説明

溶融塩電気アルミニウムめっき浴及びそれを用いためっき方法

【課題】本発明は、空気や水と接触した場合にも爆発の危険性がなく、AlCl3の蒸気の発生も少ないめっき温度で操作できる溶融塩電気アルミニウムめっき浴を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、(A)アルミニウムハロゲン化物、(B)N−アルキルピリジニウムハライド類、N−アルキルイミダゾリウムハライド類、N,N’−アルキルイミダゾリウムハライド類、N−アルキルピラゾリウムハライド類及びN,N’−アルキルピラゾリウムハライド類からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物及び(C)ジメチルスルホンを混合溶融してなる電気アルミニウムめっき浴を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温で使用できる電気アルミニウムめっき浴に関するものである。特に、腐食防止のための一般的な表面処理として利用できる電気アルミニウムめっき層を形成するための電気アルミニウムめっき浴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム金属材が優れた耐食性を有していることはよく知られているが、アルミニウムは酸素に対する親和力が大きく、また還元電位が水素より卑であるため、水溶液からの電析は困難である。そのため従来からアルミニウム電気めっきは有機溶媒系めっき浴や高温溶融塩浴にて行われている。有機溶媒系のめっき浴としては、AlCl3と、LiAlH4又はLiHとをエーテルに溶解したものや、テトラヒドロフランに溶解したもの、NaF・2Al(C253のトルエン溶液が代表的である。しかしながら、これらの浴は、空気や水と接触した場合に爆発する危険性が有り、取り扱いにくいという問題がある。そこで、爆発の危険性がない浴として、アルミニウムハロゲン化物とアルキルピリジニウムハロゲン化物との混合溶融塩浴が提案されている(特許文献1)。しかしながら、このめっき浴からのめっきは電析が不均一で、平滑性にも乏しい。特に、膜厚を増加した場合や、電流密度を高くした場合には高電流密度部分にピリジニウムハロゲン化物の分解物の黒色析出が発生し、良好なめっきにならない問題がある。また、ジメチルスルホン−AlCl3の溶融塩浴も検討されている(特許文献2及び3)。しかしながら、めっき浴温が100〜120℃と高く、AlCl3の蒸気が多量に発生してめっき操作が困難であるという問題がある。
【0003】
【特許文献1】特開昭62−70592号公報
【特許文献2】特開2004−76031号公報
【特許文献3】特開2006−161154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、空気や水と接触した場合にも爆発の危険性がなく、AlCl3の蒸気の発生も少ないめっき温度で操作できる溶融塩電気アルミニウムめっき浴を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(A)アルミニウムハロゲン化物及び(B)モノアルキルピリジニウムハロゲン化物、ジアルキルピリジニウムハロゲン化物、1−アルキルイミダゾリウムハロゲン化物、1,3−ジアルキルイミダゾリウムハロゲン化物及び2−アルキル又は1,2−ジアルキルピラゾリウムハロゲン化物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物を混合溶融してなる電気アルミニウムめっき浴に、(C)ジメチルスルホン(以下、DMSと略称する場合がある)を添加することにより、100℃以下の低い温度でもめっき液の調製が可能となり、めっき操作温度も100℃以下まで下げることができるとの知見に基づいてなされたものである。すなわち、本発明は、(A)アルミニウムハロゲン化物、(B)N−アルキルピリジニウムハライド類、N−アルキルイミダゾリウムハライド類、N,N’−アルキルイミダゾリウムハライド類、N−アルキルピラゾリウムハライド類及びN,N’−アルキルピラゾリウムハライド類からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物及び(C)DMSを混合溶融してなる溶融塩電気アルミニウムめっき浴を提供する。
