説明

溶融金属めっき鋼帯製造装置及び溶融金属めっき鋼帯の製造方法

【課題】トップドロスに起因する欠陥の発生を低減するともに、トップドロス排出によるめっき金属の持出しを減少できる溶融金属めっき鋼帯製造設備及び溶融金属めっき鋼帯の製造方法を提供する。
【解決手段】
めっき槽内の溶融金属めっき浴から連続的に引き上げられる鋼帯(1)の表面に、ワイピングノズル(6)から気体を吹き付け、鋼帯表面のめっき付着量の制御を行う溶融金属めっき鋼帯の製造装置において、鋼帯引き上げ部前面のめっき槽壁側に少なくとも鋼帯引き上げ部前面のめっき浴面の30%以上を覆う遮蔽板(11)と、鋼帯引き上げ部とスナウト(2)に挟まれるめっき浴面のスナウト側に少なくとも鋼帯引き上げ部とスナウトに挟まれるめっき浴面の30%以上を覆う遮蔽板(12)を、各々めっき浴面と間隔をあけて設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融めっきプロセスにおいて、通常通板速度においても、また高速通板時においても、溶融めっき浴上に発生するトップドロスの発生量を低減できる溶融金属めっき鋼帯製造装置及び溶融金属めっき鋼帯の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続溶融めっきプロセス等においては、溶融金属めっき鋼帯は、図8に示すように、一般に鋼帯1を、スナウト2内を通過させ、めっき槽3内に溶融金属が満たされているめっき浴4に浸漬させ、シンクロール5で方向転換した後、該鋼帯1を鉛直上方に引き上げる工程の後に、鋼帯表面に付着した溶融金属が板幅方向および板長手方向に均一に所定のめっき厚になるように、この鋼帯1を挟んで対向して設けた鋼帯幅方向に延在するワイピングノズル6から加圧気体を鋼帯上に噴出させて、余剰な溶融金属を絞り取り、溶融金属の付着量(めっき付着量)を制御することで製造される。
【0003】
ガスワイピング部での鋼帯走行位置を安定化させるために、通常、シンクロール5上方の浴面下のめっき浴中に、サポートロール7が配置され、また合金化処理等を行う場合は必要に応じてワイピングノズル6上方にサポートロール8が設置される。
【0004】
ワイピングノズル6は、多様な鋼帯幅に対応すると同時に鋼帯引き上げ時の幅方向のズレなどに対応するため、通常、鋼帯幅より長く、すなわち鋼帯1の幅端部より外側まで延びている。このような溶融金属めっき鋼帯製造装置では、衝突した噴流の乱れによって鋼帯下方に落下する溶融金属が周囲に飛び散る、いわゆるエッジスプラッシュが発生する。また同時に、図9に示すように、噴射されたガスが鋼帯に沿って流下してめっき浴面を激しく揺らしていわゆる浴面スプラッシュが発生する。エッジスプラッシュと浴面スプラッシュがトップドロスとなることで鋼帯の表面品質の低下を招くとともに、トップドロスを作業者が除去する必要がある等のデメリットが生じる。
【0005】
また、連続プロセスにおいて、生産量を増加させるには、鋼帯通板速度を増加させればよいが、連続溶融めっきプロセスにおいてガスワイピング方式でめっき付着量を制御する場合、溶融金属の粘性により、鋼帯通板速度の増加に伴って鋼帯のめっき浴通過直後の初期付着量(持ち上げ量)が増加するため、めっき付着量を一定範囲内に制御するには、ワイピングガス圧力をより高圧に設定せざるを得ず、それによってスプラッシュおよびトップドロスが大幅に増加し、トップドロス除去作業頻度が増加する、トップドロス排出によって持ち出し亜鉛が増加して亜鉛歩留りが低下する等の問題がある。
【0006】
上記の問題を解決するため、トップドロスから酸化亜鉛を分離・回収する装置が以下の通り開示されている。
【0007】
特許文献1には、金属めっき槽壁面近くに設けた、窒素ガスを供給したガスリフトポンプによってトップドロスをドロス分離器に送り、ドロス分離器内では塩化アンモニウム等の還元用薬剤と反応させ、還元されためっき金属をめっき浴へ戻すドロス回収再生装置が開示されている。
【0008】
