説明

溶融金属めっき鋼線の製造方法およびその装置

【課題】溶融金属の表面の清浄化を、人手による清掃作業ではなく、長時間安定して行うことができる、溶融金属めっき鋼線の製造方法および装置を提供する。
【解決手段】めっき浴の溶融金属の表面を非酸化性ガスでシールするガスシール部と、該ガスシール部内に設置されためっき付着量を調整するワイピング手段と、更に、該ガスシール部内のめっき浴表層の溶融金属を前記非酸化性ガスとともに吸引する吸引口及び吸引した溶融金属を前記ガスシール部外に放出する排出口を有する溶融金属循環手段とからなることを特徴とする溶融金属めっき浴表面清浄化装置。非酸化性ガスを加熱し、ガスシール部に導入するガス加熱導入手段を設けることが好ましい。溶融金属循環手段の吸引口全断面積の50〜80%を溶融金属浸漬し、溶融金属と非酸化性ガスとを同時に吸引する溶融金属めっき鋼線の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属めっき浴の溶融金属の表面を清浄化する装置とこれを用いた溶融金属めっき鋼線の製造方法に関するものである。なお、鋼線は、一般に、鉄線と呼ばれる軟鋼線材を含むものである。
【背景技術】
【0002】
溶融金属めっき鋼線(以下、単に「めっき鋼線」ともいう。)は、溶融金属めっき浴(以下、単に「めっき浴」ともいう。)に浸漬して引き上げ、めっき付着量をワイピング手段などによって調整し、製造されている。一般に、線材を溶融金属中を通過させる溶融めっきでは、めっき浴の表面に酸化物、カスなどが浮遊し、線材の表面に付着し、めっき層に不純物が混入するという問題がある。また、めっき付着量を増加させるために、絞りダイスなどの物理的なワイピング手段を用いない場合、めっき層の厚みが不均一になるという問題がある。
【0003】
このような問題に対して、線材をめっき浴から引き上げる際に、非酸化性雰囲気中を通過させる方法が提案されている(例えば、特許文献1)。更に、めっき層の厚みを均一にするため、加熱された非酸化性雰囲気中を通過させて、溶融金属の濡れ性を高める方法が提案されている(例えば、特許文献2)。しかし、めっき浴の表面にガスシールを施しても、酸化物、カスなどをなくすことはできない。そこで、線材を引き上げる部分を非酸化ガスでシールし、更に、溶融金属を循環させる方法が提案されている(例えば、特許文献3)。
【0004】
一方、溶融金属めっき鋼線を製造する場合、めっき浴中には、溶融金属の酸化や、溶融金属と鋼線との反応によって生成する金属間化合物など、浮遊性のトップドロスが形成される。そのため、ガスシールを行っている場合は、ガスシールを破り、作業員やロボット等がトップドロスの除去を行う。そのため、トップドロスを除去する際には、めっき鋼線の表面性状の悪化が避けられず、歩留まりを低下させる一因となっていた。
【0005】
鋼板(ストリップ)の溶融めっきでは、これらの問題を解決するために、めっき浴の表面を清浄化する装置が提案されている(例えば、特許文献4、5)。このうち、特許文献4では、ストリップの立ち上がり部の浸漬トラフ形状を改善し、トップドロスを除去する方法が提案されている。しかし、この方法では大量に溶融金属を吸引する必要があり、装置構成が大がかりになる。また、特許文献5では、ストリップを引き上げる部分に堰を設けて、堰内部の溶融金属のトップドロスをポンプによって吸引して清浄化し、堰内部に戻す方法が提案されている。この方法は安定的に吸引することで機能が発揮されるものであるが、実際には吸引パイプの詰まりの発生や、トップドロスの粘性の増加によって吸引効率が低下するなど、安定的にトップドロスを除去できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−129355号公報
【特許文献2】特開平3−260045号公報
【特許文献3】特開平6−65703号公報
【特許文献4】特開平6−17214号公報
