説明

溶融塩電解方法及び溶融塩電解槽

【課題】塩化亜鉛の溶融塩電解において、構造が単純であり電解槽底部に堆積する溶融亜鉛の液面を一定に保ちつつ溶融亜鉛を安全に抜出し回収できる溶融塩電解方法及び電解槽を提供する。
【解決手段】塩化亜鉛を含む溶融塩を収容し、溶融塩を電解して溶融金属亜鉛と塩素を生成する電解室2と、生成した溶融金属亜鉛を収容し、溶融金属亜鉛を回収する開口部を有する抜出し室3と、電解室及び抜出し室を底部で互いに連通し溶融金属亜鉛で満たされた連通部4とを有する電解槽1を用い、塩化亜鉛を含む溶融塩を電解し金属亜鉛を製造する電解方法であって、開口部の高さを、電解室の塩化亜鉛を含む溶融塩と溶融金属亜鉛との界面の液位より高く、電解室に収容された塩化亜鉛を含む溶融塩の液位より低くなるよう設定し、電解室に収容された塩化亜鉛を含む溶融塩の液面高さが一定となるよう塩化亜鉛を含む溶融塩を電解室へ加えながら、塩化亜鉛を電解する溶融塩電解方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ケイ素を得るための還元剤金属亜鉛を効率よく製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ケイ素は、太陽光エネルギー利用の観点から、太陽電池の原料として特に注目されている。太陽電池用シリコンセル用途の高純度ケイ素を製造するプロセスとしては、トリクロロシランを還元してケイ素を得るシーメンス法が知られている。シーメンス法によれば9N(99.9999999%)以上の高純度珪素を製造することができる。
【0003】
しかしながら、前記方法ではシリカを炭素還元して金属ケイ素を製造する際に膨大なエネルギーを必要とし、また、トリクロロシランは反応性が高いためハンドリングには細心の注意が求められる。更には、金属ケイ素の溶解部を通電加熱して高温に保持する必要があるため、多大な電気エネルギーを消費するため、省エネ対策が求められている等の課題が残されている。そこで近年、シーメンス法よりも安価に製造できる多結晶シリコン製造法として、四塩化珪素を金属亜鉛で還元して高純度多結晶シリコンを製造する亜鉛還元法が注目されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、高純度四塩化珪素及び高純度亜鉛をそれぞれ気化させて、900〜1100℃のガス雰囲気において反応を行うにあたり、反応器内部に通電可能なシリコン芯又はタンタル芯を設置し芯上にシリコン析出を促進するものであり、反応終了後に反応器を開放し、生成した針状並びにフレーク状シリコンを取り出す方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、上部に設置されたシリコン塩化物ガス供給ノズルと、還元剤ガス供給ノズルと、排気ガス抜き出しパイプを有する縦型反応器を用いて、該反応器内にシリコン塩化物ガスと還元剤ガスを供給し、シリコン塩化物ガスと還元剤ガスとの反応によりシリコン塩化物ガス供給ノズルの先端部に多結晶シリコンを生成させ、更にそのまま下方に成長させる多結晶シリコン製造装置が開示されている。
【0006】
亜鉛還元法は、反応率が7割程度と高く、反応温度も従来から行われているシーメンス法より低いため、高純度シリコンをシーメンス法と比較して低コストで製造できるという利点がある。
【0007】
上記亜鉛還元法においては、四塩化珪素を亜鉛で還元して高純度シリコンを得るが、このとき同時に塩化亜鉛が副生する。副生した塩化亜鉛は電気分解することにより、亜鉛と塩素を得ることができる。得られた亜鉛はリサイクルして還元反応の原料とすることができ、一方、塩素は金属シリコン等を塩素化して四塩化珪素を製造する原料として使用することができるので全体の系をクローズド化することができる。
【0008】
上記クローズドサイクルにおいて、副生した塩化亜鉛を溶融状態で回収し、そのまま電気分解できれば、エネルギーロスは最小限に抑えることができるため、塩化亜鉛の電気分解には溶融塩電解法を適用するのが望ましい。溶融塩中では電気分解にて生成した亜鉛は電解液に比べて密度が高いため、電極から液滴状で溶融塩電解槽の底に沈降し堆積してゆく。従って、溶融塩電解槽の底部より溶融亜鉛を効率よく回収することは、塩化亜鉛電解の鍵となる技術である。
