説明

溶融加工可能なフルオロポリマーを含み、フッ素化界面活性剤の量を減少させた水性フルオロポリマー分散体

本発明は、水性フルオロポリマー分散体の重量を基準にして少なくとも25重量%の量の溶融加工可能なフルオロポリマーと、フルオロポリマー固形分の重量を基準にして100ppm以下、好ましくは50ppm未満、より好ましくは25ppm未満、最も好ましくは10ppm未満の量の、分子量が1000g/mol以下のフッ素化界面活性剤と、を含み、または前記フッ素化界面活性剤を全く含まない水性フルオロポリマー分散体が提供する。水性フルオロポリマー分散体は、少なくとも200μS/cm、好ましくは少なくとも500μS/cm、より好ましくは少なくとも1000μS/cmの導電率を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子量フッ素化界面活性剤を全く含まないか、または実質的に含まない水性フルオロポリマー分散体に関する。さらに詳しくは、本発明は、溶融加工可能なフルオロポリマーの水性分散体に関する。本発明はさらに、そのような分散体の中の低分子量フッ素化界面活性剤の量を減少するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマー、すなわち、フッ素化された主鎖を有するポリマーは、昔から知られており、たとえば耐熱性、耐薬品性、耐候性、UV安定性などの面でいくつもの好ましい性質を有しているために、各種の用途において使用されてきた。たとえば、(非特許文献1)には、各種のフルオロポリマーが記載されている。フルオロポリマーは、部分的にフッ素化された主鎖(一般には少なくとも40重量%がフッ素化されている)を有していてもよいし、あるいは完全にフッ素化された主鎖を有していてもよい。具体的なフルオロポリマーの例を挙げれば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)からのコポリマー(FEPポリマー)、ペルフルオロアルコキシコポリマー(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)コポリマー、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンからのターポリマー(THV)ならびにポリフッ化ビニリデンポリマー(PVDF)などがある。
【0003】
フルオロポリマーを基材にコーティングして、耐薬品性、耐候性、撥水性および撥油性などのような望ましい性質をそれに付与するために使用することができる。たとえば、フルオロポリマーの水性分散体は、調理器具のコーティング、布または織物たとえばガラス布への含浸、紙またはポリマー基材のコーティングなどに使用される。フルオロポリマーの用途の多く、特に基材のコーティングでは、非常に純度の高いフルオロポリマー分散体が必要とされる。混入物がたとえごく微量であっても、コーティングの欠陥を招く可能性がある。
【0004】
フルオロポリマーの水性分散体の製造で通常採用されている方法では、1種または複数のフッ素化モノマーを水性乳化重合させ、通常それに続けて、濃縮化(upconcentration)工程を用いて、乳化重合で得られた粗分散体の固形分含量を上げる。フッ素化モノマーを水性乳化重合させる場合には、フッ素化界面活性剤を使用する。頻用されているフッ素化界面活性剤としては、ペルフルオロオクタン酸およびその塩、特に、ペルフルオロオクタン酸アンモニウムなどが挙げられる。使用されるフッ素化界面活性剤をさらに挙げれば、以下の特許に開示されているようなペルフルオロポリエーテル界面活性剤がある。(特許文献1)、(特許文献2)、(特許文献3)、(特許文献4)、(特許文献5)、(特許文献6)および(特許文献7)。使用されているさらなる界面活性剤は、下記の特許に開示されている。(特許文献8)、(特許文献9)、(特許文献10)、(特許文献11)、(特許文献12)、(特許文献13)、(特許文献14)および(特許文献15)。
【0005】
それらのフッ素化界面活性剤のほとんどのものは、低分子量、すなわち、分子量が1000g/mol未満である。近年になって、そのような低分子量のフッ素化化合物が、環境面で問題となってきている。たとえば、ペルフルオロアルカン酸は生分解性を有さない。さらに、フッ素化界面活性剤は一般に高価な化合物である。したがって、水性分散体からフッ素化低分子量界面活性剤を完全に排除するか、あるいは、少なくとも水性分散体におけるその量を最小化させるかのいずれかの手段がとられてきている。たとえば、(特許文献16)および(特許文献17)には、フルオロポリマーを製造するための水性乳化重合であって、その重合をフッ素化界面活性剤を添加することなく実施する方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、水性乳化重合プロセスのほとんどのものでは今だに、フッ素化界面活性剤の助けを借りて実施されており、したがって、得られる分散体の中におけるフッ素化界面活性剤を除去するか、またはそのレベルを低下させることが、依然として必要とされている。(特許文献18)には、フッ素化界面活性剤の一部を限外濾過によって除去する方法が開示されている。後者の場合、フッ素化界面活性剤を除去する際に、分散体の中のフルオロポリマー固形分の量も同時に高くなる、すなわち、分散体が濃縮されることになる。(特許文献19)のプロセスの欠点は、フッ素化界面活性剤のかなりの量が、限外濾過の透過水によって分散体から取り去られることである。そのような透過水から界面活性剤を回収するには、コストがかかる。