また、本発明は前記電気アルミニウムめっき浴を用いる電気めっき方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のめっき浴は、爆発や発火の危険性がなく、めっき温度も低いため、容易なめっき操作でアルミニウムめっきを行うことができる。またその皮膜は、高耐食性を有しているため、環境対応用として自動車部品、家電部品等、幅広い用途が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の電気アルミニウムめっき浴は、(A)アルミニウムハロゲン化物、(B)N−アルキルピリジニウムハライド類、N−アルキルイミダゾリウムハライド類、N,N’−アルキルイミダゾリウムハライド類、N−アルキルピラゾリウムハライド類及びN,N’−アルキルピラゾリウムハライド類からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物及び(C)DMSを混合溶融してなる電気アルミニウムめっき浴である。
本発明で用いる(A)アルミニウムハロゲン化物は、AlX3で表され、Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲンであり、塩素もしくは臭素が好ましい。経済性を考慮すると塩素が最も好ましい。
【0008】
本発明で(B)化合物として用いるN−アルキルピリジニウムハライド類としては、ピリジウム骨格にアルキル基が置換していてもよく、例えば下記一般式(I)で表される。
【化1】

(式中、R1は炭素原子数1〜12の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1〜5の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基であり、R2は水素原子又は炭素原子数1〜6の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1〜3の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基であり、Xはハロゲン原子であり、ハロゲン原子としては反応性を考慮すると臭素原子が最も好ましい。)
具体的なN−アルキルピリジニウムハライド類としては、例えばN−メチルピリジニウムクロライド、N−メチルピリジニウムブロマイド、N−エチルピリジニウムクロライド、N−エチルピリジニウムブロマイド、N−ブチルピリジニウムクロライド、N−ブチルピリジニウムブロマイド、N−ヘキシルピリジニウムクロライド、N−ヘキシルピリジニウムブロマイド、2−メチル−N−プロピルピリジニウムクロライド、2−メチル−N−プロピルピリジニウムブロマイド、3−メチル−N−エチルピリジニウムクロライド、3−メチル−N−エチルピリジニウムブロマイドなどが挙げられる。
【0009】
本発明で(B)化合物として用いるN−アルキルイミダゾリウムハライド類及びN,N’−アルキルイミダゾリウムハライド類としては、例えば下記一般式(II)で表される。
【化2】

(式中、R3は炭素原子数1〜12の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1〜5の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基であり、R4は水素原子又は炭素原子数1〜6の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であり、好ましくは水素原子又は炭素原子数1〜3の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基であり、Xはハロゲン原子であり、ハロゲン原子としては反応性を考慮すると臭素原子が最も好ましい。)