特許文献2には、めっき槽内に設けたドロス回収箱に集められたドロスにアルミニウム濃度が0.5〜10wt%になるようにアルミニウムを添加した後に攪拌し、上部に浮遊したトップドロスを回収するトップドロスの分離回収装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−279729号公報
【特許文献2】特開平11−293441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献1に開示された装置では、高温のめっき金属を大型ポンプで移動させるために、間欠的に使用すると配管詰まり等のトラブルが発生し、連続使用すると操業条件によって増減するトップドロスに応じた分離処理が困難であるため、メンテナンス・コスト面での問題があって安定使用が困難であることがわかった。
【0011】
特許文献2に開示された装置では、ドロス回収箱の大きさが限定されるため、高速通板してトップドロスが増加したときに対応しきれなくなる、また実作業として、トップドロスを回収箱に掻き入れる作業、回収箱内にアルミニウムを添加し攪拌する作業、回収箱からトップドロスを排出する作業が発生し、亜鉛歩留り向上によるコスト低下より作業コストの方が大きくなる等の問題があった。
【0012】
また、高速通板して比較的薄目付けの製品を製造する場合(例えば、溶融亜鉛めっき鋼帯の製造においては2.5m/s以上で、片面付着量が50g/m以下)、ガスワイピングで絞られて流下する余剰溶融めっき金属がワイピングノズルからの噴射ガスを巻き込む割合が多くなり、結果として形成するトップドロスには気泡が多く含まれることがわかった。ワイピングガスに非酸化性ガス(窒素等)を使用してめっき金属の酸化を少なくしても、トップドロス量が大幅に減少することはなく、気泡がより多く含まれて嵩密度が低下することで排出するトップドロスの体積が増加する問題があった。
【0013】
気泡部分にめっき金属が入り込むと、例えばAl:0.12〜0.15%の低アルミ濃度の溶融亜鉛めっき浴において、浴温が460〜470℃に保たれていても、浴面上に溜まったトップドロスの表面温度を測定すると420〜430℃で亜鉛融点近くまで低下しており、溶融亜鉛の粘度低下によって酸化亜鉛や気泡と純亜鉛とが分離しにくい状態になっていることがわかった。そのため、トップドロスを排出するとめっき金属も多く排出される問題があった。すなわち、特許文献2の装置では、高速通板時に、作業性、コスト面の問題があった。
【0014】
本発明は、上記問題点を考慮し、より簡易な方法で、通常通板速度においても、また高速通板時においても、トップドロスの発生量を低減するとともに、トップドロス排出によるめっき金属の持ち出し量を減少することができる溶融金属めっき鋼帯製造装置及び溶融金属めっき鋼帯の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意検討を重ねた。そして、気泡を多く含んだトップドロスは、最表面温度がめっき浴温程度になるように保熱されていれば、所定時間保熱静置するだけで十分に脱気され、同時に酸化金属とめっき金属との分離も進むことがわかった。したがって、金属めっき浴上に浮いたトップドロスの温度をめっき浴温程度になるように効率良く保温することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
上記課題を解決する本発明の手段は下記のとおりである。
【0017】
[1]めっき槽内の溶融金属めっき浴から連続的に引き上げられる鋼帯の表面に、ワイピングノズルから気体を吹き付け、鋼帯表面のめっき付着量の制御を行う溶融金属めっき鋼帯の製造装置において、鋼帯引き上げ部前面のめっき槽壁側に少なくとも鋼帯引き上げ部前面のめっき浴面の30%以上を覆う遮蔽板と、鋼帯引き上げ部とスナウトに挟まれるめっき浴面のスナウト側に少なくとも鋼帯引き上げ部とスナウトに挟まれるめっき浴面の30%以上を覆う遮蔽板を、各々めっき浴面と間隔をあけて設けたことを特徴とする溶融金属めっき鋼帯製造装置。
【0018】
[2]前記遮蔽板の少なくとも一方は、鋼帯面と直角方向に移動可能であることを特徴とする[1]に記載の溶融金属めっき鋼帯製造装置。
【0019】
