説明

溶融金属と耐熱材料の反応を抑制する方法

本発明は、耐熱材料中のアルミニウム又はマグネシウムによる化学的攻撃に対する抵抗性を改善する方法に関する。ある1つの方法においては、ケイ酸カルシウムを含有する耐熱材料とバリウムを含有する化合物とを含むスラリーを形成する。このスラリーを、金型内に配置した後で脱水し、最終成分を形成する成分を形成するために熱水処理する。第2の手順においては、シリカを含有する多孔性の耐熱成分を、バリウム又はストロンチウムの酸化物又は水酸化物の水溶液で含浸し、この後空気中で乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、耐熱材料(refractory material)と溶融したアルミニウム合金又はマグネシウム合金との間の反応を抑制するための方法及び耐熱材料の添加物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケイ酸塩を含有する耐熱材(refractory component)は、溶融アルミニウムを封じ込めるアルミニウムの鋳造操作において幅広く用いられている。これらの具体例としては、耐熱性の内張材(liner)、レンガ、板材(board)、及び鋳型材(casting mould component)などが挙げられる。ケイ酸塩は、強度、熱伝導性及び熱衝撃に対する抵抗性を付与する。しかしながら、耐熱材へのケイ酸塩の添加はまた、過去数年間において数多く注意がなされているように、いくつかの不具合を招く。
【0003】
ケイ酸塩を含有する耐熱材についての共通の問題は、それらは溶融したアルミニウム又はマグネシウムと反応し、その結果、SiO成分がSiに還元されて、この後溶融物に溶解した状態となり、耐熱材を次第に劣化させるということである。
【0004】
レンガ、鋳造用混合物(castable mixtures)、ラミング耐熱物(ramming mixes)などとして用いることが意図されている耐熱材においては、焼成の前における「グリーン(green)」な耐熱性混合物への硫酸バリウム、炭酸バリウム又は酸化バリウムの添加は、一旦焼成されたときには、アルミニウムの攻撃に対して一層抵抗性がある耐熱材をもたらすということがすでに発見されている。このような耐熱材は、溶融アルミニウムのための溶融・保持炉(melting and holding furnace)や、溶融アルミニウムを輸送するための種々のトラフ(trough)や、これと類似の容器で用いることができるということがすでに見出されている。
【0005】
ダルバーグら(Dulberg et al)に係る特許文献1は、繊維(アルミナ、ケイ酸アルミニウム、ムライト、ケイ酸アルミニウム・カルシウム(calcium aluminum silicate)、ミネラルウール(mineral wool)又は炭化ケイ素)と、コロイド状シリカと、バインダ(有機ポリマー、とくに極性グループ(polar group)を伴ったもの)と、1ないし15%の硫酸バリウム(例えば、無機性重晶石(mineral baryte)の形態のもの)とを含む鋳造可能な混合物を開示している。これらは、水、又は、水とエチレングリコールの混合物を用いて鋳造可能な(mouldable)混合物とされ、成形され、使用前に1500°F(815℃)で焼成される。この混合物は、溶融したアルミニウムに対して非常に良好な抵抗性を示す。
【0006】
ベイダら(Vayda et al)に係る特許文献2は、凝集体(溶融ボーキサイト、焼成ボーキサイト、アルミナ、カオリン(kaolin)、又はその他のアルミナ耐熱材料など)と、バインダ(アルミン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、リグニン(lignin)又はリン酸塩など)と、ホウケイ酸亜鉛を添加した硫酸バリウムとを含有する水硬化性の鋳造可能な耐熱材を開示している。上記構成要素の最後の2つのものは、これらの2つのものの大部分を形成している硫酸バリウムにアルミニウムに対する非接着性(anti-adhesion property)を付与する。この混合物は、水と混合して用いることができ、かつ、従来の鋳造可能な生成物(ラミング耐火物、レンガ又はその他の型材(shape))として用いることができる。2つの耐熱材の組み合わせは、これにより使用量を低減することができるので、溶融したアルミニウムに対する抵抗性及び荷重負担能力の両方を最適化する。
【0007】