具体的なN−アルキルイミダゾリウムハライド類及びN,N’−アルキルイミダゾリウムハライド類としては、例えば1−メチルイミダゾリウムクロライド、1−メチルイミダゾリウムブロマイド、1−エチルイミダゾリウムクロライド、1−エチルイミダゾリウムブロマイド、1−プロピルイミダゾリウムクロライド、1−プロピルイミダゾリウムブロマイド、1−オクチルイミダゾリウムクロライド、1−オクチルイミダゾリウムブロマイド、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムクロライド、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムブロマイド、1,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1,3−ジメチルイミダゾリウムブロマイド、1,3−ジエチルイミダゾリウムクロライド、1,3−ジエチルイミダゾリウムブロマイド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムクロライド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムブロマイド、1−ブチル−3−ブチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−3−ブチルイミダゾリウムブロマイドなどが挙げられる。
【0010】
本発明で(B)化合物として用いるN−アルキルピラゾリウムハライド類及びN,N’−アルキルピラゾリウムハライド類としては、例えば下記一般式(III)で表される。
【化3】

(式中、R5は炭素原子数1〜12の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1〜5の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基であり、R6は水素原子又は炭素原子数1〜6の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基であり、好ましくは水素原子又は炭素原子数1〜3の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基であり、Xはハロゲン原子であり、ハロゲン原子としては反応性を考慮すると臭素原子が最も好ましい。)
具体的なN−アルキルピラゾリウムハライド類及びN,N’−アルキルピラゾリウムハライド類としては、例えば1−メチルピラゾリウムクロライド、1−メチルピラゾリウムブロマイド、1−プロピルピラゾリウムクロライド、1−プロピルピラゾリウムブロマイド、1−ブチルピラゾリウムクロライド、1−ブチルピラゾリウムブロマイド、1−ヘキシルピラゾリウムクロライド、1−ヘキシルピラゾリウムブロマイド、1−メチル−2−エチルピラゾリウムクロライド、1−メチル−2−エチルピラゾリウムブロマイド、1−メチル−2−プロピルピラゾリウムクロライド、1−メチル−2−プロピルピラゾリウムブロマイド、1−プロピル−2−メチルピラゾリウムクロライド、1−プロピル−2−メチルピラゾリウムブロマイド、1−ブチル−2−メチルピラゾリウムクロライド、1−ブチル−2−メチルピラゾリウムブロマイド、1−へキシル−2−メチルピラゾリウムクロライド、1−へキシル−2−メチルピラゾリウムブロマイド、1,2−ジメチルピラゾリウムクロライド、1,2−ジメチルピラゾリウムブロマイド、1,2−ジエチルピラゾリウムクロライド、1,2−ジエチルピラゾリウムブロマイドなどが挙げられる。
【0011】
また、(B)化合物は、上記のN−アルキルピリジニウムハライド類、N−アルキルイミダゾリウムハライド類、N,N’−アルキルイミダゾリウムハライド類、N−アルキルピラゾリウムハライド類及びN,N’−アルキルピラゾリウムハライド類の2種以上の混合物であってもよく、更にハロゲン原子が異なる2種以上の混合物であってもよい。
【0012】
本発明において、(A)アルミニウムハロゲン化物のモル数と、(B)化合物及び(C)DMSの総モル数((B)+(C))との比率は、1:1〜3:1の範囲が好ましい。より好ましくは、2:1〜2.5:1の範囲である。前記モル比をこのような範囲とすることにより、良好なAlめっき皮膜が得られる。
また、(C)DMSは、好ましくは20モル%を越えない範囲で、より好ましくは1〜20モル%の範囲で、さらに好ましくは、2〜15モル%の範囲で含有される。DMSの含有量をこのような範囲とすることにより、浴の融点が上昇するのを抑え、アルミニウムハロゲン化物の蒸気の発生を抑制することができる。
