一軸引張応力、二軸引張応力、超音波振動、曲げ、平面応力圧縮 (チャンネルダイ)、または上記の任意のものの組合せが挙げられる。変形は、静的または動的であることができる。動的変形は、小さなまたは大きな振幅振動様式での変形様式の組合せであることができる。超音波周波数を用いることができる。総ての変形は、増感ガスの存在下および/または高温にて行うことができる。
【0062】
「変形した状態」という用語は、本明細書に記載されているように、固体または融解時の機械的変形のような変形工程後のポリエチレン材料の状態を表す。変形工程後に、固体状態または融解時の変形したポリエチレンを、変形した形状または新たに得られた変形した状態を保持したまま、固化/結晶化させる。
【0063】
「IBMA」とは、溶融および機械的アニーリングを下回る温度での放射線照射を表す。「IBMA」は、以前は「CIMA」(低温照射および機械的アニーリング)と呼ばれていた。
【0064】
10〜100kHzの周波数範囲での音波処理または超音波を、1〜50ミクロンのオーダーの振幅にて用いる。音波処理の時間は、音波処理の周波数および温度によって変化する。一態様によれば、音波処理または超音波周波数は約1秒〜約1週間、好ましくは約1時間〜約48時間の範囲であり、さらに好ましくは約5時間〜約24時間の範囲であり、さらに一層好ましくは約12時間である。
【0065】
超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)とは、分子量が約500,000g/モルを超過し、好ましくは約1,000,000g/モルを上回り、さらに好ましくは約2,000,000g/モルを上回るエチレンの鎖を意味する。分子量が約8,000,000g/モル以上に達することができることが多い。初期平均分子量とは、放射線照射を行う前のUHMWPE出発材料の平均分子量を意味する。UHMWPEの特性については、米国特許第5,879,400号明細書であって、1999年7月16日出願のPCT/US99/16070号明細書であるWO20015337号明細書、および1997年2月11日出願のPCT/US97/02220号明細書であるWO 9729793号明細書を参照されたい。
【0066】
「結晶化度」とは、結晶性であるポリマーの割合を意味する。結晶化度は、試料の重量(グラム数での重量)、融解において試料によって吸収される熱(E, J/g)、およびポリエチレン結晶の融解の熱(ΔH=291J/g)を知り、下記の式:
%結晶化度=E/w・ΔH
を用いることによって計算される。
【0067】
引張「弾性率」とは、標準試験ASTM 638 M IIIなど、またはそれらの後継法を用いて決定される歪についての名目上の応力対相当する歪の比を意味する。
【0068】
「通常のUHMWPE」という用語は、分子量が約500,000より大きい市販のポリエチレンを表す。好ましくは、UHMWPE出発材料は、平均分子量が約2百万より大きい。
【0069】
「初期平均分子量」とは、放射線照射を行う前のUHMWPE出発材料の平均分子量を意味する。
【0070】
本発明における「界面」という用語は、移植組織片が、ポリエチレンが(金属またはポリマー成分のような)別の断片と機能的関係にあり、ポリマーと金属または別のポリマー材料との間に界面を形成する形態であるときに形成される医療装置のニッチとして定義される。例えば、整形外科用関節および骨代替部品、例えば股関節、膝関節、肘または足関節代替品のような医療用プロテーゼにおけるポリマー-ポリマーまたはポリマー-金属の界面が挙げられる。ポリエチレンと緊密に接触する、工場にて組み立てられた断片を含む医療用移植組織片は、界面を形成する。ほとんどの場合に、ガス滅菌工程中に、界面はエチレンオキシド(EtO)ガスまたはガスプラズマ(GP)の影響を受けない。
【0071】
ポリマー材料と界面を形成する断片は、金属であることができる。本発明によれば、ポリエチレンと機能的関係にある金属片は、例えば、コバルトクロム合金、ステンレススチール、チタン、チタン合金、またはニッケルコバルト合金から作製することができる。
【0072】
本発明による生成物および方法は、様々な種類のポリマー材料、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、UHMWPE、およびポリプロピレンにも適用される。
【0073】
本発明を、下記の例によって更に説明するが、これらの例は発明を制限するものではない。
【実施例】
【0074】
例1. 試料調製におけるチャンネルダイセットアップ
図1について説明すると、試験試料「A」を、最初にチャンネルダイBと共に所望な温度に加熱する。次に、チャンネルダイ「B」を圧縮成型用鋳型に入れ、加熱した試料Aをチャンネルに入れて、センタリングする。プランジャー「C」については、これも好ましくは同一温度まで加熱したものを、チャンネルに入れる。次に、試料「A」を、プランジャー「C」を所望な圧縮比まで押し込むことによって圧縮する。試料は、プランジャーの荷重を除くと、弾性回復を示す。試験試料の圧縮比λ(最終高さ/初期高さ)を、弾性回復後のチャンネルダイ変形の後に測定する。流れ方向(FD)、壁方向(WD)、および圧縮方向(CD)は、図1で印を付けた通りである。