【0007】
(特許文献20)ではさらに、フルオロポリマー分散体をアニオン交換樹脂と接触させることによって、フッ素化界面活性剤の量を減らす方法が開示されている。その国際公開公報に開示されているプロセスの好ましい実施態様によれば、アニオン交換樹脂と接触させている際の分散体を安定化させるために、水性分散体に非イオン性界面活性剤を添加している。次いで、そのようにして得られた分散体をアニオン交換樹脂を充填したカラムに通すと、分散体がカラムを出るところでは、フッ素化樹脂のレベルが5ppm以下にまで下がっていた。
【0008】
(特許文献20)に開示されているプロセスは、溶融加工可能なフルオロポリマーの分散体からフッ素化界面活性剤を除去するために使用するには、いくつかの限界があることがわかってきた。すなわち、水性分散体をある程度の量処理したところで、アニオン交換樹脂床(resin bed)の中でゲル化が起きる。このゲル化が起きると、カラムの中に含まれる樹脂床にチャンネルが形成されてその結果、漏出(break through)が生じる、すなわちフッ素化界面活性剤が全くまたはほとんど除去されていない分散体がカラムから出てきたり、あるいは、ゲル化のために樹脂床が閉塞されて、それ以上分散体が流れることができなくなったりする。さらに、そのプロセスから得られる分散体、すなわち、フッ素化界面活性剤の量を減少させた分散体もまた、ある程度の時間静置するとゲル化を起こすことも、観察された。
【0009】
【特許文献1】EP1059342号明細書
【特許文献2】EP712882号明細書
【特許文献3】EP752432号明細書
【特許文献4】EP816397号明細書
【特許文献5】米国特許第6,025,307号明細書
【特許文献6】米国特許第6,103,843号明細書
【特許文献7】米国特許第6,126,849号明細書
【特許文献8】米国特許第5,229,480号明細書
【特許文献9】米国特許第5,763,552号明細書
【特許文献10】米国特許第5,688,884号明細書
【特許文献11】米国特許第5,700,859号明細書
【特許文献12】米国特許第5,804,650号明細書
【特許文献13】米国特許第5,895,799号明細書
【特許文献14】国際公開第00/22002号パンフレット
【特許文献15】国際公開第00/71590号パンフレット
【特許文献16】国際公開第96/24622号パンフレット
【特許文献17】国際公開第97/17381号パンフレット
【特許文献18】米国特許第4,369,266号明細書
【特許文献19】米国特許第4,396,266号明細書
【特許文献20】国際公開第00/35971号パンフレット
【特許文献21】国際公開第94/14904号パンフレット
【特許文献22】EP22257号明細書
【特許文献23】米国特許第3,489,595号明細書
【非特許文献1】ジョン・シャイアーズ(John Scheirs)編、「モダーン・フルオロポリマーズ(Modern Fluoropolymers)」、ワイリー・サイエンス(Wiley Science)、1997年
【非特許文献2】M.J.シック(Schick)、「ノン−アイオニック・サーファクタンツ(Non−ionic Surfactants)」、マーセル・デッカー・インコーポレーテッド(Marcel Decker Inc.)、ニューヨーク(New York)、1967年
【非特許文献3】「エンサイクロペディア・オブ・ポリマー・サイエンス・アンド・エンジニアリング(Encyclopedia of Polymer Science and Engineering)」、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)、1985年、第8巻、p.347
【非特許文献4】「カーク・オスマー(Kirk−Othmer)」、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)、第3版、第13巻、p.687
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
溶融加工可能なフルオロポリマーは、フルオロエラストマー物品や、フルオロ熱可塑性樹脂(fluorothermoplasts)系の物品への用途があるので、上述のような問題点を克服できるのが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、水性フルオロポリマー分散体の重量を基準にして少なくとも25重量%の量の溶融加工可能なフルオロポリマーと、フルオロポリマー固形分の重量を基準にして100ppm以下、好ましくは50ppm未満、より好ましくは25ppm未満、最も好ましくは10ppm未満の量の、分子量が1000g/mol以下のフッ素化界面活性剤と、を含み、または前記フッ素化界面活性剤を全く含まない水性フルオロポリマー分散体が提供される。この水性フルオロポリマー分散体は、少なくとも200μS/cm、好ましくは少なくとも500μS/cm、より好ましくは少なくとも1000μS/cmの導電率を有する。これにより、水性フルオロポリマー分散体を静置しておいた時にそのフルオロポリマーがゲル化する現象も避けることができる。
【0012】
ゲル化の問題は、分散体の溶融加工可能なフルオロポリマーの含量が高く、たとえば25重量%以上であるような場合に、特に起こりやすいということがわかった。またその問題は、フッ素化界面活性剤の量を減らす程、より顕著になる。しかしながらゲル化は、その導電率を充分に高いレベルになるよう調節することによって、防止することが可能である。したがって、分散体の導電率を上げることにより、ゲル化の発生を避けることができる。