【0013】
本発明の電気アルミニウムめっき浴には、さらに(D)スチレン系ポリマー及び脂肪族ジエン系ポリマーからなる群より選ばれる1種又は2種以上の有機重合体を含有させてもよい。
(D)有機重合体として用いるスチレン系ポリマーとしては、具体的には、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、m−メチルスチレンなどのスチレン系ホモポリマー、これら同士のコポリマー、あるいはスチレン系モノマーと他の重合性のビニル系モノマーとのコポリマーが挙げられる。前記ビニル系モノマーの例としては、無水マレイン酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、メチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、イタコン酸、アクリルアミド、アクリルニトリル、マレイミド、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、フマル酸エステル、ビニルエチルエーテル、塩化ビニルなどが挙げられる。これらのうち、炭素数が3〜10のα、β−不飽和カルボン酸又はそのアルキル(炭素数1〜3)エステルが好ましい。
(D)有機重合体として用いる脂肪族ジエン系ポリマーとしては、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエンなどの重合体などが挙げられる。好ましくは、1,2又は3,4構造の分枝鎖を有する重合体、又はこれらと他の重合性ビニル系モノマーとのコポリマーである。前記ビニル系モノマーとしては、上記スチレン系ポリマーについて記載したものと同様のものが挙げられる。
(D)有機重合体の重量平均分子量は、200〜80000の範囲が好ましい。特に、重量平均分子量が300〜5000程度の低中分子量のポリスチレン及びポリ−α−メチルスチレンは、溶融塩溶解性が良く最も好ましい。その添加量は、0.1〜50g/lの範囲が好ましく、より好ましくは1〜10g/lの範囲である。(D)有機重合体をこのような範囲で用いると、デンドライド析出を防止し、表面平滑効果を発揮し、めっきやけが発生するのを防止できる。
【0014】
本発明の電気アルミニウムめっき浴には、さらに(E)光沢剤を含有させてもよい。(E)光沢剤としては、アルミ溶融塩浴に用いることのできる光沢剤であれば特に制限はないが、脂肪族アルデヒド、芳香族アルデヒド、芳香族ケトン、含窒素不飽和複素環化合物、ヒドラジド化合物、S含有複素環化合物、S含有置換基を有する芳香族炭化水素、芳香族カルボン酸及びその誘導体、二重結合を有する脂肪族カルボン酸及びその誘導体、アセチレンアルコール化合物及び三フッ化塩化エチレン樹脂から選ばれた1種又は2種以上の化合物が好ましいものとして挙げられる。
脂肪族アルデヒドは、例えば炭素数2〜12の脂肪族アルデヒドであり、具体的にはトリブロモアセトアルデヒド、メタアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、ラウリルアルデヒドなどが挙げられる。
芳香族アルデヒドは、例えば炭素数7〜10の芳香族アルデヒドであり、具体的には0−カルボキシベンズアルデヒド、ベンズアルデヒド、0−クロルベンズアルデヒド、p−トルアルデヒド、アニスアルデヒド、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどが挙げられる。
芳香族ケトンとしては、例えば炭素数8〜14の芳香族ケトンであり、具体的にはベンザルアセトン、ベンゾフェノン、アセトフェノン、塩化テレフタロイルベンジルなどが挙げられる。
含窒素不飽和複素環化合物は、例えば炭素数3〜14の窒素複素環化合物であり、具体的にはピリミジン、ピラジン、ピリダジン、s−トリアジン、キノキサリン、フタラジン、1,10−フェナントロリン、1,2,3−ベンゾトリアゾール、アセトグアナミン、塩化シアヌル、イミダゾール−4−アクリル酸などが挙げられる。
【0015】