【0009】
従来、溶融塩電解による亜鉛の回収法として、以下の技術が知られている。
非特許文献1のFig2、Fig11には、電解室の上部よりパイレックス(登録商標)ガラス製のサイフォン管を電解液中に挿入し、電解室底に沈んだ亜鉛を抜き出す構造が示されている。また、特許文献3には電解槽の側面下部に溶融亜鉛取り出し口を設け、溶融亜鉛を抜き出す構造、特許文献4には電解槽の底部に溶融亜鉛取り出し口を取り付けた構造が示されている。
【0010】
非特許文献1のパイレックス(登録商標)ガラス製サイフォン管挿入方式は、構造が複雑であるとともに、亜鉛の固化固着によるサイフォン管の詰まりなど、サイフォン管の維持管理が難しく寿命が短いという問題がある。また、減圧吸引抜出であることから、吸上げ高さに限界(159cm程度)があり、電解槽深さ方向に制限が生じるため、生産性の低い浅型電解槽にしか適用できない技術である。
【0011】
特許文献3の電解槽側面下部、及び特許文献4の電解槽底部に亜鉛取り出し口を設ける構造では、取り出し口先端に液止め用の栓を取り付ける必要があり、溶融亜鉛の抜き出し及び液止めを繰り返す間に亜鉛の固着などで栓の締りが悪くなり溶融亜鉛が溢出するおそれがある。栓の使用による溶融亜鉛の抜き出しは間欠的にならざるを得ず操業の連続化は困難であるという問題もある。また、栓の材質には亜鉛との反応による合金化のおそれから金属製材質の使用は制限される。さらに、電解槽の底に沈んでいる溶融亜鉛の液位などの状況把握が困難であり、溶融亜鉛抜き出しのタイミングが計りづらいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−18370号公報
【特許文献2】特開2007−223822号公報
【特許文献3】特開2004−256907号公報
【特許文献4】特開2003−328173号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】”Electrowinning zinc from zinc chloride in monopolar and bipolar fused salt cells”, Report of Investigations. United States Department of the Interior. Bureau of Mines, 8524 (1981)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、塩化亜鉛の溶融塩電解において、生成した溶融亜鉛の抜き出し、回収における従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、構造が単純であり、溶融塩電解槽底部に堆積してゆく溶融亜鉛の液面を一定に保ちながら、溶融亜鉛を安全に抜き出し回収できる溶融塩電解方法及び溶融塩電解槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の溶融塩電解方法は、塩化亜鉛を含む溶融塩を収容し、溶融塩を電解して溶融金属亜鉛と塩素を生成する電解室と、生成した溶融金属亜鉛を収容し、溶融金属亜鉛を回収する開口部を有する抜き出し室と、電解室および抜き出し室を底部で互いに連通し溶融金属亜鉛で満たされた連通部とを有する溶融塩電解槽を用い、塩化亜鉛を含む溶融塩を電解し金属亜鉛を製造する溶融塩電解方法であって、開口部の高さを、電解室の塩化亜鉛を含む溶融塩と溶融金属亜鉛との界面の液位より高く、電解室に収容された塩化亜鉛を含む溶融塩の液位より低くなるように設定し、電解室に収容された塩化亜鉛を含む溶融塩の液面の高さが一定となるように塩化亜鉛を含む溶融塩を電解室へ加えながら、塩化亜鉛を電解することを特徴としている。
【0016】
本発明においては、前記開口部の高さh2Znが、
2Zn =(ρZn×h1Zn +ρ×h)/ρZn
+h1Zn:電解室底部から電極下端までの距離以上、溶融塩電解槽の高さ未満
1Zn:連通部の高さ以上、電解室底部から電極下端までの距離未満
(h:電解室中の塩化亜鉛を含む溶融塩の高さ、h1Zn:電解室中の溶融金属亜鉛の高さ、ρZn:亜鉛の密度、ρ:塩化亜鉛を含む溶融塩の密度)となるように設定されていることを好ましい態様としている。
