説明

溶融金属浄化装置および溶融金属の浄化方法

【課題】高い浄化効率で安定して介在物を含む溶融金属を浄化できる、溶融金属の浄化装置および溶融金属の浄化方法を提供する。
【解決手段】溶融金属に接するように複数の電極対を配設した電場発生手段12と、磁場発生手段11とを備え、溶融金属10に電磁力を作用させ、電磁アルキメデス効果により介在物を溶融金属から分離・除去して、溶融金属を浄化する。複数の電極対には、それぞれ独立して電位を付与することが好ましく、これにより、溶融金属10に最適値の電磁力を広い範囲に亘り作用させることができる。なお、電極は、板状、曲板状または点状でもよく、また、電極対は対向しても、あるいは溶融金属10の流れの向きに沿って千鳥状に配設してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、溶融亜鉛めっき浴等の溶融金属めっき装置等に好適な、介在物を含む溶融金属を浄化する溶融金属浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、金属板(金属帯板)への溶融金属めっきは、図9に示すような連続溶融金属めっき装置を使用して行われる。例えば、鋼帯(金属帯板)に溶融亜鉛めっき処理を行う際には、鋼帯(金属帯板)Aをスナウト102を通り、溶融亜鉛めっき浴(溶融金属めっき浴)100a中に連続的に導き入れ、シンクロール101によって進行方向を上方に変更して、一対のピンチロール103でめっき浴から引き出し、めっき厚調整手段104により溶融亜鉛めっき層の厚さを調節して、溶融亜鉛めっき鋼板(溶融亜鉛めっき金属板)とする。この場合、溶融亜鉛めっき浴100a中では、鋼帯や浴中機器から溶出したFeが、溶融亜鉛めっき浴の亜鉛ZnやアルミニウムAlと反応して、一般にドロスと呼ばれる介在物を生成する。浴の底部に堆積する介在物(FeZn7、FeZn13)はボトムドロスと呼ばれ、また浴面に浮上する介在物(Fe2Al5)はトップドロスと呼ばれる。大きさはいずれも、数μm〜数百μmである。
【0003】
溶融亜鉛めっき浴内の流動や浴面の波立ち等によって、これらのトップドロスやボトムドロスが、浴中を浮遊し、溶融亜鉛めっき浴を通過中の鋼帯表面上に付着することがある。特に、ボトムドロスは溶融亜鉛との比重差が小さいことが多いため、一度浴中に舞い上がると再び沈降するまで数時間を要する。浮遊したこれらドロスの付着は、めっき鋼板の外観を著しく損ない、めっき品質欠陥となり、めっき鋼帯の歩留低下を招く。
【0004】
このようなめっき浴中のドロスの浮遊を防止するためには、めっき浴内を攪拌しないように操業することが考えられる。しかし、実操業上は、所望のめっき仕様を確保するために、ラインスピードの調整や浴中機器の位置調整などを優先するため、めっき浴内の流動を乱してしまうことが多い。
また、ドロスは、例えば、めっき浴中で鋼帯の方向を変えるシンクロールや、めっき浴中で鋼帯の振動・C反りを矯正するためのサポートロールなどの浴中機器にも析出する。これらのロール等にドロスが析出すると、鋼帯への押し疵や擦り傷などの表面欠陥の原因となる。このため、製造ラインを停止して、ドロスが析出した浴中機器を取り替えることが必要となる。製造ラインの停止は、当然ながら、生産コストの高騰を招く。
【0005】
トップドロスによる上記したような問題を回避するため、従来から、トップドロスを操業中に定期的に柄杓状の道具で掻き出すことが行われていた。しかし、この掻き出し作業自体が、めっき浴面を乱し、ドロスの生成を促進することになる場合があり、また、この掻き出し作業は、重筋作業であるとともに、作業者により掻き出しに差が生じるという問題がある。
【0006】
