溶融炭酸塩形燃料電池用電極及びアノード電極の最適化を計るアノード電極最適化方法
【課題】 石炭ガス化ガス、廃棄物ガス化ガス、バイオマスガス化ガスといった高CO濃度燃料を使用した場合にも電圧低下が生じるのを抑え、長期安定性に優れるものとする。
【解決手段】 H2/CO濃度比が1.2以下の燃料ガスまたは燃料改質ガスが使用される溶融炭酸塩形燃料電池用電極において、カソードがNiOであり、そのカソード中央空孔径dcが4から10μmの範囲内にあるときに、アノード中央空孔径daが、
da=0.497dc+0.12±0.5[μm]
の範囲内とする。
【解決手段】 H2/CO濃度比が1.2以下の燃料ガスまたは燃料改質ガスが使用される溶融炭酸塩形燃料電池用電極において、カソードがNiOであり、そのカソード中央空孔径dcが4から10μmの範囲内にあるときに、アノード中央空孔径daが、
da=0.497dc+0.12±0.5[μm]
の範囲内とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶融炭酸塩形燃料電池用電極に関する。さらに詳述すると、本発明は、高CO濃度燃料の使用に適した溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)の電極の空孔の最適化に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融炭酸塩形燃料電池(以下、単に「MCFC」ともいう)は、高い発電効率が期待される上にCO(一酸化炭素)による電極反応触媒の被毒がないことから、燃料の多様化を可能としている。例えば、MCFCに使用できる燃料としては、一般的には天然ガスやメタノールなどの炭化水素系の燃料を水蒸気改質して生成した水素を多く含むガス(本明細書では、高H2濃度燃料と呼ぶ)を用いているが、COを多量に含む石炭ガス化ガス、廃棄物ガス化ガス、バイオマスガス化ガス等のガス(本明細書では、高CO濃度燃料と呼ぶ)を用いることも可能である。
【0003】
一方で、再生可能エネルギーとして注目されているバイオマス、廃棄物ガス化ガスの利用は化石燃料の消費を少しでも抑制することができ、さらにバイオマスにおいては地球温暖化防止の観点からCO2の排出を非常に低く抑えられる可能性を持っていることから、近年、炭酸溶融塩型燃料電池の燃料としての利用が望まれている。例えば、ごみのガス化ガスを溶融炭酸塩型燃料電池の燃料として用いる提案もある(特許文献3)。この発明の溶融炭酸塩型燃料電池によると、ゴミのガス化ガスをメタネーション反応容器に導いて触媒下にメタンリッチガスに転換し、これを内部改質式溶融炭酸塩型燃料電池の内部改質器を介して高H2濃度燃料としてからアノードに供給することで発電させるようにしている。
【0004】
他方、アノード電極の空孔率、平均空孔率の最適化に関する提案もなされている。従来、アノード電極に対しては、経験的に、アノードの空孔率が小さいと反応面積が小さくなって活性が低下することによりアノード分極が起こり易い反面、空孔率、空孔径が大き過ぎると機械的強度が弱くなりクリープが起こり易いことが知られている。そこで、アノード電極に対しては、経験的数値として一般に空孔率が60〜65%、平均空孔径が3〜6μmに設定されている。これを更に電解質板とのマッチングを考慮して最適化するものとして、アノード電極の空孔率を65〜85%の範囲で尚かつ平均空孔径を6〜14μmの範囲に調整することにより、アノード電極への電解質及び反応ガスの供給を十分なものとし、アノード電極の活性を増して分極の小さなアノード電極を供給することが可能となることが指摘されている(特許文献1)。この文献では、高H2濃度燃料(H280%のCOとの混合ガス)を使用する場合のアノード電極の最適化が実施例として挙げられている。
【0005】
また、アノード電極構造に対して、異なる観点から最適化を検討したものもある。例えば、アノード電極の厚みの減少と空孔率との関係に着目し、アノード電極(燃料極)の空孔率を最適化して長時間の運転における電池性能が優れた溶融炭酸塩型燃料電池のアノード電極を提供することが考えられている(特許文献2)。即ち、上述の特許文献1のアノード電極構造では、燃料極の分極電圧の抑制については考慮されているが、燃料極の厚みの減少を考慮した検討は行われておらず、長時間作動時の電池寿命を保証するものでないとしている。そして、天然ガスやその他の炭化水素系燃料から得られる高H2濃度燃料の雰囲気中では、燃料極のニッケル粒子の焼結凝集が進行して収縮を起こし、アノード電極の厚みの減少を起こして、アノード電極と電解質板や集電板などの電池構成材との接触不良による内部抵抗の増大を招き、電池特性の劣化の主な原因の1つとなっていること指摘している。そこで、アノード電極の空孔率を45〜55%の範囲に収めることにより、十分な反応面積と良好なガス拡散性を確保しようとするものである。この文献においても、高H2濃度燃料(H2/CO2/H2O(=72/18/10%))を使用する場合のアノード電極の最適化が実施例として挙げられている。
【0006】
【特許文献1】特開平2−12773号公報
【特許文献2】特開平4−51460号公報
【特許文献3】特開2004−79495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これら従来のMCFCは、高H2濃度燃料を用いる場合には最適であったとしても、高CO濃度燃料を用いると、初期性能において天然ガス燃料(高H2濃度燃料)の使用時に劣らなかったものの、経時に伴う電圧低下率が高く安定性に欠けるものものであることが本発明者等の種々の実験・研究によって明らかになった。これまでの溶融炭酸塩形燃料電池の電極開発は、電圧低下率が燃料のガス組成によって左右されるとは考えられていなかったことから、アノード電極などの最適化には特許文献1及び2に例示する通り、高H2濃度の天然ガス燃料の使用を想定したものであって、高CO濃度燃料による長期運転には適していないものであると考えられる。
【0008】
本発明は、石炭ガス化ガス、廃棄物ガス化ガス、バイオマスガス化ガスといった高CO濃度燃料を使用した場合にも電圧低下を抑えることができ長期安定性に優れる溶融炭酸塩形燃料電池用電極、及びアノード電極最適化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明者は、高CO濃度燃料を用いたときの経時に伴う高い電圧低下率と安定性に欠けるという問題について種々の実験と検討を行った結果、高CO濃度燃料を用いたときの高い電圧低下率の要因が、アノード反応抵抗の増加、カソードのO2反応にかかわる反応抵抗の増加、内部抵抗の増加による出力電圧の低下にあり、高H2濃度燃料下において安定な電解質に対するアノード電極とカソード電極での保持能力のバランスが崩れることにあることを突き止めた。そして、高CO濃度燃料への燃料ガス組成の変更に伴う電解質の分布の変動は、アノードとカソードの空孔径を一定の関係に設定することによって改善され、電圧低下率が抑えられて安定性が増すとの知見を本発明者等は得た。
【0010】
具体的には、高H2濃度燃料の使用を前提として電極ミクロ構造が最適化されたMCFCセルに対して、高H2濃度燃料と高CO濃度燃料とを用いて運転したところ、高CO濃度燃料では電圧低下率が高く、高H2濃度燃料では低く安定していることことから(図1参照)、高い電圧低下率の原因はガス組成にあることを知見するに至った。因みに、各運転条件でのガス組成並びに共通条件は以下の表1の通りである。
【0011】
【表1】
【0012】
更に、高CO濃度燃料で運転したセルの解体分析を行った結果、電解質側のアノードの一部の空孔が潰れ、Ni粒子の酸化による凝集が見られた(図2参照)。特にカレントコレクターとアノードが接する真下において酸化されている部分が多く見られた。このアノードの酸化が内部抵抗の増加の要因であると考えられる。また、アノードの空孔が潰れる現象は、燃料が欠乏した場合に見られる電極ミクロ構造の変化と同様であり、局部的にアノード反応(電流)が集中し燃料の欠乏が生じたと考えられる。つまり、局部におけるアノード反応の集中によって、アノード反応抵抗の増加およびアノードの酸化が生じ、その酸化によってさらにアノード反応抵抗が増加したと考えられる。そして、局部におけるアノード反応の集中の原因と、O2に関わるカソードの反応抵抗の増加原因としては、アノード反応の集中が電解質側のアノードに生じていることから、アノード中の電解質の量が極めて少なく、電解質板の近傍しか十分に電解質が存在していなかったものと考えられ、アノード中に想定していた量の一部の電解質が経時的にカソード側に移動し、カソード側の電解質の充填率が上昇したものと考えられる。
【0013】
即ち、高CO濃度燃料が使用されると、高H2濃度燃料の場合に比べてガス組成比(CO2/(H2+H2O+CO+CO2) )中のH2の割合が減少すると共にCO2の割り合いが増加することから、電解質に対してアノードが濡れ難くなる(図7及び図8参照)。そうすると、高H2濃度燃料下では最適化によってバランスしていた電解質の分布が(図32参照)、アノードの電解質占有率の低下およびカソードの電解質の占有率の上昇により電解質の分布のアンバランスを招く(図33参照)。このようなアンバランスな状態下では、アノード側では電流集中によって部分的酸化が生じ空孔がなくなる(図34参照)一方、アノードの一部酸化カソードの反応抵抗が上昇する結果、電圧低下率が大きくなる。
【0014】
また、カソード反応抵抗は主に電解質中でのスパーオキサイドイオン(O2−)の拡散、電解質中でのCO2の拡散、電解質中へのCO2の溶解の寄与に分離でき、カソード(O2)反応抵抗ロスはO2−の拡散の寄与であり、カソード(CO2)反応抵抗ロスはCO2の拡散と溶解の寄与の和である。カソードの電解質の充填率が上昇した場合、O2−およびCO2が電解質内を拡散し電極表面に到達するまでの移動距離が長くなる、あるいは電解質により細孔が埋められ有効面積が減少するために、O2− およびCO2の拡散の影響が増加しカソード反応抵抗が増加すると考えられた。O2− の拡散の影響はCO2の拡散の影響に比べ大きいため、経時に伴なってO2に関わるカソード反応抵抗の増加が顕著に表れたと考えられた。
【0015】
つまり、ガス組成比の変更によりセル内の電解質分布が変化したことが、局部におけるアノード反応集中の原因かつカソード反応抵抗の増加原因と考えられるとの知見に至った。
【0016】
一方、電解質占有率は、アノードおよびカソードの電解質に対する保持能力のバランスによって決定され、この電解質を保持する能力は多孔体の空孔の大きさ(空孔径分布)、材質、ガス雰囲気によって左右される。このことから、電解質との濡れ性(接触角)が定まった、ある電解質材料並びにガス雰囲気における高CO濃度燃料使用時の電解質保持能力は、アノード並びにカソードの空孔径に依存することを知見するに至った。
【0017】
本発明は、かかる知見に基づくものであって、H2/CO濃度比が1.2以下の燃料ガスまたは燃料改質ガスが使用される溶融炭酸塩形燃料電池用電極において、カソードがNiOの場合、カソード中央空孔径dcは4から10μm、アノード中央空孔径daが、
da=0.497dc+0.12±0.5[μm]
の範囲内にあるものである。ここで、カソード中央空孔径dcは5から7μmの範囲であることが好ましい。
【0018】
さらに、酸化前のカソード中央空孔径を基準とした場合のアノードとカソードの関係も考慮し、実験と検討の結果かかる関係についても知見が得られた。請求項2に記載の発明はかかる知見に基づくものであり、H2/CO濃度比が1.2以下の燃料ガスまたは燃料改質ガスが使用される溶融炭酸塩形燃料電池用電極において、カソードが酸化前のNiであり、そのカソード中央空孔径dc’が5から13μmの範囲にあるときに、アノード中央空孔径daが、
da=0.388dc’+0.12±0.5[μm]
の範囲内にあるものである。ここで、酸化前のNiから成るカソードの場合、カソード中央空孔径dc’は6から9μmの範囲であることが好ましい。
【0019】
加えて、アノード電極の最適化を計るアノード電極最適化の方法についても新たな知見で得られた。すなわち、下記実験式より、使用燃料のガス組成比におけるアノード材料の電解質に対する接触角を算出し、
θcal=(−160.1×V2−316.5×V−143.1)×(CO2/(H2+H2O+CO+CO2))