[3]前記遮蔽板の少なくとも一方は、鋼帯面と直角方向の一方の端部側を支点として、他方の端部を上方に回動可能であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の溶融金属めっき鋼帯製造装置。
【0020】
[4]前記遮蔽板のめっき浴面側の面は、熱反射率が70%以上であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の溶融金属めっき鋼帯製造装置。
【0021】
[5]前記遮蔽板のめっき浴面側の面は、鋼帯から遠ざかると浴面との距離が大きくなることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の溶融金属めっき鋼帯製造装置。
【0022】
[6]前記遮蔽板は、鋼帯側端部に金属粉落下防止板が設けられていること特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の溶融金属めっき鋼帯製造装置。
【0023】
[7] [1]〜[6]のいずれかに記載の溶融金属めっき鋼帯製造装置を用いることを特徴とする溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、めっき浴を覆う遮蔽板をめっき浴と間隔をあけて設置し、トップドロスの温度をめっき浴温程度になるように保熱することで、通常通板速度においても、通板速度を上昇した場合も、トップドロス中の気泡を抜き、トップドロスの体積を低減できることから、トップドロス除去作業の負荷を軽減でき、また酸化金属とめっき金属の分離を促進してめっき金属の持ち出しを抑制することでめっき金属歩留まりの低下を抑制できる。また、トップドロスの発生量を低減できることで溶融金属めっき鋼帯のトップドロスに起因する欠陥の発生を低減できる効果もある。また、本発明には、特許文献1のようなメンテナンス面の問題もない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の溶融金属めっき鋼帯製造装置の一実施形態を示す概略斜視図である。
【図2】遮蔽板の一実施形態を示す側面図である。
【図3】遮蔽板の別の実施形態を示す図である。
【図4】トップドロスが溜まる場所を説明する図である。
【図5】めっき浴面遮蔽率とトップドロス汲み上げ量の関係を示す図である。
【図6】遮蔽板の別の実施形態を示す図である。
【図7】遮蔽板下面の熱反射率とトップドロス表面温度の関係を示す図である。
【図8】一般的な溶融金属めっき鋼帯製造装置を示す図である。
【図9】トップドロスの生成過程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0027】
図1は本発明の溶融金属めっき鋼帯製造装置の一実施形態を示す概略斜視図である。図1において、1は鋼帯、2はスナウト、3はめっき槽、6はワイピングノズル、11、12は遮蔽板である。なお、本明細書において、鋼帯引き上げ部後面、鋼帯引き上げ部前面は、各々、図1において、鋼帯引き上げ部の左側(スナウト側)、鋼帯引き上げ部の右側(反スナウト側)を指している。
【0028】
遮蔽板11は鋼帯引き上げ部前面に、遮蔽板12は鋼帯引き上げ部とスナウト間に配置され、またいずれも鉛直方向位置がワイピングノズル6より低く、めっき浴面と間隔をあけ、めっき浴面を覆うように配置されている。遮蔽板11、12は、鋼帯幅方向の幅は最大鋼帯幅以上の幅を有することが好ましく、めっき浴の鋼帯幅方向全幅を覆う幅を有することがより好ましい。
【0029】
図2は図1の溶融金属めっき鋼帯製造装置の遮蔽板11の一実施形態を示す側面図である。遮蔽板11は、鋼帯幅方向の幅は最大鋼帯幅以上の幅を有し、鋼帯引き上げ部前面の溶融金属めっき浴面を覆う板状構造物21を備える。該板状構造物21は、鋼帯厚み方向の寸法が前記板状構造物と同程度の寸法で、鋼帯幅方向寸法がめっき槽幅より広幅のフレーム24の上部に固定され、前記フレーム24の鋼帯幅方向の両側の下部に取り付けられた車輪取り付け部材25に可動用車輪22が取り付けされている。可動用車輪22はめっき槽外の床面上を鋼帯厚み方向に移動可能で、遮蔽板11をめっき浴を覆わない位置まで移動可能である。遮蔽板11が所定の位置を移動できるように、ガイドレール等を設置してもかまわない。板状構造物21の鋼帯側端部に上端を該板状構造物21上に突出させて取り付けた金属粉落下防止板23を備える。鋼帯方向に移動したときに、遮蔽板11が鋼帯1に当たらないように、車輪止めを設置しておく必要がある。