【特許文献5】実開昭55−155864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、溶融金属の表面の清浄化を、人手による清掃作業ではなく、長時間安定して行うことができる、溶融金属めっき鋼線の製造方法およびその装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、溶融金属めっき鋼線の表面の汚れの発生状況とめっき浴の清浄方法との関係について、詳細に検討した。その結果、非酸化性ガスでシールされたガスシール部の内部に、ワイピングで除去された溶融金属が浴中に戻され、浴表面の温度低下による半溶融化およびFeAlからなるトップドロスの浮遊がガスシール部内のめっき浴の表面に生成し、溶融金属めっき鋼線の表面清浄が悪化することを明らかにした。
【0009】
本発明者らは、更に、めっき浴の表面の性状を効率よく安定的に吸引するためには、吸引口を浴中に完全に浸漬せず、溶融金属とガスとを同時に吸引することが有効であることを知見した。更に、めっき浴表面の温度低下を防止するために、加熱した非酸化性ガスを流入させることが有効であるという知見を得た。
【0010】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0011】
(1) めっき浴の溶融金属の表面を非酸化性ガスでシールし、該ガスシール部内に設置されたワイピング手段によりめっき付着量を調整し、更に、該ガスシール部内のめっき浴表層の溶融金属を前記非酸化性ガスとともに吸引する吸引口及び吸引した溶融金属を前記ガスシール部外に放出する排出口を有する溶融金属循環手段により溶融金属を循環して溶融金属めっき浴表面清浄化をする溶融金属めっき鋼線の製造方法であって、溶融金属循環手段の吸引口全断面積の50〜80%を溶融金属浸漬し、溶融金属と非酸化性ガスとを同時に吸引することを特徴とする溶融金属めっき鋼線の製造方法。
【0012】
(2) ワイピング手段によって、めっき付着量150g/m以上に調整することを特徴とする上記(1)に記載の溶融金属めっき鋼線の製造方法。
【0013】
(3) 複数本のめっき線を同時に通線することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の溶融金属めっき鋼線の製造方法。
【0014】
(4) 溶融めっき鋼線をガスシール部外に引き出す出口部の大気開放断面積が、該溶融金属めっき鋼線の断面積の20倍以上、50倍以下であることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか1項に記載の溶融金属めっき鋼線の製造方法。
【0015】
(5) 非酸化性ガスを450℃以上に加熱して、ガスシール部に導入することを特徴とする上記(1)〜(4)の何れか1項に記載の溶融金属めっき鋼線の製造方法。
【0016】
(6) 溶融金属循環手段が吸引した溶融金属を、溶融金属放出制御手段によって、該溶融金属の放出方向及び放出速度を制御してガスシール部外に放出し、溶融金属めっき浴の最高温度と最低温度との差を5℃以内にすることを特徴とする上記(1)〜(5)の何れか1項に記載の溶融金属めっき鋼線の製造方法。
【0017】
(7) めっき浴の溶融金属の表面を非酸化性ガスでシールするガスシール部と、該ガスシール部内に設置されためっき付着量を調整するワイピング手段と、更に、該ガスシール部内のめっき浴表層の溶融金属を前記非酸化性ガスとともに吸引する吸引口及び吸引した溶融金属を前記ガスシール部外に放出する排出口を有する溶融金属循環手段とからなることを特徴とする溶融金属めっき鋼線の製造装置。
【0018】
(8) 更に、非酸化性ガスを加熱し、ガスシール部に導入するガス加熱導入手段を設けたことを特徴とする請求項7に記載の溶融金属めっき鋼線の製造装置。
【0019】