ヒドラジド化合物としては、例えばマレイン酸ヒドラジド、イソニコチン酸ヒドラジド、フタル酸ヒドラジドなどが挙げられる。
S含有複素環化合物は、例えば炭素数3〜14のS含有複素環化合物であり、具体的にはチオウラシル、チオニコチン酸アミド、s−トリチアン、2−メルカプト−4,6−ジメチルピリミジンなどが挙げられる。
S含有置換基を有する芳香族炭化水素は、例えば炭素数7〜20のS含有置換基を有する芳香族炭化水素であり、具体的にはチオ安息香酸、チオインジゴ、チオインドキシル、チオキサンテン、チオキサントン、2−チオクマリン、チオクレゾール、チオジフェニルアミン、チオナフトール、チオフェノール、チオベンズアミド、チオベンズアニリド、チオベンズアルデヒド、チオナフテンキノン、チオナフテン、チオアセトアニリドなどが挙げられる。
芳香族カルボン酸及びその誘導体は、例えば炭素数7〜15の芳香族カルボン酸及びその誘導体であり、具体的には安息香酸、テレフタル酸、安息香酸エチルなどが挙げられる。
二重結合を有する脂肪族カルボン酸及びその誘導体は、例えば炭素数3〜12の二重結合を有する脂肪族カルボン酸及びその誘導体であり、具体的にはアクリル酸、クロトン酸、メタクリル酸、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシルなどが挙げられる。
アセチレンアルコール化合物としては、例えばプロパギルアルコールなどが挙げられる。
フッ素樹脂としては、例えば平均分子量が500〜1300の三フッ化塩化エチレン樹脂などが挙げられる。
(F)光沢剤の添加量は、好ましくは0.001〜0.1モル/lの範囲であり、より好ましくは0.002〜0.02モル/lの範囲である。本発明の電気アルミニウムめっき浴においては、(F)光沢剤をこのような範囲で用いると、平滑効果が得られ、高電流密度でめっきを施した場合でも、黒色スマット状の析出を生じることはない。
本発明においては、(D)有機重合体及び(E)光沢剤を併用することにより、一層均一性、平滑性が向上する。
【0016】
本発明の電気アルミニウムめっき浴に、ハロゲン化亜鉛を添加することにより、Al−Zn合金めっき液が得られる。ハロゲン化亜鉛としては、塩化亜鉛、臭化亜鉛、フッ化亜鉛、ヨウ化亜鉛などが挙げられ、これらの無水物であってもよい。中でも、塩化亜鉛の無水物が最適である。電気アルミニウムめっき浴中のハロゲン化亜鉛の濃度は、塩化亜鉛の場合、1〜50g/lであり、より好ましくは5〜30g/lである。このような浴中濃度とすることで、Al−Zn合金めっき皮膜中のZn供析率を適切な範囲とすることができ、黒色の粉末として析出することもない。
このようなAl−Zn合金めっき液を用いて得られるAl−Zn合金めっき皮膜中のZn供析率は、好ましくは1〜40重量%であり、より好ましくは3〜35重量%であり、最も好ましくは10〜30重量%である。このようなZn供析率とすることにより、Alめっき皮膜の耐食性が良好となる。
【0017】
本発明の電気アルミニウムめっき浴に、ハロゲン化マンガンを添加することにより、Al−Mn合金めっき液が得られる。ハロゲン化マンガンとしては、塩化マンガン、臭化マンガン、フッ化マンガン、ヨウ化マンガンなどが挙げられ、これらの無水物であってもよい。中でも、塩化マンガンの無水物が最適である。電気アルミニウムめっき浴中のハロゲン化マンガンの濃度は、塩化マンガンの場合、1〜50g/lであり、より好ましくは5〜30g/lである。このような浴中濃度とすることで、Al−Mn合金めっき皮膜中のMn供析率を適切な範囲とすることができ、黒色の粉末として析出することもない。
このようなAl−Mn合金めっき液を用いて得られるAl−Mn合金めっき皮膜中のMn供析率は、好ましくは1〜40重量%であり、より好ましくは3〜35重量%であり、最も好ましくは10〜30重量%である。このようなMn供析率とすることにより、Alめっき皮膜の耐食性が良好となる。
【0018】