+62.0×V+116.8
ただし、式中、Vはアノード電位、
CO2/(H2+H2O+CO+CO2)は雰囲気のガス比、
θcalは接触角である。
該接触角から最適な電解質分布が得られるときのアノード中央空孔径を求め、アノード中央空孔径とカソード中央空孔径の関係式を求めるアノード電極の最適化を計るというものである。
【発明の効果】
【0020】
しかして、本発明の溶融炭酸塩形燃料電池用電極によると、石炭ガス化ガス、廃棄物ガス化ガス、バイオマスガス化ガスといった高CO濃度燃料を長時間使用した場合であっても、アノードおよびカソードにおいて電解質占有率に偏りが生じるのが抑えられるので、電圧低下が起こりにくく、安定した動作を続けることが可能となる。しかも、アノード中央空孔径とカソード中央空孔径を関係式で定まる範囲に設定する際には、高CO濃度燃料での使用でも電圧低下率が低く安定した運転が可能であるが、高H2濃度燃料に切り替えて使用する場合にも最高性能はだせないとしても電圧低下率が低く安定した運転が可能であり(図24参照)、燃料のガス組成比に大きな影響を受けないものである。
【0021】
また、本発明の溶融炭酸塩形燃料電池用電極の最適化法によると、電極材料や使用燃料のガス組成比に応じた最適なアノード中央空孔径とカソード中央空孔径の関係式を求めることができるので、アノードおよびカソードにおいて電解質占有率に偏りが生じるのが抑えられ、燃料ガス組成比にかかわりなく電圧低下が起こりにくく、安定した動作を続けることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0023】
これまでの溶融炭酸塩形燃料電池の電極開発は、電圧低下率が燃料のガス組成によって左右されるとは考えられていなかった。そこで、アノード電極などの電極の空孔の最適化には、天然ガス改質ガスなどの高H2濃度燃料の使用が一般的であることから、高H2濃度燃料の使用を想定して行われており、高CO濃度燃料の使用を想定したアノード電極並びにカソード電極の空孔の最適化は検討されていなかった。
【0024】
ここで、高H2濃度燃料とは、一般にCO濃度よりもH2濃度が高い燃料、例えばH2/CO濃度比が3以上で、天然ガス改質ガスの場合には約7程度の燃料をいう。燃料電池用燃料として一般的な天然ガス改質ガスでは、例えば、H2 74.5,CO 11.2,CO2 11.4,CH4 2.3,N2 0.6,H2S 1〜9pp程度のものが使用される。
【0025】
他方、高CO濃度燃料とは、石炭ガス化ガス、廃棄物ガス化ガス、バイオマスガス化ガスなどを想定しており、H2/CO濃度比が原燃料の状態で1以下のものであって、燃料電池用燃料として調製されたときにもH2/CO濃度比が1より僅かに高い程度の燃料である。通常、燃料電池には、炭素析出を防止するため直接石炭ガス化ガス、廃棄物ガス化ガス、バイオマスガス化ガスを供給することはなく、CO2、H2O濃度を高めて(蒸気の供給、使用済み排ガス(CO2濃度:約50%、H2O濃度:約40%)の利用などで)から供給する。さらに、シフト平衡(H2+CO2=CO+H2O)が進行する。このため、原燃料においてH2/CO濃度比が1以下といっても、燃料電池に供給される際にはH2/CO濃度比が1.2付近にまでなることが想定される。しかしながら、本発明において燃料ガスまたは燃料改質ガスのH2/CO濃度比が1.2以下であることには特に際だった臨界的意義はなく、例えばH2/CO濃度比が1.3以下でも大きな違いはない。要は、通常炭酸溶融塩型燃料電池の燃料として使用される天然ガス改質ガスに代表される高H2濃度燃料と比較してH2/CO濃度比が十分小さいもの、換言すれば高H2濃度燃料の使用を想定して最適化された電極に対して使用したときに、電解質に対するアノード電極とカソード電極での保持能力のバランスをアノードの酸化などの内部抵抗の増加に繋がる影響を及ぼす可能性がある程に崩す虞のある値のH2/CO濃度比、即ちアノードNiの濡れ性(接触角)に影響を与える目安となる値のH2/CO濃度比として決定されたものである。
【0026】
具体的には、本発明者等の実験により、天然ガス改質ガス(高H2濃度燃料)を使用する際には電圧低下率が低く安定して運転できる燃料電池の電極ミクロ構造において、高CO濃度燃料を使用した場合に電圧低下率が高くなりかつ運転が不安定となったという結果が得られたことから、CO2濃度が高いほどアノードNiが濡れ難くなる、即ちアノードNiの接触角が大きくなるという知見を得た。本発明者等の実験によると、H2/CO濃度比が1.2以下の燃料(石炭ガス化ガス、廃棄物ガス化ガス、バイオマスガス化ガスを想定した燃料)では、アノード電位−950mVのときアノードNiの接触角が65〜73度となる。一方、H2/CO濃度比が3以上の燃料(天然ガス、発酵バイオマスガスを想定)では、アノード電位−950mVのときアノードNiの接触角が61〜62度となる。この濡れ性の差から電解質の分布に影響を与えるH2/CO濃度比を1.2と決めた。即ち、電解質に対するアノード電極とカソード電極での保持能力のバランスが崩れるほどに、アノード電極の濡れ性に影響のある値として決定された。
【0027】
また、異なる観点から燃料ガスについて説明すれば、高CO濃度燃料とは、ガス組成比(CO2/(H2+CO+H2O+CO2))が高H2濃度燃料のそれよりも大きい燃料であるいうことである。即ち、CO濃度の高い燃料は必然的にCO2濃度が高くなる。これは、炭素析出を防止するために元々CO2が高められる上に、アノードNi電極を触媒としてCOが水蒸気と反応して水素と二酸化炭素に変化する(CO+H2O→H2+CO2)等のためであると考えられる。したがって、「高CO濃度燃料」とは「高CO2濃度燃料」、より正確な表現では「CO2/(H2+CO+H2O+CO2) が高い燃料と言える。そして、高CO濃度燃料とは、ガス組成比(CO2/(H2+CO+H2O+CO2))が約0.35以上になる燃料ガスまたは燃料改質ガスをいう。本発明においてガス組成比(CO2/(H2+CO+H2O+CO2))の値が3.5以上であることは、H2/CO濃度比の場合と同様に、それ自体には特に顕著な臨界的意義はない。例えば高H2濃度燃料のときのアノードNiの接触角が61〜62度以下となるのに対し、高CO濃度燃料と考えられる燃料の場合のアノードNiの接触角が65〜73度であることを考慮し、アノードの接触角が65°程度となるガス組成比(CO2/(H2+CO+H2O+CO2))約0.35を基準とするようにしているが、0.34以上でも、0.36以上でも大きな差異はない。
【0028】
本発明者等の実験により、CO2濃度が高くなると電解質のアノードに対する濡れ性が悪くなり、更にH2濃度が低くなると電解質のアノード電極に対する濡れ性が一層悪化することが判明した。このことから、H2を含む高CO濃度燃料においては、アノード電極の濡れ性が悪くなり、電解質に対する濡れ性がほとんど変化しないカソード電極との間で電解質占有率のバランスを崩す。しかしながら、電解質占有率は、アノードおよびカソードの電解質に対する保持能力のバランスによって決定され、この電解質を保持する能力は電解質との濡れ性(接触角)が定まっているときには多孔体の空孔の大きさ(空孔径分布)によって左右される。
【0029】
そこで、このようなガス組成比の高CO濃度燃料を使用する溶融炭酸塩型燃料電池において、カソードがNiOであり、そのカソード中央空孔径dcが4〜10μmの範囲内にあるときに、アノード中央空孔径daが、
da=0.497dc+0.12±0.5[μm]
の範囲内に設定されているものである。この範囲にアノードとカソードの中央空孔径を一定の関係に保った場合、高CO濃度燃料で燃料電池を運用しても、電解質の分布が改善され、電圧低下率が抑えられて安定性が増すことになる。ここで、カソード中央空孔径dcは5から7μmの範囲であることが好ましい。この場合、電解質保持能力が高まり、より発電性能が向上する。
【0030】
また、カソード中央空孔径とアノード中央空孔径との関係は、酸化前のカソード中央空孔径を基準として設定することもできる。すなわち、カソードが酸化前のNiであり、そのカソード中央空孔径dc’が5〜13μmの範囲内にあるときに、アノード中央空孔径daを、
da=0.388dc’+0.12±0.5[μm]
の範囲内に設定することにより、同様に、電解質の分布が改善され、電圧低下率が抑えられて安定性が増すことになる。ここで、酸化前のNiから成るカソードの場合、カソード中央空孔径dc’は6から9μmの範囲であることが好ましい。この場合、電解質保持能力が高まり、より発電性能が向上する。
【0031】
アノード電極の中央空孔径とカソード中央空孔径とが前述の関係にあるときには、高CO濃度燃料を使用するときにも、電解質に対するアノード電極とカソード電極での保持能力のバランスが保たれる。
【0032】
このアノード電極の中央空孔径とカソード中央空孔径との関係を求めるには、高CO濃度燃料を使用するときの最適な電解質占有率とそれを試算するための各運転条件におけるアノードNiと電解質の接触角が必要である。そこで、この電解質占有率を試算するために、各運転条件におけるアノードNiと電解質の接触角を算出することができる実験式を以下のようにして得た。
【0033】
MCFCの電極は図2からわかるように多孔体であり、その中に保持される電解質3の量(電解質占有率)によって電極反応場(ガス・電解質3・電極の三相界面)の面積が左右され電池性能が変化する。電極中の電解質占有率は図3に示すアノード1およびカソード2の電解質3に対する保持能力のバランスによって決定され、この電解質3を保持する能力は多孔体の空孔の大きさ(空孔径分布)、材質、ガス雰囲気によって左右される。この図3に示すアノード1およびカソード2の電解質3に対する保持能力のバランスの関係は下記の数式1の関係にあり、材質およびガス雰囲気の寄与はその材質と電解質3との濡れ性(接触角)から求めることができる。
【0034】
【数1】
ただしγlg:液体/ガスの界面張力、d:空孔径、θ::接触角、添字a:アノード、添字c:カソード (daはアノードの空孔径、dcはカソードの空孔径)
【0035】
そこで、様々なCO濃度雰囲気においてアノードNiと電解質3との濡れ性を図4に示す簡単な実験装置に基づいて測定し、高CO濃度燃料における電解質分布を評価した。この実験では、電解質3にはLi2CO3/Na2CO3=53/47、作用極5にはアノード1の素材であるNiの板(25×25×0.2mm)、対極6には直径約6cmのリング状のAu線(φ1mm)、参照極7は(1:2 O2/CO2)|Au、るつぼ8には高純度アルミナ(内径:90mm、高さ:25mm)を用いた。参照極7は一般に溶融炭酸塩での基準電位測定に使用されており、ガス雰囲気O2/CO2=33/66%における下記の反応の平衡電位を基準としている。
【0036】
【数2】
【0037】
測定温度は650℃に設定し、雰囲気ガスは電気炉内のガス分析を行いながら表2に示す15種類のガス組成に設定した。
【0038】
【表2】
【0039】
濡れ性の測定は、作用極(Ni板)5の電位をパラメータとして図5に示すように電解質3のメニスカス高さhを各雰囲気ガスで測定し、数式3として示すNeumannの式から電解質3と作用極(Ni板)5との接触角θを求めた。その結果、表2中の例えば試験No.13のガス条件では図6に示すような接触角θと電位の関係が得られた。この接触角θが大きいほど濡れ難いことを示しており、接触角θを用い電解質3と作用極(Ni板)5の濡れ性を評価した。なお、−850mV以下では作用極(以下「Ni板」ともいう)5の酸化電位に近づきメニスカスの上端部分がかすかに酸化される(灰色が濃くなる)ため、正確な濡れ性を測定することが難しくなる。
【0040】
【数3】
θ:接触角,ρ:電解質密度,g:重力加速度
h:メニスカス高さ,γlg:液体/ガスの界面張力
【0041】
さらに、電解質密度ρおよび液体/ガスの界面張力γlgは温度依存性があり以下の関係式より求めた。
<数4>
電解質密度ρ(kg m-3):ρ=2337−0.3984×(T+273) (546<T<992)
<数5>
界面張力γlg (mN m-1):γlg=287.1−0.05578×(T+273) (546<T<992)
ただし、T:温度(℃)
【0042】
