説明

溶融加工性含フッ素ポリマーの製造方法

【課題】電線、チューブ、フィルム等の成形体を製造する際に発泡・着色が発生せず、また、電池用の添加剤として使用した場合にも、電極作成時の発泡などを起こさず、特に二次電池に使用した場合には充放電性能が劣化しない溶融加工性含フッ素ポリマーの製造方法を提供する。
【解決手段】
水性媒体中において含フッ素モノマーをラジカル重合して溶融加工性含フッ素ポリマーを製造する方法であって、上記ラジカル重合は、フッ素原子が直接結合した炭素原子が1〜6個の範囲で連続して結合するフルオロカーボン基と親水基とを有する含フッ素化合物の存在下で行うものである溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融加工性含フッ素ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素ポリマーを製造する方法として、含フッ素モノマーを水性媒体中に分散させて重合させる、乳化重合が一般的に用いられている。乳化重合で含フッ素ポリマーを製造する場合、より安定なエマルジョンを形成させるために乳化剤が用いられるが、ラテックス中で不純物として残存するという問題があった。
【0003】
例えば、F(CFCOONHやF(CFCOONH等の長鎖のフルオロアルキル基を含有する含フッ素界面活性剤が乳化剤として主に用いられている(例えば、特許文献1参照。)。これらの乳化剤は、界面活性能力が高いが、水への溶解度が小さいため洗浄が困難であり、得られる含フッ素ポリマー中に残存するものであった。
【0004】
含フッ素界面活性剤が含フッ素ポリマーに残存すると、溶融加工性含フッ素ポリマーを電線、チューブ、フィルム等の成形体を成形する場合や、塗料として塗膜化した場合に、発泡・着色につながるという問題があった。塗料等に使用する場合は、耐水性や耐溶剤性などの性能劣化にもつながる可能性がある。また、薬液や燃料などの移送用チューブや配管に使用した場合には、薬液や燃料などに残留される乳化剤や、残留している金属塩等が薬液や燃料等を扱う最終製品にまで悪影響を及ぼすという問題もあった。また、電池用の添加剤、例えばリチウムイオン電池などの二次電池用電極のバインダーとして使用した場合に、ポリマー中に界面活性剤が残存していると、塗布時の塗膜中で発泡し乾燥後の電極表面に凹凸が発生したり、充放電性能劣化や、電池内でガス発生し電池が膨れる等の問題を引き起こすなどの悪影響の原因となる場合があった。また、更なる生産性の改善が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特表2004−527614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、電線、チューブ、フィルム等の成形体や塗料を製造する際に発泡・着色が発生せず、成形体に接触する薬液や燃料への溶出などを起こさず、また電池用の添加剤として使用した場合にも、電極作成時の発泡などを起こさず、特に二次電池に使用した場合には充放電性能が劣化しない溶融加工性含フッ素ポリマーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水性媒体中において含フッ素モノマーをラジカル重合して溶融加工性含フッ素ポリマーを製造する方法であって、上記ラジカル重合は、フッ素原子が直接結合した炭素原子が1〜6個の範囲で連続して結合するフルオロカーボン基と親水基とを有する含フッ素化合物の存在下で行うものである溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法である。
本発明はまた、上記溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法により製造される溶融加工性含フッ素ポリマーでもある。
【0008】
本発明はまた、上記溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法により製造されるラテックスを濃縮することにより、溶融加工性含フッ素ポリマーの濃度が40質量%以上のエマルションを製造することを特徴とするエマルションの製造方法でもある。
本発明はまた、上記エマルションの製造方法により製造されることを特徴とするエマルションでもある。
【0009】
本発明はまた、上記溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法により製造されるラテックス、電極活物質、導電剤、水溶性ポリマー、及び、水を混合することにより製造される電極合材ペーストでもある。
本発明はまた、上記溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法により製造されるラテックスとポリテトラフルオロエチレンラテックスとの混合物、電極活物質、導電剤、水溶性ポリマー、及び、水を混合することにより製造され、
上記混合物のポリテトラフルオロエチレンラテックスの割合が、混合物中の全固形分に対して75質量%以下である電極合剤ペーストでもある。
【0010】
本発明はまた、上記溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法により得られた水性分散液から、凝析、水洗浄、有機溶剤洗浄、及び、乾燥の後処理工程のうち、少なくとも一つ以上の工程を経て得られたポリマー乾燥粉末を有機溶剤に溶解させて得られることを特徴とする溶液でもある。
【0011】
本発明はまた、上記溶液と、電極活物質と、導電剤と、更に、上記溶液に含まれる有機溶剤と同一の有機溶剤を混合することにより得られる電極合材ペーストでもある。
本発明はまた、上記電極合材ペーストを、薄膜状集電体、又は、多孔性集電体の片面、又は、両面に塗布し、乾燥し、必要ならば圧延することにより製造される電池用電極でもある。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明は、フッ素原子が直接結合した炭素原子が1〜6個の範囲で連続して結合するフルオロカーボン基と親水基とを有する含フッ素化合物の存在下でラジカル重合を行うことを特徴とする。
【0013】
上記含フッ素化合物は、フッ素原子が直接結合した炭素原子が1〜6個の範囲で連続して結合する1〜6のフルオロカーボン基からなる疎水基を有するので、乳化粒子に吸着し易く、乳化粒子の形成や分散安定性等を向上させる。また、疎水基の炭素原子数が1〜6であるので従来から使用されている長鎖のフルオロアルキル基を有する含フッ素界面活性剤に比べて親水性が強く、界面活性剤として単独で使用された場合であっても充分に優れた分散性を示すためにエマルション中のポリマー濃度を高くすることができ、生産性よく溶融加工性含フッ素ポリマーを製造することができる。
【0014】
また、上記含フッ素化合物は、生成ポリマーからの除去が容易であるため、本発明の製造方法により得られる溶融加工性含フッ素ポリマーを成形する際に発泡・着色が発生せず、また二次電池用の添加剤として使用した場合にも充放電性能が劣化しない。
【0015】
本発明の溶融加工性含フッ素ポリマーでないものに、界面活性剤の除去性能と乾燥後の取り扱い性の観点から、ゴムや繊維状化する高分子量PTFEなどが挙げられる。
重合粒子表面層が粒子のせん断接触などの条件化でも繊維化しない、低分子量化したPTFEや、重合粒子表面ポリマー層の融点が、水を乾燥除去しやすい水の沸点である100℃以上の融点、好ましくは130℃以上、より好ましくは160℃以上の融点を有する溶融加工性ポリマーにした、いわゆるコアシェルタイプの変性ゴム粒子や、変性PTFEは、本発明の溶融加工性含フッ素ポリマーに含まれる。
【0016】
高分子量体で繊維化するタイプのPTFEは、遠心脱水や真空ろ過脱水洗浄方式は採用することが好ましくない。真空ろ過後のスラリーを乾燥することで、粒子間の密着力が大きくなりすぎることで分子鎖が繊維化し、数十ミクロンから数ミリの乾燥粒子にきれいに分散できなくなるおそれがある。そのため、PTFEは塩酸や硝酸などの酸で凝析し、その後乾燥機で乳化剤を乾燥、昇華させることでの除去する方法が適している。凝析の際、常温で凝析可能であり、安価で安全な硝酸アルミや硫酸アルミなどの水溶性金属塩を使用しての塩凝析方法は適していない。更に、強酸を使用するため、凝析槽や付帯配管などの腐食による製品への混入などのおそれがある。
【0017】
ゴムの場合は、酸や水溶性金属塩で凝析できるが、融点を持たず、かつガラス転移点が室温以下であり、更に一般的に分子量が低いものであるため、水中で攪拌凝析する仮定で、粒子が融合し、機械的なせん断を加えても再分散ができない。また、例えば、100℃以上の乾燥後には、シート状になってしまい、その後の用途が限定されやすい。また残留乳化材を少なくするため、凝析後の加熱と真空引きによる蒸発と昇華を利用して、ゴム製品から乳化剤を除去しても、粒子内部に埋没する乳化剤の金属塩除去は容易でない。
【0018】
本発明によって製造される含フッ素ポリマーは、一般に水の沸点の100℃以上の融点を有するものが多く、高速で水を蒸発させることができる水の沸点以上の温度で乾燥しても形状を保持する性質がある。そのため、融点より30℃〜50℃低い温度で乾燥する場合は、100℃以上の乾燥温度でも粒子形状を保持している。そこで、温水洗浄ろ過での洗浄などを施しても、乾燥後に数十ミクロンから数ミリの乾燥粒子を得ることができる。ただ、融点が100℃より低い場合、例えば、融点が60℃や80℃のポリマーでも、真空乾燥法などを行うことで、同様に乾燥効率を確保した上で、流動性のある乾燥粒子を得ることはできる。これら粒子形状を乾燥粒子の流動性を確保することは、樹脂製品にする金型、成型装置、ホッパーなどに投入する際の作業性、コスト面で有益であり好ましい。
本発明の含フッ素化合物を使用した水性分散液は硝酸アルミや硫酸アルミなどの凝析効率の良い安価な多価金属塩を使用しての凝析後でも、温水やメタノールなどの溶剤を使用しての洗浄、ろ過、乾燥により、非常に効率よく除去することができる。
【0019】
上記含フッ素化合物における親水基としては、−COOM11、−SO12、−SONR又は−PO1314が挙げられ、M11、M12、M13及びM14は、同一若しくは異なって、H又は一価カチオンを表し、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表す。
上記一価カチオンとしては、例えば、−Na、−K、−NH等が挙げられる。
【0020】
本発明において、「フッ素原子が直接結合した炭素原子が1〜6個の範囲で連続して結合する」とは、以下の意味を表す。