【0013】
さらに、分散体をアニオン交換樹脂と接触させるプロセスにおいてフッ素化界面活性剤を除去する際に起きるゲル化もまた、分散体をアニオン交換樹脂と接触させる前に、分散体の導電率を充分に高いレベルになるよう調節することによって、避けられることが可能であることもわかった。
【0014】
したがって本発明はさらに、溶融加工可能なフルオロポリマーの水性分散体中での、分子量が1000g/mol以下のフッ素化界面活性剤の量を減少する方法を提供するが、前記方法が、
・前記フルオロポリマー分散体をアニオン交換樹脂と接触させて、それによりフッ素化界面活性剤をそれに結合させる工程と、
・前記フルオロポリマー分散体を前記アニオン交換樹脂から分離させる工程と、
を含み、
それにより、漏出が起きたり樹脂床の閉塞が起きたりするより前に、前記アニオン交換樹脂を用いることによって、前記アニオン交換樹脂の床容積(bed volume)の少なくとも3倍、好ましくは少なくとも5倍に相当する量の水性フルオロポリマー分散体を処理できるような導電率を、前記溶融加工可能なフルオロポリマー分散体の前記水性分散体が有する。
【0015】
一般的に、フッ素化界面活性剤の除去レベルを、得られた分散体が含むフッ素化界面活性剤の量を、フルオロポリマー固形分の重量を基準にして100ppm未満、好ましくは50ppm未満、より好ましくは25ppm未満、最も好ましくは10ppm未満とするのが望ましい。
【0016】
本発明に関連して「溶融加工可能なフルオロポリマー」という用語の意味するところは、充分に低い溶融粘度を有していて、そのため、それらをポリマー溶融押出機のような一般的な溶融加工装置で溶融加工することが可能であるような、フルオロポリマーを指している。本発明に関連した溶融加工可能なフルオロポリマーとしては、フルオロ熱可塑性樹脂、さらにはフルオロエラストマーを製造するのに適したフルオロポリマーなどが挙げられる。
【0017】
本発明に関連して「漏出(break through)」という用語は、アニオン交換樹脂床から出てくる分散体の中のフッ素化界面活性剤の量が、実質的に増加すること(たとえば、10%以上)が認められた時点を示すのに用いられるが、これはすなわち、アニオン交換樹脂によって除去されているフッ素化界面活性剤の量が減り始め、その除去プロセスの効率が低下している状態である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
このフルオロポリマー分散体は、(分散体の全重量を基準にして)少なくとも25重量%の溶融加工可能なフルオロポリマーの粒子を含む水性フルオロポリマー分散体である。典型的には、分散体中における溶融加工可能なフルオロポリマーの量は、30重量%〜70重量%の間、好ましくは40重量%〜60重量%の間で変化させることができる。この分散体で使用する、溶融加工可能なフルオロポリマーとしては、フルオロ熱可塑性樹脂およびフルオロエラストマーを製造するためのフルオロポリマーを挙げることができる。フルオロ熱可塑性樹脂は典型的には、ぶれの無い明白な融点を有している。フルオロ熱可塑性樹脂は、265℃で加重5kg、または372℃で加重5kgで測定した場合に、0.1よりも大きいメルトフローインデックスを有することができる。典型的には、フルオロ熱可塑性樹脂の融点は少なくとも60℃であるが、好ましい範囲は100℃〜310℃である。フルオロポリマー分散体のフルオロポリマーは、硬化させるとフルオロエラストマーが得られるようなポリマーであってもよい。典型的にはそのようなフルオロポリマーは、非晶質フルオロポリマーであって、融点を有さないか、あるいははっきりと認められるような融点を持たない。さらに、このフルオロポリマーには、いわゆるマイクロ−パウダー、典型的には低分子量のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含んでいてもよい。PTFEが低分子量であるために、マイクロ−パウダーは溶融加工することが可能である。
【0019】
溶融加工可能なフルオロポリマーの例を挙げれば、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー、テトラフルオロエチレンとフッ化ビニリデンとのコポリマー、テトラフルオロエチレンとプロピレンとのコポリマー、テトラフルオロエチレンとペルフルオロビニルエーテルとのコポリマー、フッ化ビニリデンとペルフルオロビニルエーテルとのコポリマー、テトラフルオロエチレンと、エチレンまたはプロピレンと、ペルフルオロビニルエーテルとのコポリマー、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとペルフルオロビニルエーテルとのコポリマー、テトラフルオロエチレンとフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンと、場合によってはクロロトリフルオロエチレン(CTFE)とのコポリマー、フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンとペルフルオロビニルエーテルとのコポリマー、ならびに、テトラフルオロエチレンと、エチレンまたはプロピレンと、ヘキサフルオロプロピレンとペルフルオロビニルエーテルとのコポリマー、などがある。
【0020】