(9) 前記溶融金属循環手段が、放出する溶融金属の放出方向及び放出速度を調整する溶融金属放出制御手段を有することを特徴とする上記(7)又は(8)に記載の溶融金属めっき鋼線の製造装置。
【0020】
(10) 前記溶融金属循環手段と、前記ガスシール部と、前記ワイピング手段とが一体に構成され、上下左右に移動可能な機構を有することを特徴とする上記(6)〜(9)の何れか1項に記載の溶融金属めっき鋼線の製造装置。
【0021】
(11) 前記ワイピング手段が電磁ワイピング装置であることを特徴とする上記(7)〜(10)の何れか1項に記載の溶融金属めっき鋼線の製造装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、めっき鋼線が通線されるガスシール部の溶融金属の表面に生成するトップドロスを、ガスシール部の外へ排出することができるため、常に、めっき鋼線を引き上げる部分の溶融金属の表面が清浄に保たれ、表面性状の良好な溶融金属めっき鋼線を安定して製造することが可能になる。更に、ガスシール部の外で、半凝固金属等の汚れを連続的に効率よく安定的に除去することが可能になり、人力による作業負荷が軽減され、複数のめっき鋼線を通線する場合には、ワイヤピッチを狭めることが可能なマルチワイピング装置の適用が可能になる。また、溶融金属のめっき浴の温度が均一になると、被めっき鋼線と溶融金属との反応性が安定化され、めっき付着量、めっき組成の変化が小さい品質の安定した溶融金属めっき鋼線を得ることができるなど、産業上の貢献が極めて顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の装置の設置構成を示す図で、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図2】本発明の装置のめっき上設置概略図である、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図3】吸引口の溶融金属浸漬比率(%)と連続操業時間(H)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明は、非酸化性ガスでシールするガスシール機構、溶融金属のワイピング機構、溶融金属の表面に生成するトップドロスと、非酸化性ガスとを同時に吸引する機構からなる装置を使用するものである。本発明の装置を用いることにより、めっき浴の表面に浮遊しているトップドロスを確実に除去することができる。
【0025】
また、溶融金属回収手段の吸引口を、完全に溶融金属に漬浸させず、溶融金属への浸漬部面積を吸引口全断面積の50%〜80%とすることにより、吸引効率を高め、また、吸引された溶融金属から、トップドロスを除去した後、溶融金属をガスシール部の外へ排出し、めっき浴中で溶融金属を効率良く循環させることにより、浴槽内溶融金属の温度分布を均一に保ち。更に、ガスシール部の溶融金属表面の温度が低下しないように、非酸化性ガスを加熱して、ガスシール部内に導入機構を有することにより、より安定して連続的に使用することが出来るものである。
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図1および図2に基づいて述べる
【0027】
ガスシール部に導入する非酸化性ガスは、図1、図2に示すように、本装置に設置した非酸化性ガス導入管1を経て窒素、アルゴン等の不活性ガスを導入する。特に、経済性を考慮すると窒素ガスが好適である。また、非酸化性ガスをガスシール部内2に導入する際には、ガス加熱導入手段によって加熱し、高温非酸化性ガス12としてから導入することが好ましい。加熱された高温非酸化性ガス12の導入により、めっき浴の表面の温度低下が防止され、めっき浴の表面のドロス等の浮遊物の粘性を低くすることができる。めっき浴の溶融金属3が溶融亜鉛である場合、表面の温度を、亜鉛の融点である420℃以下に低下することを防ぐために非酸化性ガスの温度を450℃以上にするものである。これにより、溶融金属の表面の流動性が低下せず、吸引性の悪化、吸引口でのつまりを防止することができる。より好ましい非酸化性ガスの温度は、500℃以上である。非酸化性ガスの加熱温度の上限は特に制限しないが、高温ガスを吹き付けることによりめっき鋼線とともに引き上げられた未凝固めっき層の溶解による表面性状の悪化、配管材料、不活性シール部材の耐熱性から600℃が好ましい上限である。
