説明

溶融金属めっき浴中ロール及び溶融金属めっき浴中ロールの製造方法

【課題】ロール周面の溝底の表面粗度の評価指標として適切な指標を用いることで、溝底に対する異物の付着を低減する方法を提供する。
【解決手段】ロール周面に複数の溝10が形成され、前記溝10の底部12の表面粗度の評価指標として、従来一般的なRaやRzではなく、粗さ曲線のスキューネスRskを用いる。Rskは、溝底12の粗さの評価指標として適切であり、Rskで0未満である溶融金属めっき浴中ロールとすることにより、溝底12に対する異物の付着を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続溶融金属めっき装置のめっき浴中に設けられるロール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続溶融金属めっき装置は、金属帯(例えば鋼帯)を亜鉛などの溶融金属でめっきするための装置である。この連続溶融金属めっき装置は、溶融金属を満たしためっき浴中に配置されるロールとして、例えば、鋼帯の進行方向を転換するためのシンクロール(ポットロールとも称する。)と、鋼帯の形状を矯正する一対のサポートロールを備える。めっき浴内に斜め下方に向けて導入された鋼帯は、シンクロールによりその進行方向を鉛直方向上方に転換された後に、一対のサポートロールの間を通過してめっき浴外に引き上げられる。その後、ワイピングノズルから吹き付けられる気体により、鋼帯表面に付着した余剰の溶融金属が払拭され、所定の目付量に制御される。
【0003】
上記連続溶融金属めっき装置において、鋼帯に対して溶融金属を均一にめっきするためには、上記シンクロール等の浴中ロールの回転が均一であることが求められる。このために、浴中ロールの周面に溝加工を施すことで、ロールと鋼帯の間のスリップを防止するとともに、当該溝を通じてロール幅方向に均一に溶融金属を供給することが提案されている。例えば、特許文献1には、ロール周面にクロス状のスパイラルグルーブが形成されたシンクロールが提案されている。
【0004】
ところで、上記連続溶融金属めっき装置では、鋼帯から溶出したFeがめっき浴中のAl、Znと反応して、めっき浴中にドロスと称する粒状物が発生する。ドロスは、Fe−Al系化合物(例えばFeAl)、Fe−Zn系化合物(例えばFeZn)及びこれらの混合物などからなり、その成分の混合率等の違いにより比重差が生じ、めっき浴中で異なる挙動を示す。このためドロスは、比重がZnより大きくめっき浴の底部に堆積するボトムドロス(100μm〜数mm程度)と、めっき浴中に浮遊する比較的小さい浮遊ドロス(数十μm程度)に分類される。めっき浴中のドロスの存在比率は、浴中のAl濃度等によりある程度制御可能であるが、本質的にはめっき浴中のドロスの発生は不可避である。
【0005】
上記ドロスが、めっき浴を通板中の鋼帯の表面に付着すると、めっき鋼板の表面性状の低下(ドロス欠陥)を引き起こす。また、ドロスが、シンクロールやサポートロール等の浴中ロールの表面に付着すると、当該ロールと鋼帯の間のスリップの原因となる。このため、従来では、ドロス等の異物が浴中ロールに付着することを防止するために、ロール表面の粗度を調整する技術が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献2には、ロールの溝部への合金付着によるスリップ現象を防止するために、浴中ロールの周面を不規則な粗面とし、その粗度をRmaxで150μm超、500μm未満とすることが提案されている。また、特許文献3には、フラックスの付着によるスタビロール(上記サポートロールに相当する。)の汚れを改善するために、スタビロールの表面粗度をRa:0.05μm以下にすることが提案されている。また、特許文献4には、ロール表面へのドロスの付着を防止するために、浴中ロールの表面を実質的に滑らかなカーボン層で構成し、その表面粗度をRmaxで60μm以下、かつ、Raで6μm以下とすることが提案されている。
【0007】
一方、特許文献5には、サポートロールによるめっき鋼帯の擦り疵の発生を防止するために、サポートロールの表面粗度をRaで2.0〜8.0μmにすることが提案されている。また、特許文献6には、サポートロールの回転不良を防止するために、サポートロール表面にRaで1〜30μmの粗度のダルを形成して、該ロールと鋼帯の摩擦係数を大きくすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−339689号公報
【特許文献2】特開平8−247136号公報
【特許文献3】特開2004−99971号公報
【特許文献4】特開平8−41616号公報
【特許文献5】特開平5−306441号公報