水性フルオロポリマー分散体中の溶融加工可能なフルオロポリマーの粒径は、典型的には40nm〜400nmの間で、これは、乳化重合で得られる典型的な粒径(数平均直径)である。たとえば20nm〜50nmの間の、より小さな粒径も同様に考慮の対象となるが、これは、ミクロ乳化重合を用いた場合に得られる典型的な粒径である。フルオロポリマー分散体には、溶融加工不能なフルオロポリマー粒子が含まれていてもよい。溶融加工不能なフルオロポリマーとしては、PTFE、および変性PTFEすなわち、テトラフルオロエチレンと少量たとえば1重量%未満の変性用コモノマーとのコポリマーが挙げられる。
【0021】
水性フルオロポリマー分散体は典型的には、水性乳化重合によって得られ、その水性フルオロポリマー分散体に含まれるフッ素化界面活性剤は典型的には、アニオン性フッ素化界面活性剤であって、これは水性乳化重合では一般的に使用されているものである。一般的に使用されているフッ素化界面活性剤は、非テロゲン性であって、次式:
(Y−R−Z)−M (I)
(ここでYは、水素、ClまたはFを表し;Rは、4〜10個の炭素原子を有する直鎖状または分岐状の過フッ素化アルキレンを表し;ZはCOOまたはSOを表し;Mは、1価および多価のカチオンたとえば、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオンまたはカルシウムイオンを表し、そしてnはMの原子価に対応するもので、典型的には1、2または3の値である)に相当するものが含まれる。
【0022】
上述の式(I)に従う乳化剤の代表例としては、ペルフルオロアルカン酸とその塩、たとえばペルフルオロオクタン酸とその塩、特にアンモニウム塩が挙げられる。このフッ素化界面活性剤は、本発明の方法の対象となっているフルオロポリマー分散体の中に、いかなる量で存在していてもよい。乳化重合の結果として得られる水性フルオロポリマー分散体には通常、フッ素化界面活性剤を、分散体中の固形分の全重量を基準にして0.2重量%〜5重量%の間の量、より典型的には固形分の全重量を基準にして0.2重量%〜2重量%の間の量で含む。先に述べたように、フッ素化界面活性剤を添加しないような乳化プロセスは公知ではあるが、そのようなプロセスでは、低分子量フッ素化界面活性剤が、重合をしている間にその場で形成されている可能性がある。
【0023】
フルオロポリマー分散体に、100ppmを超えるフッ素化界面活性剤が含まれているような場合には、その量を、フルオロポリマー固形分の重量を基準にして、一般には100ppm未満、好ましくは50ppm未満、より好ましくは25ppm未満、最も好ましくは10ppm未満のレベルまで下げるのが望ましい。水性フルオロポリマー分散体の中のフッ素化界面活性剤の量を減らすためには、一般的には、(特許文献20)に開示されているような、安定化のための界面活性剤の存在下に、分散体をアニオン交換樹脂と接触させる。添加する界面活性剤は典型的には、たとえば(特許文献20)に開示されているような、非フッ素化界面活性剤、好ましくは非イオン性界面活性剤であり、具体的には、市販されている水性分散体において一般に使用されているようなものである。しかしながら、その他の非フッ素化界面活性剤も同様に使用することができるが、ただし、それらはフルオロポリマー分散体を安定化させる能力を有していなければならない、すなわち、フルオロポリマー分散体をアニオン交換樹脂と接触させている際の凝固を防ぐ能力を有していなければならない。
【0024】
使用可能な非イオン性界面活性剤の例としては、(非特許文献2)に開示されているようなもの、特に次式:
−O−[CHCHO]−[RO]−R (II)
(ここでRは、少なくとも8個の炭素原子を有する芳香族または脂肪族炭化水素基を表し、Rは、3個の炭素原子を有するアルキレンを表し、Rは、水素またはC〜Cアルキル基を表し、nは0〜40の値であり、mは0〜40の値であり、n+mの合計が少なくとも2である)に相当するものが挙げられる。
【0025】
上の式(II)において、nとmが付いている構成単位は、ブロックの形になっていてもよいし、あるいは、交互もしくはランダムな構成になっていてもよい。
【0026】
上の式(II)で表される非イオン性界面活性剤の例としては、次式:
【化1】



(ここでRは、4〜20個の炭素原子を有するアルキル基であり、rは4〜20の値を表す)のアルキルフェノールオキシエチラートがある。式(III)で表される界面活性剤の例としては、エトキシル化p−イソオクチルフェノールがあり、これはたとえばトリトン(TRITON)(商標)の商標、たとえばトリトン(TRITON)(商標)X100として市販されているが、その場合のエトキシ単位の数は約10である。
【0027】
さらなる例としては、上述の式(II)の中のRが、4〜20個の炭素原子を有するアルキル基を表し、mが0で、Rが水素のものが挙げられる。そのようなものの例は、約8個のエトキシ基でエトキシル化したイソトリデカノールがあり、これは、クラリアント・GmbH(Clariant GmbH)からゲナポール(GENAPOL)(登録商標)X080として市販されている。式(II)で表される非イオン性界面活性剤で、その親水性の部分にエトキシ基とプロポキシ基のブロック−コポリマーを含むものも、同様に使用できる。そのような非イオン性界面活性剤は、クラリアント・GmbH(Clariant GmbH)から商品名ゲナポール(GENAPOL)(登録商標)PF40およびゲナポール(GENAPOL)(登録商標)PF80として市販されている。
【0028】