【0075】
例2. アルファ遷移を下回る温度での増感ガスの熱間照射
超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)の試験試料または完成医療製品を(ポリエチレン積層アルミニウム箔のような)ガス不透過性ポーチに入れ、増感ガスにて置換し、さらにパッケージを実質的に満たしている増感ガスにて封印する。次に、パッケージを室温と90℃の間の温度に加熱する。次に、パッケージを、電子ビームまたはガンマ線照射を用いて、その加熱温度にて放射線照射を行う。
【0076】
例3. アルファ遷移を下回る温度での増感ガスを用いる熱間照射およびこれに続く増感ガス中でのアニーリング
UHMWPEの試験試料または完成医療製品を(ポリエチレン積層アルミニウム箔のような)ガス不透過性ポーチに入れ、増感ガスにて置換し、さらにパッケージを実質的に満たしている増感ガスにて封印する。次に、パッケージを室温と90℃の間の温度に加熱する。次に、パッケージを、電子ビームまたはガンマ線照射を用いて、その加熱温度にて放射線照射を行う。次に、パッケージを、ポリエチレンの融点を下回る温度にてアニーリングする。
【0077】
例4. アルファ遷移を上回りかつ融点を下回る温度での増感ガスを用いる熱間照射
UHMWPEの試験試料を(ポリエチレン積層アルミニウム箔のような)ガス不透過性ポーチに入れ、増感ガスにて置換し、パッケージを実質的に満たしている増感ガスにて封印する。
次に、パッケージを90℃と融解温度(約145℃)の間の温度に加熱する。次に、パッケージを、電子ビームまたはガンマ線照射を用いて、その加熱温度にて放射線照射を行う。
【0078】
例5. アルファ遷移を上回りかつ融点を下回る温度での増感ガスを用いる熱間照射およびこれに続く増感ガス中でのアニーリング
UHMWPEの試験試料を(ポリエチレン積層アルミニウム箔のような)ガス不透過性ポーチに入れ、増感ガスにて置換し、パッケージを実質的に満たしている増感ガスにて封印する。
次に、パッケージを90℃と融解温度(約145℃)の間の温度に加熱する。次に、パッケージを、電子ビームまたはガンマ線照射を用いて、その加熱温度にて放射線照射を行う。次に、パッケージを、ポリエチレンの融点を下回る温度にてアニーリングする。
【0079】
例6. 残留フリーラジカルの濃度を減少させるための高温での5%/95%アセチレン/窒素ガス混合物との照射後接触
GUR 1050ラム式押出を行ったUHMWPEバーストック(直径3.5")を4cmの厚みのシリンダーに加工した。シリンダーを、Impela-10/50 AECL 10MeV電子ビーム加速器(E-Beam Services, Cranberry NJ)を用いて空気中で100kGyの線量レベルまで放射線照射を行った。照射したシリンダーを、2mmの厚みの断片に加工した。試験試料を、3x3x2mmの寸法の断片を用いて調製した。試験試料を、ポリエチレン積層アルミニウム箔ポーチに入れた(3個の試験試料/ポーチ)。3個のポーチは、真空に引くことによって5%アセチレン/95%窒素ガス混合物(BOC Gas, Medford, MA)で置換した後、ポーチにガス混合物を3回逆充填した。ポーチを封印して、アセチレン/窒素ガス混合物にて若干陽圧中に放置した。四番目のポーチを100%窒素ガスで同一の方法を用いて置換し、パッケージ内部の窒素ガスにて若干陽圧にして封印した。
【0080】
次に、アセチレン/窒素を充填したポーチ2個と窒素充填ポーチを、100℃の対流オーブンに24時間入れた。他のアセチレン/窒素充填ポーチを、周囲温度に24時間保持した。次に、ポーチを開いて、試験試料を電子スピン共鳴によって分析し、標本中の残留フリーラジカルの濃度を測定した。空気中に室温にて放置した3個の追加試験試料の組も、電子スピン共鳴を用いて分析した。結果を、表1に示す。
【0081】
結果は、室温にて24時間5%アセチレン/95%窒素ガス混合物中で放置した放射線照射試験試料は、室温にて24時間空気中で保管した試験試料と同様に、かなりの残留フリーラジカルを有することを示している。100℃にて24時間100%窒素ガスに放置した試験試料は、残留フリーラジカル濃度の若干の減少を示した。100℃にて24時間5%アセチレン/95%窒素ガス混合物中に放置した試験試料では、残留フリーラジカルが実質的に検出されなかった。
従って、窒素への5%アセチレンの添加は、100kGyの電子ビーム照射の後に残留フリーラジカルの濃度を検出不能なレベルまで減少させるのに十分である。
【0082】
【表1】

【0083】
例7. 室温での増感ガスの存在下での完成したポリエチレン医療装置の放射線照射