【0021】
上記「フッ素原子が直接結合した炭素原子」とは、−CF炭素、−CF−炭素、−CFH−炭素、−CFR−炭素(Rは、アルキル基。)等、フッ素原子が結合している炭素原子を意味する。上記「1〜6個の範囲で連続して結合する」とは、分子中に存在する該炭素原子が1〜6個の範囲で連続しており、7以上連続した単位を含まないことを意味する。すなわち、本発明は、上記「フッ素原子が直接結合した炭素原子」が7個以上連続して結合する単位を含む化合物では、水への溶解性が低下する点に鑑み、このような問題を生じることのない含フッ素化合物を含フッ素化合物として選択したものである。
【0022】
上記「フッ素原子が直接結合した炭素原子が1〜6個の範囲で連続して結合する」構造は、1つの分子中に2以上有するものであってもよい。上記含フッ素化合物において、本構造は、例えば、−Rf−O−Rf−、−Rf−Rh−Rf−、−Rf−COO−Rf−(各式中、Rf及びRfは、それぞれ任意の本構造を表す。Rhは、任意のアルケニル基を表す。)等、本構造以外の構成単位を介して2以上有するものであってもよい。
【0023】
上記乳化重合は、上記含フッ素化合物を1種存在させるものであってもよいし、2種以上存在させるものであってもよい。
【0024】
上記含フッ素化合物は、一般式(I)
Y−Rf−Z (I)
で表される含フッ素化合物であることが好ましい。
【0025】
上記一般式(I)において、Yは、H、Cl又はFを表す。
上記Rfは、エーテル酸素を含んでもよい炭素数2〜16個の直鎖又は分岐の飽和フルオロアルキレン基を表す(但し、フッ素原子が直接結合した炭素原子の7個以上の連鎖を含まない)。上記Rfは、エーテル酸素を含んでもよい炭素数2〜5個の直鎖又は分岐の飽和フルオロアルキレン基であることが好ましい。上記Zは、−COOM、−SO、−SONM又は−POを表す。上記M、M、M、M、M及びMは、同一又は異なって、H又は一価カチオンを表す。上記一価カチオンとしては、上述のものが挙げられる。
【0026】
上記含フッ素化合物は、例えば、下記一般式(i)〜(iv)で表される化合物が挙げられる。
−(CFaa−Z (i)
−(CFab−O−CF(CF)−Z (ii)
−(CFac−O−CFCF−Z (iii)
CFCHF−O−CFCF−Z (iv)
(Y、Y及びYは、それぞれ、H、F又はClを表し、Z、Z、Z及びZは、上記Zと同じ。aaは、2〜5、好ましくは3〜4である。abは、1〜3を表す。acは1〜3を表す。)
【0027】
上記含フッ素化合物としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
CF(CFCOONH、CF(CFCOONH
CF(CFCOONH、CF(CFSONa、
CF(CFSONH、(CFCFCFCOONH
H(CFCOONH、CF(CF−O−CF(CF)COONH
(CFCF−O−CF(CF)COONH
CF−O−CF(CF)COONH
HCFCF−O−CFCFSONa、
HCFCF−O−CFCFSONH
CFCHF−O−CFCFSONa
【0028】
上記ラジカル重合において、上記含フッ素化合物は、水性媒体の100〜50000ppmに相当する量添加することが好ましい。
【0029】
水性媒体の100ppmに相当する量よりも少ないと、エマルションの安定化効果が得られない場合があり、50000ppmに相当する量よりも多いと、後処理工程が困難になる場合がある。
【0030】
上記ラジカル重合開始前における含フッ素化合物の濃度は、より好ましくは水性媒体の200ppmに相当する量以上、22000ppmに相当する量以下であり、更に好ましくは水性媒体の500ppmに相当する量以上、水性媒体の10000ppmに相当する量以下である。
【0031】
上記含フッ素化合物は、ラジカル重合を行う前に予め全て添加されていてもよいし、重合中に適宜追加する方法でもよい。操作が簡便になる点で、ラジカル重合開始前に予め添加されていることが好ましい。
【0032】
上記ラジカル重合は、上記含フッ素化合物と、更に、ラジカル重合性不飽和結合と親水基とを有する含フッ素ビニル基含有化合物の存在下で行うことで、より好ましい特長を発現する。
【0033】
本発明者らの検討によれば、水性媒体中での含フッ素モノマーの重合は、主として界面活性剤によって水性媒体中に分散した含フッ素オリゴマーからなる乳化粒子の周辺で起こると考えられる。上記含フッ素オリゴマーは、重合初期に含フッ素モノマーとラジカル種との反応により形成するものであり、この乳化粒子の数が水性媒体中に多いほど、重合反応は速やかに進行し、エマルションも安定になる傾向がある。一般に、乳化粒子の数は重合反応の初期に決定されると考えられ、界面活性剤はその多寡に対して多大な影響を有していると考えられる。
【0034】
分子中にラジカル重合性不飽和結合と親水基とを有する含フッ素ビニル基含有化合物を使用した含フッ素モノマーの重合においては、該含フッ素ビニル基含有化合物が、乳化粒子の形成や分散安定性等、重合初期の過程で重要な役割を果たす。しかしながら、含フッ素ビニル基含有化合物は、重合初期の過程で、その殆どが消費されてしまうため、形成される含フッ素ポリマー粒子の安定性は重合が進行するにつれて悪化する傾向がある。
【0035】
一方、含フッ素化合物は、フッ素原子が直接結合した炭素原子の数が上述の範囲内にあるフルオロカーボン基を有するので、従来より使用されている長鎖のフルオロアルキル基を有する含フッ素界面活性剤に比べ、親水性が強いため、単独で用いた場合には、初期誘導を生じさせる機能が低く、乳化粒子の数が少なくなる傾向がある。乳化粒子数の減少を補うために従来より使用されている長鎖のフルオロアルキル基を有する含フッ素界面活性剤よりも多くの添加量を添加することが必要であるおそれがある。
しかし、本発明の製造方法において、ラジカル重合を上記含フッ素化合物及び含フッ素ビニル基含有化合物の存在下で行うと、それぞれの欠点を補完しあうことで、生産性良く含フッ素ポリマーを製造できる。本発明で例示した含フッ素ビニル基含有化合物を併用すると、反応初期に粒子数を増加させる。その粒子数は、含フッ素ビニル化合物の少量の添加量から変化させることができる。そのためフッ素樹脂をより低圧で重合することが可能となる。一般的に高圧ガス重合設備は、その保守性、保守費用、取り扱い圧力範囲が爆発性範囲であることが多く、低圧化することにより、生産設備の低コスト化と設備の安全性を確保することができる。
【0036】
上記含フッ素ビニル基含有化合物は、ラジカル重合性不飽和結合と親水基とを有するものである。
【0037】
上記含フッ素ビニル基含有化合物は、上述の含フッ素モノマーと共重合してポリマー鎖中に取り込まれる特徴がある。更に、上記含フッ素ビニル基含有化合物に由来する単量体単位を有するポリマーは、一種の乳化作用を示すので、従来の重合方法から得られるポリマーよりも熱的に安定であり、成形時に加えられる熱による揮発・分解に起因する発泡・着色が生じにくい。
【0038】
上記含フッ素ビニル基含有化合物におけるラジカル重合性不飽和結合としては、CF=CF−における不飽和結合等が挙げられる。
上記含フッ素ビニル基含有化合物における親水性基としては、後述の一般式(II)におけるZ及びZに関し例示したものが好ましい。
上記含フッ素ビニル基含有化合物は、炭素数が合計で4〜26であるものが好ましい。
【0039】
上記含フッ素ビニル基含有化合物は、下記一般式(II)
CR=CR(CR−(O)−R−Z (II)
で表される含フッ素ビニル基含有化合物であることが好ましい。
上記一般式(II)において、上記R、R、R、R及びRは、同一若しくは異なって、フルオロアルキル基、H、F、Cl、Br又はIを表す。上記R、R、R、R及びRとしてのフルオロアルキル基は、炭素数1〜3であることが好ましい。上記R、R、R、R及びRは、Fであることが好ましい。
【0040】
上記Rは、主鎖に酸素原子〔−O−〕を有していてもよい直鎖若しくは分岐のパーフルオロアルキレン基を表す。上記Rは、主鎖炭素数1〜23であることが好ましい。
【0041】
上記パーフルオロアルキレン基は、主鎖に酸素原子を有している場合、該酸素原子としては、1〜10個のオキシアルキレン単位(好ましくは炭素数2〜3のもの)を構成する酸素原子であることが好ましい。
【0042】
上記パーフルオロアルキレン基は、分岐鎖である場合、側鎖として−CFを有することが好ましい。
上記jは、0〜6の整数を表し、0〜2の整数であることが好ましい。
上記kは、0又は1を表す。
上記Zは、親水基を表す。
【0043】
上記Zで表される親水基としては、−COOM、−SO、−SONR又は−POが挙げられる。M、M、M及びMは、同一若しくは異なって、H又は一価カチオンを表し、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表す。
上記一価カチオンとしては、例えば、−Na、−K、−NH等が挙げられる。
【0044】
含フッ素ビニル基含有化合物としては、更に、下記一般式(III)
CF=CFO−(CFCF(CF)O)−(CF−Z (III)
で表される含フッ素ビニル基含有化合物も挙げられる。
【0045】
上記一般式(III)において、lは、0〜3の整数を表し、mは、2〜8の整数を表す。Zは、−COOM、−SO、−SONR又は−PO10を表し、M、M、M及びM10は、同一若しくは異なって、H又は一価カチオンを表し、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表す。
【0046】
上記含フッ素ビニル基含有化合物としては、下記一般式(v)〜(viii)で表される化合物が好ましい。
CF=CF−(CF−Z (v)
CF=CF−(CFC(CF)F)−Z (vi)
CF=CF(CF−O−(CFCFXO)−(CF−Z (vii)
CF=CFCFO(CF(CF)CFO)−CF(CF)Z (viii)
[各式中、qは、1〜8の整数を表し、rは、1〜5の整数を表し、sは0〜2の整数を表し、tは0〜3の整数を表し、uは、1〜8の整数を表し、vは、0〜10の整数を表す。Xは、F又は−CFを表し、Zは、親水基を表す。]
【0047】
上記含フッ素ビニル基含有化合物としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
CF=CFCFCOONH、CF=CFCFCFCOONH
CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCOONH
CF=CFCFSONa、CF=CFCFCFSONa、
CF=CFOCFCFSONa、