安定化用の界面活性剤は、フルオロポリマー分散体に対して、アニオン交換樹脂と接触している間におけるフルオロポリマー分散体の安定化が達成されるのに充分な量で、添加する。その有効量は、当業者が日常的な実験をすれば容易に求めることができるが、フルオロポリマー分散体中の固形分の重量を基準にして、一般に0.5重量%〜15重量%の間、好ましくは1〜12重量%の間である。安定化用の界面活性剤をフルオロポリマー分散体に、穏やかな撹拌下、たとえば、フルオロポリマー分散体を撹拌しながら添加するのが都合がよい。フルオロポリマー分散体の安定性は、分散体のpHを調節することによってさらに向上させることができるが、それには、分散体に塩基、たとえばアンモニアまたは水酸化ナトリウムを添加してそのpHを7〜9の間とすればよい。分散体のpHを、pHが7〜9の間になるように調節してやるのが一般的には好ましいが、これは本プロセスで必須であるという訳ではなく、pHを調節することなく、安定化させたフルオロポリマー分散体をアニオン交換樹脂と接触させることもまた可能である。フルオロポリマー分散体に、残存している重合開始剤たとえば残存過硫酸塩を分解させるような化合物をさらに添加することによって、プロセス装置の腐食を抑制することも可能である。たとえば、有機還元剤たとえばヒドロキシルアミン、アゾジカルボナミドおよびビタミンCなどを添加することができる。
【0029】
使用されるアニオン交換樹脂の塩基度に関しては特別な制約はないが、一般的には強い塩基性のアニオン交換樹脂を使用するのが好ましく、その理由は、樹脂の塩基度が高くなるほど、そのアニオン交換樹脂の効果も高くなるからである。それにも関わらず、塩基性が低い、または中程度の強さの塩基性のアニオン交換樹脂も、本発明において使用することができる。「強い、中程度に強い、弱い」塩基性のアニオン交換樹脂という用語は、(非特許文献3)、および(非特許文献4)の定義に従う。アニオン交換官能基としては、強い塩基性のアニオン交換樹脂には典型的には第4級アンモニウム基が含まれ、中程度に強い樹脂には通常第3級アミン基が含まれ、弱い塩基性の樹脂には通常第2級アミンが含まれる。本発明で使用できる、市販されているアニオン交換樹脂の例を挙げれば、アンバーライト(AMBERLITE)(登録商標)IRA−402、アンバージェット(AMBERJET)(登録商標)4200、アンバーライト(AMBERLITE)(登録商標)IRA−67、およびアンバーライト(AMBERLITE)(登録商標)IRA−92(いずれも、ローム・アンド・ハース(Rohm & Haas)から入手可能)、プロライト(PUROLITE)(登録商標)A845(プロライト・GmbH(Purolite GmbH))および、レワティット(LEWATIT)(登録商標)MP−500(バイエル・AG(Bayer AG))などがある。
【0030】
本発明のプロセスにおいて使用する前に、アニオン交換樹脂をそのOH形に転換させておいてもよい。典型的にはこれは、その樹脂を水性アンモニアまたは水酸化ナトリウム溶液で処理することで実施される。しかしながら、アニオン交換樹脂はOH形でなければならないという訳ではなく、他の対イオンたとえばクロリドなどを有していてもよい。アニオン交換樹脂は、フルオロポリマー分散体を安定化するのに使用される安定化用の界面活性剤の水溶液で前処理しておくことができる。このようにして、たとえば非イオン性界面活性剤を安定化用の界面活性剤として使用する場合には、そのアニオン交換樹脂を、非イオン性界面活性剤の水溶液で前処理すればよい。
【0031】
フッ素化界面活性剤を除去するためには、その安定化したフルオロポリマー分散体を有効量のアニオン交換樹脂と接触させて、フッ素化界面活性剤のレベルを所望のレベルまで下げるのが好都合である。好ましい実施態様においては、フルオロポリマー分散体をアニオン交換樹脂と接触させるには、フルオロポリマー分散体とアニオン交換樹脂の混合物を撹拌する。撹拌する方法としては、その混合物を入れた容器を振盪させる方法、容器に入れた混合物を撹拌器を用いて撹拌する方法、あるいは、その容器を軸の周りに回転させる方法などが挙げられる。軸の周りの回転は、完全な回転であっても、または部分的な回転であってもよく、また、回転方向を交互に変えることも可能である。一般的には、容器を回転させる方法が、撹拌をさせるための利便性の良い方法である。回転法を使用する場合には、容器の中にじゃま板を設けておくこともできる。さらには、アニオン交換樹脂とフルオロポリマー分散体との混合物の撹拌を、その混合物の中にガスをバブリングさせることによって行うことも可能である。その際使用するガスは一般に、窒素のような不活性ガスまたは空気とすることができる。交換樹脂とフルオロポリマー分散体との混合物を撹拌する、さらに別な魅力ある代替え方法としては、交換樹脂を流動化させる方法がある。流動化を起こさせるには、容器の中の交換樹脂の間を通して分散体を流し、それによって、分散体の流れによって交換樹脂が渦巻く。一般的には、一方では、アニオン交換樹脂が分散体と完全に接触する、すなわち、アニオン交換樹脂が分散体の中に完全に沈み込んでいるようにすると共に、他方では、アニオン交換樹脂が破損したりおよび/またはフルオロポリマー分散体を汚染する原因となったりすることを避けるように、撹拌条件を充分にマイルドなものとするように、その撹拌条件を選択する。
【0032】
別な方法として、水性フルオロポリマー分散体をアニオン交換樹脂と接触させるのに、固定床の形態をとることもできる。樹脂固定床の形態の例を挙げれば、いわゆるカラム法を用い、カラムの中に樹脂を固定し、その樹脂床を通過させながら分散体を流すクロマトグラフ法によって、物質の除去を行う。