【0028】
非酸化性ガスの加熱方法は、特に限定されないが、例えば、燃焼ガスとの熱交換、抵抗線ヒーター内をガス配管内に設置する等の熱交換方法を適用することができる。
【0029】
本発明ではめっき付着量を制御するため、非接触式のワイピング手段を使用する。ワイピング装置4はガスシール部2の出側に配置される。ワイピング手段は、ノズルからガスを噴射するガスワイピング、ワイピングに電磁力を用いる電磁ワイピング装置など、特に限定されるものではない。電磁ワイピング装置は電力を調整することで、めっき鋼線に作用するローレンツ力を制御して溶融金属を掻き落とす作用を有しており、めっき鋼線5の円周方向のめっき付着量の均一性、めっき付着量の制御の容易性を考えると電磁ワイピング装置の適用が好ましい。該ワイピング装置により調整しためっき付着量が150g/m以下ではめっき層の腐食により鋼線の耐食性が低下し、寿命が低下するためめっき付着量の下限を150g/mとしたが、170g/mとすることが好ましい。上限は特に制限しないが、400g/m以上の付着量とするためには高速で通線する必要があり、めっき浴から引き上げ後めっき層の冷却凝固までの間の振動により表面性状が悪化することから良好な表面性状のめっき鉄線を得るためには400g/mを条件とするのが好ましい。
【0030】
本発明は、溶融金属循環手段によって、ガスシール部の溶融金属を、溶融金属吸引管6を経て非酸化性ガスとともに吸引し、溶融金属をガスシール部外のめっき浴中に流出させることを最大の特徴とするものである。従来は、吸引口を溶融金属内に完全に浸漬していたため、溶融金属の表面を浮遊する不純物等を効率良く吸引することができなかった。そのため、本発明では、ガスシール部の溶融金属を吸引する溶融金属回収手段によって、トップドロスと非酸化性ガスとを同時に吸引することとした。これにより、めっき浴の溶融金属の表面を非酸化性ガスが高速で移動し、めっき浴の表面を浮遊する不純物を効率よく吸引することができるものである。
【0031】
そのため、溶融金属循環手段の吸引口7は、溶融金属3とともに非酸化性ガスを吸引できるように設置することが重要である。
【0032】
図3に吸引口の溶融金属浸漬断面積比率と連続操業時間の関係を示す。図3に示すように、吸引口のうち、溶融金属に浸漬する部分の断面積が、吸引口の全断面積の50〜80%にすることによって、吸引口および吸引管の詰まりもなく、溶融金属表面の汚れを連続的に除去することが可能となり安定して連続してめっき処理が可能となる。吸引口の、溶融金属に浸漬する部分の断面積が全断面積の50%未満ではガスの吸引比率が多くなり、溶融金属表面に浮遊する汚れを効率良く吸引することができなくなる。また、吸引口全断面積の80%以上を溶融金属に浸漬してしまうとガスの吸引比率が低下し、溶融金属表面の汚れの吸引効率が低下する。即ち、非酸化性ガスと溶融金属の吸引比率を適正に制御することにより、ガスシール部内の溶融金属表面のトップドロスを確実に除去することができるものである。
【0033】
吸引量は溶融金属浴表面のシールド部面積、吸引口浸漬状況、溶融金属の粘性、引き上げられた溶融金属がワイピングにより除去され浴表面に戻される量により適正範囲が異なる。従って、適正条件は実操業のなかで調整する必要があり、吸引流量は浴表面のドロス等の不純物がめっき線表面に引き上げられないように下限を調整する必要がある。一方、溶融金属の吸引量が多すぎる場合は溶融金属の流れが強くなるためにめっき線表面に乱れが発生し、表面性状が悪化する。
【0034】