CF=CFOCFCF(CF)OCFCFSONa、
CF=CFCFOCFCFSONa、
CH=CHCFCFCOONH、CH=CHCFCFSONa、
CH=CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COONH
【0048】
上記含フッ素ビニル基含有化合物は、水性媒体の2〜1000ppmに相当する量を添加することが好ましい。
【0049】
上記含フッ素ビニル基含有化合物が水性媒体の2ppmに相当する量よりも少ないと、重合初期での乳化粒子の生成数が少なくなり重合速度が遅くなるため、生産効率が悪くなるおそれがある。水性媒体の1000ppmに相当する量を超えると、重合開始までの誘導期間が極端に長くなり生産効率が悪くなるおそれがある。
上記含フッ素ビニル基含有化合物は、反応得量の増加とともに追加添加してもよい。追加添加により、反応開始後ポリマー得量が増加するにつれてポリマー粒子径の増加や粒子総表面積の増加、粒子間距離が短くなり、凝析が起こりやすくなるのを防止することができる。そのため、粒子の単位表面積あたりの官能基濃度が重合進行中保持でき、コスト低減のための1反応あたりのポリマー得量を上げることができる。
【0050】
上記含フッ素ビニル基含有化合物の添加量は、より好ましくは水性媒体の10ppmに相当する量以上、500ppmに相当する量以下であり、更に好ましくは水性媒体の20ppmに相当する量以上、水性媒体の300ppmに相当する量以下である。
【0051】
上記ラジカル重合において、含フッ素ビニル基含有化合物の添加量が上述の範囲より多い場合、重合開始までの誘導期間が長くなる理由については明確ではないが、本発明者らは以下のように理解している。
【0052】
上記ラジカル重合において、重合初期には上記乳化粒子が存在しないので、水性媒体に溶解したモノマーとラジカル種との反応によりオリゴマーを形成する水溶液重合が生じ、更に、上記オリゴマーのうち非水溶性のものが乳化粒子に変換する相転移が生じた後、本乳化粒子が乳化重合により生長して含フッ素ポリマー鎖が伸張する。ここで、非水溶性のオリゴマーとしては、含フッ素モノマー単位の割合が高いオリゴマーが挙げられる。しかしながら、上記水溶液重合では、含フッ素ビニル基含有化合物は、水に対する溶解度がより高いので、含フッ素モノマーに優先してラジカル種と反応する。その結果、上記水溶液重合において主に生成されるオリゴマーは、含フッ素ビニル基含有化合物単位の割合が高いので、親水性となり、相転移することができない。すなわち、含フッ素ビニル基含有化合物が消費され、水性媒体における含フッ素モノマーに対する含フッ素ビニル基含有化合物の存在比が小さくなり、含フッ素モノマー単位の割合が高いオリゴマーが生成されるまで相転移が生じない。ゆえに、含フッ素ビニル基含有化合物の量が多いと、誘導期間が長くなると考えられる。
【0053】
本発明において、重合終了時点でポリマー濃度が高いエマルションが得られる点で、水性媒体の2〜1000ppmに添加量の含フッ素ビニル基含有化合物と、水性媒体の100〜50000ppmに相当する量の含フッ素化合物とを水性媒体に添加することが好ましい。
【0054】
本発明の製造方法は、水性媒体中において含フッ素モノマーをラジカル重合して溶融加工性含フッ素ポリマーを製造する方法である。
【0055】
上記含フッ素モノマーとしては、炭素に直接結合している原子としてフッ素原子を含み、重合して溶融加工性含フッ素ポリマーとなるものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、ビニリデンフルオライド〔VdF〕、クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、フッ化ビニル等が挙げられる。
【0056】
本発明において、上記含フッ素モノマーは、生成した含フッ素ポリマーが溶融加工性を有するものであれば、1種のみ使用するものであってもよいし、2種以上使用するものであってもよい。
【0057】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、CF=CF−O−(CFCFXO)−(CF−CF(ここで、Xは上記と同じ。)が好ましい。
【0058】
本発明における溶融加工性含フッ素ポリマーは、含フッ素モノマーに加え、フッ素非含有エチレン性単量体をもラジカル重合して得られるものであってもよい。
上記フッ素非含有エチレン性単量体は、耐熱性や耐薬品性等を維持する点で、炭素数5以下のエチレン性単量体から選ばれることが好ましい。該単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アルキルビニルエーテル(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテルなど)マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノエチルエステルやビニレンカーボネートなどが挙げられる。
【0059】
上記溶融加工性含フッ素ポリマーの融点は、ポリマーをパウダー化する際の洗浄水温度より約30℃高い、60℃以上であることが好ましい。より好ましくは水を乾燥除去しやすい水の沸点の100℃以上、更に好ましくは130℃以上、特に好ましくは160℃以上の融点である。
【0060】
本発明の含フッ素モノマーは、
CR=CR−(O)−(CR−R
[式中、R、R、R、R、R、Rは同一若しくは異なって、フルオロアルキル基、H、F、Cl、Br又はIを表し、jは、0〜6の整数を表し、kは、0又は1の整数を表す]で表されるモノマーの1種又は2種以上であることが好ましい。
【0061】
上記溶融加工性含フッ素ポリマーとしては、例えば、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕、VdF/TFE共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体、VdF/HFP共重合体、VdF/TFE/PAVE共重合体、エチレン/TFE共重合体〔ETFE〕、エチレン/HFP/TFE共重合体〔EFEP〕、VdF/TFE/クロロトリフルオロエチレン(CTFE)共重合体、TFE/PAVE共重合体[PFA]、TFE/HFP共重合体〔FEP〕、TFE/HFP/PAVE共重合体、ポリクロロテトラフルオロエチレン[PCTFE]、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体[ECTFE]、TFE/CTFE/PAVE共重合体、ポリフッ化ビニル[PVF]等が挙げられる。
【0062】
上記PFAとしては、TFE/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)[PMVE]共重合体[MFA]、TFE/パーフルオロ(エチルビニルエーテル)[PEVE]共重合体、TFE/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)[PPVE]共重合体等が挙げられ、なかでも、MFA、TFE/PPVE共重合体が好ましく、TFE/PPVE共重合体がより好ましい。
【0063】
上記TFE/HFP共重合体は、全モノマー単量体単位に占めるHFPの単量体単位が8〜20モル%であることが好ましい。上記TFE/PAVE共重合体は、PAVEの含有量が1〜10モル%であることが好ましい。
【0064】
上記TFE/HFP/PAVE共重合体のPAVEとしては、パーフルオロメチルビニルエーテル〔PMVE〕、パーフルオロエチルビニルエーテル〔PEVE〕、パーフルオロプロピルビニルエーテル〔PPVE〕などが挙げられる。
【0065】
上記溶融加工性含フッ素ポリマーは、ビニリデンフルオライド単独重合体、または、ビニリデンフルオライド共重合体であり、かつ、ビニリデンフルオライド40〜100モル%、テトラフルオロエチレン0〜50モル%、及び、それらと共重合し得る単量体0〜20モル%のうち、少なくともビニリデンフルオライドを含む1種以上のモノマーから構成されるものであることが好ましい。
【0066】
上記溶融加工性含フッ素ポリマーとしては、使い捨てタイプのリチウム一次電池やカメラや電話などの携帯機器で常用されている充放電タイプの二次電池、例えばリチウムイオン電池などの添加剤、特に電極用バインダーとして好適に使用できる。その他、キャパシタや燃料電池、ニッケル水素電池などの電極バインダーや撥水材などにも使用できる。電極作成プラントに使用する場合、作業者への毒性面、火災の危険性が低い点で、有機溶剤であるN−メチルピロリドン(以下、NMPと表す。)に溶解可能であることが好ましい。上記溶剤には、Nメチルピロリドン以外にジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、その他メチルセルソルブやエチルセルソルブ、MEKやMIBKなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸メチルなどのエステル類などを単独、もしくは混合物で使用することもできる。特に、Nメチルピロリドンは極性が高く高沸点でもあるため、電極合材ペーストの粘性が高くなるのを調整するために希釈溶剤量が増え、乾燥で完全に除去する時間がかかるおそれがある。低粘度の溶剤を適宜混合することで、塗膜の乾燥速度や乾燥温度をある程度自由に制御することができる。ポリマーを溶解している溶剤と電極合材ペーストの溶剤が異なるものを使用することができるが、同一の溶媒を使用することが好ましい。
【0067】
本発明の溶融加工性含フッ素ポリマーの製造方法により得られた水性分散液から、凝析、水洗浄、有機溶剤洗浄、及び、乾燥の後処理工程のうち、少なくとも一つ以上の工程を経て得られたポリマー乾燥粉末を有機溶剤に溶解させて得られる溶液を用いて、後述する電極合材ペーストを製造することができる。
このような溶液も本発明の1つである。
上記有機溶剤は、N−メチルピロリドンを、有機溶剤全量に対して50質量%以上含むものであることが好ましい。
【0068】
上記溶融加工性含フッ素ポリマーは、代表的な電極ペースト溶剤であるNMPに溶解し、結晶性の低下によりリチウムイオン電池の電解液であるエチレンカーボネートやジメチルカーボネートなどへの膨潤性、溶解性が上がり過ぎない点で、ビニリデンフルオライド40〜100モル%、テトラフルオロエチレン0〜50モル%、及びそれらと共重合し得る単量体0〜20モル%のうち、少なくともビニリデンフルオライドを含む1種以上のモノマーからなる共重合体が好ましく、より好ましくは、ビニリデンフルオライド50〜80モル%、テトラフルオロエチレン15〜50モル%、及びそれらと共重合し得る単量体0〜10モル%のうち、少なくともビニリデンフルオライドを含む1種以上のモノマーからなる共重合体、更に好ましくは、ビニリデンフルオライド55〜70モル%、テトラフルオロエチレン30〜45モル%、及びそれらと共重合し得る単量体0〜5モル%からなる1種以上のモノマーからなる共重合体が好ましい。