【0033】
妥当な時間の間、たとえば、4時間以内にフッ素化界面活性剤のレベルを低下させるためには、フッ素化界面活性剤のレベルを下げるのに有効な交換樹脂の量は、アニオン交換樹脂とフルオロポリマー分散体の合計の容積を基準にして、典型的には少なくとも10%、好ましくは少なくとも15容積%である。
【0034】
本発明においては、溶融加工可能なフルオロポリマーの分散体を上述のフッ素化界面活性剤を除去するためのプロセスにかける場合には、アニオン交換樹脂と接触している間に分散体がゲルすることを避けるために、その分散体の導電率を調節するべきである。水性フルオロポリマー分散体に対して適切な塩を添加することによって、所望の導電率に調節することができる。好適な塩としては一般的には、水溶性の金属塩、特に水溶性の無機塩、たとえば、金属塩たとえば金属塩化物、金属臭化物、金属硫酸塩、金属クロム酸塩など(ここで、その金属は1価であっても、多価であってもよい)、または無機アンモニウム塩たとえば塩化アンモニウムなどが挙げられる。具体例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、塩化マグネシウムなどを挙げることができる。別な方法として、有機塩たとえば有機金属塩またはテトラアルキルアンモニウム塩も、同様に使用することができる。好ましくは、テトラアルキルアンモニウム塩のアルキル基が、1〜4個の炭素原子を含み、それらは同一であっても、異なっていてもよい。例を挙げれば、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリドおよびトリエチルメチルアンモニウムブロミドなどがある。分散体の導電率を調節するために有機塩を使用する場合には、その有機塩が界面活性剤でないのが一般に好ましい。
【0035】
分散体に添加することが必要な塩の所要量は、いくつかの要因によって決まってくるが、そのようなものとしては、添加する塩の性質、アニオン交換樹脂の性質、フッ素化界面活性剤を除去すべき分散体のイオン強度、およびフルオロポリマーの固形分の量などが挙げられる。最小の導電率と添加すべき塩の量は、当業者が日常的な実験をすれば容易に求めることができる。その導電率は、漏出が起きたり樹脂床の閉塞が起きたりするより前に、前記アニオン交換樹脂床の容積の3〜5倍に相当する量の分散体が処理できるのに充分なものとすべきである。一般的には、添加する塩の量は、分散体をアニオン交換樹脂から分離する時点で、少なくとも200μS/cm、好ましくは少なくとも500μS/cm、より好ましくは少なくとも1000μS/cmのレベルの導電率が得られるようにする。分散体の導電率は、実施例で言及するような方法で測定できる。
【0036】
さらに、分散体中のフッ素化界面活性剤がすでに所望のレベルに達しているために、低下させる必要がないようなことがあったとしても、その分散体が貯蔵中にゲル化することを防ぐためには、水性フルオロポリマー分散体中のイオン強度を調節しておく必要がある。ゲル化を防ぐのに必要な最低の導電率は、フルオロポリマー固形分の量や分散体の中のフッ素化界面活性剤の量などの因子によって決まってくる。必要とされる導電率は、当業者が日常的な実験をすれば容易に求めることができるが、一般には少なくとも200μS/cmである。導電率は、先に述べたように分散体に添加する塩によって調節することができる。導電率は無機塩を用いて調節するのが好ましい。有機塩を使用するのならば、一般的には、それが界面活性剤であってはならない。フッ素化界面活性剤含量が低く、かつその導電率が少なくとも200μS/cmであるような、本発明によるフルオロポリマー分散体は、先に述べたように、一般的には、その分散体を安定化させるための非イオン性界面活性剤を含む。上述のように、フッ素化界面活性剤を除去するプロセスにおいて非イオン性界面活性剤が添加されている場合には、通常は非イオン性界面活性剤が所望のレベルになっているが、必要があれば、除去プロセスの後でさらなる非イオン性界面活性剤を添加することによって、非イオン性界面活性剤のレベルを上げることも可能である。重合の際にフッ素化界面活性剤を一切使用していない場合には、非イオン性界面活性剤を添加するのが望ましい。非イオン性界面活性剤の量は典型的には、固形分の量を基準にして、0.5重量%〜15重量%の間である。1%〜12重量%の間であれば、好ましい。
【0037】
このフルオロポリマー分散体は、当業界で知られている各種フルオロポリマー物品を製造するのに使用することができる。具体的には、このフルオロポリマー分散体は、基材たとえば金属基材、プラスチック基材、調理器具、または布などをコーティングするために使用することができる。それらのコーティング用途では特に、フルオロ熱可塑性樹脂が使用される。このフルオロポリマー分散体はさらに、織物または布、特にガラス繊維基材をコーティングまたは含浸させるのに使用することもできる。コーティングをする前に、フルオロポリマー分散体を、さらなるコーティング助剤、一般には非フッ素化有機化合物および/または無機充填剤と混合して、特定のコーティング用途にとって望ましいコーティング組成物を調製することができる。例を挙げれば、たとえば(特許文献21)に開示されているように、このフルオロポリマー分散体をポリアミドイミドおよびポリフェニレンスルホン樹脂と組み合わせて、基材の上に非粘着性のコーティングを与えることができる。さらなるコーティング助剤としては、無機充填剤たとえば、コロイダルシリカ、酸化アルミニウム、および無機顔料などが挙げられるが、それらについては、たとえば(特許文献22)および(特許文献23)に開示がある。