本発明の電気アルミニウムめっき浴に、ハロゲン化ジルコニウムを添加することにより、Al−Zr合金めっき液が得られる。ハロゲン化ジルコニウムとしては、塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウム、フッ化ジルコニウム、ヨウ化ジルコニウムなどが挙げられる。中でも、塩化ジルコニウムが最適である。電気アルミニウムめっき浴中のハロゲン化ジルコニウムの濃度は、塩化ジルコニウムの場合、1〜50g/lであり、より好ましくは5〜30g/lである。このような浴中濃度とすることで、Al−Zr合金めっき皮膜中のZr供析率を適切な範囲とすることができ、黒色の粉末として析出することもない。
このようなAl−Zr合金めっき浴を用いて得られるAl−Zr合金めっき皮膜中のZr供析率は、好ましくは1〜40重量%であり、より好ましくは3〜35重量%であり、最も好ましくは10〜30重量%である。このようなZr供析率とすることにより、Alめっき皮膜の耐食性が良好となる。
【0019】
本発明の電気アルミニウムめっき浴を用いるめっき方法としては、電気めっき方法が用いられる。電気めっきは、直流もしくはパルス電流により行うことができる。浴温は、50〜100℃の範囲であり、好ましくは60〜80℃の範囲である。電流密度は、通常0.1〜15A/dm2の範囲、好ましくは1〜6A/dm2の範囲の電解条件で行うのが良い。尚、本発明の電気アルミニウムめっき液は、酸素や水分に触れても安全であるが、めっき液の安定性維持及びめっき性状などの点から乾燥無酸素雰囲気中(乾燥N2やAr中)で行うのが望ましい。また、めっきを実施する場合は、液を攪拌してもよいが、着き回り性をよくするためには、攪拌を行わないか、又は弱くすることが望ましい。陽極としては、Al板が望ましい。
【実施例】
【0020】
(実施例1〜5)
AlCl3、DMS、1−メチル−3プロピルイミダゾリウムブロマイドを4:1:1のモル比に混合し80℃で溶解させた。次に、99.99%のAl線を液に12時間浸漬し、液中の不純物である鉄を置換除去して、めっき液1Lを調製した。陰極として用いる銅板(板厚0.5mm)を、めっき前処理として、アルカリ脱脂、アルカリ電解洗浄及び酸洗し、水洗後乾燥を行った。前記銅板を陰極、アルミニウム板(純度99.9%)を陽極として、乾燥窒素ガス雰囲気中で、80℃に保った前記めっき浴に1分間浸漬して活性化を行い、同じめっき液で直流にてアルミニウムめっきを行った。尚、めっき浴はスターラーでゆるやかに攪拌した。表1に示すすべての条件で、塩化アルミニウム蒸気の発生がほとんどなく、白色のアルミめっき皮膜が得られた(表1)。
【表1】

【0021】
(実施例6〜8)
AlCl3、DMS、1−メチル−3プロピルイミダゾリウムブロマイドを2.5:0.25:1のモル比に混合し75℃で溶解させた。次に99.99%のAl線を液に12時間浸漬し、液中の不純物である鉄を置換除去し、表2に示す添加剤を添加して、めっき液1Lを調製した。陰極として用いる銅板(板厚0.5mm)を、めっき前処理として、アルカリ脱脂、アルカリ電解洗浄及び酸洗し、水洗後乾燥を行った。前記銅板を陰極、アルミニウム板(純度99.9%)を陽極として、乾燥窒素ガス雰囲気中で、70℃に保った前記めっき浴に1分間浸漬して活性化を行い、同じめっき液で直流にてアルミニウムめっきを行った。尚、めっき浴はスターラーでゆるやかに攪拌した。表2に示すすべての条件で、塩化アルミニウムの蒸気の発生がほとんどなく、白色から半光沢のアルミめっき皮膜が得られた(表2)。
【表2】

【0022】
(実施例9)
AlCl3、DMS、1−メチル−3プロピルイミダゾリウムブロマイドを2.5:0.25:1のモル比に混合し75℃で溶解させた。次に99.99%のAl線を液に12時間浸漬し、液中の不純物である鉄を置換除去し、塩化亜鉛を15g/l添加してめっき液1Lを調製した。陰極として用いる銅板(板厚0.5mm)を、めっき前処理として、アルカリ脱脂、アルカリ電解洗浄及び酸洗し、水洗後乾燥を行った。前記銅板を陰極、アルミニウム板(純度99.9%)を陽極として、乾燥窒素ガス雰囲気中で、70℃に保った前記めっき浴に1分間浸漬して活性化を行い、同じめっき液で2A/dm2(パルス)にてAl−Zn合金めっきを行った。尚、めっき浴は無攪拌とした。塩化アルミニウム蒸気の発生がほとんどなく、白色半光沢のAl−Znめっき皮膜が得られた(表3)。
【0023】
(実施例10)