【0030】
図3は図1の溶融金属めっき鋼帯製造装置の遮蔽板12の一実施形態を示す側面図である。遮蔽板12は、鋼帯幅方向の幅は最大鋼帯幅以上の幅を有し、鋼帯引き上げ部後面の溶融金属めっき浴面を覆う板状構造物31を備える。該板状構造物31は、スナウト側端部が、鋼帯幅方向寸法がめっき槽幅より広幅のフレーム34の上部に蝶番32を介して取り付けられている。前記フレーム34の鋼帯幅方向の両側の下部の4箇所に該フレーム34をめっき槽外の床面上に載置する脚部35が取り付けられている。板状構造物31の鋼帯側端部に上端を該板状構造物31上に突出させて取り付けた金属粉落下防止板33を備える。なお、蝶番32による板状構造物31の上方への回転は、板状構造物31がスナウト2に接触する程度まで回転できるようにしてもよい。
【0031】
ガスワイピング方式で溶融金属めっき鋼帯を製造すると、生成したトップドロスは、図4の矢印の領域、すなわち、鋼帯引き上げ部前面のめっき槽壁側の浴面、及び、鋼帯引き上げ部とスナウトに挟まれるめっき浴面のスナウト側の浴面に溜まる。そのため、遮蔽板は、前記した図4の矢印の領域を覆うように配置する。図4の矢印の領域を覆うように遮蔽板を配置すると、気泡を多く含んだトップドロスは、最表面温度がめっき浴温程度になるように保熱できることから、浴上に溜まっている間に十分に脱気され、同時に酸化金属とめっき金属との分離も進む。生成したトップドロスが図4の矢印の領域に溜まらないと、本発明で意図する作用効果が奏されない。そのため、本発明では、遮蔽板をめっき浴面と間隔をあけて設ける。遮蔽板は、トップドロスと接触しないように配置することが好ましい。
【0032】
脱気およびめっき金属との分離が進んだトップドロスを回収する際は、遮蔽板11を、めっき浴面を覆わない位置に移動させて浴面からトップドロスを掬い出せばよい、また遮蔽板12の板状構造物31を蝶番32で回転させてめっき浴面を覆わないようにした後、浴面からトップドロスを掬い出せばよい。
【0033】
トップドロスを脱気することで、通常通板速度においても、高速通板時においても、トップドロスの体積を低減できる。トップドロスの体積を低減することで、トップドロス除去作業の負荷を軽減でき、まためっき金属との分離も進むことからめっき金属の歩留まりの低下を抑制できる。また、トップドロスの発生量を低減できることによって、溶融金属めっき鋼帯のトップドロスに起因する欠陥の発生を低減できる。
【0034】
トップドロスはめっき浴面の前記した領域に溜まるので、遮蔽板は、めっき浴面の全てを覆う必要はない。連続溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインにおいて、製造条件(板サイズ、ライン速度、ガスワイピング設定)を一定とし、浴面に浮いているトップドロスを除去した後、めっき浴面遮蔽率を変化させた本発明の遮蔽板を配置して2時間後のトップドロス発生量を比較した結果を図5に示す。遮蔽位置は、鋼帯引き上げ部前面のめっき槽壁側、鋼帯引き上げ部とスナウトに挟まれるめっき浴面のスナウト側(図4の矢印部分)から遮蔽するようにした。トップドロス発生量は、2時間後に生成していたトップドロスを汲み上げ、遮蔽板を配置しなかった場合の汲み上げ量(汲み上げ体積)を100とした場合の比率で示している。図5に示すとおり、被覆率が30%未満になるとトップドロス発生量を抑制する効果が低下することがわかった。そのため、本発明では遮蔽板のめっき浴面の被覆率を30%以上とした。トップドロス発生量を抑制する点からは、被覆率は高い方が好ましいが、高すぎると遮蔽板が鋼帯に近づくことになり、エッジスプラッシュが遮蔽板上に堆積しやすくなって遮蔽板清掃頻度が高くなる。したがって、遮蔽率は90%以下が好ましい。
【0035】