このような問題に対し、例えば、特許文献1には、トップドロスの回収を機械化した、トップドロス分離回収装置が提案されている。特許文献1に記載されたトップドロス分離回収装置では、トップドロスを撹拌羽根付き回転軸によりフラックスと撹拌混合し、フラックスと混合したトップドロスを、圧空噴射ノズルから噴射された圧空でアッシュとして飛散させて、防塵器で吸引回収する。特許文献1に記載された技術では、トップドロスとフラックスとを反応させて回収容易な状態にするために、攪拌容器をめっき浴内に配置する必要がある。しかし、撹拌容器をめっき浴内に設置し、めっき浴を撹拌することは、逆にドロス生成を促進させてしまうという懸念がある。
【0007】
また、特許文献2には、アームの先端にドロス捕集網を取り付け、溶融金属めっき相中のトップドロスを除去するロボットを設け、掻き出し作業をロボット化したドロス除去装置が提案されている。しかし、特許文献2に記載された技術では、予めプログラムされた掻き出し動作を繰り返すだけで、掻き出しきれずに浴内にドロスが残る場合があるという問題があった。
【0008】
また、ボトムドロスの除去は、通常、数週間に1回程度の浴中機器のメンテナンス時に、ポンプや重機で排出している。しかし、ボトムドロスは、時間が経つと浴底に固着してしまうため、このような数週間に1回程度しか実施できない方法では、ボトムドロスの完全な除去はできていないのが実状である。
このようなボトムドロス、あるいはトップドロスの大部分は浴中に浮遊するドロスに起因しており、このような浴中に浮遊するドロスを除去する方法として、例えば、特許文献3には、セラミックフィルターで溶融金属を濾過するとともに、ガスを吹込みフィルターに通しガスを微細化して、浴中を浮上させることにより、微細ドロスを浴面に速やかに浮上させ、分離除去する、溶融めっき金属の介在物除去方法が記載されている。しかし、特許文献3に記載された技術では、浴中にセラミックフィルタを配置する必要があり、フィルター自体が目詰まりしやすいことや、フィルターの保守・交換等に多大の労力を要するという問題がある。
【0009】
また、特許文献4には、溶融金属中の固形介在物を遠心分離する機能を有する装置と溶融金属中の固形介在物を浮上分離する機能を有する装置とを備え、溶融金属を該二つの装置内を通過させ、溶融金属中の固形介在物を除去し、清浄化した溶融金属を溶融金属めっき槽内へ還流する、溶融金属めっき方法が提案されている。特許文献4に記載された技術では、遠心分離効果を得るために、溶融金属の流速を大きくする必要があるが、大きな流速を有する溶融金属をそのまま、めっき浴槽内に還流すると、めっき浴内の流動を撹乱するという問題があった。そのため、還流する溶融金属の流速を低減するために更なる装置の付加が必要となり、多大の投資を必要とするという問題がある。
【0010】
また、特許文献5には、溶融亜鉛めっき浴槽と、その近傍に少なくとも2本の通管でめっき浴槽と循環連通する補助ポットとを設け、めっき浴槽から補助ポットに溶融亜鉛を流入させる通管に設けた冷却装置で溶融亜鉛を冷却し、補助ポット内に溶融亜鉛中の浮遊ドロスを沈下させて浮遊ドロスの無い溶融亜鉛として、加熱装置を設けた他の通管からめっき浴槽内に循環させる、連続溶融亜鉛めっき槽内に浮遊ドロスを生成せしめない方法が提案されている。特許文献5に記載された技術は、沈殿法と呼ばれるものであるが、しかし、特許文献5に記載された技術ではドロスは十分に沈殿除去されないという問題があった。
【0011】
また、特許文献6には、溶融亜鉛めっき槽とそれに隣接して設けられたドロス沈殿槽とを有し、溶融亜鉛めっき槽の亜鉛融液を貯留すべき部分の容量、ドロス沈殿槽の亜鉛融液を貯留すべき部分の容量とをそれぞれ所定範囲の容量としたうえで、溶融亜鉛めっき槽とドロス沈殿槽との間で亜鉛融液を移送する移送手段の移送量を限定したドロス除去装置が提案されている。これにより、沈殿法を用いた、ドロスの除去効率が向上するとしている。
【0012】
しかし、特許文献5、6に記載された技術はいずれも、溶融亜鉛めっき槽に隣接して設けられた沈殿槽(補助ポット)で、浮遊ドロスを溶融亜鉛とドロスとの比重差を利用して分離、除去しようとするものである。