【特許文献6】特開平5−195178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記特許文献2〜6記載の従来技術ではいずれも、浴中ロールの表面粗度の評価指標として、算術平均粗さRaや最大高さ粗さRmax(後述のRzに相当する。)を用いていた。しかしながら、浴中ロール表面に対するドロス等の異物付着を防止する観点からは、上記RaやRmaxは、ロール表面粗度の最適な評価指標ではなかった。従って、上記従来技術のようにRaやRmaxを基準として浴中ロールの表面粗度を調整したとしても、当該ロール周面に形成された溝底の粗度を最適な粗度に調整することができないため、依然として溝底にドロス等の異物が付着してしまうという問題があった。このように溝底にドロスが付着及び成長すると、当該溝を通じた溶融金属の排出が阻害されるため、鋼帯のスリップが発生しやすくなり、ロール寿命が短縮化してしまう。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、ロール周面の溝底の表面粗度の評価指標として適切な指標を用いることで、溝底に対する異物の付着を低減することが可能な、新規かつ改良された溶融金属めっき浴中ロール及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本願発明者は鋭意努力して、ロール周面の溝底の表面粗度を表す最適な評価指標として、粗さ曲線のスキューネスRskが適切であり、溝底のRskを適性範囲に調整すれば、溝底への異物の付着を好適に防止できることを見出し、以下の発明に想到した。
【0012】
即ち、本発明のある観点によれば、ロール周面に複数の溝が形成され、前記溝の底部の表面粗度がRskで0未満であることを特徴とする、溶融金属めっき浴中ロールが提供される。
【0013】
前記溶融金属めっき浴中ロールは、ロール基材と、セラミックスと金属を含む溶射材を前記ロール基材の表面に溶射することにより形成された溶射皮膜と、を備えるようにしてもよい。
【0014】
前記溶融金属めっき浴中ロールは、前記溶射皮膜の表面に封孔材を塗布及び焼成することにより形成された封孔皮膜をさらに備えるようにしてもよい。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、ロール周面に複数の溝が形成された溶融金属めっき浴中ロールの製造方法において、前記ロール周面の接線に対して45°以下の投射角度でブラスト材を前記溝の底部に投射することにより、前記溝の底部の表面粗度がRskで0未満になるように前記溝の底部を平滑化することを特徴とする、溶融金属めっき浴中ロールの製造方法が提供される。
【0016】
前記ブラスト材の噴射圧力は0.3MPa以上、1.0MPa以下であるようにしてもよい。
【0017】
上記構成により、浴中ロール周面の溝底の表面粗度の評価指標としてRskを用い、溝底の表面粗度をRskで0未満として、適切な粗度に調整できる。これにより、溝底に対する異物の付着を低減することができるので、鋼帯とロールのスリップを防止できるとともに、ロール寿命を延長できる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば、ロール周面の溝底の表面粗度の評価指標として適切な指標を用いることで、溝底に対する異物の付着を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る連続溶融金属めっき装置を示す模式図である。
【図2】同実施形態に係る溶融金属めっき浴中ロールの一例であるシンクロールを示す斜視図である。
【図3】同実施形態に係るシンクロールの周面を示す拡大断面図である。
【図4】同実施形態に係るロール周面の溝の底部の表面性状を例示する拡大断面図である。
【図5】同実施形態に係る溶融金属めっき浴中ロールの製造方法を示すフローチャートである。
【図6】同実施形態に係るロール周面に対するブラスト処理を示す(a)斜視図、(b)側面図、及び(c)拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
[1.用語の定義]
まず、本明細書で使用する用語を定義する。表面粗さのJIS規格「JIS B 0061:2001」では、輪郭曲線方式による表面性状(粗さ曲線、うねり曲線及び断面曲線)を表すための用語について、以下のように定義されている。
【0022】
(A)一般用語
「輪郭曲線フィルタ(profile filter)」は、輪郭曲線を長波長成分と短波長成分とに分離するフィルタである。粗さ曲線、うねり曲線及び断面曲線を測定するために、測定機では次の3種類のフィルタを用いる。
「λs輪郭曲線フィルタ」は、粗さ成分とそれより短い波長成分との境界を定義するフィルタである。
「λc輪郭曲線フィルタ」は、粗さ成分とうねり成分との境界を定義するフィルタである。
「λf輪郭曲線フィルタ」は、うねり成分とそれより長い波長成分との境界を定義するフィルタである。
【0023】
「実表面の断面曲線(surface profile)」は、対象物の実表面を指定された平面によって切断したとき、その切り口に現れる曲線である。実表面(real surface)は、物体の境界で、周囲の空間から分離する表面である。
「断面曲線(primary profile)」は、測定断面曲線にカットオフ値λsの低域フィルタ(λs輪郭曲線フィルタ)を適用して得られる曲線である(JIS B 0651参照。)。
「粗さ曲線(roughness profile)」は、カットオフ値λcの高域フィルタ(λc輪郭曲線フィルタ)によって、断面曲線から長波長成分を遮断して得た輪郭曲線を適用して得られる曲線である(JIS B 0651参照。)。粗さ曲線は、粗さパラメータの評価の基礎となるものである。λsとλcの標準的な関係は、JIS B 0651の4.4による。
「うねり曲線(waviness profile)」は、断面曲線にカットオフ値λf及びλcの輪郭曲線フィルタを順次かけることによって得られる輪郭曲線である。λf輪郭曲線フィルタによって長波長成分を遮断し、λc輪郭曲線フィルタによって短波長を遮断することで、うねり曲線が得られる。
【0024】