【0017】
また、本発明の溶融塩電解槽は、塩化亜鉛を含む溶融塩を収容し、溶融塩を電解して溶融金属亜鉛と塩素を生成する電解室と、生成した溶融金属亜鉛を収容し、溶融金属亜鉛を回収する開口部を有する抜き出し室、及び電解室と抜き出し室を底部で互いに連通し溶融金属亜鉛で満たされた連通部を有する溶融塩電解槽であり、開口部の高さが、電解室に収容された塩化亜鉛を含む溶融塩と溶融金属亜鉛との界面の液位より高く、電解室に収容された塩化亜鉛を含む溶融塩の液位より低くなるように設定されていることを特徴としている。
【0018】
本発明においては、前記開口部の高さh2Zn
2Zn =(ρZn×h1Zn +ρ×h)/ρZn
+h1Zn:電解室底部から電極下端までの距離以上、溶融塩電解槽の高さ未満
1Zn:連通部の高さ以上、電解室底部から電極下端までの距離未満
(h:電解室中の塩化亜鉛を含む溶融塩の高さ、h1Zn:電解室中の溶融金属亜鉛の高さ、ρZn:亜鉛の密度、ρ:塩化亜鉛を含む溶融塩の密度)となるように設定されていることを好ましい態様としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の溶融塩電解方法および溶融塩電解槽の構成によれば、溶融金属亜鉛レベルを容易に管理することができ、溶融金属亜鉛を安全に抜き出し回収することができるという効果を奏するものである。本発明により従来技術で問題であった溶融塩電解槽の構造の複雑さ及び溶融金属亜鉛抜き出し時の溢出のおそれ、沈殿する溶融金属亜鉛による電極短絡のおそれ、減圧吸引式による亜鉛揚程に起因する溶融塩電解槽の深さ制限などから解消され、簡単な構造で安全に溶融金属亜鉛を抜き出せ、容易に溶融金属亜鉛レベル管理ができる溶融塩電解槽の提供を可能にした。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は本発明の一態様を示す溶融塩電解槽の概略図である。
【図2】図2は本発明の別の一態様を示す溶融塩電解槽の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明を説明する。
図1は本発明の一態様を示す溶融塩電解槽の模式図である。
溶融塩電解槽1は、塩化亜鉛を含む溶融塩5を電解して溶融金属亜鉛6と塩素を製造する電解室2と、生成した溶融金属亜鉛6を収容する抜き出し室3の2つに区画されている。電解室2と抜き出し室3は底部で連通部4を経て互いに連通し、電解室2の下方と抜き出し室3は、塩化亜鉛を含む溶融塩5より高密度である溶融金属亜鉛6で満たされている。従って、抜き出し室3は、塩化亜鉛を含む溶融塩5が侵入しないように液封されている。
【0022】
電解室2は、陽極11及び陰極12が1対1で配置される単極式電極(モノポーラ)を単一又は複数組が設置される。また、陽極と陰極の間に複数の中間電極13(複極)を配置した双極式電極(バイポーラ)を単一又は複数組配置する構成としてもよい。電解反応速度を速めるには双極式電極を用いることが好ましい。電極の材質及び形状は特に限定されない。陽極11の材質は、炭素材料が好ましく、特に比較的低い電気抵抗のためにグラファイトが好ましい。陰極12の材質は、炭素材料や、TiB等の導電性セラミック、Mo、W及びNb等の不活性金属を適用することができる。電極の形状は、形は平板状、溝のついた平板状、或いは円筒状のものを用いることができる。
【0023】
電解室2の上部には、原料となる塩化亜鉛を含む溶融塩の投入口14及び生成した塩素の取り出し口である塩素吸引配管15を有する。
【0024】
電解室2の底部は水平でもよいが、電解室2の底部を連通部4へ向かって傾斜させる構造とすれば、電解室底部に滞留する溶融金属亜鉛の連通部4方向への流れはより促進される。
【0025】
抜き出し室3は、溶融金属亜鉛6が露出した開口部7を有する。該開口部7の高さは、電解室2に収容される塩化亜鉛を含む溶融塩5と溶融金属塩の界面の液位より高く、電解室に収容された塩化亜鉛を含む溶融塩5の液位より低くなるように設定される。
【0026】