本発明の装置では吸引量は2l/min〜100l/minの範囲で良好な操業が可能であった。
【0035】
本発明の装置は溶融金属を、例えば、吸引ポンプによって、吸引口から排出口8に循環させ、溶融金属浴槽内に流れを形成させ、槽内温度を均一に保つ機能も有する。めっき浴から引き上げられためっき鋼線5をワイピング装置4で掻き落した半凝固状態の溶融金属あるいはトップドロスを溶融金属吸引管6で吸引し、排出口8からめっき浴内に放出することで、半溶融状態であった金属は再溶解され、トップドロスは、ガスシール部外のめっき浴の表面に浮遊するため、除去作業が容易となる。
【0036】
特に、図1(b)、図2(b)に示すように、複数のめっき鋼線を同時に通線する場合には、ワイヤピッチを狭めることも可能なマルチワイピング装置としての適用が可能になる。
【0037】
さらに本発明の装置は吸引した溶融金属をめっき浴中に放出することで、めっき浴の溶融金属が循環し、めっき浴槽内の温度を均一にすることが可能になる。また、本発明の装置は、溶融金属放出制御手段により、溶融金属循環手段が吸引した溶融金属を放出する方向、流速を調整する機構を有している。流速の調整は放出パイプの直径を変えても制御できるが、吸引ポンプ11の回転数を変えることで容易に調整可能である。溶融金属浴内の金属温度は外壁に近い部分で低下するため、外壁に沿って溶融機金属の流れが発生するように吐出方向を調整する機構も有している。
【0038】
この結果、めっき浴の温度は極めて均一になり、最高温度と最低温度との差を5℃以内にすることができ、めっき鋼線を通線する位置での温度変化に伴うめっき付着量、地鉄との反応性の差を小さくすることができ、品質の安定しためっき鋼線を製造することが可能になる。温度の測定は図2(a)、(b)に×印で示した。測温位置は被めっき鋼線の溶融金属への入線部近傍で炉壁から約500mmの位置で、浴幅方向に均等に3等分した位置で、深さ方向に表層から50mm、中間、浴の底から50mmの9点とめっき線引き上げ近傍で、シール部と緩衝しない位置で、浴幅方向に3箇所で、深さ方向に表層から50mm、中間、浴の底から50mmの9点の合計18点で、溶融金属の温度をK熱電対を浸漬して実測した。
【0039】
連続めっき操業時には、ガスシール部内の溶融金属と、溶融金属循環手段の吸引口との位置関係を、外から目視で確認することができない。そのため、溶融金属循環手段と、ガスシール部2と、ワイピング手段4とを一体化して設置することが好ましい。例えば、図1(a)に示すように、シールド壁9に溶融金属吸引管6を一体に設定することによって、装置の外部から吸引位置と溶融金属表面の相対的な位置が容易にわかるようになる。その結果、溶融金属の浴面が変動した場合にも、溶融金属吸引管6の、溶融金属を吸引する部分と、非酸化性ガスを吸入部分との断面積比率を、適宜、調整することが可能になる。また、本装置の設置位置を調整するためには、電動ねじ式、エアーシリンダ、油圧シリンダー等の方法により上下、左右に移動可能な機構を設けることが好ましい。
【0040】
また、ガスシール部2は、非酸化性ガスを外気から遮断するために、外方への開口部を最低限とすることが好ましい。そのため、図2(a)に示すように、溶融めっき鋼線をガスシール部外に引き出す出口部10の断面積を、めっき鋼線が通過するのに必要な、最低限の断面積とすることが好ましい。一方、めっき鋼線は連続的に高速で移動しているため、振動が生じると、めっき鋼線の表面の未凝固金属がガスシール部の出口部に接触し、めっき鋼線の表面肌が悪化することがある。鋼線の断面と出口部の断面積との比の適正化を図った。
【0041】
鋼線の振動によってめっき線が物理的接触を起こさない開口部断面積は、鋼線の断面積の20倍以上である。一方、大気に開放されている面積が大きくなるとガスシール効果が小さくなり、浴表面の酸化が進行し、めっき鋼線の表面性状が悪化することがある。そのため、溶融金属めっき鋼線をガスシール部外に引き出す出口部の大気開放断面積の最大はめっき鋼線の断面積の50倍以下とすることが好ましい。