医療装置を通常のUHMWPEから調製し、ガス透過性材料(例えば、Tyvek)に包装する。次に、これをガス不透過性パッケージング(例えば、箔積層パッケージング)に入れる。次に、このパッケージを増感大気を用いて数回置換し、その大気に封入する。次に、この全組み立て品を、ガンマ線照射または電子ビームを用いて1〜1000kGyの線量レベルまで照射する。照射の後、全組み立て品をアニーリングする。アニーリング温度は、パッケージングが無傷のままでありかつ外側と成分との間の密封の少なくとも1つのレベルが破壊されず、医療装置成分の無菌性が保持されるように選択される。次に、成分を外科使用のために出荷する。所望ならば、残っている増感ガスを出荷前に除去する。増感ガスの除去は、パッケージに孔をあけるか、または外側の箔ポーチを除去してガス透過性の内部パッケージ中の成分を出荷することによって行う。
【0084】
例8. 完成したポリエチレン医療装置における残留フリーラジカルの減少
残留フリーラジカルを含むポリエチレンから製造した医療装置を増感大気中に入れ、ポリエチレンの融点を下回る大気中にてアニーリングを行い、残留フリーラジカルの濃度を少なくとも実質的に検出不可能なレベルまで減少させる。
【0085】
例9. 放射線照射ポリエチレンのチャンネルダイ変形
超高分子量ポリエチレンの試験試料に、電子ビームまたはガンマ放射線を用いて室温にて照射する。次に、試料を120℃のチャンネルダイに入れ、一軸圧縮変形にて2倍だけ変形する。電子スピン共鳴によって測定した残留フリーラジカル濃度を、120℃にて同じ時間固定した試料と比較する。
【0086】
例10. 増感環境と接触した放射線照射ポリエチレンのチャンネルダイ変形
超高分子量ポリエチレンの試験試料に、電子ビームまたはガンマ放射線を用いて室温にて照射する。試料を、アセチレンのような増感ガスと飽和するまで接触させる。次に、試料を120℃のチャンネルダイに入れ、一軸圧縮変形にて2倍だけ変形する。電子スピン共鳴によって測定した残留フリーラジカル濃度を、120℃にて同じ時間固定した試料と比較する。
【0087】
例11. 機械的アニーリングを伴う熱間放射線照射
超高分子量ポリエチレンの試験試料に、電子ビーム放射線を120℃にて断熱的に(すなわち、環境に重大な熱の損失なく)照射する。次に、試料を120℃のチャンネルダイに入れ、一軸圧縮変形にて2倍だけ変形する。電子スピン共鳴によって測定した残留フリーラジカル濃度を、120℃にて同じ時間固定した試料と比較する。
【0088】
例12. 大きなポリエチレン試験試料での残留フリーラジカルの濃度を減少させるための高温にて混合した5%/95%アセチレン/窒素ガスの存在下での後照射アニーリング
GUR 1050ラム式押出を行ったUHMWPEバーストック(直径3.5")を4cmの厚みのシリンダーに加工した。シリンダーを、Impela-10/50 AECL 10MeV電子ビーム加速器(E-Beam Services, Cranberry NJ)を用いて空気中で75kGyの線量レベルまで放射線照射を行った。照射したシリンダーを、約2x2x2cm3の寸法の試験試料に加工した。試験試料を、2個のポリエチレン積層アルミニウム箔ポーチに入れた。1個のポーチは、真空に引くことによって5%アセチレン/95%窒素ガス混合物(BOC Gas, Medford, MA)にて置換した後、ポーチにガス混合物を3回逆充填した。ポーチを封印して、アセチレン/窒素ガス混合物の若干陽圧中に放置した。二番目のポーチを100%窒素ガスにて同一の方法を用いて置換し、パッケージ内部の窒素ガスを若干陽圧にして封印した。
【0089】
次に、両ポーチを、133℃の対流オーブンに24時間入れた。次に、ポーチを開いて、試験試料をさらに加工し、電子スピン共鳴による分析用の標本を調製した。これらの標本は、試験試料の本体中心近くにて調製した。
【0090】
ESR分析では、5%/95%アセチレン/窒素ガス混合物と接触させながらアニーリングした放射線照射ポリエチレンから調製した標本では、フリーラジカルはほとんど検出されないことが示された。100%窒素中にてアニーリングした試験試料から調製した標本はフリーラジカルシグナルを示し、定量したところ6x10l4スピン/gとなった。
【0091】
この試料は、5%アセチレンのような増感ガスが低濃度であっても存在すれば、典型的にはポリエチレン整形外科用移植組織片の寸法を有する大きな試験試料中の残留フリーラジカルの濃度を、この試験試料をその融点を上回る温度に加熱することなく減少させることができることを示している。このフリーラジカル濃度の減少は、同じ放射線照射ポリエチレンを100%窒素の存在下にて同一熱履歴を施すことによって得られる減少を上回る。
【0092】
例13. 残留フリーラジカルの濃度を減少させるための高温での照射後機械的変形
GUR 1050ラム式押出を行ったUHMWPEバーストック(直径3.5")を4x4x4cmの寸法の立方体に加工した。立方体に、窒素中で75kGyの線量レベルまでガンマ線照射を行った。照射した立方体を、約2x2x1cmの寸法の試験試料に加工した。2個の試験試料を空気対流オーブンに入れ、空気中で135℃にて一晩(約10時間以上)加熱した。次に、試験試料の一方をアルミニウムチャンネルダイに入れ、これを135℃に加熱して、圧縮比λが約2までプレスした。次に、圧力を解いて、試料を室温まで放冷した。他方の試験試料は、単に対流オーブンから取り出し、機械的変形なしで室温まで冷却した。