タレーら(Talley et al)に係る特許文献3は、リン酸結合のプラスチックと、ラミングと、0.5ないし30%の硫酸バリウムを含むキャスタブル(castable)又はモルタルと、凝集体(アルミナ−シリカ耐熱材、葉ろう石(pyrophyllite)、焼成された耐火粘土、カオリン、ボーキサイト、アルミナ、平板状のアルミナ又は溶融したアルミナ)と、バインダ(好ましくはリン酸バインダであるが、アルミン酸カルシウム、リグニン又は水酸化物バインダでもよい)とを含む耐熱材を開示している。この混合物は、焼成しない形態又は焼成した形態(ただし、溶融しない形態)で用いられる。溶融したアルミニウムの侵入(penetration)に対する抵抗性は、他の物性の逸失を招くことなく高められ、かつ、この場合好ましいリン酸塩バインダ中における混合安定性が高められているといえる。
【0008】
グイロら(Guillo et al)に係る特許文献4は、ガラス質(vitreaous)又はアモルファス状のシリカを含有している耐熱材に0.1ないし10%の硫酸バリウムを加えたものを、スリップ鋳造(slip casting)と、例えば1050℃より高温の焼成とを行うことにより、好ましく製品化して、この製品に、溶融アルミニウムに対する非常に高い抵抗性を付与する技術を開示している。
【0009】
プライヤら(Prior et al)に係る特許文献5は、粘土又はカオリンのスラリーに、水不溶性のバリウム化合物又はストロンチウム化合物(2ないし25%)を混合し、脱水して成形可能な材料をつくり、この材料を成形し、最低でも2650°F(1455℃)の温度で焼成することにより形成されたムライト耐熱材を開示している。特許文献5は、バリウム化合物又はストロンチウム化合物の範囲には、炭酸塩、塩化物、クロム酸塩、水酸化物、硫酸塩、酸化物が含まれるが、不溶性(かつ非親水性)の硫酸塩又は炭酸塩が好ましいと提案している。焼成は、クリストバライトを含まない粘土からムライトを形成するが、これは溶融アルミニウムに対する非常に高い抵抗性を示す。硫酸塩は、焼成温度で酸化物に変化させられる。
【0010】
ドルフ(Dolph)に係る特許文献6は、高濃度でアルミナ(例えば、ボーキサイト又はその他のアルミナ材料からつくられたもの)と、バインダ(例えば、粘土、リグニンなど)と、ケイ酸塩と、1ないし30%のアルカリ土類(例えば、バリウム又はカルシウム)の酸化物又は炭酸塩とを含有し、例えば2550°F(1400℃)で焼成された耐熱材料を開示している。特許文献6は、焼成された材料は、溶融アルミニウムに対して高い抵抗性を示すことを開示している。
【0011】
マクドナルドら(McDonald et al)に係る特許文献7は、酸化ホウ素と酸化カルシウムとアルミナとを含むとともに、マグネシウム、バリウム、ベリリウム、ジルコニウム、亜鉛、バナジウム、クロム又はモリブデンを含むその他の15%以下の酸化物を含有し、例えば1375℃で焼成された溶融されていない耐熱材料を開示している。この材料は、ガラス相を含み、溶融アルミニウムに対する抵抗性を有する。
【0012】
リッカー(Ricker)に係る特許文献8は、0.25ないし2.25%のアルカリ土類(例えば、バリウム、マグネシウム、ストロンチウム又は炭酸カルシウム)の炭酸塩を含み、例えば1700°F(925℃)で焼成されたアルミン酸カルシウム結合の耐熱セメント(焼成された耐火粘土と、アルミナ又はクロム鉱石と、キャナイト(kyanite)と、かんらん石と、耐火粘土と、蛭石とを含む耐熱凝集体)を開示している。特許文献8は、アルカリ土類の炭酸塩の存在は、他の物性に影響を及ぼすことなく、低温でセラミック結合の形成に対して触媒作用を及ぼすと開示している。
【0013】
前記の各材料は、適当なバリウム塩を耐熱混合物に予め混合することを必要とし、一般に材料を効果的に焼成又は加熱することを必要とする。
【0014】
従来、硫酸バリウム又は炭酸バリウムのスラリー(硫酸塩及び炭酸塩はほとんど水に溶解しない)は、溶融アルミニウムに対する抵抗性を有する表面層を形成することにより、溶融アルミニウムから表面を保護するのに用いられている。
【0015】
ルーカス(Lucas)に係る特許文献9は、グループII元素の炭酸塩又は硫酸塩を含む被覆物を設けることにより、溶融アルミニウムの攻撃から、耐熱材及び金属品を保護する方法を開示している。特許文献9はまた、グループII元素の1つとしてバリウムを開示している。被覆物は乾燥又は加熱してもよく、また溶融アルミニウムと接触させて乾燥及び加熱を行うようにすることも可能であることを開示している。
【0016】
エッカート(Eckert)に係る特許文献10は、詳細な記載はないが、耐熱トラフを、硫酸バリウム又は炭酸バリウムで被覆することができることを開示している。
【0017】
保護用の被覆物は、とくに被覆材に繰り返し熱負荷がかかる場合、発生する熱応力の影響下で破損する傾向があるので、保護が可能な耐用期間は限られたものである。