次いで、アノードの作用極(Ni極)と電解質との濡れ性について検討する。接触角は図6でも示したように電位が高いほど大きく、Ni極5は濡れ難い。電池に置き換えると負荷が大きい(出力電圧が低い、または電流密度が大きい)ほどアノード1は濡れ難くなることを示している。このため、負荷をかけた状態を想定し、Ni極5の電位−900mVにおける濡れ性のガス組成依存性を評価した。図7〜図10にH2を含む雰囲気における濡れ性のガス濃度依存性を示す。ばらつきが見られるもののCO2濃度が高いほど濡れ難く、H2濃度が高いほど濡れ易い傾向にあることがわかった。一方、CO濃度およびH2O濃度への依存性は見られないことがわかった。このことから、H2を含む高CO濃度燃料においては、CO2濃度が高くなると電解質のアノードに対する濡れ性が悪くなり、更にH2濃度が低くなると電解質のアノード電極に対する濡れ性が一層悪くなること、即ちガス組成比中のCO2成分割合の増加がアノード電極を電解質に対し濡れ難くすることが判明した。そこで、アノード電極の接触角の変化を雰囲気中のガス組成比CO2/(H2+H2O+CO+CO2) で整理した場合した結果を図11に示す。この場合、全体的に誤差が大きくなるが接触角は最小二乗法より下記の数式6の直線で外挿することができる。
<数6>
接触角θcal(degree):
θcal =11.7×(CO2/(H2+H2O+CO+CO2))+60.4
【0043】
ここで、Ni極5の電位が、−850mV,−950mV,−1000mV,−1050mVにおいて同様に整理した場合、数式6の傾きと切片に相当する値は図12に示す関係となり、傾きαと切片βはそれぞれ
<数7>
α=−160.1×V2−316.5×V−143.1
ただし、V:Ni極5の電位(V)
<数8>
β=62.0×V+116.8
で示すことができ、溶融炭酸塩型燃料電池の運転温度650℃における接触角はNi極5の電位とガス組成比 CO2/(H2+H2O+CO+CO2) をパラメータとした下記の実験式より算出できる。
<数9>
θcal=(−160.1×V2−316.5×V−143.1)×(CO2/(H2+H2O+CO+CO2)) +62.0×V+116.8
【0044】
この数式9から得られる接触角の妥当性を検証するために、計算値と実測値を比較した(図13参照)。同図に示されているように、両者とも45°の直線によく乗っており、本算出式が有効であるとわかった。
【0045】
次いで、上述の運転条件におけるアノードNiと電解質の接触角を算出する実験式9を用いて、運転時における電解質分布を求めた。
【0046】
MCFC内を想定した場合、燃料の消費により燃料の流れ方向に対して水素濃度の勾配および温度分布が生じるため、それらの変化に伴いアノードNiと電解質の接触角に面分布が生じると推定できる。つまり、電解質の分布(電極中の電解質占有率)は燃料ガス組成または運転条件(燃料利用率, 温度)によって変化すると考えられる。
【0047】
その電解質分布を計算するため、電池内の構造を図35に示す構造にモデル化した。電解質は毛細管力によりそれぞれのコンポーネントにおいて最も小さな空孔から充填されるといわれていることから、図35ではその空孔径を電解質板から離れるほど大きくし毛細管力の効果を考慮した。
【0048】
定常状態においては、燃料極と空気極による電解質を引き込む力がバランスし、空孔の毛細管力とそれぞれのコンポーネントの濡れ性の関係から(10)式が成り立つ。
【数10】
【0049】
通常、MCFCの運転においてはPa=Pcであり、またρghの項は右辺の他の項に比べ無視できるほど小さい値であるため、(10)式は(11)式のように表すことができる。
【数11】
【0050】
また、コンポーネントに含有されている総電解質量は一定であるとすると(12)式の関係が得られる。F(d)とG(d)はアノードおよびカソードの累積空孔容積率の関数である。例えば、実際の累積空孔容積率の関数は図36に示す空孔径とアノード累積空孔容積率の関係を数式化しF(da)とし、空孔径とカソード累積空孔容積率の関係を数式化しG(dc)としている。
【数12】
【0051】
数式12に、(9)式で得られた接触角θcalを数式11のθaとして一連のデータとともに代入すると、アノードおよびカソードにおいて電解質に占有される空孔の最大空孔径を求めることができ、その結果から電極の電解質占有率の分布を計算することができる。この電解質占有率の分布計算フローチャートを図36に示す。
【0052】
ここで、空孔の数は計算モデルでの数であり、この値は分割数に相当するもので任意に決定される。図35では3つに分割して計算しており、見た目上3つの空孔になる。
【0053】
最大の空孔径まで電解質は充填されることとなる。たとえばアノードの場合、図36に示す空孔径とアノード累積空孔容積率の関係より、最大の空孔径でのアノード累積空孔容積率が求まり、その空孔容積率だけ電解質に占められていることになる。この最大の空孔径は場所(n)によって異なる結果が得られるので、電解質の分布が生じてくる。
【0054】
以上の電解質分布計算モデルを用いて、天然ガス燃料(高H2濃度燃料)の使用を前提に開発された溶融炭酸塩形燃料電池に関し、高H2濃度燃料および高CO濃度燃料での電解質分布を比較した。勿論、電解質分布評価モデルは、上述のものに特に限定されるものではなく、他の手法によっても良いことは言うまでもない。
【0055】
電極中の電解質分布はアノードNiおよびカソードNiOの電解質3に対する接触角が既知であれば上述の電解質分布計算モデルを用いて試算できる。尚、カソードNiOと電解質3の接触角は、CO2濃度が高いほど濡れ難いが、アノードNiと電解質3の濡れ性の関係に比べCO2濃度依存性はきわめて小さいということが本発明者等の研究・実験からわかっており、MCFC単セルの運転条件(カソード中CO2濃度範囲 6〜10%)においてカソードNiOと電解質3の接触角は13.2°±0.2°である。このため今回の計算ではMCFCの運転条件またはガス条件によらず13.2°とした。アノードNiと電解質3との接触角はCO2/(H2+H2O+CO+CO2) とアノード電位を数式9に代入することによって求められる。このガス比CO2/(H2+H2O+CO+CO2) は燃料および運転条件によって異なり、表3および表4に示す高CO濃度燃料および高H2濃度燃料での発電条件では、CO2/(H2+H2O+CO+CO2) は図14に示すように大きく異なる。これら2つの発電条件を取り上げて高H2濃度燃料および高CO濃度燃料での電解質分布を比較した。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
また、電解質分布の計算条件は、表3および表4の条件に加え表5に示す初期条件ならびに図37に示すアノード1およびカソード2の空孔径分布を持つ電池とした。なお、この電池はAセルを想定している。
【0059】
【表5】
【0060】
なお、上述の2つの発電条件(高CO濃度燃料での発電条件および高H2濃度燃料での発電条件)において、高CO濃度燃料での発電試験条件では、出力電圧が約720mVの場合、数式2の平衡電位を基準とするとアノード1の電位は−950mV(カソード2の電位−230mV)となる。高H2濃度燃料での発電試験条件では、出力電圧が約780mVの場合、数式2の平衡電位を基準とするとアノード1の電位は−1000mV(カソード2の電位−220mV)となる。
【0061】
図15に高H2濃度燃料における電解質分布、図16に高CO濃度燃料における電解質分布を示す。図15、図16ともに燃料の流れ方向に沿ってCO2/(H2+H2O+CO+CO2) が高くなり、アノード1中の電解質占有率が低下している。ところが、図15の高H2濃度燃料における電解質分布の場合には、燃料中のH2濃度が高い上に、アノード電解質占有率が15%以上保たれている。単セルの試験結果からすれば、図15に示す電解質分布かつ高H2濃度燃料の場合には電圧低下率が低く安定して運転されていることからアノードの酸化は生じていないとの判断が得られた。他方、図16の高CO濃度燃料における電解質分布の場合には、燃料中のH2濃度が低い上に、アノード電解質占有率が10%に低下している。単セルの試験結果からすれば、図16の電解質分布を示す高CO濃度燃料の場合には、電圧低下率が高く不安定な運転となっていることからアノードの酸化が生じているとの判断が得られた。
【0062】
このときの電解質分布は、高H2濃度燃料における電解質占有率に比べ5〜6ポイント低く、その一方で、カソード2の電解質占有率は高H2濃度燃料に比べ6ポイント高い。この電解質分布の差(カソード2中の電解質占有率の差)が、高CO濃度燃料での高いカソード反応抵抗の原因になったと考えられた。さらに高CO濃度燃料ではアノード1中の電解質量の減少により、電解質板4とアノード1の界面付近に電極反応が集中し、Niが酸化したと考えられ、内部抵抗の増加、アノード1の反応抵抗の増加を引き起こしたと考えられた(以上の現象をまとめた高CO濃度燃料における電圧低下のメカニズムについては図32〜図34参照)。
【0063】
アノード電解質占有率並びにカソード電解質占有率は、電極中において発電反応が活発に起こる部分(面積)を確保しかつある程度以上に維持させるために設定されている。電解質が多いと、反応ガスが電極まで拡散する距離が長くなり、反応が進み難くなる。その反面、電解質が少ないと、電解質に濡れない電極部分が現れ、まったく反応しなくなる。また、電解質中のイオンの移動抵抗が大きくなり、反応が進み難くなる。したがって、高CO濃度燃料を使用する場合には、図15のアノード電解質占有率を上回ること、さらには、アノードが酸化されないようにアノード電解質占有率に余裕を設けることが好ましいと考えられる。また、カソードの反応抵抗を増加させないためにも、カソード電解質占有率を図15に示すカソード電解質占有率よりも下げるようにアノードの空孔径分布を設定することも考慮した。このことから、本発明者等は、アノード電解質占有率18〜35%、カソード電解質占有率25〜38%が適切な電解質占有率であると判断した。
【0064】
そこで、この電解質占有率を達成するアノードの中央空孔径とカソード中央空孔径との関係を、数式9〜数式12を用いて求めた。
【0065】
即ち、電解質との濡れ性(接触角)が定まった、ある電解質材料並びにガス雰囲気における高CO濃度燃料使用時の電解質保持能力は、アノード並びにカソードの空孔径に依存することことから、アノード電解質占有率18〜35%、カソード電解質占有率25〜38%という条件を満たそうとすると、カソード中央空孔径とアノード中央空孔径との関係は基本的に線形となることを確認した(カソードが酸化前のNiである場合には図30参照、カソードが酸化ニッケルの場合には図31参照)。つまり、天然ガス改質ガスの使用を前提に最適化された従来の溶融炭酸塩形燃料電池用電極であれば、アノード電解質占有率15〜18%、カソード電解質占有率40%を満たそうとすると、カソード中央空孔径とアノード中央空孔径との関係が図示するように線形になることが確認できた(図30中の上側の直線を参照)。これに基づき、高CO濃度燃料の使用を前提に最適化された本発明の溶融炭酸塩形燃料電池用電極においても線形性は保たれるとの認識の下で実験を行い、計算に基づいて得られたカソード中央空孔径とアノード中央空孔径との関係をプロットしていくと、図30並びに図31に示すとおりとなった。この図30に示されるNiOカソードを用いる場合のカソード中央空孔径dcとアノード中央空孔径daとの関係は、da=0.497dc+0.12で、また図31に示される酸化前のNiカソードを用いる場合のカソード中央空孔径dc’とアノード中央空孔径daとの関係は、da=0.388dc’+0.12で示される。そして、実験結果から、ある程度その幅が上下にずれていても±0.5μmの範囲内に収まっていれば上記条件を満たしうる。
【実施例】
【0066】
天然ガス仕様のアノードA(石川島播磨重工業株式会社製セル:以下Aセルと呼ぶ)に比べて空孔径が小さい3種類のアノード(アノードE, アノードF,アノードG)を作製し、高CO濃度燃料を用いたときの連続運転における出力電圧の安定性、即ち電圧低下率と運転の安定性について実験をした。尚、3種類のアノードE,F,Gは、図17、図18に示すように互いに異なる空孔径分布(中央空孔径)を有している点を除いて、アノードとしての材質、板厚、空隙率などは同じであり、セル構成部品のその他の部品もAセルと同じ構成である(表5参照)。即ち、アノードの空孔径だけを小さくして、カソード側の電解質占有率を下げ、アノード側の電解質占有率を上げている。因みに、Aセルのカソードは、酸化ニッケルであり、その中央空孔径は測定するピースによってばらつきが生じるものの、平均で6.1μmである。