【0093】
これらの試験試料を、両方ともさらに加工した。加熱のみを施した試験試料を切断して、5mmの長さのスライバー(断面が約2x2mm)を本体中心から取り出した。加熱およびチャンネルダイ圧縮を施した他の試料を切断して、5mmの長さのスライバー(断面が約2x2mm)を本体中心から取り出した。スライバーの長軸は、チャンネルダイの流れ方向に平行であった。次に、これらのスライバーを両方とも、電子スピン共鳴により分析した。
【0094】
ESR分析では、135℃に一晩加熱した試験試料から調製したスライバーではフリーラジカルシグナル(これを定量したところ、2x1015スピン/gであった)を示した。対照的に、135℃に一晩加熱してその温度にてチャンネルダイ(λ=2)にて機械的に変形した試験試料から調製したスライバーは、検出可能な残留フリーラジカルを示さなかった。この例では、高温における機械的変形が残留フリーラジカルの濃度を減少させることが確かめられる。
【0095】
例14. 示差走査熱量分析法(DSC)による結晶化度の測定
示差走査熱量分析法(DSC)を用いて、ポリエチレン試験試料の結晶化度を測定した。DSC標本は、特に断らない限り、ポリエチレン試験試料の本体中心から調製した。
【0096】
DSC標本の重量をAND GR202天秤を用いて0.01mgの秤量限界まで測定し、アルミニウム試料皿に置いた。皿をアルミニウムカバーにてクリンプして、TA Instruments Q-1000 Differential Scanning Calorimeterに入れた。標本を最初に0℃まで冷却し、0℃で5分間保持し、熱平衡に到達させた。次に、標本を、10℃/分の加熱速度にて200℃まで加熱した。
【0097】
次に、ジュール/gにて測定した融解のエンタルピーを、20℃から160℃までのDSCトレースを積分することによって計算した。結晶化度は、100%結晶性ポリエチレンの融解の理論エンタルピーによって融解のエンタルピーを規格化することによって決定した(291ジュール/g)。当業者には明らかなように、本発明の教示によれば、他の適当な積分を用いることもできる。
【0098】
ポリエチレン試験試料の本体中心近くから得た3個の標本の平均結晶化度を、標準偏差と共に記録する。
【0099】
Q1000 TA Instruments DSCを、温度およびエンタルピー測定用のインジウム標準を用いて、毎日較正する。
【0100】
例15. 放射線照射および高温でのチャンネルダイ変形の後のポリエチレンの結晶化度測定 GUR 1050圧縮成形したUHMWPEバーストックを、4x4x4cmの寸法の立方体に加工した。立方体に、窒素中にて75kGyの線量レベルまでガンマ線照射を行った。照射した立方体を、約2x2x1cmの寸法の試験試料に加工した。1個の試験試料(C JMA-12)を空気対流オーブンに入れ、空気中で135℃にて一晩(10時間)加熱した。次に、試験試料をアルミニウムチャンネルダイに入れ、これを135℃まで加熱して、圧縮比λが約2までプレスした。次に、圧力を放出して、試料を室温まで放冷した。
【0101】
圧縮した試験試料をさらに加工して、結晶化度の決定に用いる本体中心付近からの標本を調製した。本体中心付近から得られた3個のこのような標本を、TA Instruments Differential Scanning Calorimeterを用いて10℃/分の加熱速度および0℃〜200℃の温度走査範囲にて分析した。
【0102】
次に、融解のエンタルピー(ジュール/g)を、20℃から160℃までのDSCトレースを積分することによって計算した。結晶化度は、100%結晶性ポリエチレンの融解の理論エンタルピーによって融解のエンタルピーを規格化することによって決定した(291ジュール/g)。
【0103】
試験試料の本体中心近くから得た3個の標本の平均結晶化度は58.9%であり、標準偏差は0.7であった。
【0104】
例16. 放射線照射を行い機械的に変形したポリエチレン試料のフリーラジカル濃度および熱酸化エージングまたは加速エージング挙動
GUR 1050圧縮成形したUHMWPEバーストックを4x4x4cmの寸法の立方体に加工した。この立方体に、窒素中で75kGyの線量レベルまでガンマ線照射を行った。照射した立方体を、約2x2x1cmの寸法の試験試料に加工した。1個の試験試料(CIMA-28)を空気対流オーブンに入れ、空気中で135℃にて4時間加熱した。次に、試験試料をアルミニウムチャンネルダイに入れ、これを135℃に加熱して、圧縮比λが約2までプレスした。次に、圧力を解いて、試料を再度空気対流オーブンに入れ、さらに4時間135℃にて加熱し、塑性変形のほとんどが回復した。
【0105】