「粗さ曲線のための平均線(mean lines for the roughness profile)」は、高域用λc輪郭曲線フィルタによって遮断される長波長成分を表す曲線である(JIS B 0632の3.2参照。)。
「うねり曲線のための平均線(mean lines for the waviness profile)」は、低域用λf輪郭曲線フィルタによって遮断される長波長成分を表す曲線である(JIS B 0632の3.2参照。)。
「断面曲線のための平均線(mean lines for the primary profile)」は、最小二乗法によって断面曲線に当てはめた呼び形状を表す曲線である。
【0025】
「基準長さ(sampling length)lp、lr、lw」は、輪郭曲線の特性を求めるために用いる輪郭曲線のX軸方向長さである。例えば、lrは、粗さ曲線の特性を求めるために用いる粗さ曲線のX軸方向長さである。
「評価長さ(evaluation length)ln」は、輪郭曲線のX軸方向長さである。評価長さlnは、1つ以上の基準長さを含む。評価長さlnの標準値は、JIS B 0633の4.4に規定されている。
【0026】
(B)パラメータに関する用語
「断面曲線パラメータ(P−parameter)」は、断面曲線から計算されるパラメータである。
「粗さパラメータ(R−parameter)」は、粗さ曲線から計算されるパラメータである。粗さパラメータは、後述する最大高さ粗さRz、算術平均粗さRa、二乗平均平方根粗さRq、粗さ曲線のスキューネスRsk、粗さ曲線のクルトシスRku、十点平均粗さRzjisなどを含む。
「うねりパラメータ(W−parameter)」は、うねり曲線から計算されるパラメータである。
「山(profile peak)」は、輪郭曲線をX軸(平均線)によって切断したときの隣り合う二つの交点にはさまれた曲線部分のうち、平均線より上側(物体から空間側に向かう方向)の部分である。
「谷(profile valley)」は、輪郭曲線をX軸(平均線)によって切断したときの隣り合う二つの交点にはさまれた曲線部分のうち、平均線より下側(周囲の空間から物体側に向かう方向)の部分である。
「縦座標値(ordinate value)Z(x)」は、任意の位置xにおける輪郭曲線の高さである。高さの符号は、X軸(平均線)の下側を負、上側を正とする。
「輪郭曲線の山高さ(profile peak hight)Zp」は、X軸(平均線)から山頂までの高さである。
「輪郭曲線の谷深さ(profile valley depth)Zv」は、X軸(平均線)から谷底までの深さである。
【0027】
(C)輪郭曲線パラメータの定義
「輪郭曲線の最大山高さ(maximum profile peak hight)Pp、Rp、Wp」は、基準長さlp、lr、lwにおける輪郭曲線の山高さZpの最大値である。粗さ曲線の最大山高さRpは、基準長さlrにおける粗さ曲線の山高さZpの最大値である。
「輪郭曲線の最大谷深さ(maximum profile valley depth)Pv、Rv、Wv」は、基準長さlp、lr、lwにおける輪郭曲線の谷深さZvの最大値である。粗さ曲線の最大谷深さRvは、基準長さlrにおける粗さ曲線の谷深さZvの最大値である。
「輪郭曲線の最大高さ(maximum hight of profile)Pz、Rz、Wz」は、基準長さlp、lr、lwにおける輪郭曲線の山高さZpの最大値と谷深さZvの最大値との和である。例えば、輪郭曲線が粗さ曲線である場合、後述するように「粗さ曲線の最大高さ」を「最大高さ粗さRz」と称する。
「輪郭曲線の算術平均高さ(arithmetical mean deviation of the assessed profile)Pa、Ra、Wa」は、基準長さlp、lr、lwにおけるZ(x)の絶対値の平均である。例えば、輪郭曲線が粗さ曲線である場合、後述するように「粗さ曲線の算術平均高さ」を「算術平均粗さRa」と称する。
「輪郭曲線の二乗平均平方根高さ(root meen square deviation of the assessed profile)Pq、Rq、Wq」は、基準長さlp、lr、lwにおけるZ(x)の二乗平均平方根である。例えば、輪郭曲線が粗さ曲線である場合、後述するように「粗さ曲線の二乗平均平方根高さ」を「二乗平均平方根粗さRq」と称する。
「輪郭曲線のスキューネス(skewness of the assessed profile)Psk、Rsk、Wsk」は、それぞれPq、Rq、Wqの三乗によって無次元化した、基準長さlp、lr、lwにおけるZ(x)の三乗平均である。例えば、輪郭曲線が粗さ曲線である場合、後述するように「粗さ曲線のスキューネス」は記号Rskを用いて表される。
「輪郭曲線のクルトシス(kurtosis of the assessed profile)Pku、Rku、Wku」は、それぞれPq、Rq、Wqの四乗によって無次元化した、基準長さlp、lr、lwにおけるZ(x)の四乗平均である。例えば、輪郭曲線が粗さ曲線である場合、後述するように「粗さ曲線のクルトシス」は記号Rkuを用いて表される。
【0028】
(D)粗さパラメータの定義
(a)最大高さ粗さRz
「最大高さ粗さRz」は、基準長さlrにおける粗さ曲線Z(x)の山高さZpの最大値と谷深さZvの最大値との和である(Rz=Zp_max+Zv_max)。過去のJIS規格(JIS B 0601:1982)では、「最大高さ粗さ」は記号「Rmax」で表されていたが、本明細書では、新たなJIS規格(JIS B 0601:2010)に従い、記号「Rz」を用いて「最大高さ粗さ」を表すこととする。なお、「十点平均粗さ」は記号「Rzjis」を用いて表す。