【0018】
別の種類の脱水されたケイ酸カルシウムを基材とする耐熱材、例えば使用前に高温で焼成されない耐熱板などは、所望の形態(例えば、鋳造型)に容易に成形又は加工することができるので、溶融アルミニウムの処理に幅広く用いられている。これらの焼成されていない耐熱材は、当該技術分野ではよく知られており、例えば、ピロテック社(Pyrotek Inc)によって販売されている、炭素繊維で強化された脱水されたケイ酸カルシウム材料であるN−17ボード(登録商標)などが一例として挙げられる。
【0019】
ヤマモトら(Yamamoto et al)に係る特許文献11は、焼成されず水和された典型的なケイ酸カルシウム耐熱材の組成及び製造技術を開示している。この耐熱材は、石灰/シリカ混合物の水性スラリーに、ゾノトライトスラリー(ゾノトライトは水和されたケイ酸カルシウムである)と、珪灰石(ケイ酸カルシウム鉱物)と、強化繊維(例えば、炭素繊維又は耐アルカリ性ガラス繊維)とを組み合わせるとともに、オートクレーブ中でスラリーを熱水処理して(hydrothermally processing)最終材料を形成することにより生成される。典型的には、熱水処理は、スラリーを蒸気に曝して、205℃/17kg/cmで蒸気養生を行うものである。
【0020】
同様に、ハットナーら(Huttner et al)に係る特許文献12は、水性スラリー中で、石灰と、シリカと、珪灰石と、ゾノトライト又はトバモライトと、少量のセルロース繊維と、ケイ酸カルシウム微粉と(自由選択)、炭素強化繊維とを組み合わせることによって形成されたケイ酸カルシウム耐熱材を開示している。このスラリーは、型内でスラリーに10ないし30バールの圧力をかけることにより脱水され、この後7ないし14バールでオートクレーブ処理される。これは、珪灰石とセルロース繊維と炭素繊維とを含有するトバモライト(水和されたケイ酸カルシウム)の母材を生成する。この後、母材は、空気中又は不活性気体中で乾燥させられ、余分な水が除去される。
【0021】
このタイプの耐熱ボードは、例えば、トランジションプレート(transition plate)、浸漬管(dip tube)及び浮き(float)を製造するために用いられる。また、妥当な程度の形状の精度が要求され、材料に加工性がありかつ成形が容易であることが有利であるその他の部品に用いられる。
【0022】
リビーら(Libby et al)に係る特許文献13は、スラリー化されて加圧下で形成される前記の材料(石灰、シリカ、珪灰石、蛭石(水和されたMg−Fe−Alのケイ酸塩)及び有機強化繊維を含有する)と同様の複合材料を用いる技術を開示している。前記の場合と同様に、さらに複合材料は170℃でのオートクレーブ処理により熱水処理が施され、この後約110℃で余分な水が除去され、乾燥させられる。その結果得られる材料は、鋳造Al−Li合金用の型において「押し湯(hot top)」として用いるための形状に切断される。
【0023】
シマ(Shima)に係る特許文献14は、溶融金属のるつぼを「浮遊型の(floating)」カバーで(浮き蓋)覆うのに適した材料の製造技術を開示している。この材料は、石灰と、シリカと、ゾノトライトと、珪灰石と、耐アルカリ性ガラス繊維(自由選択)とを含むスラリーを形成し、目標密度となるように制御された脱水成形により成形することにより生成される。この形状物は、オートクレーブ内で6ないし20kg/cmの蒸気圧の蒸気で硬化させられ、この後約110ないし130℃の空気中で乾燥させられる。
【特許文献1】米国特許第4,992,395号明細書
【特許文献2】米国特許第4,762,811号明細書
【特許文献3】米国特許第4,126,474号明細書
【特許文献4】米国特許第6,008,152号明細書
【特許文献5】米国特許第6,548,436号明細書
【特許文献6】米国特許第3,078,173号明細書
【特許文献7】米国特許第2,997,402号明細書
【特許文献8】米国特許第2,912,341号明細書
【特許文献9】英国特許第580916号明細書
【特許文献10】米国特許第6,066,289号明細書
【特許文献11】米国特許第4,690,867号明細書
【特許文献12】欧州特許出願公開第0763392号明細書
【特許文献13】米国特許第4,897,294号明細書
【特許文献14】米国特許第4,430,121号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、前記従来の材料では、高温でのその耐用期間が限られたものとなっている。なぜなら、水和されたケイ酸カルシウムはその強度が弱い部分が変形し、またその他のシリカを含有する耐熱材の場合と同様に、溶融アルミニウムと反応するからである。