上記共重合し得る単量体は、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル、プロピレン、1−ブテン、及び、2−ブテンからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーが好ましい。
【0069】
フッ化ビニリデン、及びテトラフルオロエチレンと共重合可能な単量体としては、特開平6−172452号公報に記載されているような不飽和二塩基酸モノエステル、たとえばマレイン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノエチルエステルやビニレンカーボネートなど、また特開平7−201316号公報に記載されているような、−SOM、−OSOM、−COOM、−OPOM(Mはアルカリ金属を表す)やアミン系極性基である−NHR、−NRR(Rはアルキル基を表す。)などの親水性極性基を有する化合物、たとえばCH=CH−CH−W、CH=C(CH)−CH−W、CH=CH−CH−O−CO−CH(CHCOOR)−W、CH=CH−CH−O−CH−CH(OH)−CH−W、CH=C(CH)−CO−O−CH−CH−CH−W、CH=CH−CO−O−CH−CH−W、CH=CH−CO−NH−C(CH−CH−W(Wは親水性極性基、Rはアルキル基を表す。)やその他、マレイン酸や無水マレイン酸などがあげられる。さらに、CH=CH−CH−O−(CH−OH(3≦n≦8)、
【0070】
【化1】

【0071】
CH=CH−CH−O−(CH−CH−O)−H(1≦n≦14)、CH=CH−CH−O−(CH−CH(CH)−O)−H(1≦n≦14)のなどの水酸化アリルエーテルモノマーや、カルボキシル化および/又は−(CF−CF(3≦n≦8)で置換されるアリルエーテルおよびエステルモノマー、たとえばCH=CH−CH−O−CO−C−COOH、CH=CH−CH−O−CO−C10−COOH、CH=CH−CH−O−C−(CFCF、CH=CH−CH−CO−O−C−(CFCF、CH=C(CH)−CO−O−CH−CFなども同様に共重合可能な単量体として使用できる。
【0072】
また、エチレン、プロピレンなどの不飽和炭化水素系モノマー(CH=CHR、Rは水素原子、アルキル基又はClなどのハロゲン)や、フッ素系モノマーである3フッ化塩化エチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブテンやCF=CF−O−C2n+1(nは1以上の整数)、CH=CF−C2n+1(nは1以上の整数)、CH=CF−(CFCFH(nは1以上の整数)、さらにCF=CF−O−(CFCF(CF)O)−C2n+1(m、nは1以上の整数)も使用可能である。そのほか式(1):
【0073】
【化2】

【0074】
(式中、Yは−CHOH、−COOH、カルボン酸塩、カルボキシエステル基又はエポキシ基、XおよびXは同じか又は異なりいずれも水素原子又はフッ素原子、Rは炭素数1〜40の2価の含フッ素アルキレン基又は炭素数1〜40のエーテル結合を含有する2価の含フッ素アルキレン基を表す。)で示される少なくとも1種の官能基を有する含フッ素エチレン性単量体も使用可能である。
単量体は共重合し得るものであれば特に限定されないが、より少量の添加により、電極バインダーとして好適な柔軟性を発現できるような、結晶性を効率良く崩す効果のあるかさ高い側鎖を持つ単量体が好ましい。好ましい単量体は、例えば、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテルが挙げられる。
【0075】
電池用バインダーとして使用するためには、電極活物質と導電材料と塗布溶剤(水や有機溶剤)からなる電極合剤ペーストの作成が必要となる。電極活物質は電池の種類や電池メーカーによって、適宜選択される。例えば、リチウムイオン電池の正極用には、リチウム含有酸化物、リチウムコバルト酸、リチウムニッケル酸、リチウムマンガン酸、又は、コバルト、ニッケル、マンガンの複合金属などが挙げられる。なかでも、リチウム含有酸化物であることが好ましい。
【0076】
電極合材ペーストを作成する方法としては以下に述べる二つの方法が挙げられる。(1)ポリマー粉末をNMPに溶液化した溶剤に電極活物質と導電材料を混合する方法。(2)本発明で得られたポリマーの水性分散液を濃縮した液をバインダーとし、カルボキシメチルセルロールなどの水溶性ポリマーを溶解した水溶液と電極活物質と導電材料を混合する方法である。これら二種類のペーストを、薄膜状集電体、もしくは多孔性集電体の片面、もしくは両面に塗布し、乾燥、圧延することで電池用電極を作成することができる。
また、ペーストを構成する材料を混合する容器内への添加順序は作業性に不都合がないなら、特に制限を設けるものではない。
上記電極合材料ペーストは、上記溶液と、電極活物質と、導電剤と、更に、上記溶液に含まれる有機溶剤と同一の有機溶剤を混合することにより得られるものであってもよい。このような電極合材ペーストも本発明の1つである。
上記電極合材料ペーストは、また、上記溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法により製造されるラテックスとポリテトラフルオロエチレンラテックスとの混合物、電極活物質、導電剤、水溶性ポリマー、及び、水を混合することにより製造され、
前記混合物のポリテトラフルオロエチレンラテックスの割合が、混合物中の全固形分に対して75質量%以下であるものであってもよい。このような電極合材ペーストも、本発明の1つである。
【0077】
本発明で得られた水性分散液の濃縮方法としては、ノニオン性界面活性剤の曇点付近での不溶化現象を利用した濃縮方法、膜透過による濃縮、水分の乾燥蒸発による濃縮など、従来公知の方法を用いることができる。曇点濃縮に使用される非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(ユニオンカーバイド社製:TX−100)、ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル(日本油脂(株)製:ディスパノールTOC)等を挙げることができる。
【0078】
水性ペースト用バインダーとしては、NMP溶液ペーストと同等の電極性能を発現することができる点で、本発明の溶融含フッ素樹脂からなる水性分散液を単独で使用するか、又は、PTFEにブレンドすることが好ましい。
一般に、PTFEディスパージョン単独で電極用バインダーとして使用すると、電極は電気的に安定なPTFEを使用することで柔軟性のある電極を得ることはできるが、電極の集電体であるアルミ箔などへの接着性があまりよくなく、ロール圧延後にアルミからはがれやすく取り扱いが困難であり、生産が不安定なおそれがある。本発明の本発明の溶融含フッ素樹脂からなる水性分散液をブレンドすることで、柔軟性がありかつ集電体との密着性の良い電極が得られる。
【0079】
上記ラジカル重合は、上記含フッ素モノマー、上記含フッ素化合物に加え、所望により、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤等を水性媒体に添加して行ってもよい。
【0080】
上記ラジカル重合開始剤としては、水溶性無機化合物、又は、水溶性有機化合物のパーオキシド、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩やビスコハク酸パーオキシド、ビスグルタル酸パーオキシドが一般的であり、これらは、1種のみであってもよいし、2種以上で組み合わせて用いるものであってもよい。低温度域の重合ではレドックス系の開始剤を用いることが好ましい。更に、重合性はディスパージョンの安定性を損なわない範囲で、水不溶性の有機過酸化物やアゾ化合物の何れか又は両方を、単独又は水溶性無機化合物又は水溶性有機化合物のパーオキシドとともに使用することができる。
【0081】
上記ラジカル重合開始剤の添加量は、製造する含フッ素ポリマーの組成及び収量、上記含フッ素モノマー、含フッ素ビニル基含有化合物及び含フッ素化合物の使用量等に応じて、適宜設定することができる。上記ラジカル重合開始剤は、得られる含フッ素ポリマーの合計量100質量部に対し0.0001〜3.0質量部の量を添加することが好ましく、0.005〜0.3質量部の量を添加することがより好ましい。
【0082】
上記連鎖移動剤としては、炭素数1〜6の飽和炭化水素、又は、炭素数1〜4のアルコール、炭素数4〜8のカルボン酸エステル化合物、炭素数1〜2の塩素置換炭化水素、炭素数3〜5のケトン、及び/又は、炭素数10〜12のメルカプタンが挙げられる。なかでも、エタン、プロパン、イソブタン、イソペンタン、メタノール、イソプロパノール、1−プロパノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、マロン酸ジエチル等が、適度な連鎖移動性に必要な量や、重合後の除去性の点から好ましい。
【0083】
上記連鎖移動剤の添加量は、含フッ素モノマーと含フッ素ビニル基含有化合物との合計添加量100質量部に対し0〜5質量部の量を添加することが好ましい。上記連鎖移動剤は、上記合計添加量100質量部に対し、より好ましくは0.0005質量部以上、更に好ましくは0.001質量部以上の量添加し、また、上記合計添加量100質量部に対し、より好ましくは1質量部以下、更に好ましくは0.1質量部以下の量を添加することができる。
【0084】
上記ラジカル重合は、更に、従来公知であるpH調整剤やラジカル補足剤などを適宜添加して行ってもよい。
【0085】
上記ラジカル重合は、回分操作、半回分操作及び連続操作の何れの操作でも実施でき、公知の重合方法が適用できる。
上記ラジカル重合において、含フッ素モノマー、含フッ素ビニル基含有化合物及び上記含フッ素化合物、並びに、所望により添加する連鎖移動剤、重合開始剤等の添加剤は、重合反応の間、所望の含フッ素ポリマーの組成や収量に応じ、適宜追加することができる。
【0086】
上記ラジカル重合は、一般に、10〜120℃の範囲の温度に維持して行う。
上記温度が10℃未満である場合、工業スケールにおいて有効な大きさの反応速度にすることができないことがあり、120℃を超える場合、重合反応を維持する為に必要な反応圧力が高くなり、反応を維持することができなくなることがある。