チャンネルダイの流れ方向に標本の長軸を有する本体中心付近にて3x3x10mmの断片を切断することによって、標本を調製した(図2のA参照)。標本をを電子スピン共鳴によって分析したが、フリーラジカルは検出されなかった。試験試料の残りの半分をさらに加工して、1x1x1cmの寸法の立方体を得た。次に、この立方体標本(図2のB参照)に、80℃の空気対流オーブンにて熱酸化エージングまたは加速エージングを3週間行った。残留フリーラジカルがあるときには、このエージング法によりポリエチレンの酸化が誘発される。エージングが完了したならば、立方体標本を半分に切断して、ミクロトームにより200マイクロメートルの厚みの切片を取り出す。次に、この切片を、図2に示されるようにミクロトーム切片の端からの深さの関数としてBioRad UMA500赤外顕微鏡を用いて分析した。この方法にて集めた赤外スペクトルには、ミクロトーム処理した切片中に検出可能なカルボニル振動は見られず、検出可能な酸化はないことを示していた。エージングした試験試料の結晶化度も、例14に上記したDSC法を用いて上記のエージング試験試料から切断した3個の標本を用いて決定した。融解エンタルピーをDSCトレースを20℃から160℃まで積分することによって計算したときには、3個の標本の結晶化度は平均して59.2%であり、標準偏差は0.9であった。
【0106】
エージング法は、放射線照射に続いて高温での機械的変形により、残留フリーラジカルの濃度が顕著に減少しかつ放射線照射ポリエチレンの熱酸化安定性が増加することを示している電子スピン共鳴の結果をさらに支持するものであった。
【0107】
例17. 高温でのチャンネルダイ圧縮を用いるフリーラジカル減少後のアニーリング
GUR 1050 UHMWPEバーストックを、窒素中にて75kGyの線量レベルまでガンマ線照射した。次に、照射したブロックを、約2x2x1cmの寸法のブロックに加工した。これらのブロックの2個を、133℃の空気対流オーブンに4時間入れた。次に、これらの加熱ブロックを両方とも、133℃に加熱したチャンネルダイにて圧縮した。圧縮比λ=初期高さ/最終高さは、約2であった。これらのブロックを室温まで冷却した後に、それらの寸法を測定し、記録した(表2参照)。
【0108】
次に、ブロックの一方(表2のブロックI)を加重を加えずに135℃にて16時間アニーリングし、室温まで冷却した。このアニーリングサイクルに続いて、ブロックの寸法を表2に示すように再度測定した。この観察は、塑性変形が融点を下回る温度でのアニーリングによって著しく回復することを示している。
【0109】
他のブロック(表2のブロックII)を加重を加えずに150℃にて6時間アニーリングし、室温まで冷却した。このアニーリングサイクルに続いて、ブロックの寸法を表2に示すように再度測定した。この観察は、塑性変形が融点を上回る温度でのアニーリングによってほぼ完全に回復することを示している。
【0110】
【表2】

【0111】
例18. 加熱して機械的に変形した放射線照射架橋ポリエチレン対放射線照射架橋加熱ポリエチレンの熱酸化または加速老化挙動
GUR 1050 UHMWPEバーストックを、9x9x4cmのブロックに加工した。これらのブロックに、真空パッケージ中にて100kGyまでガンマ線照射を行った。次に、ブロックを19mmの立方体に加工した。
【0112】
4群の立方体(各温度についてn=2)を、それぞれ125℃、128℃、132℃または135℃にて1時間加熱した。次いで、それぞれの加熱立方体を室温に保持された2個の平らなアルミニウムプレートの間で圧縮比λ 4.5まで機械的に変形した。圧縮変位をこの点に5分間保持し、応力緩和を起こさせた。この点において変位定数を保持するのに要する加重を観察した。5分後までに、加重は減少して定常状態に達し、この点において試料をプレスから取り出した。次に、総ての変形した立方体を135℃にて1時間アニーリングして、変形を部分的に回復した。次に、試料を圧縮の方向で半分に加工して、加速エージングのための内部表面を露出させた。
【0113】
別の4群の立方体(それぞれの群についてn=2)を調製し、変形履歴のない熱コントロールとして用いた。これらの立方体に、上記の4群と同じ熱履歴を施した。すなわち、4群を、それぞれ125℃、128℃、132℃または135℃にて1時間加熱した。次いで、立方体を室温まで冷却し、135℃にて1時間アニーリングした。次に、熱コントロール試料を圧縮の方向で半分に加工して、加速エージングのための内部表面を露出させた。
【0114】
加速エージング試験標本を80℃の空気対流オーブンに入れ、6週間エージングした。エージングが完了したならば、試料を半分に切断し、200μmの厚みの切片を取り出した。
この薄い切片を、エージングの際に空気と接触した露出した内部自由表面からの距離の関数として100μm間隔でBioRad UMA 500赤外顕微鏡を用いて走査した。その走査によって、最大カルボニル振動の位置を見出した。この最大カルボニル位置にて収集した赤外スペクトルを用いて、このエージング立方体に酸化指数を割り当てた。指数での酸化は、1370cm-1振動下の面積に対してカルボニル振動下の面積を規格化することによって計算した。