【0029】
(b)算術平均粗さRa
「算術平均粗さ(arithmetical mean deviation of the roughness profile)Ra」は、基準長さlrにおける粗さ曲線Z(x)の絶対値の平均である。Raは、以下の式(1)で表される。
【0030】
【数1】

【0031】
(c)二乗平均平方根粗さRq
「二乗平均平方根粗さRq(root meen square deviation of the roughness profile)Rq」は、基準長さlrにおける粗さ曲線Z(x)の二乗平均平方根である。Rqは、以下の式(2)で表される。
【0032】
【数2】

【0033】
(d)粗さ曲線のスキューネスRsk
「粗さ曲線のスキューネス(skewness of the roughness profile)Rsk」は、上記Rqの三乗によって無次元化した、基準長さlrにおける粗さ曲線Z(x)の三乗平均である。Rskは、以下の式(3)で表される。このRskは、偏り度(高さ方向の確率密度関数の非対称性の尺度)であり、突出した山又は谷の影響を強く受ける。
【0034】
【数3】

【0035】
(e)粗さ曲線のクルトシスRku
「粗さ曲線のクルトシス(kurtsis of the roughness profile)Rku」は、上記Rqの四乗によって無次元化した、基準長さlrにおける粗さ曲線Z(x)の四乗平均である。Rkuは、以下の式(4)で表される。このRkuは、尖り度(確率密度関数の高さ方向の鋭さの尺度)であり、突出した山又は谷の影響を強く受ける。
【0036】
【数4】

【0037】
[2.連続溶融金属めっき装置の構成]
次に、図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係る溶融金属めっき浴中ロールが適用される連続溶融金属めっき装置について説明する。図1は、本実施形態に係る連続溶融金属めっき装置1を示す模式図である。
【0038】
図1に示すように、連続溶融金属めっき装置1は、鋼帯2を、溶融金属を満たしためっき浴3に浸漬することにより、鋼帯2の表面に溶融金属を連続的に付着させるための装置である。連続溶融金属めっき装置1は、浴槽4と、スナウト5と、シンクロール6と、上下一対のサポートロール7、8と、ワイピングノズル9と、を備える。
【0039】
鋼帯2は、溶融金属によるめっき対象となる金属帯の一例である。本実施形態では鋼帯2の例を上げて説明するが、本発明の金属帯は、めっき対象となる帯状の金属材料であれば、その材質は問わない。また、めっき浴を構成する溶融金属は、亜鉛、鉛−錫、アルミニウムなどの耐食性金属が一般的であるが、めっき金属として使用されるその他の金属であってもよい。溶融金属で鋼帯2をめっきして得られる溶融めっき鋼板としては、亜鉛めっき鋼板、合金化亜鉛めっき鋼板等が代表的であるが、その他の種類のめっき鋼板であってもよい。以下では、めっき浴3をなす溶融金属として溶融亜鉛を用い、鋼帯2表面に溶融亜鉛を付着させて、亜鉛めっき鋼板を製造する例について説明する。
【0040】
浴槽4は、上記溶融金属からなるめっき浴3を貯留する。スナウト5は、その一端をめっき浴3内に浸漬されるように傾斜配設される。
【0041】
シンクロール6は、めっき浴3中の最下方に配設され、サポートロール7、8よりもロール径が大きい。シンクロール6は、鋼帯2の走行に伴って図示の時計回りに回転する。このシンクロール6は、スナウト5を通ってめっき浴3内に斜め下方に向けて導入された鋼帯2を、鉛直方向上方に方向転換する。
【0042】
サポートロール7、8は、めっき浴3中のシンクロール6の上方に配置され、シンクロール6から鉛直方向に引き上げられた鋼帯2を左右両側から挟み込むようにして配設される。サポートロール7、8は、不図示の軸受け(例えば、滑り軸受け、転がり軸受け等)により回転自在に支持される。
【0043】
ワイピングノズル9は、鋼帯2の両面に気体(例えば空気)を吹き付ける一対のガスワイピングノズルで構成される。ワイピングノズル9は、サポートロール7、8の直上のめっき浴3外であって、めっき浴3の浴面から所定の高さだけ上方に配設される。かかるワイピングノズル9は、めっき浴3から鉛直方向に引き上げられた鋼帯2の両面に気体を吹き付けて、余剰な溶融金属を払拭する。これにより、鋼帯2表面に対する溶融金属の目付量が適正量に制御される。
【0044】
ここで、上記構成の連続溶融金属めっき装置1の動作について説明する。連続溶融金属めっき装置1は、不図示の駆動源により鋼帯2を長手方向に移動させて、装置内の各部を通板させる。この鋼帯2は、スナウト5を通じてめっき浴3中に斜め下方に導入され、シンクロール6を周回して、その進行方向が鉛直方向上方に変換される。次いで、鋼帯2は、サポートロール7、8の間を通過して上昇し、めっき浴3外に引き上げられる。その後、めっき浴3外に引き上げられた鋼帯2は、ワイピングノズル9から吹き付けられる気体の圧力により余剰な溶融金属が払拭されて所定の目付量に制御される。以上のようにして、連続溶融金属めっき装置1は、鋼帯2をめっき浴3中に連続的に浸漬して、溶融金属、例えば溶融亜鉛でめっきすることで、所定の目付量の溶融金属めっき鋼板を製造する。
【0045】
[3.溶融金属めっき浴中ロールの構成]
次に、図2及び図3を参照して、本実施形態に係る溶融金属めっき浴中ロールについて説明する。図2は、本実施形態に係る溶融金属めっき浴中ロールの一例であるシンクロール6を示す斜視図である。図3は、本実施形態に係るシンクロール6の周面を示す拡大断面図である。