【0087】
上記ラジカル重合は、一般に、0.2〜5.0MPaの範囲の圧力に維持して行う。上記圧力は、0.2MPa未満である場合、重合反応系における含フッ素モノマー及び含フッ素ビニル基含有化合物の各濃度が低くなり過ぎて、満足する反応速度にすることができず、生産性が悪くなることがあり、5.0MPaを超える場合、耐圧の高い反応装置が必要になり、設備費用が高くなる不都合がある。
上記圧力は、好ましい下限が0.3MPaであり、好ましい上限が2.0MPaである。
【0088】
上記ラジカル重合を半回分操作で行う場合、所望の重合圧力は、初期供給時の含フッ素モノマーガスの量を調整することにより重合初期に達成することができ、反応開始後は、含フッ素モノマーガスの追加供給量を調整することにより圧力を調整することができる。
【0089】
上記ラジカル重合を連続操作で行う場合、所望の重合圧力は、得られるエマルションの流出管の背圧を調整することにより圧力を調整する。上記ラジカル重合は、一般に0.5〜100時間行う。
【0090】
上記ラジカル重合により、含フッ素ポリマー粒子が水性媒体に分散してなるエマルションを得ることができる。このようなエマルションの製造方法も本発明の1つである。また、本発明のエマルションの製造方法により得られるエマルションもまた、本発明の一つである。
【0091】
上記エマルションは、長鎖の含フッ素アルキル基を有する従来の界面活性剤を含有しないので、ポリマー成形における発泡、着色等、上記界面活性剤に起因する問題がなく、容易に精製することができる。
【0092】
上記含フッ素ポリマー粒子は、含フッ素ビニル基含有化合物に由来する単量体単位を含むので、分散性に優れており、従来の界面活性剤を含有しない水性媒体でも安定に分散することができる。
【0093】
本発明の含フッ素ポリマー製造方法は、上述のラジカル重合終了時点で含フッ素ポリマー濃度が15質量%以上であるエマルションを得ることができる。
上記エマルションにおける含フッ素ポリマー濃度は、好ましくは18質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、上記範囲内であれば60質量%以下であってもよい。
本明細書において、含フッ素ポリマー濃度(P)は、試料約1g(X)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃、1時間で乾燥した後、更に150℃、3時間乾燥して得られる加熱残分(Z)に基づき、式:P=Z/X×100(%)にて決定したものである。
【0094】
本発明の含フッ素ポリマー製造方法は、上記ラジカル重合を含むものであれば、上記ラジカル重合後に濃縮、希釈、精製等の後処理工程を含むのもであってもよいし、凝析等を行い粉末に加工する工程を含むものであってもよい。
上記後処理工程及び粉末に加工する工程における操作及びその条件は、特に限定されず、従来公知の方法で行うことができる。例えば、溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法により得られたラテックスを、攪拌装置付き容器内に入れ、酸(塩酸や硝酸など)、無機金属塩(塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、硫酸アルミ、硝酸アルミなど)、有機溶剤(エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノールなど)のいずれか1種以上を添加し、攪拌することでポリマー固形分を水相から分離凝析、遠心脱水などの方法でろ過脱水する。その後、水もしくは有機溶剤を用いて、残留する界面活性剤や開始剤、移動剤などを洗浄除去する。その後、濡れたポリマーを熱風もしくは真空乾燥することで乾燥粉末を得ることができる。
【0095】
本発明の溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法により得られる溶融加工性含フッ素ポリマーもまた、本発明の一つである。
本発明の溶融加工性含フッ素ポリマーは、上述したように、従来のものより安定な溶融加工性含フッ素ポリマー水性分散液の材料として有用である。
【0096】
上記溶融加工性含フッ素ポリマーは、電線、LANケーブル、パッキン・シール材、各種フィルム、薬液チューブ、燃料ホース、積層チューブ、各種タンクライニング材料、コーティング材料、薬包フィルム、テント膜、塗料、光ファイバー鞘剤、電池バインダー、キャパシター用バインダー、燃料電池用バインダー、電池やキャパシタ用パッキン、電池用セパレーター、等に好適に使用できる。
【発明の効果】
【0097】
本発明の溶融加工性含フッ素ポリマーの製造方法は、上述した構成よりなるので、生産性が高く、成形時に発泡や着色が発生せず、また電池用の添加剤として使用した場合にも、電池用添加剤、例えばバインダーとして使用した際、電極作成時の発泡などを起こさず、特に二次電池に使用した場合には充放電性能が劣化しない溶融加工性含フッ素ポリマーを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0098】
本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例及び比較例により限定されるものではない。
本発明における物性測定は、次に示す方法により行った。
・ポリマー組成及びポリマー残留乳化剤濃度
NMR測定装置(BRUKER社製)を使用して、19F−NMRを測定した。
・ポリマー粒子径、及び水性分散液1cc中のポリマー粒子数
マイクロトラックUPA(HONEYWELL社製)を用いて、各ポリマー比重データから粒子径を測定し、その値と水性分散液のポリマー濃度から水性分散液1cc中のポリマー粒子数を算出した。
・ポリマー残留乳化剤濃度
乾燥ポリマーをメタノールにてソックスレー抽出し、液体クロマトグラフィー測定(ウオーターズ社製)により測定した。
・ポリマー融点
DSC装置(SEIKO社製)により、資料3mgを測定し、10℃/分の昇温速度で融点以上まで昇温させた後、同速度で冷却の後、同速度で昇温させた際の融解ピークを読み取り融点とした。
【0099】
調製例1〜15に記載した方法に従って、表1に記載した含フッ素ポリマーを製造した。
【0100】
【表1】

【0101】
調製例1 TFE/HFP共重合体
内容積6Lの攪拌機付きSUS製重合槽に、乳化剤F(CFCOONHが2.0質量%に調製した純水3810gと粒状パラフィンワックス136gを入れて密閉した。真空窒素置換後、槽内を真空引きした。槽内にヘキサフルオロプロピレン(以下、HFPと表す。)を槽内圧0.02MPaGまで仕込み、80℃、300rpmで保持した。温度が一定になったところで、槽内にHFPを槽内圧0.2MPaGまで仕込み、更にテトラフルオロエチレン(以後TFEと称す)を0.8MPaGまで仕込んだ。過硫酸アンモニウム(以下、APSと表す。)2.2gを10gの水に溶かした水溶液を窒素で圧入することで反応を開始した。槽内圧力を保持するように、TFE/HFP 90/10モル%の混合モノマーを追加で仕込んだ。反応開始後5h経過する毎に、APS0.55gを10gの水溶液にして、窒素で圧入した。追加モノマーが970gになった時点で攪拌を低速にし、槽内ガスをブローして、反応を終了した。槽内を冷却して、白濁した水性分散液4783gをポリ容器に回収した。乾燥重量法による水性分散液の固形分濃度は20.3質量%であった。NMR分析により共重合組成を調べたところ、TFE/HFP=92.0/8.0(モル%)であった。DSCにより分析した融点は252.1℃であった。
【0102】
調製例2 TFE/HFP共重合体
乳化剤をF(CFCOONHで0.8質量%に調製した以外は、調製例1と同じ方法で反応した。槽内冷却後、白濁した水性分散液4780gをポリ容器に回収した。乾燥重量法による水性分散液の固形分濃度は20.2質量%であった。
NMR分析により共重合組成を調べたところ、TFE/HFP=91.9/8.1(モル%)であった。DSCにより分析した融点は252.2℃であった。
【0103】
調製例3 TFE/PPVE共重合体
内容積6Lの攪拌機付きSUS製重合槽に、乳化剤F(CFCOONHが0.3質量%で、かつCF=CFOCFCF(CF)OCFCFSONaが20ppmに調製した純水3100gを入れて密閉した。真空窒素置換後、槽内を真空引きした。エタンを18ccシリンジで仕込んだ。その後、70℃、300rpm撹拌しながら、パーフロロプルピルビニルエーテル(以下、PPVEと表す。)を43g仕込み、更に、TFEを槽内圧0.2MPaGまで仕込み、80℃、300rpmで保持した。温度が一定になったところで、更にTFEを0.8MPaGまで仕込んだ。APS9.3gを10gの水に溶かした水溶液を窒素で圧入することで反応を開始した。槽内圧力を保持するように、TFEを追加した。TFEが50g消費する毎に、PPVEを2.6g追加で仕込み、反応開始後5h経過する毎に、APS2.3gを10gの水溶液にして、窒素で圧入した。追加モノマーが750gになった時点で攪拌を低速にし、槽内ガスをブローして、反応を終了した。槽内を冷却して、内容物3940gをポリ容器に回収した。乾燥重量法による水性分散液の固形分濃度は20.0質量%であった。
NMR分析により共重合組成を調べたところ、TFE/PPVE=96.0/4.0(質量%)であった。DSCにより分析した融点は311.0℃であった。
【0104】
調製例4 TFE/PPVE共重合体
乳化剤をF(CFCOONHで0.3質量%に調製したことと、含フッ素ビニル化合物を添加していないこと以外は、調製例3と同じ方法で反応した。得られた水性分散物は、内容物3941gをポリ容器に回収した。乾燥重量法による水性分散液の固形分濃度は20.1質量%であった。
NMR分析により共重合組成を調べたところ、TFE/HFP=95.9/4.2(質量%)であった。DSCにより分析した融点は311.1℃であった。
【0105】
調製例5 PVDF
内容積6Lの攪拌機付きSUS製重合槽に、乳化剤F(CFCOONHが1質量%に調製した純水1352gを入れて密閉した。真空窒素置換後、槽内を真空引きし、連鎖移動剤としてのイソプロパノール10%水溶液をシリンジで7.5ccを真空吸引しながら仕込んだ。その後、80℃、500rpm撹拌しながら、槽内にビニリデンフルオライド(以下、VDFと表す。)1.5MPaGまで仕込んだ。その後、APS1.5gを10gの水に溶かした水溶液を窒素で圧入することで反応を開始した。反応管の途中に液が残らないよう、水10gを再び窒素で反応開始した。以後、反応開始後1.5h経過する毎に、APS0.75gを10gの水溶液にして、窒素で圧入した。