【0038】
このフルオロポリマー分散体は一般に、フッ素化モノマーを乳化重合させることによって得られる、いわゆる粗分散体から出発することにより、得ることができる。そのような分散体は、重合が低分子量フッ素化界面活性剤の存在しない状態で実施されていれば、低分子量のフッ素化界面活性剤を全く含まないが、一般には、低分子量のフッ素化界面活性剤を相当量で含んでいる。分散体中の低分子量フッ素化界面活性剤の濃度が所望のレベルよりも高いのであれば、少なくともその一部は、上述のようにして除去すべきである。フッ素化界面活性剤の少なくとも一部を除去してから、その分散体を各種公知の方法を用いて濃縮して、分散体の中の固形分を目的の量を得る。別な方法として、フルオロポリマー分散体をまず濃縮しておいてから、フッ素化界面活性剤の除去を行うことも可能である。
【0039】
ここで以下の実施例を参照しながら本発明について説明するが、それらの実施例に本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0040】
試験方法
粘度:
分散体の粘度は、フィジカ(Physika)(商標)回転粘度計レオラブ(Rheolab)(商標)MC1を使用し、ダブルギャップ測定システムZ1−DIN(DIN54453)に従って、一定温度20℃と剪断速度210D(1/s)で測定した。
【0041】
導電率:
分散体の導電率は、メトローム(Metrohm)(商標)導電計712を使用して、一定温度20℃で測定した。その装置の使用説明書(メトローム(Metrohm)8.712.1001)に従って、0.1000mmol/LのKCl標準液を使用して、装置の較正を行った。
【0042】
略称:
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン
TFE:テトラフルオロエチレン
HFP:ヘキサフルオロプロピレン
VDF:フッ化ビニリデン
THV:TFEとHFPとVDFとのコポリマー
PFA:TFEと過フッ素化ビニルエーテルとのコポリマー
APFOA:ペルフルオロオクタン酸アンモニウム
NIS−1:市販の非イオン性界面活性剤、トリトン(TRITON)(商標)X100
AER−1:アニオン交換樹脂アンバーライト(AMBERLITE)(商標)IRA402(ローム・アンド・ハース(Rohm & Haas)から入手可能)、4重量%NaOH水溶液を用いてOH形に転化させ、NIS−1の1重量%水溶液を用いて前処理したもの。
AER−2:アニオン交換樹脂アンバーライト(AMBERLITE)(商標)A26(ローム・アンド・ハース(Rohm & Haas)から入手可能)、4重量%NaOH水溶液を用いてOH形に転化させ、NIS−1の1重量%水溶液を用いて前処理したもの。
【0043】
実施例1および2:
固形分含量が33.5重量%、固形分基準で0.32重量%のAPFOA、固形分基準で5重量%のNIS−1を含むPFAの水性分散体のサンプル2種を、流速100mL/時でアニオン交換樹脂AER−1のカラムにポンプで送った。樹脂床の容積は100mLであった。それらのサンプルにおける違いは、表1に示したように、それらの導電率レベルであった。分散体の導電率のレベルは、分散体に対してKSOを表に示した量で添加することによって調節した。
【0044】
【表1】



【0045】
上の表から、樹脂床の閉塞が起きるのは、得られるイオン交換後の分散体の導電率が200μS/cm未満の場合であることがわかる(実施例1と2を比較)。実施例2で得られた分散体は、ゲル化を示さなかったのに対して、実施例1で得られた分散体は、短時間の操作でゲル化した。実施例2の分散体は、貯蔵時においてもゲル化に対して安定であった。
【0046】
実施例3:
15.1mmol/kg固形分のKOHを添加した、固形分含量が48.7重量%、固形分基準で0.32重量%のAPFOA、固形分基準で5重量%のNIS−1を含むPFAの分散体600mLを容器中で、1000mLのAER−2と共に2時間攪拌し、次いでアニオン交換樹脂を濾過により除いた。その分散体のアニオン交換樹脂と接触させる前の導電率レベルは980μS/cmであった。アニオン交換樹脂と接触させた後では、その導電率は約1480μS/cmとなった。その分散体での残存APFOAは50ppm未満であった(固形分重量基準)。その分散体は放置してもゲル化しなかった。その粘度レベルは、約3mPas(剪断速度210s−1)であった。
【0047】
実施例4(比較例):
固形分含量、APFOA含量、およびNIS−1含量は実施例3と同じであるが、塩を加えないPFA分散体200mLを、150mLのAER−2と共に容器中で6時間撹拌し、次いで、アニオン交換樹脂を濾過により除去した。その分散体のアニオン交換樹脂と接触させる前の導電率レベルは720μS/cmであった。アニオン交換樹脂と接触させた後では、その導電率は約60μS/cmに低下した。アニオン交換プロセスの後の分散体の残存APFOAは50ppm未満であった(固形分重量基準)。その分散体は放置している内にゲル化した。
【0048】
実施例5〜7:
固形分含量が51重量%、固形分基準で0.45重量%のAPFOA、固形分基準で5重量%のNIS−1を含むTHVの水性分散体550mLを、容器の中で、120mLのAER−1および120mLのプロライト(Purolite)(商標)C150(カチオン交換樹脂)と共に6時間撹拌し、次いで、それらの交換樹脂を濾過により除去した。交換プロセスの間にゲル化が起きたが、それは、アニオンおよびカチオン交換した後の分散体に塩化カリウムを添加することにより、元に戻すことができた。そのような処理をした分散体の導電率と粘度の値を表2に示す。残存しているAPFOAのレベルは約85ppmであった(固形分重量基準)。