また、上記した技術とは別に、特許文献7には、電磁アルキメデス効果を利用した溶融金属から不純物元素を除去する方法が記載されている。特許文献7に記載された技術は、溶融金属に対して、除去すべき不純物と金属間化合物を形成する元素を添加して金属間化合物を形成させ、溶融金属を細管又は細孔を有する細孔体に保持、または流通させながら直流電流を通じ、更に直流電流とほぼ直流方向に直流磁界をかけて電磁気力を発生させ、これにより金属間化合物を溶融金属から分離する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】実開昭60−122358号公報
【特許文献2】特開平5−302157号公報
【特許文献3】特開昭62−202070号公報
【特許文献4】特開平5−230606号公報
【特許文献5】特開昭53−88633号公報
【特許文献6】特開平9−104957号公報
【特許文献7】特開平08−60263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献5、6に記載された技術では、溶融亜鉛とドロスとの比重差が小さいため、分離に長時間を要するという問題がある。分離に長時間を要すると、溶融亜鉛の温度が低下し、ドロスが生成しやすくなる。そのため、特許文献5、6に記載された技術では、溶融亜鉛を加熱・保温する必要があり、大掛かりな加熱・保温装置を必要とするという問題があった。
【0015】
また、特許文献7に記載された技術は、不純物元素を含有する溶融金属に除去すべき不純物元素と金属間化合物を形成する元素を添加し、電場と磁場とを作用させ、金属間化合物を溶融金属から分離させて、溶融金属から不純物元素を除去しようとするものであるが、主としてアルミニウムあるいはアルミニウム合金を対象としており、除去すべき不純物元素と金属間化合物を形成する元素を添加することを必須の要件としているうえ、高い不純物元素除去効率を安定して確保できないという問題があった。
【0016】
本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインにおける溶融亜鉛めっき浴等の、介在物を含む溶融金属から介在物を容易に除去でき、高い浄化効率で安定して溶融金属を浄化できる、溶融金属の浄化装置および溶融金属の浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、介在物を含む溶融金属に、電場と磁場を作用させて溶融金属から介在物を分離する、溶融金属中の介在物の簡便な分離除去手段について鋭意研究し、本発明者らの一人は、電磁アルキメデス効果を利用した分離除去手段を有する溶融金属めっき装置を特開2008−231526号公報として、すでに提案している。
介在物を含む溶融金属に、例えば、図6に示す向きに電場と磁場を作用させると、溶融金属にはフレミングの法則に従った図6に示す向きに電磁力が作用する。図6では、電場は溶融金属の流れの向きを横切る向きに、磁場は溶融金属の流れと平行する向きに、それぞれ作用させている。なお、図6では、磁場はコイル状電磁石で発生させている。
【0018】
ここで、溶融金属と介在物は一般に強磁性体でないから、磁場による磁化力の作用は無視できる。介在物は、酸化物あるいは金属間化合物であり、溶融金属よりも電気伝導度が小さいことがほとんどである。介在物は電気伝導度が小さい、すなわち電気抵抗が大きいため、電場は、介在物には作用せず、電磁力も働かない。このため、介在物は、介在物を取り巻く溶融金属から介在物表面に電磁力を受けるが、反作用の合力として電磁力とは逆向きの力を受けることになる。この現象はあたかも、重力場における浮力の作用と同じであるため、電磁アルキメデス効果と呼ばれ、作用する力は電磁アルキメデス力と称されている。図6に示す向きに電場と磁場を作用させると、介在物には、電磁アルキメデス力が一方向に作用し、図6に示すように、介在物を溶融金属内の一方の領域に濃化・偏析させることができる。
【0019】