槽内圧力を保持するように、VDFを追加で仕込んだ。追加VDFが624gになった時点で攪拌を低速にし、槽内ガスをブローして、反応を終了した。槽内を冷却して、内容物3628gをポリ容器に回収した。乾燥重量法による水性分散液の固形分濃度は17.2質量%であった。DSCにより分析した融点は162.6℃であった。
【0106】
調製例6 PVDF
乳化剤をF(CFCOONHで0.3質量%に調製した以外は、調製例5と同じ方法で反応した。得られた水性分散物は、内容物3629gをポリ容器に回収した。乾燥重量法による水性分散液の固形分濃度は17.2質量%であった。DSCにより分析した融点は162.5℃であった。
【0107】
調製例7 VDF/TFE共重合体
内容積3Lの攪拌機付きSUS製重合槽に、乳化剤F(CFCOONHが1.0質量%に調製した純水1480gを入れて密閉した。真空窒素置換後、槽内を真空引きし、連鎖移動剤としてのイソプロパノール10%水溶液をシリンジで7.5ccを真空吸引しながら仕込んだ。その後、80℃、500rpm撹拌しながら、槽内にVDF/TFE88/12モル%の混合ガスを1.0MPaGまで仕込んだ。その後、APS1.5gを10gの水に溶かした水溶液を窒素で圧入することで反応を開始した。反応管の途中に液が残らないよう、水10gを再び窒素で反応開始した。以後、反応開始後1.5h経過する毎に、APS0.75gを10gの水溶液にして、窒素で圧入した。
槽内圧力を保持するように、VDF/TFE90/10モル%の混合ガスを追加で仕込んだ。追加モノマーが624gになった時点で攪拌を低速にし、槽内ガスをブローして、反応を終了した。槽内を冷却して、内容物3632gをポリ容器に回収した。乾燥重量法による水性分散液の固形分濃度は17.3質量%であった。NMR分析により共重合組成を調べたところ、VDF/TFE=89.9/10.1(モル%)であった。DSCにより分析した融点は142.1℃であった。
【0108】
調製例8 VDF/TFE共重合体
乳化剤をF(CFCOONHで0.3質量%に調製した以外は、調製例7と同じ方法で反応した。得られた水性分散物は、内容物3633gをポリ容器に回収した。乾燥重量法による水性分散液の固形分濃度は17.3質量%であった。
NMR分析により共重合組成を調べたところ、VDF/TFE=89.9/10.1(モル%)であった。DSCで測定した融点は142.2℃であった。
【0109】
調製例9 VDF/TFE/HFP三元共重合体
内容積4Lの攪拌機付きSUS製重合槽に、乳化剤F(CFCOONHが1質量%に調製した純水1352gを入れて密閉した。真空窒素置換後、槽内を真空引きし、連鎖移動剤としてのエタンをシリンジで400cc相当量を真空吸引しながら仕込んだ。その後、70℃、450rpm撹拌しながら、槽内にVDF/TFE/HFP組成比が50/38/12モル%の混合ガスモノマーを、0.9MPaGまで仕込んだ。その後、APS137.2mgを10gの水に溶かした水溶液を窒素で圧入することで反応を開始した。反応管の途中に液が残らないよう、水10gを再び窒素で反応開始した。
槽内圧力を保持するように、VDF/TFE/HFP組成比が60/38/2モル%の混合モノマーを追加で仕込んだ。追加モノマーが73gになった時点で攪拌を低速にし、槽内ガスをブローして、反応を終了した。槽内を冷却して、内容物1452gポリ容器に回収した。乾燥重量法による水性分散液の固形分濃度は5.2質量%であった。NMR分析により共重合組成を調べたところ、VDF/TFE/HFP 59.1/38.8/2.1(モル%)であった。DSCにより分析した融点は145.5℃であった。
【0110】
調製例10 VDF/TFE/HFP三元共重合体
内容積3Lの攪拌機付きSUS製重合槽に、F(CFCOONHが3300ppmで、かつCH=CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COONHが200ppmの純水を入れて密閉した。真空窒素置換後、槽内を真空引きし、連鎖移動剤としてのエタンをシリンジで400cc相当量を真空吸引しながら仕込んだ。その後、70℃、450rpm撹拌しながら、槽内にVDF/TFE/HFP組成比が50/38/12モル%の混合ガスモノマーを、0.39MPaGまで仕込んだ。その後、APS137.2mgを10gの水に溶かした水溶液を窒素で圧入することで反応を開始した。反応管の途中に液が残らないよう、水10gを再び窒素で反応開始した。
槽内圧力を保持するように、VDF/TFE/HFP組成比が60/38/2モル%の混合モノマーを追加で仕込んだ。追加モノマーが346gになった時点で攪拌を低速にし、槽内ガスをブローして、反応を終了した。槽内を冷却して、内容物を1708gポリ容器に回収した。乾燥重量法による水性分散液の固形分濃度は20.4質量%であった。NMR分析により共重合組成を調べたところ、VDF/TFE/HFP=59.0/38.9/2.1(モル%)であり、DSCにより分析した融点は145.9℃であった。
【0111】
調製例11 VDF/TFE/HFP三元共重合体
CH=CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COONHを50ppmに調整した以外は、実施例6と同じ方法で反応した。得られた水性分散物1710gをポリ容器に回収した。乾燥重量法による水性分散液の固形分濃度は20.3質量%であった。NMR分析により共重合組成を調べたところ、VDF/TFE/HFP=58.9/39.0/2.1(モル%)であり、DSCにより分析した融点は146.4℃であった。
【0112】
調製例12 VDF/TFE/HFP共重合体
内容積4Lの攪拌機付きSUS製重合槽に、乳化剤F(CFCOONHが3300ppmに調製した純水1352gを入れて密閉した。以後は、調製例10、11と同様の操作で反応を開始した。槽内を冷却して、内容物を1706gポリ容器に回収した。乾燥重量法による水性分散液の固形分濃度は20.2質量%であった。NMR分析により共重合組成を調べたところ、VDF/TFE/HFP=59.1/38.7/2.2(モル%)であり、DSCにより分析した融点は144.6℃であった。
【0113】
調製例13 VDF/HFP共重合体
内容積3Lの攪拌機付きSUS製重合槽に、乳化剤F(CFCOONHが1.0質量%に調製した純水1480gを入れて密閉した。真空窒素置換後、槽内を真空引きし、連鎖移動剤としてのイソプロパノール10%水溶液をシリンジで15ccを真空吸引しながら仕込んだ。その後、80℃、500rpm撹拌しながら、槽内にVDF/HFP65/35モル%の混合ガスを1.5MPaGまで仕込んだ。その後、APS1.5gを10gの水に溶かした水溶液を窒素で圧入することで反応を開始した。反応管の途中に液が残らないよう、水10gを再び窒素で反応開始した。以後、反応開始後1.5h経過する毎に、APS0.75gを10gの水溶液にして、窒素で圧入した。
槽内圧力を保持するように、VDF/HFP78/22モル%の混合ガスを追加で仕込んだ。追加モノマーが380gになった時点で攪拌を低速にし、槽内ガスをブローして、反応を終了した。槽内を冷却して、内容物1902gポリ容器に回収した。乾燥重量法による水性分散液の固形分濃度は20.2質量%であった。NMR分析により共重合組成を調べたところ、VDF/HFP=78.5/21.5(モル%)であった。融点はなく、凝析後の粒子はゴム弾性を示した。
【0114】
調製例14 PTFE
内容積6Lの攪拌機付きSUS製重合槽に、乳化剤F(CFCOONHが0.15質量%に調製した純水3000gと粒状パラフィンワックス120gを入れて密閉した。真空窒素置換後、槽内を真空引きした。その後、70℃、250rpm撹拌しながら、槽内にTFEを0.8MPaGまで仕込んだ。その後、APS15mgを10gの水に溶かした水溶液を窒素で圧入することで反応を開始した。反応管の途中に液が残らないよう、水10gを再び窒素で反応を開始した。TFEが320g入ったところで、ハイドロキノン15mgを10g水に溶かした水溶液を窒素で圧入した。槽内圧力を保持するように、TFEを仕込んだ。追加モノマーが750gになった時点で攪拌を低速にし、槽内ガスをブローして、反応を終了した。槽内を冷却して、内容物3780gをポリ容器に回収した。乾燥重量法による水性分散液の固形分濃度は19.8質量%であった。DSCにより分析した融点は325.6℃であった。
【0115】
調製例15 VDF/THE/HFP三元共重合体
乳化剤F(CFCOONHが0.33質量%である以外は、調製例9と同様の操作で反応を開始した。槽内を槽内を冷却して、内容物1452gをポリ容器に回収した。乾燥重量法による水性分散液の固形分濃度は5.2質量%であった。NMR分析により共重合組成を調べたところ、VDF/TFE/HFP 59.1/38.8/2.1(モル%)であった。DSCにより分析した融点は145.5℃であった。
【0116】
洗浄性
実施例1及び比較例1
調製例1〜14の処方で得られた水性分散液を、ポリマー固形分6g分が含まれる量を200ccビーカーに秤量し、その後純水を追加して100ccの量にした。全量をジューサーミキサー内に入れた。ミキサー内に、硝酸アルミ9水和物の20質量%水溶液を2.4g加えて、2分攪拌することで凝析した。凝析スラリーを、真空ポンプを接続した吸引ビン上にセットしたガラス製フィルター上に移した。水が液切れするまで吸引した。このスラリーからスパチュラで小量サンプリングし、シャーレに採った。その後、60℃の温水120ccをガラスフィルター上に加え、真空ろ過した。この60℃温水を加えて真空引きする毎に少量ずつサンプリングしてシャーレに採った。凝析後のサンプルと60℃温水を2回通した後のサンプル、60℃温水を4回通した後のサンプル、すべてをシャーレごと60℃熱風乾燥した。結果を表2及び表3に示す。
【0117】
【表2】

【0118】
【表3】

【0119】
表2記載の、重合にF(CFCOONHを使用したサンプルについては、4回洗浄後にフィルターに残った含水ポリマーを60℃で乾燥して得られたパウダーは、すべて白色のきれいなパウダーであった。一方、同様の操作を、表3記載の水性分散液について実施した。重合にF(CFCOONHを使用した表3記載のサンプルについては、4回洗浄後スラリーを60℃で乾燥して得られパウダーは、すべて黄色がかった着色が見られた。更に表3記載の、調製例13や調製例14についても、同様に黄色がかったパウダーであり、乳化剤の洗浄性が劣るため黄色がかったものであった。ゴムやPTFEは吸引ろ過後の洗浄時に粒子間が合着し、粒子間に吸着している乳化剤が十分に洗浄できなかったためと推測される。