【0025】
本発明の目的は、従来に比べて、耐熱複合材(refractory mixes)に容易に導入することができ、又はすでに形成された材料に応用することができる、溶融アルミニウムに対して、バリウム(又は、同様の塩)の保護効果を生じさせることができる、より単純でしかも有効な方法を提供することである。
【0026】
本発明のさらなる目的は、溶融したアルミニウム合金及びマグネシウム合金に対する抵抗性に加えて、非常に良好な熱特性を有する非焼成の耐熱ボード(unfired refractory board)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
かくして、本発明は、1つの実施態様においては、1つ又は複数のケイ酸カルシウム耐熱材料と、バリウム又はストロンチウムを含む化合物とを含むスラリーを生成するステップと、成形(moulding)により形状物(shape)を形成するステップと、この形状物に熱水処理を施して(hydrothermally)固体材料(solid component)をつくるステップとを含む、非焼成の(unfied)耐熱材を製造する方法を提供する。
【0028】
本発明に係る耐熱材は、従来に比べて、熱的安定性が高く、溶融したアルミニウム又はマグネシウムに対する抵抗性が高い。
【0029】
本発明は、もう1つの実施態様においては、シリカを含有する多孔性の耐熱材を、溶融したアルミニウム又はマグネシウムとの反応に対して安定させる方法であって、グループIIアルカリ土類(group II alkali earth)の酸化物又は水酸化物の水溶液を形成するステップと、上記耐熱材を上記水溶液で含浸するステップとを含む方法を提供する。この後、含浸された耐熱材は、空気中で乾燥させられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明は、予期せぬ状況であるが、酸化バリウム、水酸化バリウム又は硫酸バリウムなどのバリウム化合物は、耐熱材を焼成する(fire)ことなく、化学攻撃(chemical attack)に対する抵抗性(resistance)を増加させるために用いることができるという驚くべき発見に由来するものである。
【0031】
第1の実施の形態においては、水和された(hydrated)ケイ酸カルシウムを基材とする非焼成の耐熱材の製造に、バリウム化合物が用いられる。この実施の形態によれば、好ましくはシリカ及び石灰に加えて、珪灰石(wollastonite)と、自由選択である水和されたケイ酸カルシウムと、非焼成の耐熱材の製造に適した強化繊維とを含む水性スラリーが生成される。このスラリーに対して、粉体又はスラリーの形態のBaSOなどのバリウムを含む化合物と、BaOの水溶液又はBa(OH)の水溶液とが添加される。続いて、このようにして生成されたスラリーは、型(mould)内に収容され、脱水されてグリーン形状物(green shape)を形成する。次に、形状物は、オートクレーブ中で熱水処理が施され、水和されたケイ酸カルシウム生成物を形成する。この後、この生成物は、好ましくは200℃未満の空気で乾燥させられる。バリウムを含む化合物が添加された特定の組成と、処理の詳細は、特許文献11、特許文献12、特許文献13もしくは特許文献14に開示され、又は、水和されたケイ酸カルシウム耐熱材料の製造のための同様の熱水処理で知ることができる。このような処理は、当該技術分野ではよく知られているが、以前は、バリウム化合物を用いると有利な特性を生じさせるということは認識されていなかった。
【0032】
BaO又はBa(OH)の水溶液は、好ましくは最低でも(at least)30℃の温度で、より好ましくは40℃を超える温度の水で調整され、使用される。好ましくは、結果として生成されるスラリーにおけるバリウムを含む化合物の重量パーセントは、1ないし10%である。
【0033】
これらの非焼成の水和されたケイ酸カルシウムの耐熱ボードは、容易に加工することができる材料であり、金属処理(metal treatment)及び鋳造に関連する多くの利用分野で用いることができる。例えば、これらは、DC鋳造型(DC casting mould)、金属処理容器のための邪魔板(baffle plate)等における入口プレート(inlet plate)として用いることができる。
【0034】