このようなことから、本発明者らは、介在物を溶融金属流路内の一方の領域に濃化・偏析させるには、強力な磁場発生装置と強力な電場発生装置を設置し、介在物を含む溶融金属に強い磁場、強い電場を作用させ、大きな電磁力を発生させることで、容易に達成できるとまず考えた。しかし更なる検討により、本発明者らは、溶融金属に作用する電磁力が大きすぎると、溶融金属の流れが撹乱され介在物の分離能が低下するという現象があることを知見した。このようなことから、介在物を溶融金属流路内の一方の領域に効率よく濃化・偏析させ、溶融金属の浄化力を飛躍的に高めるには、溶融金属の流速に応じた適正な大きさの電磁力(電磁アルキメデス力)を、所望長さの領域に亘り均一な分布とすることが肝要であることに思い至った。そして、本発明者らは、電極配置および付与する電位を工夫し、磁場の分布に応じた適正な電場分布とすることにより、適正な大きさの電磁力(電磁アルキメデス力)を均一な分布で発生させることが容易にできることに思い至った。
【0020】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)磁場発生手段と、電場発生手段とを有し、溶融金属流路を移送される介在物を含む溶融金属に、磁場および電場を作用させて溶融金属を浄化する溶融金属浄化装置であって、前記電場発生手段が、溶融金属に接するように複数の電極対を配設し、かつ前記溶融金属流路の出側に二股の分岐部を有することを特徴とする溶融金属浄化装置。
【0021】
(2)(1)において、前記複数の電極対が、それぞれ独立して電位を付与可能に配設されてなることを特徴とする溶融金属浄化装置。
(3)(1)または(2)において、前記複数の電極対の電極が、前記溶融金属の流れの向きに沿って千鳥状に配設されてなることを特徴とする溶融金属浄化装置。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記複数の電極対の電極が板状、または点状であることを特徴とする溶融金属浄化装置。
【0022】
(5)(4)において、前記点状の電極が、芯線を前記溶融金属に接するように配設された被覆金属線であることを特徴とする溶融金属浄化装置。
(6)(1)ないし(5)のいずれかにおいて、前記磁場発生手段を、前記磁場のむきが前記溶融金属の流れに沿う向きとなるように、かつ前記電場発生手段を、前記電場の向きが前記溶融金属の流れと直交する向きとなるように、それぞれ配設されることを特徴とする溶融金属浄化装置。
【0023】
(7)溶融金属流路を流れる介在物を含む溶融金属に、磁場および電場を作用させて、介在物を前記溶融金属流路内の一方の領域に濃化・偏析させ、前記溶融金属流路の出側に配置された二股の分岐部で、前記一方の領域の、介在物が濃化・偏析した溶融金属と、他方の領域の、介在物が低減した溶融金属とに分離する溶融金属の浄化方法であって、前記電場を、前記溶融金属に接するように複数の電極対を配設して作用させることを特徴とする溶融金属の浄化方法。
【0024】
(8)(7)において、前記複数の電極対に、それぞれ独立して電位を付与して、前記電場を作用させることを特徴とする溶融金属の浄化方法。
(9)(7)または(8)において、前記複数の電極対の電極を前記溶融金属の流れの向きに沿って千鳥状に配設して、前記電場を作用させることを特徴とする溶融金属の浄化方法。
【0025】
(10)(7)ないし(9)のいずれかにおいて、前記複数の電極対の電極が板状、または点状であることを特徴とする溶融金属の浄化方法。
(11)(10)において、前記点状の電極が、被覆された金属線の芯線を前記溶融金属に接するように配設されたものであることを特徴とする溶融金属の浄化方法。