【0067】
ここで、アノードEは、その電解質分布(図19参照)をAセルにおける高H2濃度燃料での電解質分布(図15参照)と同等のレベルに設定することを目標とし、中央空孔径3.6μmに作製されている。さらにアノードEとアノードGは空孔容積のピークが同じ位置になるように設定した(図17参照)。また、アノードFとアノードG は、FセルおよびGセルのアノード電解質占有率がAセルにおける高H2濃度燃料でのアノード電解質占有率に比べ3〜4ポイントあるいは5ポイント程度高く、カソード電解質占有率は3〜5ポイント程度低く設定すると共に、FセルとGセルの電解質分布には大きな差を持たせないこととした(図20、21参照)。加えてアノードFとアノードGは3μm以下の空孔径分布が等しくなるように設定し(図17参照)、さらにアノードFの電解質保持能力を最も高くするためにアノードFの空孔容積のピーク位置が最も小さくなるように設定した(図17参照)。このことから、アノードEの中央空孔径は3.6μm、アノードFの中央空孔径は2.9μm、アノードGの中央空孔径は3.2μmに設定された。
【0068】
これら3種類のアノード1を電池(Eセル,Fセル,Gセル)に組み込み、高CO濃度燃料aでの寿命評価試験を行った。電池仕様(表6参照)はAセルを基準としており、運転条件はAセルの場合(圧力0.494MPa,温度650℃,電流密度:200mA/cm2,燃料:H2/CO/N2/CO2/H2O=10.5/21/3.5/35/30%,燃料利用率:65%,酸化剤:Air/CO2/H2O=81/9/10%,O2利用率:40%)と同様である。また、一部高H2濃度燃料(H2/CO2/H2O=56/14/30(以下「高H2濃度燃料d」とする))での寿命評価試験も行った。
【0069】
【表6】
【0070】
(Eセルの試験結果)
図22にEセルの連続運転結果、図23にはその連続運転における出力電圧の低下分を内部抵抗分と反応抵抗分に分離した結果を示す。なお、図23の高H2濃度燃料dでの電圧低下量は、燃料を変えた後の電圧が安定した時点を基準にしている。高CO濃度燃料aでの出力電圧の性能低下は運転初期より大きく、また運転時間1550,1700,2600,3080時間に15時間以上OCV(高H2濃度燃料を用いて運転する)にしたことによって出力電圧および内部抵抗が回復し、その後も同程度の電圧低下率で電池性能は低下した。このことから、Aセルと全く同様の現象が生じており、アノード1も一部酸化されていると考えられた。さらに高H2濃度燃料dに変えた後は、電圧低下率は小さくなり安定した発電ができ、図1で示した結果と同様な結果が得られた。これらの結果より、図19で示したEセルの電解質分布は高CO濃度燃料において不適であることがわかった。
【0071】
(Fセルの試験結果)
図24にFセルの連続運転結果、図25にはその連続運転における出力電圧の低下分を内部抵抗分と反応抵抗分に分離した結果を示す。図20はアノードFを電池に組み込んだセルFの高CO濃度燃料条件における電解質分布である。なお、図25の高H2濃度燃料dでの電圧低下量は、燃料を変えた後の電圧が安定した時点を基準にしている。装置トラブル(アノードバブラー温度異常、計画停電処置、負荷装置故障)により15時間以上OCVに保持したため電圧にばらつきがあるが、高CO濃度燃料aでの出力電圧の低下率はAセル、Eセルに比べ極めて小さく、内部抵抗の経時増加も極めて小さかった。特に、運転時間1800時間から3000時間の間では内部抵抗が上昇しているにもかかわらず出力電圧が上昇した。これは電極中の電解質量が最適なレベルに移行している状態と考えられた。また、運転時間7000時間以降の高H2濃度燃料dにおいても安定した性能を示した。このことからFセルは高CO濃度燃料および高H2濃度燃料に適した電池といえることがわかった。
【0072】
(Gセルの試験結果)
図26にGセルの連続運転結果、図27にはその連続運転における出力電圧の低下分を内部抵抗分と反応抵抗分に分離した結果を示す。図21はアノードGを電池に組み込んだセルGの高CO濃度燃料条件における電解質分布である。電圧低下の原因は内部抵抗の増加の影響のみであり、15時間以上OCVに保持した場合でも内部抵抗および出力電圧の変化は見られなかった。したがって、この内部抵抗の増加はアノード1の酸化が原因ではなく、カソード2のカレントコレクター(C/C)の腐食が原因と考えられた。これらの傾向は、従来のセルでの高H2濃度燃料における出力電圧変化パターンと同様であり、電極を改良したことによる効果が現れている。しかし、GセルはFセルよりも内部抵抗の経時増加が大きかった。
【0073】
(電池寿命の比較)
図28にAセルのデータも加えた4つのセルの連続運転結果の比較を示す。Fセルの初期電圧は最も低いが、寿命の観点からは最も性能が良いことがわかり、Fセルの電極構造が適していることがわかった。
【0074】
FセルとGセルの電解質分布は図20と図21に示したように大きな違いはないが、アノードFのほうがアノードGに比べ2.7μm〜5μmの空孔容積が多く、電解質3の保持力が高い。このため、Fセルではカレントコレクター(C/C)などに流出する電解質量が少なく、ひいてはカレントコレクターの腐食も抑えられ、内部抵抗の増加が抑えられたものと考えられた。結果的に、Fセルが最も長期安定性に優れた電池であることが確認できた。
【0075】
以上の実験の結果、3種のアノードの中でアノードFとGは、高CO濃度燃料の使用において電圧低下率が小さく安定して運転でき、性能がよかった。このFとGの2つのアノードは、中央空孔径が2.9μmと3.2μmであり、本発明のカソード中央空孔径とアノード中央空孔径との関係を示す式da=0.497dc+0.12から求まる値から約±0.2μmの範囲内に収まっており、本発明の実施例である。ここで、3種のアノードの中で最も性能がよかったアノードFと、高H2濃度燃料の使用を想定して最適化されたアノードA(従来アノード)との空孔径分布を示すと図29の通りである。このことから、本発明のアノードが従来のアノードよりも空孔容積のピークが小孔径側にシフトすることで(2.7μm〜5μmの空孔容積が多い)、高CO濃度燃料使用時の電解質の保持力が高いことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】高CO濃度燃料bと高H2濃度燃料cの電圧低下パターンへの影響(Dセル)を示すグラフに、各条件でのガス組成の内容を併せて示す図である。
【図2】高CO濃度燃料bでの発電試験後のアノード断面SEM写真(Cセル)である。
【図3】アノードおよびカソードの電解質に対する保持能力のバランスを概略的に示す図である。
【図4】本実施例における実験系の概略図である。
【図5】電解質のメニスカス高さhを示す図である。
【図6】ガス条件No.13(表3参照)における接触角θと電位の関係を示すグラフである。
【図7】H2を含む雰囲気における濡れ性のH2ガス濃度依存性を示すグラフである。
【図8】H2を含む雰囲気における濡れ性のCO2ガス濃度依存性を示すグラフである。
【図9】H2を含む雰囲気における濡れ性のCOガス濃度依存性を示すグラフである。
【図10】H2を含む雰囲気における濡れ性のH2Oガス濃度依存性を示すグラフである。
【図11】H2を含む雰囲気中のガス組成比(CO2/(H2+H2O+CO+CO2))と濡れ性の関係を示すグラフである。
【図12】接触角とガス比(CO2/(H2+H2O+CO+CO2))の直線関係における傾きαおよび切片βとNi電極電位の関係を示すグラフである。
【図13】数式9から算出した接触角と測定値の比較を示すグラフである。
【図14】電池内でのCO2/(H2+H2O+CO+CO2)の変化を示すグラフである。
【図15】天然ガス燃料(高H2濃度燃料)用に開発されたセルに対して天然ガス燃料(高H2濃度燃料)を使用した場合の電解質分布を示す図である。
【図16】天然ガス燃料(高H2濃度燃料)用に開発されたセルに対して高CO濃度燃料を使用した場合の電解質分布を示す図である。
【図17】3種類のアノード(An_E, An_F, An_G)およびAセルのアノード(An_A)の空孔径分布を示すグラフである。
【図18】3種類のアノード(An_E, An_F, An_G)およびAセルのアノード(An_A)の累積空孔径分布を示すグラフである。
【図19】アノードAn_Eを組み込んだEセルの高CO濃度燃料条件における電解質分布を示すグラフである。
【図20】アノードAn_Fを組み込んだFセルの高CO濃度燃料条件における電解質分布を示すグラフである。
【図21】アノードAn_Gを組み込んだGセルの高CO濃度燃料条件における電解質分布を示すグラフである。
【図22】高CO濃度燃料aおよび高H2濃度燃料dでの連続運転特性(Eセル)を示すグラフである。
【図23】連続運転における出力電圧低下分の内訳(Eセル)を示すグラフである。
【図24】高CO濃度燃料aおよび高H2濃度燃料dでの連続運転特性(Fセル)を示すグラフである。
【図25】連続運転における出力電圧低下分の内訳(Fセル)を示すグラフである。
【図26】高CO濃度燃料aでの連続運転特性(Gセル)を示すグラフである。
【図27】連続運転における出力電圧低下分の内訳(Gセル)を示すグラフである。
【図28】Aセルを加えた4つのセルの出力電圧経時変化の比較を示すグラフである。
【図29】2種類のアノード(従来の溶融炭酸塩形燃料電池のアノードと、空孔径を改良した溶融炭酸塩形燃料電池のアノード)の空孔径分布を示すグラフである。
【図30】カソードがNiOである場合において適切な電解質占有率を実現するためのカソード中央空孔径とアノード中央空孔径との関係を示すグラフである。
【図31】カソードが酸化前のNiである場合において適切な電解質占有率を実現するためのカソード中央空孔径とアノード中央空孔径との関係を示すグラフである。
【図32】高CO濃度燃料を使用した場合の電圧低下のメカニズムを説明するための図で、高H2濃度燃料を使用している場合の電解質の様子を示したものである。
【図33】高CO濃度燃料を使用した場合の電圧低下のメカニズムを説明するための図で、高CO濃度燃料を使用している場合に電解質分布が変化するの様子を示したものである。
【図34】高CO濃度燃料を使用した場合の電圧低下のメカニズムを説明するための図で、電解質分布が変化した結果、アノード側で電流集中により部分的酸化が生じ空孔がなくなった様子を示したものである。
【図35】アノードおよびカソードの電解質に対する保持能力のバランスを概略的に示すモデル図である。
【図36】電解質分布計算のフローチャートである。
【図37】Aセルを想定したアノードおよびカソードの空孔径分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0077】
1 アノード
2 カソード
3 電解質
4 電解質板
【技術分野】
【0001】
本発明は溶融炭酸塩形燃料電池用電極に関する。さらに詳述すると、本発明は、高CO濃度燃料の使用に適した溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)の電極の空孔の最適化に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融炭酸塩形燃料電池(以下、単に「MCFC」ともいう)は、高い発電効率が期待される上にCO(一酸化炭素)による電極反応触媒の被毒がないことから、燃料の多様化を可能としている。例えば、MCFCに使用できる燃料としては、一般的には天然ガスやメタノールなどの炭化水素系の燃料を水蒸気改質して生成した水素を多く含むガス(本明細書では、高H2濃度燃料と呼ぶ)を用いているが、COを多量に含む石炭ガス化ガス、廃棄物ガス化ガス、バイオマスガス化ガス等のガス(本明細書では、高CO濃度燃料と呼ぶ)を用いることも可能である。
【0003】