【0046】
図2に示すように、シンクロール6は、鋼帯2の幅よりも広いロール幅を有しており、例えば、ロール幅は1000〜2500mm、ロール径φは600〜1000mmである。かかるシンクロール6は、ロール軸6aを中心として回転し、めっき浴3中の鋼帯2の走行を補助する。
【0047】
図3に示すように、シンクロール6は、ロール基材20と、ロール基材20の表面に形成された溶射皮膜21と、溶射皮膜21の表面に形成された封孔皮膜22(最上層皮膜)とからなる。
【0048】
ロール基材20は、例えば鋼等の金属で形成され、シンクロール6の基本形状を形成する。このロール基材20の周面には、切削加工等によって、後述する溝10が複数形成されている。
【0049】
溶射皮膜21は、セラミックスと金属を含む溶射材を、ロール基材20の表面に溶射することにより形成される。溶射皮膜21を成す溶射材は、セラミックスと金属を複合させた材質(サーメット)からなる。例えば、溶射材は、炭化物(タングステンカーバイド、クロムカーバイド等)、硼化物(タングステン硼化物、モリブデン硼化物等)、及び酸化物(アルミナ、イットリア、クロミア等)と、これらのうち2種以上を複合したセラミックスを、少なくとも40質量%以上含み、残りがニッケル、鉄、コバルト、クロム、アルミのうち1種類以上を含む合金を含む。溶射皮膜21の厚さは、例えば20〜200μmであり、溶射皮膜21の硬さは、例えばHV800以上である。かかる溶射皮膜21でロール基材20を被覆することにより、溶融金属に対する耐食性が向上する効果がある。
【0050】
封孔皮膜22は、上記溶射皮膜21の表面に封孔材を塗布及び焼成することにより形成される。例えば、封孔皮膜22は、Cr、SiO等を含むゾルゲル溶液又はスラリーを、溶射皮膜21の表面に塗布した後に焼成して成るセラミック薄膜からなる。上記溶射皮膜21の表面および内部には多数の空隙が生じており、当該溶射皮膜21の空隙を封止するために、封孔皮膜22が形成される。封孔皮膜22の厚さは例えば1〜50μmである。かかる封孔皮膜22を設けることにより、溶射皮膜の空隙がなくなり耐食性が向上する効果がある。
【0051】
次に、シンクロール6の表面に設けられた溝10について説明する。図2に示すように、シンクロール6の周面には、ロール幅方向に等ピッチで複数の溝10が形成されている。本実施形態に係る溝10は、例えば、ロール周面に周方向に直線状に形成された環状溝からなる。
【0052】
図3に示すように、溝10の断面形状は、滑らかに湾曲した曲線状である。例えば、溝10のピッチpは0.5〜10mm、溝10の深さdは0.1〜5mm、溝10の底部12及び頂部14の曲率半径Rは共に0.1〜5mmである。なお、溝10の底部12は、溝10の最深部側の所定範囲(例えば、溝深さdの1/2よりも深い部分)を意味する。一方、溝10の頂部14は、溝10の開口側の所定範囲(例えば、溝深さdの1/2よりも浅い部分)を意味する。
【0053】
なお、溝10の形状は、上記図2の例に限定されず、例えば、ロール周面に螺旋状に形成されたスパイラル溝であってもよいし、複数の方向の溝を組み合わせたクロスカット状の溝であってもよい。また、溝10の断面形状は、半円状、半楕円状、U字状、V字状、矩形状など、任意の形状であってもよい。
【0054】
上記のようなロール周面の溝10は、シンクロール6と鋼帯2との接触部から溶融金属(例えば溶融亜鉛)を排出する機能を有する。従って、溶融金属の排出機能を実現可能であれば、溝10の形状は任意の形状であってよい。鋼帯2の通板中に、溝10を通じて溶融金属が好適に排出されれば、シンクロール6に対する鋼帯2のスリップを防止することが可能である。
【0055】
しかしながら、上述したように、連続溶融金属めっき装置1による操業を継続すると、めっき浴3中に浮遊するドロス等の異物が、ロール周面の溝10の底部12に付着・成長して、溝10が閉塞されるため、溝10を通じた溶融金属の排出が阻害される。この結果、鋼帯2がシンクロール6に対してスリップすることとなり、シンクロール6の寿命が短縮してしまう。
【0056】
そこで、本実施形態では、ロール周面の溝10の底部12の表面粗度が、適切な粗さに平滑化されている。これにより、溝10の底部12に対するドロス等の異物の付着を好適に防止することができる。以下に、溝10の底部12の表面粗度について詳述する。
【0057】
[4.ロールの溝底の表面粗度]
次に、本実施形態に係る浴中ロールの特徴である溝10の底部12(以下、「溝底12」と称する。)の表面粗度について詳述する。
【0058】
上述したように、従来では浴中ロールの表面粗度の評価指標(粗さパラメータ)として、算術平均粗さRaや最大高さ粗さRz(=Rmax)が用いられることが一般的であった(特許文献2〜6参照。)。
【0059】
しかしながら、本願発明者が鋭意研究したところ、浴中ロール表面に対するドロス等の異物付着を防止する観点からは、上記RaやRzは、ロールの表面粗度の適切な評価指標ではないことが分かった。即ち、溝底12への異物付着は、RaやRz、Rzjisなどで表される単純な表面粗さよりもむしろ、溝底12の粗さの形状に大きく依存する。このため、RaやRz、Rzjis等を用いて溝底12の表面粗度を調整したとしても、溝底12の表面粗度を最適化できないので、溝底12に対する異物の付着を十分に低減することはできない。
【0060】