試料の酸化が高くなれば、カルボニル振動は強くなり、その結果酸化指数は高くなる。
【0115】
4群の変形試料の酸化指数は、0.03未満であった。対照的に、熱コントロール群は、それぞれ125℃、128℃、132℃または135℃の予熱温度に対して1.3、1.2、1.2および1.3の酸化指数を示した。
【0116】
上記の結果に基づいて、加熱のみ(融点を下回る)では、放射線照射し架橋したポリエチレンの耐酸化性を、加熱後に変形を行う場合と同じ程度までは改良しないと結論される。
【0117】
典型的態様を指摘しながらの説明、具体例、およびデーターは例示として挙げられ、本発明を制限しようとするものではないことを理解すべきである。本発明の範囲内での様々な変更および修飾は、本明細書に記載の討論、開示、およびデーターから当業者に明確になるであろうし、従って、本発明の一部であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本明細書で開示される例に記載の幾つかの試料の製造に用いるチャンネルダイのセットアップの略図である。試験試料Aを最初にチャンネルダイBと共に所望な温度に加熱する。次に、チャンネルダイBを圧縮成型用鋳型に入れ、加熱した試料Aをチャンネルに入れて、センタリングする。プランジャーCであって、これも好ましくは同一温度まで加熱したものを、チャンネルに入れる。次に、試料Aを、プランジャーCを所望な圧縮比まで押し込むことによって圧縮する。流れ方向(FD)、壁方向(WD)、および圧縮方向(CD)は、印を付けた通りである。
【図2】酸化エージング(aging)または加速エージング法、およびその後の残留フリーラジカルの測定の略図である。標本は、チャンネルダイの流れ方向で標本の長軸について本体中央付近で3mm x 3mm x 10mmの断片を切断することによって調製する(A参照)。次に、標本を電子スピン共鳴によって残留フリーラジカルについて分析する。試験試料の残りの半分をさらに加工して、大きさが1cm x 1cm x 1cmの立方体を得る。次に、この立方体標本(B参照)を、80℃の空気対流オーブン中で3週間熱酸化エージングまたは加速エージングを施す。このエージングの方法により、残留フリーラジカルがある場合には、ポリエチレンの酸化が誘発される。エージングが完了したならば、立方体標本を半分に切断し、ミクロトームにより200マイクロメートルの厚みの切片を取り出す。次に、この切片を、図において矢印で示されるようにミクロトーム切片の端からの深さの関数としてBioRad UMA500赤外顕微鏡を用いて分析する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) ポリエチレンの融点を下回る温度にて放射線照射し、かつ、
b) 放射線照射ポリエチレンの融点を下回る温度にて該ポリエチレンを機械的に変形することによって、残留フリーラジカルの濃度を減少させること
を含んでなる方法によって製造される、放射線照射架橋ポリエチレン組成物。
【請求項2】
変形したポリエチレンを、変形した状態において結晶化させた、請求項1に記載のポリエチレン。
【請求項3】
ポリエチレンを、結晶化の後に融点を下回る温度にてアニーリングした、請求項2に記載のポリエチレン。
【請求項4】
ポリエチレンが、電子スピン共鳴によって検出可能な残留フリーラジカルを実質的に全く閉じこめていないものである、請求項1に記載のポリエチレン。
【請求項5】
ポリエチレンの結晶化度が、出発の放射線未照射ポリエチレンのそれにほぼ等しいか、またはそれを上回るものである、請求項1に記載のポリエチレン。
【請求項6】
ポリエチレンの結晶化度が、融解した出発の放射線照射ポリエチレンのそれにほぼ等しいか、またはそれを上回るものである、請求項1に記載のポリエチレン。
【請求項7】
ポリエチレンの結晶化度が少なくとも約51%である、請求項1に記載のポリエチレン。
【請求項8】
ポリエチレンの弾性率が、放射線未照射の出発ポリエチレンのそれと等しいか、またはそれを上回るものである、請求項1に記載のポリエチレン。
【請求項9】
ポリエチレンの弾性率が、融解した出発の放射線照射ポリエチレンのそれとほぼ等しいかまたはそれを上回るものである、請求項1に記載のポリエチレン。
【請求項10】
出発ポリエチレン材料が圧縮ストックの形態である、請求項1に記載のポリエチレン。
【請求項11】
出発ポリエチレン材料が完成品である、請求項1に記載のポリエチレン。
【請求項12】
完成品が医療用人工器官である、請求項11に記載のポリエチレン。
【請求項13】
ポリエチレンがポリオレフィンである、請求項1に記載のポリエチレン。
【請求項14】
低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、またはそれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項13に記載のポリオレフィン。