一方で、再生可能エネルギーとして注目されているバイオマス、廃棄物ガス化ガスの利用は化石燃料の消費を少しでも抑制することができ、さらにバイオマスにおいては地球温暖化防止の観点からCO2の排出を非常に低く抑えられる可能性を持っていることから、近年、炭酸溶融塩型燃料電池の燃料としての利用が望まれている。例えば、ごみのガス化ガスを溶融炭酸塩型燃料電池の燃料として用いる提案もある(特許文献3)。この発明の溶融炭酸塩型燃料電池によると、ゴミのガス化ガスをメタネーション反応容器に導いて触媒下にメタンリッチガスに転換し、これを内部改質式溶融炭酸塩型燃料電池の内部改質器を介して高H2濃度燃料としてからアノードに供給することで発電させるようにしている。
【0004】
他方、アノード電極の空孔率、平均空孔率の最適化に関する提案もなされている。従来、アノード電極に対しては、経験的に、アノードの空孔率が小さいと反応面積が小さくなって活性が低下することによりアノード分極が起こり易い反面、空孔率、空孔径が大き過ぎると機械的強度が弱くなりクリープが起こり易いことが知られている。そこで、アノード電極に対しては、経験的数値として一般に空孔率が60〜65%、平均空孔径が3〜6μmに設定されている。これを更に電解質板とのマッチングを考慮して最適化するものとして、アノード電極の空孔率を65〜85%の範囲で尚かつ平均空孔径を6〜14μmの範囲に調整することにより、アノード電極への電解質及び反応ガスの供給を十分なものとし、アノード電極の活性を増して分極の小さなアノード電極を供給することが可能となることが指摘されている(特許文献1)。この文献では、高H2濃度燃料(H280%のCOとの混合ガス)を使用する場合のアノード電極の最適化が実施例として挙げられている。
【0005】
また、アノード電極構造に対して、異なる観点から最適化を検討したものもある。例えば、アノード電極の厚みの減少と空孔率との関係に着目し、アノード電極(燃料極)の空孔率を最適化して長時間の運転における電池性能が優れた溶融炭酸塩型燃料電池のアノード電極を提供することが考えられている(特許文献2)。即ち、上述の特許文献1のアノード電極構造では、燃料極の分極電圧の抑制については考慮されているが、燃料極の厚みの減少を考慮した検討は行われておらず、長時間作動時の電池寿命を保証するものでないとしている。そして、天然ガスやその他の炭化水素系燃料から得られる高H2濃度燃料の雰囲気中では、燃料極のニッケル粒子の焼結凝集が進行して収縮を起こし、アノード電極の厚みの減少を起こして、アノード電極と電解質板や集電板などの電池構成材との接触不良による内部抵抗の増大を招き、電池特性の劣化の主な原因の1つとなっていること指摘している。そこで、アノード電極の空孔率を45〜55%の範囲に収めることにより、十分な反応面積と良好なガス拡散性を確保しようとするものである。この文献においても、高H2濃度燃料(H2/CO2/H2O(=72/18/10%))を使用する場合のアノード電極の最適化が実施例として挙げられている。
【0006】
【特許文献1】特開平2−12773号公報
【特許文献2】特開平4−51460号公報
【特許文献3】特開2004−79495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これら従来のMCFCは、高H2濃度燃料を用いる場合には最適であったとしても、高CO濃度燃料を用いると、初期性能において天然ガス燃料(高H2濃度燃料)の使用時に劣らなかったものの、経時に伴う電圧低下率が高く安定性に欠けるものものであることが本発明者等の種々の実験・研究によって明らかになった。これまでの溶融炭酸塩形燃料電池の電極開発は、電圧低下率が燃料のガス組成によって左右されるとは考えられていなかったことから、アノード電極などの最適化には特許文献1及び2に例示する通り、高H2濃度の天然ガス燃料の使用を想定したものであって、高CO濃度燃料による長期運転には適していないものであると考えられる。
【0008】
本発明は、石炭ガス化ガス、廃棄物ガス化ガス、バイオマスガス化ガスといった高CO濃度燃料を使用した場合にも電圧低下を抑えることができ長期安定性に優れる溶融炭酸塩形燃料電池用電極、及びアノード電極最適化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明者は、高CO濃度燃料を用いたときの経時に伴う高い電圧低下率と安定性に欠けるという問題について種々の実験と検討を行った結果、高CO濃度燃料を用いたときの高い電圧低下率の要因が、アノード反応抵抗の増加、カソードのO2反応にかかわる反応抵抗の増加、内部抵抗の増加による出力電圧の低下にあり、高H2濃度燃料下において安定な電解質に対するアノード電極とカソード電極での保持能力のバランスが崩れることにあることを突き止めた。そして、高CO濃度燃料への燃料ガス組成の変更に伴う電解質の分布の変動は、アノードとカソードの空孔径を一定の関係に設定することによって改善され、電圧低下率が抑えられて安定性が増すとの知見を本発明者等は得た。
【0010】
具体的には、高H2濃度燃料の使用を前提として電極ミクロ構造が最適化されたMCFCセルに対して、高H2濃度燃料と高CO濃度燃料とを用いて運転したところ、高CO濃度燃料では電圧低下率が高く、高H2濃度燃料では低く安定していることことから(図1参照)、高い電圧低下率の原因はガス組成にあることを知見するに至った。因みに、各運転条件でのガス組成並びに共通条件は以下の表1の通りである。
【0011】
【表1】
【0012】
更に、高CO濃度燃料で運転したセルの解体分析を行った結果、電解質側のアノードの一部の空孔が潰れ、Ni粒子の酸化による凝集が見られた(図2参照)。特にカレントコレクターとアノードが接する真下において酸化されている部分が多く見られた。このアノードの酸化が内部抵抗の増加の要因であると考えられる。また、アノードの空孔が潰れる現象は、燃料が欠乏した場合に見られる電極ミクロ構造の変化と同様であり、局部的にアノード反応(電流)が集中し燃料の欠乏が生じたと考えられる。つまり、局部におけるアノード反応の集中によって、アノード反応抵抗の増加およびアノードの酸化が生じ、その酸化によってさらにアノード反応抵抗が増加したと考えられる。そして、局部におけるアノード反応の集中の原因と、O2に関わるカソードの反応抵抗の増加原因としては、アノード反応の集中が電解質側のアノードに生じていることから、アノード中の電解質の量が極めて少なく、電解質板の近傍しか十分に電解質が存在していなかったものと考えられ、アノード中に想定していた量の一部の電解質が経時的にカソード側に移動し、カソード側の電解質の充填率が上昇したものと考えられる。
【0013】
即ち、高CO濃度燃料が使用されると、高H2濃度燃料の場合に比べてガス組成比(CO2/(H2+H2O+CO+CO2) )中のH2の割合が減少すると共にCO2の割り合いが増加することから、電解質に対してアノードが濡れ難くなる(図7及び図8参照)。そうすると、高H2濃度燃料下では最適化によってバランスしていた電解質の分布が(図32参照)、アノードの電解質占有率の低下およびカソードの電解質の占有率の上昇により電解質の分布のアンバランスを招く(図33参照)。このようなアンバランスな状態下では、アノード側では電流集中によって部分的酸化が生じ空孔がなくなる(図34参照)一方、アノードの一部酸化カソードの反応抵抗が上昇する結果、電圧低下率が大きくなる。
【0014】
また、カソード反応抵抗は主に電解質中でのスパーオキサイドイオン(O2−)の拡散、電解質中でのCO2の拡散、電解質中へのCO2の溶解の寄与に分離でき、カソード(O2)反応抵抗ロスはO2−の拡散の寄与であり、カソード(CO2)反応抵抗ロスはCO2の拡散と溶解の寄与の和である。カソードの電解質の充填率が上昇した場合、O2−およびCO2が電解質内を拡散し電極表面に到達するまでの移動距離が長くなる、あるいは電解質により細孔が埋められ有効面積が減少するために、O2− およびCO2の拡散の影響が増加しカソード反応抵抗が増加すると考えられた。O2− の拡散の影響はCO2の拡散の影響に比べ大きいため、経時に伴なってO2に関わるカソード反応抵抗の増加が顕著に表れたと考えられた。
【0015】
つまり、ガス組成比の変更によりセル内の電解質分布が変化したことが、局部におけるアノード反応集中の原因かつカソード反応抵抗の増加原因と考えられるとの知見に至った。
【0016】
一方、電解質占有率は、アノードおよびカソードの電解質に対する保持能力のバランスによって決定され、この電解質を保持する能力は多孔体の空孔の大きさ(空孔径分布)、材質、ガス雰囲気によって左右される。このことから、電解質との濡れ性(接触角)が定まった、ある電解質材料並びにガス雰囲気における高CO濃度燃料使用時の電解質保持能力は、アノード並びにカソードの空孔径に依存することを知見するに至った。
【0017】
本発明は、かかる知見に基づくものであって、H2/CO濃度比が1.2以下の燃料ガスまたは燃料改質ガスが使用される溶融炭酸塩形燃料電池用電極において、カソードがNiOの場合、カソード中央空孔径dcは4から10μm、アノード中央空孔径daが、
da=0.497dc+0.12±0.5[μm]
の範囲内にあるものである。ここで、カソード中央空孔径dcは5から7μmの範囲であることが好ましい。
【0018】
さらに、酸化前のカソード中央空孔径を基準とした場合のアノードとカソードの関係も考慮し、実験と検討の結果かかる関係についても知見が得られた。請求項2に記載の発明はかかる知見に基づくものであり、H2/CO濃度比が1.2以下の燃料ガスまたは燃料改質ガスが使用される溶融炭酸塩形燃料電池用電極において、カソードが酸化前のNiであり、そのカソード中央空孔径dc’が5から13μmの範囲にあるときに、アノード中央空孔径daが、
da=0.388dc’+0.12±0.5[μm]
の範囲内にあるものである。ここで、酸化前のNiから成るカソードの場合、カソード中央空孔径dc’は6から9μmの範囲であることが好ましい。
【0019】
加えて、アノード電極の最適化を計るアノード電極最適化の方法についても新たな知見で得られた。すなわち、下記実験式より、使用燃料のガス組成比におけるアノード材料の電解質に対する接触角を算出し、
θcal=(−160.1×V2−316.5×V−143.1)×(CO2/(H2+H2O+CO+CO2))
+62.0×V+116.8
ただし、式中、Vはアノード電位、
CO2/(H2+H2O+CO+CO2)は雰囲気のガス比、
θcalは接触角である。
該接触角から最適な電解質分布が得られるときのアノード中央空孔径を求め、アノード中央空孔径とカソード中央空孔径の関係式を求めるアノード電極の最適化を計るというものである。
【発明の効果】
【0020】
しかして、本発明の溶融炭酸塩形燃料電池用電極によると、石炭ガス化ガス、廃棄物ガス化ガス、バイオマスガス化ガスといった高CO濃度燃料を長時間使用した場合であっても、アノードおよびカソードにおいて電解質占有率に偏りが生じるのが抑えられるので、電圧低下が起こりにくく、安定した動作を続けることが可能となる。しかも、アノード中央空孔径とカソード中央空孔径を関係式で定まる範囲に設定する際には、高CO濃度燃料での使用でも電圧低下率が低く安定した運転が可能であるが、高H2濃度燃料に切り替えて使用する場合にも最高性能はだせないとしても電圧低下率が低く安定した運転が可能であり(図24参照)、燃料のガス組成比に大きな影響を受けないものである。
【0021】
また、本発明の溶融炭酸塩形燃料電池用電極の最適化法によると、電極材料や使用燃料のガス組成比に応じた最適なアノード中央空孔径とカソード中央空孔径の関係式を求めることができるので、アノードおよびカソードにおいて電解質占有率に偏りが生じるのが抑えられ、燃料ガス組成比にかかわりなく電圧低下が起こりにくく、安定した動作を続けることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0023】
これまでの溶融炭酸塩形燃料電池の電極開発は、電圧低下率が燃料のガス組成によって左右されるとは考えられていなかった。そこで、アノード電極などの電極の空孔の最適化には、天然ガス改質ガスなどの高H2濃度燃料の使用が一般的であることから、高H2濃度燃料の使用を想定して行われており、高CO濃度燃料の使用を想定したアノード電極並びにカソード電極の空孔の最適化は検討されていなかった。
【0024】
ここで、高H2濃度燃料とは、一般にCO濃度よりもH2濃度が高い燃料、例えばH2/CO濃度比が3以上で、天然ガス改質ガスの場合には約7程度の燃料をいう。燃料電池用燃料として一般的な天然ガス改質ガスでは、例えば、H2 74.5,CO 11.2,CO2 11.4,CH4 2.3,N2 0.6,H2S 1〜9pp程度のものが使用される。