そこで、本実施形態では、溝底12の表面粗度の評価指標として、従来一般的なRaやRzではなく、粗さ曲線のスキューネスRskを用いる。Rskは、表面粗さの偏り度(高さ方向の確率密度関数の非対称性の尺度)を表す指標であり、溝底12の突出した凹凸(山又は谷)の影響を強く受けるため、対象面の凹凸形状の違いを良く反映することができる。従って、溝底12への異物付着を防止する観点からは、Rskは、溝底12の粗さの評価指標として適切であり、当該Rskを評価指標として溝底12の表面粗度を調整することで、溝底12への異物付着を好適に低減できる。なお、Rskは、上述した式(3)で算出される。
【0061】
ここで、図4を参照して、RskとRaとの相違について説明する。図4は、溝底12の表面性状を例示する拡大断面図である。なお、図4では、溝底12の輪郭を粗さ曲線Z(x)で表しており、図中の水平線30は、粗さ曲線の平均線である。
【0062】
図4(a)に示すように、例えば、溝底12の凹凸が表面側(平均線30より上側)に向けて尖った形状が多い場合は、Rsk>0となる。本発明者らは種々検討の結果、Rsk>0の場合に、溝底12に異物が付着・成長しやすくなることを確認した。これはRsk>0の場合、溝底12の尖った凸部に異物が付着・成長しやすいためと推察する。一方、図4(b)に示すように、例えば、溝底12の凹凸が内部側(平均線30より下側)に向けて尖った形状が多い場合は、Rsk<0となる。この場合は、溝底12に異物が付着・成長しにくいことを確認した。これはRsk<0の場合、当該溝底12の凸部32は滑らかであるので異物が付着・成長しにくいためと推察する。
【0063】
上記図4(a)と図4(b)のように、溝底12の凹凸形状が相違すれば、Rskは異なる値となり、Rskは、溝底12表面の形状の違いを好適に反映できる。一方、図4(a)の平均線30よりも上側の部分の面積Aと下側の部分の面積Bの和は、図4(b)の場合の面積Aと面積Bの和と同一である(A+B=A+B)。従って、上記式(1)で算出されるRaは、図4(a)の場合と図4(b)の場合で同一の値aとなる。また、図4(a)と図4(b)では、山高さZpと谷深さZvの和は同一であるので、Rzも、図4(a)の場合と図4(b)の場合で同一の値となる。
【0064】
このように、溝底12の表面粗度の評価指標として、RaやRzを用いた場合には、図4の例のような溝底12の表面形状の相違を表すことができない。一方、Rskを用いた場合には、当該溝底12の表面形状の相違を的確に表現することができる。そして、図4(a)のように、Rsk>0である場合には、溝底12に対して異物が付着し易い。一方、図4(b)のように、Rsk<0である場合には、溝底12に対して異物が付着し難い。
【0065】
よって、溝底12の表面粗度の評価指標としてRskを採用し、Rsk<0、特に、Rsk≦−0.05となるように溝底12の表面を平滑化すれば、当該溝底12を最適な粗度に調整できるので、溝底12への異物付着を好適に防止できるといえる。
【0066】
[5.ロールの製造方法]
次に、図5を参照して、本実施形態に係る溶融金属めっき浴中ロールの製造方法について説明する。図5は、本実施形態に係る溶融金属めっき浴中ロールの製造方法を示すフローチャートである。なお、以下では、浴中ロールとして上記シンクロール6を製造する例について説明するが、他のロールを製造する際も同様な製造方法である。
【0067】
図5に示すように、まず、シンクロール6の基材となるロール基材20の周面に、周方向に複数の溝10を形成する(ステップS10)。この溝加工としては、例えば、旋盤加工や、切削工具を用いた切削加工などを利用できる。
【0068】
次いで、上記溝10が形成されたロール基材20の周面に対して、溶射材を溶射することで、溶射皮膜21を形成する(ステップS12)。具体的には、上記サーメット等の材質の溶射材をロール基材20の周面に高速で衝突・付着させる。なお、溶射被膜21の密着力を高める目的で、S12の前に溶射前ブラスト処理を必要に応じて行ってもよい。
【0069】
その後、シンクロール6のロール周面をブラスト処理することにより、溝底12の表面粗度がRskで0未満、好ましくは−0.05以下となるように溝底12を平滑化する(ステップS14)。
【0070】
さらに、上記ブラスト処理後の溶射皮膜21を封孔処理して、溶射皮膜21の表面に封孔皮膜22(最上層皮膜)を形成する(ステップS16)。具体的には、Cr、SiO等を含む封孔材(ゾルゲル溶液又はスラリー等)を溶射皮膜21の表面に塗布した後に焼成する。これにより、溶射皮膜21に含まれる気孔が封孔皮膜22で覆われて、溶射皮膜21の空隙が封止される。このとき、溶射皮膜21と封孔皮膜22の表面粗度の変化は小さいが、溝底12の表面粗度がRskで0未満、好ましくは−0.05以下であることを確認する。以上までのステップで、シンクロール6の原型が製造される。
【0071】
ここで、図6を参照して、S14のブラスト処理について詳述する。図6は、ロール周面に対するブラスト処理を示す(a)斜視図、(b)側面図、及び(c)拡大図である。なお、ブラスト処理として、エアーブラスト、ショットブラストなど任意のブラスト方式を採用してよいが、以下では、エアーブラストの例について説明する。
【0072】
図6に示すように、シンクロール6を回転させながら、ブラストマシン40からブラスト材41をシンクロール6の周面に対して投射することにより、ロール周面の溝底12表面を平滑化する。ブラスト材41は、例えば、溶射皮膜21の硬さよりも高い硬度を有する硬質粒子であり、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、炭化珪素、窒化珪素、又はこれらの混合物などである。ブラスト材41の粒度は、#60未満とすることが好ましい。このようにブラスト材41の粒度を小さくすることで、溝底12の表面粗度を低減する効果が高まる。