(12)(7)ないし(11)のいずれかにおいて、前記磁場の向きを前記溶融金属の流れに沿う向きとなるように、かつ前記電場の向きを前記溶融金属の流れと直交する向きとなるように、それぞれ作用することを特徴とする溶融金属の浄化方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、介在物を含む溶融金属から介在物を分離し、溶融金属を浄化する能力が飛躍的に向上し、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、連続溶融金属めっきラインの溶融金属めっき浴を簡便に浄化でき、介在物性欠陥の発生を防止して、優れた表面品質を有する溶融金属めっき金属板を容易に製造できるという効果もある。また、本発明によれば、溶融金属めっき浴中機器の点検・保守の頻度が低減して、メンテナンスコストが大幅に低減できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の溶融金属浄化装置の構成の一例を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明の溶融金属浄化装置の構成(a)と、発生する磁場強さ分布(b1)、電場強さ分布(b2)と、電磁力強さ分布(b3)を模式的に示す説明図である。
【図3】本発明の溶融金属浄化装置の構成(a)と、発生する磁場強さ分布(b1)、電場強さ分布(b2)と、電磁力強さ分布(b3)を模式的に示す説明図である。
【図4】本発明の溶融金属浄化装置の構成(a)と、発生する磁場強さ分布(b1)、電場強さ分布(b2)と、電磁力強さ分布(b3)を模式的に示す説明図である。
【図5】本発明で使用する点状電極の一例を模式的に示す説明図である。
【図6】磁場および電場による、溶融金属からの介在物の分離機構を模式的に説明する説明図である。
【図7】溶融金属浄化装置の磁場発生手段と電場発生手段の構成(a)と、発生する磁場強さ分布(b1)、電場強さ分布(b2)と、電磁力強さ分布(b3)を模式的に示す説明図である。
【図8】本発明の実施例で使用した連続溶融亜鉛めっき装置の構成を模式的に示す説明図である。
【図9】通常の連続溶融亜鉛めっき装置における、溶融亜鉛めっき浴中のドロス生成を模式的に説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の溶融金属浄化装置1は、例えば図1に示すように、磁場発生手段11と、電場発生手段12とを有し、電磁アルキメデス効果により、溶融金属から含まれる介在物を分離・除去する。図1では、電場発生手段12により、電場は溶融金属の流れの向きを横切る向きに、磁場発生手段11により、磁場は溶融金属の流れと平行する向きに、それぞれ作用させている。さらに、本発明の溶融金属浄化装置の出側には、溶融金属流路(配管流路)の分岐(二股)部を設け、それより下流側では配管流路を二つとする。これにより、一方の配管流路には介在物が分離除去され浄化された溶融金属が、他の配管流路には介在物が濃化された溶融金属が分離でき、浄化された溶融金属は還流され、一方、介在物を含む溶融金属は回収される。
【0029】
本発明の溶融金属浄化装置1では、磁場発生手段11としては、永久磁石、電磁石、あるいは超伝導電磁石とすることが好ましい。なお、電磁石であれば、コイル状とすることが設備の簡素化、磁場付与効率という観点から好ましい。図1では、コイル状の電磁石を用いて、磁場の向きが溶融金属流の流れの向きに平行となるように配設した例を示す。本発明ではこれに限定されないことは言うまでもない。図1に示す例では、磁場発生手段により発生する磁場の強さは、必然的に、図2(a)に示すように、溶融金属の流れの方向に沿って不均一分布となる。なお、磁場の強さは、溶融金属中の介在物の濃度、粒径等に応じて適宜決定すればよく、とくに限定されないが、磁束密度が、0.01〜30Tとなる磁場を付与することが設備構成の観点から好ましい。
【0030】
本発明の溶融金属浄化装置1における電場発生手段12は、図1に示すように、複数の電極対12a,12b,12c,‥‥12iから構成される。本発明の電場発生手段12では、電極は、溶融金属に接するように、好ましくは電場の向きが溶融金属の流れの向きに直交するように配設され、好ましくは溶融金属の流れに沿って、複数の電極対を配設する。なお、図1では、電極対は対向して配設されているが、これに限定されることはなく、千鳥状としてもよい。
【0031】