【0025】
他方、高CO濃度燃料とは、石炭ガス化ガス、廃棄物ガス化ガス、バイオマスガス化ガスなどを想定しており、H2/CO濃度比が原燃料の状態で1以下のものであって、燃料電池用燃料として調製されたときにもH2/CO濃度比が1より僅かに高い程度の燃料である。通常、燃料電池には、炭素析出を防止するため直接石炭ガス化ガス、廃棄物ガス化ガス、バイオマスガス化ガスを供給することはなく、CO2、H2O濃度を高めて(蒸気の供給、使用済み排ガス(CO2濃度:約50%、H2O濃度:約40%)の利用などで)から供給する。さらに、シフト平衡(H2+CO2=CO+H2O)が進行する。このため、原燃料においてH2/CO濃度比が1以下といっても、燃料電池に供給される際にはH2/CO濃度比が1.2付近にまでなることが想定される。しかしながら、本発明において燃料ガスまたは燃料改質ガスのH2/CO濃度比が1.2以下であることには特に際だった臨界的意義はなく、例えばH2/CO濃度比が1.3以下でも大きな違いはない。要は、通常炭酸溶融塩型燃料電池の燃料として使用される天然ガス改質ガスに代表される高H2濃度燃料と比較してH2/CO濃度比が十分小さいもの、換言すれば高H2濃度燃料の使用を想定して最適化された電極に対して使用したときに、電解質に対するアノード電極とカソード電極での保持能力のバランスをアノードの酸化などの内部抵抗の増加に繋がる影響を及ぼす可能性がある程に崩す虞のある値のH2/CO濃度比、即ちアノードNiの濡れ性(接触角)に影響を与える目安となる値のH2/CO濃度比として決定されたものである。
【0026】
具体的には、本発明者等の実験により、天然ガス改質ガス(高H2濃度燃料)を使用する際には電圧低下率が低く安定して運転できる燃料電池の電極ミクロ構造において、高CO濃度燃料を使用した場合に電圧低下率が高くなりかつ運転が不安定となったという結果が得られたことから、CO2濃度が高いほどアノードNiが濡れ難くなる、即ちアノードNiの接触角が大きくなるという知見を得た。本発明者等の実験によると、H2/CO濃度比が1.2以下の燃料(石炭ガス化ガス、廃棄物ガス化ガス、バイオマスガス化ガスを想定した燃料)では、アノード電位−950mVのときアノードNiの接触角が65〜73度となる。一方、H2/CO濃度比が3以上の燃料(天然ガス、発酵バイオマスガスを想定)では、アノード電位−950mVのときアノードNiの接触角が61〜62度となる。この濡れ性の差から電解質の分布に影響を与えるH2/CO濃度比を1.2と決めた。即ち、電解質に対するアノード電極とカソード電極での保持能力のバランスが崩れるほどに、アノード電極の濡れ性に影響のある値として決定された。
【0027】
また、異なる観点から燃料ガスについて説明すれば、高CO濃度燃料とは、ガス組成比(CO2/(H2+CO+H2O+CO2))が高H2濃度燃料のそれよりも大きい燃料であるいうことである。即ち、CO濃度の高い燃料は必然的にCO2濃度が高くなる。これは、炭素析出を防止するために元々CO2が高められる上に、アノードNi電極を触媒としてCOが水蒸気と反応して水素と二酸化炭素に変化する(CO+H2O→H2+CO2)等のためであると考えられる。したがって、「高CO濃度燃料」とは「高CO2濃度燃料」、より正確な表現では「CO2/(H2+CO+H2O+CO2) が高い燃料と言える。そして、高CO濃度燃料とは、ガス組成比(CO2/(H2+CO+H2O+CO2))が約0.35以上になる燃料ガスまたは燃料改質ガスをいう。本発明においてガス組成比(CO2/(H2+CO+H2O+CO2))の値が3.5以上であることは、H2/CO濃度比の場合と同様に、それ自体には特に顕著な臨界的意義はない。例えば高H2濃度燃料のときのアノードNiの接触角が61〜62度以下となるのに対し、高CO濃度燃料と考えられる燃料の場合のアノードNiの接触角が65〜73度であることを考慮し、アノードの接触角が65°程度となるガス組成比(CO2/(H2+CO+H2O+CO2))約0.35を基準とするようにしているが、0.34以上でも、0.36以上でも大きな差異はない。
【0028】
本発明者等の実験により、CO2濃度が高くなると電解質のアノードに対する濡れ性が悪くなり、更にH2濃度が低くなると電解質のアノード電極に対する濡れ性が一層悪化することが判明した。このことから、H2を含む高CO濃度燃料においては、アノード電極の濡れ性が悪くなり、電解質に対する濡れ性がほとんど変化しないカソード電極との間で電解質占有率のバランスを崩す。しかしながら、電解質占有率は、アノードおよびカソードの電解質に対する保持能力のバランスによって決定され、この電解質を保持する能力は電解質との濡れ性(接触角)が定まっているときには多孔体の空孔の大きさ(空孔径分布)によって左右される。
【0029】
そこで、このようなガス組成比の高CO濃度燃料を使用する溶融炭酸塩型燃料電池において、カソードがNiOであり、そのカソード中央空孔径dcが4〜10μmの範囲内にあるときに、アノード中央空孔径daが、
da=0.497dc+0.12±0.5[μm]
の範囲内に設定されているものである。この範囲にアノードとカソードの中央空孔径を一定の関係に保った場合、高CO濃度燃料で燃料電池を運用しても、電解質の分布が改善され、電圧低下率が抑えられて安定性が増すことになる。ここで、カソード中央空孔径dcは5から7μmの範囲であることが好ましい。この場合、電解質保持能力が高まり、より発電性能が向上する。
【0030】
また、カソード中央空孔径とアノード中央空孔径との関係は、酸化前のカソード中央空孔径を基準として設定することもできる。すなわち、カソードが酸化前のNiであり、そのカソード中央空孔径dc’が5〜13μmの範囲内にあるときに、アノード中央空孔径daを、
da=0.388dc’+0.12±0.5[μm]
の範囲内に設定することにより、同様に、電解質の分布が改善され、電圧低下率が抑えられて安定性が増すことになる。ここで、酸化前のNiから成るカソードの場合、カソード中央空孔径dc’は6から9μmの範囲であることが好ましい。この場合、電解質保持能力が高まり、より発電性能が向上する。
【0031】
アノード電極の中央空孔径とカソード中央空孔径とが前述の関係にあるときには、高CO濃度燃料を使用するときにも、電解質に対するアノード電極とカソード電極での保持能力のバランスが保たれる。
【0032】
このアノード電極の中央空孔径とカソード中央空孔径との関係を求めるには、高CO濃度燃料を使用するときの最適な電解質占有率とそれを試算するための各運転条件におけるアノードNiと電解質の接触角が必要である。そこで、この電解質占有率を試算するために、各運転条件におけるアノードNiと電解質の接触角を算出することができる実験式を以下のようにして得た。
【0033】
MCFCの電極は図2からわかるように多孔体であり、その中に保持される電解質3の量(電解質占有率)によって電極反応場(ガス・電解質3・電極の三相界面)の面積が左右され電池性能が変化する。電極中の電解質占有率は図3に示すアノード1およびカソード2の電解質3に対する保持能力のバランスによって決定され、この電解質3を保持する能力は多孔体の空孔の大きさ(空孔径分布)、材質、ガス雰囲気によって左右される。この図3に示すアノード1およびカソード2の電解質3に対する保持能力のバランスの関係は下記の数式1の関係にあり、材質およびガス雰囲気の寄与はその材質と電解質3との濡れ性(接触角)から求めることができる。
【0034】
【数1】
ただしγlg:液体/ガスの界面張力、d:空孔径、θ::接触角、添字a:アノード、添字c:カソード (daはアノードの空孔径、dcはカソードの空孔径)
【0035】
そこで、様々なCO濃度雰囲気においてアノードNiと電解質3との濡れ性を図4に示す簡単な実験装置に基づいて測定し、高CO濃度燃料における電解質分布を評価した。この実験では、電解質3にはLi2CO3/Na2CO3=53/47、作用極5にはアノード1の素材であるNiの板(25×25×0.2mm)、対極6には直径約6cmのリング状のAu線(φ1mm)、参照極7は(1:2 O2/CO2)|Au、るつぼ8には高純度アルミナ(内径:90mm、高さ:25mm)を用いた。参照極7は一般に溶融炭酸塩での基準電位測定に使用されており、ガス雰囲気O2/CO2=33/66%における下記の反応の平衡電位を基準としている。
【0036】
【数2】
【0037】
測定温度は650℃に設定し、雰囲気ガスは電気炉内のガス分析を行いながら表2に示す15種類のガス組成に設定した。
【0038】
【表2】
【0039】
濡れ性の測定は、作用極(Ni板)5の電位をパラメータとして図5に示すように電解質3のメニスカス高さhを各雰囲気ガスで測定し、数式3として示すNeumannの式から電解質3と作用極(Ni板)5との接触角θを求めた。その結果、表2中の例えば試験No.13のガス条件では図6に示すような接触角θと電位の関係が得られた。この接触角θが大きいほど濡れ難いことを示しており、接触角θを用い電解質3と作用極(Ni板)5の濡れ性を評価した。なお、−850mV以下では作用極(以下「Ni板」ともいう)5の酸化電位に近づきメニスカスの上端部分がかすかに酸化される(灰色が濃くなる)ため、正確な濡れ性を測定することが難しくなる。
【0040】
【数3】
θ:接触角,ρ:電解質密度,g:重力加速度
h:メニスカス高さ,γlg:液体/ガスの界面張力
【0041】
さらに、電解質密度ρおよび液体/ガスの界面張力γlgは温度依存性があり以下の関係式より求めた。
<数4>
電解質密度ρ(kg m-3):ρ=2337−0.3984×(T+273) (546<T<992)
<数5>
界面張力γlg (mN m-1):γlg=287.1−0.05578×(T+273) (546<T<992)
ただし、T:温度(℃)
【0042】
次いで、アノードの作用極(Ni極)と電解質との濡れ性について検討する。接触角は図6でも示したように電位が高いほど大きく、Ni極5は濡れ難い。電池に置き換えると負荷が大きい(出力電圧が低い、または電流密度が大きい)ほどアノード1は濡れ難くなることを示している。このため、負荷をかけた状態を想定し、Ni極5の電位−900mVにおける濡れ性のガス組成依存性を評価した。図7〜図10にH2を含む雰囲気における濡れ性のガス濃度依存性を示す。ばらつきが見られるもののCO2濃度が高いほど濡れ難く、H2濃度が高いほど濡れ易い傾向にあることがわかった。一方、CO濃度およびH2O濃度への依存性は見られないことがわかった。このことから、H2を含む高CO濃度燃料においては、CO2濃度が高くなると電解質のアノードに対する濡れ性が悪くなり、更にH2濃度が低くなると電解質のアノード電極に対する濡れ性が一層悪くなること、即ちガス組成比中のCO2成分割合の増加がアノード電極を電解質に対し濡れ難くすることが判明した。そこで、アノード電極の接触角の変化を雰囲気中のガス組成比CO2/(H2+H2O+CO+CO2) で整理した場合した結果を図11に示す。この場合、全体的に誤差が大きくなるが接触角は最小二乗法より下記の数式6の直線で外挿することができる。
<数6>
接触角θcal(degree):
θcal =11.7×(CO2/(H2+H2O+CO+CO2))+60.4
【0043】
ここで、Ni極5の電位が、−850mV,−950mV,−1000mV,−1050mVにおいて同様に整理した場合、数式6の傾きと切片に相当する値は図12に示す関係となり、傾きαと切片βはそれぞれ
<数7>
α=−160.1×V2−316.5×V−143.1
ただし、V:Ni極5の電位(V)
<数8>
β=62.0×V+116.8
で示すことができ、溶融炭酸塩型燃料電池の運転温度650℃における接触角はNi極5の電位とガス組成比 CO2/(H2+H2O+CO+CO2) をパラメータとした下記の実験式より算出できる。
<数9>
θcal=(−160.1×V2−316.5×V−143.1)×(CO2/(H2+H2O+CO+CO2)) +62.0×V+116.8
【0044】
この数式9から得られる接触角の妥当性を検証するために、計算値と実測値を比較した(図13参照)。同図に示されているように、両者とも45°の直線によく乗っており、本算出式が有効であるとわかった。
【0045】