【0120】
表2記載のように、重合にF(CFCOONHを使用したサンプルについては、硝酸アルミ水溶液で凝析後は大量に残留していた乳化剤濃度が、60℃温水で4回洗浄することで、ポリマーに対して400ppm以下にまで減少していた。一方、表3記載のように、重合にF(CFCOONHを使用したサンプルなどについては、いずれも500ppmから1000ppm以上の残留濃度であった。このため、乾燥後のポリマーが着色した推測される。なお、残留乳化剤濃度は、DMFに溶解する表2、3中の調製例5〜13はF19NMRにて分析し算出した。DMFに溶解しない表2、3中の調製例1〜4と調製14については、4回目洗浄後の含水ポリマーをメタノールでソックスレー抽出した抽出液を調製し、液クロマトグラフィー分析することにより算出した。
【0121】
実施例2および比較例2
表4中の調製例10及び12について、得られた水性分散液を、各々100ccビーカーに秤量し、その後純水を追加して計200ccにした。それをPTFE製攪拌翼をとりつけたスリーワンモーターで200rpmで攪拌した。そこに塩酸10質量%液をスポイトで滴下した。スラリーが増粘して水と分離してきたら攪拌停止し、凝析を終了した。凝析スラリーを、真空ポンプを接続した吸引ビン上にセットしたガラス製フィルター上に移した。水が液切れするまで吸引した。このスラリーの約1/3をシャーレに採った(サンプリング1)。更に、60℃温水100ccの温水をフィルターにかけ、真空引きした。この操作を計4回実行し、フィルター上のスラリーの半分をスパチュラでシャーレに採った(サンプリング2)。更に、100ccのメタノールをフィルター上に加え、真空引きした。フィルター上のポリマーをシャーレに採った(サンプリング3)。これらのサンプリングした含水ポリマーをメタノールでソックスレー抽出、その抽出液を液クロ分析し、乳化剤濃度を算出した。
【0122】
【表4】

【0123】
表4に示した残留乳化剤濃度結果のように、乳化剤がF(CFCOONHで重合した調製例10は、乳化剤がF(CFCOONHで重合した調製例12と比較して、凝析直後からメタノール洗浄後まで、残留乳化剤濃度が小さかった。これは、真空ろ過洗浄性が、酸で凝析する場合は、実施例1や比較例1の硝酸アルミという三価の金属塩で凝析した場合と比較し、乳化剤が酸により水溶性を保つため、洗浄により除去しやすい。また、メタノールで洗浄することにより、温水よりも残留乳化剤濃度は低く、効率よく洗浄できた。
【0124】
実施例3
調製例9〜12、及び15に記載した方法で、同じポリマー組成のVDF/TFE/HFPを重合した。得られた水性分散液中のポリマー粒子径を動的光散乱法にて測定した。粒子径とポリマーの比重、水性分散液の固形分濃度から水1ccあたりの粒子数を計算した。その計算方法は以下のように行った。
計算式
粒子径: d(μm)
水性分散液1g中のポリマー固形分濃度: Pc (mass%)
ポリマー比重: Gp (g/cc)
1粒子あたりの重量: Wp (g/cc)
Wp=(4÷3)×3.14×(d×10−4×Gp
水性分散液の比重: Gd (g/水性分散液1cc)
Gd=1÷{(0.01×Pc÷Gp)+(1−0.01×Pc)}
水性分散液1ccあたりのポリマー重量: Wd (g/水性分散液1cc)
Wd=Gd×Pc÷100
水性分散液1ccあたりのポリマー粒子数 Nd(個/cc)
Nd=Wd÷Wp
計算結果を表5に示す。
【0125】
【表5】

【0126】
表5より、調製例9、15のように、乳化剤Aを3300ppmから10000ppmまで増加させることで、粒子数は乳化剤Bを使用した調製例12と同様の粒子数の10の13乗オーダーまでにすることができ、更に乳化剤Aの濃度や反応圧力、開始剤濃度をあげることで、粒子数を増加させることができた。
また、調製例10、11のように、乳化剤Aの3300ppmは固定し、含フッ素ビニル化合物を50〜200ppm追加することで、粒子数を増加させることができる。このように、乳化剤の使用を大きく増加させることなく、粒子径を目的に応じて、容易に増減させることができることがわかった。これは、界面活性能力を有する含フッ素ビニル化合物が粒子形成段階でポリマー分子鎖に取り込まれることで、従来の乳化剤使用下の重合場では安定化しなかったような粒子径の小さな微粒子段階で水中に安定化させることができたためと推測される。
【0127】
調製例16〜22 濃縮水性分散液の調製
調製例1、2、3、5、7、10、11について、300ccのすり栓着きガラス製試薬ビン中に水性分散液を200g入れた。そこに、水性分散液の水分重量に対し、7.1質量%に相当する量のノニオン性界面活性剤ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル(日本油脂(株)製ディスパノールTOC)を各々添加した。5%アンモニア水溶液でpH5〜6の範囲に調整した後、70℃に温調された恒温槽内にて24時間放置した。白色のポリマー粒子層がガラス瓶の下側に、水がガラス瓶の上側にくるように分離した。分離界面まで上層の水を抜き取ることで濃縮された水性分散液を調製した。なお、調製例10と11については、分離界面がはっきりしないので、更に1週間放置後に水を抜き取った。濃縮された液のポリマー濃度は、アルミ製カップに5gの濃縮液を入れ、300℃電気炉中30分放置後の重量減少から算出した。結果を表6に示す。このようにして、濃縮水性分散液を作成することができた。(表6の調製例16〜22)
【0128】
【表6】

【0129】
実施例4〜15及び比較例3
リチウムイオン電池正極用水性ペーストの作成及び電極作成
得られた濃縮水性分散液を使用して、以下に記載するように、リチウムイオン電極を作成した。まず、1質量%のカルボキシメチルセルロースを100g、LiCoO 100g、アセチレンブラック3g、上記の水性分散液をポリマー固形分で5g相当量添加した。これらを攪拌機(シンキー社製泡取り練太郎)にて攪拌、脱法することで電極用ペーストが得られた。それを20ミクロンのアルミ箔の両面に140℃にて2時間乾燥後の電極の片面厚みが100ミクロンになるように塗布、乾燥して水分を除去した。その後、300℃電気炉に数分入れた。これを必要な寸法裁断し、ロールプレスにて電極密度を上げた。ロール後の電極はアルミ箔との十分な密着性を有していた。このようにして、リチウムイオン電池用帯状正極を作成した。(表8の実施例4〜9及び比較例4)
【0130】
また、PTFEディスパージョンが電極用バインダーとして良好であることが一般に知られている。そこで、ダイキン製ポリフロンディスパージョン(D−2C)を同様に試したところ、ロール後に電極の一部が剥離する現象が見られた。(表8の比較例3)そこで、今回得られた濃縮液と、PTFEディスパージョンの50%混合液を作成し、上記と同様の処方でペーストを作成、電極塗布し、ロールまで実施したところ、アルミ箔との密着性は向上し、剥離箇所はなかった。(表8の実施例10〜15)
【0131】
調製例23−28 リチウムイオン電池正極用バインダーNMP溶液作成
調製例5、7、10、11、12の水性分散液各200gをガラスビーカー内で攪拌しながら塩酸を少量ずる投入することで凝析し、凝析液をガラスフィルター内に移した。そこに60℃温水を200gを入れ吸引ろ過を行った。これをpHが6以上になるまで繰り返す。その後、フィルター上のポリマーが十分浸る程度にメタノールを加え、吸引ろ過した。吸引後のポリマーを乾燥用バット上に移し、24時間90℃真空乾燥した。このようにして、調製例5、7、10、11、12の乾燥ポリマー粉末を得た。
また、調製例12の水性分散液を200gをガラスビーカーに入れ、塩酸のかわに硝酸アルミ9水和物の20質量%水溶液を少量ずつ加えて、凝析させた。これをガラスフィルター上で60℃温水を200g加えてろ過する操作を4回連続行った。以後は、調製例5、7、10、11と同操作を行い、乾燥ポリマー粉末を得た。
次に、これらの乾燥粉末をN−メチルピロリドンに5質量%濃度になるように溶解した。なお、調整例7のみ、N−メチルピロリドンを70質量%とジメチルホルムアミド30質量%の混合溶液に溶解した。B型粘度計ロータNo3での測定粘度が5質量%で、調製例5が650cP,調製例7が1800cP,調製例10が1150cP,調製例11が820cP、調製例12の塩酸凝析物が840cP、調製例12の硝酸アルミ凝析物が850cPであった。このようにして、NMPポリマー溶液、及びNMP/DMFポリマー溶液を作成した。(表7の調製例23〜28)
【0132】
【表7】

【0133】
実施例16〜19及び比較例4
リチウムイオン電池正極用NMPペーストの作成及び電極作成
これらのNMPポリマー溶液を固形分5g相当量と、LiCoO 100g、アセチレンブラック3gを泡取り錬太郎で攪拌、脱泡した。その際、ペースト粘度、その後の塗布に適正な粘度になるようにNMPを徐々に加えながら攪拌を実施した。このようにして正極ペーストを作成した。得られた正極ペーストを20ミクロンのアルミ箔両面上に120℃乾燥後の厚みが片側100ミクロンになるように塗布した。乾燥後にロールプレスすることで電極密度を上げた。このようにして得られた電極は、電極の剥離も見られず、塗布膜とアルミ箔間には十分な接着性が見られた。なお、溶媒にNMP70質量%とDMF30質量%との混合溶媒を使用した、実施例17の塗布膜についても、その他のNMP溶媒と遜色ない電極が得られた。このようにして、リチウムイオン用電極の帯状正極を作成した。
ロール後の電極塗膜状態を評価を表8に示す。
【0134】
【表8】

【0135】
実施例20〜35 及び比較例3〜6
(負極の作製)カーボンブラック60g、バインダーとしてダイキン工業株式会社製PVDF、ネオフロンVdF(VW410)をNMP10質量%に溶解したNMP溶液50gを攪拌機(泡取り練太郎)にて攪拌、脱泡することで負極ペーストを作成した。このペーストを厚み10ミクロンの銅箔の両面に乾燥後厚みが100ミクロンになるように塗布し、最終的に120℃で乾燥後、ロールプレス処理して、帯状負極を作成した。
【0136】
(電池の作製)特開平7−201316号公報に記載されている方法に準じて、上記のように作製された帯状負極および帯状正極を用いて電池を作製した。すなわち、これら帯状正極、帯状負極をセパレータとなる厚さ25μmのポリプロピレン製フィルムを介して積層し、多数回巻回することで、外径18mmの渦巻電極体を作製した。そして、この渦巻電極体をニッケルメッキが施された鉄製電池缶に収納し、この渦巻電極体の上下に絶縁板を設置した。