AlCl3、DMS、1−メチル−3プロピルイミダゾリウムブロマイドを2.5:0.25:1のモル比に混合し75℃で溶解させた。次に99.99%のAl線を液に12時間浸漬し、液中の不純物である鉄を置換除去し、塩化マンガンを15g/l添加してめっき液1Lを調製した。陰極として用いる銅板(板厚0.5mm)を、めっき前処理として、アルカリ脱脂、アルカリ電解洗浄及び酸洗し、水洗後乾燥を行った。前記銅板を陰極、アルミニウム板(純度99.9%)を陽極として、乾燥窒素ガス雰囲気中で、70℃に保った前記めっき浴に1分間浸漬して活性化を行い、同じめっき液で3A/dm2(パルス)にてAl−Mn合金めっきを行った。尚、めっき浴はゆるやかに攪拌した。塩化アルミニウム蒸気の発生がほとんどなく、光沢のあるAl−Mnめっき皮膜が得られた(表3)。
【0024】
(実施例11)
AlCl3、DMS、1−メチル−3プロピルイミダゾリウムブロマイドを2.5:0.25:1のモル比に混合し75℃で溶解させた。次に99.99%のAl線を液に12時間浸漬し、液中の不純物である鉄を置換除去し、塩化ジルコニウムを10g/l添加してめっき液1Lを調製した。陰極として用いる銅板(板厚0.5mm)を、めっき前処理として、アルカリ脱脂、アルカリ電解洗浄及び酸洗し、水洗後乾燥を行った。前記銅板を陰極、アルミニウム板(純度99.9%)を陽極として、乾燥窒素ガス雰囲気中で、70℃に保った前記めっき浴に1分間浸漬して活性化を行い、同じめっき液で2A/dm2(直流)にてAl−Zr合金めっきを行った。尚、めっき浴はスターラーでゆるやかに攪拌した。塩化アルミニウム蒸気の発生がほとんどなく、白色半光沢のAl−Zr合金めっき皮膜が得られた(表3)。
【0025】
【表3】

【0026】
(比較例1)
AlCl3、DMSを2:1のモル比で混合し、窒素雰囲気中120℃で溶解させ、めっき液1Lの調製を試みたがAlCl3の蒸気がひどく、白色結晶がめっき液容器の蓋に多量付着し、めっき液の調整が困難であった。また、めっき操作も困難であり、試験を中断した(表4)。
【0027】
(比較例2)
AlCl3、DMS、1−メチル−3プロピルイミダゾリウムブロマイドを2.5:1:0.25のモル比で混合、窒素雰囲気中100℃で溶解させたが、塩化アルミニウム蒸気の発生が激しくめっき操作が困難であった(表4)。
【0028】
【表4】

【0029】
(金属供析率(%)及び厚さの測定方法)
Al合金めっき皮膜のZn、Mn及びZr供析率(%)並びに厚さは、蛍光X線分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製、マイクロエレメントモニターSEA5120)を用いて測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルミニウムハロゲン化物、(B)N−アルキルピリジニウムハライド類、N−アルキルイミダゾリウムハライド類、N,N’−アルキルイミダゾリウムハライド類、N−アルキルピラゾリウムハライド類及びN,N’−アルキルピラゾリウムハライド類からなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物及び(C)ジメチルスルホンを混合溶融してなる電気アルミニウムめっき浴。
【請求項2】
(A)アルミニウムハロゲン化物のモル数と、(B)化合物及び(C)ジメチルスルホンの総モル数((B)+(C))との比率が1:1〜3:1の範囲である、請求項1記載の電気アルミニウムめっき浴。
【請求項3】
ジメチルスルホンが20モル%を超えない範囲で含まれる、請求項1又は2記載の電気アルミニウムめっき浴。
【請求項4】
(D)スチレン系ポリマー及び脂肪族ジエン系ポリマーからなる群より選ばれる1種又は2種以上の有機重合体及び(E)光沢剤から選ばれる1種又は2種以上の添加剤を含む請求項1〜3のいずれか1項記載の電気アルミニウムめっき浴。
【請求項5】
ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化マンガン及びハロゲン化ジルコニウムからなる群より選ば れる化合物を含む請求項1〜4のいずれか1項記載の電気アルミニウムめっき浴。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の電気アルミニウムめっき浴を用いる電気めっき方法。