【0042】
以下に本発明の実施例を示す。なお、本発明は、以下の実施例により制限されるものではない。
【実施例】
【0043】
JIS SWRM6Kに相当する、Siを0.22%含む軟鋼を熱間圧延で直径5.5mmに圧延後、メカニカルデスケーリング工程で線材表面の酸化スケールを除去した後、直径4mmまで伸線加工した。この伸線材を750℃に加熱した焼鈍炉内で連続的に加熱した後、500℃以下まで空冷し、16%の塩酸濃度の酸液中を通過させ、焼鈍で形成した酸化スケールを除去したのち塩化アンモニウムを主体とするフラックスに浸漬、乾燥後、アルミを0.2〜0.5%含む亜鉛浴中に浸漬してめっきを形成した。なお、ワイヤは、ピッチ25mmの間隔で5本を同時にガスシール部内に通線した。シール部の浴浸漬部形状は幅300mm、長手方向200mmとした。
【0044】
めっき浴から引き上げた後、電磁ワイピングを行い、水冷凝固させて、めっき鋼線を製造した。電磁ワイピングは、鋼線の周囲に設けた、銅パイプを配置した水冷コイルによって行った。水冷コイルに高周波電源を通し、誘導磁気を発生させ、めっき浴から引き上げた直後の鋼線に、溶融金属が未凝固の状態でワイヤの周囲にローレンツ力を働かせて未凝固金属を浴中に欠き落とす力を発生させ、ワイピングを行った。
【0045】
ここで、鋼線を溶融金属から引き上げるガスシール部内には、図1に示した、ガスと溶融金属とを吸引する吸引口を設置した。吸引口と排出口の間には、吸引ポンプを設け、吸引流量はポンプの回転数を調整して10l/minとした。溶融金属の排出口を浴中の溶融金属が浴中内で流動、攪拌するように設置した。めっき浴表面のガスシール部には、窒素ガスを導入し、浴表面の酸化を防止した。なお、窒素ガスを加熱できるように、加熱装置を設けた。
【0046】
吸引口の断面部の浸漬比率、ガスシール部に導入する窒素ガスの加熱温度、更には、めっき鋼線をガスシール部外に引き出す出口部の大気開放断面積を変化させて、めっき鋼線を製造した。得られためっき鋼線のめっき付着量はJIS H 0401 記載の塩化アンチモン法により測定し、表面性状は目視観察し、長さ1m当たりの突起(ブツ)物の生成数が1個以下を良好とし、2個以上生成している場合は不良とした。なお、窒素ガスの温度は、常温から500℃まで変化させた。
【0047】
表1に評価結果を示す。本発明の装置を用いてめっき鋼線を製造した場合は連続操業を行っても引き上げ部浴表層の汚れが無く、常に正常な状態が維持され、表面性状の良好なめっき鋼線が安定して製造できた。一方、吸引口のうち、めっき浴に浸漬された部分の断面積比率が、50%未満ではガスの吸引比率が増し、80%を超えると溶融金属を安定して吸引することが出来ず、浴表面を清浄化することができない。そのため、表面性状が安定しためっき鋼線の製造ができない。
【0048】
【表1】

【0049】
また、窒素ガス温度が低い場合は、めっき浴の表面の温度が低下し、吸引パイプ詰まりが発生し、めっき鋼線の表面性状がやや低下した。また、鋼線の線径に対して、鋼線を引き出す出口部の大気開放断面積が大きい場合は、ガスシールがやや不十分になり、めっき浴表面の酸化が発生し、吸引パイプ詰まりが発生し、めっき鋼線の表面性状がやや悪化した。一方、鋼線の線径に対して、鋼線を引き出す出口部の大気開放断面積が小さい場合は、鋼線が振動によって接触し、めっき鋼線の表面性状が、やや悪化した。
【0050】
また、本発明の方法では溶融機金属の温度が458〜565℃の範囲に制御されたが、溶融金属を攪拌しない場合は、めっき時間の経過とともに溶融機金属温度変化が大きくなり、通線部位毎のめっき付着量が変化し、めっき鋼線の円周方向のめっき厚さ変動が大きくなった。
【0051】
以上のように、本発明の装置を溶融金属引き上げ面浴上に設置することにより、めっき浴表面の汚れや浮遊物を連続的に除去することが可能となり、安定して複数本のめっき鋼線を安定して製造することが可能となった。