【請求項15】
ポリエチレンが金属片と緊密に接触しているものである、請求項1に記載のポリエチレン。
【請求項16】
コバルトクロム合金、ステンレススチール、チタン、チタン合金、またはニッケルコバルト合金である、請求項15に記載の金属片。
【請求項17】
ポリエチレンが別のポリエチレンまたは金属片と機能上関連していることによって、界面を形成するものである、請求項1に記載のポリエチレン。
【請求項18】
前記界面が酸化エチレンガスまたはガスプラズマの影響を受けないものである、請求項17に記載のポリエチレン。
【請求項19】
前記機械的変形が、一軸、チャンネルフロー、一軸圧縮、二軸圧縮、振動圧縮、引張応力、一軸引張応力、二軸引張応力、超音波振動、曲げ、平面応力圧縮(チャンネルダイ)、またはそれらの組合せである、請求項1に記載のポリエチレン。
【請求項20】
前記機械的変形が、放射線照射ポリエチレンの融点を下回る高温での超音波振動によって行われる、請求項1に記載のポリエチレン。
【請求項21】
前記機械的変形が、増感ガスの存在下にてポリエチレンの融点を下回る高温での超音波振動によって行われる、請求項1に記載のポリエチレン。
【請求項22】
前記変形温度が約140℃未満である、請求項1に記載のポリエチレン。
【請求項23】
a) ポリエチレン組成物を増感環境と接触させ、
b) ガンマまたは電子ビーム放射線を照射し、および
c) 前記組成物を増感環境の存在下にてポリエチレン組成物の融点を下回る温度にさらすことによって、フリーラジカルの含量を減少させること
を含んでなる方法によって製造される、放射線照射架橋ポリエチレン組成物。
【請求項24】
ポリエチレンを増感環境と接触させた後に放射線照射を行う、請求項23に記載のポリエチレン。
【請求項25】
増感環境がアセチレン、クロロ-トリフルオロエチレン(CTFE)、トリクロロフルオロエチレン、エチレンガス、またはそれらの希ガスを含む混合物である、請求項23に記載のポリエチレン。
【請求項26】
窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、および当該技術分野で知られている任意の不活性ガスからなる群から選択されるものである、請求項25に記載の希ガス。
【請求項27】
ガスがアセチレンと窒素の混合物である、請求項25に記載の環境。
【請求項28】
混合物が約5体積%のアセチレンおよび約95体積%の窒素から構成されるものである、請求項25に記載の環境。
【請求項29】
増感環境が様々な炭素数を有するジエン、またはそれらの液体の混合物である、請求項23に記載のポリエチレン。
【請求項30】
ポリエチレンの結晶化度が少なくとも約51%である、請求項23に記載のポリエチレン。
【請求項31】
フリーラジカル含量が減少し、かつポリエチレンの結晶化度が少なくとも約51%であることを特徴とする、放射線照射架橋ポリエチレン組成物。
【請求項32】
放射線照射架橋ポリエチレン組成物の製造方法であって、
a) ポリエチレンの融点を下回る温度にて放射線照射を行い、
b) 放射線照射ポリエチレンの融点を下回る温度にてポリエチレンを機械的に変形することによって、残留フリーラジカルの濃度を減少させること
を含んでなる、方法。
【請求項33】
変形したポリエチレンを変形した状態にて結晶化する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
アニーリング温度がポリエチレンの融点を下回る、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
アニーリング温度が約145℃未満である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記放射線照射をガンマ放射線または電子ビーム放射線を用いて行う、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
前記放射線照射を融解温度を下回る高温にて行う、請求項32に記載の方法。
【請求項38】
放射線線量レベルが約1〜約10,000kGyである、請求項32に記載の方法。
【請求項39】
前記機械的変形を増感環境の存在下にて行う、請求項32に記載の方法。
【請求項40】
前記機械的変形をポリエチレンの融点を下回る高温にて行う、請求項32に記載の方法。
【請求項41】
前記機械的変形を増感ガスの存在下ポリエチレンの融点を下回る高温にて行う、請求項32に記載の方法。
【請求項42】
前記機械的変形が、一軸、チャンネルフロー、一軸圧縮、二軸圧縮、振動圧縮、引張応力、一軸引張応力、二軸引張応力、超音波振動、曲げ、平面応力圧縮 (チャンネルダイ)、またはそれらの組合せである、請求項32に記載の方法。
【請求項43】
前記機械的変形をポリエチレンの融点を下回る高温にて超音波振動によって行う、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記機械的変形を増感ガスの存在下ポリエチレンの融点を下回る高温にて超音波振動によって行う、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