次いで、上述の運転条件におけるアノードNiと電解質の接触角を算出する実験式9を用いて、運転時における電解質分布を求めた。
【0046】
MCFC内を想定した場合、燃料の消費により燃料の流れ方向に対して水素濃度の勾配および温度分布が生じるため、それらの変化に伴いアノードNiと電解質の接触角に面分布が生じると推定できる。つまり、電解質の分布(電極中の電解質占有率)は燃料ガス組成または運転条件(燃料利用率, 温度)によって変化すると考えられる。
【0047】
その電解質分布を計算するため、電池内の構造を図35に示す構造にモデル化した。電解質は毛細管力によりそれぞれのコンポーネントにおいて最も小さな空孔から充填されるといわれていることから、図35ではその空孔径を電解質板から離れるほど大きくし毛細管力の効果を考慮した。
【0048】
定常状態においては、燃料極と空気極による電解質を引き込む力がバランスし、空孔の毛細管力とそれぞれのコンポーネントの濡れ性の関係から(10)式が成り立つ。
【数10】
【0049】
通常、MCFCの運転においてはPa=Pcであり、またρghの項は右辺の他の項に比べ無視できるほど小さい値であるため、(10)式は(11)式のように表すことができる。
【数11】
【0050】
また、コンポーネントに含有されている総電解質量は一定であるとすると(12)式の関係が得られる。F(d)とG(d)はアノードおよびカソードの累積空孔容積率の関数である。例えば、実際の累積空孔容積率の関数は図36に示す空孔径とアノード累積空孔容積率の関係を数式化しF(da)とし、空孔径とカソード累積空孔容積率の関係を数式化しG(dc)としている。
【数12】
【0051】
数式12に、(9)式で得られた接触角θcalを数式11のθaとして一連のデータとともに代入すると、アノードおよびカソードにおいて電解質に占有される空孔の最大空孔径を求めることができ、その結果から電極の電解質占有率の分布を計算することができる。この電解質占有率の分布計算フローチャートを図36に示す。
【0052】
ここで、空孔の数は計算モデルでの数であり、この値は分割数に相当するもので任意に決定される。図35では3つに分割して計算しており、見た目上3つの空孔になる。
【0053】
最大の空孔径まで電解質は充填されることとなる。たとえばアノードの場合、図36に示す空孔径とアノード累積空孔容積率の関係より、最大の空孔径でのアノード累積空孔容積率が求まり、その空孔容積率だけ電解質に占められていることになる。この最大の空孔径は場所(n)によって異なる結果が得られるので、電解質の分布が生じてくる。
【0054】
以上の電解質分布計算モデルを用いて、天然ガス燃料(高H2濃度燃料)の使用を前提に開発された溶融炭酸塩形燃料電池に関し、高H2濃度燃料および高CO濃度燃料での電解質分布を比較した。勿論、電解質分布評価モデルは、上述のものに特に限定されるものではなく、他の手法によっても良いことは言うまでもない。
【0055】
電極中の電解質分布はアノードNiおよびカソードNiOの電解質3に対する接触角が既知であれば上述の電解質分布計算モデルを用いて試算できる。尚、カソードNiOと電解質3の接触角は、CO2濃度が高いほど濡れ難いが、アノードNiと電解質3の濡れ性の関係に比べCO2濃度依存性はきわめて小さいということが本発明者等の研究・実験からわかっており、MCFC単セルの運転条件(カソード中CO2濃度範囲 6〜10%)においてカソードNiOと電解質3の接触角は13.2°±0.2°である。このため今回の計算ではMCFCの運転条件またはガス条件によらず13.2°とした。アノードNiと電解質3との接触角はCO2/(H2+H2O+CO+CO2) とアノード電位を数式9に代入することによって求められる。このガス比CO2/(H2+H2O+CO+CO2) は燃料および運転条件によって異なり、表3および表4に示す高CO濃度燃料および高H2濃度燃料での発電条件では、CO2/(H2+H2O+CO+CO2) は図14に示すように大きく異なる。これら2つの発電条件を取り上げて高H2濃度燃料および高CO濃度燃料での電解質分布を比較した。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
また、電解質分布の計算条件は、表3および表4の条件に加え表5に示す初期条件ならびに図37に示すアノード1およびカソード2の空孔径分布を持つ電池とした。なお、この電池はAセルを想定している。
【0059】
【表5】
【0060】
なお、上述の2つの発電条件(高CO濃度燃料での発電条件および高H2濃度燃料での発電条件)において、高CO濃度燃料での発電試験条件では、出力電圧が約720mVの場合、数式2の平衡電位を基準とするとアノード1の電位は−950mV(カソード2の電位−230mV)となる。高H2濃度燃料での発電試験条件では、出力電圧が約780mVの場合、数式2の平衡電位を基準とするとアノード1の電位は−1000mV(カソード2の電位−220mV)となる。
【0061】
図15に高H2濃度燃料における電解質分布、図16に高CO濃度燃料における電解質分布を示す。図15、図16ともに燃料の流れ方向に沿ってCO2/(H2+H2O+CO+CO2) が高くなり、アノード1中の電解質占有率が低下している。ところが、図15の高H2濃度燃料における電解質分布の場合には、燃料中のH2濃度が高い上に、アノード電解質占有率が15%以上保たれている。単セルの試験結果からすれば、図15に示す電解質分布かつ高H2濃度燃料の場合には電圧低下率が低く安定して運転されていることからアノードの酸化は生じていないとの判断が得られた。他方、図16の高CO濃度燃料における電解質分布の場合には、燃料中のH2濃度が低い上に、アノード電解質占有率が10%に低下している。単セルの試験結果からすれば、図16の電解質分布を示す高CO濃度燃料の場合には、電圧低下率が高く不安定な運転となっていることからアノードの酸化が生じているとの判断が得られた。
【0062】
このときの電解質分布は、高H2濃度燃料における電解質占有率に比べ5〜6ポイント低く、その一方で、カソード2の電解質占有率は高H2濃度燃料に比べ6ポイント高い。この電解質分布の差(カソード2中の電解質占有率の差)が、高CO濃度燃料での高いカソード反応抵抗の原因になったと考えられた。さらに高CO濃度燃料ではアノード1中の電解質量の減少により、電解質板4とアノード1の界面付近に電極反応が集中し、Niが酸化したと考えられ、内部抵抗の増加、アノード1の反応抵抗の増加を引き起こしたと考えられた(以上の現象をまとめた高CO濃度燃料における電圧低下のメカニズムについては図32〜図34参照)。
【0063】
アノード電解質占有率並びにカソード電解質占有率は、電極中において発電反応が活発に起こる部分(面積)を確保しかつある程度以上に維持させるために設定されている。電解質が多いと、反応ガスが電極まで拡散する距離が長くなり、反応が進み難くなる。その反面、電解質が少ないと、電解質に濡れない電極部分が現れ、まったく反応しなくなる。また、電解質中のイオンの移動抵抗が大きくなり、反応が進み難くなる。したがって、高CO濃度燃料を使用する場合には、図15のアノード電解質占有率を上回ること、さらには、アノードが酸化されないようにアノード電解質占有率に余裕を設けることが好ましいと考えられる。また、カソードの反応抵抗を増加させないためにも、カソード電解質占有率を図15に示すカソード電解質占有率よりも下げるようにアノードの空孔径分布を設定することも考慮した。このことから、本発明者等は、アノード電解質占有率18〜35%、カソード電解質占有率25〜38%が適切な電解質占有率であると判断した。
【0064】
そこで、この電解質占有率を達成するアノードの中央空孔径とカソード中央空孔径との関係を、数式9〜数式12を用いて求めた。
【0065】
即ち、電解質との濡れ性(接触角)が定まった、ある電解質材料並びにガス雰囲気における高CO濃度燃料使用時の電解質保持能力は、アノード並びにカソードの空孔径に依存することことから、アノード電解質占有率18〜35%、カソード電解質占有率25〜38%という条件を満たそうとすると、カソード中央空孔径とアノード中央空孔径との関係は基本的に線形となることを確認した(カソードが酸化前のNiである場合には図30参照、カソードが酸化ニッケルの場合には図31参照)。つまり、天然ガス改質ガスの使用を前提に最適化された従来の溶融炭酸塩形燃料電池用電極であれば、アノード電解質占有率15〜18%、カソード電解質占有率40%を満たそうとすると、カソード中央空孔径とアノード中央空孔径との関係が図示するように線形になることが確認できた(図30中の上側の直線を参照)。これに基づき、高CO濃度燃料の使用を前提に最適化された本発明の溶融炭酸塩形燃料電池用電極においても線形性は保たれるとの認識の下で実験を行い、計算に基づいて得られたカソード中央空孔径とアノード中央空孔径との関係をプロットしていくと、図30並びに図31に示すとおりとなった。この図30に示されるNiOカソードを用いる場合のカソード中央空孔径dcとアノード中央空孔径daとの関係は、da=0.497dc+0.12で、また図31に示される酸化前のNiカソードを用いる場合のカソード中央空孔径dc’とアノード中央空孔径daとの関係は、da=0.388dc’+0.12で示される。そして、実験結果から、ある程度その幅が上下にずれていても±0.5μmの範囲内に収まっていれば上記条件を満たしうる。
【実施例】
【0066】
天然ガス仕様のアノードA(石川島播磨重工業株式会社製セル:以下Aセルと呼ぶ)に比べて空孔径が小さい3種類のアノード(アノードE, アノードF,アノードG)を作製し、高CO濃度燃料を用いたときの連続運転における出力電圧の安定性、即ち電圧低下率と運転の安定性について実験をした。尚、3種類のアノードE,F,Gは、図17、図18に示すように互いに異なる空孔径分布(中央空孔径)を有している点を除いて、アノードとしての材質、板厚、空隙率などは同じであり、セル構成部品のその他の部品もAセルと同じ構成である(表5参照)。即ち、アノードの空孔径だけを小さくして、カソード側の電解質占有率を下げ、アノード側の電解質占有率を上げている。因みに、Aセルのカソードは、酸化ニッケルであり、その中央空孔径は測定するピースによってばらつきが生じるものの、平均で6.1μmである。
【0067】
ここで、アノードEは、その電解質分布(図19参照)をAセルにおける高H2濃度燃料での電解質分布(図15参照)と同等のレベルに設定することを目標とし、中央空孔径3.6μmに作製されている。さらにアノードEとアノードGは空孔容積のピークが同じ位置になるように設定した(図17参照)。また、アノードFとアノードG は、FセルおよびGセルのアノード電解質占有率がAセルにおける高H2濃度燃料でのアノード電解質占有率に比べ3〜4ポイントあるいは5ポイント程度高く、カソード電解質占有率は3〜5ポイント程度低く設定すると共に、FセルとGセルの電解質分布には大きな差を持たせないこととした(図20、21参照)。加えてアノードFとアノードGは3μm以下の空孔径分布が等しくなるように設定し(図17参照)、さらにアノードFの電解質保持能力を最も高くするためにアノードFの空孔容積のピーク位置が最も小さくなるように設定した(図17参照)。このことから、アノードEの中央空孔径は3.6μm、アノードFの中央空孔径は2.9μm、アノードGの中央空孔径は3.2μmに設定された。
【0068】
これら3種類のアノード1を電池(Eセル,Fセル,Gセル)に組み込み、高CO濃度燃料aでの寿命評価試験を行った。電池仕様(表6参照)はAセルを基準としており、運転条件はAセルの場合(圧力0.494MPa,温度650℃,電流密度:200mA/cm2,燃料:H2/CO/N2/CO2/H2O=10.5/21/3.5/35/30%,燃料利用率:65%,酸化剤:Air/CO2/H2O=81/9/10%,O2利用率:40%)と同様である。また、一部高H2濃度燃料(H2/CO2/H2O=56/14/30(以下「高H2濃度燃料d」とする))での寿命評価試験も行った。
【0069】
【表6】
【0070】
(Eセルの試験結果)