この混合物へのバリウム化合物の添加は、驚くべきことに、アルミニウムの鋳造操作において採用される高い温度における亀裂(cracking)及び弱化(weakening)に対するより高い抵抗性を耐熱材料に生じさせるといった、構造的な安定化効果を奏する。バリウム化合物はまた、上記材料に対する溶融アルミニウムによる攻撃に対して高い抵抗性を与える。ただし、上記材料は、使用前にはやや乾燥しているが、焼成されていない。
【0035】
第2の実施の形態においては、グループIIアルカリ土類は、好ましくバリウム又はストロンチウムである。酸化バリウムもしくは酸化ストロンチウムの水溶液、又は、水酸化バリウムもしくは水酸化ストロンチウムの水溶液が、シリカを含有する多孔性の耐熱材を含浸するのに用いられる。このような多孔性の耐熱材としては、多孔性の耐熱体、耐熱紙、耐熱繊維などが挙げられるが、含浸後には、含浸された耐熱材が好ましくは250℃以下の温度で空気により乾燥させられる。多孔性の耐熱材は、焼成されていない実在の耐熱材であっても、また含浸の前に高温で焼成されたものであってもよい。焼成されていない耐熱材は、好ましくは、特許文献11、特許文献12、特許文献13もしくは特許文献14に開示され、又は、水和されたケイ酸カルシウム耐熱材料の製造のための同様の熱水処理で用いられている方法によって形成された水和されたケイ酸カルシウム材料である。
【0036】
バリウム化合物の溶解に用いられる水もまた、好ましくは、最低でも30℃の温度、より好ましくは最低でも40℃のものである。なお、バリウム化合物の溶解に用いられる溶媒は水に限定されるわけではなく、当該技術分野でよく知られたその他の適切な溶媒を用いてもよい。
【0037】
好ましい追加のステップにおいては、上記のBaOで含浸された耐熱材が、これを硫酸溶液中で含浸させてBaSOを形成することにより、後処理が施される。BaOからBaSOに変化しない残りの部分は、硫酸のモル濃度を調整することにより制御することができる。この第2のステップの後、この耐熱材は、再び、好ましくは約250℃より低い温度でもって空気中で乾燥させられる。この乾燥は、溶融金属に曝す前に余分な水を除去するために行われるので、上記乾燥温度は臨界的なものではない。しかしながら、約250℃を超える温度は、ケイ酸カルシウムの鉱物の一部は高温においては変質するので、好ましくない。
【0038】
酸化物及び硫酸塩の両形態において、バリウムは、本発明に係る方法により含浸された耐熱材に対して、溶融アルミニウムに対する高い抵抗性を付与する。これにより、耐熱材が形成された後において耐熱材に、上記バリウムの効果を付与することが可能となる。
【0039】
いかなる理論によっても束縛されることを望むものではないが、比較的穏やかな(mild)熱処理(熱水処理又は乾燥)の下では、バリウム化合物は、耐熱材中に存在する水和されたケイ酸カルシウム化合物と相互に作用し、耐熱材が溶融アルミニウムによる攻撃の影響を受けることが少なくなるように、その結晶構造を変化させるものと確信する。
【0040】
以下、さらに、本発明の具体例を説明する。
【0041】
(具体例1)
珪灰石ボードのための標準の商業的製法(standard commercial formulation)に基づいて、スラリーを調製した。このスラリーを、さらに、以下のように処理した。
(a)第1のケースにおいては、Baを含まない化合物を添加した。
(b)第2のケースにおいては、重量で7%の固体のBaO(固体の粉体として)を添加した。
(c)第3のケースにおいては、重量で7%の固体のBaSO(固体の粉体として)を添加した。
【0042】
この後、スラリーを、成形(moulding)に関する標準の商業的技術を用いて処理し、脱水し、オートクレーブ処理を行って、ケイ酸カルシウム耐熱ボードの試料を作成した。そして、これらの試料について、これらを2日間800℃のAl−5%Mg合金に曝す(expose)ことにより溶融アルミニウムに対する抵抗性を検査し、この後、一般的な性能を評価するとともにその微細構造を検査した。
【0043】
下記の表1に、測定結果を示す。

表 1



【0044】
非焼成
さらに、試料を、合金に曝した後、X線回折法を用いて検査した。耐熱材の大部分は、鉱物性珪灰石であることが見出された。しかし、BaSOを添加したケースでは、変質した珪灰石構造であると確信される別のX線のピークが出現した。
【0045】
(具体例2)
市販のケイ酸カルシウム耐熱ボード(例えば、ピロテック社によるN−17(登録商標))を機械加工して、アルミニウム鋳造型に挿入するためのトランジションプレートを作成した。このプレート(重量はほぼ150g)を、下記のように処理した。
(a)第1のケースにおいては、追加の処理は行わなかった(Baの添加なし)。
(b)第2のケースにおいては、一部分を、5分間、温水(50℃)中に重量で10%のBa(OH)を含む溶液に浸漬した。この後、30分間、230℃の温度でもって空気中で乾燥させた。