前記機械的変形を約135℃未満の温度で行う、請求項32に記載の方法。
【請求項46】
放射線照射架橋ポリエチレンの製造方法であって、
a) ポリエチレンを増感環境と接触させ、
b) ガンマまたは電子ビーム放射線を照射し、および
c) 組成物を増感環境の存在下にてポリエチレン組成物の融点を下回る温度にさらすことによって、フリーラジカルの含量を減少させること
を含んでなる、方法。
【請求項47】
ポリエチレンを増感環境と接触させた後、放射線照射を行う、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
放射線照射を空気中または不活性環境にて行う、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
増感環境の存在下でのアニーリングを周囲大気圧を上回る圧力にて行う、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
増感環境の存在下でのアニーリングを少なくとも1.0気圧の周囲大気圧を上回る圧力にて行う、請求項46に記載の方法。
【請求項51】
増感環境の存在下でのアニーリングを高周波音波処理によって行う、請求項46に記載の方法。
【請求項52】
増感環境がアセチレン、トリクロロフルオロエチレン、エチレンガス、またはそれらのガスの混合物である、請求項46に記載の方法。
【請求項53】
増感環境が様々な炭素数を有するジエン、またはそれらの液体の混合物である、請求項46に記載の方法。
【請求項54】
増感環境がアセチレンと窒素の混合物である、請求項46に記載の方法。
【請求項55】
増感環境が約5体積%のアセチレンおよび約95体積%の窒素から構成されるものである、請求項46に記載の方法。
【請求項56】
a) ポリエチレンの融点を下回る温度にて放射線照射を行い、
b) 放射線照射ポリエチレンの融点を下回る温度にてポリエチレンを機械的に変形することによって、残留フリーラジカルの濃度を減少させ、
c) 融点を上回る温度にてアニーリングを行い、
d) 室温まで冷却すること
を含んでなる方法によって製造される、放射線照射架橋ポリエチレン組成物。
【請求項57】
放射線照射架橋ポリエチレン組成物の製造方法であって、
a) 固体または溶融状態のポリエチレンを機械的に変形させ、
b)変形した状態にてポリエチレンを結晶化させ、
c) ポリエチレンの融点を下回る温度にてポリエチレンを放射線照射し、そして
d) 放射線照射ポリエチレンを融点を下回る温度に加熱することによって、残留フリーラジカルの濃度を減少させ、かつ最初の形状を回復させること
を含んでなる、方法。
【請求項58】
放射線照射架橋して加熱したポリエチレンの残留フリーラジカル含量が実質的に減少しまたは全く検出されず、かつポリエチレンの結晶化度が約51%以上である、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
ポリエチレンが、放射線照射して加熱したポリエチレンより高い耐酸化性を有するものである、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
a) 固体または溶融状態のポリエチレンを機械的に変形させ、
b)変形した状態にてポリエチレンを結晶化し、
c) ポリエチレンの融点を下回る温度にてポリエチレンを放射線照射し、および
d) 放射線照射ポリエチレンを融点を下回る温度にて加熱することによって、残留フリーラジカルの濃度を減少させ、かつ最初の形状を回復させること
を含んでなる方法によって製造される、放射線照射架橋ポリエチレン組成物。
【請求項61】
ポリエチレンの残留フリーラジカル含量が実質的に減少しまたは全く検出されず、かつポリエチレンの結晶化度が約51%以上である、請求項60に記載のポリエチレン。
【請求項62】
ポリエチレンが、放射線照射して加熱したポリエチレンより高い耐酸化性を有する、請求項60に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−208381(P2008−208381A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137088(P2008−137088)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【分割の表示】特願2003−559366(P2003−559366)の分割
【原出願日】平成14年9月24日(2002.9.24)
【出願人】(504256718)マサチューセッツ、ゼネラル、ホスピタル (3)
【氏名又は名称原語表記】MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL
【Fターム(参考)】