電解室2内に堆積する溶融金属亜鉛6の液面高さ(h1Zn)、抜き出し室3の開口部7の高さ(h2Zn)と電解室2内の塩化亜鉛を含む溶融塩5の液位 (h)は、(1)式の関係式が成立する。ρZnは亜鉛の密度、ρは塩化亜鉛を含む溶融塩の密度である。
ρZn×h2Zn = ρZn×h1Zn+ρ×h・・・・(1)
2Zn =(ρZn×h1Zn +ρ×h)/ρZn・・・・・(2)
1Zn =(ρZn×h2Zn−ρ×h)/ρZn・・・・(3)
【0027】
1Znは、連通部4の高さ以上、電解室槽底部から電極下端までの距離未満の範囲に任意に設定される。また、本発明では、電解室の溶融塩5のレベル(h+h1Zn)は、電解室槽底部から電極下端までの距離以上、溶融塩電解槽の高さ未満の範囲で任意に選択され、一定となるように(設定した電解室の溶融塩5のレベル(h+h1Zn)に対して±5%以内となるように)管理される。h2Znは、上記(2)式より機械的に決めることができる。
【0028】
電解室2、抜き出し室3及び連通部4の材質は、塩化亜鉛を含む溶融塩の電解液及び生成する塩素、溶融亜鉛に腐食、浸食されない材質であればよく、アルミナ、シリカ、窒素珪素、炭化珪素などを主体とする耐火物で作製することが好ましい。
【0029】
まず、上記の溶融塩電解槽に、連通部4を溶融金属亜鉛で満たすことができる量の金属亜鉛、所定の液位(h)となる量の塩化亜鉛を含む溶融塩を投入する。溶融塩電解槽の温度を昇温し、金属亜鉛、塩化亜鉛を含む溶融塩を溶解した後、通電を開始する。
【0030】
塩化亜鉛を含む溶融塩5は、塩化亜鉛単独でも良いし、支持電解質としてLi、Na、K、Ca、Baなどのアルカリ金属塩(例:LiCl、NaCl、KCl、CaCl、BaCl、LiF、NaF、KF、CaF、BaF)を単独或いは複数を含む塩化亜鉛でもよい。
【0031】
電解反応を進めると、陰極12近傍に亜鉛が析出し陽極近傍には塩素が生成する。溶融金属亜鉛6は塩化亜鉛を含む溶融塩5よりも密度が大きいため、溶融塩5中を沈降し、電解室2の底部に滞留する。塩素は気泡として溶融塩5を上昇し溶融塩5表面上方で捕集され、塩素吸引配管15を通して回収される。
【0032】
電解反応進行とともに、電解室の溶融塩5のレベルは低下するが、投入口14より塩化亜鉛または塩化亜鉛を含む溶融塩を投入し、電解室の溶融塩5のレベルは一定となるよう管理する。溶融塩5のレベルは、目視、カメラ、レベルセンサー等によりに確認することができる。溶融金属亜鉛6は、電解反応進行とともに連通部4を通して抜き出し室3に移動し、やがて抜き出し室3の開口部7より溢流する。溢流した溶融金属亜鉛は一次的に貯槽等に受け、適宜、ポンプ或いは移送樋などの移送手段を用いて、次工程へ移送する。
【0033】
溶融塩電解槽1の底部に堆積した溶融金属亜鉛6の抜き出しを適宜行う従来技術の場合、電極下端が、電解室2の底部にて徐々に堆積量の増す溶融金属亜鉛6と接触して短絡しないように留意する必要がある。しかし、本発明の溶融塩電解槽では、電解室2の底部と抜き出し室3の底部は連通部4を経て互いに連通しているため、電解室2の塩化亜鉛を含む溶融塩5及び底部に滞留している溶融金属亜鉛の総質量と抜き出し室に滞留する溶融金属亜鉛の質量はバランスし、互いの液位をそれぞれ保つ。抜き出し室3の開口部7の高さと塩化亜鉛を含む溶融塩の液位の設定により、溶融塩電解槽1内の溶融金属亜鉛の高さを決められるため、短絡の危険を確実に回避することができる。
【0034】
さらに、電解室2から連通部4を経て抜き出し室3の底部に堆積した溶融金属亜鉛6の水平方向の平均断面積S(溶融金属亜鉛のレベル変動域内の平均断面積)に対する電解室2の電解液(塩化亜鉛を含む溶融塩)の水平方向の平均断面積S(塩化亜鉛を含む溶融塩のレベル変動域内の平均断面積)の比(S/S)を、溶融金属亜鉛の密度ρZnに対する電解液(塩化亜鉛を含む溶融塩)の密度ρ比(ρ/ρZn)より小さく設計することで、塩化亜鉛または塩化亜鉛を含む溶融塩の補給をしなくても電解により亜鉛が生成するだけで、抜き出し室3より溶融金属亜鉛を排出させることが可能となり、亜鉛排出速度をより平均化することができる。
【0035】
得られた溶融金属亜鉛6は、例えば、亜鉛還元法の還元反応器へ投入される亜鉛に再利用できる。また、電解時に発生した塩素は金属シリコン等を塩素化して四塩化珪素を製造する原料として使用することができる。
【0036】