【0073】
また、ブラスト材41の投射方向は、溝10の延長方向と平行な方向とすることで、溝10に沿って溝底12を好適に平滑化できる。さらに、ブラスト材41の投射角度θは、シンクロール6の周面の接線42に対して、0°より大きく、45°以下であることが好ましい(0°<θ≦45°)。投射角度θが45°を超えて垂直に近くなると、溝底12の表面粗度が粗くなり、Rsk<0に適切に平滑化することが困難となるだけでなく、バックプレッシャーによりブラスト処理効率が低下してしまう。投射角度θを45°以下の浅い角度とすることで、ロール周面のうちで溝底12を優先的に平滑化して、粗度を低減することができ、溝底12の表面粗度を適切な粗さ(Rsk<0)に平滑化することができる。
【0074】
また、ブラストマシン40によるブラスト材41の噴射圧力P(ゲージ圧)は、0.3MPa以上、1.0MPa以下であることが好ましい。噴射圧力Pが1.0MPa超であると、ブラスト材41が溶射皮膜21に突き刺さったり、表面粗度が高くなったりするため、溝底12の表面粗度を適切な粗さ(Rsk<0)にすることが困難となる。また、噴射圧力Pが0.3MPa未満であると、平滑化の効果がなく、適切な粗さとならない問題がある。噴射圧力Pを0.3〜1.0MPaの範囲とすることで、溝底12をブラスト材41で軽くなめるように平滑化できるため、溝底12表面粗度を適切な粗さ(Rsk<0)に制御できるとともに、溝底12に残留圧縮応力をできるだけ付与しないようにできる。
【0075】
上記のようなブラスト処理により、シンクロール6の周面、特に溝底12を好適に平滑化して、溝底12の表面粗度をRskで0未満に調整することができる。このようにして、ロール周面の溝10に異物が付着しにくいシンクロール6を好適に製造できる。
【0076】
[6.まとめ]
以上、本実施形態に係る溶融金属めっき浴中ロール及びその製造方法について説明した。本実施形態によれば、浴中ロール周面の溝底12の表面粗度の評価指標として、従来一般的なRaやRzではなく、表面形状を適切に反映可能なRskを用いる。当該Rskは、溝底12に対する異物の付着性を評価する上で、RaやRzよりも適切な評価指標である。そして、溝底12の表面粗度がRskで0未満、好ましくは−0.05以下となるように、ブラスト処理により溝底12を平滑化する。
【0077】
これにより、溝底12の表面粗度を適切に低減することができるので、溝底12に対するドロス等の異物の付着を大幅に低減できる。従って、連続溶融金属めっき装置1の操業中に、シンクロール6やサポートロール7、8等の浴中ロール周面に対して、異物が付着しないので、鋼帯2のスリップを防止できるとともに、浴中ロールの寿命を延ばすことが可能となる。
【実施例】
【0078】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0079】
上述した溶融金属めっき浴中ロールの製造方法に従って、複数種類のシンクロール6を製造し、各々のシンクロール6を連続溶融金属めっき装置1で使用して、シンクロール6の寿命を測定する試験を行った。ロール製造時には、ブラスト処理の条件を変えて、シンクロール6の溝底12を平滑化し、溝底12の表面粗度(Rsk)が異なる複数種類のロールを製造した。また、ロール寿命に関しては、ロールスリップにより鋼帯2に疵が発生する状態となったときに寿命であると判断した。なお、ロール径φは1000mm、溝10のピッチpは2.0mm、深さdは0.5mm、溝底12及び溝頂14の曲率半径Rは0.5mmとした
【0080】
この試験条件として、ロール周面に形成される溶射皮膜21及び封孔皮膜22の条件と、エアーブラスト処理の諸条件を表1に示す。表1中のロール回転数は、ブラスト処理時のシンクロール6の回転数であり、トラバース速度は、ブラストマシン40のロール幅方向への移動速度である。また、ロール周面の溝底12の表面粗度(Rsk)は、Raの測定値からJISの規定により2.5mmをカットオフ値とした。溝底12のRskは通常の表面粗度計により測定した。また、表1には、試験結果であるロール寿命も示してある。
【0081】
【表1】

【0082】
(a)Rsk<0であることの意義
表1に示すように、比較例1〜12では、溝底12をブラスト処理していない、或いは不適切なブラスト条件(例えば、θ>45°、P<0.3MPa、P>1.0MPa)でブラスト処理しているので、溝底12の表面粗度がRskで0以上になっている(Rsk≧0)。このため、比較例1〜12のロール寿命は30日以下と短くなっており、Rskが大きくなるほど、ロール寿命が減少している。
【0083】
一方、本発明の実施例1〜16では、ロール周面の溝底12を適切なブラスト条件でブラスト処理して平滑化しているので、溝底12の表面粗度がRskで0未満に調整されている(Rsk<0)。このため、実施例1〜16のロール寿命は少なくとも40日以上となっている。また、Rskが小さくなるほど、ロール寿命が増加している。特に、実施例1の場合、Rsk=−0.3とすることで、ロール寿命が60日となっており、長寿命化が実現されている。また、実施例3、5の場合でも、Rsk=−0.05とすることで、40日のロール寿命を確保できている。このように実施例1〜16のロール寿命は、比較例1〜12と比べて、少なくとも1.3倍以上に増加している。