図22にEセルの連続運転結果、図23にはその連続運転における出力電圧の低下分を内部抵抗分と反応抵抗分に分離した結果を示す。なお、図23の高H2濃度燃料dでの電圧低下量は、燃料を変えた後の電圧が安定した時点を基準にしている。高CO濃度燃料aでの出力電圧の性能低下は運転初期より大きく、また運転時間1550,1700,2600,3080時間に15時間以上OCV(高H2濃度燃料を用いて運転する)にしたことによって出力電圧および内部抵抗が回復し、その後も同程度の電圧低下率で電池性能は低下した。このことから、Aセルと全く同様の現象が生じており、アノード1も一部酸化されていると考えられた。さらに高H2濃度燃料dに変えた後は、電圧低下率は小さくなり安定した発電ができ、図1で示した結果と同様な結果が得られた。これらの結果より、図19で示したEセルの電解質分布は高CO濃度燃料において不適であることがわかった。
【0071】
(Fセルの試験結果)
図24にFセルの連続運転結果、図25にはその連続運転における出力電圧の低下分を内部抵抗分と反応抵抗分に分離した結果を示す。図20はアノードFを電池に組み込んだセルFの高CO濃度燃料条件における電解質分布である。なお、図25の高H2濃度燃料dでの電圧低下量は、燃料を変えた後の電圧が安定した時点を基準にしている。装置トラブル(アノードバブラー温度異常、計画停電処置、負荷装置故障)により15時間以上OCVに保持したため電圧にばらつきがあるが、高CO濃度燃料aでの出力電圧の低下率はAセル、Eセルに比べ極めて小さく、内部抵抗の経時増加も極めて小さかった。特に、運転時間1800時間から3000時間の間では内部抵抗が上昇しているにもかかわらず出力電圧が上昇した。これは電極中の電解質量が最適なレベルに移行している状態と考えられた。また、運転時間7000時間以降の高H2濃度燃料dにおいても安定した性能を示した。このことからFセルは高CO濃度燃料および高H2濃度燃料に適した電池といえることがわかった。
【0072】
(Gセルの試験結果)
図26にGセルの連続運転結果、図27にはその連続運転における出力電圧の低下分を内部抵抗分と反応抵抗分に分離した結果を示す。図21はアノードGを電池に組み込んだセルGの高CO濃度燃料条件における電解質分布である。電圧低下の原因は内部抵抗の増加の影響のみであり、15時間以上OCVに保持した場合でも内部抵抗および出力電圧の変化は見られなかった。したがって、この内部抵抗の増加はアノード1の酸化が原因ではなく、カソード2のカレントコレクター(C/C)の腐食が原因と考えられた。これらの傾向は、従来のセルでの高H2濃度燃料における出力電圧変化パターンと同様であり、電極を改良したことによる効果が現れている。しかし、GセルはFセルよりも内部抵抗の経時増加が大きかった。
【0073】
(電池寿命の比較)
図28にAセルのデータも加えた4つのセルの連続運転結果の比較を示す。Fセルの初期電圧は最も低いが、寿命の観点からは最も性能が良いことがわかり、Fセルの電極構造が適していることがわかった。
【0074】
FセルとGセルの電解質分布は図20と図21に示したように大きな違いはないが、アノードFのほうがアノードGに比べ2.7μm〜5μmの空孔容積が多く、電解質3の保持力が高い。このため、Fセルではカレントコレクター(C/C)などに流出する電解質量が少なく、ひいてはカレントコレクターの腐食も抑えられ、内部抵抗の増加が抑えられたものと考えられた。結果的に、Fセルが最も長期安定性に優れた電池であることが確認できた。
【0075】
以上の実験の結果、3種のアノードの中でアノードFとGは、高CO濃度燃料の使用において電圧低下率が小さく安定して運転でき、性能がよかった。このFとGの2つのアノードは、中央空孔径が2.9μmと3.2μmであり、本発明のカソード中央空孔径とアノード中央空孔径との関係を示す式da=0.497dc+0.12から求まる値から約±0.2μmの範囲内に収まっており、本発明の実施例である。ここで、3種のアノードの中で最も性能がよかったアノードFと、高H2濃度燃料の使用を想定して最適化されたアノードA(従来アノード)との空孔径分布を示すと図29の通りである。このことから、本発明のアノードが従来のアノードよりも空孔容積のピークが小孔径側にシフトすることで(2.7μm〜5μmの空孔容積が多い)、高CO濃度燃料使用時の電解質の保持力が高いことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】高CO濃度燃料bと高H2濃度燃料cの電圧低下パターンへの影響(Dセル)を示すグラフに、各条件でのガス組成の内容を併せて示す図である。
【図2】高CO濃度燃料bでの発電試験後のアノード断面SEM写真(Cセル)である。
【図3】アノードおよびカソードの電解質に対する保持能力のバランスを概略的に示す図である。
【図4】本実施例における実験系の概略図である。
【図5】電解質のメニスカス高さhを示す図である。
【図6】ガス条件No.13(表3参照)における接触角θと電位の関係を示すグラフである。
【図7】H2を含む雰囲気における濡れ性のH2ガス濃度依存性を示すグラフである。
【図8】H2を含む雰囲気における濡れ性のCO2ガス濃度依存性を示すグラフである。
【図9】H2を含む雰囲気における濡れ性のCOガス濃度依存性を示すグラフである。
【図10】H2を含む雰囲気における濡れ性のH2Oガス濃度依存性を示すグラフである。
【図11】H2を含む雰囲気中のガス組成比(CO2/(H2+H2O+CO+CO2))と濡れ性の関係を示すグラフである。
【図12】接触角とガス比(CO2/(H2+H2O+CO+CO2))の直線関係における傾きαおよび切片βとNi電極電位の関係を示すグラフである。
【図13】数式9から算出した接触角と測定値の比較を示すグラフである。
【図14】電池内でのCO2/(H2+H2O+CO+CO2)の変化を示すグラフである。
【図15】天然ガス燃料(高H2濃度燃料)用に開発されたセルに対して天然ガス燃料(高H2濃度燃料)を使用した場合の電解質分布を示す図である。
【図16】天然ガス燃料(高H2濃度燃料)用に開発されたセルに対して高CO濃度燃料を使用した場合の電解質分布を示す図である。
【図17】3種類のアノード(An_E, An_F, An_G)およびAセルのアノード(An_A)の空孔径分布を示すグラフである。
【図18】3種類のアノード(An_E, An_F, An_G)およびAセルのアノード(An_A)の累積空孔径分布を示すグラフである。
【図19】アノードAn_Eを組み込んだEセルの高CO濃度燃料条件における電解質分布を示すグラフである。
【図20】アノードAn_Fを組み込んだFセルの高CO濃度燃料条件における電解質分布を示すグラフである。
【図21】アノードAn_Gを組み込んだGセルの高CO濃度燃料条件における電解質分布を示すグラフである。
【図22】高CO濃度燃料aおよび高H2濃度燃料dでの連続運転特性(Eセル)を示すグラフである。
【図23】連続運転における出力電圧低下分の内訳(Eセル)を示すグラフである。
【図24】高CO濃度燃料aおよび高H2濃度燃料dでの連続運転特性(Fセル)を示すグラフである。
【図25】連続運転における出力電圧低下分の内訳(Fセル)を示すグラフである。
【図26】高CO濃度燃料aでの連続運転特性(Gセル)を示すグラフである。
【図27】連続運転における出力電圧低下分の内訳(Gセル)を示すグラフである。
【図28】Aセルを加えた4つのセルの出力電圧経時変化の比較を示すグラフである。
【図29】2種類のアノード(従来の溶融炭酸塩形燃料電池のアノードと、空孔径を改良した溶融炭酸塩形燃料電池のアノード)の空孔径分布を示すグラフである。
【図30】カソードがNiOである場合において適切な電解質占有率を実現するためのカソード中央空孔径とアノード中央空孔径との関係を示すグラフである。
【図31】カソードが酸化前のNiである場合において適切な電解質占有率を実現するためのカソード中央空孔径とアノード中央空孔径との関係を示すグラフである。
【図32】高CO濃度燃料を使用した場合の電圧低下のメカニズムを説明するための図で、高H2濃度燃料を使用している場合の電解質の様子を示したものである。
【図33】高CO濃度燃料を使用した場合の電圧低下のメカニズムを説明するための図で、高CO濃度燃料を使用している場合に電解質分布が変化するの様子を示したものである。
【図34】高CO濃度燃料を使用した場合の電圧低下のメカニズムを説明するための図で、電解質分布が変化した結果、アノード側で電流集中により部分的酸化が生じ空孔がなくなった様子を示したものである。
【図35】アノードおよびカソードの電解質に対する保持能力のバランスを概略的に示すモデル図である。
【図36】電解質分布計算のフローチャートである。
【図37】Aセルを想定したアノードおよびカソードの空孔径分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0077】
1 アノード
2 カソード
3 電解質
4 電解質板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
H2/CO濃度比が1.2以下の燃料ガスまたは燃料改質ガスが使用される溶融炭酸塩形燃料電池用電極において、カソードがNiOであり、そのカソード中央空孔径dcが4から10μmの範囲内にあるときに、アノード中央空孔径daが、
da=0.497dc+0.12±0.5[μm]
の範囲内にあるものである溶融炭酸塩形燃料電池用電極。
【請求項2】
H2/CO濃度比が1.2以下の燃料ガスまたは燃料改質ガスが使用される溶融炭酸塩形燃料電池用電極において、カソードが酸化前のNiであり、そのカソード中央空孔径dc’が5から13μmの範囲内にあるときに、アノード中央空孔径daが、
da=0.388dc’+0.12±0.5[μm]
の範囲内にあるものである溶融炭酸塩形燃料電池用電極。
【請求項3】
下記実験式より、使用燃料のガス組成比におけるアノード材料の電解質に対する接触角を算出し、
θcal=(−160.1×V2−316.5×V−143.1)×(CO2/(H2+H2O+CO+CO2))
+62.0×V+116.8
ただし、式中、Vはアノード電位、
CO2/(H2+H2O+CO+CO2)は雰囲気のガス比、
θcalは接触角である。
該接触角から最適な電解質分布が得られるときのアノード中央空孔径を求め、アノード中央空孔径とカソード中央空孔径の関係式を求めるアノード電極の最適化を計るアノード電極最適化方法。
【請求項1】
H2/CO濃度比が1.2以下の燃料ガスまたは燃料改質ガスが使用される溶融炭酸塩形燃料電池用電極において、カソードがNiOであり、そのカソード中央空孔径dcが4から10μmの範囲内にあるときに、アノード中央空孔径daが、
da=0.497dc+0.12±0.5[μm]
の範囲内にあるものである溶融炭酸塩形燃料電池用電極。
【請求項2】
H2/CO濃度比が1.2以下の燃料ガスまたは燃料改質ガスが使用される溶融炭酸塩形燃料電池用電極において、カソードが酸化前のNiであり、そのカソード中央空孔径dc’が5から13μmの範囲内にあるときに、アノード中央空孔径daが、
da=0.388dc’+0.12±0.5[μm]
の範囲内にあるものである溶融炭酸塩形燃料電池用電極。
【請求項3】
下記実験式より、使用燃料のガス組成比におけるアノード材料の電解質に対する接触角を算出し、
θcal=(−160.1×V2−316.5×V−143.1)×(CO2/(H2+H2O+CO+CO2))
+62.0×V+116.8
ただし、式中、Vはアノード電位、
CO2/(H2+H2O+CO+CO2)は雰囲気のガス比、
θcalは接触角である。
該接触角から最適な電解質分布が得られるときのアノード中央空孔径を求め、アノード中央空孔径とカソード中央空孔径の関係式を求めるアノード電極の最適化を計るアノード電極最適化方法。
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図36】
【図2】
【図3】
【図35】
【図37】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図36】
【図2】
【図3】
【図35】
【図37】
【公開番号】特開2006−54089(P2006−54089A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234193(P2004−234193)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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