また、溶融金属の流れに沿った電極対の間隔は、とくに限定する必要はない。また、各電極対には、溶融金属に個別の所定の強さの電場を付与できるように電源(図示せず)が配設することは言うまでもない。なお、本発明では、複数の電極対を用いて電場を作用させているため、溶融金属に作用する電場の強さは、電極対の間隔に応じて不連続な電場分布を示す。図1(b)に示すように、図1(a)に比べて電極対の間隔を狭く配設することにより、近似的により連続した電場分布を付与することができる。
【0032】
なお、電極の形状はとくに限定する必要はないが、板状、図1(a),(b)に示すような曲板状あるいは、図1(c)に示すような点状としてもよい。点状の電極としては、シース管等の被覆された金属線を用いた電極が例示できる。シース管等の金属線を、図5に示すように、芯線(例えばMgO等で被覆されたステンレス鋼線)が溶融金属に接するように、溶融金属を移送する移送配管等の管壁に、溶融金属の流れを挟むように、固定、配設することが好ましい。シース管等の金属線の端部は、それぞれ電源に接続されることは言うまでもない。
【0033】
上記したように、電磁アルキメデス効果を利用する本発明の溶融金属浄化装置においては、より高い浄化能力を確保するためには、装置の広い領域に亘り、最適な電磁力、最適な電磁アルキメデス力を確保することが肝要となる。
電磁場の大きさ、すなわち、電磁力と電磁アルキメデス力の大きさは、J×B(ここでJ:電場の強さ、B:磁場の強さ)で決まる。電場は、広い電極を使用すれば比較的均一な電場を容易に発生することができる。しかし、例えば、簡便な、コイル状の電磁石(磁場発生手段)を利用して磁場を発生すると、磁場の強さは、図7(b)に示すように、必然的に、コイルの長手方向(溶融金属流れの向き)に磁場強さが不均一な分布となり、磁場発生手段の中央部付近が最大値を示す。本発明においては、電磁力の最大値が適正値となるように、磁場、電場の強さを調整する。そのため、図7(a)に示すような、磁場発生手段、および一対の電極対からなる電場発生手段からなる構成では、電場強さは比較的均一な分布(図7(b2))を示すが、磁場強さが不均一な分布(図7(b1))を示すため、結果として、図7(b3)に示すように、適正な電磁力値が得られる領域は、コイル中央部付近に限られ、その他の領域では最適値より小さい電磁力、電磁アルキメデス力しか得られず、装置全長を有効に活用することができないことになる。
【0034】
このため、本発明では、電磁力と電磁アルキメデス力の大きさが均一分布となるように、電場Jを調整可能な構成とする。例えば、磁場Bが、図2(b1)に示すような不均一分布している場合には、電場Jを、磁場Bの不均一分布を打ち消し、装置全域で適正な電磁力が確保できる、均一な電磁力分布となるように、適正な電位分布を有する電場を付与する。適正な電位分布を付与するために、本発明では、複数の電極対を、それぞれの位置において適正な電位を独立して個別に付与できるような構成とする。そのために、複数の電極対には、それぞれ個別の適正な電位が付与できるように、それぞれ独立した電源を接続することが好ましい。ここでいう「適正な電位」とは、溶融金属に、常に最適な電磁力を付与できるように、不均一な磁場の分布を是正できる電位を言う。
【0035】
本発明では、図2(b2)に示すように、磁場Bの不均一分布を打ち消し、電磁力強さが均一となるような大きさの電位を、複数の各電極対にそれぞれ個別に独立して付与する。所定の間隔で離間した複数の電極対にそれぞれ、図2(b2)にしめすような電位を付与するため、得られる電磁力分布は、図2(b3)にしめすように、不連続となるが、最適な電磁力強さが得られる領域を広げることができる。
【0036】
なお、例えば図3(a)に示すように、溶融金属の流れの向きに沿った、複数の各電極対間の間隔を、図2(a)に比べて狭くすれば、近似的ではあるが、連続的な電場分布とすることができ、その結果、図3(b3)に示すように、近似的に均一な電磁力強さを有する電磁力分布を得ることができる。