【0084】
以上の結果により、ロール周面の溝底12の表面粗度を、Rskで0未満、特に−0.05以下とすることにより、溝底12に対する異物の付着を低減して、ロール寿命を大幅に増加できることが実証されたと言える。
【0085】
(b)投射角度θが45°以下であることの意義
比較例3〜6では、ブラスト処理時のブラスト材41の投射角度θが、それぞれ50°、55°、60°、90°であり、45°より大きい。この場合、ブラスト処理後の溝底12の表面粗度がRskで少なくとも0.03以上となっている。この理由は、投射角度θが45°を超えると、ブラスト処理によりブラスト材41が溶射皮膜につきささり、溝底12の表面粗度が粗くなるからである。
【0086】
一方、本発明の実施例1〜16のように投射角度θが45°以下である場合には、溝底12の表面粗度がRskで−0.05以下となっている。この理由は、ブラスト材41が溝底12表面をなめるようにして衝突して、適正な表面性状に平滑化できるからである。
【0087】
以上の結果により、ブラスト処理時にθ≦45°とすれば、溝底12の表面を適切な粗度(Rsk<0)に平滑化できるが、θ>45°とすると、溝底12を適切に平滑化できず、Rsk≧0になってしまうことが実証されたと言える。
【0088】
(c)噴射圧力Pが0.3MPa以上、1.0MPa以下であることの意義
比較例7、8では、ブラスト処理時のブラスト材41の噴射圧力Pが、それぞれ0.1、0.2Mpaであり、0.3MPa未満である。この場合、ブラスト処理後の溝底12の表面粗度が、Rskで少なくとも0.09以上となっている。この理由は、噴射圧力Pが0.3MPa未満となると、ブラスト材41の衝突力が弱くなるため、平滑化効果が低減するからである。また、比較例9、10、11では、噴射圧力Pが、それぞれ1.1、1.2、1.3Mpaである、1.0MPa超である。この場合、ブラスト処理後の溝底12の表面粗度が、Rskで少なくとも0.20以上と大きくなっている。この理由は、噴射圧力Pが1.0MPaを超えると、ブラスト材41が溝底12表面に突き刺さり、表面粗度が粗くなるからである。
【0089】
一方、本発明の実施例1〜16では、噴射圧力Pを0.3MPa以上、1.0MPa以下に制御した場合には、ブラスト処理後の溝底12の表面粗度がRskで−0.05未満となっている。この理由は、ブラスト材41を溝底12表面に対して、適切な圧力で衝突させて、適正な表面性状に平滑化できるからである。
【0090】
以上の結果により、ブラスト処理時に、0.3MPa≦P≦1.0MPaなる適正範囲内に制御すれば、溝底12の表面粗度を適切な粗さ(Rsk<0)に平滑化できるが、この適正範囲を外れると、溝底12を適切に平滑化できず、Rsk≧0になってしまうことが実証されたと言える。
【0091】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0092】
例えば、上記実施形態では、溶融金属めっき浴中ロールとしてシンクロール6の例を挙げて説明したが、本発明は係る例に限定されない。本発明の溶融金属めっき浴中ロールは、例えば、上記サポートロール7、8などに適用することも可能であるし、その他にも、溶融金属めっき浴中に設置される任意の浴中ロールに適用可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 連続溶融金属めっき装置
2 鋼帯
3 めっき浴
4 浴槽
5 スナウト
6 シンクロール
7、8 サポートロール
9 ワイピングノズル
10 溝
12 溝底
14 溝頂
20 ロール基材
21 溶射皮膜
22 封孔皮膜
30 平均線
31、32 凸部
40 ブラストマシン
41 ブラスト材
42 接線
θ 投射角度
P 噴射圧力



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール周面に複数の溝が形成され、前記溝の底部の表面粗度がRskで0未満であることを特徴とする、溶融金属めっき浴中ロール。
【請求項2】
ロール基材と、
セラミックスと金属を含む溶射材を前記ロール基材の表面に溶射することにより形成された溶射皮膜と、
を備えることを特徴とする、請求項1に記載の溶融金属めっき浴中ロール。
【請求項3】
前記溶射皮膜の表面に封孔材を塗布及び焼成することにより形成された封孔皮膜をさらに備えることを特徴とする、請求項2に記載の溶融金属めっき浴中ロール。
【請求項4】
ロール周面に複数の溝が形成された溶融金属めっき浴中ロールの製造方法において、
前記ロール周面の接線に対して45°以下の投射角度でブラスト材を前記溝の底部に投射することにより、前記溝の底部の表面粗度がRskで0未満になるように前記溝の底部を平滑化することを特徴とする、溶融金属めっき浴中ロールの製造方法。
【請求項5】
前記ブラスト材の噴射圧力は0.3MPa以上、1.0MPa以下であることを特徴とする、請求項4に記載の溶融金属めっき浴中ロールの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−180558(P2012−180558A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44108(P2011−44108)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000109875)トーカロ株式会社 (127)
【Fターム(参考)】