【0049】
【表2】



【0050】
実施例7で得られた分散体は貯蔵時にもゲル化を示さなかったが、それに対して実施例6で得られた分散体は、放置している内にゲル化した。
【0051】
実施例8(比較例):
固形分含量が58%、固形分基準で0.3重量%のAPFOAを含み、固形分基準で5.2重量%のNIS−1を用いて安定化させた、溶融加工不能なPTFEの水性分散体を、実施例4に述べたアニオン交換プロセスにかけた。樹脂床の閉塞は起きず、得られた分散体は、20μS/cmの導電率と、固形分基準で30重量ppmのAPFOA含量を有していた。放置しておいても、ゲル化は起きなかった。この例から、ゲル化の問題は、溶融加工可能なポリマーの分散体に特有なものであって、溶融加工不能なPTFEでは起きないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性フルオロポリマー分散体であって、前記水性フルオロポリマー分散体の重量を基準にして少なくとも25重量%の量の溶融加工可能なフルオロポリマーと、フルオロポリマー固形分の重量を基準にして100ppm以下の、分子量が1000g/mol以下のフッ素化界面活性剤と、を含み、または前記フッ素化界面活性剤をまったく含まず、前記水性フルオロポリマー分散体が少なくとも200μS/cmの導電率を有する、水性フルオロポリマー分散体。
【請求項2】
前記水性フルオロポリマー分散体の前記導電率が、少なくとも500μS/cmである、請求項1に記載の水性フルオロポリマー分散体。
【請求項3】
非イオン性界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の水性フルオロポリマー分散体。
【請求項4】
前記フルオロポリマー分散体が、水溶性の無機塩、またはテトラアルキルアンモニウム塩(アルキル基は1〜4個の炭素原子を有する)を含む、請求項1に記載の水性フルオロポリマー分散体。
【請求項5】
前記無機塩が、無機金属塩または無機アンモニウム塩である、請求項4に記載の水性フルオロポリマー分散体。
【請求項6】
前記フッ素化界面活性剤の量が、フルオロポリマー固形分の重量を基準にして50ppm以下である、請求項1に記載の水性フルオロポリマー分散体。
【請求項7】
前記溶融加工可能なフルオロポリマーの量が、30重量%〜70重量%の間である、請求項1に記載の水性フルオロポリマー分散体。
【請求項8】
溶融加工可能なフルオロポリマーの水性分散体の中の、分子量が1000g/mol以下のフッ素化界面活性剤の量を減少させるための方法であって、前記方法が、
・前記フルオロポリマー分散体をアニオン交換樹脂と接触させて、フッ素化界面活性剤をそれに結合させる工程と、
・前記フルオロポリマー分散体を前記アニオン交換樹脂から分離させる工程と、
を含み、
それにより、漏出が起きたり樹脂床の閉塞が起きたりするより前に、前記アニオン交換樹脂を用いることによって、前記アニオン交換樹脂の床容積の少なくとも3倍に相当する量の水性フルオロポリマー分散体を処理できるような導電率を、前記溶融加工可能なフルオロポリマー分散体の前記水性分散体が有する、方法。
【請求項9】
前記アニオン交換樹脂から分離した後の前記水性分散体の前記導電率が、少なくとも200μS/cmである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記水性フルオロポリマー分散体の前記導電率を、水溶性の金属塩を用いて調節する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記フルオロポリマー分散体が、安定剤として非イオン性界面活性剤を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記水性分散体を前記アニオン交換樹脂と共に撹拌する、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記フッ素化界面活性剤を除去することにより、得られた分散体が、フルオロポリマー固形分の全重量を基準にして100ppm未満の量の前記フッ素化界面活性剤を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
フルオロポリマーを用いて基材をコーティングする方法であって、前記方法が、請求項1〜7のいずれかの1項に記載の水性フルオロポリマー分散体を前記基材にコーティングする工程を含む、方法。
【請求項15】
前記基材が、金属基材、プラスチック基材、調理器具、または布からなる群より選択される、請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2006−522836(P2006−522836A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−567414(P2004−567414)
【出願日】平成15年12月1日(2003.12.1)
【国際出願番号】PCT/US2003/038113
【国際公開番号】WO2004/067656
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】