そして、アルミニウム製正極リードを正極集電体から導出して電池蓋に溶接し、ニッケル製負極リードを負極集電体から導出して電池缶に溶接した。この渦巻き型電極体が収納された電池缶のなかに、炭酸エチレンと炭酸ジエチルが体積比1:1で混合された混合溶媒にLiPFを1mol/lの濃度で溶解した電解液を注入した。そして、電流遮断機構を有する安全弁装置、電池蓋を電池缶にアスファルトで表面を塗布した絶縁封口ガスケットを介して、かしめることで固定し、直径18mm、高さ65mmの円筒型の非水電解液を用いた二次電池を作製し、つぎの試験を行なった。
50%容量サイクル数: 室温下、最大充電電圧4.2V、充電電流1Aの条件で充電を2.5時間行ない、6.2Ωの定抵抗で放電を行なうといった充放電サイクルを繰り返し行なって放電容量の変化を観測し、放電容量が初期容量の50%まで低下するサイクル数(50%容量サイクル数)を調べた。その結果を表9に示す。
【0137】
【表9】

【0138】
表9の実施例20〜35までの結果からわかるように、バインダーに乳化剤としてF(CFCOONHを使用して重合したポリマーを濃縮して水性の正極ペーストから作成した正極や、塩酸凝析、洗浄、乾燥した後NMP溶液化し、NMP溶剤の正極ペーストから作成した正極、ともに50%容量サイクル数は600サイクル以上を示した。
また、比較例4や5のように乳化剤にF(CFCOONHを使用したTFE/HFP共重合体を使用した場合も、50%容量サイクル数は、実施例20〜35の約600サイクル以上の結果と比較して、約560サイクル前後と約5%程度の性能劣化であった。このことは300℃過熱工程やバインダーの重合後の洗浄乾燥工程の選択により、乳化剤の官能基や金属塩などが電池の充放電サイクル過程で阻害要因とならない程度まで除去してやることでリチウムイオン電池バインダーとしての性能劣化を遅らせることが可能であることを示唆していると思われる。
一方、比較例3のように、電極のロール後にひび割れや一部剥がれが発生していたものは、サイクル性能として問題が生じていることを示している。よって、十分な密着性を保持するために、塗膜の乾燥条件をポリマーの融点以上に施すことやポリマーブレンドすることで電極の柔軟性や添加量をある程度自由に設計できることを示唆している。
【0139】
また、比較例6のように凝析剤として3価の金属塩などを使用した場合、乳化剤の洗浄性が損なわれてしまい、バインダーと一緒に電極ペーストに取り込まれてしまう。よって、ペーストが乾燥時に発泡してしまい、乾燥後に電極塗膜上に泡の発生跡である凹凸が見られる。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明の製造方法は、成形体の材料や、電池電極用の添加剤として好適な溶融加工性含フッ素ポリマーの製造に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中において含フッ素モノマーをラジカル重合して溶融加工性含フッ素ポリマーを製造する方法であって、
前記ラジカル重合は、フッ素原子が直接結合した炭素原子が1〜6個の範囲で連続して結合するフルオロカーボン基と親水基とを有する含フッ素化合物の存在下で行うものである
ことを特徴とする溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法。
【請求項2】
溶融加工性含フッ素ポリマーの融点は、60℃以上である請求項1記載の溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法。
【請求項3】
含フッ素モノマーは、
CR=CR−(O)−(CR−R
[式中、R、R、R、R、R、Rは同一若しくは異なって、フルオロアルキル基、H、F、Cl、Br又はIを表し、jは、0〜6の整数を表し、kは、0又は1の整数を表す]で表されるモノマーの1種又は2種以上である請求項1〜2の何れか1項に記載の溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法。
【請求項4】
溶融加工性含フッ素ポリマーは、ビニリデンフルオライド単独重合体、または、ビニリデンフルオライド共重合体であり、かつ、
ビニリデンフルオライド40〜100モル%、テトラフルオロエチレン0〜50モル%、及び、それらと共重合し得る単量体0〜20モル%からなり、
前記共重合し得る単量体は、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル、プロピレン、1−ブテン、及び、2−ブテンからなる群より選択される少なくとも1種の単量体である請求項1〜3の何れか1項に記載の溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法。
【請求項5】
含フッ素化合物は、下記一般式(I)
Y−Rf−Z (I)
(Yは、H、Cl又はFを表し、Rfは、フッ素原子が直接結合した炭素原子の7個以上の連鎖を含まず、エーテル酸素を含んでもよい炭素数2〜16個の直鎖又は分岐の飽和フルオロアルキレン基を表し、Zは、−COOM、−SO、−SONM又は−POを表し、M、M、M、M、M及びMは、同一又は異なって、H又は一価カチオンを表す。)で表される含フッ素化合物である請求項1〜4の何れか1項に記載の溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法。
【請求項6】
ラジカル重合は、更に、ラジカル重合性不飽和結合と親水基とを有する含フッ素ビニル基含有化合物の存在下で行うものである請求項1〜5の何れか1項に記載の溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法。
【請求項7】
含フッ素ビニル基含有化合物は、下記一般式(II)
CR=CR(CR−(O)−R−Z (II)
[式中、R、R、R、R及びRは、同一若しくは異なって、フルオロアルキル基、H、F、Cl、Br又はIを表し、Rは、主鎖に酸素原子を有していてもよい直鎖若しくは分岐のフルオロアルキレン基を表す。jは、0〜6の整数を表し、kは、0又は1を表し、Zは、親水基を表す。]で表される含フッ素ビニル基含有化合物である請求項6記載の溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法。
【請求項8】
含フッ素ビニル基含有化合物は、下記一般式(III)
CF=CFO−(CFCF(CF)O)−(CF−Z (III)
[式中、lは、0〜3の整数を表し、mは、2〜8の整数を表す。Zは、−COOM、−SO、−SONR又は−PO10を表し、M、M、M及びM10は、同一若しくは異なって、H又は一価カチオンを表し、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表す。]
で表される含フッ素ビニル基含有化合物である請求項6〜7の何れか1項に記載の溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法。
【請求項9】
水性媒体の2〜1000ppmに相当する量の含フッ素ビニル基含有化合物を添加する請求項6〜8の何れか1項に記載の溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法。
【請求項10】
水性媒体の100〜50000ppmに相当する量の含フッ素化合物を添加する請求項1〜9の何れか1項に記載の溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法。
【請求項11】
ラジカル重合終了時点で溶融加工性含フッ素ポリマー濃度が15質量%以上であるエマルションを得る請求項1〜10の何れか1項に記載の溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか1項に記載の溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法により製造されることを特徴とする溶融加工性含フッ素ポリマー。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法により製造されるラテックスを濃縮することにより、溶融加工性含フッ素ポリマーの濃度が40質量%以上のエマルションを製造することを特徴とするエマルションの製造方法。
【請求項14】
請求項13記載のエマルションの製造方法により製造されることを特徴とするエマルション。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法により製造されるラテックス、電極活物質、導電剤、水溶性ポリマー、及び、水を混合することにより製造されることを特徴とする電極合材ペースト。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法により製造されるラテックスとポリテトラフルオロエチレンラテックスとの混合物、電極活物質、導電剤、水溶性ポリマー、及び、水を混合することにより製造され、
前記混合物のポリテトラフルオロエチレンラテックスの割合が、混合物中の全固形分に対して75質量%以下であることを特徴とする電極合剤ペースト。
【請求項17】
請求項1〜11の何れか1項に記載の溶融加工性含フッ素ポリマー製造方法により得られた水性分散液から、凝析、水洗浄、有機溶剤洗浄、及び、乾燥の後処理工程のうち、少なくとも一つ以上の工程を経て得られたポリマー乾燥粉末を有機溶剤に溶解させて得られることを特徴とする溶液。
【請求項18】
溶液に含まれる有機溶剤は、N−メチルピロリドンを、有機溶剤全量に対して50質量%以上含むものである請求項17記載の溶液。
【請求項19】
請求項17又は18記載の溶液と、電極活物質と、導電剤と、更に、前記溶液に含まれる有機溶剤と同一の有機溶剤を混合することにより得られる電極合材ペースト。
【請求項20】
電極活物質は、リチウム含有酸化物である請求項15又は19記載の電極合材ペースト。
【請求項21】
請求項15、16、19又は20記載の電極合材ペーストを、集電体薄膜、又は、金属メッシュの片面、又は、両面に塗布し、乾燥し、圧延することにより製造されることを特徴とする電池用電極。

【公開番号】特開2009−155558(P2009−155558A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337899(P2007−337899)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】