遮蔽板11、12は各々金属粉落下防止板23、33を備えることで、遮蔽板上に堆積した金属粉が鋼帯側に飛散するのを防止することができる。金属粉落下防止板23、33と遮蔽板11、12とのなす角度は、直角または鈍角であると鋼帯側に再飛散する恐れがあるため、鋭角であることが好ましく、金属粉落下防止板の突出高さはその目的から50〜200mmの範囲内であることが好ましい。
【0036】
遮蔽板の浴面側の面(下面)は、鋼帯から遠ざかると浴面との距離が大きくなるようにすることが好ましい。遮蔽板の浴面側の面の形状は特に限定されない。遮蔽板の浴面側の面と浴面との距離は、図6(a)に示すように鋼帯から遠ざかると浴面との距離が直線状に増加してもよいし、図6(b)に示すように非直線状に増加してもよい。これによって、浴面の熱をトップドロスが溜まりやすい箇所に選択的に反射させ、保熱効果をより向上させることができる。遮蔽板はトップドロスと接触しない位置に配置することが好ましい。
【0037】
遮蔽板11、12の保温性を増すために、遮蔽板11、12の浴面側の面(下面)は、高熱反射の表面になるようにするのがよい。具体的な手法には高熱反射塗料の塗布、機械的な鏡面加工等が挙げられるが、いずれの手法でもよく、それ以外の手法でも構わない。図7はオフラインの小型溶融亜鉛浴に遮蔽板を設置し、その下面の熱反射率を変化させた場合のトップドロス表面温度の測定結果である。浴温設定(浴表面から200mm深さ)460℃に対して、熱反射率が70%以上であれば、トップドロス表面がほぼ浴温に近い温度(2℃以内)となることがわかった。したがって保温性を維持するためには、遮蔽板の浴面側の面の熱反射率は70%以上であることが望ましい。遮蔽板の浴面側の面は金属ヒュームによって「曇る」ので、遮蔽板の浴面側の面の熱反射率を定期的に確認し、曇りが顕著であるときは遮蔽板を交換しながら操業するのが望ましい。なお、反射率は次のようにして求めた。遮蔽板の下面の温度を、遮蔽板の下面に取り付けた熱電対と輻射温度計とで測定し、輻射温度計の放射率を調整して熱電対の温度と同じ温度になる放射率ε0を求め、下式から、遮蔽板の浴面側の面の熱反射率γ(%)を求めた。
γ=(1−ε0)×100(%)
本発明では、トップドロスの発生をゼロにはできないが、特許文献1や2のように浴面から浴中にトップドロスを回収するための構造物を設置する必要がなく、少量発生したトップドロスは従来通りに手動および自動回収装置等で回収することが可能である。
【実施例】
【0038】
以下の溶融亜鉛めっき鋼帯の製造試験を行った。溶融亜鉛めっき鋼帯の製造条件は、ワイピングノズルのスリットギャップ0.9mm、ワイピングノズル−鋼帯間距離8mm、溶融亜鉛浴からのワイピングノズル高さ450mm、溶融亜鉛浴温度460℃とし、鋼帯サイズは、0.8mm厚×1.2m幅、めっき付着量は片面50g/mとした。
【0039】
本発明例は、遮蔽板は、板幅方向2.5m×板厚方向0.5mの大きさで、市販のアルミ製フレームで形成された枠に、2mm厚のアルミ板を貼り付けたものとし、各角に設けた脚部の先端にはキャスターをつけて手動にて移動可能な構造とした。前記アルミ板の鋼帯側端部にアルミ板より上に突出させて高さ100mm、厚さ3.2mmの金属粉落下防止板(鋼帯)をアルミ板との角度が70度となるように取り付けた。めっき槽の縁には突起を設けており、遮蔽板はポット内に転落することも、鋼帯に衝突することもないようにしてある。遮蔽板の浴面側の面は高熱反射塗料が塗布されており、初期状態での熱反射率は80%であった。鋼帯引き上げ部とスナウトに挟まれるめっき浴面はスナウトから遮蔽板で覆い、スナウトから鋼帯引き上げ部までのめっき浴面の50%を覆うようにした。鋼帯引き上げ部前面のめっき浴面は、めっき槽壁部から遮蔽板で覆い、鋼帯引き上げ部前面のめっき浴面の50%を覆うようにした。遮蔽板と浴面との距離は300mmとした。
【0040】
その他の製造条件および製品品質の指標となるトップドロス発生量の調査結果を表1に示す。トップドロス発生量は、トップドロスを1辺50cm、深さ50cmの角型回収箱に回収し、その回収箱数をポット通過鋼帯表面積100km当たりの数字で示した数値である。
【0041】
【表1】

【0042】