図2は本発明の別の態様である溶融塩電解槽の模式図である。
抜き出し室3は、図1のように電解室2の壁面で仕切られているのではなく、電解室2と抜き出し室3は互いに離間して、その底部において互いに連通した構造とすることにより、電解室2の堆積亜鉛層の断面積を必要最小限に小さくし、電解液と溶融金属亜鉛の断面積比をρ/ρZn以下にしている。図2の態様によれば、図1の態様の溶融塩電解槽より、生成亜鉛が排出速度の均一化と電解室側での亜鉛貯蔵量の削減が可能な構造となっている。また、電解室2内には、上下二段の塩化亜鉛を含む溶融塩の流通口21、22が設けられた隔壁23が配置され、溶融塩を循環させることができる。
【0037】
[実施例1]
図1に示すバイポーラ方式の溶融塩電解槽を用いて塩化亜鉛の電解を行った。
電解室の高さは160cm、幅100cm、奥行き100cm、抜き出し室の高さ(h2Zn)は70cm、幅30cm、奥行き100cm、連通部の高さは10cmとした。
電極材料は陰極、陽極、複極全てにグラファイトを使用し、電解液は無水塩化亜鉛溶融塩を用意した。溶融塩の密度(ρ)は2.4g/cmである。溶融塩電解槽内を加温してアルゴンガスパージを行い、雰囲気中への水分、酸素の混入を防止した。そこへ溶融した金属亜鉛3200kg(密度(ρZn)=6.5g/cm)を投入し、次いで溶融塩化亜鉛3000kgを投入した。この時の電解室の溶融塩化亜鉛の高さ(h)は100cm、溶融亜鉛(h1Zn)の高さは30cm、抜き出し室の溶融亜鉛の高さは67cmであった。電極の電解液への浸漬深さは55cmとした。電解室底部から電極下端までの距離は75cmとなる。溶融塩電解槽内の融液温度を550℃に保持した後、電流密度0.3A/cmにて電解を行った。
【0038】
電解が進行するとともに電解液の液面は低下する。電解室の液面高さが電解開始時と同じになるように保持するため、電解により消費する塩化亜鉛を60分ごとに追加投入した。投入前の電解室の液面高さの低下は約2.5cm(電解室の溶融塩5のレベル(h+h1Zn)に対して約2%)であった。電解開始から60分経過後から抜き出し室上部開口部から溶融金属亜鉛がオーバーフローし、この溶融金属亜鉛を回収した。
【0039】
電解中のh、h1Znは、上記(3)式、および電解液の液面高さ=h1Zn+h =130cmより、
1Zn =(ρZn×h2Zn −ρ×h)/ρZn・・・・(3)
1Zn =(ρZn×h2Zn −ρ×(130−h1Zn))/ρZn
1Zn =(ρZn×h2Zn −ρ×130)/(ρZn −ρ)=35cm
=95cm
で推移する。従って、電解中、電極と電解室底部の溶融亜鉛が接触することはない。
【0040】
電解を24時間行い、総量で123kgの溶融金属亜鉛を回収した。電流効率は85%であった。
【0041】
[実施例2]
図2に示すバイポーラ方式の溶融塩電解槽を用いて塩化亜鉛の電解を行った。
電解室の高さは220cm、幅100cm、奥行き100cmであり、抜き出し室の高さ(h2Zn)は100cm、幅30cm、奥行き30cmとした。連通部の高さは10cmとした。
【0042】
電極材料は陰極、陽極、複極全てにグラファイトを使用し、電解液として無水塩化亜鉛溶融塩と支持電解質として20モル%量の塩化ナトリウムの混合溶融塩を用意した。溶融塩の密度(ρ)は2.3g/cmである。溶融塩電解槽内を加温してアルゴンガスパージを行い、雰囲気中への水分、酸素の混入を防止した。そこへ溶融した金属亜鉛1400kg(密度(ρZn)=6.5 g/cm)を投入し、次いで混合溶融塩4000kgを投入した。この時の電解室の溶融塩化亜鉛の高さは160cm、溶融亜鉛の高さは40cm、抜き出し室の溶融亜鉛の高さは97cmであった。電極の電解液への浸漬深さは100cmとした。電解室底部から電極下端までの距離は100cmとなる。溶融塩電解槽内の融液温度を450℃に保持した後、電流密度1.0A/cmにて電解を行った。
【0043】
電解が進行するとともに電解液の液面は低下する。電解室の液面高さが電解開始時と同じになるように保持するため、電解により消費する塩化亜鉛を20分ごとに追加投入した。投入前の電解室の液面高さの低下は約2cm(電解室の溶融塩5のレベル(h+h1Zn)に対して約1%)であった。電解開始から20分経過後から抜き出し室上部開口部から溶融亜鉛がオーバーフローし、この溶融亜鉛を回収した。電解中のh、h1Znは、上記(3)式、および電解液の液面高さ=h1Zn+h =200cmより、