なお、図2、図3に示した電極対の配置は、一対の電極を溶融金属の流れを挟むように対向して配置しているが、このような配置では、図2(b3)、図3(b3)に示すように、得られる電磁力強さ分布に弱いながら不均一部が存在し、最適な電磁力強さを満足しない領域が依然として存在することになる。しかし、この電磁力強さ分布における不均一な領域は、電極の配置を、溶融金属流を挟んで対向する状態からずらし、図4(a)に示すように、溶融金属の流れに沿って千鳥状配置とすることにより、不連続の程度を緩和することができる。図4(a)に示すように、電極を千鳥状に配置し、付加する電位を図4(b2)に示すように工夫することにより、電磁力強さ分布において最適な電磁力強さから下回る程度をかなりの程度緩和することができる(図4(b3)参照)。
【0037】
つぎに、上記した本発明の溶融金属浄化装置を用いて、介在物を含む溶融金属を浄化する溶融金属の浄化方法について説明する。
介在物を含む溶融金属を、溶融金属めっき浴等の溶融金属浴の外に、ポンプ等の排出手段を用いて、一旦排出し、移送手段である溶融金属流路(配管流路)等を用いて移送し、配管流路等の終端に溶融金属浄化装置を配設し、溶融金属から介在物を分離・除去して、溶融金属を浄化することが好ましい。本発明の溶融金属浄化装置は、溶融金属の移送手段である配管流路等の終端に付設して使用することが好ましい。
【0038】
本発明では、溶融金属流路(配管流路)等により移送された、介在物を含む溶融金属に、本発明の溶融金属浄化装置を用いて、磁場および電場を作用させて、配管流路の一方の領域に、介在物を濃化・偏析させる。そして、配管流路の出側に配置された二股の分岐部で、一方の領域の、介在物が濃化・偏析した溶融金属と、他方の領域の、介在物が低減した溶融金属とに分離する。介在物が低減され浄化された溶融金属は還流され、一方の介在物が濃化・偏析した溶融金属は回収されることが好ましい。
【0039】
本発明では、磁場に加えて、溶融金属に接するように複数の電極対を配設して、好ましくは図2(b2)、図3(b2)に示すように、それぞれ独立して適正な電位を付与して、電場を作用させる。これにより、図2、図3に示すように、最適な電磁力及び電磁アルキメデス力を付与できる領域が拡大し、広い範囲に亘って最適な電磁力及び電磁アルキメデス力を溶融金属に付与することが可能となり、含まれる介在物の分離能が向上し、溶融金属の浄化能が顕著に向上する。なお、複数の電極の配置を千鳥状としてもよい。これにより、図4に示すように、電磁力分布が、最適な電磁力及び電磁アルキメデス力から下回る程度が緩和された分布となる。
【0040】
なお、作用する磁場の強さは、溶融金属中に含まれ介在物の量、粒径等に応じて決定すればよく、とくに限定されないが、磁束密度が、0.01〜30Tとなる磁場を付与することが好ましい。また、作用させる電場の強さは、溶融金属中に含まれ介在物の量、粒径等に応じて適宜決定すればよく、とくに限定されないが、実操業という観点からは、電流密度:1〜100,000A/mとすることが好ましい。
【0041】
以下、実施例に基づき、さらに本発明について説明する。
【実施例】
【0042】
図8に示す連続溶融金属めっき装置の移送手段(配管流路)の終端に配設される分離手段1として、図1(C)に示す本発明の溶融金属浄化装置を用いて、溶融亜鉛めっき浴(溶融金属)の浄化を行いながら、鋼板(鋼帯)(板厚0.1〜3.0mm×板幅600〜2400mm)に溶融亜鉛めっきを連続的に施し、溶融亜鉛めっき鋼板とした。なお、ポンプPは、電磁誘導式ポンプとした。使用した本発明の溶融金属浄化装置では、磁場発生手段11を、冷凍機を使用した無冷媒型の超伝導磁石とした。使用した磁石はコア内径:100mmφ、コア中心における最大磁束密度:10Tであるが、磁束密度の調整が可能な磁石とした。なお、超伝導磁石は耐熱性が低いため、水冷ジャケット配管を用いた。また、電場発生手段12は、複数(10対)の電極対を溶融金属に接するように、一対の電極をそれぞれ対向するように、20mmピッチで、配管流路に取り付けた。電極は、図5に示すような、点状電極(2mmφ)とした。なお、予め磁場分布を測定して、電磁力分布が均一となる所定の電場分布を付与できるように、複数の各電極対に個別の所定の電位を付与した。また、移送手段である配管流路には、配管径:30mmφのSUS鋼管を使用した。なお配管流路には、保熱用のヒータを多数巻きつけ、断熱材を使用し保熱対策とした。また、溶融金属の移送速度は2 l/minとした。