通板速度2.2m/sの条件では、遮蔽板を使用しない通常操業の比較例1はトップドロス発生量(亜鉛浴通過鋼帯表面積100km当たり)が2.9箱であったのに対し、本発明例1は1.8箱でおよそ38%減少した。通板速度を3.0m/sに上昇した条件では、遮蔽板を使用しない比較例2は、比較例1と比べて、通板速度は1.36倍であるのに対して、トップドロス発生量は5.4箱で1.85倍に増加した。この発生量では、トップドロスを汲み出すために工場オペレーターが常時2名で作業しなければならず、表面欠陥の増加だけでなく、オペレーター人数の増加によるコストアップの問題がある。一方、本発明例2はトップドロス発生量が2.8箱となり、比較例2より48%減少し、比較例1とほぼ同量の回収量に留まっており、通板速度を上昇しても十分な効果が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、通常通板速度においても、また通板速度を上昇しても、トップドロスの発生量を低減し、また、トップドロス排出によるめっき金属の持ち出し量を減少し、表面欠陥の無いめっき鋼帯を高い生産性を維持したまま安定製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1 鋼帯
2 スナウト
3 めっき槽
4 溶融金属めっき浴(めっき浴)
5 シンクロール
6 ワイピングノズル
7 サポートロール
8 サポートロール
11、12、13 遮蔽板
21、31 板状構造物
22 可動用車輪
23、33 金属粉落下防止板
24、34 フレーム
25 車輪取り付け部材
32 蝶番
35 脚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき槽内の溶融金属めっき浴から連続的に引き上げられる鋼帯の表面に、ワイピングノズルから気体を吹き付け、鋼帯表面のめっき付着量の制御を行う溶融金属めっき鋼帯の製造装置において、鋼帯引き上げ部前面のめっき槽壁側に少なくとも鋼帯引き上げ部前面のめっき浴面の30%以上を覆う遮蔽板と、鋼帯引き上げ部とスナウトに挟まれるめっき浴面のスナウト側に少なくとも鋼帯引き上げ部とスナウトに挟まれるめっき浴面の30%以上を覆う遮蔽板を、各々めっき浴面と間隔をあけて設けたことを特徴とする溶融金属めっき鋼帯製造装置。
【請求項2】
前記遮蔽板の少なくとも一方は、鋼帯面と直角方向に移動可能であることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属めっき鋼帯製造装置。
【請求項3】
前記遮蔽板の少なくとも一方は、鋼帯面と直角方向の一方の端部側を支点として、他方の端部を上方に回動可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶融金属めっき鋼帯製造装置。
【請求項4】
前記遮蔽板のめっき浴面側の面は、熱反射率が70%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の溶融金属めっき鋼帯製造装置。
【請求項5】
前記遮蔽板のめっき浴面側の面は、鋼帯から遠ざかると浴面との距離が大きくなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の溶融金属めっき鋼帯製造装置。
【請求項6】
前記遮蔽板は、鋼帯側端部に金属粉落下防止板が設けられていること特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の溶融金属めっき鋼帯製造装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの項に記載の溶融金属めっき鋼帯製造装置を用いることを特徴とする溶融金属めっき鋼帯の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−92362(P2012−92362A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238244(P2010−238244)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】