【符号の説明】
【0052】
1:非酸化性ガス導入管
2:ガスシール部
3:溶融金属
4:ワイピング装置
5:めっき鋼線
6:溶融金属吸引管
7:吸引口
8:排出口
9:シールド壁
10:出口部
11:吸引ポンプ
12:高温非酸化性ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき浴の溶融金属の表面を非酸化性ガスでシールし、該ガスシール部内に設置されたワイピング手段によりめっき付着量を調整し、更に、該ガスシール部内のめっき浴表層の溶融金属を前記非酸化性ガスとともに吸引する吸引口及び吸引した溶融金属を前記ガスシール部外に放出する排出口を有する溶融金属循環手段により溶融金属を循環して溶融金属めっき浴表面清浄化をする溶融金属めっき鋼線の製造方法であって、溶融金属循環手段の吸引口全断面積の50〜80%を溶融金属浸漬し、溶融金属と非酸化性ガスとを同時に吸引することを特徴とする溶融金属めっき鋼線の製造方法。
【請求項2】
ワイピング手段によって、めっき付着量150g/m2以上に調整することを特徴とする請求項1に記載の溶融金属めっき鋼線の製造方法。
【請求項3】
複数本のめっき線を同時に通線することを特徴とする請求項1又は2に記載の溶融金属めっき鋼線の製造方法。
【請求項4】
溶融めっき鋼線をガスシール部外に引き出す出口部の大気開放断面積が、該溶融金属めっき鋼線の断面積の20倍以上、50倍以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の溶融金属めっき鋼線の製造方法。
【請求項5】
非酸化性ガスを450℃以上に加熱して、ガスシール部に導入することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の溶融金属めっき鋼線の製造方法。
【請求項6】
溶融金属循環手段が吸引した溶融金属を、溶融金属放出制御手段によって、該溶融金属の放出方向及び放出速度を制御してガスシール部外に放出し、溶融金属めっき浴の最高温度と最低温度との差を5℃以内にすることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の溶融金属めっき鋼線の製造方法。
【請求項7】
めっき浴の溶融金属の表面を非酸化性ガスでシールするガスシール部と、該ガスシール部内に設置されためっき付着量を調整するワイピング手段と、更に、該ガスシール部内のめっき浴表層の溶融金属を前記非酸化性ガスとともに吸引する吸引口及び吸引した溶融金属を前記ガスシール部外に放出する排出口を有する溶融金属循環手段とからなることを特徴とする溶融金属めっき鋼線の製造装置。
【請求項8】
更に、非酸化性ガスを加熱し、ガスシール部に導入するガス加熱導入手段を設けたことを特徴とする請求項7に記載の溶融金属めっき鋼線の製造装置。
【請求項9】
前記溶融金属循環手段が、放出する溶融金属の放出方向及び放出速度を調整する溶融金属放出制御手段を有することを特徴とする請求項7又は8に記載の溶融金属めっき鋼線の製造装置。
【請求項10】
前記溶融金属循環手段と、前記ガスシール部と、前記ワイピング手段とが一体に構成され、上下左右に移動可能な機構を有することを特徴とする請求項7〜9の何れか1項に記載の溶融金属めっき鋼線の製造装置。
【請求項11】
前記ワイピング手段が電磁ワイピング装置であることを特徴とする請求項7〜10の何れか1項に記載の溶融金属めっき鋼線の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−202951(P2010−202951A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52175(P2009−52175)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】