(c)第3のケースにおいては、プレートの一部分を(b)と同様に処理した後、5分間、室温で硫酸(重量で10%のHSO)中に浸漬した。この後、30分間、230℃の温度でもって空気中で乾燥させた。
【0046】
試料を、一連の鋳造のための鋳造装置内の溶融アルミニウム合金(AA6082)に曝した。
【0047】
下記の表2にその結果を示す。

表 2



【0048】
前記の特定の実施の形態におけるアルミニウム又はアルミニウム合金についてのすべての説明は、マグネシウム又はマグネシウム合金についての同様に当てはまるということが理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融したアルミニウム又はマグネシウムとの反応に対して抵抗性をもつ非焼成の耐熱材を生成する方法であって、
(a)ケイ酸カルシウムを含有する耐熱材料とバリウム又はストロンチウムを含有する化合物とを含むスラリーを形成するステップと、
(b)上記スラリーを型内に配置するステップと、
(c)上記スラリーを脱水して上記耐熱材を形成するステップと、
(d)上記耐熱材を熱水処理して最終生成物を形成するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
バリウム又はストロンチウムを含有する化合物が、硫酸バリウム、酸化バリウム及び水酸化バリウムの中から選択される、バリウムを含有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記硫酸バリウムが粉体又はスラリーであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記酸化バリウム又は水酸化バリウムが水溶液であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
上記水溶液を、最低でも30℃の温度の水で調製することを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記水溶液を、最低でも40℃の温度の水で調製することを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
シリカを含有する多孔性の耐熱材を、溶融したアルミニウム又はマグネシウムとの反応に対して安定させる方法であって、
(a)グループIIアルカリ土類の酸化物又は水酸化物の水溶液を形成するステップと、
(b)上記耐熱材を上記水溶液で含浸するステップと、
(c)含浸された耐熱材を、空気中で乾燥させるステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
上記グループIIアルカリ土類を、バリウム及びストロンチウムから選択することを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記ステップ(c)の後で実行される、上記耐熱材を硫酸溶液で含浸するステップと、上記耐熱材を空気中で乾燥させるステップとをさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
上記多孔性の耐熱材が、焼成された耐熱材であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項11】
上記多孔性の耐熱材が、焼成されていない耐熱材であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項12】
上記水溶液を、最低でも30℃の温度で形成することを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項13】
上記水溶液を、最低でも40℃の温度で形成することを特徴とする請求項7に記載の方法。

【公表番号】特表2007−513858(P2007−513858A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−543325(P2006−543325)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【国際出願番号】PCT/CA2004/002034
【国際公開番号】WO2005/056492
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(506110243)ノベリス・インコーポレイテッド (40)
【氏名又は名称原語表記】NOVELIS INC.
【Fターム(参考)】