1Zn =(ρZn×h2Zn −ρ×200)/(ρZn −ρ)=45cm
=155cm
で推移する。従って、電解中、電極と電解室底部の溶融亜鉛が接触することはない。
【0044】
電解を50時間行い、総量で1646kgの溶融亜鉛を回収した。電流効率は90%であった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の溶融塩電解方法、溶融塩電解槽は、塩化亜鉛からの金属亜鉛の回収、多結晶シリコン製造法として注目される亜鉛還元法などに利用できる。
【符号の説明】
【0046】
1…溶融塩電解槽
2…電解室
3…抜き出し室
4…連通部
5…塩化亜鉛を含む溶融塩
6…溶融金属亜鉛
7…開口部
11…陽極
12…陰極
13…中間電極
14…投入口
15…塩素吸引配管
21…流通口
22…流通口
23…隔壁



【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化亜鉛を含む溶融塩を収容し、前記溶融塩を電解して溶融金属亜鉛と塩素を生成する電解室と、生成した前記溶融金属亜鉛を収容し、前記溶融金属亜鉛を回収する開口部を有する抜き出し室と、前記電解室および前記抜き出し室を底部で互いに連通し前記溶融金属亜鉛で満たされた連通部とを有する溶融塩電解槽を用い、前記塩化亜鉛を含む溶融塩を電解し金属亜鉛を製造する溶融塩電解方法であって、
前記開口部の高さを、前記電解室の塩化亜鉛を含む溶融塩と溶融金属亜鉛との界面の液位より高く、前記電解室に収容された塩化亜鉛を含む溶融塩の液位より低くなるように設定し、前記電解室に収容された塩化亜鉛を含む溶融塩の液面の高さが一定となるように前記塩化亜鉛を含む溶融塩を前記電解室へ加えながら、塩化亜鉛を電解することを特徴とする溶融塩電解方法。
【請求項2】
前記開口部の高さh2Znが、
2Zn =(ρZn×h1Zn+ρ×h)/ρZn
+h1Zn:電解室底部から電極下端までの距離以上、溶融塩電解槽の高さ未満
1Zn:連通部の高さ以上、電解室底部から電極下端までの距離未満
(h:電解室中の塩化亜鉛を含む溶融塩の高さ、h1Zn:電解室中の溶融金属亜鉛の高さ、ρZn:亜鉛の密度、ρ:塩化亜鉛を含む溶融塩の密度)
となるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の溶融塩電解方法。
【請求項3】
塩化亜鉛を含む溶融塩を収容し、前記溶融塩を電解して溶融金属亜鉛と塩素を生成する電解室と、前記生成した溶融金属亜鉛を収容し、前記溶融金属亜鉛を回収する開口部を有する抜き出し室と、前記電解室および前記抜き出し室を底部で互いに連通し前記溶融金属亜鉛で満たされた連通部とを有する溶融塩電解槽であって、
前記開口部の高さが、前記電解室に収容された塩化亜鉛を含む溶融塩と溶融金属亜鉛との界面の液位より高く、前記電解室に収容された塩化亜鉛を含む溶融塩の液位より低くなるように設定されていることを特徴とする溶融塩電解槽。
【請求項4】
前記開口部の高さh2Zn
2Zn =(ρZn×h1Zn +ρ×h)/ρZn
+h1Zn:電解室底部から電極下端までの距離以上、溶融塩電解槽の高さ未満
1Zn:連通部の高さ以上、電解室底部から電極下端までの距離未満
(h:電解室中の塩化亜鉛を含む溶融塩の高さ、h1Zn:電解室中の溶融金属亜鉛の高さ、ρZn:亜鉛の密度、ρ:塩化亜鉛を含む溶融塩の密度)
となるように設定されていることを特徴とする請求項3に記載の溶融塩電解槽。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−219360(P2012−219360A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89270(P2011−89270)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【出願人】(390007227)東邦チタニウム株式会社 (191)
【Fターム(参考)】