【0043】
本発明の溶融金属浄化装置を用いて浄化された溶融亜鉛と、浄化前の溶融金属めっき浴とについて、サンプルを凝固させ、該サンプルを切断し、光学顕微鏡(倍率:50倍)でドロス分布密度を測定し、含まれる介在物量を算出した。その結果、浄化された溶融亜鉛に含まれる介在物量は、浄化前の溶融亜鉛めっき浴中の介在物量(基準:1.0)に比べ、大幅に(0.1以下)減少していた。
【符号の説明】
【0044】
1 分離手段(溶融金属浄化装置)
10 溶融金属
10a 溶融金属めっき浴
11 磁場発生手段
12 電場発生手段
12a,12b,‥‥12i 電極対
101 シンクロール
102 スナウト
103 ピンチロール
104 めっき厚調整手段
21 排出・移送手段(配管流路)
22 回収・搬送手段
23 還流・移送手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場発生手段と、電場発生手段とを有し、溶融金属流路を移送される介在物を含む溶融金属に、磁場および電場を作用させて溶融金属を浄化する溶融金属浄化装置であって、前記電場発生手段が、溶融金属に接するように複数の電極対を配設し、かつ前記溶融金属流路の出側に二股の分岐部を有することを特徴とする溶融金属浄化装置。
【請求項2】
前記複数の電極対が、それぞれ独立して電位を付与可能に配設されてなることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属浄化装置。
【請求項3】
前記複数の電極対の電極が、前記溶融金属の流れの向きに沿って千鳥状に配設されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の溶融金属浄化装置。
【請求項4】
前記複数の電極対の電極が板状、または点状であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の溶融金属浄化装置。
【請求項5】
溶融金属流路を流れる介在物を含む溶融金属に、磁場および電場を作用させて、介在物を前記溶融金属流路内の一方の領域に濃化・偏析させ、前記溶融金属流路の出側に配置された二股の分岐部で、前記一方の領域の、介在物が濃化・偏析した溶融金属と、他方の領域の、介在物が低減した溶融金属とに分離する溶融金属の浄化方法であって、前記電場を、前記溶融金属に接するように複数の電極対を配設して作用させることを特徴とする溶融金属の浄化方法。
【請求項6】
前記複数の電極対に、それぞれ独立して電位を付与して、前記電場を作用させることを特徴とする請求項5に記載の溶融金属の浄化方法。
【請求項7】
前記複数の電極対の電極を前記溶融金属の流れの向きに沿って千鳥状に配設して、前記電場を作用させることを特徴とする請求項5または6に記載の溶融金属の浄化方法。
【請求項8】
前記複数の電極対の電極が板状、または点状であることを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の溶融金属の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−189729(P2010−189729A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36441(P2009−36441)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】